あべせつの投稿記録 -18ページ目

あべせつの投稿記録

投稿小説・エッセイなどの作品記録用ブログです

《蝋月房 亥の刻》


「影夜、いるんだろう。開けてくれないか。話があるのだ」

鍵を開ける音がして扉が開いた。

「なんのお話ですか」

影夜は入り口に立ちはだかり身構えた。

「影夜、房に入れてくれないか。中で話そう」

「ここはわたしの場所です。わたしだけの。誰にも入られたくない」

「じゃあ、出ておいで。外で話そう」

輝夜は影夜を誘うとぶらぶら歩き始めた。

「ああ、今夜は夜気が気持ちいいなあ。少し歩こう」

「どこへ行くのですか」

「まあ、おいで。歩きながら話そう」

影夜は扉に鍵をかけると、輝夜の後ろをついて来た。


しばらく二人は無言で歩いた。

「あの夜も、こんな風に二人で暗闇を歩いたよなあ」

「あの、お話は何なのですか。家のことは皆さんでもうお決めになられたのでしょう。あなたがここに戻られるのですか」

「いや、わたしはここには戻らないよ。 影夜、この家の当主はお前だ。お前がずっとここを守ってきたんだからな」

「でも、もうわたしでは守りきれません。大切な時にあんな失敗をしてしまって。顧客ももう戻らないでしょう」

「そうかな、

「あのような思いも寄らないことになったから、失敗に見えるが技自体は素晴らしいものであったよ。とてもわたしには出来ない技だった」


「でも失敗は失敗です。あなたがいなければ大惨事になるところでした」

影夜は神妙に答えた。

「さあ、着いたぞ」

「ここは、栄螺堂」

「まだ丑三つ時には早いがな。日付が変わる前に着いてよかった。お前に見せたいものがあるのだよ」

輝夜は堂の中に影夜を招き入れた。

「全然変わっていないな。相変わらず埃くさい」


そういって苦笑いすると、蝋燭に火を付け明かりを灯した。

そして影夜に向き直り、包みを差し出した。

「影夜、二十歳のお誕生日おめでとう。これはわたしからの祝いの品だ。開けてみなさい」

「えっ、わたしにですか」

影夜が包みを開けると、蝋燭が数本入っていた。

「これは、〈鬼灯の蝋燭〉ではありませんか」

「そうだ。あれから後も作り続けて、ようやくできた。十数年かかったがな。お父様ほどの立派な品物ではないが、なんとか真似事のような品ができたのだ。これを一番におまえに贈りたかったんだ」


影夜はその美しい鬼灯の花の絵に見入っていた。

「わたしもこれを作ろうと。でも鬼灯の技は裏の中でも一番難しい技で、なかなか上手くいきませんでした」

「影夜、これからのことだがな。明日わたしは鬼灯堂に帰るよ。だが今までのように本家を放っておきはしないから。影夜はもう一度、幽玄の叔父上の弟子に付きなさい。わたしも叔父上に弟子入りして三年で今の店を開けるようになった。蝋月房に人が入るのがいやであるなら、叔父上の工房に通いなさい。そして一本立ちをしたら、また蝋月房を開けばいい。家計のほうは心配せずともいい。影夜が一人前になるまでは、わたしが仕送りをするよ」


「あなたは、わたしを憎んでおいでじゃなかったのですか」

「憎む? なぜ憎むのですか」

「わたしとわたしの母があなたから何もかもを奪ったから。だから、あなたがわたしの不幸を望んでいるのだと、おばあ様から聞いていました。おばあ様はわたしに嘘をついていたのですか」

「それはちがうよ、影夜。色々な不幸が重なって、お互いに誤解したまま数十年の時を迎えてしまっただけなのだよ。でもまだ間に合う。今からまたお互いにわかりあえればいい。

