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インド人経営のモーテルにて・・

氷は有料、シャワーのみ  I-8号線のホテル・サークルの反対側での買い物を済ませたが、続いて買い物の後半戦。初日に泊まったカールスバッドの近くに、Carsbad COMPANY STORESというファクトリー・アウトレットがある情報をつかんでいる。モーテルをチェックアウトする際、そこに行くにはI-5号線をどこで降りたらいいか聞いてあるので、迷うことなくたどり着けた。

 案内のパンフレットを開くと、スポーツシューズだけでアディダスにフィラ、リーボックにナイキもあるし、他にもハッシュパピーにコールハーン、ヴァンズなど靴だけで13店舗がテナントになっている。ウェアも、日本でも人気のGAPにPolo、Tommy HilfigerにDonna Karanなどがあるし、総店舗数75軒という事は中レベルのアウトレットのようだ。

 アメリカに行く際は、履いてゆく靴をはじめ、Tシャツや下着など、捨てる寸前の物を持って行くようにしているので、靴は必ず買って帰るし、衣類もこれまでTシャツがメインだったが、最近はポロシャツなど襟付きのものに変化している。

 アウトレットでの買い物の法則として、次にいつ来られるか分からない以上、「迷ったら買え」を実践しているので、両手に買い物袋が増えてゆく。一度車に戻って出直そうとトランクを開けていたら、隣の駐車スペースにメキシコ人の家族の車が入ってきた。目が合ったので「ハーイ」と言うと、家族は次々に店に向かっているのに、父親が話しかけてきた。

「ユー フロム チャイナ or ジャパン・・?」

「フロム ジャパン in トーキョー」

「ユー ライク アメリカ」

「イエース アイ ラブ アメリカ」

「ユー エンジョイ」

「オフコース」

「ハブ ア ナイス デー」

「ユー ツー」

 などと、他愛にない会話を交わして別れたが、これがモーテルのチェックイン時以外で使った、英会話になった。これでは一向に英会話は進歩しないが、人と触れ合ったという心温まる旅の思い出になった事は間違いない。

 仕切り直しの買い物は、Vitamin Worldという店で、サプリメントを買うことにした。日本で流行して偽物まで現れたコエンザイムQ-10にLカルニチン、αリボ酸に各種ビタミン類、プロポリスにローヤルゼリーなどをカゴに入れてレジに持って行くと、店員に

「うちの店は、ワン バイ ゲット ワン」だから、同じ物をもう一つずつ持ってこい」

 と言われてしまった。「ワン バイ ゲット ワン」、つまり1個買うも、もう1個オマケに付いてくるというような意味で、薬に限らず衣類のバーゲンセールなどでもよく使われるフレーズだ。この結果、一挙に倍になり大量のサプリメントを買うことになってしまったが、それでも200$弱だから、日本の半値以下、もしかすると3分の1くらいかも知れない。

 丸1日買い物に費やしている内に、夕暮れが迫ってきた。泊まる所を捜さなければならないが、いざとなれば、「初日に泊まった、モーテル6にゆけばいいや」という気持ちがあったので、アウトレットのフードコートにあった、パンダ・エクスプレスという中華をテイクアウトにして車に乗り込んだ。

 I-5号線に乗って北上したが、ものの10分もしないうちに右手に安い価格を表示したモーテルが見えたので、インターを降りてチェックインするとにした。

 フロントに現れたのは、インド人。アメリカでインド人が経営するモーテルに泊まるのは、これで5回目くらいだろうか。共通しているのは、安い事だがその分設備が質素というか、古くて清潔感に欠ける事もあり、あまり好印象の記憶がない。

 部屋に入ってみたら、質素ではあるが汚さはなく、まずまずといった所だろうか。しかし、バスタブの栓がなく、シャワーしか使えないようになっていた。アイスマシーンも、25¢を入れなければならないタイプで、2つのクーラーボックスを満杯にしようと思ったら、2$近く必要なので溶けた冷水を片方に移して、缶ビールを冷やすことにした。

 次に驚かされたのが、テレビ。チャンネルを変えると、XXXレイティッド=つまりノーカットのポルノチャンネルが現れた。この種のチャンネルが入っているモーテルは、家族連れの客がやってこなくなるので、アメリカでは希である。モーテル6はもちろん、ベスト・ウエスタンやコンフォート・インなど、大手のチェーンではまず見たことがない。

 逆に見たいと思うなら、ロサンゼルスの場合、着陸態勢に入った飛行機が真上を飛んでくる、IMPERIAL HWYを東に走り、その道の両側にあるモーテルに泊まると、かなりの確率でポルノ・チャンネルが見られる。

なかには、2つのポルノ・チャンネルが入ったモーテルもあったほどで、白人×白人、白人×黒人、白人×東洋人、黒人×黒人、黒人×東洋人、白人×東洋人といった具合いの順列組み合わせの他に、グループにコスプレ、教師と生徒など、手を変え品を変え違ったシチュエーションのポルノが、24時間延々と流れ続けていたりする。

 言葉も分からないし、元々情緒に欠ける演出なので、驚いたのは初めて観た時だけで、後は劣情を催すどころか"交尾"という感覚でしかない。

 先ほど買った中華と冷えたビールを呑みながら、そんなポルノチャンネルを観ていると、侘びしさがいつもに増して募るし、食事中に観るものでもないので、観たことのある古い映画なら言葉が分からなくても筋を追えるので、映画チャンネルにして食事を続けた。

3日目は、買い物三昧に決定

絵入りバンドエイド・コレクター  I-8号線がI-805号線と交わったその北&西側には、ショッピング・モールがいくつも並んでいる。フリーウエイを西に走りながら、お気に入りの店の一つである「Bed&Bath Beyond」(以降、略称でBBB)の看板を見つけて、次のインターチェンジで降りることにした。

BBBは、その名の通りベッドルームとバスルームで使う製品を中心に、台所用品も含めてありとあらゆる生活用品が置いてある、小綺麗でセンスの良いメガストアである。この店では、バスタオルに指にはめるツボ押しマッサージ器から、音波振動歯ブラシにシート式のマッサージ機まで、訪れる度に欲しくなりつい買ってしまう物が、必ずと言っていいほど見つかる。

 日本でも東京の都心に住んでいるから、世界中からあらゆるものが集まっているはずだが、BBBで新発見する物があるので、つい看板を見かけると立ち寄ってみたくなるのだ。今回少しショックだったのが、日本でもテレビCMが放映されているフランス製の掃除機の価格が、日本は7-8万円なのに対して、アメリカでは499ドルから599ドルで売っていたことだ。フランス製だから、アメリカでも日本でも輸入品であることに替わりはないのに、この価格差に腹が立つ。

 だからといって掃除機を買ってきたわけではなく、歯ブラシならぬ舌ブラシに、身体も洗えるし頭皮のマッサージもできそうな、プニュプニュの柔らかいプラスチックの突起が付いた洋風タワシなど、自分用と土産用に20ドル以下の物ばかり。

