NHK-Gスペシャル

「シリーズ人体~神秘の巨大ネットワーク」

「第7集(最終回)“健康長寿”究極の挑戦」 

 



 
初放送 3/25(日) 21:00~21:49 
再放送 3/27(火) 24:10~24:59 [3/28(水) 0:10~0:59]

  
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□ NHK-G「シリーズ人体~神秘の巨大ネットワーク」 これまでのブログ
 

「プロローグ」(2017-09-30初放送)
「第1集"腎臓"が寿命を決める」(2017-10-01初放送)
「第2集"脂肪と筋肉”が命を守る」(2017-11-05初放送)
「第3集"骨"が出す!最高の若返り物質」(2018-01-07初放送)
「第4集 万病撃退!”腸”が免疫の鍵だった」(2018-01-14初放送)
「第5集“脳” すごいぞ!ひらめきと記憶の正体」(2018-02-04初放送)
「第6集 "生命誕生"の神秘!」(2018-03-18初放送)
「第7集“健康長寿”究極の挑戦」(2018-03-25初放送)

 





■ 司会(MC): 

タモリ・・・1989年の「驚異の小宇宙 人体」以来、28年ぶりに「シリーズ人体」の司会を務める。
山中伸弥・・・京都大学iPS細胞研究所所長・教授。2012年にノーベル医学・生理学賞を受賞。
久保田祐佳アナ。


■ ゲスト出演:

石原さとみ
樹木希林

 




■ スタッフ

音楽: 川井憲次

語り: 池松壮亮、久保田祐佳

声の出演: 81プロデュース

制作: NHKエデュケーショナル



 

■ 概要


体中の臓器がお互いに情報を交換することで私たちの身体は成り立っている。そんな新しい「人体観」を、最先端の電子顕微鏡映像やCGを駆使しながら伝えるシリーズ「人体」。

シリーズ「人体」のフィナーレを飾る第7集は、これまで困難だった癌や心疾患などの病気の治療に挑む科学者たちの最前線に迫る。
誰もが憧れる健康長寿。それを妨げる癌や心臓病などの治療が、大きく変わろうとしている。
鍵となるのが、臓器同士が情報交換をするために使うメッセージ物質。免疫細胞を活性化させたり炎症を抑えたりするメッセージ物質を活用することで、癌の増殖を防いだり傷ついた心臓を再生したりするなど従来は不可能だった治療法が急ピッチで開発されているのだ。

臓器同士がメッセージ物質を使って会話を繰り広げる人体の巨大ネットワーク。
その研究において今、最も注目されているのが、「エクソソーム」と呼ばれる1万分の1ミリ程の小さなカプセル。
体中のあらゆる細胞が放出する、このカプセルには様々な機能を持つメッセージが大量に詰め込まれていて、私たちの健康や命を守る重要な役割を果たしている。

 


一方で癌細胞もエクソソームを分泌しており、血管細胞に働きかけて酸素や栄養を供給させたり、免疫細胞を手懐(てなず)けて攻撃を止めさせたりするなど、自らの増殖のために巧みに利用していることが分かって来た。

 


そして今、医療の現場ではエクソソームなどのメッセージ物質をコントロールすることで、癌の転移を抑え込んだり傷ついた心筋細胞を再生したりするなど、従来は不可能だった新たな治療法の開発が急ピッチで進んでいる。
メッセージ物質を駆使した医療のパラダイムシフト(価値観の転倒・劇的変化)。

世界初公開の顕微鏡映像や迫力のCGを駆使して、健康長寿への挑戦の最前線を伝える。





 
■ 番組詳細

予告動画


最終回のテーマは「ピンピン長生き、コロリと逝く」(笑)。「健康長寿」。

いつまでも健康で長生きを!そんな願いを叶える究極の挑戦が始まっている。
このシリーズでは最先端の科学が辿り着いた全く新しい人体の姿を伝えて来た。それは体中の臓器と臓器が直接、情報をやり取りしながら私たちの体をコントロールしているという驚きの世界。活躍するのが臓器たちの発する、こうしたメッセージ物質の力を利用することで私たちを苦しめる様々な病気の治療が劇的に変わろうとしている。

 

中でも日本人の死因1位の癌。最新の研究によって癌自らが恐怖のメッセージ物質を発して増殖することが明らかになった。その仕組みを逆手に取り、癌の働きを抑え込む新しい研究が加速している。

