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[ベンゾ系薬物の影響(2)眼瞼けいれん患者の40%、
                       発症前に神経用剤を連用]

(読売新聞  2016年8月18日)(心療眼科医・若倉雅登のひとりごと)


眼痛、 羞明(しゅうめい)(まぶしさを過剰に感じる)、 霧視(むし)
(霧がかかったように見える)は、ベンゾジアゼピン(以下ベンゾ)系
薬物や、エチゾラム、ゾルピデム(ベンゾ系とは異なる分子構造を持ち
ながらも、薬理作用はほぼ同等)といった類似薬の連用で生じやすいのです。

この事実は、私の臨床経験から発した現在進行中の臨床研究の中間集計に
おいても、まず間違いないところです。

ただ、そのことを多くの眼科医は気づいていませんし、こうした薬物を多く
処方している、内科、精神神経科、神経内科、心療内科(メンタル科)や
整形外科などの医師はほとんど知りません。


このコラムで数回連続して取り上げた、目を開けていることが困難(専門用語
では開瞼困難)な 眼瞼けいれんという病気 でも、眼痛、羞明、霧視といった
感覚過敏症状がほぼ全例に出現します。

この病では、ベンゾ系を含む大脳など神経系に働く薬物の連用が原因の場合が
かなりあることを、私たちは2004年に英国科学誌で発表しています。
それを私はことあるごとに学会などで強調していますので、だんだんと知って
いる眼科医は増えてはきています。

まだ中間集計ですが、私の施設で診ている眼瞼けいれん患者の40%近くもが、
神経用剤を発症以前に連用していることがわかりましたので、薬物性は決して
珍しいものではありません。

眼瞼けいれんにおける感覚過敏症状と、開瞼困難があまりない感覚過敏症状
との境界は明確ではないのですが、私は後者を「ベンゾジアゼピン眼症」と
称することを提唱しはじめております。

ところが、この場合の目のさまざまな症状は、視力や視野検査には影響が
出ず、眼科的診察で、眼球にも症状を説明できるような異常が見つかることは
ありません。

だからでしょうか、眼科医やほかの科の医師も、日常生活に大きな影響を
与える重篤な症状としては認識しにくいようです。

それゆえ、ベンゾ系が関与しているかもしれないと、私から、時には患者自身
から処方している医師に伝えても、反応は必ずしも鋭敏ではありません。

副作用が生死に関わるものや、失明しうる状態になれば、医師も製薬会社も
さすがに真剣になるでしょう。

ところが目が痛い、眩しいなどは、たぶん「背中が 痒い」程度にしか
聞こえないのでしょう。
「目が見えているなら、ほかの 些細なことは我慢せよ」といった感覚の
ようです。

患者本人は、非常に 辛く、生活の質を落とし、心の問題まで出ているのに
です。
自身がそうならないと、症状の重篤さがわからないとは、想像力が乏しすぎる
のではなかろうかと思います。




https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20160815-OYTET50079/




 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[ベンゾ系薬物の影響(1)痛み、まぶしさ、かすみ…さまざまな症状]

(読売新聞  2016年8月11日)(心療眼科医・若倉雅登のひとりごと)


ベンゾジアゼピン(以下ベンゾ)系の薬物と、ほぼ同等の作用を持つ類似薬は
睡眠導入薬、安定剤、抗てんかん薬などとして日本の医療界でも大量に
用いられています。

その歴史は50年を超えますが、依存性や、耐性が生じることや、減薬、断薬
しようとすると症状が一層重篤化して治りにくくなったり、新たな好ましく
ない症状が出現したりする離脱症候群について、世界の医師がしっかりした
認識を持つようになるには、かなり時間がかかりました。 

1992年に英国で、ベンゾの依存性や離脱症候群について医師たちに警告を
与えなかった製薬企業に対し、これを処方されている1万4千人による
集団訴訟が起こされています。

