都立病院に関する厚生委員会での質問についての報告の続きです。前回はこちら。

 

 

今回は、LGBTQ等の性的マイノリティの方々が、あまりに医療アクセスが悪すぎる件について課題を整理するとともに、行政的医療を担う都立病院こそがまずは体制を整えていく必要があるのではないかという提案をしました。

 

 

以下が厚生委員会での質疑内容です。ブログで分かりやすいように一部編集しています。

 

  LGBTQフレンドリーな医療が必要

 

 

次に、LGBTQ等の性的マイノリティーの患者と医療について伺っていきます。

 

よく性的マイノリティーの方々が「これは命の問題です」とおっしゃるのですが、それが事実であるということを、ここのところあらためて思い知らされております。東京都では東京都人権尊重条例が施行され、基本計画が実施され、パートナーシップ制度も創設されたところです。しかしそれではまだまだ性的マイノリティの方々の困難さは解決されていないのが現実であります。

 

その中で、今、特に強く感じていることが「性的マイノリティの方々と医療」について本腰を入れて東京都で取り組んでいく必要があるということです。

 

 

4つの視点

 

性的マイノリティと医療について考える際に、4つの視点があると考えています。

 

①  性的マイノリティの方々は、そもそも医療へのアクセスが悪い

 

②トランスジェンダーや性分化疾患など実際に治療を必要としている方々にとって、安心安全な適切な医療体制がまだ十分に整備されていないことです

 

③  性的マイノリティの方々は、精神疾患を患い、自殺のハイリスク層

 

④  特に10代の性的マイノリティの子ども・若者が精神疾患や自殺において突出してハイリスク

 

 

 

  ①性的マイノリティの方々は安心して医療機関を利用できない

 

LGBTQ7割が医療で困難を経験→病院に行けなくなる人も

 

認定NPO法人ReBitは、「LGBTQ医療福祉調査2023」を実施し、1138名からご回答いただき、うち有効回答961名を分析した結果を発表しています。

 

 

この調査によると、LGBTQは精神障害を経験する割合が高いこと、自殺におけるハイリスク層であることが分かりました。

 

また医療サービスを利用した際に、LGBTQの約7割、トランスジェンダーの約8割が、セクシュアリティに関連した困難を経験しているそうです。その結果、トランスジェンダーの42%は体調が悪くても病院に行けなくなり、さらには25%が自殺したいと感じたり・自殺未遂を経験したそうです。この調査結果は、かなり深刻だと捉えています。

 

 

都立病院におけるLGBTQへの配慮を確認

 

令和5年度の第二回定例本会議の代表質問で、都立病院における性的マイノリティの患者や家族への配慮についてお伺いしたところ「都立病院では、原則として、診察室等への誘導は番号で案内をしておりまして、氏名で案内する場合は、戸籍上の氏名と自身の性表現との間に違和感がある方の希望に応じて呼び方を工夫するなど、柔軟に対応しております。また、面会者の範囲や手術等の同意者を法的な親族に限定せず、パートナーシップ関係の相手方も含め、患者自身に決定していただいているほか、診察は、患者の状況に応じて、適切な医療従事者が担当しております」との答弁がありました。

 

都立病院において取り組みは進んでいることを確認したところではありますが、さらに広く医療従事者にLGBTQ性的マイノリティの患者への適切な対応を都立病院全体に周知していくことや、都内の他の医療機関にも啓発をしていく必要が重要だと感じています。

 

 

  ②トランスジェンダーの方々の医療に課題

 

十分な医療がまだ整備されていない

 

トランスジェンダーや性分化疾患など実際に治療を必要としている方々にとって、安心安全な適切な医療体制がまだ十分に整備されていません。

 

トランスジェンダーの方々への治療は、極めて個人的でとても繊細なことでありますので、これまでの当事者の方々に踏み込んでお話を伺うことはしないできました。しかし、今回、あらためてお話を伺わせていただきました。

 