 続いて、一年も前に日本に上陸するというニュースが流れて、その後なかなか実現しない、世界一小売業でもある「WALLMART」に、ライバル店でもある「TARGET」へ。これまで平屋建てしか見たことがなかったのに、両店とも2階建てになっていて、買い物カート専用のエスカレーターまで付いていたのでビックリ。

 人専用のエスカレーターの横に、人は入れずカートだけを運ぶエスカレーターが、登りと下りあるので各2台ずつ計4台が並んで動いている様は、初めて見た。

 ココでは、絵柄付きのバンドエイドを物色。ディズニーアニメのキャラクターやバービー人形、スパイダーマンやスターウォーズなどの大ヒット映画は、毎年バンドエイドの新作として売られる習慣があり、ちょっとしたお礼にいいからと買い集めているうちに、軽く100種類を超えてしまった。

 最近では、TATTO(刺青)という商標の、傷に貼るというより、簡易刺青のように貼って目立って楽しむタイプのものが登場して、そちらの品数がここ数年来る度に増えている。それも、映画「トイ・ストーリー」のキャラクターから、貼っていると気持ち悪がられそうな虫の絵柄や、スケボーやサーフィンやBMXなど、若者が憧れるスポーツの絵柄など、新しいシリーズが続々登場しているので、コレクションが200種類を超える日もそう遠くないような気がする。

×1独身、57歳のアメリカ車旅の夜は更けて・・・

1缶50円のビールで乾杯 1缶50円のビールで独り乾杯  I-5号線と交差するI-8号線に入ると、インターチェンジ3つくらいまでが通称「ホテルサークル」と呼ばれる、ホテル&モーテルの密集地がフリーウエイの両側に広がる。いつもならそのエリアで泊まるのだが、クーポン雑誌の情報により、さらに東へ5分ほど走った所に40ドル台のモーテルが見つかったので、そこに向かいチェックインすることにした。

 夕食は既に買ってあるので、チェックイン後湯沸かしポットで湧かした湯でホウレン草を湯がき、持参のおかかを振りかけてお浸しを作り、これまた持参のカップ麺と共に冷えたビールをグビリ。こんな手軽な食事が、アメリカ車旅の定番となっている。レストランでの夕食のチップは、日本人は10-15%とで良いと思っているが、アメリカの常識は20-25%である。そんなに高いチップを払って、酒酔い運転になるからアルコールを飲めないのなら、モーテルの部屋で食べるに限ると思っている。

 ましてや今回の旅のように、1人でレストランに入れば周囲からジロジロ見られるのが必須なら、傍目には侘びしいと感じるかも知れないが、気軽に1人で食べた方がどれだけ良いか。ベッドに座って足を投げ出し、テレビを観ながら1人食べる夕食は、特別侘びしくも感じないし、いつものスタイルであり、今回はたまたま1人なだけであるという感じでいる。

 テレビの横にある姿見に写る自分に向かって、「乾杯」と缶ビールを掲げ、その姿をデジカメで撮る中年男独り。その有様や、楽しからずやである。これが×1独身57歳の男が、2005年の初夏に楽しむバカンスの実態である。

 「明日はとことん買い物を楽しむぞ」という気分を胸に、ビールの酔いが少しずつ周って、瞼が重くなった中年は夢の中へと誘われていった。

アメリカ最大の都市公園・バルボアパーク

無料のトロリーに乗れば市街地へも  旅の第2日目。カールスバッドのモーテル6をチェックアウトして、目指すはサンディエゴのバルボアパーク。バルボアパークは、1915年に開催されたパナマ・カリフォルニア博覧会の時に建設された施設を基本に出来た公園で、その広さは1.200エーカー。これが東京ドーム何十個分になるかは知らないが、とても1日では全部回りきれない事だけは確かである。

 公園内に14もある博物館&美術館の中には、自然史や人類といった学術的なものから、自動車にモデル鉄道、宇宙航空や写真など、親子でも楽しめそうなものまである。このバルボアパーク以外にも、空母博物館やスポーツチャンピオンの殿堂館など、サンディエゴ全体で26もの博物館&美術館があるというから驚きである。

 しかも、その内のいくつかは火曜日に無料になるという嬉しいシステムになっている。この日も火曜日だからと、喜び勇んで出かけたものの、第5火曜日は例外とかで、無料になる博物館はないと言われてしまった。残念。仕方ないので11ドル支払って、アイマックスシアターが観られる、ルーベン H フリート 科学センターを見学することにした。

 科学と言っても難しいものではなく、小学生が課外授業でやってくるほど、遊びながら楽しめるもので、深海艇に乗って深海に棲む生物を探索に行く、別のアトラクション・ライドもあって、大人でもそこそこ楽しめるのがいい。メインのアイマックスシアターは、ナイル川の源流からゴムボートで下る映像で、激流に挑戦するラフティングや、瀑布の近くをロープで降りたり、史跡の数々が現れたり、見応え十分。6月からは、ジェット戦闘機の操縦室に備え付けたカメラによる、迫力ある映像が予告編で流れた。

 このパーク内に、10分おきくらいにやってくる赤い車体のとラムに乗ると、サンディエゴ港エリアの観光スポットまで連れて行ってくれるが、このコース沿いに歩いて行けるマイクロ・ブルワリーがないものかと、総合案所(House of Hospitality)で聞いてみたが、これまた「Nothing」という残念な返事が返ってきた。

 無料のとラムに乗って、景色の良いハーバー・エリアで海を観ながら地ビールを飲んで、再びトラムに乗って戻ってくれば、酔いも少しは醒めるし、グッドアイデアだと思っていたプランが立ち消えになってしまった。仕方なく、住所を頼りに車で出かけることにした。比較的有名なラ・ホヤのすぐ南にパシフィックビーチの海に面した、店の名前もベタな「パシフィックビーチブリュウハウス」。

 午後3時を回った時間のせいか、店はがら空きでテーブル席にもカウンターにも誰もいない。とりあえずアンバーエールを注文したが、従業員もやる気がないのか食べ物のメニューも持ってこないし、「他にご注文は・・」とも聞いてこない。知っている選手が一人も居ない、テレビに流れている野球ゲームを観るともなしに観つつグラスを傾け、異邦人の旅行者気分に浸った。

 通りを渡ったところに、ラルフスというスーパーがあったので、そこで夕食の買い物をして、クーポン雑誌で調べたR8号線沿いのモーテルを目指した。


第一夜はモテール6で決まり

チープなモーテル・チェーンの代表格 1缶50円のビールで独り乾杯  15年前のモーテル6と言えば、アメリカ一犯罪の多発するモーテルの烙印を押されていたものだが、全体的なC.I.が施されてからは、簡素だが、広くて清潔、ITの接続環境も整って、どこの町にあってもそのエリア有数の低料金で泊まれるモーテルとしての、イメージチェンジが図られて成功している。

