アクティブエイジング アンチエイジング -19ページ目

[グルタチオン]

(Wikipedia)


グルタチオンは3つのアミノ酸から成るトリペプチドである。

抗酸化物質の一つであるグルタチオンは、フリーラジカルや過酸化物といった
活性酸素種から細胞を保護する補助的役割を有する。
また、グルタチオンは硫黄部位が求核性を有し、有毒な共役受容体にアタック
する。

グルタチオンは専ら還元型として存在することが知られているが、これは、
酸化的ストレスに曝されると、酸化型を還元型に変換する酵素(グルタチオン
還元酵素)が構造的に活性化され、また誘導されるからである。
事実上、細胞中の還元型グルタチオンと酸化型グルタチオンの比率は、
しばしば細胞毒性の評価指標として科学的に用いられる。

また、グルタチオンは日本薬局方に収載された医薬品であり、また健康や
美容の維持に有用であるとして、サプリメントとして販売されている。



<生理的機能>
グルタチオンの生理的機能は多々あるが、主要な機能は大きく2つに分ける
ことができる。

ひとつは細胞内のチオール環境を維持することである。
チオールは生体内の主要な抗酸化成分である。
グルタチオンは自らのチオール基を用いて過酸化物や活性酸素種を還元して
消去する。
また、タンパク質中のジスルフィド結合を還元して2つのチオール基に戻す。
さらに、グルタチオンは細胞のシステイン源でもあり、システインはチオール
基を含む。

もうひとつの主要な生理機能は、様々な毒物・薬物・伝達物質等を細胞外に
排出することである。
グルタチオンはこれらの物質を、やはりシステイン残基のチオール基に結合
させ(グルタチオン抱合)、自ら細胞外に排出されることで、細胞を解毒
する。
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[食べ物の「コク」、秘密の一端を解明、味の素の研究グループが報告]

(Medエッジ  2015年3月5日)


<コク感じるのは「カルシウム感知受容体」>
シチューのコク、ラーメンのコク、果てはビールのコクなど、コクという味の
表現は日常の言葉の中で随所に見られる。

これまで「コク」とは何かはよく分かっていなかったが、日本企業の味の素が
その全容を明らかにしつつあるようだ。

コクはそれ自体で味はないが他の味を引き出す効果を持つ。
少ない調味料でも味を強められるので、健康な食にも通じる。
食に関わる人にとっては気にしたい味かもしれない。



<コクの正体>
今回のコクの正体については、味の素食品研究所の研究グループが、風味に
関するさまざまな分野の研究を紹介するオープンアクセスのオンライン誌
フレーバー誌で2015年2月23日に報告したものだ。

そもそも味には5種類がある。
甘味、塩味、酸味、苦味、うま味だ。基本5味と言われている。

一方で、食べ物の味を考えてみると、「味の持続性」「ひろがり」「厚み」と
いった基本5味では説明しきれない風味を持つものもある。

研究グループによると、このような風味は、それ自体には味のない風味調整
物質である「コク味物質」を加えることで得られるという。


コク味物質が何であるかは一部ではあるが分かっている。
肝臓などで生成されるペプチド、「グルタチオン」や、昨年8月に厚生
労働省により食品添加物として認可された「グルタミルバリルグリシン」だ。


もっとも、どのようにコク味が感じられるのかはよく分かっていなかった。

研究グループは、アミノ酸とペプチドの味を感じる仕組みを研究する中で、
グルタチオンが「カルシウム感知受容体」に働きかけると発見。
カルシウム感知受容体がコク味物質を感じるために機能していると想定した。


カルシウム感知受容体とは、細胞の表面に存在するものだ。
タンパク質から成り、文字通り細胞の外にあるカルシウムを感じ取っている。



<他の味を引き出す>
研究グループは、さまざまなカルシウム感知受容体を刺激することのできる
物質を調査。
刺激できた物質は、ことごとくコク味物質として働いていると突き止めた。

