[世界最古の麻酔のメカニズムとは? うつ病にも効く不思議な笑気ガス]
(Medエッジ 2015年7月16日)
<脳波の変化からうまく使えるか
「笑気ガス」と呼ばれる世界最古の麻酔は、いまだにメカニズムがよく
分かっていない。
麻酔と睡眠とは異なり、一端は脳波から見えてくるところもあるようだ。
<笑気ガスが生み出す脳波>
米国マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究グループが、神経分野の国際誌
クリニカル・ニューロフィジオロジー誌オンライン版で2015年6月10日に
報告している。
亜酸化窒素、いわゆる笑気ガスは1800年代から使われているにも
かかわらず、なぜ効くのかが分かっていなかった。
笑気ガスは、最近ではうつ症状の改善への効果が注目されている。
(ある気体を吸ったらうつ病が改善、麻酔薬の副作用から発想)
不思議な働きを持つガスと見られている。
<睡眠と麻酔の違い>
医者が麻酔の説明をする際、手っ取り早く「眠らせる」と言う場合がある
ものの、研究グループは睡眠と麻酔は異なると指摘している。
睡眠は、脳内で約90分ごとにレム睡眠とノンレム睡眠を繰り返す、覚醒状態が
低下した状態のこと。
最も深い睡眠中でも目を覚ますことができるのが特徴となる。
一方、麻酔とは、薬剤による元に戻すことの可能な「昏睡状態」と位置づけ
られる。
麻酔中には記憶も痛みもなければ、動くこともできないが、生理学的には
安定した状態になる。
薬の流量が管理されている限り昏睡状態は続き、覚醒した時には時間経過の
感覚がなくなるのが特徴だ。
<笑気ガスが生み出す脳波>
研究グループは、麻酔相当量の亜酸化窒素を吸ってもらって脳波を測る研究を
実施。
脳波の変化を見たところ、笑気を投与してから約3分間、脳の前部に10秒
間隔で強い電気刺激パターン、「高振幅徐デルタ波」と呼ばれる脳波が観察
できた。
この周期は最も深い睡眠の象徴となるもので、いわば睡眠のときの状態が再現
されていることになる。
亜酸化窒素による脳波は、まどろみ状態よりも明らかに強くなっていた。
<負担の少ない麻酔の可能性>
笑気ガスは、より効力の強い「エーテル麻酔」と呼ばれる麻酔を全身から抜く
ときに、無意識状態を維持するために手術の終盤で投与されることもある。
エーテル量を軽くしていくときに一緒に使うこともある。
今回の結果から、研究グループは、麻酔をかけているときの脳の状態を監視
するために脳波を測ると、ベストな麻酔量が決定でき、目を覚ますリスクも
軽くなると見る。
亜酸化窒素が誘発した強力な徐波を安定できれば、負担が少なく、迅速な
回復が見込める麻酔として使われるかもしれないと説明する。
https://www.mededge.jp/a/drge/16107