これに引き続く形で、2002年、ニューカッスル大学のH.アシュトン
教授が、「アシュトンマニュアル」と呼ばれるベンゾ系薬物の作用や減薬の
手順をまとめたものを発表して以来、とくに欧米でのベンゾの依存性や耐性に
対する認識が深まりました。

それ以降、欧米では、的確な薬剤が決まるまでの一時しのぎ、あるいは症状が
出た時に、一時避難的に用いる頓用薬として利用する薬剤として定着して
います。


ところが日本では1998年の時点で、ベンゾ系抗不安薬の処方件数は米国の
6倍、英国の20倍以上にも及ぶ状態で、「軽い薬だから一生飲んでも大丈夫」
といった使われ方をしていたのでした。

そして、欧米と違ってそうした使われ方は続き、ついに2010年、国際麻薬
統制委員会が日本のベンゾ系薬物の乱用を「警告」することになった事実は、
2015年12月24日のコラム で取り上げた通りです。

にもかかわらず、日本でのベンゾ系薬物の処方は現在でもほとんど減らず、
類似薬を含めると1500億円近い市場を形成していると思われます。


患者が、こういう事実を知って減薬したいという意思を示す例も出て
きました。
ただ、担当医が同意しないことも少なからずありますし、仮に同意したと
しても、上手な減薬方法を指導できる医師は少ないように思われます。


私は、ベンゾ系薬物または類似薬の連用が、ヒトの視覚を快適に利用するのを
邪魔するさまざまな症状を出現させていることに数年前から気づき、データを
集積しております。

さまざまな症状とは、前々回、前回にも触れた、治りにくい目の痛み、
羞明(しゅうめい)(まぶしさ)、霧視(かすみ)といったものです。

その詳細は今年11月に宮崎市で開催される第54回日本神経眼科学会の特別
講演の中で、「ベンゾジアゼピン眼症」として発表すべく準備をしている
ところです。


現時点では、こうした目のさまざまな症状が出現していることを、ベンゾ系
薬物を処方している医師に告げても、必ずしも望ましい対応がなされない
こともあります。
なぜそうなるのか、次回以降考えてみたいと思います。




https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20160808-OYTET50065/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[日本の出生年別のピロリ菌感染率~17万人のメタ解析]

(ケアネット  2017年11月30日)


一般集団におけるH. pylori感染率(有病率)のトレンドの変化が、日本での
胃がん死亡率の低下をもたらした主な要因と考えられている。

そこで、愛知医科大学のChaochen Wang氏らは、H. pylori感染率それ自体が
出生コホートパターンを示すかどうかを確認するために、日本人のH. pylori
感染率を報告した研究の系統的レビューを行い、17万752人のメタ回帰分析を
実施した。

Scientific reports誌2017年11月14日号に掲載。


著者らは、出生年の関数としてのH. pylori感染率の異質性を説明するために、
一般化加法混合モデル(GAMM)の枠組みで重回帰分析を行った。

その結果、H. pylori感染率の明らかな出生コホートパターンが確認された。
出生年別に予測されたH. pylori感染率(95%CI)は、
  1910年60.9%(56.3~65.4)
  1920年65.9%(63.9~67.9)
  1930年67.4%(66.0~68.7)
  1940年64.1%(63.1~65.1)
  1950年59.1%(58.2~60.0)
  1960年49.1%(49.0~49.2)
  1970年34.9%(34.0~35.8)
  1980年24.6%(23.5~25.8)
  1990年15.6%(14.0~17.3)
  2000年6.6%(4.8~8.9)
で、1998年以降に生まれた直近のコホートでは感染率は10%以下であった。




(ケアネット 金沢 浩子)




http://www.carenet.com/news/general/carenet/45065?utm_source=m1&utm_medium=email&utm_campaign=2017112600

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[常識とは逆だった"お腹が弱い人"の食事法]

 (プレジデントオンライン 2017年11月21日)

(江田証・江田クリニック院長)



