令和5年3月14日の厚生委員会で、滝山病院の虐待事件を受けて質疑をしました。

 

動画によるアーカイブ:5:57:02(龍円の質疑の開始時間)

 

 

議事録:

 

 

  滝山病院の報道を受けて私が感じたこと

 

厚生委員会の予算審議ということで聞きたいことが沢山あったのですが、東京都八王子市の精神科「滝山病院」で、看護師が患者に対する暴行の容疑で逮捕された事件の報道を受けて、このようなことが二度と起きないようにするにはどうしたらいいのかと考え、その観点から質疑をしたいと考えました。

 

私は、知的障害のある子を育てる母親として、このニュースは胸ぐらを掴まれたような息苦しさを感じて、日常生活をそのまま続けることが難しいと感じるほど、私の心にも暗い影を落としています。じつは文字によるニュース報道は読むことができましたが、動画による報道は、あまりにも辛い気持ちになるため、見る勇気が出ず避けております。

 

障がいのある子の親にとって「親亡き後問題」は深刻な課題です。グループホームや病院といった施設で過ごすことになるのだろうかと想像したりすることもありますが、もしもそこで子どもに対して人権が尊重されず、虐待や暴力があったりする可能性があったらと考えると、あまりにも恐ろしいことで心が凍りつくような想いです。身内に障がいのある人がいる方々は、多かれ少なかれ私と同じような強い不安な気持ちを、このニュース報道を受けて感じていると思います。

 

 

  国連障害者権利委員会ー日本の精神障害者の長期入院に対して改善勧告

 

この(滝山病院の)ニュースを見てすぐに想起されたのは、昨年(令和4年)の国連の障害者権利委員会で日本に対して出された「改善勧告」の内容です。

 

 日本の精神医療に改善勧告

日本に対しては大きく2点について強い改善勧告が出されました。一つは私が以前から取り組んでいる「分離された場所での特別支援教育」に対してで、もう一つは「日本の精神科医療」についでした。勧告では、強制入院は自由の剥奪であり「障害を理由とする差別」だと断定して、これらを認める全ての法律の廃止が要請されました。精神科病院における身体的拘束や強制投薬などの治療を合法化する法律があることや、虐待を防止するための独立した審査機関がないことに懸念が示されました。残虐で非人道的または品位を傷つける取り扱いを報告するための利用しやすい効果的な救済策を設けることも勧告されました。これらの勧告に対して日本政府がどう対応するのかが注目されている中で、このような事件が起きたことで、国連による勧告の重みが一層増したと感じています

 

 

 OECD4割の精神科病床が日本に

日本の精神科の病床の数がOECD加盟国全体の4割弱を占めていて、平均の入院日数が突出しています。過去には40年も強制入院をさせられた男性の報道もあり、退院した後の受け皿がないことから、症状が回復していても退院できない社会的入院といった実情もあることも課題になってきました。

 

 

 日本における精神科医療のあり方そのものを見直すべき

滝山病院の看護師の起こした事件として見るよりも、日本におけるこの精神科医療のあり方そのものについて見直していくべきであり、そもそもこのようなことが起きない・起きにくい社会にしていくということが重要です。また東京都としてすぐにできることとしては、「ここだったら絶対に大丈夫」と安心して精神疾患や障がいのある方やその家族が利用できるセーフティネットとして都立病院を確実にして行く必要があると考えました。その観点から質問をいたします。 

 

 

  精神障がいのある人のセーフティネットとしての都立病院

 

 精神障害のある人の家族や支援団体の声

今回の事件を受けて、精神疾患や精神障害のある家族がいる人や、支援活動をしている人からお話を聞かせていただきました。お話によりますと、家族らの間では随分前から「滝山病院は、悪い評判が絶えずあった」ということでした。それでも精神科病院で透析などの身体的な治療を併せて入院治療を行うことができる病院が限られていることから、利用せざるを得ない状況もあったようだとの話を聞きました。滝山病院のHPを見ると、確かに「人工透析器や透析医が常勤でいること」が大きく表示されております。合わせて、精神科ではいわゆる「精神科特例」と呼ばれる、医師の数が他の科に比べて1/3で、看護師が2/3で良いという特例が国で認められているため、他の治療と合わせて日常的な治療が必要な場合は特に医療従事者への負担も大きく患者へのケアが粗雑になってしまう可能性があり、滝山病院のような虐待事件を引き起こす要因の一つになったのではないかと推測するような意見もいただきました。