その結果分かったことは、日本国内においてトランスジェンダーの方々への治療は非常に限定的であることがわかりました。

 

戸籍変更のために手術をしないとならない

これは国でも議論を待つしかありませんが、戸籍を変更するための「手術要件」があるため、健康への不安があったり、手術が命にも関わることから臓器を摘出することに恐怖を感じていても手術をしないとならないといった現状があり、非常に辛い中で手術を決断している当事者もいらっしゃいます。

 

保険適用外で高額な医療費、海外での治療も

しかも、ホルモン治療を先に始めている場合は(性転換手術が)保険適用外になるということで、とても高い治療費を捻出するのも簡単ではありません。海外で治療を受けざるを得ない人が多数のようです。またホルモン治療自体も保険が適用されないことから、特に若い人にとっては負担が大きいこともわかりました。

 

悪質な医療機関も存在

そのほか、おそらく違法なことをやっていると思われる悪質な医療機関があることや、トランスジェンダー男性専用の入り口に「ナベ入り口」と貼り紙がされているなど、信じがたい人権意識に欠けた医療機関があることも分かりました。それに傷つきながらも、そこを利用せざるを得ない当事者がいることも知りました。

 

自己流の治療をして危険

さらには、海外からホルモンを取り寄せて正しい容量や用法が分からないまま自己流で治療している当事者も少なくないことも知りました。 

 

 

  ③LGBTQ当事者は精神疾患のハイリスク層

 

先ほどのReBitの調査結果でもLGBTQは精神疾患を患うハイリスク層にあることが出ておりましたが、日本財団が2023年4月に発表した全国の男女約 1万4千人を対象にした「第5回自殺意識調査」では、この1年間で死にたいと願い自殺を考えた経験した人は、トランスジェンダーとノンバイナリー等の当事者は52%に上ることもわかっています。

 

 

 

 

  ④10代のLGBTQは特に精神疾患や自殺等にハイリスク

 

2022年にReBitが「LGBTQ子ども・若者調査」をし、2670名からご回答があり、そのうち2623人の有効回答を分析した結果があります。

 

10代の性的マイノリティは過去1年に、48%が自殺念慮、14%が自殺未遂、38%が自傷行為を経験したそうです。これは20代以上の当事者よりも特に多くなっています。

 

また先の日本財団の自殺意識調査の2021年の結果と比較すると、つまり全ての年代の全てのジェンダーの方々の平均から比べると、10代LGBTQの自殺念慮は3.8倍高く、自殺未遂経験は4.1倍高い状況にあるとのことです。

 

全国調査と比較すると、高校生の不登校経験は10倍で、9割が教員や保護者に安心して相談できていないことも分かっています。

 

 

そもそも10代は性の悩みや困りごとを相談するのが難しい

 

私は子ども・若者の性の健康を守るユースクリニックを推進しています。(←福祉局のユースヘルスケア事業わかさぽ

 

 

 

 

 

そもそも10代の子ども・若者は、自身の性に関して悩んだり困ったりしていても、身近な人にも相談することができないことが分かっています。それが10代の性的マイノリティまたはその可能性がある子どもは、なおのこと、相談することはおろか、医療機関へつながることには極めて難しさあると思われます。

 

また、仮に精神疾患を患って医療に繋がったとしても、自身のセクシャリティについては話さない可能性も高いと思われます。

 

 

  行政的医療の都立病院に期待したいこと

 

都立病院は「行政的医療」を担っています。都立病院のHPによりますと、行政的医療には、「採算確保が難しいことなどから民間の取組が困難な医療」のことや、「時代に応じた新たな医療課題に対して一般医療機関の医療提供体制が確立するまでの間対応する医療」も含まれています。また都立病院の計画では、「誰もが安心して適切な医療を受けられる環境整備に取り組む」ことが掲げられております。

 