病院では「異常がない」といわれるのに、下痢、便秘、おなかのゴロゴロ、
張り、痛みで悩んでいる人に朗報だ。
投薬や手術をせず、特定の食品を避けるだけで症状を改善する「低FODMAP
(フォドマップ)食」という食事法が世界中で注目されている。
どんな食事法なのか。消化器内科医の江田証医師が解説する――。



<あなたも過敏性腸症候群かも>
「納豆、キムチなどの発酵食品は腸をよくする」「アスパラガス、ネギ、豆、
ゴボウなどの食物繊維を取る」「オリゴ糖が入った特定保健用食品を利用する
のがいい」……。
腸の調子を整えるとして、さまざまな情報が流れています。
それらをまめに実行しているのに症状が改善しない。
そんな状況に心当たりがあるのなら、次の3項目をチェックしてみて
ください。

過去3カ月間、月に3日以上、腹痛やおなかの不快感が繰り返し起こり、
 (1)排便すると、痛みや不快な状況がやわらぐ
 (2)おなかが痛い時、便(便秘、下痢)の回数が増減する
 (3)おなかが痛かったり不快な時、便の形(外観)が硬くなったり
      水のようになる。

3つのうち2つ以上が当てはまるなら、「過敏性腸症候群」の疑いがありそう
です。

過敏性腸症候群とは、大腸内視鏡などの検査をしても異常が認められない
のにもかかわらず、下痢、腹痛などさまざまな腸の症状に悩まされる疾患
です。
消化器科受診者の31%がこの過敏性腸症候群で、わが国の全人口の14%、
実に1775万人が該当すると考えられています。
満員電車や、重要なプレゼンテーションなどプレッシャーがかかる大一番で、
胃腸の調子を崩すのも過敏性腸症候群にみられる症状のひとつです。


過敏性腸症候群は、長く科学的根拠をもった食事法がありませんでしたが、
2014年にオーストラリアの医師が、糖質摂取を制限する「低FODMAP
(フォドマップ)食」について、世界的に権威の高い医学誌に論文を発表し、
世界中で大きな話題となりました。

この論文は、オーストラリアの医師ハルモスらが、30人の過敏性腸症候群の
患者と8人の健常者を対象に行った実験の結果です。
それぞれランダムに「低フォドマップ食」と一般的な食事に分けて、21日間
1日3食ずつ食事を提供し、最後の7日間の便の状態を調べました。
その結果、過敏性腸症候群で低フォドマップ食だった人のうち、下痢型・
便秘型ともに腹痛や膨満感などの腹部症状が改善し、特に下痢型の人は便の
状態も改善しました。

この論文は、世界で初めて一定の食事法の科学的根拠を明らかにしたという
点で、とても画期的なものです。
その後、多くのメタアナリシス研究でも過敏性腸症候群患者における
低FODMAP食の有効性が証明されています。


実際に私も、過敏性腸症候群の患者さんに低フォドマップ食を指導して
いますが、約75%の人に効果が現れています。
「途中下車症候群」で悩んでいたビジネスマンからは、「おなかの調子が整い
仕事が効率的になって、上司の評価が上がりました」と報告を受け、自分の
ことのようにうれしくなってしまいました。


外見からはわかりませんが、腸にも人それぞれ個性があります。
ですから腸の悩みを抱えている人とそうでない人では、口にしていい食品や
その摂取量が異なるのです。
腸の悩みを抱える人が、「腸の調子を整える」とうたわれている食品を
食べると、効果がないばかりか、逆効果となることさえあります。



<腸のトラブルを引き起こす糖質たち>
それでは、どんな食べ物を避けるべきなのでしょうか。
フォドマップとは、「FODMAP」のうち「F」と「A」を除いた「ODMP」の
4文字から始まる発酵性の糖質を指しています。

糖質の名称と代表的な食材は以下の通りです。
F(fermentable 発酵性)の以下の4つの糖質
 O(oligosaccharides オリゴ糖:ガラクトオリゴ糖とフルクタン)
     レンズ豆などの豆類、小麦、玉ねぎなど
 D(disaccharides 二糖類:二糖類に含まれる乳糖、ラクトース)
     牛乳、ヨーグルトなど
 M(monosaccharides 単糖類:フルクトース)
     果実、蜂蜜など
A(and)
 P(polyols ポリオール)
     マッシュルーム、人工甘味料(キシリトールなど)など