カルシウム感知受容体が活発に反応するものほど、コク味も強くなるという
結果になった。

さらに、グルタチオンとグルタミルバリルグリシンのコク味の強度が、
カルシウム感知受容体を邪魔する物質を一緒に使うと弱くなると分かった。
カルシウム感知受容体がコク味物質の感知に必要であるというわけだ。

グルタミルバリルグリシンは、甘みにつながるショ糖、塩味につながる
塩化ナトリウムのほか、うま味につながるグルタミン酸ナトリウムと一緒に
なると、それぞれ味を強くすると分かった。

チキンスープを低脂肪クリームに加えると、味の持続性、ひろがり、厚みが
強くなった。
強力なコク味ペプチドを使うことで、食べ物の風味を良くすると考えられる。



<低脂肪な食品もおいしく>
コク味は、食品をより健康にする効果が期待されている。

南デンマーク大学のオール・モウリツェン氏らの研究グループが、BioMed
セントラル誌で2015年1月25日で説明している。

コク味は、ニンニク、タマネギ、ホタテで確認できると紹介した上で、それ
自体は何も味がしないが、他の風味と組み合わせることで基本の風味を高める
効果があると冒頭の通り解説。

29人を対象とした研究で、低脂肪のピーナッツバターにコク味を足すと、
濃い風味、後味、油っこさが高まるという結果を紹介した。


健康を気にする人にとっては、低脂肪の食事を心掛ける必要がある場合も
珍しくない。
味が淡くなりがちだ。
そんなときに、コク味を使うことで、脂肪の量を落としながら、味を強めに
できるわけだ。

コク味をうまく使うことで、おいしくなるのみならず、健康的にもなる可
能性があるわけだ。




http://www.mededge.jp/b/heal/9765

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[世界最古の麻酔のメカニズムとは? うつ病にも効く不思議な笑気ガス]

(Medエッジ  2015年7月16日)


<脳波の変化からうまく使えるか
「笑気ガス」と呼ばれる世界最古の麻酔は、いまだにメカニズムがよく
分かっていない。
麻酔と睡眠とは異なり、一端は脳波から見えてくるところもあるようだ。



<笑気ガスが生み出す脳波>
米国マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究グループが、神経分野の国際誌
クリニカル・ニューロフィジオロジー誌オンライン版で2015年6月10日に
報告している。


亜酸化窒素、いわゆる笑気ガスは1800年代から使われているにも
かかわらず、なぜ効くのかが分かっていなかった。

笑気ガスは、最近ではうつ症状の改善への効果が注目されている。
   (ある気体を吸ったらうつ病が改善、麻酔薬の副作用から発想)
不思議な働きを持つガスと見られている。



<睡眠と麻酔の違い>
医者が麻酔の説明をする際、手っ取り早く「眠らせる」と言う場合がある
ものの、研究グループは睡眠と麻酔は異なると指摘している。

睡眠は、脳内で約90分ごとにレム睡眠とノンレム睡眠を繰り返す、覚醒状態が
低下した状態のこと。
最も深い睡眠中でも目を覚ますことができるのが特徴となる。

一方、麻酔とは、薬剤による元に戻すことの可能な「昏睡状態」と位置づけ
られる。
麻酔中には記憶も痛みもなければ、動くこともできないが、生理学的には
安定した状態になる。
薬の流量が管理されている限り昏睡状態は続き、覚醒した時には時間経過の
感覚がなくなるのが特徴だ。



<笑気ガスが生み出す脳波>
研究グループは、麻酔相当量の亜酸化窒素を吸ってもらって脳波を測る研究を
実施。

脳波の変化を見たところ、笑気を投与してから約3分間、脳の前部に10秒
間隔で強い電気刺激パターン、「高振幅徐デルタ波」と呼ばれる脳波が観察
できた。
この周期は最も深い睡眠の象徴となるもので、いわば睡眠のときの状態が再現
されていることになる。
亜酸化窒素による脳波は、まどろみ状態よりも明らかに強くなっていた。



<負担の少ない麻酔の可能性>
笑気ガスは、より効力の強い「エーテル麻酔」と呼ばれる麻酔を全身から抜く
ときに、無意識状態を維持するために手術の終盤で投与されることもある。
エーテル量を軽くしていくときに一緒に使うこともある。


今回の結果から、研究グループは、麻酔をかけているときの脳の状態を監視
するために脳波を測ると、ベストな麻酔量が決定でき、目を覚ますリスクも
軽くなると見る。

亜酸化窒素が誘発した強力な徐波を安定できれば、負担が少なく、迅速な
回復が見込める麻酔として使われるかもしれないと説明する。




https://www.mededge.jp/a/drge/16107

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[「薬用石けん使用禁止」から1年
              いまだに危険成分が使われるのはこの商品!]