行政的医療を提供する都立病院にとって、LGBTQ等性的マイノリティの方々が安心して医療にアクセスできる事を保障すること、トランスジェンダーの方々に適切な治療を提供すること、同時並行的にメンタルケアをできるようにすること、特に子ども・若者の当事者については早期のメンタルケアや治療に繋げていく必要があると考えています。

 

 

   都立病院トランスジェンダー外来について

 

 

第2回定例本会議において、都立東部地域病院のトランスジェンダー外来を創設したことを答弁いただきました。

 

Q6.東部地域病院のトランスジェンダー外来の現状についてお伺いします

 

 

<東京都 保健医療局 都立病院支援部>
これまでに数名の患者が受診しており、年齢や戸籍上の性別を問わず、性別違和や性同一性障害に関する医療の相談等を行っている。
 
性同一性障害の診断と治療に関する様々な検討は、十分な知識と経験を有する精神科医等からなる医療チームによって行うことが学会のガイドラインで定められており、受診患者で医療介入を必要とする方には、外部の適切な専門機関等を紹介することとしている。

 

 

 

その後、都立病院のトランスジェンダー外来を視察させていただきました。

 

婦人科の強い想いを持っている医師が立ち上げてくださり、年代を問わず、全てのジェンダーの相談を受けるほか、MTFの手術の実施、他の医療機関へつなげるなどの対応をするなどしているとのことでした。行政的医療を担う都立病院において素晴らしい一歩を進めてくれたことに感謝申し上げます。

 

ただFTMの治療や、継続的なホルモン治療などは行なっていないとのことでありました。

 

また入り口が「婦人科」になっているので、そこに足を踏み入れることに躊躇する可能性もあるかなと感じたりもしましたので、より良いトランスジェンダー外来のあり方について考えていく必要もあるように感じました。

 

トランスジェンダーは精神疾患のハイリスクもあることから、こういう場所でメンタルケアにもつながるなどについても今後考えていけたらと考えています。

 

また専門家からお話を伺いましたところ、この分野の医療は「医師の想い」に左右されるところもあり、なかなか取り組みが進みにくいことも伺ったところです。

 

今後、都立病院においてこの分野の取り組みを計画的に進めていく必要があると感じているところです。東京都が主導して、性的マイノリティの方々を安全な医療に繋ぎ、精神的なサポートと合わせた治療を提供するなどしながら、この分野において日本の現状を牽引していきますよう、要望いたします。

 

 

  児童・思春期の精神疾患医療

 

評価書の精神疾患医療において、児童・思春期の精神疾患に対して、発症や重症化の予防に向けた早期介入、早期支援に取り組んだとあります。具体的にどのような取り組みをしたのでしょうか?

 

<東京都 保健医療局 都立病院支援部>
小児総合医療センターでは、医療の必要性が高い患者については特に待機期間の短縮を図るなど、早期の診療につなげている。
 
入院には至らない患者に対しては、幼児学童や思春期など、年齢別のデイケアにおいて、患者の状態に応じたプログラムを提供するなど、早期から支援する環境を整備。
 
さらに、東京都子供の心診療支援拠点病院事業において、教育関係者などを対象とした啓発活動を行い、学校における早期介入や早期支援に繋げている。

 

東京都精神保健福祉家族会連合会「東京つくし会」からも、精神疾患に関しては早期に発見して治療に繋げることがとても重要だと伺っております。これらの取り組みは、とても重要だと思います。

 

精神障害のある患者と都立病院については、こちらで質問しました↓

 

 

 

 

先ほども触れましたが、性的マイノリティまたはその可能性がある子ども・若者は精神疾患のハイリスク層にあり、そのことで医療や相談に繋がりにくいことがあります。今後は、ぜひその点も踏まえた取り組みについても進めてください

 

これらを進める上にでは、専門的な知見のある人からのアドバイスを受けることも重要だと思います。ぜひ都立病院における対応を進めていく上で、外部の有識者の知見も借りながら、総合的な取り組みのさらなる改善に繋げていただけますようよろしくお願いします。