 

 

 家族に絶大なる信頼をされる都立松沢病院

逆に家族の間で評判がいい病院はどこなのか聞きましたら、「そりゃ都立松沢病院」だと即答をいただきました。「松沢病院では人工透析は受けられないんでしょうか?」と聞いたところ「それは知らない」とのことでした。もし松沢病院で入院中の人工透析治療が受けられるのであれば、そのことがもっと広く知られることによって、評判が悪くて不安を感じながらも選ばざるを得ない病院を利用せずに、安心できる松沢病院を利用するという選択肢を持てることになるかなと思いました。またこのことから「精神疾患や障害がある人が入院する際に、身体的な治療が継続的に必要な場合」利用できる病院が非常に限られてしまうという課題があるのだなと感じたところです。

 

そこで都立松沢病院では、透析治療などの身体的治療が必要な精神疾患や障がいがある患者に対して、入院中どのように医療を提供しているのか伺うとともに、医療従事者については、「精神科特例」と言われる医療法施行規則に基づく標準数に対して、どの程度配置しているのか伺います

 

 

齋藤都立病院支援部長答弁
松沢病院は、精神科急性期医療を中心に、精神科救急医療、精神科身体合併症医療、アルコール等依存症の専門医療などを提供するとともに、地域医療機関で対応困難な患者を受け入れ、精神科医療のセーフティーネットとしての役割を果たしております。そのため、精神科スーパー救急病棟では、診療報酬上の施設基準で、医師を患者十六人に一人以上、看護師を患者十人に一人以上配置するなど、病院全体の医療スタッフ数は、医療法施行規則に基づく標準数と比べ約三倍となってございまして、令和三年度の新入院患者数は三千二百九人、新来患者数は六千六百九十五人でございました。精神科身体合併症医療は、身体科、精神科双方が主治医として診療に参加し、骨折や各種がん治療、糖尿病等の内科疾患のほか、入院患者に対する透析などに対応してございます

 

松沢病院では、精神科に入院している患者が透析治療も受けられることがわかりました。そのほかの外科や内科治療についても、精神科の医師と、身体的な部門の医師がそれぞれ主治医となって診療にあたってくれるとのことでした。また精神科特例の3倍にもなる医療従事者を配置していることで、患者への丁寧な対応が可能になっていることも分かりました。

 

HPを拝見しましたら、かなり見やすい分かりやすいものではありましたが、「身体的治療および精神疾患や障がいに関する治療も同時並行で入院中にも受けられる病院である」ということが、ぱっと見では読み取れるものではないようでした。

 

 

 松沢病院の医療情報発信を強化して

今回、インターネット検索で「精神障害・透析・入院」で検索してみたのですが、トップの方に「透析中の精神疾患は見捨てるでいいですか」という恐ろしいタイトルの記事が出てきて、透析もできるとしている病院として検索に最初に出てきた病院は秋田にありました。その次に、精神障害のある女性が透析を断られて死亡した事件についての記事が出てきました。

 

そこで3つのキーワードの次に「東京」と入れたら、ようやく松沢病院も表示され少し安心しました。松沢病院でのこういう対応について、病院内に掲示しておくことや、HPでもすくに分かる場所に記載しておくなどしていただけるよう検討をいただけたらと思います。

 

 

 

ー後日談:松沢病院のHPが更新されましたー

 

委員会での質疑を受けて、松沢病院のHPに「精神科身体合併症医療」についての項目が掲げられて、少しわかりやすくなりました。

 

 

 

 他の都立病院でも精神障害へ適切な治療を

 

さて、都立松沢病院が優れた精神科のある病院であっても、東京都は広いので、誰もが松沢病院を利用できるわけではありません。他の都立病院においても、精神疾患や障がいがある人が身体的治療についても安心して受診し治療を受けられることが重要だと考えます。知的障害のある方も、病院での受診や治療では困難に直面することが少なくありません。

松沢病院以外の都立病院においても、精神障がいや知的障害などがある人についても、適切な配慮の元に診療できることが必要と考えるが、都立病院での対応について伺う。

 

 