過敏性腸症候群のみならず、日々ガスやおなかの張りに悩んでいる人、
潰瘍性大腸炎やクローン病、大腸憩室、逆流性食道炎の症状にも効果的が
みられます。


食べ物は、口から入って食道、胃、十二指腸、小腸へと運ばれます。
腸に不調を抱える人にとって糖質は厄介な栄養素で、小腸に入ると「吸収
できるもの」と「吸収が悪く問題を起こすもの」とに大きく分かれます。
このうち問題を起こすのが、フォドマップなのです。


過敏性腸症候群の人は、フォドマップを消化・吸収しづらく、大量に摂取
すると小腸内で濃度が上がるため、それを薄めようとして血管内から小腸内へ
大量に水分が送りこまれます。
その結果、小腸は「水浸し」状態となるのです。
水によって腸が刺激され、運動が過剰になり、おなかのゴロゴロや張り、
下痢などが生じます。


小腸で吸収されなかったフォドマップは、吸収されないまま大腸に進みます。
大腸のなかでは腸内細菌たちが小腸で吸収されなかったフォドマップを
エサとして、待ち構えています。
フォドマップは大腸の腸内細菌のファーストフードになり急速に発酵が
進みます。
この結果、大腸内で過剰な発酵を起こし、そのガスでおなかがパンパンに
張るのです。

過敏性腸症候群の人の腸内細菌は、無症状の人の腸内細菌と種類が異なり、
過剰な短鎖脂肪酸を発生し、短鎖脂肪酸が過剰な人ほど過敏性腸症候群の
症状が強いことがわかりました。

低フォドマップ食はこういったことを引き起こす4つの糖質の過剰摂取を
押さえ、腸の健康を守る食事法です。


フォドマップの含まれる食べ物は複数ありますが、どの食品があわないかは
一つひとつ自分の身体に聴いて確かめていくことになります。

まずは3週間フォドマップの摂取を完全に中止。
するとおなかのいろいろなノイズが収まります。
腸が静かになったところで、1週間に1種類ずつ4つの糖質を再開して
いきます。
調子を悪くする糖質を含んでいると、おなかが過剰に反応するため、自分に
あっていない食品がはっきりわかるはずです。
全部の高フォドマップ食品がずっと食べられないわけではないことに注意して
ください。
高フォドマップ食でも食べられるものがあるのです。

「傾聴」ということばにちなんで、私は「傾腸」を提唱しています。
これは自分の腸の声をしっかりキャッチし、それに従うことです。
自分の腸がどんな食べ物で調子を崩すかは、自らが腸と対話しながら実際に
試さなければわかりません。



<腸は栄養分と水分を吸収する根>
人間の体を樹木に例えるなら、腸は土の中に強く広く張って栄養分や水分を
吸収する根です。
だから腸は人の健康の根本にあるものだといえます。

現代医学は、「血糖値が高くなったら、薬で下げる」といった即効的な治療を
得意とします。

しかし、単に症状に対して治療するのではなく、病気の根本を正し、
あらかじめ発症を防ぐ「予防医療」の取り組みが重要ではないでしょうか。

たとえば血糖値は腸の調子を整えることでも下がることがわかっています。
ほかにも、高血圧、動脈硬化、アレルギー、肥満、自閉症、肝臓がん、倦怠感
などにも腸の調子が関係しているとみられています。
さらには、パーキンソン病の患者の多くが便秘になることから、パーキンソン
病は腸内細菌の出す毒素が発症の原因ではないか、という研究も進んでいる
ほどです。

だれしも腸の不調はあるもの。下痢や便秘で悩むことがあっても、長引か
なければ気にすることはありません。
日々の生活で腸の不調を感じない方は、糖質制限を意識しなくても大丈夫。

