大学の授業で提出した防衛予算に関するレポートをアップしました。かなりの長文ですが是非お読みください。
政府は2011年12月24日に閣議を開き、平成24年度予算案を決定し一般会計の総額は90兆3339億円となり11年度当初(92兆4116億円)比2.2%減と6年ぶりに前年度を下回った。しかし東日本大震災の復興予算3兆7754億円の特別会計を新設したほか、基礎年金の国庫負担割合を50%に維持するための財源2兆6000億円を一般会計に計上しない「年金交付国債」で賄っており、実質的には総額96兆円強と過去最大規模となった。歳入は税収が42兆3460億円のほか国債が44兆2440億円となり国債に依存する傾向は変わらないが新規国債の発行を44兆円以下に抑えるという財政健全化目標は一応達成できた。歳出のうちやはり大きな割合を占めるのが社会保障費であり24年度予算案では社会保障費は26兆3901億円と5年連続で歳出の3割を超える状況となっている。政府は歳入のバランスを取り、財政健全化を図るために社会保障費をはじめ公共事業や国家公務員給与削減など歳出抑制を図ろうとしているがどれも進んでいないのが現状である。ただ、デフレ下での緊縮財政はデフレが進行し景気を悪化させてかえって税収を減らしかねないとの指摘もあり、本来ならまずは大規模な財政出動を含めた景気対策を優先すべきであるが残念ながら政府や財務省の間では財政再建を優先させようとする風潮が強く歳出削減が強く要望されている。この風潮の中で例外なく防衛予算も削減の対象とされてきており今年度も防衛予算は前年度比0.4%減、額にして201億円減の4兆6625億円となり10年連続の削減となった。これは厳しい財政事情を背景に少しでも歳出を減らそうとする政府と財務省の意向が反映された結果であろうが、東アジア情勢や日本が抱える安全保障上の問題を考慮すると防衛予算を社会保障関連予算や公共事業などと同列に扱い削減を続けることが果たして妥当なのか大きな疑問符が付く。そこで日本の防衛予算の特徴や24年度防衛予算の内訳を調べて日本の防衛のあり方について論じてみたい。
日本の防衛予算の規模と特徴
日本の防衛予算は対一般会計比で5パーセント程度、対GDP比は0.9パーセント程度である。他の一般会計事項を比べてみると社会保障関連予算は防衛予算の4倍以上、公共事業関連予算は1.5倍程度である。防衛予算は警察予備隊創設5年程度は激しく増減を繰り返したがその後は平成9年度まで増額が続いた。対一般会計比でみると、自衛隊創設当初は20%ほどを占めていたがその後は減少を続け昭和51年度には最低の5.6%を記録した。これは高度経済成長により国家財政が飛躍的に増加したのに対し、吉田ドクトリンに象徴されるように軽武装(国防は米国に依存)・経済成長優先の方針を掲げて防衛予算の伸び率が伸びなかったことに由来する。昭和57年度以降は対一般会計比率は上昇に転じたが冷戦終結やバブル崩壊による財政悪化により平成7年度からは低迷を続けている。また日本の防衛予算の特徴として諸外国と比べて対GDP比が非常に小さい点が挙げられる。例えばイギリスは対GDP比で2.4%、フランス1.9%、韓国2.4%等となっており日本の0.9%よりもはるかに大きく、日本は世界第3位を誇る経済規模からしてもかなり防衛予算を抑制していることがわかる。
防衛予算の構成
防衛予算が平成24年度予算案において4兆6625億円の額が認められたとしてもその全てが装備品の購入や開発に使われるわけではない。防衛予算には自衛隊の維持運営費のほかに防衛施設周辺の騒音、環境対策や在日米軍の駐留支援、安全保障会議運営費用なども含んでいるのだ。防衛予算は主に人件・糧食費と物件費で構成されている。人件糧食費とは主に自衛官や職員の給与、手当、退職金や食費などである。物件費は更に一般物件費と歳出化経費の2つで構成されている。物件費は装備品の購入や自衛官の被服、営内生活に必要な物品の調達、研究開発費、施設整備費、基地対策費などがあるが、一般物件費は基本的に当該年度中に支払の終了する単年度の経費のことであり、歳出化経費は過去の契約に基づき支払時期に応じて予算に計上される経費のことである。歳出化経費は艦船や航空機などいわゆる正面装備のように製造期間が数年にわたる装備品の契約などに用いられ、当年度の予算で支払う前金以外は後年度負担となる。日本の防衛予算は人件・糧食費と歳出化経費という出費が義務的な費用が多くを占めているのが実情である。平成24年度の防衛予算では4兆6625億円のうち人件・糧食費と歳出化経費の合計は3兆7237億円に達しており、一般物件費はその5分の1程度の9288億円に過ぎない。