わたしたちは兄弟なのだからね」


「輝兄さま」

「さあ、わたしは離れに帰るとしよう。影夜はどうする」

影夜は鬼灯の蝋燭をじっと見て考えていた。

「お父様、お母様に会って帰るか」

「いえ、今夜はやめておきます。わたしが一人前の蝋燭師になったとき、そのご報告にお二人に会いに来たいと思います」

「そうか、それはお父様もお母様も楽しみになされることだろう。では帰るか」

「はい、輝兄さま」

 新月の夜ではあったが、輝夜の胸には皓皓と明るい光が射して来ていた。


つづく

「もう大丈夫じゃ。鬼は去ったぞ」

「おお、よかった、よかった」

「これでもう一安心だな」

緊迫感が解け、場内になごやかな空気が流れた。輝夜が影夜を見ると、影夜もこちらを見あげていた。その柔和なほっとした表情に輝夜は幼い日の兄を頼る影玄の面影が透けて見えた。

「大丈夫か」

「はい」


今なら、お互いのわだかまりを消すことができるかもしれない。輝夜は期待をこめて影夜の次の言葉を待った。

「いやあ、一時はどうなるかと思いましたなあ」

「しかし、さすがは輝夜殿だ。蝋燭師としての腕は一流ですな」

「やはり宝月の当主は輝夜殿以外にはいないでしょう」


来客たちの輝夜への賛辞が中庭にいる二人の耳にも届いた。するとたちまち影夜の顔が曇り、元の頑なな冷たい表情に戻ってしまった。

「影夜、気にするな。この家の当主はお前だよ」

「行こう、月目」

影夜は足元にじゃれつく子猫を拾い上げ、懐に入れると足早にその場を離れた。

「影夜」

輝夜は影夜に呼びかけながら、その背中が深く傷ついていることを感じずにはいられなかった。

影夜の姿が見えなくなってから客席にあいさつに戻ると、皆が拍手の元に輝夜を迎えた。

「輝夜殿、決まりましたな。当主はやはりあなたでなければ。皆も同じ意見だと思いますよ」


幽玄の言葉に、来賓も皆、そうだそうだと口々に答えた。

「いえ、皆さん、お待ちください。この件につきましては今しばらくお時間をいただきたいのです」

「輝夜殿、それはどういうことですかの」

蓮華聖人が静かに問いかけた。

「はい、わたしはこの家の当主は影夜だと考えています」

「なんと、おっしゃられる輝夜殿、それは納得のできぬお話。今の技比べでも影夜の力量のなさは一目瞭然ではありませんか」

「そうだ、そうだ。影夜殿は危うく大参事を招くところでしたぞ」

「まあ、皆さん、お待ちください。輝夜殿の話を最後まで聞こうではありませんか」


幽玄はじめ他の客人たちの異議を、蓮華聖人が抑えた。

「ありがとうございます」

 輝夜は客席に向かって静かに語り始めた。

「皆さん、わたしはこの家を十数年前に捨てた人間です。その間一度も本家をかえりみることはありませんでした。この家を今に至るまで守り続けてきたのは千さんと影夜なのです」

「輝夜殿、この家の凋落ぶりを見たでしょう。到底守ってきたとは言えぬ話ではありませぬか」

「叔父上、幽玄殿も瑠璃さんからお話を聞かれたではありませんか。わたしが、はからずもこの家を貧させてしまっていたのです」


「それは違うぞ、輝夜殿。信頼できる品、人柄を見て顧客様方も店を選ぼうというもの。

お客様が輝夜殿をお選びなさるは至極当然のこと。選ばれたいのならば影夜は自らが精進せねばなりませぬ。それをあのように自らの私怨で裏技だけに固執するのはいかがなものか」

「叔父上、影夜が裏に固執するは私怨ではございませぬ。影夜がこの宝月を守りゆくための最後の手段が裏の技だったのです。影夜は活路を一子相伝の裏技に賭けたのでございます。今宵、輝夜が皆様に招待状をお出ししたのも、本家とまた取引をお願いしたいと言う思いからでしょう」

「うむ、そうであったか」


「影夜はまだ若い。本日二十歳を迎えたばかりでございます。今からまだまだ修行もせねばなりません。しかしそれは蝋燭師としての話。この家のことを一番考えているのは、影夜です。当主としての器量に不足はございません。影夜を当主とお認め頂けますなら、わたしも今後はこの家の再興に力を貸してまいります。どうか皆様、影夜をよろしくお願い申し上げます」

