これでいいの?『天気の子』 | アディクトリポート

アディクトリポート

真実をリポート Addictoe Report

『天気の子』/IMAXレーザーGT2D

2019/7/25 グランドシネマサンシャイン シアター12 K-24

 

(ネタバレなしの感想)

最後まで退屈せずに見終わり、

IMAXならではの独自画角/縦長構図の背景美術も効果バツグン、

空の広大さや高さ、突き抜ける解放感がよく効いていた。

 

IMAX上映館は満員御礼。終映後はエスカレーターの帰路を制限するほど。

12階エレベーター脇のトイレは男女とも個室が1個きりと地獄。

 

 

(少し深く感想)

——とまあ、

ざっと見た限りはなんの問題もない良作に映るが、

見終わってあれこれとふり返ると、

「ほんとにこれでいいの?」と多くの疑問が頭をよぎる。

 

 

(ここから映画の内容にふれますので、鑑賞後にお読み下さい)

ちょうど『エヴァ』の時のように、

(今はなき109シネマズMM横浜で『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』の2回目鑑賞時)

中学生あたりの男性2〜3人組が鑑賞。

終映後に「ここがよかった」と口々に感想を述べており、

それが如実に示すように、

『天気の子』は、

想定観客層に最大の満足度を与える作りで、

新海誠監督は、商業映画の監督としては1ミリも外しておらず、

恐らくは細田守監督が昨年、

なぜか多くの観客の反発を喰らった、

未来のミライ』(2018)

——の失敗を反面教師にしているらしい。

 

本作の発想の原点は、

2017年夏の異常気象で、

 
から発想をふくらませているのだろう。
 
とにかく『天気の子』は、あの『君の名は。』(2016)
87878
の新海誠氏の、
3年ぶりの次回新作だけに、
観客は「君の名は。の夢よもう一度」を期待してくるわけで、
とにかくそれを裏切らないように、
卑屈なまでに『君の名は。』をベタなぞりしている。
 
『君の名は。』で、男女が入れ替わる現象は、
過去のヒロインの無念が未来の男性主人公に届き、
彼女を救うための鍵にはなったが、
このフシギ現象の原理(=どうして時間軸をずらせた男女が何度も入れ替わるのか)は明かされない。
 
今回の『天気の子』でも、ヒロイン天野陽菜(森七菜)は晴れ女だが、
肉親の最期に晴れ空を見せたいという強い想いが、
ふと訪れた代々木の老朽ビル
屋上の鳥居を抜けると、
高空の晴れ間に舞い上がり、
それ以降、願えば短時間だけ晴れ間を出現させられるようになる。
 
しかし、
長雨続きの原因はまったく説明されない。
どうして異常気象が続くかと言えば、
ドラマを盛り上げる仕掛けでしかない。
 
もしも駆け出しの脚本家が、
こんなシナリオを書いて提案したら、
絶対に却下されて、
この部分を指摘されるだろう。
 
普通は異常現象や超常現象を扱えば、
その謎解きが期待されるが、
『天気の子』にはそれがない。
 
それよりも、“新海誠ワールド”と申しますか、
“『君の名は。』チック展開”が優先されちゃってるわけで、
そこらへんが
「スゴイ割り切りと開き直りだなあ」
とか
「ダメだろ、そんなのフツー、いいのかよ」
という想いでした。
 
思うに新海誠作品って、
通(つう)の人が知る人ぞ知る存在で、
私も恥ずかしながら『君』以前は、
『ほしのこえ』(2002)しか観ておらず、
緻密で繊細な世界観には感心しながら、
メジャーな感覚とは徹底的に無縁だとは感じていた。
 
そんな新海監督が、
次第に興行力をつけていき、
『君の名は。』で大化けしたので、
それ以前の、趣味性が高く、
一部限定マニアにしかウケない要素は徹底排除で、
『続・君の名は。』や『君の名は。パート2』を期待して押し寄せる観客を裏切らず、
同じ気分にさせること「だけ」に腐心している。
 
さしずめ、
仮面ライダーに風力がないと変身できないめんどくささがあったところ、
同じような感じ。
 
だからとにかく「またかよ」のオンパレード。
男性主人公を惑わす大人の女性
『君』バイト先の先輩・奥寺ミキ(長澤まさみ)
おくさ
→『天気』夏美(本田翼)
空母いぶき』『新聞記者』で私をイラつかせた本田翼。『天気の子』で短いセリフはいいが、長ゼリフは途中で息切れ。私とはよほど相性が悪いらしい。
 
天気や天文現象を伝えるテレビモニターの点在
 
男女主人公の接触交流から別れ→劇的な再会
『君の名は。』関連曲以外にヒットのないRADWIMPSの再起用
 
と、とにかく「お約束」が羅列される一方で、
『君』でていねいだったところさえ、乱雑に扱われていることにビックリ。
 
 
(以下転載・青字部分)
 
