「そうです・・・息子たちは、母親・・・いえ・・・茂美さんの名前はありませんから・・・私が御手洗を殺すということを知ってしまったということです・・・それからは・・・推測できると思います・・・純一郎は、私に問い詰めてきました。私には誤魔化すことは無理だったのです・・・というよりも、もう、知っていてもいいのかもしれないと思う気持ちがあったのかもしれません? 御手洗との取引を止めさせたいと思う気持ちも・・・」

と、言うと。机にひれ伏して大きな声をあげて泣き崩れてしまった。

その話の中で、御手洗の福岡支店の不動産契約の保証人になった経緯も分かった。

八千代は、仕事の関係で御手洗に近づき親しくなり、御手洗が支店を出すということを聞き、保証人になることを申し出たということだ。御手洗について、詳しく調べようと近づいたということであった。

愛人の徳野茂美からの情報と、自分の情報を殺害に利用したということであった。

大きな嗚咽というより、泣きじゃくる感じといったほうが正しいと思う。

かなり、疲れているので、八千代の取調べは、時間をおいて始めることとなった。

一方、真奈美と徳野茂美は、ホテルを出ようとしたところで、身柄を拘束されて、マニラ署へ向かっていた。

真奈美は、最初、抵抗したということだ。フィリピン政府の高官との付き合いもあり、そのことを刑事に言ったのであるが、八千代・徳野和義が留置され、取調べを受けているとこを告げると、静かに同行を承知したという。

また、ビビアンの取調べも、翌朝から別室で続いていたが、昨日と同じことで、御手洗たちの殺害には直接関係していないことが確認できた。しかし、息子のフランコについては、日本での所在が不明であるし、もしかしたならば、金田純一郎と一緒に行動しているとも考えられる。引き続き、日本で捜査が続いていた。

ビビアンは、自宅に戻すと何らかの証拠隠滅の恐れがあるということで、留置所に保護されることになった。

真奈美と徳野茂美は、留置され、後ほど、取調べが始まることになった。

まず、井上八千代と徳野和夫の聴取をして、それからということになった。゜

二人が、ホテルにいた時に、徳野茂美は、日本への国際電話で、弁護士を依頼したという。

ホテルの外線電話での盗聴から分かっていた。

その当番弁護士が、何と、僕の友人の岩崎雄一であったのだ。

運がいいのか、悪いのかは分からないが、丁度、当番弁護士であり弁護士会から徳野茂美を紹介されたという。

以前、詐欺で逮捕された時の弁護士を依頼したのであるが、海外へ出張中ということで、岩崎弁護士がフィリピンに行くことになったのだ。何という偶然だろうか・・・

真奈美は、フィリピン人の弁護士を依頼していた。

そして、午後からは、徳野和義の取調べが始まった。

それも、新開刑事と大越刑事が担当する。僕は、同席を許された。

丁度、そのころ、岩崎雄一弁護士が成田からマニラへ向かっていた。

「和義くん・・・八千代さんから、大体のことは聞いた。君に尋ねることは、御手洗たちの殺害についてだ。隠すことなく話してほしい。スカイラインGTRの爆発のトリックについても、科捜研で実際に実証して確認されている。君たちが、細工をしたのだろう?・・・」

「・・・・・僕ではありません・・・僕は、ただ・・・」

「ただ・・・何だ?・・・」

「僕は、純ちゃんに言われたことを実行しただけです。スカイラインGTRを探しているという会社があるということを、浅田や倉重に話しただけです・・・」

「スカイラインGTRを、探しているというのは、御手洗のところで働いていたアンジェラスだろう?お前じゃないはずだ・・・」

「はい・・・私は・・・すいません・・・そこまで分かっているのですね・・・」

「あぁ・・・だから、隠しても無駄だ・・・で、お前の役割は何だ?」

「・・・タイマーを作りました。以前、電子部品関係の会社にもいたことがあり、簡単な時限装置を作ったのです。車のエンジンのことは何も知りませんが、電子タイマーなら作れるのです。それを純ちゃんに依頼されたのです」

「ということは・・・4個作ったということか?」

「いえ・・・5個です・・・」

「何? 5個か? 4個じゃないのか?・・・・」

5個です。間違いありません・・・」

爆発した車は、4台である。何故? 5個作ったのであろうか?

「今まで、4人が殺されている。5個ということは・・・予備で作ったのか?」

4人・・・いえ・・・5人を殺害しようと思っていました・・・」

僕は、まだ、他に殺害予定の人物がいるのだろうかと思った。

一瞬、新開刑事の顔が曇った。

「御手洗晋、浅田保夫、倉重仁、海野幸秀・・・だけではないのか?・・・・」

「・・・違います・・・もう一人・・・います・・・」

「誰だ?・・・・・」と、新開刑事の声は大きくなっていた。









■勝汰章の著作刊行本

 「笑顔になるための246のことば」

  悲しみを乗り越える時に・・・

 http://7andy.yahoo.co.jp/books/detail?accd=31865654


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■ 六話 命は自分のものだけではない

アスベスト問題も先延ばしになって、2日後、息子のクラスでお寺の住職の命についての説法があった。

保護者も出席してもいいということなので、私も出席した。

2時間の説法で、途中15分の休憩をとっている。

袈裟を着た男性がクラスに入ってきた。これが、息子のクラスの裕子ちゃんのお父さんなのだろう。

以外と若いのには驚いた。40才前だと思う。長身で細身な今風な顔立ちだ。どうみても住職という雰囲気はない。

袈裟を着ているから判断できるという感じだ。

彼は、教壇にたち、一礼すると、黒板に大きく 死の世界 という字を書いた。

何の意味があるのだろう。席の後ろには、15人くらいの保護者が立っている。

父親よりも母親が圧倒的に多い。中には、録音するためのボイスレコーダーを持っている人もいる。

書き終えると、顔に似合わない太く大きな声で「死んだ経験のある人は手を挙げてください」といきなり話し出した。一体、何を言うのであろうか。勿論、誰も手を挙げる子はいません。

