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宇治川沿いの銭湯が閉まっていた
バランスの悪い「長年のご愛顧ありがとうございました」の張り紙
僕はこの情緒溢れる銭湯がとても好きだった
無機質な入り口
気難しそうな番頭さんの朴訥とした笑顔
雑におかれた灰皿
誰もぶら下がらないぶら下がり健康機
さびた体重計
曇った鏡に書かれ、剥げ落ちた店名
客数をはるかに上回る鍵がささっていないロッカー
顔なじみ同士が話すどうでもいい会話
部外者扱いされる雰囲気
不釣合いなデジタルテレビ
か弱いシャワー
反対から鳴り響く一人だけの桶の音
入浴後のさびれた家路
すっかり体温がさがった
家路で立ち寄る真冬の生ビール
張り紙の向こうにはそれがあって
張り紙のこっちにはそれがもうない
タバコをくゆらせながら
しばらく張り紙を見つめ
とぼとぼ歩いて帰った今朝
僕のはるか前には
老女が連れる老犬がとぼとぼ歩いていた
おっほん
先日から某業者さんの担当営業が
大卒ほやほやの女の子に変わった。
営業出身の僕は新規営業が好きじゃない
営業出身の僕は新商品を営業をされることが好きじゃない
なぜならば僕の中でのあるべきかつての営業スタイルが確立されているから
僕は
アポ無しのピーク時に飛び込む「無礼」な営業はしなかったし
アポでお話ができればお手紙を書く営業スタイルをとっていたし
取引が始まって数年経っても
あくまでも「客と業者」というスタンスを崩さなかったし
そういう自分の営業スタイルを
踏襲している業者がなかなかいないからである
だから山田さんを除いては
いかなる話も断ってきたが
そのほやほやの女の子の商品の売り込みに
ついつい話を聞いてしまった
自分でも分かる
普段使わない顔の筋肉を総動員させた笑顔がとまらず
商談後「じゃーねー」と手を振りそうになってしまった
営業時代 同期の若い子が
難攻不落のクライアントを落としていた気持ちがわかるねぇ
これが僕が求めていた営業か
ハニートラップに引っかかる政治家の気持ちも分からんでもないね
と彼女が帰った後もニヤニヤしながら
考えていた。
ムフッ
視線を感じ
あわてて我に返ると
その傍らにいたうちの某スタッフは
冷めた目をして僕を観察していたようで
「ちょいちょい オーナー 鼻の下伸びてますよ」
と捨て台詞を吐いた
仕切りなおしで
「おっほん」
と咳き込んだものの
笑顔がとまらなかった。
あと一時間彼女がいたら
僕の顔は2,3日後 筋肉痛になっていたに違いない
ぷりぷりないと
先日、ふと本棚にしまっていた
300ページくらいある「創作本」を開き
5Pくらい書かれた数年前の絶望的な僕の創作文を読み返していた
吐きそうな内容
誰もしらない僕の絶望感満載の心の叫び
最後のページを読み終えると
僕の字じゃない字が登場してきた
誰の字だ?
誰だお前?
お前はなぜ僕の絶望のふちを覗いた?
どうやって?
「あなたはなんて絶望的で可哀想な人」
というくだりから始まる元嫁がつらつら書いた感想文だった
きっと別居中に書いたのだろう
読み終えると気持ち悪いくらいのぼでぃぶろーが効いてくる
熟成されたコニャックを一気に飲み干すように
時空を超えた恥ずかしさを飲み込むことができなかった
誰も知らない僕を知っていた元嫁を知らない僕を知った僕は
コンプリートコンプリケートナイトクルーズで船酔いをした