防衛予算の構成には上記のような人件・糧食費と一般物件費、歳出化経費のような分類のほか予算の内訳を使途別に分けた使途別分類という分類がある。使途別分類は人件・糧食費、装備品調達費、維持費、基地対策費、施設整備費、研究開発費、SACO(沖縄に関する特別行動委員会)関係費および米軍再編関係費などがある。この使途別分類で防衛予算を見ると内訳は人件・糧食費、維持費、基地対策費などで全体の7割を占めており装備品調達費は2割に過ぎない。実はこのように防衛予算の大部分を人件・糧食費と歳出化経費が占めて装備品の調達や施設整備が思うように進んでいないことが近年の防衛予算削減の流れと合わさり日本の防衛を危機的な状況に陥らせている原因になっているのである。
平成24年度防衛予算の特徴と内訳
政府は2010年末に新防衛大綱を安全保障会議で閣議決定した。新防衛大綱に基づく新中期防衛力整備計画では「即応性、機動性、柔軟性、持続性及び多目的性を備え、軍事技術水準の動向を踏まえた高度な技術力と情報能力に支えられた動的防衛力を構築するため、以下を計画の基本として、防衛力の整備、維持及び運用を効果的かつ効率的に行うこととする。」とし「動的防衛力」という概念が打ち出された。防衛省によれば動的防衛力とはこれまでの全国に配備していた自衛隊部隊を有事の際に機動的に運用して即応体制、対処力を強化するというものである。特に冷戦期の北方重視(対ソ連)の防衛力から中国の脅威に対処するために西方重視にシフトすることを打ち出しており沖縄、九州の離島への侵略への対処が強化される方針となった。そこで新中期防衛力整備計画では実効的な抑止及び対処のために周辺会空域の安全確保や島嶼部に対する攻撃への対応等の方針が掲げられている。特に西方重視の観点から与那国島への沿岸監視隊配備や海上自衛隊の潜水艦の増強(16隻体制から22隻体制)、ヘリコプター搭載護衛艦の建造、那覇基地の航空自衛隊戦闘機部隊の増強、早期警戒機受け入れ態勢の整備、弾道ミサイル対処能力強化などが打ち出されており平成24年度防衛予算では護衛艦の建造(1155億円)、潜水艦の建造(547億円)沖永良部島へのレーダーの整備(39億円)、与那国島絵の沿岸監視隊の配備(10億円)那覇基地への早期警戒機受け入れ態勢の整備(2億円)、弾道ミサイル防衛(570億円)など防衛大綱の内容に沿った形の予算が認められている。また2011年末に決定した航空自衛隊の次期主力戦闘機F-35の取得関連費用(600億円)が計上されたほか平成24年度防衛予算の特徴の1つとして大規模・特殊災害への対応のための予算が増額されている。これは東日本大震災及び福島第1原発事故の教訓を踏まえたものであり輸送力の強化(輸送機やヘリコプターの整備)、通信能力の向上、特殊災害(核・生物・化学)への対処能力向上のための費用など合計2440億円が計上されている。平成23年度防衛予算における大規模・特殊災害への対応のための予算が合計1119億円だったことから見ても分かるように災害や原発事故への対処能力向上が重視されていることが分かる。逆に普天間基地問題のねじれに端を発して米軍再編関係費が平成23年度の1027億円から599億円と前年度比41,6パーセントの大幅な減額に転じている。上記のように新防衛大綱の内容に沿った形で南西方面の防衛力増強のための予算が計上されたほかF-35取得関連費用、東日本大震災・福島第1原発事故の教訓を踏まえた予算措置が講じられていることが平成24年度予算の特徴である。
日本の防衛予算の課題と問題点