「誰もいないかな、そうか、一人もいないようですね。死んだことのある人がいたら代わって話してもらおうと思ったけど一人もいないようなので私が話します」と言う、何やら教室の雰囲気が変わってしまった。

笑っていいのか、笑ってはいけないのか子供があせっているようだ。

「死んだことがなければ、死んだ後のことは知らないはずですね。それと、死んだ後に自分がどうなるかということも知らない。死の世界に行ってみたい人は手を挙げて下さい」とまた、質問である。

子供たちは、何と答えていいか分からないし、勿論、死にたくもないから誰も手を挙げない。

「皆、死にたくないし、行きたくもないということですね、それが当たり前なのです。誰も死にたくないのです。死というものは、何か怖いと思っていますよね。そうなのです、怖い世界なのです。怖いと思う世界に行きたいと思っている人は誰もいないのです。何故、死の世界に行くのでしょうか。それは、死の世界よりも今の世界のほうが怖いと思う気持ちが強くなるから死の世界に憧れるのです。」さらに続けて「でも、可笑しいと思いませんか、死の世界を見たこともないのに、死の世界のほうがいいと思っているのです。これについては可笑しいと思う人は手を挙げて・・・」と聞くと、何人かの子供たちがゆっくりと周りを見渡すように手を挙げた。

それにつれて、ほぼ全員が手を挙げたのだ。

「はい、皆さんは全員正解です。知らない世界に行くということのほうが、よほど怖いのです。つまり、今の世界のほうがいいのです。今の世界がいいのに、死んだらもっといい世界に行けるということは大きな勘違いをしているのですよ、分かりますか?・・・」と問いかけた。

子供たちが頷いている。何だか面白い展開になってきた。まさか、こんなことを話すとは思いもしなかったのだ。




何やら不思議な住職である。



死んだらだめというよりも、全く違う目線で子供たちに接している。難しい話にしていない、何となく分かって欲しいというレベルでの話しなのである。

住職は、色々な例えを出しながら、話を続けている。

「次は、死んだ人に会って話したことのある人はいますか?・・・」と聞いた、子供たちは誰も反応しない。

「誰もいないのですか・・・後でそのことは話しましょう」と一旦、話を止めた。

この住職は、死後の世界について語っているのだ。一般的にいう命の大切さということを話すというよりも、死んだらどうなるのかということについて語っているのだ。

子供にとっては、とても理解しやすいと思う。子供の目を見ているといきいきとしている。


保護者にとっては、命というかけがえのないものを説法してくれると思っていたのだが、全く別の次元から話している。小学生に対しては、このような話でいいと思う。

「さて、これからは、3,4人づつのチームになって、死んだ後の世界について推測してもらいます。どんな世界ならいいか、どんな世界にしたいか、皆が考えることを100字の文章にして下さい、10分の時間でお願いしますね」と言って、用紙を渡しながら子供たちをチームに分けた。








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・・・ということは、その当時、フィリピンに住んでいたということだろうか?




しかし、多摩西部署の調べでは、茂美は、20年前には日本にいたという確認はできていた。

八千代が続けて話した。

「茂美さんは、日本での愛人でした。仕事柄、主人は、月に数回、日本に来ていたのです。その時に、何でも銀座のクラブで働いていた茂美さんに出会ったということです。それから愛人としての付き合いになったというのです。このことは、後に茂美さんから聞きました。主人は、日本にも女がいたということです。当時、私は何も知ることはなかったのです・・・」と、話した。

「いつ・・・茂美のことは知ったのだ?・・・」

「それも、候からでした。候は何でも知っていました。御手洗が、候に話していたということです。候は、私が栄一の女房だとは知りませんから、候から、浅田や倉重のことも聞きだしたのです。私が思っていたように、闇のルートの仲間ですから、余計なことは他言しないという暗黙の了解でしたが・・・酒の入った候は、口が軽く何でも話していたのです。それと、私が女ということで気を許していたのかもしれません。裏の人間は裏の仲間しか信用しません。だから、本来、口の軽い、候は、誰かに言いたくて仕方なかったのかもしれません・・・それで、主人が殺害されたことを確信したのです・・・それは、6年前のことでした・・・」

「でも、どうして、徳野茂美と付き合うようになったのか?女房と愛人という関係だとしたなら、絶対にそのようなことはないだろう? 言ってみれば、敵と同じだと思うが?・・・」

「はい、誰でも不思議だと思うと思います。茂美さんとは、仕事の上の付き合いでしたから、その時点では何もありませんでした。しかし、予想しないことが起きたのです・・・」

確かに、普通では考えられない関係である。



僕も、普通の感覚なら、信じられないと思った。他に何かあるのではないか?

