僕の部屋に、大越刑事から電話が入った。

その前に、もう一度、例の金田親子がいると思われるアパートへ向かった。車の中で、録音を聞いた。間違いなく、徳野茂美の声であった。

「おそらく、真奈美か徳野から、金田親子のいるアパートへ電話が入ると思う。必ず、動きがあると思う。別の刑事が張り込んでいるから、逃げても無駄だ・・・」と、大越刑事が言う。

思った通り、アパートのドアが開いて、男と女が出てきたという。

タクシーを呼んで、マニラ市内のほうへ向かっているというのだ。

それを、今、追尾しているという。

「分かった。見逃すな・・・」と、大越刑事。

「やはり、動きがありましたね・・・どこに行くのでしょうか?真奈美の家に行くことはないと思いますが」

と、僕が聞くと「はい、関係者には、全て刑事がついていますから、大丈夫です。どこに行くのかは分かりませんが、とにかく、そのタクシーを探しましょう・・・」

マニラ市内へ向かっていたタクシーは、マニラ市内には入らなくて、ケソン市のほうへ向かっている。

僕たちの車は、ケソン市に入る手前で、そのタクシーを見つけた。

2台の車が、タクシーを追う。タクシーは、どこへ向かうのであろうか?

●丁度、その時分、日本でも、おかしなことが起こっていた。新藤が、テレビのニュースを見ていた時のことである。

圏央道のあきる野市内で、車の車両火災が起き、その映像が流れていたのだ。

車の後部が映像で、流されていたのだが、はっきりと、スカイラインGTRと確認できた。

運転していた人は、身元確認できていないということだ。残念ながら即死だということであった。

新藤は、何かを感じたらしく、管轄外であるが、多摩西部署に聞いてみることにしたようだ。

丁度、出口刑事が夜勤ということで署内にいた。

「出口さん・・・調べてほしいことがあります。今日の、圏央道でスカイラインの車両火災があったのですが、運転していた人を教えてほしいのです。まさかとは?思いますが・・・例の事件に関係が・・・」

「分かりました。関係ないといいのですが、早速、調べて連絡します。事務所でいいですか?」

「はい、お願いします。それと、新開刑事から何か連絡はありますか?雪田社長からは、マニラに着いた日だけ電話があっただけですが・・・」

「はい、昨日、連絡がありましたよ。何でも、意外な展開になったようです。私も、詳しいことは分かりませんが、予期していないことだというのです。早く、知りたいと思っていますが・・・?」

「何やら、面白いことになっているのかもしれませんね。後、4日で戻る予定ですが、解決の糸口が見つかったらいいですね・・・」

と、新藤と、出口刑事の会話であった。

それから、15分して、出口刑事から連絡があった。

「新藤さん・・・運転していた人は、車の輸出業者の人でした。海野幸秀といいます。年齢は、56才。東京都立川市在住です。・・・管轄の刑事が話してくれました」

「輸出業者・・・ですか?匂いませんか? 偶然にしても・・・」

「もう少し、調べてみます・・・何か、関係があるかもしれません・・・」

出口刑事は、そう言って電話を切った。

後で、分かるのであるが、この海野という男は、御手洗の取引先の業者であり、御手洗の指示で、スカイラインGTRを集めていたのだ。しかし、御手洗が死んだ後も、車を探しているとは考えにくい。

何か、他のルートからの依頼であろうか。

翌日、事故の原因が分かった。科捜研が調べていたのだ。

思ったとおり、一連の事件と同じ細工による発火によっての爆発事故だと断定されたのだ。

出口刑事は、管轄の秋川南署に行き、ことの詳細を調べてみることになった。

この事件も、金田の仕業ではないのか・・・しかし、金田は、フィリピンにいる。

フィリピンにいる金田は、東京の車に細工することは不可能なのであった。

と、いうことは、金田には共犯がいることになる。その共犯は、日本にいるのだ。

御手洗、倉重、浅田、そして、海野・・・海野という男の過去を調べてみると、何と、御手洗が、フィリピンにいた時に、同じ会社ではないが、一緒に仕事をしていた仲間なのであった。

誰が、海野を殺害したのであろうか?

●この件については、後に、出口刑事から、新開刑事へ連絡が入ることとなる。

一方、フィリピンでは、金田親子が乗っているとみられるタクシーが、ケソン市の一軒の家の前で停まった。

その場所を見た僕たちは、驚きの声をあげた。

何と、ビビアンの家なのだ。タクシーから、二人が降りる、そして、ビビアンの家に入った。

薄暗い道の上なので、顔を確実に確認してはいないが、女のほうは間違いなく、井上八千代であった。

男のほうは、女の後ろに隠れているので、この距離からでは確認できない。

この男が、金田純一郎なのであろうか?