平成24年度予算の内容や特徴は上記のとおりである。だが問題点を指摘するとすればそれはやはり予算額自体が日本の防衛力整備に見合っていないということだ。確かに新防衛大綱では動的防衛力を整備するとして南西方面の防衛力増強を打ち出した。しかしこれも新たに部隊を新設したり装備を調達するといったものよりも既存の部隊を南西方面に転換するというものが多い上、防衛予算と装備、人員については逆に減少傾向にある。新防衛大綱では陸上自衛隊では自衛官の定員が1000人削減された上、戦車200両、火砲200門が削減された他、航空自衛隊でも作戦用航空機が10機削減された。したがって海上自衛隊の護衛艦や潜水艦は多少増強されるものの陸海空3自衛隊のトータルで見れば予算は削減が続けられ装備、人員とも削減されていることになる。背景にはやはり日本の厳しい財政事情があるのだろうが国家の独立と平和を守るための防衛予算を国家財政が厳しいからという理由でこれ以上削減すれば日本の防衛は成り立たなくなるであろう。新防衛大綱では人員と装備が削減されたが実はそれ以前から大幅な人員と装備の削減が続いていたのだ。すでに陸上自衛隊ではピーク時の18万人体制から3万人削減され戦車と火砲も半数に削減されている。海上自衛隊も護衛艦が10隻以上、航空機も60機削減された。航空自衛隊も航空機が100機近く削減されており新防衛大綱では削減にさらに拍車を立てることになっている。日本の防衛予算の特徴で述べたように防衛予算の大半を人件・糧食費と歳出化経費が占めている。当然ながら軍事組織というものは「人」そのものが戦力である以上人件費・物件費は必要不可欠なものであり安易に削減することはできない。ましてや日本のように志願制の場合、給与は一般の企業と同水準かそれ以上支払わねばならないため人件・物件費が多いのはやむを得ないことである。そのため厳しい財政事情を理由に防衛予算を削減するとなると削れる経費は一般物件費しかない。例えば防衛予算を1パーセント削減するとなると一般物件費は防衛予算全体の2割しかないため、一般物件費を5パーセント削減する計算になる。つまりわずか2割弱の一般物件費が自衛隊の活動を支えていることになるのだ。自衛隊で使用する装備は基本的に国産であり、自衛隊向けの生産しかされないため量産効果が期待できず装備1つあたりの単価は諸外国と比べて非常に高騰する傾向にある。これがただでさえ少ない一般物件費を圧迫することにもなっている。そのため必要な装備の配備が延々として進まずに部隊の近代化が遅れるという事態が常態化している。例えば自衛隊で使用する小銃は1989年に正式化されたが単価が高いため正式化から20年以上経過した現在でも配備が完了していない。また自衛隊では戦車や艦船、航空機といった正面装備の更新を優先せざるを得ないためにそれ以外の装備や施設の更新が進んでいない。例えば戦車は1両10億円ほど、平成24年度調達の護衛艦は1隻1155億円であり装備調達の予算の大部分を占める。そのために一部部隊では個人装備を隊員が自己負担したり大正時代に建設され耐用年数が半世紀以上経過した倉庫を未だに使用しているほどである。この状況が続けば自衛隊の作戦遂行能力や災害対処能力は著しく低下することは自明である。つまり防衛予算の削減と装備品の少数調達、価格高騰が更に一般物件費を圧迫しているということであり早急に対策が急がれる。すでに自衛隊は冷戦崩壊後、限界まで人員や装備、予算を削減した。しかし平成17年に閣議決定された「行政改革の重要方針」において自衛官の一層の定員削減進められ翌18年には「防衛予算の名目伸び率0パーセント」が定められた。つまり限界まで削減したが更なる削減を求められ新防衛大綱でも人員、装備、予算の削減が決まった。これは日本の防衛力を崩壊させることにつながるであろう。奇しくも東アジアでは中国やロシア、韓国、北朝鮮などが急速な軍拡を続けており日本にとって脅威となりつつある。その中で日本だけが10年連続で防衛予算を削減するということは東アジアの軍事バランスを崩してかえって紛争を助長することになりかねない。したがってこれ以上の削減に歯止めをかけ本来であれば防衛予算を大幅に増額するべきである。また予算編成を行うに当たり人件・糧食費と歳出化経費が大部分を占めて一般物件費が2割程度しかないという特徴を踏まえて装備や施設の更新が十分に行われるようにするために一般物件費を確保できるような適切な予算編成と増額
をするべきであろう。日本の防衛が崩壊寸前にあることに政治家や国民はあまり危機感を持っていない。この危機的状況を予算面から考え警笛を鳴らしておきたい。