 ハイウエイを100kmのスピードで走っていても、モーテル6の看板と共に、電光掲示板に書かれた宿泊料金が目印になり、インターチェンジを降りてチェックインできるのがいい。郊外にレゴのテーマパーク「レゴランド」があるカールスバッドのモーテル6は、看板に49.95セントとあった。これに10%の税金を加えた、約55ドルが宿泊料金となる。

 アメリカの宿泊費はここ数年値上がり傾向にあり、3.4年前のモーテル6なら29.95セントも見つけられたし、税金をプラスしても40ドル手前で収まる34.95¢が主流だったと記憶する。これが一部屋の料金で、2人で泊まって割り勘にすれば、東京でカプセルホテルに泊まる価格よりずっと安く、それでいて日本の一般的なビジネスホテルの3倍はありそうなスペースが、一夜の宿として占拠できるのだから申し分ない。だから、「何はなくてもモーテル6」「困ったときのモーテル6」などと、勝手なキャッチコピーを付けては、何十泊したか分からないほど泊まった経験がある。

 カールスバッドのモーテル6から西に向かうと、ほんの数分で西海岸沿いを走るアムトラックの線路が現れ、それを越すとすぐに海が見えてくるリゾート地である。モーテルのすぐ向かい側にアルバートソンというスーパーマーケットを見つけ、そこの総菜コーナーでフライドチキンとサラダ、そして一番安い価格の缶ビール一箱(24缶)を買い、部屋で夕食をとることにした。

 今回このアルバートソンというスーパーマーケットがやたら目に付くと思ったら、ラッキーというスーパーを吸収合併したため、数が急に増えたそうだ。他に、ラルフズやヴォンズ、セーフゥェイやフード4レス(フード・フォー・レス)が巨大スーパーマーケットのチェーンで、今回の旅の途中でアルバートソンの会員カードを入手したから、フード4レス以外のカードは全て持っている事になる。

 アメリカの田舎町のモーテルで、中年というより熟年(もしかして老年?)に近いような男が1人、意味の分からない英語のテレビを観ながら、フライドチキン片手にビールを流し込む風景は、もの悲しいのか、侘びしいのか、羨ましいのか、楽しいのか、我ながら判断に苦しむところだ。

 ビールは瞬く間に3缶、4缶、5缶と空き、瞼が重くなってきたので、テレビの音量を落として、部屋の照明替わりにつけたまま眠ってしまった。時差呆けと旅の疲れを解消すべく、一挙に爆睡して目が覚めたのが、朝の4時。このまま起きて出発しても、6時にはサンディエゴに着いてしまうので、再びビールを飲んで二度寝することにした。

2005月5月の旅は・・・

レンタカーは日本車  30日に出発&ロス着で、25回目のアメリカ車旅は、たった1人の気ままな感じでスタートした。レンタカー会社は、日本語が通じるさくらレンタカーだから、書類の手続きもスムーズに終了。1日250マイルまでの走行なら、基本料金でOK。それを1マイル(約1.6km)過ぎる毎に、50¢の割合で追加料金が加算される。しかし、ロスとサンディエゴを往復するくらいなら、これを超えることはないので安心である。

 車は4ドアのカローラ。少し前までは、「アメリカに来た以上、日本車じゃない方がいい」と、車種が選べる場合はアメリカ車を選んでいたが、過去2回連続で選択の余地なしにオートクルージング・システムが搭載されてない韓国車だったり、アメ車はアメ車でも窓の開閉が電動式ではなく、手動式で開けるような年式の古い車になったことがあり、「設備の整った日本車ならGood」と思うように気が変わった。

 なにせ、日本では10代で取得した免許証を20代の終わりに「この国で二度と車の運転をするものか」と、大見得をきって返却した身としては、年に一度のアメリカ以外で、車を運転するチャンスはないのだから・・。

 書類にサインして、荷物を車に積み込み、いざ出発。ハイウエイ405号線を北に進み、10号線と交わる手前で降りて、免許証の住所を借りているKさんという友人宅へ土産を届けにゆく。上がり込んでお茶を飲んでいるうちに時間が経ち、ビールまで勧められたが頑なに断って、サンディエゴに向けて出発した。

 ともあれ、ここで交わした日本語を最後に、当たり前の話だがしばらく日本語が使えない。英会話に自信がないので電子辞書を持参したが、役立つチャンスはあるのだろうか。

 405号線を南下すると、そのまま5号線に合流する。

「5号線に合流してしばらく走るとレストエリアがあって、トイレ休憩をしたくなくてもそこに入ると、クーポン雑誌が手に入るから入手しておくと便利だよ」

 という忠告を受けていたので、立ち寄ってみたら珍しく3種類の雑誌が手に入った。普通、ガソリンスタンドやファーストフード店においてあってもは1種類のことが多く、1度に3冊手に入るとは儲けものである。

 フリーペーパーのクーポン雑誌は、地域や町ごとのモーテルが載っていて、安い所だと20ドル台から、通常でも30ー40ドル台のクーポンが何百と載っているので、チープ・マネーを心がけている旅行者の必需品である。それが3冊もあるうえ、AAA(アメリカン・オートモーヴィル・アサシエーション=通称トリプルA=アメリカ版JAF)発行の、南カリフォルニア州版のツァーブックもあるので、宿探しに苦労することはない。

 しかし、その両方とも役立てることなく、第1夜のモーテルが決まった。というのも、朝のうちにロスに到着するいつもの大韓航空と違い、シンガポール航空がロスに到着するのは昼過ぎ。それから入国手続きを行い、レンタカー会社に立ち寄り、Kさん宅で話し込んでいるうちに、軽く3時を回ってしまった。

 眠気も襲ってきて、とてもサンディエゴまでもちそうもない。サンディエゴのモーテル情報は、クーポン雑誌で見つけてあるが、その手前の町は何も調べてない。居眠り運転はしたくないので、走りながら安いモーテルは見つからないかと思っていたら、カールスバッドの町に差し掛かった所で、安いモーテルの定番であるモーテル6の看板を見つけて、急遽チェックインすることにした。


赤の他人と行く、アメリカ車旅

 サンディエゴを訪ねるのは、これで5回目。いつも、旅の同行者のリクエストで動物園を見てばかりだから、コリアン街やマイクロブルワリーなど、これまでにないスポットを探索してみるつもりだ。

 サンディエゴ以外で選んだのが、ロスから少し南にあるTemeculaというワイナリーが集結するスポット。近くに温泉も見つけたし、こちらも新発見がありそうだ。ナパからサンタバーバラまでの間にある、セントラル・ヴァレーやパソ・ロブレスなどのワイナリー・エリアは、機会がある度に訪ねている。特にナパは、その北にカリストーガという定宿にしている温泉町があるため、かれこれ10回くらいは訪ねていることになる。

