東京都議会の厚生委員会で、精神障がい者への虐待防止について都議会で質疑をしました。陳情内容を受けて、東京都で以下のことが動き出そうとしています。以下に詳しく報告いたします。

 

 

 

 

  精神疾患や障害がある人の家族会連合「東京つくし会」からの陳情

東京都内では最大の精神障がいのある人の家族会連合「東京つくし会」の陳情に対する審査がありました。陳情内容は「医療機関における精神障害者への虐待をなくし適正な医療へのアクセスを可能とする陳情」です。

 

 

 

  都議会厚生委員会で東京つくし会陳情の質疑

 

令和5年9月13日に厚生委員会で、この陳情を採択すべきかどうか決める前に、質疑がありました。私からは12問の質問をいたしました。

 

 

 厚生委員会の質疑アーカイブはこちら↓

1:03:58からです

 

 

質疑の内容を以下に書かせていただきます。

 

 

 東京都八王子市の精神科病院「滝山病院」で看護師による入院患者への暴行事件が明るみに出てから、精神障がいのある人やその家族らは、大変心を痛めてまいりました。

 

3月の厚生委員会の予算審議において、この件について質疑をした際に、私は障がいのある子どもを育てる母親として、このニュース報道を文字で読むことはできても、恐ろしくて動画で見ることはできないでいると話しました。

 

 

 3月の質疑の内容はこちらです↓

 

虐待被害にあわれた患者の皆様が、今どのようにして過ごされているのか、少しは穏やかに過ごせるようになったのだろうかという心配など、考えると胸が締めつけられます。スペシャルニーズ(障がい)のある当事者やその家族を、本当に不安に陥れた事件です。

 

 

 陳情者の「東京つくし会」は都内最大の家族会連合

そんな中、1968年から活動を続けてこられた歴史があり、都内の52の家族会の連合である東京都精神保健福祉家族会連合会「東京つくし会」が、このような陳情を都議会に提出したことは、とても重いことだと捉えています。伺いましたところ、つくし会が50年以上の歴史の中で、都議会に陳情を出すのはこれが初めてだそうです。この事件がどれほど精神障害のある人やその家族にとって、深刻なこととして捉えられ、影を落としているかが分かります

 

 

 

 

 滝山病院から出たいのかどうか、どうやって調べているのか?

まず初めに「滝山病院に入院している患者に意向調査をし、退院や転院を希望する患者に対して支援を行ってくたさい」という要望があります。都では、滝山病院に入院中の患者の方々の「転院・退院の支援」を行っているとのことです。今年5月に、患者の方々の”意向調査”を始めたとのことですが、まずはその経緯を伺います

 

 

【障害者施策推進部精神保健医療課】
滝山病院に入院中の患者については、転院や退院を希望しても自ら転退院先を見つけることが困難な入院患者もいる。
都では、それらの患者に対する転退院先等に関する情報提供や関係機関との調整などの支援を行うこととし、本年5月、一般社団法人東京精神保健福祉士協会の協力を得て、医師、看護師、保健師、精神保健福祉士、事務から成る合同チームにより個別に患者に面会し、転退院に関する意向調査を行った。意向調査は、入院患者のうち生活保護実施機関が対応している患者を除く、約70人に対して実施し、約半数が転院や退院を希望。

 

入院している患者ひとりひとりに面談する形で意向を調査したということで丁寧な形でのヒアリングをしてきたことが分かりました。約70人のうち約半数が、転院や退院を希望しているとのことで、かなりの人数が滝山病院から出ることを希望していることが分かりました。

 

 

 滝山病院から出たい患者をどうやって支援しているのか?

この病院には、かなり長期間、入院している患者も多いと伺っております。その方々を受け入れることができる他の病院を探したり、地域へ戻っていただくのは、簡単なことではないことだと推測されます。東京都による支援がとても重要になってくると思います。

 意向調査の後、具体的に転退院支援をどのように進めてきたのか、伺います

 

【障害者施策推進部精神保健医療課】
患者の転退院については、そのご家族の理解も必要と考えられることから、患者の意向調査を終えた後、転退院を希望する患者の家族等に対し、東京精神保健福祉士協会の協力の下、患者の希望を説明するとともに、家族等からの転退院に関する様々な相談にも対応。
滝山病院には、長期入院の患者も多く、心身の状況等からも直ちに地域で暮らすのは難しいことも想定され、都の精神保健指定医の判断により、まずは他の病院への転院を進めることとし、7月から東京精神科病院協会の協力を得て、都内全域で20を超える転院先候補の病院との個別調整を開始