ただ、体にいいものでも取り過ぎは腸のバランスを崩します。
それに、腸も年齢に応じて変化しますので、折をみて食生活を見直すことを
お勧めします。


現代では、小腸で吸収されにくい糖質を含む食品が非常に多くなっています。
ただ、欧米では大手食品メーカーが低フォドマップ食品を開発し発売を開始
する動きも見られています。
情報に惑わされることなく、「傾腸」でご自身と向かい合いながら、病気を
根本から対処する食事法を手に入れていただきたいと思います。





(江田クリニック院長 江田 証   取材・構成=大熊文子)






http://news.livedoor.com/article/detail/13920041/



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[食事に含まれる不飽和脂肪酸が潰瘍性大腸炎に関連]

(HealthDay News  2009年7月23日)


潰瘍性大腸炎の全症例の推定30%は、一般的な多価不飽和脂肪酸である
リノール酸の過剰摂取が原因である可能性が、新しい研究によって示された。


英イースト・アングリアEast Anglia大学のAndrew R. Hart氏らの研究の
結果、リノール酸摂取が最も多かった被験者では最も少なかった被験者に
比べて、疼痛を有する腸の炎症および水疱形成が2倍以上認められた。

リノール酸は、赤身肉や一部の食用油、マーガリンなどに含まれる。


ただし、オメガ-3脂肪酸を多量に消費すると、潰瘍性大腸炎の発現リスクが
4分の3以上低減した。
サケやサバのような脂肪分の多い魚、アマニ(亜麻仁)、特定の乳製品は、
ドコサヘキサエン酸としても知られるオメガ-3を豊富に含む。

研究結果は、医学誌「Gut(腸)」オンライン版に7月23日掲載された。


欧州5カ国20万人以上の食習慣を検討した今回の研究では、潰瘍性大腸炎は
男女とも平均60歳で、ほぼ同様に発症することが示された。
データ分析では、喫煙、年齢、カロリー摂取、アスピリン使用など他の
考えられる条件を考慮に入れた。


リノール酸は体内でアラキドン酸に変化する。
アラキドン酸は腸内細胞膜の成分であり、その後、組織に炎症を引き起こす
さまざまな化学物質になる。
潰瘍性大腸炎患者では、腸の組織内にこれらの化学物質が高濃度でみられる。
慢性症状である潰瘍性大腸炎があると、大腸癌の発現リスクが高まる。




http://www.healthdayjapan.com/



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[農場で過ごすことが小児の炎症性腸疾患の予防に]

(HealthDay News  2007年8月6日)


乳児期に定期的に農場で過ごした小児は、潰瘍性大腸炎やクローン病などの
炎症性腸疾患(IBD)を発症するリスクが通常の約半分であることが、
ドイツ、ミュンヘン大学の研究により示された。
この知見は、細菌への曝露が少ない環境で過ごすとアレルギーの発症リスクが
高くなるという「衛生仮説」にも一致するものだと、研究を率いたKatja
Radon氏は述べている。


今回の研究は、潰瘍性大腸炎患児300人強、クローン病患児444人、どちらの
疾患ももたない健常児約1,500人の、計2,200人強の小児(6〜18歳)の親に
問診を行ったもの。
その結果、IBDの患児は発症前に農場で過ごした経験をもつ確率が低いことが
わかったほか、1歳までに一定期間を農場で過ごしていた小児は、そうでない
小児に比べ後のクローン病発症率が50%、潰瘍性大腸炎発症率が60%低い
ことが明らかになった。

特に幼児期のウシとの接触が有効であると思われ、クローン病では60%、
大腸炎では70%の減少がみられたという。

アレルギー専門医や免疫学者の間ではペットのイヌやネコへの曝露に着目した
研究が実施されているが、IBDリスクの軽減についてはイヌやネコよりウシの
方が高い効果をもつ可能性が示された。
ペットよりも農場の家畜の方が細菌類や真菌類への曝露が大きいため、
リスク軽減の効果も高いと思われるとRadon氏は述べている。

