『花園天皇日記』をもとに、1331年の元弘の変直後の様子を、

脚本風にして読んでみました。

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で、

 

①捕縛時の後醍醐の身なり

②身元確認

③後醍醐らの言い分

 

この3つを、興味深い点として挙げました。

ここでは③について、つらつらと書き連ねます。

 

③後醍醐らの言い分

「天魔のせい」って面白い!

ストレートにそう思いました。

原文だと「天魔之所為」。

 

現代でいう「魔が差した」って表現につながるのかな?

小学館『日本国語大辞典』(通称「にっこく」)で確認してみましょう!

 

まず「魔が差す」

心の中に悪魔がはいったように、ふと悪念を起こす。思いもよらない出来心を起こす。


*浄瑠璃・冥途の飛脚〔1711頃〕下「根性に魔がさいて大分人の金を誤り」


*曲った背中〔1966〕〈吉行淳之介〉「あなたのあのときの話で、つまり、魔がさしたというわけか」

初見は1711年、江戸時代。

 

では、「天魔」。

仏語。欲界六天の頂上、第六天にいる魔王とその眷属をいう。常に正法を害して仏道を障害し、人心を悩乱して、智慧・善根をさまたげる悪魔。天魔波旬。

*勝鬘経義疏〔611〕歎仏真実功徳章「夫魔有四種、一天魔、二煩悩魔、三陰魔、四死魔」

*平治物語〔1220頃か〕上・信頼信西不快の事「いかなる天魔が二人の心に入りかはりけん」

*どちりなきりしたん(一六〇〇年版)〔1600〕二「御あるじの御辞に科ををかす者はてんまのやっこなりとの玉ふなり」

*浮世草子・花の名残〔1684〕五「三世の諸仏の御にくみふかき罪ある我が身ゆへ。天魔の障礙なす成べし」

*白居易‐示諸僧衆詩「曇弟子君知否、恐是天魔女化身」

冒頭の「仏語」。

勘違いしないでね。フランス語じゃないよ。

仏教用語ってことだからね。

 

さて、文例の2つめ『平治物語』、いいですね。

天魔(・悪魔)が人間の心のなかに入って、悪事をさせるタイプの文例です。

まさに、今回の「天魔之所為」に通じるのではないでしょうか。

 

そして、「天魔」の文例の下限が1684年。

さきほどの「魔が差す」文例だと1711年が初見でしたので、

みごとに入れ替わっている雰囲気。

かぶってた時期がない。

 

そんな簡単に決めつけてはいけないかもしれないんだけど~、

そんな気がしてきましたね。

 

「天魔之所為」が「魔が差した」に進化・発展した、と。

 

気のせいかもしらんけど(笑)

でも、国語的にちょっと面白いと思いました。

 

もちろん、あの後醍醐が、幽閉された六波羅で、

「魔が差したんだ!」と叫んでたというのも、興味深いですね。

 

「往生際、悪っ!」

「そういう言い訳?」

小悪党っぽい言い訳ですよね。

倒幕という大掛かりな、政治的な犯罪の言い訳とは思えないところも、

良きですハート

 

全般的に、後醍醐のダメエピソード、大好きですね。

 

「「魔が差した」後醍醐天皇」……完

 

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