更に癌と並ぶ難敵。年間20万人もの人が亡くなる心臓病。メッセージ物質を生かした治療によって今まで不可能だと思われていた心臓の再生を実現しようとしている。

病を克服し健やかな長寿を目指す最先端の闘い。人体の神秘に挑む、その挑戦があなたの未来を大きく変えるかもしれない。どうすれば、この命を全うできるのか? 体の中には巨大な情報ネットワークが存在する。臓器同士のダイナミックな情報交換。命を支える臓器たちの会話に今こそ耳を傾けよう。


*



今回のテーマは「健康長寿」。
今日注目したい病気は癌。それから心臓疾患。どうしてこの2つか?というと日本人の死因の1位と2位だから。
今日は、未来に向けた私たち研究者や医師の挑戦を見て行きたい。
癌はどうやって増殖を繰り返し広がって行くのか? そのメカニズムはこれまで多くの謎に包まれて来た。
しかし最先端の科学が癌の実態を少しずつ明らかにし始めている。

米国「ハワードヒューズ医学研究所」。これは癌細胞の姿を立体的に捉えた最新の顕微鏡映像。大きさは約100分の1ミリ。周りのタンパク質の間を縫うようにして体中を自由自在に動き回る。この癌細胞がとんでもない悪巧(わるだく)みを働く様子が捉えられた。

 


その一つが、網目状に広がるのはヒトの乳房の表面に広がる毛細血管。ここに癌細胞がいる。周りを歪(いびつ)に取り囲んでいるのは血管。実は癌細胞が血管に働きかけ自分の近くに態々、引き寄せたもの。増殖に欠かせない酸素や栄養を血液中からより多く奪い取ろうとしている。

 

 

 

更に癌細胞は、何と敵である免疫細胞まで手なずけてしまう。本来、免疫細胞には癌細胞をやっつける働きがある。緑色の免疫細胞が紫色の癌細胞に食らいつきやっつける。ところが、この免疫細胞が癌細胞から或る働きかけを受けると、攻撃をピタリと止め、癌細胞の増殖を許してしまう。実はこうした悪巧みを行うため癌細胞は人体の巨大ネットワークを巧みに利用している。

 

 

 

そのメカニズムの研究で世界をリードしているのが「国立がん研究センター研究所」主任分野長: 落合孝広さん。

 

 

癌細胞がこれまでのメッセージ物質とはちょっと違う特殊なメッセージを使っている。

癌細胞がそのメッセージ物質を分泌している様子を世界で初めて捉えた映像。

癌細胞の表面から噴き出す白く輝く光。この光の中に癌のメッセージ物質が隠されていた。その物質を拡大してみると突起が付いた丸い玉。大きさは僅か1万分の1ミリ。これが様々なメッセージを丸毎詰め込む、「エクソソーム」と呼ばれるカプセル。中には癌細胞が周りの細胞を支配するために使う様々なメッセージ物質がまとめて入っている。

 

 

 

例えば、先程紹介した毛細血管を引き寄せる手口の場合。癌細胞が送り出したメッセージカプセルが血管へと向かって行く。辿り着いた先は血管の壁の中。そしてカプセルからメッセージ。すると血管を作る細胞が、仲間からのメッセージと勘違いし癌細胞に向かって血管を伸ばし始める。更にがん細胞は攻撃を仕掛けて来る免疫細胞に対してもメッセージカプセルを発している。今度はカプセルからメッセージ。メッセージを受け取った免疫細胞は瞬く間に手なずけられて攻撃を止めてしまう。

 

 

 

 

 


本来臓器同士のメッセージ物質のやり取りは、私たちの健康や命を支えるための重要な仕組みのはず。その大切なネットワークを知り尽くし密かに忍び込む癌細胞。どうやら私たちの体のシステムを乗っ取って増殖を繰り返しているようなのだ。
癌は元々、私たちの自分の細胞。いい子だったけれども、何らかの原因で増えるしか仕事がなくなってしまったような細胞が癌。目的が無い。だから自分でも制御がつかない状態。ただただ増えなきゃって。欲しい欲しいと。癌細胞がメッセージ物質を駆使して行う様々な悪巧み。