「輝夜殿、話はよくわかりもうした。あとは御兄弟で話し合われるがよろしかろう。われらはそのご意向に従いますじゃ」

「蓮華聖人、ありがとうございます」


客人たちを丁重に送り出した後、輝夜は一度離れに戻り包みを懐に入れると母屋に向かった。

「瑠璃さん、おられますか」

「はい、ただいま」

千の看病をしていた瑠璃が奥の間から姿を現した。

「瑠璃さん、お忙しいところをすみません。千さんの具合はいかがですか」

「ええ、あまり芳しくは。今はよくお休みになられていますが」

「そうですか。これを千さんの寝室で灯してあげてください。病気がよくなる蝋燭です」

「まあ、お心遣いありがとうございます。輝夜様、技比べはもう御済みですか」

「はい、つつがなく。では影夜はまだここには戻ってきてはいないのですね」

「ええ、まだ。蝋月房におられるのではないでしょうか」

「わかりました。行ってみます。ところで瑠璃さん。あの子猫は」

「ああ、月目ちゃんですか。あの子は捨て猫で、影夜様が何処からか拾われてきたのです。

まだ目も開いていなくて衰弱していましたのを、影夜様が三日三晩寝ずにお世話をなされまして、ようやく元気に。影夜様は目に入れても痛くないほどかわいがっておられますわ。ちょうど昨年にテルが死んでしまって。お寂しかったのだと思います」

「そうですか。やはり影夜はかわってはいなかった。昔のままの優しい気性をしているのですね」

輝夜は母屋を出ると、心軽やかに蝋月房に向かった。


つづく



『鬼灯堂奇譚」をお読みくださいます皆様、いつもありがとうございますm(__)m

この「魔月の巻」も残すところあと3話となりました。(8話完結)


そのあと第3夜『妬月の巻』に続きますが、これは4話完結の短編です。

夏休みのお忙しい中、ご訪問くださいますこと、本当に感謝しております。

最後まで、なんとか面白くお読みいただけたらいいなと、願うばかりであります。


よろしければ今しばらくお付き合いのほどよろしくお願い申し上げますm(__)m






 続いて影夜が中庭の舞台へと上がった。影夜は一礼すると黒い蝋燭を取り出した。

それを灯すと、天空に墨のような黒いものが流れ、みるみる内に星明かりがすべて飲み込まれた。漆黒の闇の中、ただ影夜の灯すろうそくの明かりだけが見えている。

(これは〈暗黒星〉ではないのか)

 

 輝夜はすぐに気付いた。影夜は暗黒星をそのままに、次のろうそくに火を点けた。

獣くさい匂いがたちこめるとあたりに禍々しい気配が満ちてきた。次の瞬間、ズシーンズシーンと地鳴りがし始め、闇の中を何か巨大なものが近づいて来る音がした。

(これは、もしや)

輝夜がその蝋燭を見ると、恐ろしい形相の鬼の絵付けが炎の中に浮かびあがって見えた。

(〈鬼来迎〉だ! 影夜は今宵、裏の技を披露するつもりなのか)

 

 影夜は既に鬼来迎の三本目に火を点けているところだった。

「影夜、やり過ぎだ。一度に三本は危険すぎる」

 輝夜は叫んだが、時既に遅く西南北の三方より何か巨大なものが押し寄せてくる地鳴りが響いてきた。灯された四本の蝋燭の光は強く、中庭から大広間の中まですみずみを明るく照らし出すと客人が恐ろしさに皆、浮足立っているのが見えた。


「皆様、大丈夫です。この鬼どもを抑える技、それを最後にお見せしようと思います。どうか落ち着いてご覧くださいませ」

 自信満々な影夜の態度に、疑心暗鬼ながらも一同腰を下ろした。

ズシーン、ズシーン、バキバキバキッ。

影夜が新たな蝋燭を取り出そうとかがみこんだ時、落雷のような音が響いた。す

るとその音に驚いたのか、子ネコが影夜のふところから飛び出したのだ。

「あっ! 月目」


月目と呼ばれた子猫は、恐れをなしてめくら滅法にあたりを駆け巡った。

「影夜、危ない!」

子猫を捕まえようとした影夜がバランスを失ってつまずくと、次々に燭台が倒れ蝋燭が地面に転がり火が消えてしまった。漆黒の闇に包まれると、観客たちにも混乱が生じ始めた。