 

まずは患者本人の希望を聞いた内容を、ご家族に伝え、ご家族の相談に乗りながら対応を進めていらっしゃる様子が分かってきました。

 

 

 

東京精神科病院協会には、HPに記載されている情報によると、今年4月時点で都内の63の病院が加盟しているようです。東京都ではその全ての病院に(滝山病院からの転院の受け入れについて)意向調査をした上で、そのうち受け入れることができる可能性がある20以上の病院と個々に調整しながら、転院に向けているということでした。都内全域の病院とのコミュニケーションをとりながら対応している状況にあることが伺い知れました。

 

 

 転院・退院の支援の現状は?

先月後半から、実際に患者の転院が始まったということですが、現状と今後、どのように進めていくのか伺います

 

【障害者施策推進部精神保健医療課】
転院先候補の病院との調整を進めた結果、5名の患者の転院先が決定し、患者本人への最終的な意思確認を行った上で、8月下旬に当該患者の転院が行われており、今後も関係機関と連携しながら支援を継続。
なお、患者が転院後に地域での生活を希望される場合には、障害者総合支援法に基づく地域の障害福祉サービスを活用して、地域での生活につなげていく

 

まずは5人が転院することが叶ったこと、そして転院先で地域での生活を希望している人についてはそのサポートもしているということでした。転院・退院希望者が30数人いらっしゃるということなので、今後もしっかりとサポートしながら、速やかに進めていただけるようお願いします。

 

 

 

 

 

 

 滝山病院の虐待を引き起こした原因を究明して再発防止策に

さて陳情では、「滝山病院における日常的な虐待がなぜ起きたのか、直接的かつ間接的、また構造的な原因や要因の究明 をしてください」と、滝山病院事件の事件に関しての原因究明を求めております。被害者やその家族のため、そして同じような事件が二度と起きないようにするためにも、直接の原因と、またそれに結びついた間接的な要因などを含めて事件を検証していくことは重要だと思います。都の対応について伺います

 

【障害者施策推進部精神保健医療課】
現在、滝山病院では、虐待防止委員会において虐待行為が起きた原因について検証するとともに、その再発防止策等について議論が進められている。
都は、虐待防止委員会での議論をしっかり確認。

 

「虐待防止委員会」と「第三者委員会」が立ち上がって、原因究明をしているところですので、その議論について確認をしていくとのことでした。その委員会による議論を注視していただいて、適宜必要な対応や、東京都の対応や施策に繋げていただきますようお願いします。

 

 

 

 精神障がい者は医療へアクセスしにくい現状

つくし会の陳情によりますと、精神障がい者は、長期の投薬の副作用が出ることがあるほか、がんなどの一般的な病気にもかかることがあるものの、適切な治療や入院ができる病院が非常に限られているそうです。受診を断られるケースも少なくなく、医療へのアクセスの悪さが大きな課題となっているそうです。

 

 

 都立病院松沢病院では精神科と他の科が連携して治療をしている

そのため行政的医療を担っている都立病院において、全ての病院で精神障がい者が身体的合併症について適切な治療を受けられるよう体制を整備することで、都内全域で精神障がい者が医療にアクセスできるようにすることを求めています。

 

 3月の厚生委員会の際にも触れましたが、精神障がい者のご家族の間で滝山病院に関しての悪い評判が絶えずあったそうです。しかしながらそれでも、精神科病院で透析などの身体的な治療を併せて入院治療を行うことができる病院が限られていることから、利用せざるを得ない状況もあったのではないかという話を伺いました。一方で、ご家族の皆様にとって都立松沢病院は絶大なる信頼をいただいていることもご紹介しました。3月の委員会では、都立松沢病院では、身体科と精神科の双方が主治医として診療に参加して、骨折、がん治療、糖尿病などの内科疾患、入院患者への透析などに対応していることを伺いました

 

(3月の厚生委員会では、都立松沢病院では精神障害や疾患がある人でも、しっかりと身体的な治療にも対応しているのは素晴らしいのですが、)それをHP等で分かりやすく示されていないことを改善した方が良いのではないかとお伝えしたのですが、その後、都立松沢病院のHPが改定され、現在は「精神科身体合併症医療」が出来ることについても明確に分かりやすく示されました。これで身体的な治療を必要としている精神疾患がある方が松沢病院を頼っていただきやすくなったと思います。ありがとうございます。

