1889.2.21 無名氏の贈金
大臣を暗殺した西野に対して匿名の献金があると報じた記事です。
葬式費用の名目で現金が送られたとのことです。すべて匿名。
20円、30円の大金を送る人もいて、総額100円以上になったとか。
明治時代はですね、標準的には「明治時代の1円=現代の2万円」と換算します。
なので、現代の貨幣価値に換算すると献金の総額は200万円以上となります。
しかし、西野の友人諸氏は、彼の遺品整理などの作業にかかる費用はすべて有志の資金で賄い、他人の金銭援助は受けないと固辞しているということです。
よき友人がいたのですね。
一方の山上容疑者。
彼への献金もかなりあるようですね。
現金だけではなく食料品も送られているというニュースも見ました。
西野も、もし事件後も生きていたら、食料品が送られてきたかもしれません。
そして小学館『日本国語大辞典』。
ちなみにこの記事の見出しは「無名氏の贈金」。
「無名氏」。
これもグッときます。
「匿名」という言葉はまだないのでしょうか?
小学館の『日本国語大辞典』で「匿名」を調べると、以下のように文例が挙げられています。
*音訓新聞字引〔1876〕〈萩原乙彦〉「匿名 トクメイ ナヲカクス」
*近世紀聞〔1875~81〕〈条野有人〉初・三「禁中へ匿名(トクメイ)の書を
投ぜし者あり」
用例は他にもありましたが省略しました。
このように『日本国語大辞典』の良いところは用例が豊富なところです。かつ、用例は可能な限り初見のものから、古い順に掲載してあるので、語句の意味だけでなく、時代感も推測することができるんです。
つまり、「匿名」は1876年成立の『音訓新聞字引』が初見で、江戸時代の文献には見当たらない言葉だということです。また、後半の用例を私が省略したのは、20世紀の用例なので不要と判断したからです。
すでに成立していた『音訓新聞字引』には「匿名」の語はあるのに、実際の新聞には使われていないということですね。朝日だけ使っていないのか。この記者だけなのか。他の新聞はどうなのか。気になるけど…。
「匿名」という語は、存在しているけれど、まだ一般的ではないと推測できる…ということにしておきましょう。
ついでに、先ほどの際物講談師の「際物」を調べてみましょうか。
(1)必要な季節のまぎわになって売り出される一時限りの品物。三月の雛人形、五月
の鯉幟など。
*雑俳・歌羅衣〔1834~44〕四「際(きワ)物の熊手を仕込む落葉時」
*改正増補和英語林集成〔1886〕「Kiwamono キハモノ」
(2)一時的に人々の興味をひくような物。一時限りのもの。
*仰臥漫録〔1901~02〕〈正岡子規〉二「死に瀕したる人の著なればとて新聞
にてほめちぎりしため忽ち際物として流行し六版七版に及ぶ」
*引越やつれ〔1947〕〈井伏鱒二〉西南館「毛筆を仕込んだ際物の万年筆や高価
なウォーターマンの万年筆を胸のポケットに挿し」
(3)実際にあった事件や流行をただちに取り入れて脚色した戯曲、小説、演芸、映画
などの類。
*所謂戦争文学を排す〔1904〕〈平出修〉「抑々際物とは、現在事件にして極め
て人気に投ずる材料を云ふに於ては、説者も異論なかるべし」
*東京年中行事〔1911〕〈若月紫蘭〉附録「外国名優の芝居で有るとか、内外の
時々の際物(キハモノ)で有るとか、其麼(そんな)ものは勿論見に行きたく
ないではなかった」
「際物」の意味は3つありますが、「際物講談師」の場合、(3)かな~。
でも、(2)でもいいよね。まぁ、(3)は(2)から派生したものでしょうか。
さらに(2)は(1)から派生したものと思われるので…
結局(1)ですね。用例も(1)だけ江戸時代ですし。
考えてみれば、新聞記事が『日国』の用例になっているパターンはないような気がします。気がするだけで確認したことはないのですが、ありますかね…。
わからないですね。