鬼灯堂奇譚 魔月の巻 後編 3 | あべせつの投稿記録

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《新月祭 当日》

 

 その日、珍しく宝月の家はにぎわいを見せていた。輝夜が戻っていると聞き及んだ親類縁者たちが、喜んであいさつに訪れたのである。みな一様に屋敷の荒れように驚いた。


「なんだ、この草木の繁り様は。野中のあばら家でもあるまいに」

「そりゃ仕方ないさ、使用人は瑠璃さん一人なのだから、この広い屋敷ぜんぶには手が回るまい」

「千殿も加減がよくないらしいな」

「それならば影玄、あ、いや、影夜殿がしっかりせねばならぬのに」

「まあ、まだ二十歳にもならぬお方だ。この家を背負うのは荷が重かろう」

「やはり、家の再興には輝夜殿の復帰が待たれるな」

「そのために今宵、新月祭で技比べが行われるのであろう」

「技比べなどするまでもない。輝夜殿のほうがお血筋も良いし、技量も実績もおありだろうに」

「その技比べに、我ら親戚だけでなく一般の客人も呼ばれたと聞いたが」

「なぜ親戚以外の方々も呼ばれるのであろうか。身内の当主を決める技比べであるのに」

「さて、それはわからぬが、そのように客人をお招きするのであれば、この荒れようは宝月一族の恥じゃよ」

「では早速、一族総出で急ぎ片付けようではないか」

 親族たちは一丸となって今宵の新月祭を成功させるべく、屋敷内の大掃除や来賓のための膳を整え始めた。

 その騒ぎが離れにいる輝夜にも届いてきた。

「瑠璃さん、これは何事ですか」

「輝夜様、久しぶりに皆様がお顔を揃えておられますわ。今宵の新月祭のご成功を望まれて皆様でご準備なされておいでなのです」

「輝夜殿、輝夜殿はやはり大したお方じゃ。ばらばらになっておった一族をわずか一日でおまとめになられた。みな輝夜殿にお家再興の期待をかけておりますのじゃぞ」

「では、わたしも皆様のお手伝いをさせていただきましょう」

「いやいや輝夜殿、それには及びませぬ。輝夜殿は技比べのご準備をなされてくだされ」

 幽玄はまたあわただしく母屋へと戻って行った。


つづく