 

(都立松沢病院のHPより)

 

 

 松沢病院以外の全ての都立病院で精神障害のある人に適切な医療を

さて、悪い評判が絶えずあった病院に頼らざるを得ないというような状況を改善していくためには、そもそも身近な地域の医療機関での受入体制を強化していくことは不可欠なことだと思っています。そこでまずは、すべての都立病院において、精神疾患や障がいがある方が、安心して受診できるよう、着実な受入れしていくことを徹底して欲しいと思いますが、都の見解を伺います

 

【都立病院支援部連絡調整担当】
国や都では、精神障害の有無や程度にかかわらず、誰もが地域の一員として自分らしい暮らしをすることができるよう、医療、障害福祉・介護などが包括的に確保された、精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に向けて取組を推進。
 
都立病院では、身体的な疾患で受診した患者が、うつ病や統合失調症等の精神疾患や障害を有していても、精神科の有無にかかわらず、医療機能に応じて治療を行っている。
 
なお、身体的な治療が必要な方の精神症状が悪化し、治療の継続が難しい場合には、患者の意向等も確認しながら、松沢病院等に円滑に転院させるなど、連携して治療。引き続き、精神疾患や障がいを有する患者が安心して必要な医療を受けられるよう、着実に受入れを実施。

 

全ての都立病院において、精神疾患や障がいがある患者を受け入れ、身体的な治療をしていて、精神の方の症状が悪化した際は松沢病院と連携して対応しているとのことでした。このことはもっと精神疾患や障がいのある人や家族に知っていただきたいと思います。

 

障がいのある人やその家族は、受け入れを拒否される経験をあまりに多く経験しているので、なかなか新しい病院やサービスにつながりにくい面があると思います。ぜひ都立病院のHP等で知らせるなどして、周知をしていただけますようにお願いします。

 

 

 

 

 都立病院の職員が虐待をしないよう啓発を

次に、陳情では「障害者虐待防止の研修」の実施を求められています。

 

都立病院では、毎年度、虐待防止研修を実施していると伺いました。この研修は、「虐待を受けている疑いのある患者を発見した場合の対応」等について啓発するものだそうです。もちろん、とても大事な研修です。

 

しかし、今回の滝山病院の事件では、医療従事者自身が、虐待をしてしまいました。医療従事者による虐待は絶対に有ってはならないものです。

 

都立病院において患者に対する虐待が起きるとは考えにくいものの、それでも改めて都立病院において、職員自らが虐待をしないように啓発を行っていただきたいと思いますが、取組について伺う。

 

【都立病院支援部連絡調整担当】
都立病院では「患者権利章典」を定め、医療従事者及び患者に対して、患者は、だれでも、どのような病気にかかった場合でも、良質な医療を公平に受ける権利があることや、職員は、この権利を尊重し、患者に対して常に公平であること等を周知。
 
また、「人権研修」を毎年度開催し、障害者差別解消に向けた考え方や東京都の取組などを講義。
 
令和5年度の研修では、精神科病院での虐待事件も例に挙げ、患者が人間としての尊厳を有しながら医療を受ける権利を有していることを改めて啓発する予定

 

今年度の都立病院の全ての職員が受ける研修で、滝山病院での虐待事例もあることを挙げて、医療従事者による虐待防止のための啓発をするとのことでした。

 

 

都立病院の職員に対する障害者虐待防止の研修で、厚労省が事業者向けに作成した対応の手引きを活用して

その研修の際に、ぜひ使っていただきたい資料があるんです。令和5年7月に厚労省から通知された障害者福祉施設等における障害者虐待の防止と対応の手引き」です。

 

https://www.mhlw.go.jp/content/001121499.pdf

 

 

障害がある人に起き得やすい虐待

 

この手引きには、障害者虐待防止法について解説されているほか、具体的に「障害者虐待」とは何かが、とても分かりやすく示されています。(障害者虐待として)身体的虐待、性的虐待、心理的虐待、放棄・放置、経済的虐待という5つの虐待が挙げられ、それぞれそれらがどのような行為なのか具体的に示されています。

 

これを読んで感じたのが、身体的と性的虐待は多くの人がご存知だと思うのですが、「心理的虐待」や「放棄・放置」「経済的虐待」は、障がいのある人だからこそより起こりやすい虐待だなと感じました。つまり障害者への対応について詳しくない人だと、知らず知らずのうちに虐待をしてしまい、それが恒常的に続いていくうちに、エスカレートしていくことがあるだろうなと感じました。