(HEALTH PRESS  2017年8月30日)


昨年9月、FDA(米国食品医薬品局)は、殺菌剤(トリクロサン、トリクロ
カルバンなど19種類)入り抗菌せっけん(日本では「薬用石けん」で販売)の
販売を禁止すると発表しました。
その後、事態は改善しているのでしょうか?


FDAは、販売禁止にする理由を、「消費者は、抗菌成分を含む石けんが細菌の
繁殖を防ぐと思っているかもしれません。しかし、その成分が一般的な
石けんを使った手洗い洗浄よりも、感染予防に優れているという科学的証拠を
われわれは持っていません。とくにトリクロサロンは効果が疑わしいだけで
なく、抗菌成分を長期間にわたり使い続けることで、健康への悪影響を及ぼす
可能性があるとのデータがあります」(FDA医薬品評価研究センターの
ジャネット・ウッドコック所長)と表明しました。
 
FDAの禁止措置を受け、厚生労働省は、FDAが指摘した19成分を使った
薬用石けんについて、メーカーに他の成分に切り替えさせるよう指導しろとの
通知を都道府県に出しました。
 
すでにEUは2015年にトリクロサンの衛生用品への使用を禁止にしています。
米国や日本の対応は少し遅れていますが、厚労省にしてはいつになく素早い
対応といえます。

その大きな理由は、抗菌剤は新たな耐性菌を生み出す危険性があるからです。
米国医師会(AMA)は、すでに2002年に「抗菌剤入りの洗剤を日常的に使う
ことにより、健康被害や耐性菌を生みだす危険性がある」と警告しています。

その危険性が巷に氾濫する抗菌グッズによってさらに高まっているのです。



<汗拭きシート、歯磨き粉、化粧水、シャンプーは野放し>
この7月上旬、近所の大手ドラッグチェーンのクリエイト、マツキヨに
行って、厚生労働省の通達が徹底されているのか売り場をチェックして
みました。
どちらの店でも対象成分の入ったミューズなどの薬用石けんやハンドソープ
類は陳列棚には並んでいませんでした。

しかし、昨年9月のFDA声明、厚労省の通知は薬用石けんに限定された
もので、汗拭きシート、歯磨き粉、化粧水、シャンプーなどの日用品は
対象外になっています。
こうした製品には、切り替え対象の殺菌剤(トリクロサン、トリクロカルバン
など19種類)が依然として使用されています。


とくに、トリクロサンは、経口・皮膚を経由して簡単に体内に浸透する性質が
あります。
ミシガン大学の調査では90人中37人(41%)の尿・血液・鼻水・母乳など
からトリクロサンが検出されています。

母乳からも検出されているということは、母親から子どもの体内にも移動して
しまうのです。

そうした化学物質が薬用せっけん以外の日用品には、未だに使用されているの
です。
日用品購入の際には、十分な注意が必要です。


トリクロサンに替わって、各メーカーが使い出した抗菌・殺菌剤は、塩化
ベンザルコニウムという化学物質ですが、この物質の安全性は不明なまま
です。


健康リスクばかりの抗菌・殺菌剤入の洗浄剤など使わずに、普通のせっけんで
十分に健康的な生活は送れます。
愛する家族を守るには「疑わしきは使用せず」に徹することです。





(郡司和夫:フリージャーナリスト)





http://news.livedoor.com/article/detail/13541410/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[沖縄県におけるフィラリアの撲滅]

(Wikipedia)