「なんだ、どうしたことだ」

「技は聞かなくなったのではないのか」

「鬼が、鬼がやってくるぞ」

「大丈夫です。輝夜がおりますのじゃ。どうか落ち着いて下され」

 幽玄が必死に観客たちをなだめる声が響いた。


「これはいけない。何とかしなければ」

 蝋燭は使い手が自らの手でその火を消さなければ、技を制することができなくなってしまう。このままでは現れた鬼たちを野に放ち、天空には月も星も太陽も出ぬまま魑魅魍魎跋扈する闇の世界になってしまうのである。

 輝夜は闇の中、手探りで木箱を探すと、中の蝋燭を手に取り匂いを嗅いだ。

「月光草の匂い、まずはこれを」

急いで、ただ薬草を練り込んだだけの害のない蝋燭に火を灯すと、その明かりで木箱の中を探し始めた。


「あった。〈有明の月〉これだ」

その写経を書きつけた蝋燭に火を灯し、天空に掲げた。するとたちまち闇が払われ、星々の光が戻り、二十六夜の有明月が鋭く輝き始めた。

「月だ。月が出たぞ」

客席に落ち着きが戻り、人々はその美しい月に歓声を上げた。

「おお、見よ。阿弥陀三尊の御姿が」

 月の中に阿弥陀如来、観音菩薩、勢至菩薩の阿弥陀三尊の御姿が現れると、恐れをなしたのか、突然地響きの音が止んだ。静寂の中、蓮華聖人が数珠を手に読経を始めた。


この隙に輝夜がありったけの手持ちの蝋燭を灯すと、あたりは真昼のように明るくなった。

そして影夜が最後の技の一本を取出して走り来ると、義兄の横に並んで灯した蝋燭を月に掲げた。

「悪鬼退散」

二人の声が一つになり空にこだました。

グオオオオウ、ドーン

何か金属がきしみ、閉まるような大きな音がして、禍々しい気配が忽然と消えた。

「地獄の扉が閉まる音じゃ」

 蓮華聖人が読経を止めて耳を澄ました。


つづく

《技比べ》

 日が落ちると、秋の夜はひんやりとした空気におおわれ始めた。新月のこととて空に月はなく、その分星々は空を埋め尽くすかのように輝いていた。その夜空の下、技比べが行われる中庭の舞台には背の高い燭台が数本並び、既に準備は整えられていた。

 

 中庭に面した大広間では今宵の技比べを見届けようと数十人の人々が今や遅しと二人の登場を待ちかねていた。その中には多くの親戚に混じり、かつての顧客たちや初見の客人の姿があった。

「これは蓮華聖人様、今宵はお忙しい中、当家まで足をお運び頂き誠にありがとうございます。いつも輝夜がお世話になっております」

「これは、これは幽玄殿。今宵はお招きありがとうございます。輝夜殿にはいつも素晴らしい蝋燭を入れていただき、こちらこそ感謝しておりますぞ。その輝夜殿が技比べをなさるとお聞きしましたので早速駆けつけた次第です。どのような四座をご披露なさるのか楽しみにしております」


「はてさて、つかぬことをお聞きいたしますが、今宵のことは誰からお聞きなさいましたですかな」

「影夜殿から丁寧な招待状を賜りましたぞ。他のご来客もそうではないかと思われますが、それが何か」

「いやいや、何でもございません。ではごゆるりとお楽しみくださいませ」

(影夜め、いったい何をたくらんでおるのだ。わしらは何も聞かされてはおらなかったぞ。あの見知らぬ輩たちは何者なのだ。それに輝夜の顧客まで招待して、どうしようというのだろう)