 残るは、この一人旅がどんな展開をみせるかである。過去には、飛行機の隣の席に座った63歳の女性と話をしているうちに、「私はグレイハウンドのバスで回る予定だったけど、途中まででいいから貴方の旅に同行したい」と言われ、見ず知らずの年配の女性と2週間一緒に旅をしたことがある。

 中学生レベルの英語しかできないこちらとしては、「英会話学校に通って、ある程度英会話を習得してきた」という彼女は、度胸の座ったおばさん的な性格も手伝って、旅の途中で何かと役だってくれた。このおばさんと同じ年になったとき、2ヶ月も長距離バスで旅をする度胸と気力があるかと己に問うと、自信満々に「yes」とは言えない自分が居る。

 彼女とは、その2年後にアメリカ車旅をしているが、それももうひと昔前のことになる。70歳半ばになっても、未だに旅を繰り返しているのだろうか。

 逆に一番若い旅の同伴者は23歳の女性で、「パソコンのスキルをアップして、将来アメリカに移住したい」という夢を聞き、一緒にロスにある広告代理店を見学しに行ったことがある。彼女とは、その後も3年間ほど仲良しな関係を保ったが、現在は結婚してアメリカに渡り、夢の扉を開けたという。心から「おめでとう」の言葉を贈りたいし、すてきな人と出逢ったという思い出を「ありがとう」と言いたい。

 他にも29歳の看護婦さんと、3年間連続で原生自然を巡る旅をしたり、人妻になった高校時代のGFのリクエストや、働く仲良し主婦2人と出かけてみたり、「アメリカ旅は、1人より複数で・・」という価値観に基づいて、25回も太平洋を往復している変な塾年世代(?)の男がこの私です。

 

旅のプランは・・

 まずはレンタカーの予約だが、毎回4社くらい価格を比較して決める事にしているが、期間もサイズも同じなのに1週間のレンタルで100ドル近い差がでるので、ハーツにバジェット、エイビスにナショナル、アラモと色々なレンタカー会社を利用してきたが、今回一番安かったのは「さくら」という日系アメリカ人が経営する会社だった。

 それほど大きい会社ではないためか、LAX空港を巡回するシャトルバスはなく、空港から電話をすると迎えに来てくれるシステムだという。全て日本語で確認が出来るし、他社より安かったのでここに決めたが、果たしてどんな会社なのだろうか。

 旅のプランは、あまり移動距離を取らないで、滞在型にしようと決めた。関東平野ほどの面積があるロス市内に居てもいいが、サンタモニカもパサディナもロングビーチも行ったことがあるし、朝晩のラッシュと犯罪件数の多さを考えると、あまり滞在したい気が起きない。

 そこで南に下り、世界最大の海軍の港があり、治安もそこそこ良さそうなサンディエゴに行くことにした。ネットで調べてみたら、この町にはコリアン・ストリートもあるし、マイクロブルワリーも4軒ある。世界最大の動物園は3回ほど見学したが、同じバルボアパーク内には10数種類の美術館&博物館があり、ロスに到着した翌日の火曜日は、その内の数館が入場無料になるので、こんなオトク情報は見逃す手はない。

 他にも、ファーマーズマーケットのスケジュールが分かったり、先日来日していたペリー提督の子孫関連では、市内でペリー来日150周年記念の写真展まで開かれていることが判明した。

 こうして調べ物をしていると、3年前にロスの空港で会った2人のアメリカ人女性を思い出す。これから日本に行くという彼女たちは、「東京で回りたい所が3ヶ所ある」と言っていた。一つ目は、完成したばかりの六本木ヒルズ。二つ目が、猫好きなので、キティーちゃんに会いにサンリオワールドへ。三つ目が、「アイアンシェフの店」というから、何のことかと思っていたらネットで検索して印刷した分厚い資料を見せてくれ、料理の哲人の店=四川飯店という事が判明した。

 その時は、これぞネット社会の旅行の仕方かも・・と驚いたが、今同じ事をしようとしている自分が居る。

もうすぐ、通算25回目のアメリカ車旅へ出発

 これまで過去の旅の記録を綴ってきたけど、もうすぐ新しい旅に出発する。いつもそうするように、「旅ともさがし」というサイトで同行者を募ったところ、今回の反応は男性1人に女性3人。それも、北関東に鹿児島に秋田に海外在住で、北関東以外現地待ち合わせになるかも・・・と思っていたら、30通近くメールのやり取りをした末に、話は空中分解してしまった。

 最初のプランは、現地2週間14泊16日の予定で回るはずだったが、「親の承諾が出ない」(26歳にもなって・・)、「グランドキャニオンまで行かないなら、パス」、「現地のツァーに申し込んでしまった」というのが、女性たちの理由。男性はずっと「Go」の意見だったけど、「免許証を持ってない」という理由から、こちらからお断り申し上げた。

 今や机上の空論となった旅のプランを紹介すると・・・。

 ロス空港→レンタカー会社→AAAオフィス→韓国スーパーマーケット→バーストゥー又は、デザートホットスプリングス泊→ジョシュア・ツリー国立公園→砂漠の温泉→(遠回りするとブラウリィ泊→アルゴ・デューン=砂丘)→インディオ泊→ネバダ州→アリゾナ州→メーター・クレーター(大隕石の跡地)→フラッグスタッフ泊→グランドキャニオン(サウスリム)→モニュメントヴァレー近くで泊→モニュメントヴァレー→ペイジ泊→アンテローブキャニオン→レイクパウエル→ペイジ泊→ザイオン国立公園→ユタ州セントジョージ泊→ファイヤー・オブ・ヴァレー州立公園→レイクミード→フーバーダム→ラスベガス泊→(市内観光→又はトイヨベナショナルフォレスト)→ラスベガス泊→デスヴァレー国立公園→ローンパイン泊→ロサンゼルス方向へ

 これで10泊ですが、トラベルとトラブルが同じ語源のように、何かあったり、気に入ったところがあれば延泊したり、おみやげの買い物に費やしたりしているうちに、14泊になってしまうと思います。
 これで全行程軽く3000km突破すると思うので、北海道の最北端稚内から最南端佐多岬を軽く超える距離を走ることになるはずです。
 14泊16日の旅行費用は、飛行機代+宿泊費+食費+酒代+レンタカー代+ガソリン代込み、おみやげ代別で約15万円を予定してます。毎回この程度で収まりますが、世界的な石油の高騰がどれだけ響くかがポイントになりそうです。いずれにしても、飛行機代を除けば、15万円を超えることはないと確信します。

 この距離を女性のためなら運転しても・・・という気になるが、男のためにはソノ気にならない体質なので、結局既に6回経験済みのグランドキャニオンに仕方がないので、期間も半分縮めて久しぶり一人旅を楽しむことにした。