しかし、自己免疫疾患から守るために、子どもを農場に連れて行き地面の上を
転げ回らせる必要があるとは、必ずしもいえないという。

Radon氏も、今回の研究では因果関係までは示されていない点を認めており、
衛生面の向上が先進国の健康に貢献してきたことも忘れてはならないと指摘
している。

しかし、何がこの予防効果をもたらしているのかを特定できれば、IBDの
優れた治療法につながるだろうと専門家は述べている。






http://www.healthdayjapan.com/





 

 

 

 

 

 

 

[こんなにも面白い医学の世界 第11回 虫垂は無用の長物か?]

(レジデントノート  2015年8月号掲載)


虫垂はそれ自体生理機能がなく、退化した痕跡の臓器といわれてきました。
外科医はかつて虫垂を切除することにあまり抵抗を感じずに、開腹した
ついでに虫垂炎の予防のためといって異常のない虫垂を切除した例もあった
そうです。
ところが、最近、この虫垂の働きが意外にもとても重要であることがわかって
きました。


抗菌薬で正常な腸内細菌叢が破壊され、かわりにクロストリジウムなどの
毒性が高い細菌が増殖する偽膜性腸炎については第9回(「他人の便で
治療?」)で触れましたが、虫垂を切除した患者さんには、この偽膜性腸炎の
頻度が、切除していない患者さんに比べて高いという報告があります。

この事実から、虫垂が善玉の腸内細菌の住処になっていて、虫垂は腸内細菌の
バランスが崩れたときに、正常腸内細菌嚢に戻すリザーバーの役目をして
いると考えられました。
大阪大学の研究チームは、マウスに虫垂切除を行うことにより大腸の腸内
細菌叢のバランスが崩れることを明らかにしました。

同時に、腸内細菌叢を維持し腸管免疫で重要な働きを担うIgAという抗体に
ついて調べてみると、虫垂がないマウスでは大腸のIgAが減少したことから、
虫垂にあるリンパ組織が大腸に動員されるIgA陽性細胞を産生する場である
ことがわかりました。


一方で、虫垂切除を行った後に潰瘍性大腸炎が改善した患者さんの報告が
あり、虫垂は潰瘍性大腸炎の元凶で、虫垂では悪玉の細菌が育つのだという
相反する意見もあります。

CD4/CD69という表面抗原をもつリンパ球は、活性化することで免疫担当
細胞間の反応亢進による炎症の悪循環を惹起し、潰瘍性大腸炎を悪化させるの
ですが、潰瘍性大腸炎の患者さんの虫垂にはこの種類のリンパ球が多いことが
わかっています。


ただし、実際の臨床では虫垂切除と偽膜性腸炎は関係なかったという報告も
あり、虫垂の善悪についてはいまだ決着はみていないことを付け加えておき
ます。


それにしても、最も基本的な外科手術である虫垂切除術は、これまでの医学の
歴史のなかで膨大な数が行われていたはずです。
その虫垂の役割が、ようやく今になって解明されはじめていることに、医学の
深さと驚きを感じますね。





https://www.yodosha.co.jp/rnote/trivia/trivia_9784758115544.html

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[<食の泉>ご飯が大好き/「甘み」ウイルスに起因]

(河北新報  2016年02月16日)


ご飯をよくかんで食べると甘くなります。
ご飯のでんぷんが、アミラーゼという酵素により、麦芽糖という糖に分解
されるためです。

アミラーゼは唾液以外に膵臓から分泌される膵液にも含まれていて、ご飯を
消化してくれます。

アミラーゼを作るための遺伝子は、ヒトの染色体で一番長い第1染色体
中ほどの5カ所に並んでいて、前2カ所が膵液に、後3カ所が唾液に分泌する
ために使われます。
唾液に混ぜるのか、膵液に混ぜるのかは、アミラーゼ遺伝子のスイッチ部分に
依存しています。