樹木希林 「今の私たち人間みたいじゃないですか。地球上の。どうして欲しいのかも分かってなくて、欲しい欲しいと言っている。私たちみたいじゃないですかね」。

*

中でも治療を困難にするのが、他の臓器へ広がる転移。転移の過程でもメッセージ物質を巧みに操っている。
例えば、内臓表面を覆い保護している腹膜に卵巣癌は転移する。一旦、転移すればあちこちに広がり治療は困難になってしまう。症状もなく一般にはサイレントキラーっていう。卵巣癌は恐ろしくて怖い癌の一つ。これまで卵巣癌が腹膜に転移するメカニズムは謎に包まれていた。腹膜の表面には突起物がびっしりと敷き詰められ、癌細胞など異物の侵入を防ぐバリアの役割を果たしているから。
落谷さんが考える癌の転移のメカニズム。卵巣の表面。紫色をした塊は卵巣癌。卵巣癌の細胞からあのメッセージカプセル「エクソソーム」が大量に発せられた。カプセルが向かった先は腹膜。表面には異物の侵入を防ぐ突起物がびっしりと敷き詰められている。しかしカプセルは突起物を掻き分けて難なく着地。カプセルは表面の細胞と同じ成分でできているため腹膜は仲間だと勘違いして受け入れてしまう。中には卵巣癌からのメッセージ。すると腹膜の表面の突起物の一部が死滅し始めた。こうしたやり取りが何度も繰り返されるうち腹膜の表面にクレーターのような大きな穴が幾つも生まれる。そこにやって来たのがメッセージの送り主・卵巣癌の細胞。癌細胞は穴から腹膜に入り込み難なく増殖を繰り返して行く。癌細胞はエクソソームを自分の分身として、また自分の武器として。バリア機能は破壊され破綻する。

 

 



これまで見て来たメッセージ物質は、特定の臓器から臓器へ一つのメッセージだけを伝える働きがあった。ところが、このメッセージカプセルのエクソソームは体中の全ての臓器が発している。しかもカプセルの中には幾つものメッセージが詰め込まれていて、状況に応じて伝わるメッセージが変わる。まさにメッセージ物質の親玉。注目され始めたのは僅か10年程前。元々、細胞は「疲れた」とか単体のメッセージだったが、これは複数のメッセージを纏(まと)めて発する。

*


こうしたメッセージ物質の仕組みが分かって来たことで、逆にメッセージ物質を使って癌に対抗しようという全く新しい治療法が見えて来ている。癌患者56,000人分の提供された血液に含まれる癌細胞のメッセージ物質を解明することによって、新たな治療薬の開発に繋げようという研究が進められている。
デンマークの研究所が挑戦しているのは、私たち自身の体に潜む癌撃退パワーを引き出すというもの。鍵になるのは筋肉が出すメッセージ。「シリーズ人体」の第2集では筋肉が出すメッセージ物質の働きを紹介した。例えば、鬱(うつ)の症状を改善する、更には記憶力をアップさせる。その筋肉が出すメッセージ物質が癌の治療にも役立つかもしれない。
メッセージはいわばこんな声。「敵がいるよ!」 実はこのメッセージには癌細胞をやっつける免疫細胞を活性化させる働きがある。肺に癌があるマウスに運動をさせて筋肉からのメッセージ物質の分泌を促したところ、運動をしていないマウスでは癌が広がり黒ずんでいるが、運動をしたマウスは癌を抑え込んでいる。
ヒトでも効果があるかは未だ分からない。どんな運動をどの程度行えば癌撃退パワーを引き出すことができるのか? 前立腺癌の患者を対象に試験が続いている。

更に日本でも、国立がん研究センターの落谷さんの報告が研究者たちを驚かせた。癌が出すメッセージカプセル「エクソソーム」を叩いて癌の転移を抑え込むという全く新しい戦略。落谷さんは小さなエクソソームに或る目印をくっ付ける方法を思い付いた。これはいわば「こいつは敵だ」という目印。この目印癌細胞が出したエクソソームを見つけるとくっつく性質がある。すると、体の防衛隊、あの免疫細胞がエクソソームを敵だと認識し食べ始めるという仕組み。この作戦はマウスの実験で驚きの結果が出ている。マウスの肺の断面を見てみると、
目印を加えていないマウスでは赤く見える部分に癌細胞が転移している。しかし目印を加えたマウスは殆ど転移が見られなかった。癌細胞の量を分析すると何と転移を90%も抑えられることが分かった。
癌細胞そのものが特別な印というかメッセージを出してる。「私はがんです」「私はちょっと変です」という旗を立ててるみたいな。それを利用してこのメッセージを攻撃する認識するような薬が作られている。この薬はちょっと手が加えてあって、特殊な光線を当てると反応して細胞毎、パ〜ンと破裂するような。米国で臨床研究臨床試験が始まっていて、もうすぐ日本でも始まる。