キャンパスで参加費無料ピクニックのビラをもらって・・

 数日空いてしまったので、その分長くしたわけでもありませんが・・。

 ある日、シーサン(カリフォルニア州立大学ノースリッジ校の愛称)のキャンパス内を歩いていたら1枚のビラを手渡された。
「日本人の方ですか。明日よかったらピクニックに行きませんか? 参加費は無料です」
 嬉しいことに、ビラ配りをしている女性が日本語で話しかけてくるではないか。居候という立場上暇はいくらでもあるし、無料ならと心が動いた。
 念のため、
「ここの学生ではなく観光客なんですが、それでも良ければ参加させてもらいます」
 と答えると、「OK」だという。彼女の名前は、かおりさんと知れた。
 集合時間を聞いて別れた後、それにしても大学で参加費無料のピクニックがあるなんて変だなと思いつつ、翌日T君と連れ立って待ち合わせ場所に向かった。大型バスの前に、かおりさんを取り巻くように、学生たちが三々五々集まっていた。その大半は日本人だが、白人の若者もちらほら混ざっている。
 バスに乗り出発前にまずしたことが、いかにもアメリカ的で印象に残っている。それは、配られた紙にサインすること。その紙には、
「このピクニックに参加したのは自分の意志であり、強制的に勧誘されたわけではありません。よって万一ピクニック中に事故が起きても、主催者を訴えることはしません」
 というようなことが書かれてあるという。
 その承諾書にサインしなければ、バスは出発しない。したくない人は、バスから降ろされてしまう。事故が念頭にない以上に、その上での訴訟なんて思いもしなかっただけに、アメリカは州が合わさった法律の国であることを、改めて認識したものだ。
 さらにピクニックに参加した日本人学生との会話も、別な意味で耳に残っている。シーサンのドミトリーに寄宿していている彼女は、
「日本人が行きそうなロスのスポットは、すべて回ってしまい退屈していたから・・」
 と、このイベントに参加した動機を説明する。
「ディズニー・ランドにもハリウッドにも、ガイドブックに載っている所はみんな行っちゃったから、もう行くとこがなくて・・。車は持ってないし、寮からでるチャンスがあれば、興味がなくてもとりあえず参加することにしているの」
 彼女にしてみれば、ガイドブックに載っている場所だけがロサンゼルスの全てであり、あらかじめ本で読んで知っている所を、自分の眼で確認する作業だけが観光のようなのだ。現地にきてみて、新たに知った場所へ行こうという好奇心が、微塵もない感性の寂しさを感じ、内心呆れながら留学体験が無駄にならないことを願った。

 バスが走り出すと、南カリフォルニアに棲息する鳥類と植物が書かれた手作りのチラシ7枚が、全員に配られた。しかも親切なことに、鳥(31羽)や草花(22種類)の絵が描いてあるだけでなく、英語のほかに日本語の解説付きという丁寧さが嬉しい力作である。

  ジェイ(JAY)はかけす、ガル(GULL)はカモメ、そしてロビンフッドのROBINは、ヨーロッパではこまどり、アメリカではつぐみになることを初めて知った。そんなチラシの一部を紹介してみよう。

モッキンバード:美しく歌う鳥。羽を広げた姿が印象的。キャンパスのフィールド、木が繁っている所でよく見

          かける。
スクラブジェイ:頭から背、尾にかけてブルー。喉から腹にかけては白(薄いグレー)。背中の一部分はグレ

          ー。カリフォルニア・ジェイとも呼ばれる。
ポイズンオーク:樫の木の根元付近に成育する毒を持った草。皮膚などに触れるとかぶれたり、異常なか

          ゆみに悩まされる。色は艶のあるグリーンであることが多いが、秋には赤味を帯びるものあ   

          る。葉の形は、丸みを帯びたもの、ギザギザのあるものなど色々あるので要注意。見分け

          方は、葉が3枚ずつ1組みになっていること。
トゥリータバコ:6~25フィートの藪で、細長いチューブ状の黄色い花に特徴がある。

 バスの行く先は、シーサンから北へ1時間余り、ロス郊外に広がるサン・ゲーブル・マウンテンという所だった。周辺一帯は、エンジェル・ナショナル・フォレスト(森林保護区)に指定されているものの、鬱蒼たる森林というイメージはまるでない。地肌がむき出しになった薄茶色の山肌に灌木が生え、一滴の水もないドライ・リバーの痕跡が認められるような、お世辞にも風光明媚とはいえない場所だった。
 辺り一面に広がる緑の芝生もなければ、美しい木立ちの下に点在するベンチも見当たらない。
「えっ、ここでピクニックするの」と、

 文句のひとつも言いたくなるような感じで、ここに行楽に来る人はよほどの物好きに違いない、と思ったものだ。実際、我々のほかに人陰も見当たらず、なにを好き好んでわざわざこんな辺鄙な所にやってきたの
か。参加費無料ということと、歩いて帰るわけにもゆかないという2つの状況から、苦情の言葉かろうじて飲み込み、成り行きにまかせるしかないと我慢した。
 なぜこんなピクニックの企画をたてたのかは、現地に到着しておおよそ察しがついた。バスから降りると、初老の男性が偶然通りかかった風を装って近づいてきて、かおりさんと親しげに挨拶を交わしているではないか。かおりさんの紹介によると、専攻している大学の先生だという。
「せっかくだから、先生も一緒にピクニックをしましょう」とメンバーに加わった。
 要するに、このピクニックは授業の一環なのである。