 幽玄は影夜の考えがわからず、何やらいやな予感を覚えながら中庭の舞台へと向かった。

いよいよ、その時を迎えた。それぞれ儀式用の装束をまとった輝夜と影夜が中庭に姿を現した。手にはそれぞれ、ろうそくの入った木箱をたずさえている。近くの寺の戌の刻を知らせる鐘の音を合図に幽玄は皆に対して一礼をし、新月祭の開始を告げた。


「これより技比べを行う。競う蝋燭は各々三種ずつ。自らが最高と思われるものを見せていただきたい。よろしいかな」

「承知いたしました」

 輝夜が言うと、影玄は深くうなずいて答えた。

「では、どちらから先に参られるか」

「輝夜殿からどうぞ」

 影玄がいどむように言った。

「では、わたくしから」


 輝夜は木箱から銀色に輝くろうそくを一本とりだして燭台に刺し、火を灯した。

しばらくすると、蝋燭の炎からきらめく銀色の光の粒子があたりに飛び散り始めると、満天の星々と呼応し始め、夜空に幾百、幾千と思われる星が流れ始めた。

「おお、これはすごい」

「流星群だ」

「なんと美しい」

「〈宝月銀星流〉の技にございます」

 輝夜が炎を消すと、流れたはずの星は元の天空に戻り、また古からの光を瞬き始めた。

「続いては、〈十三夜〉にございます」

 金色の蝋燭を灯すと、空にぽっかりと丸い月が現れた。

「ややや、今宵は新月のはず。月が空に出ておるぞ」

「これは摩訶不思議」

「月の出も自由にできるとは」

「最後は、〈月虹〉にございます」

 輝夜が〈十三夜〉のとなりに真珠色の蝋燭を灯すと、十三夜の月を背景に夜空に白い虹がかけられた。人々はその幻想的な美しさに、息をのみただただ空をあおいだ。

 輝夜はろうそくを消して深々とお辞儀をすると、舞台を影夜に譲った。


つづく

《新月祭 当日》

 

 その日、珍しく宝月の家はにぎわいを見せていた。輝夜が戻っていると聞き及んだ親類縁者たちが、喜んであいさつに訪れたのである。みな一様に屋敷の荒れように驚いた。


「なんだ、この草木の繁り様は。野中のあばら家でもあるまいに」

「そりゃ仕方ないさ、使用人は瑠璃さん一人なのだから、この広い屋敷ぜんぶには手が回るまい」

「千殿も加減がよくないらしいな」

「それならば影玄、あ、いや、影夜殿がしっかりせねばならぬのに」

「まあ、まだ二十歳にもならぬお方だ。この家を背負うのは荷が重かろう」

「やはり、家の再興には輝夜殿の復帰が待たれるな」

「そのために今宵、新月祭で技比べが行われるのであろう」

「技比べなどするまでもない。輝夜殿のほうがお血筋も良いし、技量も実績もおありだろうに」

「その技比べに、我ら親戚だけでなく一般の客人も呼ばれたと聞いたが」

「なぜ親戚以外の方々も呼ばれるのであろうか。身内の当主を決める技比べであるのに」

「さて、それはわからぬが、そのように客人をお招きするのであれば、この荒れようは宝月一族の恥じゃよ」

「では早速、一族総出で急ぎ片付けようではないか」

 親族たちは一丸となって今宵の新月祭を成功させるべく、屋敷内の大掃除や来賓のための膳を整え始めた。

 その騒ぎが離れにいる輝夜にも届いてきた。

「瑠璃さん、これは何事ですか」

「輝夜様、久しぶりに皆様がお顔を揃えておられますわ。今宵の新月祭のご成功を望まれて皆様でご準備なされておいでなのです」

「輝夜殿、輝夜殿はやはり大したお方じゃ。ばらばらになっておった一族をわずか一日でおまとめになられた。みな輝夜殿にお家再興の期待をかけておりますのじゃぞ」

「では、わたしも皆様のお手伝いをさせていただきましょう」

「いやいや輝夜殿、それには及びませぬ。輝夜殿は技比べのご準備をなされてくだされ」

 幽玄はまたあわただしく母屋へと戻って行った。


つづく