齋藤都立病院支援部長答弁
障害者差別解消法においては、障害者への合理的配慮が責務とされておりまして、都立病院では、障害を持つ方が円滑に受診できるよう対応を進めております。例えば、障害者等用駐車スペースや点字ブロックなどの整備を進めるほか、職員が患者一人一人の障害に応じた配慮を行えるよう、都と同一教材を用いた障害者への接遇に関する研修を行っております。精神科身体合併症患者の受入れの際は、患者や家族から症状などを丁寧に聞き取り、身体科と精神科が連携して診療に当たっております。今後とも、患者が安心して診療を受けられる環境を整備してまいります。

 

都立病院では、精神科で身体的な治療が必要な患者の場合には、連携して診療にあたるなど、合理的配慮を提供しているとのことでした。精神疾患や障がいがある人、知的障害がある人など、治療を受けることそのものに困難さや配慮が必要となる患者が、他の民間の病院では治療が難しいと断られてしまったとしても、都立病院だったら必ずみてもらえるという保障があることは、公立の病院として非常に重要だと考えます。

 

ただ繰り返しになりますが、都立病院のHPを見てもこういう取り組みについては発信がされていません。スペシャルニーズ、特別な配慮やニーズがある、障害がある人がより安心して医療にアクセスできるよう、今後、こういった発信についてより一層積極的にしていただけるよう要望いたします。

 

 

 精神障害者の地域移行

冒頭で社会的入院について触れましたが、滝山病院にもこのような側面があったと言われています。令和2年の厚生労働省の資料によると、精神療養病棟では10年以上の入院が3割を超えていることも示されたところです。

 

精神障害者の家族の方と話していましたところ「地域で暮らしながら通院をすること、地域で暮らせるようになることが重要」とのお話もありました。国でも入院治療から地域ケアへと進めているとのことで、過去10年で精神病床はほぼ横ばいながらも少しずつ病床数が減っているようではあります。

 

松沢病院は救急医療ですので入院期間が何年もということは少ないかと思いますが、入院期間の推移について伺うとともに、患者の方をどのように地域へ移行するようにしているのか、その取組について伺う

 

 

齋藤都立病院支援部長 
松沢病院の精神科病床の平均在院日数は、平成23年度の120.7日に対して、令和3年度は71.1日と十年間で49.6日間短縮してございます。
また、地域移行しやすい環境の構築のため、高い専門性や知識を持つ専門人材を地域の医療機関に派遣し、技術支援や人材育成を行っております。地域移行に向けましては、医師や看護師、精神保健福祉士など多職種の退院促進チームが、患者やその家族、地域関係者などを交えた退院支援カンファレンスを行うほか、各病棟にこのチームと連携するリンクナースを配置するなど、退院促進を強化してまいりました。今後とも、関係機関と連携を図りながら、患者の社会復帰と地域を支えるための取組を進めてまいります。

 

精神疾患や障がいののある人やその家族にとって、セーフティネットとして都立病院を安心して利用できるということを広く周知していただけますよう、あらためて要望いたします

 

 

 地域で暮らすための相談体制

今回の滝山病院の事件で、あらためて10年以上の入院を続けていて、地域に戻る場所がないが故に「社会的入院」が行われている現実を目の当たりにし、その歪みの中で虐待事件が起きたり、もしかするとそれ以上のことが行われていたんじゃないだろうかと思わせるような報道がされるのを見て、繰り返しになりますが愕然としましたし、どうしたらいいのか国も東京都もしっかりと考えていく段階にあるのではないかと感じました。

 

「地域の中で暮らせない」「地域に戻る場所がない」という理由は様々あると思いますし、「何か一つを変えたら劇的に変わる」ということではないことではないのでしょうし、国連の勧告を受けて国の法整備などをするかどうかも注目する必要があると思います。しかしそれを待たずとも、「一緒に暮らしたいと思っているけど、一緒に暮らす選択肢が選べないでいるご家庭」について支援を東京都もしていることと思いますし、それをさらに強化していくことを考えることから始められるのかなと思いました。

 

家庭で一緒に過ごせない理由も様々でしょうが、まずはそれを「相談」することができ、その相談内容が「実際に助けになる」ことが重要かと思います。

 

 