 

この手引きには本当に具体的に事例が書いてあって分かりやすいです。例えば、心理的虐待として挙げられている具体例として、無視する、「意味もなく呼ばないで」「どうしてこんなことができないの」などと言う、トイレを使用できるのに職員の都合を優先して本人の意思や状態を無視してオムツを使う、子供扱いするような呼称で呼ぶ、本人の意思に反して呼び捨てやあだ名で呼ぶなど紹介しきれないほどの具体的な例が挙げられています。これらは、障がいのある人が身近にいる人だったり、障がい福祉に従事している人なら、当然(やらないこと)だと思うことばかりが挙げられているわけなのですが、障害者が身近にいない人だったら、おそらく「健常者」に対してはやらないのに、障がいのある人に対しては知らず知らずのうちにやってしまうことありそうだなぁと感じました。

 

 

分離教育で育った医療従事者

 

日本は、障がいのある子どもが、特別支援学級や特別支援学校という分離された環境で教育が行なわれているため、医師や看護師の方々の多くも、障がいのある人たちと交わったことがないまま医療に従事するようになっているのではないかと思います。障がいのある人の疾患や病気については詳しくても、「どう対面したらいいか」は知られていない可能性があると考えます。

 

 

障害者虐待防止法について

(厚生労働省のHPより)

 

「障害者虐待防止法」には、「何人も障害者を虐待してはいけない」とは書いてありますが、その中でも特に「養護者」「障害者福祉施設従事者」「使用者」の3つのカテゴリーの人が障害者虐待しているのを発見した時は通報することが義務付けられています。

 

逆にいうとこの3カテゴリー以外の人が虐待していても通報する義務がないそうです。

 

この法律上では「医療機関の管理者」は逆に障害者虐待防止をする側として挙げられています。つまり虐待する可能性のある人として、医療従事者は想定されていなかったということになります。

 

したがって、医療従事者は、もともと障がいのある人とどう対面したり接しりするかあまり知らない可能性がある上に、法律に定められている「障害者虐待」について詳しく勉強したりしていない可能性も高いと感じています

 

あらためて、都立病院での研修では、この手引きを配布するなどして、周知を徹底していただけますようお願いします

 

 

 

 

 都内すべての医療機関においての障害者虐待の防止

今回の陳情では、都立病院のみならず、都内の精神障害者が利用する医療機関に対しての障害者虐待防止についての研修や啓発を求めておられます。どの医療機関においても虐待されることがない東京にしていけないとなりません。都の対応についてお伺いします

 

 

 【障害者施策推進部精神保健医療課】
「障害者虐待防止法」では、医療機関の管理者は、職員その他の関係者に対する障害及び障害者に関する理解を深めるための研修の実施及び普及啓発等を講ずるものと規定されており、都は、都内の病院に対して、院内で活用できるよう医療従事者向け研修資料やポスターなどを周知

 

(ちょっとこの答弁だと分かりにくいのですが、)東京都では、今回の事件が発覚した後、都内の全ての病院に対して、障害者虐待防止に関する研修資料やポスターを周知したとのことでした。

 

「滝山病院のこと」という他人事ではなくて、「うちの病院でも起きえること」として意識を持っていただくために迅速な対応をされたことを評価いたします。とはいえ、それだけでは十分ではないかと思います。

 

 精神科病院で虐待を二度と起こさないためには、医療従事者向けの障害者虐待防止研修が必要であり、特に組織をマネジメントする管理者層の患者の人権擁護に対する意識のさらなる向上も重要です。今後、どのような対策を講じていくのか、都の見解を伺います

 

 

【障害者施策推進部精神保健医療課】
改正精神保健福祉法では、精神科病院の管理者は、職員等に対して精神障害者の虐待防止のための研修の実施や普及啓発等の措置を講ずるものと規定。
都では、精神科病院における患者の人権擁護への意識向上や虐待が発生しにくい組織風土づくりに向けた取組の支援を検討

 

東京都では、精神科病院での人権擁護の意識向上と、虐待を発生させない組織づくりのための取り組みや支援を検討しているとのことでした。ぜひ今後、どのような取り組みをしていくのか決まりましたら、お聞かせいただきたいと思います。

 

文字数の関係上、次の記事に続きます。