新開刑事も、八千代の言うことは信用できないという顔をしていた。

「それは・・・・・・大事なことです・・・」と、八千代は、新開刑事の目をしっかりと見た。

「何ですか? もう、全て話してくれてもいいはずだが・・・」

「・・・茂美さんの息子の、和義くんは・・・殺された栄一の子供なのです・・・」

僕たちは、皆、驚きの声をあげた。何ということだ、和義は、愛人、徳野茂美との間の子供であった。

続けて、八千代は、ゆっくりと話し始めた。



「栄一の愛人であった茂美さんも私と同じような時期に、日本で妊娠していたのです。その子供が、和義なのです。私は、それを候から聞きだしたのです。最初は、耳を疑いましたが、いまさら、どうすることもできません。その時、和義は、24才になっていました。茂美さんは、そのことを長年隠していたのです。和義には、父親は事故で亡くなったということを話していたのです。和義も、それで納得していたのです。しかし、私が、茂美さんに、栄一が殺されたことを話すと・・・茂美さんの気持ちは変わっていったのです。女同士の同情・・・いや、辛情という言葉かもしれません。辛い境遇を味わってきたからこそ理解することができる仲間のような関係になっていたのです。それは、愛憎とか、恨みとかいうものを超えた不思議な関係でした。お互いに、殺された栄一の子供の母親として・・・親しくなっていたのです。これは男の人には理解できないかもしれませんが・・・女なら理解できることです。しかし、息子たちには、話すことはできませんでした。お互いが異母兄弟ということを・・・私と茂美さんとは、月に数回会い、お互いの傷をお互いで癒すようになったのです。ある意味において、戦場の同士でした。そして、次第に、栄一を殺した犯人への恨み・・・いや・・・殺意が、自然と沸いてきていたのです・・・」

僕が言葉をさえぎった。

「それで・・・殺すことになった・・・? しかし、20年も前の恨みが、持続しているとは思えないのです?そんなことより、そのことを警察へ話したほうがよかったのではないですか?あなたたちが手を汚すことはないでしょう。フィリピンでの殺人ですし、御手洗たちは、何度も日本を往復しているのだから、時効の壁も、関係ないと思いますよ。八千代さんが警察へ話していたなら・・・」

「・・・雪田さんのおっしゃるとおりですが、一度、地元警察へ相談に行ったことがあるのです。しかし、一笑のもとに相手にしてもらえませんでした。何でも、20年前のフィリピンでの事故のようなことは、フィリピン大使館にでも相談したらいいと・・・全く、相手にしてもらえなかったのです。そして、フィリピン大使館にも行きました。親切に、相談に乗ってくれたのですが、後日、事故死だと断定されているので、取り扱ってくれなかったのです。候のことを話そうかと思いましたが、そうすると、私たちの関係している闇のルートも発覚すると思いました。ですから・・・私たちの手で、御手洗たちを殺すことになったのです・・・」

続いて、新開刑事が尋ねた。

「それは理解しないこともないが、確かに、栄一さんは殺された・・・そして・・・御手洗たちは、のうのうと生きているということですか?それが許せなかった・・・ですかな?」

「それもありますが・・・茂美さんが・・・御手洗の愛人となっていたことがあります。茂美さんは、長年、御手洗の愛人として影の存在でした。しかし、栄一が御手洗に殺されたという事実を知ってからは、息子の父親を殺した男の愛人ということで悩んでいたようです。私が、茂美さんとビジネスで付き合うことがなければ、茂美さんは何も知らないで暮らしていたと思います。しかし、知ってしまったのです。それからの茂美さんは、復讐という言葉・・・私も同じですが・・・お互いに復讐することを残りの人生の目標としていたのです。どちらかが、止めようと言えば、止めていたかもしれません。しかし、同じ境遇の女は、男の人では理解できない心情を共有することもあるのです。この時点で、女房・愛人という垣根は、完全に消滅していたと思います・・・何度も言いますが、同士なのです・・・同じ、目的を持った・・・」

「そういうことですか・・・では、何故? 息子たちに話してしまったのですか?」

「話してはいません・・・純一郎が、ミタライ・コーポレーションとの付き合いが始まってしまったのです。同じ、業種ですから、いずれは・・・このようなことが起こるのではないかと危惧していましたが、事実として起こったのです。私は、色々な理由をつけて、怪しい会社だから付き合わないようにと忠告したのですが、無駄でした。純一郎は、会社の利益のために取引を始めたのです。私も、茂美さんも困りはてました。自分の父親を殺した男の会社と付き合うということは・・・私は、絶対に許すことはできません。茂美さんも同じです。しかし、どうしようもないのです・・・私たちは、息子には秘密で、御手洗を殺害する計画を立てていたのですが、私がうかつにも、茂美さんの息子の和義に、会社の金庫の中に締まっておいた殺害ための計画書を見られたのです。和義に、金庫の中の闇ルートの書類を破棄するように伝えたのですが、勝手に他の箱の中を見られたのです。私のミスでした。殺害計画書には、御手洗という名前が書いてあったのです。今まで、和義に、何度も、金庫の中の箱の闇の取引書類を破棄するように言っていましたので、てっきり、他の箱は開けないと思っていたのです。それが、間違いでした」

「・・・それで・・・純一郎にも・・・」と、僕は尋ねた。










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翌朝は、まず、井上八千代の取調べから始まった。

日本人ということで、取調べには、新開刑事が担当した。僕も、同席させてもらうことになった。

「何度も聞きますが・・・純一郎さんは、あなたの息子さんに間違いないですか?」と、新開刑事が聞いた。

「はい・・・間違いありません。確かに、私と、和義くんは、不法入国ですが、殺人とは関係はありません。早く、弁護士を呼んで下さい。昨夜、刑事さんにお願いしていたのですが、何も聞いてはくれません。人権侵害も甚だしいと思います。日本大使館にも連絡させて下さい。新開さんも、同じ日本人ではないですか?」