ヒトの遺伝子を調べるうちに、唾液用アミラーゼ遺伝子のスイッチ部分に
ウイルスの遺伝子が入っているのが見つかりました。
人類の祖先が何らかのウイルスに感染した結果、そのウイルスの遺伝子が
ちゃっかりと5カ所のアミラーゼ遺伝子の間に割って入ったため、そのうち
3個の遺伝子が唾液腺でスイッチが入るようになったようです。
ご飯を甘く感じるのは、私たちの祖先にウイルス感染の経験があったからの
ようです。




(宮城学院女子大教授 矢内信昭=細胞生物学)





http://www.kahoku.co.jp/special/spe1158/20160216_01.html

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[「根元の虫歯 高齢者はご用心」 元東京医科歯科大学臨床教授エッセイ] 

(読売新聞 2008年8月15日)


日本は世界一の長寿国である。
そればかりか、健康で自立した生活ができる健康寿命も1番だという。
観光地に出かけると、元気で活発な高齢者の方を数多く見かける。

私のクリニックにも、義歯が合わない、歯がぐらぐらしているなどの患者
さんの他に、前歯6本を見栄えよくして欲しいとか、全体的に歯を白くして
くれなどと、今までではあまり経験しなかった、まさに元気を地で行く
高齢者の方も多く来院する。
それも、私よりはるかに先輩の、いうならば後期高齢者とでも言うべき方々で
ある。
時代は変わったものだ。


元気な高齢期を過ごすために歯が大切なことはもちろんだが、高齢になったら
今までとはちょっと違うタイプのむし歯への注意が必要である。
「根面う蝕(こんめんうしょく)」と呼ばれるもので、歯の根の部分に出来る
虫歯のことである。
これが最近では結構問題になっている。

虫歯が減り、歯周病に対しても治療法が進んだお陰で、高齢になっても歯を
失わない人が増えてきた。
それはそれで素晴らしいことだが、いかに歯周病対策が進んだといっても、
程度の差こそあれ年齢と共に歯周病も少しずつは進行していく。
その結果、歯茎が下がって、普段は隠れて見えない根の部分が露出してくる。
皆さんがよく言う、歯が長くなってきた状態だ。

ここには、歯を外敵から守ってくれるエナメル質という鎧がない。
むき出しになった根の部分はエナメル質に比べて軟らかいため、虫歯になり
易く、しかも進行が早い。

歯磨きが難しい場所で、高齢者になると唾液の分泌が少なくなることも、問題を大きくしている。

歯茎の下に隠れたままむし歯になることも多く、なかなか自分では確認で
きず、歯周病の治療で歯茎が引き締まってきて、はじめてその存在が分かる
なんてこともある。
歯科医側から言わせれば、治療処置が難しいので十分な成果が期待できない
のも問題である。


そんな訳で、高齢になって、節制の甲斐もあって多くの歯を残せたら、今度は
根面う蝕に要注意だ。
予防が難しいといっても、虫歯であることには変わりはないから、食生活を
はじめとした正しい生活習慣を守り、虫歯を引き起こす細菌の塊(プラーク)
をきちんと除去することを心がける。
そのためには、歯間ブラシやデンタルフロスなどの歯間清掃用具は不可欠だ。
あとは半年に1度、歯科医院に行って定期健診と徹底したクリーニングを
受けることが大切だ。


豊かな高齢期を、さらに元気に!
なに?
あまり元気だと周りからうるさがられる?
まあ、それもありますけれどね。





http://www.yomiuri.co.jp/iryou/medi/karadaessay/20080815-OYT8T00403.htm

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[夜行性から昼行性に完全移行した初の哺乳類は霊長類 恐竜絶滅後 研究]


(AFPBB News  2017年11月7日)(発信地:パリ/フランス)


【11月7日 AFP】
最初期の哺乳類は夜行性動物で、昼間の世界を支配していた恐竜の絶滅後に
初めて日中に活動する哺乳類が登場し、完全な昼行性に移行した最初の
哺乳類は霊長類の祖先だったとする研究論文が6日、発表された。