沖縄地方がフィラリアの浸淫地であることは、1936年の沖縄県下一斉調査に
より、県民の3分の1が保虫者であることからわかっていた。

しかし、防圧の予算が確保できずそのままになっていた。

戦後初の調査は、1949年に沖縄県宜野座村でおこなわれ、このときの
保虫率は13%であった。


1964年に米国立法院でフィラリア防圧事業案が成立、宮古島より防圧事業が
始まった。
宮古島住民の99%が検査に応じたところ、結果は19%が陽性であり、特効薬
スパトニンの投与でミクロフィラリアは82%消滅した。
2回目は1966年に、3回目は1967年に実施された。


沖縄諸島の日本返還を挟んで、作戦開始から13年後の1978年には、沖縄県
全体で保虫率が0となった。

1988年11月、宮古保健所(現宮古福祉保健所)にフィラリア防圧記念碑が
建てられた。


スパトニンは、クエン酸ジエチルカルバマジン錠で商品名である。
回虫に有効なサントニンの名称の前にスーパーという名前をつけた商品名。

 

 

 

 

 

 

 

 

[歴史上の人物を診る:フィラリア感染による持病があった西郷隆盛]

(朝日新聞  2012年8月10日)
(日本大学医学部病態病理学系微生物学分野教授 早川智先生)


良くも悪くも近代日本の始まりである明治維新の立役者の一人が、西郷隆盛で
あることにはどなたも異存がないと思う。
しかし、彼の生涯は国事に奔走した文久〜慶応の時期と、唯一の陸軍大将と
して軍の頂点に立ち、また参議として旧藩主をも上回る地位につきながら
下野し、最後には城山に自刃する後半生が著しいコントラストをなす。



<外遊しなかった理由>
西郷隆盛(通称吉之助)は、文政10年12月7日(1828年1月23日)薩摩藩の
下級武士・西郷吉兵衛隆盛の長子として加治屋町に生まれた。
正しい諱は隆永であるが、明治維新の時に誤って父の名を届けたためこれが
正式名となった。
文武両道に優れていたが、少年時代に友人たちの喧嘩の仲裁に入って右腕の
腱を斬られ、剣術修行ができなくなり、その分も学問に邁進した。

英明で知られる藩主・島津斉彬に若くして抜擢されるが、その急死により
失脚。
奄美大島、さらには沖永良部島に流される。
しかし、数年を経ずして家老・小松帯刀と、親友大久保利通の後援を受けて
復帰。
抜群の政治力と人望で禁門の変から薩長同盟、王政復古、そして戊辰戦争を
戦い抜いて明治維新を成し遂げる。
特に旧知の勝海舟との降伏交渉で、江戸を火の海から救ったことは有名で
ある。

ただ、政治的偉人としての西郷の活躍はここまでであった。
ともに維新を成し遂げた岩倉使節団の外遊には同行せず、朝鮮との国交回復
問題では征韓論を主張したとして盟友大久保らと対立。

ついには下野して鹿児島に戻り、私学校での教育に専念する。
しかし西南戦争の首魁に祭り上げられ、明治10年(1877年)9月24日
鹿児島市城山で自刃した。


かつて「ロマン主義の高揚と敗北」といった視点でつづられた西郷の行動。
若いころから「ナポレオン殿」「ワシントン殿」と憧れていたフランスや
アメリカ合衆国への渡航を、持病が妨げていたのではないかと、筆者は思う。


肥満以外には生来健康だった西郷だが、フィラリアの感染による陰嚢水腫と
象皮病という厄介な持病があった。
フィラリア症では、蚊によって媒介されたバンクロフト糸状虫の幼虫
ミクロフィラリアが、リンパ管・リンパ節に寄生してリンパ組織を破壊し、
慢性炎症を起こす。
やがて特に下半身の皮下に強い浮腫をきたし、さらには増殖硬化して象の足の
ようになる。

城山での悲劇的な最後の後、首のない遺体を同定できたのは、下半身の変化に
よるという。
感染時期は不明だが、当時の感染状況からして2度目の流罪先だった
沖永良部島の可能性が高い。