と、八千代は、かなり荒い声で話した。

「井上さん・・・よく、考えてみて下さいよ・・・不法入国という罪は大きいものです。それは、フィリピンも同じです。あなたの言うことが理解できないわけではないが、ここは、フィリピンです。日本ではないのですよ。そんなことより、何故、不法入国しないといけなかったのですか?正規のルートでは駄目なのですか?井上さん・・・それと、私がいなかったなら、あなたたちは、完全に犯罪者としてフィリピンの法律で裁かれると思う。そんな、単純な問題ではないのです・・・いいですか・・・あなたの立場は・・・」と、一喝した。

「・・・すいません・・・」と、急に静かになった。

「では、本題に戻ります。何故、不法入国したのですか?」

「それは・・・警察に追われていると感じたからです。ですから、国外に出ようと・・・」

「何で追われていると思ったのか?殺人の容疑か・・・それしかないと思うが・・・全て白状してもらう」

「・・・不法輸入の件だと思いました。私の会社は、表向きは、輸入雑貨ですが、裏では・・・日本国内に持ち込みができない複数の医療品を仕入れていました。厚生労働省で認可されていないものです。それが発覚したと思ったのです。全て、中国の闇のルートからのものです。それで、これで終わりだと思い、フィリピンに逃げたのです。和義くんは、私のパートナーでしたから、一緒に逃げたのです・・・それだけのことです・・・」

「それはいいが・・・で、徳野茂美とは、何で知り合ったのか?茂美は、殺された御手洗の愛人だと知っていたのだろう。最初に会った時には、知らないといっていたが、何故なんだ。まず、そこからだ・・・」

「茂美さんとは、同業者ということで知り合いました。数年前になると思います。でも、茂美さんは関係ありません。茂美さんの息子の和義くんが貿易に興味を持っているというので、私の会社を手伝ってもらうことになったのです。最初は、違法なことはしていませんでしたが、成り行きで・・・違法な品に手を染めたのです。すべては、私が悪いのです・・・和義くんは、被害者ですから・・・勘弁してあげてください・・・」

「それは別の話だ。徳野茂美との関係は分かったが・・・何故、御手洗との関係を隠していた。隠さないといけない何かがあるのだろう?言い訳は聞かない・・・証拠はあるんだよ・・・闇ルートは確かにあったと思うが、今回の事件は、そんなことではない。茂美とあなたの関係について、はっきりと答えてほしい。20年以上前からの付き合いではなかったのか?」と、鋭い目つきで、八千代を睨みつけた。八千代は、観念したようである。

新開刑事の、追及はかなり激しい。

「分かりました・・・もう、隠しても仕方ないですね・・・全て、調査されているのでしょう?」

「そうだ・・・あんたからの話が聞きたいのだ。こっちは、何でも分かっている・・・今頃、徳野和義も取調べを受けているから、あんたが隠しても何にもならない。隠していると偽証罪になる。さらに、罪を重くしても仕方ないだろう・・・」と、新開刑事は、無茶苦茶なことを言った。しかし、実際は、外堀しか埋まっていない。

「はい・・・私が、御手洗を殺すように指示しました。主人が死んだのは、20年前になります。最初は、事故だと思っていました。が、中国の闇ルートと付き合いができてから、中国人の候という男と知り合いました。私は、新しい主人と結婚していたので、名前が井上になっていたのが幸いでした。その候という男は、過去に、金田という人を殺す場面を見たと、酒の席で話したのです。私は、最初、耳を疑いました。それから、少しずつ、その当時のことを聞き出したのです。候は、酒が入っていたせいか何でも話してくれました。お互い、闇のビジネスの仲間ですから、他言することはないと思っていたと思います。候が言うには、主人の栄一を殺す主犯は、御手洗晋であり、浅田も倉重も同意したということです・・・」

「御手洗が直接殺したということだな?・・・」

「いえ・・・違います・・・実行したのは、海野という男だと言っていました。候は、その海野が、主人を崖から落すところを見たのです。海野が実行したのです・・・そういうことだと聞きました・・・」

数日前に、殺された海野幸秀のことに、間違いはないと思った。

この男が、栄一を崖から突き落としたのだ。

それを、候は見ていたということだったのだろうか?

確かに、御手洗から別荘を譲りうけていたし、おそらく、その時に、別荘にでも栄一を呼んで、皆で、酒でも呑んでいたのかもしれない。

候は、御手洗が、栄一を殺すことは知らなかったと思う・・・

「八千代さん・・・しかし、御手洗は、何故、栄一さんを殺したのだ? 保険金か?・・・」

「・・・いえ・・・違います・・・御手洗も主人も、香港ルートの闇の取引をしていました。主人は、その闇取引を早く止めたいと思っていたのです。しかし、御手洗たちは、それを許してはくれません。主人は、日々、悩んでいたと思います。闇の取引をしなくても、普通の生活には何の不自由もなかったのですが、御手洗は、欲深い男です。それと、浅田や倉重、海野も同じように欲が深いのです。主人は、一人だけ仲間はずれになっていたと思います。それで、会社を辞めようと思ったのですが、御手洗は決して許してはくれませんでした。御手洗は、そんな主人を疎ましく思っていたと思います。もしかしたら?・・・警察へ話すのではないかとも思っていたようです。それで、殺してしまおうということに・・・なっのだと思います・・・」