 大学にはレクリエーション学科なる専攻科目があり、先生が授業で教えたことを生徒が理解しているかどうか。さらには、それを第3者にちゃんと伝える能力があるか否かを、ピクニックという形でテストしているわけである。
 みんなで歩き出す前に、
「分からないこと、知りたいことがあったら、なんでも質問してください。この草の名前はなんですか。あそこに飛んでいる鳥はなんという名前ですか、といった感じにどんどん遠慮なく聞いてください」、といわれた。
 こちらから質問しなくても、歩いている途中で立ち止まり、いろいろ自然についての話しを興味深く教えてくれる。例えば、その辺に生えている中で一番大きな木の前にくると、こんな話しをしてくれた。
「この森の主役はこの木です。この木にはこんなピンポン玉くらいの実がなります。その実を食べにリスがやってきます。落ちた実を食べに鹿もやってきます。茂みには、夜行性のカンガルーネズミも棲んでいます。それらの弱い動物を狙って、肉食獣のコヨーテやボブ・キャット現れます。空からは、猛禽類の鷲や鷹が小動物を狙っています」
 と、何の感動も湧かないありふれた景観に息づく自然の営みや生態系を、興味深く説明してくれる。
「この草はワイルド・セージです。セージはソーセージに使う香辛料のセージのことで、ネイティブ・アメリカンのインディアンたちも、料理や薬としてこの野性の草を使っていました。配ったチラシにもあるように、セージの仲間には白っぽい緑色をしたもの、強烈な香りのするラベンダー色のもの、ブラシのような細長い葉をしたものなど、いろいろあります。一枚葉をちぎって手のひらに乗せ、パンと両手を叩いてから、匂いを嗅いでみてください。ソーセージのあの匂いがしますよ」
「この奇妙な形をしたひょろ長い草はユッカといい、インディアンたちは大切な食料にしていました。どの部分を食べていたと思いますか。放射状に広がる細くて鋭い葉は、見るからに固そうで美味しそうじゃありませんね。これだけ乾燥地帯であれば、きっと茎も乾いています。そう、だとすると後は地面の下で、根っ子を食料にしていた、が正解です」
 その昔、この辺りにはインディアンがいて、ドライリバー(干上がった川)に架かったコンクリート製の橋桁には、当時の生活ぶりを描いた絵がペイントされていた。
 しばらくして、山道にさしかり登り坂になった。
「あの山を見て下さい。こちら側が北であっちが南です。どちらの方が、草木が沢山生えてますか。そうです、温暖な日本では日当たりのよい南斜面のほうが、樹木の成長に適していますが、年間降雨量の少ないカリフォルニアでは、北側の斜面のほうが土の中のヴァイタミンも豊富なので、植物にとって苛酷な気象状況の南側より、発育はいいんです。あとで、地面の中のヴァイタミンの量が、北側と南側ではどのくらい違うかお見せします」
 子供にも分かるほど噛み砕いた説明だが、いちいち納得することばかりで、殺伐とした景色に体温が伝わるように興味が湧いてきた。バスが到着したばかりの印象と違い、なんでもない景色が段々いとおしくなってくるようだ。文句の言葉を飲み込んで本当に良かったと、深く反省しつつ内心冷汗をかいた。
 そして大笑いしたのが、地面に落ちている小さく黒く丸い物を見つけたときのこと。初老の先生がそれを指さして、「カォーリ、カォーリ」というので、先を行くかおりさんを呼んでいるのかと思ったら大違い。
 何度も「カォーリ」と発音しても分からない日本人のために、老先生は「ライク・ア・ウルフ」とか「ニア・ザ・ジャッカル・オア・リカオン」などと、説明におおわらわ。そこではたと気がついたのが、日本語でコヨーテと発音する動物は、英語では「カォーリ」と発音するらしいと・・。
 案内役の「かおりさん」と「カォーリ」。偶然とは、いえそれ以来「かおり」という名前の人と出会うと「コヨーテ」を、「コヨーテ」と聞けば「かおりさん」を必ず連想する対語のような形で、わが脳みそにはインプットされている。
 今回のような大人とは別に、小学生くらいの子供と行くピクニックもあるという。その場合、自然のなかで空き缶やたばこのフィルターなど、人工的に合成されたゴミを見つけると、こう説明するそうだ。
「こういう物を捨ててはいけません。なぜだか分かりますか。これらのゴミは、あなたが大人になっても、ほとんど形を変えずにこのままの姿でここにあります。自分くらいいいだろうと思って捨てると、自然はどんどん汚れてしまいます。美しい自然の調和を乱すのは人間だけで、動物たちが自然を汚すことはありません。だから、太陽の光や土に含まれる微生物など、自然の力で分解できないゴミを捨ててはいけません。プラスチックやアルミニュウムなどのゴミは、リサイクルするのが人間の知恵です。わかりましたか?」
 噛んで含めるように、自然環境を大切にする心を教えるという。こんな情操教育を、日本の幼児たちにもぜひ行って欲しいと思ったものだ。

 願っても望めない、とても興味深く収穫が大であった自然学習ピクニックが終了し、バスは夕方シーサンにもどってきた。偶然手渡された1枚のビラという不思議な縁により、半日楽しく過ごせたわけだが、これも一期一会で明日からは会うこともないと思うと、どこかなごり惜しい。
 かおりさんに、面白くためになったお礼をいって別れようとしたら、またもや意外な誘いを受けてしまった。こちらの思いが通じたのだろうか。
「今度の週末、サプライズ・キャンプに行きません?」
 しかし、サプライズ・キャンプってなんだろう。サプライズが驚くという意味なのは分かるが、どうしてそれがキャンプと結びつくのだろうか。意味も内容も理解できないまま、暇な観光客はまたまた「イエス」と答えていた。
 その後でゆっくり説明を聞くと、かおりさんのボーイフレンドの誕生日に、本人だけに知らせずにキャンプに誘い出し、キャンプ場に先回りした友人たちで、彼を驚かせて祝おうという趣向だという。昨日知り合ったばかりの人から、まだ見たこともない人の誕生パーティーに泊まりがけで誘われるなんて、なんてアメリカ的なんだろう。
 当日は、T君の持っている一番大きな鍋に料理を作り、車3台に分乗してキャンプ場に向かった。目的地は、サンタバーダラの南東にあるレイク・カシータス。いつも疑問に思うのだが、このカシータスのようにレイクが頭に付く場合と、後ろにする場合ではなにか一定の仕来たりがあるのだろうか。湖の大きさではなさそうだし、どうでもいいような素朴な疑問が未だに解けないでいる。
 キャンプ場は、料金所を兼ねたゲートを使って出入りするようになっていて、キャンプ・サイトに空きがない限り、あらかじめ予約した車しか入れない。代表者の名前を告げて料金を払い、割り当てられたキャンプ・サイトの番号を地図で確認して、そちらへ向かった。われわれの場所は、湖に面しているだけでなく、背後の丘を登ったところに売店があり、食料や燃料が足りなくなった場合も買い足すのに都合がよい。
 別行動のかおりさんは、テントや寝袋などを人数分レンタルして、現地で合流。湖のほとりにテントを張り、ほぼ料理が完成したころ、何も知らないボーイフレンドが騙し役の友人に連れられて登場した。
 みんなの策略が大成功したことでひとしきり盛り、静まったところで全員が改めて自己紹介。総勢16人の内訳は、日本人の他にも台湾から移民した学生や、アメリカ在住の日系3世も混ざっている。夜遅くまで騒いでも、キャンプ・サイトの間隔が離れているため、苦情も出ないし他人の騒音も聞こえない。

 みんなで持ち寄った料理を食べ、買い集めてきた酒でなんども乾杯くり返した。誕生日用のケーキを切り分けてデザートにし、キャンプ・ファイアーを囲んで歌を唄い、はたまたゲームに興じてアメリカ流の宴会を存分に楽しんだ。
 キャンプのスタイルもさまざま。我々のようにセダンで来る人は少数派で、4WDやキャンピングカーが主流だが、持参する遊び道具が半端じゃない。特別な牽引免許が不要なせいもあり、3輪バギーカーやトライアル・バイクをはじめ、釣り用のボートも自家用なら、乗馬を楽しむために馬まで連れてくる人もいる。
 キャンピングカーにしても、アメリカではモーター・ホームとかハウス・トレーラーと呼ばれるくらい、“移動する家”そのものの設備がそろっている。冷暖房完備は当たり前。レンジにテレビに冷蔵庫、シャワーからベッドまで充実した設備が、限られた空間にコンパクトに収納されている。さらには、上水道の供給から下水道の排水もスムースに行え、車のバッテリーに負担がかからぬよう、AC電源やケーブルテレビのコンセントまでそろっていて、限りなく居住空間に近い快適さを味わえる、RV(レジャー・ヴィークル)マークの付いた専用のキャンプ場も少なくない。

