誰も書かない『君の名は。』 | アディクトリポート

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書き貯めていたら、くしくもこの記事とシンクロ。

「君の名は。」が「デスノートLNW」抜き首位奪還、
2016年11月7日


最近つくづく感じるのは、
他人の映画の感想は、自分に関する限り、
さっぱりアテにならないということ。

もはや自分以上に、
映画の見極めができる人なんていないんだから(エラソー)。

という評価基準でいくと、
『シン・ゴジラ』は、とにかく過大評価が激しく
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『君の名は。』は過小評価されすぎである。
87878

ヒットすれば、その要因がさまざまに分析され、
もっともらしく語られるが、
しょせんは後付け。

これについては、
成功/ヒットの要因は、
『シン・ゴジラ』の時には、
じえいたい
監督のやりたいようにやらせたから
とされたのに、
『君の名は。』では、
65456
監督が周囲の意見を取り入れたから
に急転したことに、
さすがに疑問を呈するツイートも見かけた。

同様に、世間は何もわかっちゃいない例を挙げれば、
実は『君の名は。』を見た観客のほとんどが、
作品を完全には理解していないらしい。

別に理解しなくたって映画は見られるし、
「自分はわかっている」というのは、
往々にして、「裸の王様」的な知ったかぶりなことも多いから、
ならば素直に「よくわからなかった」と打ち明ける、
今どきの女子高生の方が、よほど正直で潔い。

それにしたって、
内容の善し悪しとヒットは必ずしも一致しないとはいえ、
作品の核心を突いた言葉に、
さっぱり行き着かないままというのもどうかと思うので、
さすがにネタバレで書いておくことにした。

評価ポイントは「新しさ」

日本人の「泣きのメンタリティ」からすれば、
悲恋ものの方が、ウケがいい。

男性主人公(立花瀧=TT 姓名のイニシャルが同じ、ヒーロー、ヒロインの法則)が、
5651
体が時折入れ替わる女性主人公(宮水三葉=MM)と、
5574
ケータイを介して意志を通じ合わせていたが、
実は二人の間には3年の時間差があり、
女性の方は3年前に死んでいた
——という流れで行くと、
彼女の思い出を胸に秘めながら先に進んでいく
というのが、
パートナーと死別するこの手のドラマのパターンで、
『幸福な食卓』(2007)だって、

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洋画でも『ある日どこかで』(1980)だって、その線で話が進む。

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あるいは『シックス・センス』(1999)や、

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『黄泉がえり』(2003)、

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『パッセンジャーズ』(2008)、

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『ノウイング』(2009)のように、

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主人公自体が、実は『北斗の拳』の、
しんでる
ケンシロウの決めゼリフの場合さえある。

ところが『君の名は。』では、
男性主人公は、
絶望したり、悲嘆に暮れるお決まりの描写はほとんどなく、
事態を変えられるからこそ、
ある事実(秘密)を知らされていると考えて(感じて)、
即座に具体的な行動に移り、
ふたり
女性主人公もそれに呼応して、
っsw
事態を変えるべく懸命に行動する。

こうして二人は、常人にはとうてい成し得ないような奇跡
(=確定したはずの歴史の改変)を起こし、
しかも達成たちまち、
そのために尽力したことを忘れてしまう。

やがて自分たちの力で手に入れた未来で、
二人は巡り逢うが、二人ともそのことに気づいていない。

どちらも権力者や社会的な有力者ではなく、
観客と等身大の若者で、
無名の市井(しせい)の人であり続ける。

こんな希望に満ちたドラマは、
知る限り初めて見た。


知らないだけで、他にもあるのかも知れないし、
該当する他作品でも忘れているものがあるのかも知れないが、
とにかく感心した。

綿密な計算

実は『君の名は。』の公開日、
2016年8月26日というのも、
厳密な計算に基づくもので、
新型iPhone(iPhone 7)の発表の一月前なんである。

つまり公開から1ヶ月は、
作品内の現在と現実が一致していて、
2016年8月末〜9月あたりを生きている男性主人公が持っているのは、
55214
細かく見れば、エッジのカーブが異なり、カメラ周囲に盛り上がったリングがなかろうと、
この外見はどう見ても明らかに、
↓1年前の2015年9月25日に発売された(当時)最新のiPhone 6s(左)。
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あるいは外見はほぼ同じ、2年前の2014年9月19日に発売されたiPhone 6(右)。
おおお
↑iPhone6/6sは、画面上下のバーが黒い。↓
がめんじょうげ