さて、癌と並んで私たちの健康を阻む、もう一つの難敵が心臓病。代表的なのは心筋梗塞。突然、私たちを襲う恐ろしい病気。瞬く間に心筋細胞の一部が死滅。一命を取り留めても心臓を元通りに治すのは困難。この心臓病の治療に大きな効果を上げるのではないかと期待されているメッセージ物質がある。
番組恒例つぶやきマシンを使ってご紹介しましょう。

心臓の中の細胞同士がメッセージをやり取りして心臓を回復させている。
3つのメッセージを括(くく)ってまとめたカプセルが一気に送られるのがエクソソーム。これを利用して、心臓の病気2番目の死因である心不全を防ごうとそういう研究が進んでいる。
日本人を悩ませる心臓病。年間20万人もの人が亡くなっている。心臓には他の臓器とは異なる厄介(やっかい)な特徴があり治療を困難にしている。多くの臓器は古い細胞が新しい細胞に入れ代わりながら活動しているが、心臓はそのペースが極めて遅く50年かけても3割程しか細胞が入れ代わらない。そのため傷ついた心臓はなかなか元通りにはならない。
どうにかして心臓の細胞を新しく作り出すことができないか? 米国の心臓研究の権威、エデュアルド・マラバンさんはその難題に挑んで来た。研究を続けた結果、心臓の中に極僅かだが細胞を再生させるメッセージ物質が潜んでいることを突き止めた。「どんどん細胞を増やそう」というあのメッセージが秘められていた。メッセージには心臓の細胞を増殖させる働きがあるが、メッセージ物質の数が少ないため、普段はゆっくりとしたペースでしか再生する力がない。このメッセージ物質を人工的に増やして病気になった心臓へ投与すれば失われた細胞を急速に蘇(よみが)えらせることができるのではないか? マラバンさんが心筋梗塞を起こしたマウスにメッセージ物質を投与したところ大きな成果が現れた。マラバンさんは1年以内のヒトでの臨床試験の開始を目指して急ピッチで研究を進めている。

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これまで8回に亘って伝えて来た「シリーズ人体」。最先端の科学が解き明かした体の中の巨大な情報ネットワークに注目することで、臓器と病気との意外な関係が次々と明らかになった。
おしっこを作る腎臓。腎臓が出すメッセージの異常は高血圧の原因となっていた。そこで腎臓を手術することで高血圧を治すという新たな治療が始まっている。
単に消化吸収の器官と思われていた腸。実はアレルギー発症の鍵を握っていた。腸内細菌を整えることが免疫の異常をコントロールする手立てになると期待されている。
臓器の出すメッセージに耳を傾けることが治療困難な病気を克服する切り札になると考えられている。

地上およそ400kmを周回する国際宇宙ステーションには骨の細胞が送り込まれ分析が始まっている。骨には私たちの若さを生み出す重要な働きがあることを第3集で伝えた。運動によって骨に刺激が加わるとメッセージ物質が発せられ免疫力や筋力、更には記憶力などがアップする。宇宙の無重力状態で骨に掛かる刺激をコントロールしながら、メッセージ物質が作り出されるメカニズムを解明しようとしている。更にニューヨークにあるベンチャー企業では骨が出すメッセージ物質を利用して老化を防ぐという研究を進めている。若さを司るメッセージ物質を出す骨芽細胞。それを培養して作った骨を人の体に戻すことで絶やすことなく若さを手にしようという。
どうすれば、この命を全うできるのか? 想像を遥かに超えた体の中の高度な情報ネットワーク。始まりはたった一つの小さな小さな受精卵。メッセージ物質に導かれ誕生した私たち。

そして人生を終える瞬間までミクロの物質がこの体を支え続けている。
にぎやかに懸命に尊い命を守る臓器同士の会話。
掛けがえのない営みがあなたの体にも秘められている。