綿密な計算

実は『君の名は。』の公開日、
2016年8月26日というのも、
厳密な計算に基づくもので、
新型iPhone(iPhone 7)の発表の一月前なんである。

つまり公開から1ヶ月は、
作品内の現在と現実が一致していて、
2016年8月末〜9月あたりを生きている男性主人公が持っているのは、

55214
細かく見れば、エッジのカーブが異なり、カメラ周囲に盛り上がったリングがなかろうと、
この外見はどう見ても明らかに、
↓1年前の2015年9月25日に発売された(当時)最新のiPhone 6s(左)。

147
あるいは外見はほぼ同じ、2年前の2014年9月19日に発売されたiPhone 6(右)。
おおお
↑iPhone6/6sは、画面上下のバーが黒い。↓
がめんじょうげ

一方で、2013年に生きる女性主人公が持っているのは、
8874
画面上下のバーが白いので、
2012年9月21日に発売されたiPhone 5か、

めんたむ
この年の9月20日に発売されたばかりの、iPhone 5sと特定できる。
っっっp
もしも5sだったなら、
2013年パートは、9月20日以降、

7698
秋の入口から、秋たけなわな頃の物語ということになる。

スマホの普及には都会にも田舎にも地域差はなく、
ドラマもスマホなしには成立しないだけに、
そこらへんは抜かりなし。

アニメ制作中は、iPhone 7の形状がどうなるかはわからなかったから、
それが登場しない筋立てにするしかなかったのと同様に、
現代から5年後、つまり2021年のスマホはどうなっているかわからないので、
未来パートで男性主人公が電車の中でいじっているスマホは、アップにならない。
 
(転載終わり)
 
『天気の子』では、そこがメチャメチャいいかげん。
最後の方で、幼げな顔つきの男性主人公、
森嶋帆高(醍醐虎汰朗)の制服姿の記念写真が出てきて、
令和3年=2021年と記述がある。
 
おそらくこれは、中学の卒業写真で、
『天気の子』本編ドラマでは彼は高校1年生なので、
2021年の話なのに、持ってるスマホが、
バリバリ『君の名は。』と同形式のiPhoneなのにガックリ。
 
まあこれは、未来のIPhoneの姿が予測できないから仕方ないかも知れない。
だがしかし、
風景描写で、明らかにシネコンで本作品を観る観客を想定し、
TOHOシネマズ新宿のIMAX表示までチラ見するのに、
池袋の街の描写で、
2021年なのに、今年2019年の7月12日に閉館した
シネマサンシャインの看板が出て来る!
もう2021年には取り壊し、別物件が建ってるだろうに…。
 
 
鑑賞当日の7/25、グランドシネマサンシャインに向かう途中で遠廻りして、
シネマサンシャイン閉館の様子を見届けてきただけに、
このずさんな描写はとても残念。
 
他にも、須賀圭介(小栗旬)は、
自社で囲っていた森嶋とヒロイン天野陽菜の接触を詳しく知らないはずなのに、
なぜか男女コンビのゆかりの地、代々木の老廃ビルに先回りしている。
直後に警察も出て来るから、それが情報源かも知れないが、
警察より先に出てくるからわからない。
 
森嶋の拳銃のあつかいも、
入手経路から、
持ち歩いている経緯、
袋から取り出す描写がなく、
いつのまにか相手に銃口を突きつけている等々、

あちこちずさん、不自然な経過、展開がダルダルだったり、

気分やムード、フンイキ最優先でないがしろにされてる部分がやまほどあり、
背景美術の緻密な描き込みや、
高度なアニメ技法には手間ひまがかかるが、
脚本だけなら、奇抜さに理由付けや説明がいらないんだから、
ムチャクチャな思いつきを無責任に書き殴ればいいんで、
1日1本でも量産できそうな雑さに、「いいのかよ、そんなんで!」
あるいは、
「いいんです。『君の名は。』の新海誠監督・脚本なればこそ」
という開き直りに、
愕然たる思いであった。
 
創作活動(作品作り)を放棄して、
量産作業(売れる商品製造)に腐心し、
クリエイターから完全な商売人に転じた新海監督。
『天気の子』が、『君の名は。』を超えるヒットになれば何よりですが、
次回作もなぞるだけのリピート作だったら、
見かぎってこの人の作品は観ないことにします。
 
だって、心を揺さぶられる部分が、
『天気の子』には微塵もありませんでしたから。
 

※あくまでも個人の感想です。
 
蛇足で付け加えておくと、
やらせで打ち切りになった「ほこ×たて」で、
「晴れ男/晴れ女VS雨男/雨女」という企画があって、
男女同数を一箇所に集めたら、
収録中ずっと曇天だったのは面白かった。