 アメリカで私が経験した総合的な相談体制

以前、こちらの委員会でもお話しさせていただいたことがあると思いますが、アメリカで出産した息子にダウン症があると診断を受けた日に、行政の電話番号を医師から手渡されました。そこに電話をかけただけで、翌週には自宅にケアマネージャーがアセスメントできる専門家と一緒に来てくださり、あっという間に療育・将来通うことになる学校の担当者・医療とつないでくださいました。生後3カ月の頃には、同じ0歳の障がいのある子達が15人くらい通う集団療育に週1回通い、PT・OT・ST・摂食指導・コミュニケーション・音楽療法などの専門家と毎週顔をあわせるとともに、たくさんのママパパ友ができました。あまりに支援が怒涛のように向こうからやってくるので、ちょっとtoo muchと感じたほどではありましたが、とにかく「安心して子育て」をすることができて、気がついたら楽しい子育てになっていました。

 

一方で、日本に帰国すると、「どこに相談しても欲しい情報がもらえない」という声をたくさん耳にします。様々な障がい種別の、どの年代の方に聞いても同じことをおっしゃいますので、この分野が日本は弱いなぁと感じているところです。

 

そこで精神疾患や障がいがある人やその家族が、地域で安心して生活できるための相談体制として、都として現状どのように対応しているかについて伺います。

 

 

石黒障害者医療担当部長 
精神障害者が地域で安定して生活するためには、本人やその家族に対して、身近な地域における相談対応や情報提供などの支援が必要であり、区市町村や保健所では、精神保健福祉に関する様々な相談に応じております。都内の精神保健福祉センターでは、区市町村等と連携し、地域の複雑な事例や困難な事例を扱うとともに、思春期、青年期の問題や依存症など、精神疾患に関する専門的な相談を受けており、精神障害者や家族からの多様なニーズに対応しております。

 

都内に3ヶ所ある「精神保健福祉センター」で専門的な相談を受けているとのことでした。相談体制があることは確認できたので、次に「聞きたい内容が提供されているのか」「相談したことで必要な支援につながったのか」「助かったのか」というところについて、今後また詳しく聞かせていただきたいと思います。

 

 

 地域での暮らしを支えるレスパイト

次に、家庭で一緒に暮らしたいと持っている家族にとって、レスパイトも重要です。これは高齢者の介護等でも必要なことだと思います。またご本人が、病状の悪化等を未然に防ぐための”休息”を目的としたショートステイが利用できることも必要だと考えます。これらのことについて、都としてどのような取り組みを行っているのか、伺います

 

石黒障害者医療担当部長
都は、「障害者・障害児地域生活支援3か年プラン」を定め、家族のレスパイトなどを目的とした障害者総合支援法に基づく短期入所の整備を進めております。また、これに加え、本人の病状や心の状況等の様々なニーズに対応するため、精神障害者グループホームの専用居室を活用したショートステイ事業を独自に実施し、精神障害者の退院後における地域生活のイメージづくりや病状悪化の防止などを行っております。こうした取組により、精神障害者が安心して地域で生活できる環境の確保に取り組んでおります。

 

家族のレスパイトを目的とした短期入所の整備や、本人のショートステイ、そして地域生活のイメージづくりなどをしているとのことでした。これらが十分に足りているのか、または他の施策で補う必要があるのかなど、今後また検討していけたらと考えています。

 

あとは精神障害だけではなく、これは感じていることですが、学齢期までは学校があったり保育園や放課後クラブなど親の就労支援もありますが、それ以降の親や家族の就労支援等については足りていませんし、また障がいのある本人が仕事をしたり余暇活動をしたりする機会や場所も足りていないようです。今後もそれらについて考えていけたらと思っています。

 

 

 精神科病院入院患者の地域移行

入院生活を終えて地域に戻っていく時には、様々な(病院へ)押し戻す力が働いているのかなと思います。都においても精神科病院入院患者の地域移行を進めているとのことですが、都の見解を伺います

 

石黒障害者医療担当部長答弁 

都は、退院後の精神障害者の生活を支えるため、精神科病院と地域援助事業者等との連携体制の整備や、病院と地域との調整を広域的に行うコーディネーターの配置などの取組を行っております。また、精神科病院に対して、精神保健福祉士の配置を促進し、精神障害者の早期退院を支援しております。今後とも、精神障害者が地域で安心して暮らせるよう、支援体制の整備を進めてまいります。

 

「今後とも、精神障害者が地域で安心して暮らせるよう、支援体制の整備を進めていく」との答弁がありました。私も今後もこの課題に継続的に取り組んでいきたいと考えております。