<寄生虫に寄生>
フィラリア感染者は全世界で1億,2000万人に達し、ヒトの寄生虫疾患では
マラリアに次ぐ頻度である。
しかし感染者の中で症状が出現するのは10〜20%程度である。
しかもミクロフィラリア血症とリンパ浮腫の発症頻度や症状の程度は相関
しない。

慢性的な持続感染をきたす最大の要因は特異的な免疫寛容で、制御性T細胞の
誘導やIL−10、TGF−βの誘導、IL−17の抑制がかかわる。
さらにリンパ液の脈管外漏出にはVEGFが深く関与する。

興味深いことに、フィラリア感染患者に抗菌薬ドキシサイクリンを投与すると
フィラリア虫体の消失と同時に上昇していたVEGFも低下する。
いかにテトラサイクリン系が広域性とはいえ、真核生物である糸状虫に有効で
あるというのは長く謎であった。


しかし近年、フィラリアにはリケッチアに近縁のWolbachia属の細菌が共生
しており、これが宿主への免疫調節やTLR2を介したVEGF−Cの誘導に必須で
あることが分かった。
寄生現象は、細菌から高等動植物まで自然界でごくごくありふれた現象で
あるが、幕末の偉人の政治姿勢を決めたのが小さな寄生虫であり、さらに
その寄生虫に寄生する微生物が病態を決定していたとは、19世紀に生きた
西郷さんはもとより、20世紀の間は誰しも思いもよらないことだったで
あろう。



(メディカル朝日  2011年11月号掲載)





http://www.asahi.com/health/rekishi/TKY201208100226.html

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    [歴史上の人物を診る  ADHDの可能性がある坂本龍馬]

(朝日新聞  2011年11月20日)



坂本龍馬(1835〜1867年)

 
筆者は整理整頓が下手で自宅も教授室も乱雑を極めている。
本稿の締め切りも含め、約束事は苦手である。
字は汚いし不注意ミスが多く辛抱がない。
子どものころ通信簿には「注意力散漫で落ち着きがない」と書かれ続け、
両親を心配させた。
しかし最近になって、これはもって生まれた性分で、注意欠陥・多動性障害
(ADHD)というものらしいと自覚した。

調べてみるとこの障害を疑われる人物には、レオナルド・ダ・ヴィンチ、
モーツァルト、ヴェルヌ、エジソン、アインシュタイン、ピカソ、ジョン・
レノンなど各界のエポックメーカーがずらりとあげられている。
   (もちろんADHDだから画期的な人物になったわけではない)

そして日本人のこの候補には目下ドラマで人気の坂本龍馬がいる。



<いろいろな活動>
龍馬は1835(天保6)年、土佐藩郷士の次男として生まれた。
生家は祖父の代に郷士株を取得した商家(質屋)で、身分は低いが経済的には
恵まれていた。

しかし、幼年の龍馬は寝小便癖が直らず、泣き虫で勉学もできず、いじめに
あって塾を退学、姉の乙女に学芸を教えてもらっている。

ただ、剣術は得意で14歳より日根野弁治道場に入門し小栗流目録を得たのち、
江戸の千葉定吉道場に入門し、北辰一刀流の目録も得ている。

ペリー率いる黒船が来航し開国を迫る時代の大きな転機にあって、龍馬も
当初は攘夷思想に染まるが、武市半平太以下の「土佐勤王党」とは袂を
分かち、脱藩。

海軍力を持って外国に対抗する必要があると説く幕府軍艦奉行並・勝海舟に
心服し弟子になる。
海舟が神戸に海軍操練所を設立するとその塾頭を任され、操練所廃止後は
長崎に亀山社中(後の海援隊)を設立、薩摩藩名義で銃や蒸気船を調達して
長州に転売し、薩長同盟の基礎を築く。

しかし、龍馬自身は武力倒幕を望まず、大政奉還を柱とした船中八策を
後藤象二郎に提案、これが土佐の藩論となって、最後の将軍徳川慶喜に
大政奉還を認めさせることになる。