一方で、2013年に生きる女性主人公が持っているのは、
8874
画面上下のバーが白いので、
2012年9月21日に発売されたiPhone 5か、
めんたむ
この年の9月20日に発売されたばかりの、iPhone 5sと特定できる。
っっっp
もしも5sだったなら、
2013年パートは、9月20日以降、
7698
秋の入口から、秋たけなわな頃の物語ということになる。

スマホの普及には都会にも田舎にも地域差はなく、
ドラマもスマホなしには成立しないだけに、
そこらへんは抜かりなし。

アニメ制作中は、iPhone 7の形状がどうなるかはわからなかったから、
それが登場しない筋立てにするしかなかったのと同様に、
現代から5年後、つまり2021年のスマホはどうなっているかわからないので、
未来パートで男性主人公が電車の中でいじっているスマホは、アップにならない。

アニメならではの特性

「都合の悪いところは描かない」というのは、
たとえば実写の『グラン・トリノ』(2008)なんかでもよくあるが、

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『君の名は。』でも、
男女が入れ替わった初日の戸惑いと混乱を、
互いにどう切り抜けたのかは描かれないし、
たとえば女性主人公が3年未来に飛んだなら、
見覚えのないiPhoneの新機種に驚くはずだが、
そこを描くとネタバレするので、
たくみにスルーされている。

こういう省略は、アニメでも実写でも手法は同じだが、
アニメ独自のやり方に、
「実写の生々しさ」を消すというのがあり、
可愛らしく人好きのする、
美化された絵柄のおかげで、
口噛み酒のくだりなど、
実写ではどうやろうが成立しない場面が、
すんなりとこなされている。

他にも、二人が初めて急接近する、
2013年の場面では、瀧(声:神木隆之介)もまた3年若いため、
三葉(声:上白石萌音)と背丈がほとんど変わらず、顔も幼いが、
なにせアニメなので、作画のブレ程度にしか捉えられない。

作品主導・作家主導

ここまでは、他でも語っている人がいるかも知れないし、
わざわざあちこちを探し回る気もないが、
これから述べることは、
たぶん他では見あたらないと思う。

ジブリ作品の興収を超えたことで、
新海誠監督は、ヒットメーカーとして注目されるようになったが、
ことクリエーターの格としては、
宮崎駿は足下にも及ばない。

なぜなら宮﨑駿はアニメーター上がりであり、
「ナウシカ」でオリジナル劇場作品の初監督となっても、
当初は「ゲド戦記」の映画化を画策するなど、
オリジナル作品にたどりつくまでに何年も要した、
育成型の演出家であるのに対し、
新海誠氏は、当初から脚本家、演出家として出発しているからである。

本来、全ての作品は『君の名は。』のように、
作品主導、作家主導であるべきなのに、
世に氾濫しているのは、企画として外枠から始まり、
最後に監督や脚本家が呼ばれるという、
真逆のプロセスで生まれる「作品もどき」ばかり。

だけど観客はふだんから、「作品もどき」しかあてがわれていないから、
そういうもんだと勘違いしている。

というわけで、21世紀ではじめて、
まともな和製アニメ映画が登場したと感じた次第。

折りしも、『君の名は。』の初回鑑賞となった9月5日(月)には、
夕方から『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』の発表会見があり、
でか
なぜかわからないが、
招待状が来たので、行ってみた。

前作の『宇宙戦艦ヤマト2199』が、
ことごとく作品の成立要件を欠いている欠陥不良品だったのに、
商売的には成功したらしく、
やはり興行的には、
劇場用再編集版『宇宙戦艦ヤマト』(1977)を越えた、
ヤマト
続編の完全劇場用新作『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』(1978)
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の威光にあやかろうと、
会場には相当の人員が動いているのを見るにつけ、
「40年も前の作品に、いつまでたかり続けるつもりなのか」
と、それこそ『君の名は。』の方向性とは真逆の動きにガクゼンとした。

こう書いた以上、
まさか今後も『ヤマト』関係の案内は届くことはないだろうが、
「別にそれはそれでいんじゃないの。せいぜいがんばってくれたまえ」
としか思えない。



そういえば、来2017年2月の限定上映劇場リストに、
シネマサンシャイン池袋
が入っていたので、
本物のIMAXが入る新館か?
と思ったが、
2014年には2017年オープン予定だったのに、
今年の8月9日付の記事では、
2019年に延期されている。
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既存ビルの解体に着手が、
ようやく2016年6月。

……。

そんなこんなで、
基本的には2ヶ月前には書けたことを、
あえて今書いても記事が効力を発揮できるのも、
ひとえに『君の名は。』という作品の真価あればこそと、
感謝の気持ちで、したためたのであった。