「分かったが・・・その話は誰から聞いたのか?」新開刑事は聞いた。

「それは・・・それは・・・茂美さんです。徳野茂美さんです・・・」と、か細い声であった。

「何?何で、徳野茂美が、そんなことを知っていたんだ・・・茂美は・・・一体・・・?」

「・・・はい・・・その当時、主人、栄一の愛人でした。それで・・・」



何ということだ。徳野茂美は、殺害された金田栄一の愛人だったのだ。







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そのころ、真奈美と徳野茂美にも尾行がついていた。

しかし、二人は、ホテルの部屋を出ることはなかった。

その夜は、真奈美も徳野の部屋に泊まったようである。何か、今後の策を考えているのかもしれない。

もし、ホテルを出ていくようなことがあれば、強制的に同行してもよいと、大越刑事が指示していた。



さらに、翌朝には、マニラ署へ同行させるという。今夜は、とりあえず、ホテルに泊まらせることにしたようだ。

だが、ビビアンと連絡が取れないということで、不審をもっていることは確かであろう?

簡単な食事の後、ビビアンの調べが再開された。



「ビビアン・・・息子は、純一郎に会いに行ったことは間違いないな?」

「はい・・・そう言っていました。何のためなのかは知りません・・・」

「観光ということはないな・・・店も退職しているし、何か思い当たることはないか?」

「・・・ただ・・・」

「ただ・・・何だ?」

「純一郎さんに、とても同情していたと思います。息子も、小さいころに父親からの暴力で、苦労していましたし、父親に対しては、特別な感情があったと思います。しかし、人を殺すようなことは・・・」

「同情? 息子は、父親からの暴力。純一郎は、父親を殺された・・・全く、関係がないと思うが・・・」

「いえ・・・二人は、親も驚くぐらい仲がいいのです。それで同情していました。おそらく、純一郎さんから、栄一さんが殺されたと聞かされたと思います。それで・・・兄弟以上に仲が良かったのです。昔、浅田が暴力をふるっていたときに、栄一さんが助けてくれていた記憶があるのだと思います。それで、父親以上の感情を持っていたことも・・・浅田は、本当に、ひどい男でしたから。栄一さんも、何度かみかねて、浅田に注意してくれていたのですが・・・その時の記憶があるのだと思います。ですから、二人は、同情という強い絆で結ばれていて、栄一さんを殺した人を殺そうと思っていたのかもしれません・・・これは、私の推測ですが・・・でも、私は息子を信じています。人を殺すようなことはないと・・・絶対に・・・」と、ビビアンは、大粒の涙を流した。

そういう過去があったのだ。小さいころ、浅田保夫の暴力を防いでくれたのが、金田栄一だったのだ。

和義にとっては、栄一は本当の父親以上の存在であったのかもしれない? それにしても、かなり激しい暴力であったということであった。フランコの体にも、大きなアザが多数残っているとビビアンは言った。

ビビアン親子にとっての、浅田という父親は、暴力という記憶しか残していないということだろう。

そうであれば、殺意が芽生えていたとしても不思議ではない。

「ビビアン・・・辛い過去は過去だが・・・・今は、何も隠すことなく話すことだ。早く、息子も保護しないといけないと思う。日本での金田純一郎の居場所を聞いていないのか?」と、大越刑事は尋ねた。

「・・・確か・・・東京の・・・タマとかいうところに・・・部屋があるとか聞いたことがあります・・・確か・・・タマ・・・とか・・・市とか・・・」

大越刑事が、一旦、調べ室を出て、僕たちがいる部屋に来た。

「東京に、タマとかいうところはありますか?」と、尋ねた。

「タマ・・・多摩・・・多摩地区か多摩市・・・だと思います。東京の郊外ですが・・・」と、僕が言うと。

調べ室に戻り・・・

「ビビアン・・・多摩市というところなのか・・・?どうだ・・・」

「確か・・・そんな名前だと思います・・・」

偶然にも、多摩西部部署の管轄のエリアであったのだ。

新開刑事は、署に電話し、金田純一郎の居場所を探すように指示した。残念ながら、フランコの顔写真はないので、他の刑事が、ビビアンの家に行き、写真を探してくるという・・・

ビビアンが言うには、家には何枚もの写真がアルバムにあるということであった。

ここまでで、ビビアンの取調べは、一旦、終わったのだ。

「新開さん・・・明日は、井上八千代と徳野和義の取り調べですから、これで事件の全容が分かると思います・・・それと、明日は、真奈美と徳野茂美の聴取もありますから一気に解決でしょう・・・早く、純一郎とフランコの身柄が確保されるといいですよね・・・そうすれば・・・」



「いや・・・雪ちゃん・・・そうとはいかないと思う・・・よく、考えてみてくれよ・・・今回の殺人事件の4件が解決したとしたなら、一体、誰が主犯なんだよ・・・実行犯は、純一郎だとしても・・・何故、こんなにも、複数の人間が関係しているんだい? まぁ・・・全員の聴取が終わっていないから、何とも言えないが、不自然だと思わないかい?こんな大掛かりにすることはないと思う・・・まだ、何か大きな何かが隠されていると思うがね・・・そうは思わんか? どうだろう・・・」

確かに、僕の考えは、至極、単純だと思った。

しかし、まさか、全員が共謀しているとは考えられないでいた。






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「・・・・・そうです・・・・」

「嘘はいけませんね。こっちは、何でも調べています。ということは、真奈美さんは知り合いということになります。知らないという嘘は・・・もう、全て話してもらいましょうか?あなたは、八千代さんも真奈美さんも知っている・・・どうですか?」