そしてその直後、1867(慶応3)年11月15日、京都河原町の近江屋で盟友
中岡慎太郎と共に暗殺される。
享年33。



<不可解さと魅力>
我々のイメージにある龍馬は多分に司馬遼太郎の小説に負うところが大きい。

現実の龍馬を知るには同時代人の回想に加え、本人の手紙が役に立つ。
幸い龍馬には130通を超える手紙が残されている。

初恋の人平井加尾に宛てた「一、高マチ袴、一、ブッサキ羽織、一、
宗十郎頭巾、外に細き大小一腰各々一ツ、御用意あり度存上候」という
勤王(脱藩)の誘いの手紙があるが、もらった当人は何のことか分かったの
だろうか。
姉・乙女や姪・春猪には「エヘンエヘン」など口語交じりの手紙を出す一方、
陸奥宗光や木戸孝允に宛てた手紙は書式を整えており、単純なおっちょこ
ちょいとは思えない(字は汚く誤字も多いが)。

「米国建国の父ワシントンの子孫は今何をしているか判らない」という海舟の
言葉から共和制の本質を直感、理解し、仇敵同士だった薩摩と長州の同盟を
斡旋、大政奉還後には旧徳川将軍家も取り込んだ諸大名による議会内閣を
構想したりと、時代の思想や幕藩体制にとらわれないユニークな発想と
構想力は、高い知能を裏付けるものであろう。

医学的には、優れた剣術家として頑健であり、33歳で横死しているため病気の
記録は少ない。

ただ、剣術では複数の流派で免許皆伝を得るなど過集中の傾向があるのに
対し、学塾は中退、恩師・海舟のとりなしと藩主・山内容堂の赦免にも
かかわらず脱藩を繰り返すなど、組織の秩序には馴染めなかったようである。

また遠慮がなく、人の話を聞かずよく居眠りしていたという同時代人の記録が
あることから、ADHDだった可能性はかなり高い。


日本の歴史を動かした偉人の一人がそうであったとしたら、ADHDを自認する
者にとっても、輝ける希望の星というべき人物である。




(早川 智 日本大学医学部病態病理学系微生物学分野教授)





http://www.asahi.com/health/rekishi/TKY201111190235.html

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[<食の泉>(153)大好きなアイス/昏睡の大学生 劇的回復]

(河北新報  2015年10月29日)


アイスクリームをA君の舌にのせてみた。
するとA君の顔の半分が口になった。笑ったのである!
大きな口を開けてうれしそうに笑った。
確かに笑っていた。

これは4年前の看護週間に、日本看護協会が募集した「忘れられない看護
エピソード」の第1回の最優秀賞作品「最後まであきらめない」の一部です。


昏睡状態で病院に運ばれた大学生のA君は、母親や医療従事者の努力も
むなしく、数カ月もの間、どんな刺激にも、何の反応もない状態が続いて
いました。

そんなある日、一人の看護師が「A君は分かっているのではないかしら」と、
何となく感じたことからの行動だったのです。

意識がない状態のため、何も食べていなかったA君。
大好きなアイスクリームを口にしてどんなにうれしかったことでしょう。

これを境にA君はめきめき回復し、数カ月後には歩けるようにもなり、退院
できたとあります。




(宮城学院女子大教授 石井幹子)





http://www.kahoku.co.jp/special/spe1158/20151029_01.html



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[唇閉じて 歯は噛まない]

(元東京医科歯科大学教授エッセイ)
(読売新聞  2008年3月28日)



寒さも和らぎ、やっと春の気配が見え始めたころ、象牙質知覚過敏と歯の
腫れに悩まされた。
その影響で肩は痛いし、首はこるわで散々だった。
医者の不養生を絵に描いたようで、実に恥ずかしく、しかも情けなかった。
お陰で折角の友人との会食も、女房の手料理もちっとも美味しくなかった。
患者さんの苦しみが改めて理解できた次第である。


今の歯科医療は生物学的アプローチが全盛である。

つまり歯科における2大疾患であるむし歯と歯周病は、いずれも口の中にいる
細菌が関係し、その細菌を駆除、あるいはコントロールできれば、すべて解決
すると考えられている。
だから、口の中の細菌の固まりであるプラーク(歯垢)を除去する、プラーク
コントロールが重要であるとされている。
歯磨き、歯間ブラシ、フロスを使用して徹底的に口の中をきれいにしなさい
と、私自身もこの欄で幾度となく解説してきた。

