[ベンゾ系薬物の影響(2)眼瞼けいれん患者の40%、
発症前に神経用剤を連用]
(読売新聞 2016年8月18日)(心療眼科医・若倉雅登のひとりごと)
眼痛、 羞明(しゅうめい)(まぶしさを過剰に感じる)、 霧視(むし)
(霧がかかったように見える)は、ベンゾジアゼピン(以下ベンゾ)系
薬物や、エチゾラム、ゾルピデム(ベンゾ系とは異なる分子構造を持ち
ながらも、薬理作用はほぼ同等)といった類似薬の連用で生じやすいのです。
この事実は、私の臨床経験から発した現在進行中の臨床研究の中間集計に
おいても、まず間違いないところです。
ただ、そのことを多くの眼科医は気づいていませんし、こうした薬物を多く
処方している、内科、精神神経科、神経内科、心療内科(メンタル科)や
整形外科などの医師はほとんど知りません。
このコラムで数回連続して取り上げた、目を開けていることが困難(専門用語
では開瞼困難)な 眼瞼けいれんという病気 でも、眼痛、羞明、霧視といった
感覚過敏症状がほぼ全例に出現します。
この病では、ベンゾ系を含む大脳など神経系に働く薬物の連用が原因の場合が
かなりあることを、私たちは2004年に英国科学誌で発表しています。
それを私はことあるごとに学会などで強調していますので、だんだんと知って
いる眼科医は増えてはきています。
まだ中間集計ですが、私の施設で診ている眼瞼けいれん患者の40%近くもが、
神経用剤を発症以前に連用していることがわかりましたので、薬物性は決して
珍しいものではありません。
眼瞼けいれんにおける感覚過敏症状と、開瞼困難があまりない感覚過敏症状
との境界は明確ではないのですが、私は後者を「ベンゾジアゼピン眼症」と
称することを提唱しはじめております。
ところが、この場合の目のさまざまな症状は、視力や視野検査には影響が
出ず、眼科的診察で、眼球にも症状を説明できるような異常が見つかることは
ありません。
だからでしょうか、眼科医やほかの科の医師も、日常生活に大きな影響を
与える重篤な症状としては認識しにくいようです。
それゆえ、ベンゾ系が関与しているかもしれないと、私から、時には患者自身
から処方している医師に伝えても、反応は必ずしも鋭敏ではありません。
副作用が生死に関わるものや、失明しうる状態になれば、医師も製薬会社も
さすがに真剣になるでしょう。
ところが目が痛い、眩しいなどは、たぶん「背中が 痒い」程度にしか
聞こえないのでしょう。
「目が見えているなら、ほかの 些細なことは我慢せよ」といった感覚の
ようです。
患者本人は、非常に 辛く、生活の質を落とし、心の問題まで出ているのに
です。
自身がそうならないと、症状の重篤さがわからないとは、想像力が乏しすぎる
のではなかろうかと思います。
https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20160815-OYTET50079/