この説は、現代の哺乳類の中で日中に活動する「昼行性」の哺乳類が比較的
少ない理由や、大半が夜間に活動するのに適した目や耳をいまだに持っている
理由などを説明していると考えられる。


米科学誌「ネイチャー・エコロジー・アンド・エボリューション」に掲載
された論文の共同執筆者で、イスラエル・テルアビブ大学のロイ・マオール
氏はAFPの取材に、「現代の哺乳類の大半は夜行性で、暗闇の環境で生き
延びるための適応性を持っている」と語る。

「サルと(人間を含む)霊長類は、鳥類や爬虫類など他の昼行性動物と同類の
目を進化させた唯一の昼行性哺乳類だ。(だが)他の昼行性哺乳類はこれほど
高度な適応性を発達させていない」


恐竜から数千万年逃れ続けたことが原因で、人間を含む哺乳類の進化に
「夜行性のボトルネック効果(生物の個体数の減少に伴い、遺伝子の多様性が
失われ、特定の遺伝子が集団内で広まること)」が生じたとする説は長年
支持されているが、マオール氏と研究チームの論文は、この説を裏付ける
ものとなっている。

古代の哺乳類は食べ物や縄張りをめぐる恐竜との競争や恐竜から捕食される
危険性をおそらく回避するために長い間、暗闇に身を隠していたため、現代の
哺乳類の日中の視覚は魚類、爬虫類、鳥類などに大きく劣っている。


多くの魚類、爬虫類、鳥類の目の網膜にある中心窩には、明るい光の中で色を
認識するための光受容器「錐体」細胞が高密度で存在する。

一方、霊長類を除く哺乳類の網膜には中心窩がない代わりに、薄暗い状況で
わずかな光を捕捉できる「桿体」細胞が多い。
しかし、桿体細胞で得られる解像度は比較的低い。


また、主に昼間に活動する現代の哺乳類──ある種のリス、ツパイ、
アンテロープ(レイヨウ)の一部と多くの肉食性動物──には、夜間に生活
するために必要な特性である嗅覚と聴覚がいまだに鋭敏な傾向がみられる。



<霊長類が他の哺乳類より昼間の生活への適応力が高い理由>
マオール氏と研究チームは現存する哺乳類2415種を対象として行動様式を
分析。
コンピューターアルゴリズムを使用して、進化系統をさかのぼった最初期の
哺乳類に至るまでの祖先が取っていたとみられる行動パターンを再構成した。

論文によると、最初期の哺乳類の祖先が出現したのは2億2000万~
1億6000万年前で、爬虫類の祖先から分かれて進化した。
哺乳類の祖先はその頃から夜行性だったとみられるのに対し、恐竜は
昼行性で、現代の爬虫類のように体を温めるために日光を必要としていた
可能性が高い。

今回の分析データは、哺乳類が中生代末まで夜行性のままだったことを示して
いる。

今から約6600万年前の中生代の終わりに小惑星衝突とみられる大規模災害が
発生し、恐竜と地球上の生命の約4分の3が死滅した。

一方、当時は大部分が小型で足の速い動物だった哺乳類は生き延び、繁栄
した。
大半は夜行性のままで、一部が昼行性に移行したが、それ以外にも両方の
性質を少しずつ併せ持つようになった現代のネコ、ゾウ、ウシなどの哺乳類
動物もいる。


研究チームの調査によると、霊長類の祖先は完全な昼行性に移行した最初の
哺乳類の一種で、移行時期は約5200万年も前だったとされる。
つまり、人間を含む霊長類が哺乳類の他の種より他の昼間の生活様式により
適応しているのは、進化と適応に費やす時間がより長かったことが原因として
考えられる。


夜から昼への移行が起きた理由については不明だが、初期哺乳類に対する
「捕食リスクの減少」がその理由の1つだった可能性があると、マオール氏は
指摘している。





http://www.afpbb.com/articles/-/3149581