「・・・はい・・・言われたとおりです。真奈美さんは、八千代さんからの紹介でした。息子さんの純一郎さんにも何度か会っています。不思議な縁ですが、元の旦那と八千代さんのご主人が昔の仲間だということを知りました。それで、親しくなったのです。私の旦那には、私から八千代さんを紹介しました。それと、一つ言っておきたいことがあります。浅田と離婚したのは・・・浅田の暴力です。和子さんには、浅田からの強い要望で離婚したと言っていますが、本当は違います。浅田の執拗な暴力に耐え切れなかったのです。今も、私の背中には大きな傷が無数に残っています。それと、息子にも暴力をふるていたのです。ただ、浅田が日本にいるときは、何の暴力もないので幸せな生活でした。フィリピンに戻ってくると、私たち親子に暴力をふるっていたのです。我慢していましたが、限界だと思い、離婚したのです。浅田は、金を要求してきました。それで、家を売ったのです。家を売ったお金を渡すと、簡単に離婚に応じました。それが真実です。和子さんは何も知らないのです・・・どうか・・・このことは言わないで下さい。もう、余命が短いですから・・・」と、瞳をうるませた。

「そこまでは分かりましたが・・・あなたも、浅田を殺したいと思っていた・・・」

「確かに、思っていました。しかし、殺すことは無理です。殺したいと思っていただけです・・・」

「・・・で、息子さんは、今、どこにいますか?店も退職しているという連絡がありました。ここにもいないとすると・・・どこにいるのですか?もう、全て話して下さい・・・」

と、大越刑事の声は、甲高くなっていた。

「日本に・・・日本に行っています・・・」

「日本・・・何のために・・・もしかしたら、金田純一郎と会っているのか?」

「・・・おそらく・・・」と、言って、頬の涙を拭った。

大越刑事は、部下の刑事に入管の出国履歴を調べるように指示した。

もしかして・・・この息子も関係しているのかもしれない?

息子の名前は、フランコという。父親が日本人であるから、顔も日本的であろう。

僕は、ふと、意外な感覚に陥っていた。

金田純一郎、徳野和義、そして、このフランコは、皆、同じような年齢だ。

もしかしたなら、共謀しているのではないかと?

しかし、純一郎には、動機があるが、他の二人の動機は不明である。

頭の中が混乱していく感覚になっていた。

続けて、大越刑事が尋ねた。

「息子と、純一郎とは、知り合いということだが、昔からなのか・・・?」

「いえ・・・八千代さんと知り合ってからです・・・息子も、以前は、車の販売の仕事についていましたから、お互いの息子が車関係だということで・・・」

「それで・・・仲良くなったと?」

「そういうことです・・・息子は、何も関係ありません・・・人を殺すようなことは・・・」

と、話していると、入管からの知らせが届いた。

息子のフランコは、2日前に日本に向かったというのだ。

そして、丁度、その会話の途中で、新開刑事の携帯電話が鳴った。多摩西部署の、出口刑事からであった。

圏央道での、スカイラインの事故の報告であり、科捜研の調べで、3つの事件と同じ細工がされていたという。

それと、海野という殺された男と、御手洗の関係が分かったというのだ。

新開刑事は、そのことを大越刑事に伝えた。

ビビアンの取調べは、一旦中断することになった。

「大変なことになりましたね・・・また、同じ細工ですか? 誰が・・・そして、この海野という男も、金田栄一の殺しと関係があったのでしょうか? 第四の殺人・・・純一郎の仕業だと思います・・・ねぇ・・・新開さん?」

と、僕は、新開刑事の顔を見た。

「そうかもしれん・・・しかしな・・俺たちの調べでは、海野という男の存在はない。だったら、この男は何なんだ。フィリピンにいたということしか分かっていないし、御手洗と関係していたとしても、全く素性が不明だ。困ったものだ・・・日本でも殺人が起こるとは・・・」と、新開刑事は、腕を組んで目を伏せた。

「純一郎に間違いないですね。日本に残っていたのだと思います。しかし、どこにいるのでしょうか?それと、フランコも一緒にいるのかもしれませんが、何故、フランコも・・・金田栄一の殺しとは関係ないと思います。だったら、何故? ただの友人ということで日本に観光に行ったとは思えませんし、何か関係があると思います」

「そうだな・・・雪ちゃんの言うことが正解だが、動機がな?・・・」と、新開刑事は、タバコに火をつけた。

「とにかく、日本のことを考えても仕方ありませんから、ビビアンの調べを始めます。それと、八千代と徳野和義は、別室で待機させていますが、あまり、ビビアンの調べが長引くようなら、留置許可を取らないといけません。どうしますか?」と、大越刑事が聞いた。

