[食べ物の「コク」、秘密の一端を解明、味の素の研究グループが報告]
(Medエッジ 2015年3月5日)
<コク感じるのは「カルシウム感知受容体」>
シチューのコク、ラーメンのコク、果てはビールのコクなど、コクという味の
表現は日常の言葉の中で随所に見られる。
これまで「コク」とは何かはよく分かっていなかったが、日本企業の味の素が
その全容を明らかにしつつあるようだ。
コクはそれ自体で味はないが他の味を引き出す効果を持つ。
少ない調味料でも味を強められるので、健康な食にも通じる。
食に関わる人にとっては気にしたい味かもしれない。
<コクの正体>
今回のコクの正体については、味の素食品研究所の研究グループが、風味に
関するさまざまな分野の研究を紹介するオープンアクセスのオンライン誌
フレーバー誌で2015年2月23日に報告したものだ。
そもそも味には5種類がある。
甘味、塩味、酸味、苦味、うま味だ。基本5味と言われている。
一方で、食べ物の味を考えてみると、「味の持続性」「ひろがり」「厚み」と
いった基本5味では説明しきれない風味を持つものもある。
研究グループによると、このような風味は、それ自体には味のない風味調整
物質である「コク味物質」を加えることで得られるという。
コク味物質が何であるかは一部ではあるが分かっている。
肝臓などで生成されるペプチド、「グルタチオン」や、昨年8月に厚生
労働省により食品添加物として認可された「グルタミルバリルグリシン」だ。
もっとも、どのようにコク味が感じられるのかはよく分かっていなかった。
研究グループは、アミノ酸とペプチドの味を感じる仕組みを研究する中で、
グルタチオンが「カルシウム感知受容体」に働きかけると発見。
カルシウム感知受容体がコク味物質を感じるために機能していると想定した。
カルシウム感知受容体とは、細胞の表面に存在するものだ。
タンパク質から成り、文字通り細胞の外にあるカルシウムを感じ取っている。
<他の味を引き出す>
研究グループは、さまざまなカルシウム感知受容体を刺激することのできる
物質を調査。
刺激できた物質は、ことごとくコク味物質として働いていると突き止めた。
カルシウム感知受容体が活発に反応するものほど、コク味も強くなるという
結果になった。
さらに、グルタチオンとグルタミルバリルグリシンのコク味の強度が、
カルシウム感知受容体を邪魔する物質を一緒に使うと弱くなると分かった。
カルシウム感知受容体がコク味物質の感知に必要であるというわけだ。
グルタミルバリルグリシンは、甘みにつながるショ糖、塩味につながる
塩化ナトリウムのほか、うま味につながるグルタミン酸ナトリウムと一緒に
なると、それぞれ味を強くすると分かった。
チキンスープを低脂肪クリームに加えると、味の持続性、ひろがり、厚みが
強くなった。
強力なコク味ペプチドを使うことで、食べ物の風味を良くすると考えられる。
<低脂肪な食品もおいしく>
コク味は、食品をより健康にする効果が期待されている。
南デンマーク大学のオール・モウリツェン氏らの研究グループが、BioMed
セントラル誌で2015年1月25日で説明している。
コク味は、ニンニク、タマネギ、ホタテで確認できると紹介した上で、それ
自体は何も味がしないが、他の風味と組み合わせることで基本の風味を高める
効果があると冒頭の通り解説。
29人を対象とした研究で、低脂肪のピーナッツバターにコク味を足すと、
濃い風味、後味、油っこさが高まるという結果を紹介した。
健康を気にする人にとっては、低脂肪の食事を心掛ける必要がある場合も
珍しくない。
味が淡くなりがちだ。
そんなときに、コク味を使うことで、脂肪の量を落としながら、味を強めに
できるわけだ。
コク味をうまく使うことで、おいしくなるのみならず、健康的にもなる可
能性があるわけだ。
http://www.mededge.jp/b/heal/9765