 朝の目覚めは、震え上がるほどの冷えこみと、湖からあがってきた群れなすガチョウの鳴き声で起こされた。湖上には幻想的に朝靄がかかり、ボートを浮かべた釣り人も遠望できる。都会暮らしをしているせいか、靄とか霧とか雹とか霞みなど、雲や雷以外の雨冠の付いた自然現像を見たのは遠い昔のことである。
 さらに遠くの丘に目をやれば、木立ちの中から野性の鹿が姿を現した。ひとくちに鹿といっても、「あれは、ディアの仲間」だと教えられた。ディアとは、映画『ディア・ハンター』に登場する鹿で、他にも代表的な種類としては、エルクにムースにカリブーにビッグホーン、そしてカリフォルニアでは絶滅してしまったが、オレゴン州には棲息するというプロングホーンなどの仲間がいるという。いずれにしても野性動物が主人公のエリアに、人間がよそ者として入り込んでいる関係を知らされた。
 こんなに自然が豊かなところでキャンプをして、1人当たり22ドルという安さ。これにはキャンプ場の入場料をはじめ、寝袋とテントのレンタル代と往復のガソリン代、食費と酒代のすべてが含まれていて、足して割り勘にした数字がこれである。なかでも感心したのは、キャンプ場代が車1台に付きいくらという設定なので、1人で来ても1台に6人乗っていても同額。排気ガスが自然に悪影響を及ぼす配慮を考えた、アメリカ的な合理性精神がここにも働いているようだ。
 この金額でこれだけの自然を楽しめるなら、文句のあろうはずがない。なにかすごく得した気分である。
日本では堂々と「オートキャンプ場」と明記してあるのに、単に駐車場が付いているだけで、キャンプ・サイトまで食料やテントを歩いて運ばなければならないところも珍しくない。そのうえただ大地にテントを張るだけなのに、カプセル・ホテル並みかそれ以上の料金が相場になっているから、悲しくなる。
 しかも、せっかく都会を逃れてやってきたのだから、鳥たちのさえずりを聴き、木立ちを吹き抜ける風の音に耳をすませたいのに、カラオケが鳴り立てる輩がいたりして、とても自然を楽しむどころではない。
こんな風なので、日本ではいまひとつアウトドアを趣味にする気になれないでいる。