僕は「そんなに簡単に許可が?・・・」と、言うと。

大越刑事は、簡単だよと合図して、部屋を出ていった。

そうか・・・不法入国として留置するということだったのだ。

今夜は、ビビアンの取調べで、外堀を埋めていこうという捜査方針となった。







翌日の説明会は、案の定紛糾して終了した。何の進展もない。業者側の弁護士が、のらりくらりと説明していた。

できるだけ、早期に解体して安心していただけるようにしますということである。

間違いなく飛散したアスベストについては、調査の仕様がないので、今の段階では何も答えられないということだ。

もし、数年して中皮腫になったとしても、その因果関係を立証するのは、こちらのほうである。

何やら灰色のままの解決となる予感がしていた。次の説明会は、来年になるという。ふざけたことである。

その間は、解体途中の家は、そのままの状態ということだそうだ。何か法律で規制できないのだろうか。

2つの町内会長が、市役所に行って何とかしてもらうように働きかけるということらしい。

私たちにはどうすることもできない。

大人のいいかげんさが、こんな大きな問題となってしまったのだ。

こんな大人だから、子供にも悪い影響を与えてしまう。こんな大人はこの国には要らない・・・と。

結局、アスベストの問題は来年に何らかの結論を出すという、この国にありがちな玉虫色の決着となりそうだ。

事前申請をしていなかった解体業者は、石綿障害予防規則法により何らかの処罰を受けるようだ。

そんな処罰よりも、私たちが発症するかもしれない中皮腫についての責任はどうなるのか、そこが一番心配なことである。







マニラ署では、全員別々の取調室で調べられることになる。

基本的な容疑は、入国管理法違反ということになる。ビビアンは、任意としてしか取調べはできない。

まず、ビビアンの取調べからである。僕たちは、取調室の中が見える部屋で中の会話を通訳を介して聞いた。




大越刑事が、取り調べにあたった。

「あなたは、八千代さんとは、どういう関係なのですか? 」

「主人との付き合いで知りました。主人の取引先です。それ以外の詳しいことは知りません。ただの、友達という感じです。フィリピンによく来られるので親しくなったのです。私は、殺人とは関係はありません・・・」

「・・・では、話を変えます。どうして、八千代さんが家に来ることを知ったのですか?」

「それは・・・八千代さんからの電話です・・・何でも、一日だけ、泊めて欲しいということでした。何のためだとは聞いていません・・・」

「理由も知らないままに泊めるのですか? それは、変ですね・・・そうは思いませんでしたか?」

「・・・いえ・・・来られた時に聞けばいいと思って・・・」

「そうですか? で、泊まるのは八千代さんだけだと聞いていましたか?」

「いえ・・・もう一人、男の人がいると・・・」

「それが、徳野和義さんですね・・・知り合いでしたか?」

「いえ、徳野さんとは、今日が初めてでした・・・全く、知らない人です・・・」

「ということは・・・和義さんの、お母さんも知らないということですか?」

「それは・・・誰ですか?・・・」

「徳野茂美という女です。その人も知らないということですね?」

「はい・・・名前も聞いたこともありません・・・私の知っている人は、八千代さんだけです・・・」

「八千代さんだけ・・・そうでしょうか? 八千代さんの息子の、純一郎も知らないのですか?・・・」

「・・・名前だけは・・・でも、会ったことはありません・・・東京にいると・・・」

どうやら、ビビアンの言っていることに間違いはないようである。

その間に、ビビアンの旦那の素性を、マニラ署が調べていたのであるが、特におかしい点はないという。



普通の、総合商社の会社員であり、それが縁で、井上八千代との付き合いが始まったようだ。

続いて・・・・



「ビビアン・・・ベニーノ・真奈美という女は知り合いですよね?」

「真奈美・・・知りません・・・誰ですか?・・・」

「八千代の死んだ旦那、金田栄一の姉ですが・・・」

「知りません・・・真奈美さんは知りません・・・私と何の関係があるのですか? 私が知っているのは、八千代さんだけです・・・」

「元のご主人の浅田さんが亡くなったことは話しましたが、あなたの元の義理の母親の和子さんとは長く付き合っているということですね?病院に通われていると聞きました。それは、あなたの息子さんが祖母に会いたいということですね・・・?」

「はい・・・息子は、祖母のことが大好きなのです・・・それで・・・」

「で、息子さんは、この家にいないのですか?」

「息子は、セブ島の飲食店で働いています。ここにはいません・・・息子は、何も関係ないし、何も知りません・・・」

「それは、変ですね・・・署としては、息子さんのことを調べさせてもらいましたが・・・飲食店ということは確認しています、しかし、それは、セブ島ではなく、マニラのエルミタではないですか?セブ島には、一年前にいましたよね。今は、エルミタの飲食店・・・それも、真奈美さんの経営している店ではないですか?」

マニラ署は、すでにビビアンの息子のことまで調べていたのだ。

全く、僕たちの知らないうちに・・・







「井上さん・・・こんなところで会うとは・・・不思議な縁ですね・・・」と、僕が言うと。

「どうして?・・・ここにいるのですか?何故なんですか?私を尾行していたのですね・・・」

「えぇ・・・そうです。で、そちらの男性は誰ですか?息子さんではないですね・・・」

「息子?違います。彼は、徳野和義といいます・・・」と、徳野という言葉を出した。

年のころなら、金田純一郎と同じように、30才前後だと思われる。

徳野・・・? もしかして徳野茂美の・・・と思い、聞いてみると。

「ご存知だとは思いますが・・・茂美さんの息子さんです。私と一緒にフィリピンに来ました。私の仕事のブレーンです。勿論、徳野茂美さんも仲間です・・・皆さんは、息子の純一郎だと思っていたのですか?」

僕たちは、完全に無言になっていた。純一郎ではなく、徳野茂美の息子・・・なのだ。

徳野茂美には、息子がいたのだ。全く、予期せぬことであった。

「井上さん・・・旧姓、金田八千代さんですね。DNA鑑定の結果、あにたと、純一郎さんは、親子だと確認しました。それは間違いないですね?」と、新開刑事が尋ねる。

「・・・間違いありません。純一郎は、私の息子です・・・」

「それは分かりました。だが、あなたの出国履歴がないのは、何故ですか?」

「闇のルートを使いました。もう、調べはついていると思いますが、中国人の候さんにお願いして、韓国に行き、それからフィリピンに入りました」

「候は、すでに逮捕されています。日本を出る理由は、何故ですか?」

「私に容疑がかけられていると確信したからです、博多の刑事さんの尾行がついていたのも分かっていました。だから、日本を出たのです・・・普通のルートだと無理だと思って・・・」