もちろん、それは間違いではないし、今でも2大疾患の予防の1番の選択肢で
ある。

この生物学的アプローチは、歯科治療が長年行ってきた機械的アプローチへの
反省であり、反動でもある。
むし歯は削って詰めれば治ると信じられていたし、歯が抜けても正確に
削って、精密なブリッジを入れれば、元のように復元すると、歯科医も患者
さんも信じていた時代への反動である。



ところが、長年患者さんを拝見していると、どうもプラークコントロールだけ
では解決しないいくつかの症状があることに気がついた。
プラーク1つないきれいな口なのに、虫歯のように冷たいものや、熱い物に
しみる症状を呈していたり、まるで歯周病のように歯がぐらついていたりする
のである。

こういう症状を呈する患者さんの多くが、働き盛りのサラリーマンで
あったり、受験を控えた子供を持つ主婦であったりする。
こうなれば、心因性ストレスを含めたストレスの影響が大きいことは、容易に
想像できた。
ストレスにより知らず知らずに歯を食いしばり、さらには夜間睡眠中の歯軋り
へと発展していく。
その揚げ句、歯を守る大切なエナメル質が欠けたり、ひびが入ったりして、
下部の象牙質に影響を及ぼして知覚過敏を呈する。
歯が丈夫だと、歯を支えている歯槽骨を壊して、細菌が原因ではない歯周病を
おこす。


日本には古くから、歯を食いしばって頑張りますなんて言葉があるが、歯は
食事で咀嚼するとき以外は噛んではいけないのである。
爪をかじるのも、鉛筆をかじるのももちろんいけない。
歯でビンの栓を抜くなんて冗談でもやってはいけない。
噛みしめる癖のある人たちに、歯科医の中では知る人ぞ知るおまじないが
ある。
「唇閉じて、歯は噛まない」
心当たりのある方は是非実行して頂きたい。





 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[発達障害(6)どの程度困るか 見極めを]


(読売新聞  2017年11月1日)(子どもの健康を考える「子なび」)


今回は、発達障害のもう一つのタイプであるADHD(注意欠如・多動症)に
ついて、主な診断基準を紹介しましょう。

まず、不注意や多動・衝動性の症状が見られること。
不注意というのは、うっかりミスが多いこと。
多動・衝動性は、落ち着きがなく、思いついたら後先考えずにやってしまう
などです。

こうした症状のいくつかが、12歳より前から見られ、様々な場面で生じる。
これらガADHDの「特性」です。
要するに、そそっかしいということです。

加えて、その症状のせいで「対人、学業、職業の機能を妨げたり質を低下
させたりしている明らかな証拠がある」こと。
これは前回の自閉スペクトラム症と同じ。
「生活に支障を来す」ということです。
ADHDの場合も、特性があることに加え、生活に困るということがあって
初めて「ADHD」と診断されるのです。


実はADHDの方が診断は難しい。
なぜかというと、そそっかしい人なんて大勢いるわけです。
先ほどの特性も、誰でも思い当たりますよね。
それによって本人や周囲がどの程度困るか、ということなのです。


典型的なADHDの人のイメージを挙げると、漫画の世界ですが、サザエさんの
弟・磯野カツオ君がそうです。
そそっかしくておっちょこちょい。
でも、「カツオ君はADHDだから、病院に行った方がいいよ」なんて誰も
言いませんよね。
困ってないからです。
もし、そそっかしさがもっと目立つようだと、本人も悩むでしょう。

また、磯野家だからカツオ君も困らないのかもしれません。
お姉さんもそそっかしいので、カツオ君が特別に目立つわけでもありません。

もっと厳格な家庭だったら、カツオ君のそそっかしさを家族が問題視するかも
しれません。
ADHDの診断には、誰がどのように困っているかを見極め、慎重な判断が必要
です。





https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20171101-OYTEW228871/