 レンタルしたキャンプ用品を返しにいって驚いた。巨大な体育館2つ分ほどの店内に、ありとあらゆるアウトドア用品が所狭しと並んでいる。同じトレッキングでも、アラスカからグランド・キャニオン、さらには海面より低いデスヴァレーまである国である。寝袋でも夏用冬用に加えて極寒用とあるし、鹿や熊撃ちの猟銃もあれば、鳥撃ちの散弾銃も並んでいて、自分で薬きょうに火薬を詰めて弾丸を作るキットまで売っている。しかも、こんなに安い値段なら欲しいと思うものばかり。
 しかしいくら安くても、日本の混雑していてゴミが散乱する自然のなかで使うのでは、興冷めである。たとえ美しい自然環境があっても、そこへたどり着くまでとそれを利用するための料金が、日本ではどう考えても高過ぎて見合わない気がする。年1回のアメリカ旅行のために、T君に預けて置く手もあるが、貧乏旅行者はその余裕すらないので、泣く泣く指をくわえてあきらめることにした。
 店を出たところで解散と思いきや、かおりさんからまたまた予定にない提案が出された。
「まだ陽も高いし、このまま帰っても仕方がないから、この先特に予定がない人だけで、馬に乗りにゆかない?」
 ピクニックとキャンプに続き、乗馬という予想もしてなかった魅力的なおまけを断わる理由はない。乗馬は未体験ながら、かくべつ予定もない2人はすぐさま諸手を上げて賛成した。乗馬ができる牧場は、絶叫コースターで有名な遊園地、マジック・マウンテンの隣りにあるという。牧場へは10人ほどで向かうことになった。
 まずは申込書の記入から。身長体重のほかに、過去の乗馬体験と乗りたい馬の種類を書く欄がある。種
類といっても、サラブレットとかアラブ系など馬の品種を指すわけではない。スロー、ミディアム、ファーストなど、足の速さを表すもの。また体重や乗馬体験を書くのは、仔馬や老馬に肥満体の人を乗せたら可哀相だし、気性の荒い馬を初心者に回さないようにする配慮である。
 1人を除いて皆初体験なので、馬の種類は9人が「スロー」に丸を付けた。馬10頭ほどのグループに、テレビや映画で見るカウボーイ姿の牧童が1人つき、いざ出発。鞍の上は、地面で見るより高いことと、胴体が意外に太くガニ股状態になることを知らされた。しかも先頭の馬が走り出すと、馬にも集団心理があるのか「スロー」の馬も走り出してしまう。初体験者は、降り落とされないようただしがみつくしか能がない。馬に乗っているというより、馬に運ばれているという方が当たっている。
 いちおう、たずなの持ち方をはじめ、引いたたずなの方に曲がるとか、馬の腹を踵で蹴れば進むとか、馬の胴を両足で締め付ければ止まるなど、かい摘まんで馬の操り方は教わった。しかし、集団心理の方が強いのか、はたまた乗せている初心者をなめきっているのか、いくらたずなを引いて馬に「スロースロー」とか「ストップ」と叫んでも、乗り手の意志などまるで聞いてくれない。気分はほとんど、映画の『シティ・スリッカーズ』(へなちょこ野郎という意味)である。
 しばらく馬の背に揺られているうちに、遠い過去の記憶が蘇ってきた。なにを隠そう、少年時代はガンベルトを腰に巻き、早撃ちの練習に熱を入れたほど、西部のガンマンに憧れていた。テレビの西部劇で決闘シーンがあるや、自分もガンベルトを腰に巻いてブラウン管に立ち向かい、早撃ちの競争をしたものだ。人差し指でクルクルと回した拳銃を、スポッとホルスターに収めるガン・プレイも、指の皮がすり剥けるほど練習した。
“世界一0.07秒の早撃ちガンマン来日!”の宣伝文句に踊らされ、親にせがんでそのショーを観たさに、千駄ヶ谷の東京都体育館に出かけたこともある。世界一の早撃ちガンマンの名前は、確かマーク・リードだったように思うが、勘違いだろうか。
 これほどの入れ込みようだったので、西部劇は文字通りテレビにかじり付き欠かさず観ていた。どのくらいファンだったか、試しに記憶の糸をたどってみると・・。
 流れ者のジェフと若き牧場主スミスのコンビがよかった、『ララミー牧場』。白馬シルバーにまたがる覆面姿の正義の味方が、純銀の弾丸を使いインディアンの相棒トントと活躍する、『ローンレンジャー』。中折れ銃を使う遊び人の博打うちを、声優の名古屋章がとぼけた感じを出していた、ジェームス・ガーナー演じる『マーベリック』。
 声優ロイ・ジェームスのアフレコが本物に思えた、ジェームス・アーネス扮する保安官の『ガンスモーク』。毎回オープニングで、特注のライフルを腰だめのまま連射する映像と共に、「スターリング チャック・コナーズ」のナレーションが流れる、やもめの父と息子の物語り『ライフルマン』。家長のベンを中心に、パンダローサ牧場のカートランド一家が団結して事件を解決する、『ボナンザ』・・等々。
 他にも、若きクリント・イーストウッドが出演していた牛追いの『ローハイド』に、珍しい女性ガンマンが主人公の『アニーよ銃をとれ』。ヘンリー・フォンダが保安官役を演じていた、『胸に輝く銀の星』。さらには『遥かなる西部』に『大平原』、思いを巡らすと次から次に記憶の引き出しが開いてきりがない。なかでも特に好きだったのが、スティーブ・マックィーン演じるジョッシュ・ランダルの『拳銃無宿』。
 逃亡中の罪人にかけられた懸賞金稼ぎの物語で、ライフルの銃身を短く切り落とした“ランダル銃”で、悪
人を追い求めて旅する一匹狼の男のマックィーンが好演していた。懸賞金のポスターに書かれた、「DEAD or ALIVE」(死体か生きたままで)の文字が強烈な印象として脳裏に焼き付いているのと、拳銃無宿の原題がなんだったのか、いまも気になっている。
 そして、もう1本が『ブロンコ』。荒馬(ブロンコ)にまたがる流れ者の早撃ちガンマン、ブロンコ・レインをタイ・ハーディンという役者が演じていたと記憶する。
 いま風に言うなら、“西部劇オタク”だった少年が、30年もたってからまさか本物とみまがう世界に立てるとは・・。この感激は言葉では例えようもない。「わぁお~」と、体の奥底から湧いてくる感激にしびれたものである。夢か現か、半ば心ここにあらずといった感じのまま、荒野といった雰囲気のデザート(沙漠)地帯を進み、バシャバシャと川を渡りブッシュに分け入っては進んでゆく。
「沙漠に川があるのか?」と、不思議がる人もいるかもしれないが、沙漠といってもサハラやナビブやタクラマカンのような、砂丘が広がる砂漠ではない。ちなみに、英語では砂丘の砂漠はデューンといい、デザートは同じ沙漠でも、降雨量が極端に少ないために植物が育ちにくい不毛の地を指す。観た目はサバンナに近
い感じで、デザートのなかでは、ロサンゼルスの東に広がるモハベ沙漠が有名である。
 見渡す限り家も道もなく、地面に残された馬のひずめの跡が果てしなく続くだけの景色に、この自分が立っている感動をどう言い表せばいいのだろうか。牧場の敷地の境界線を表す、鉄条網の柵さえ見えない。そんな荒野を馬に跨ってゆく気分は、子供の頃に描いた夢の中にイメようで、鳥肌ものである。本人さえ忘れていた、子どもの頃に抱いた夢が実現したことが嬉しくて、こらえてもこらえても笑みがこぼれて止まらない。自分が映画の1シーンのなかにいるようで、その辺からガンマンが登場しそうな気さえしてきた。
 そんな気分を嫌が上にも高めてくれたのは、タンブル・ウィード(秋に根元から折れて吹き転がるヒエ、アカザ類の雑草)を見たときだった。映画『真昼の決闘』をはじめ、西部劇のクライマックスである決闘シーンには、必ずといっていいほど登場する、風に吹かれて転がる丸まった枯れ草のことである。テレビや映画で見るかぎり、決闘シーンを盛り上げるための一種の小道具じゃないかと思っていたが、紛れもなく自然が作りあげた本物であることを確認。と同時に、馬から降りて触りたい衝動を辛うじてこらえた。
 予定の半分ほどの時間が経ったところで、付き添いの牧童が先頭に回り込み、「ここらでリターンしましょう」と告げてきた。この辺りで、またひとつ大きなミスを犯している自分に気がついた。朝の冷え込みが嘘のように暖かくなっていたので、単パン姿のまま馬に乗ってしまったのである。馬の背に揺られ、その揺れにリズムがうまく合わない初心者のむき出しの腿は、固い鞍との摩擦をくり返し、腿の内側に生えてた体毛を根こそぎこそげ落とす結果を招いていた。
 帰り道早々に内腿の痛みに気づいたが、30分近く馬に乗ってきた原野を、歩いて帰るわけにもゆかず、痛
さをこらえて馬の背に我が身をゆだねるしかない。あたかも、乗馬という名の拷問にかかっているようだ。やっと牧場が見えてホッとしたのも束の間、馬も荷物である人間を降ろせる喜びからか、一目散に走り出した。その結果、拷問にも拍車がかかり、悲鳴をあげたいほどの激痛が走る。やっとの思いで馬から降りて内
腿を調べれば、毛穴からプチプチと血が滲み出ているではないか。自ら招いたミスとはいえ、乗馬を申し込んだ時点でひと言アトヴァイスしてくれても損はないのにと、関係者を恨んだものだ。
 それとは対照的に、初めはあまり乗り気じゃなかった女性陣の感激ぶりは、尋常じゃない。馬から降りたばかりだというのに、「お願い、もう1度乗っていい?」と、全員がアンコール。さらに1時間追加の申し込みをして、再び原野の彼方へと消えてしまった。こちらはなす術もなく、ただ後ろ姿を見送り帰りを待つしかない。土埃の舞う牧場の柵に腰かけ、遊び疲れてぼーっとしていたら、勇ましい即席のカウガールたちが夕焼け空をバックにもどってきた。
 それにしても、たっぷり遊んだわりにこれまた費用の安かったこと。たっぷり1時間、荒野でカウボーイの体験ができる料金はわずか11ドル。こんなに気分のよいものなら、本格的に乗馬を習おうかと思ったほど
だ。日本でも乗馬はできるが、「荒野」という名のシチュエーションは望むべくもない。
 ましてや教える人は、本物のカウボーイではないし、遠くに藁葺き屋根やビルディングを見ながら馬に乗っても、こんな気分にはならないに違いない。アメリカにきて、テーマパークと称する遊園地巡りをするのもいいが、西部で乗馬をすれば、それがそのまま大自然という壮大なテーマパーク体験になると納得した。
 満足に継ぐ大満足。遊びに遊んだ長い一日が終わり、この日を境にアメリカ西部の田舎が好きにな「種」が、心に植えつけられた気がする。

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