「では、何故?容疑があると思ったのですか?何の容疑だと・・・」新開刑事は、ゆっくりと尋ねた。

「それは、皆さんがよく知っていることです。御手洗や、倉重、浅田のことです。全て、私がやりました。もう、何も隠すことはないので、全てお話します・・・」

「井上さん・・・あなたには無理だ。あなたに、車の知識はない。全て、純一郎さんがやったことですね。あなたには無理なのですよ。息子さんをかばっても何にもなりませんよ・・・」

「息子は関係ありません・・・息子は・・・関係ないのです・・・」と、毅然とした態度である。

「あなたの言いたいことは分かります。しかし、あなたに、車の高度な細工はできない。車に細工がしてあったということは、警視庁の科捜研で判明しているのです。ここまできたなら、何もかも話したほうがいいと思いますよ。どちらにしても、ここでは仕方がないので、マニラ署まで同行してもらうことになります。そちらの、徳野和義さんもいですね?」と、新開刑事が言った。勿論、ビビアンも一緒に同行することになった。

しかし、意外な展開である。



3人を乗せた車は、マニラ署へ向かった。

本格的な取調べが始まる。

それにしても、金田純一郎は、どこにいるのであろうか?

これが大きな疑問となっていた。早晩、八千代の口からはっきりとしたことが分かるであろう。

この時、日本で新たな殺人事件が起こっていようとは・・・・

その夜、東京の新藤から、スカイラインGTRの事件のことを知ることになる。




新開刑事にも、出口刑事から連絡が入ったのであった。

また、事件は、思わぬ展開となっていた。







いいかげんと言えば、私もいいかげである。もう少しさじかげんをしてスキヤキの具材を買えばいいのだろうに、何でもかんでもカゴの中に入れてしまった。そのせいか、予算をオーバーしてしまったのだ。

夕食の時の、だんなや息子は、今日は、ごちそうだという顔で喜んでいる。

その喜んでいる顔を見ることも大好きである。これも私の小さな幸せだ。

この小さな幸せが続くように祈ってしまった。高いものを食べたいとは思わない。豪華な旅行も要らない、家族が何の不安もなく日々暮らせることが一番だと思う。


そのアスベストの不安が数日後に的中してしまった。



艶子さんの家の解体工事でのアスベスト問題が発生したのであった。

いいかげんな大人が工事を行うことで、町中がパニックと化したのだ。

家屋の解体業者が、アスベストが含まれていることを隠して解体工事を始めたのだが、近所に住んでいる詳しい人からの指摘があって、表面化したということである。

アスベストが含まれている家屋等の解体については、労働基準監督署等に申請をして許可がおりてから工事にかからないといけない。それと、その作業に従事する人は全員石綿作業主任者の資格が必要になるということだ。

この業者は、一般の解体と同じように進めようとしていたということだ。

アスベストの除去には、普通の解体とは別に費用がかかるものである。アスベストがあるにも係わらず、それを隠して作業するということは、確かに経費の削減にはなる。

しかし、その作業によって、近隣の住民が中皮腫という肺のガンになる危険性があるのだ。

アスベストというものは、半径2キロくらいは飛散するという。

私の家もその範囲に入っている。とんでもないことである。

労働基準監督署の指摘により、途中で工事がストップしてしまった。

三分の一は、解体工事が進んでいたので、今はブルーのシートで覆われているが、アスベストが飛散しないという保障はない。町内会の会長が業者にかけあって何とかするようにと言ったらしいのだが、業者は、今のままで問題はないとの一点張りのようだ。市役所にも話したということであるが、中々、早く動いてはくれない。

今回の件で、アスベストというものを調べてみたが、とんでもないものであった。

自分には関係ないと思っていたことが、近所で発生してしまったのだ。しかも、その業者にはアスベスト除去の資格を持っている人がいないということも発覚した。

明日、住民に対しての説明会を行うということで、町内会館に集まってほしいということの連絡を受けた。

私の町内は隣であるが、半径2キロ内に住んでいる人には出席してほしいということだ。

いまさら、説明会を開いても、すでに飛散しているアスベストについてはどうなるのだろう。

私もだんなも息子も吸っているかもしれない。数年経過して発症するという、時限爆弾のようなものがアスベストなのだ。これで2つの町内はパニックになったのだ。

こんなに、恐ろしいものを放置していた国や行政の責任はないのだろうか。

書物によると、今まで肺ガンと言われていたものの中には、中皮腫というものがかなりあったらしい。


タバコで肺ガンになったという中にも、実際は中皮腫だったという事例もあったようだ。

中皮腫の要因の、90%以上はアスベストということらしい。

それに、中皮腫という病気について、日本では専門医がとても少ないという事実も分かった。

別の意味において、艶子さんという人は、私たちに大きな問題提起をしてくれたのかもしれない。

アスベストについては、テレビや新聞でたまに見る程度だったが、この件でさらに大きな関心を持ったのだ。

明日の説明会で解決するとは思えない。どれだけの時間が必要になるのだろうか。




年の瀬にきて、とても不安な夜を過ごした。