僕たちは、思案した。ここで、踏み込むことは簡単だ。大越刑事が「とにかく行ってみましょう。ここにいても何にもなりません。会って、確認すべきです・・・」その一言で、ビビアンの家のドアを叩いた。

「はい、誰?」と、ビビアンの声。

大越刑事ではなく他の刑事が、何やら、話している。

すると、ドアが開き、ビビアンが顔を出した。

どうやら、近所の者だが・・・ということを話したようだ。

ビビアンは、大越刑事の顔を見るなり、とっさにドアを閉めようとしたが、強引にドアを開けた。

そして、なだれ込むように、僕たちは、部屋の中に入ったのだ。

そこには、井上八千代と知らない日本人の男がいた。どう見ても、その男は、写真の金田純一郎ではない。




何故だ?純一郎ではないということは、彼は・・・どこにいるのだ?







この金田親子がいるのではないかと? アパートは、別の刑事が見張ることになった。

車は、30分ほどして、ホテルに着いた。

真奈美は、徳野の部屋に入ったきり、一歩も外へ出ていない。間違いなく、この部屋の中にいる。

部屋の前に、大越刑事と他の2人の刑事がいた。

僕たちは、僕の部屋で待つことにした。

ドアを叩く。中から、徳野の声がした。

「誰ですか?」

「マニラ警察です・・・ちょっと、ドアを開けて下さい・・・」

「警察?・・・何でしょうか?・・・」

「市内で事件がありまして・・・その、調査に協力してもらいたいのです・・・開けて下さい」

ドアは、ゆっくりと開いた。そして、ドアを半分開けたまま、廊下に出てきた。

「事件ですか?何か、私に・・・」と、徳野は尋ねた。

「すいません・・・大山さんですよね。市内で起きた事件で、犯人がこのホテルに隠れこんだという情報があります。それと、日本人の女だという目撃者もいたので、日本人の方に協力してもらっています。何か、変わったことはありませんか?いえ、あなたを疑っているということではありません。年からしても、目撃情報とは違っていますから・・・。とにかく、一度、部屋の中を拝見させてもらえませんか?捜査に協力してもらいたい。皆さんにお願いしていることです」と、大越刑事は、ゆっくりと静かに尋ねた。

「はい・・・それは、かまいません・・・ただ・・・」と、言葉が途切れた。

「ただ・・・何でしょうか?何か都合の悪いことでも・・・」

「いえ、友人が来ていますので・・・ちょっと、待って下さい・・・」と、部屋の中に戻った。

「はい、入って下さい。何も変わったことはないですが・・・」

大越刑事と2人の刑事は、部屋の中に入った。

ソファーには、真奈美と思われる女が座っていた。

「日本人の方ですか?」と、真奈美に尋ねた。

「はい・・・」

「失礼ですが・・・パスポートはお持ちですか?大山さんも・・・捜査の一環ですから・・・」と、いきなり尋ねた。しばらく、二人は、困ったような顔をして・・・

「・・・私は、ベニーノ・真奈美といいます。日本人ですが、マニラに住んでいて、国籍もフィリピンです」

「真奈美さんですか・・・お住まいは?」

「マカティの、ベニーノビルの最上階ですが・・・調べてもらえば、すぐに分かります・・・」

刑事は、メモをする素振りをした。

「大山さんは?大山さんも、フィリピン在住ですか?」

「・・・いえ・・・あのぅ・・・偽名です・・・本名は、徳野茂美といいます。いつも、宿泊する時は、この名前なのです。すいません・・・」と、一応、申し訳なさそうに答えた。

「そうですか・・・大山という名前で、ホテルに登録してありましたから・・・いえ・・・偽名でもいいのですが、念のため、パスポートを見せて下さい」

徳野は、バスポートを大越刑事に提示した。

2時間前は、どこにいましたか?」

「二人とも、この部屋にいました。どこにも行っていません」と、徳野は答える。

「それで、この部屋は、徳野さんが泊まっているわけですが、真奈美さんは何時に来られましたか?」

「・・・3時間ぐらい前だと思います・・・」と、徳野の顔を、チラリと見た。

「真奈美さんは、3時間前に来られました。間違いはありません・・・」

「嘘を言ってはいけませんよ・・・ホテルのフロントの人間が、2時間前に来るのを見ているのですよ。本当のことを言ってくれないと、余計な嫌疑が・・・」

「すいません・・・2時間前でした・・・」と、真奈美は、下を向いた。

「それならば・・・2時間以上前には、どこにいましたか?」と、尋ねると、徳野が、逆に聞いてきた。

「何の事件ですか?何か、私たちに関係があるのですか。どうも、疑われているような・・・」

「麻薬の密売です・・・それと、疑われるようなことをしているではないですか?偽名といい、時間も誤魔化しているし・・・最初から、本当のことを話してくれたなら、何の問題もなかったのですよ・・・」

大越刑事の声が大きくなっていた。

「・・・それは、そうですけど・・・ひどいじゃないですか?何もしていないのに・・・」

「何もないなら、最初から本当のことを話して下さい。そうじゃないと、署まで来てもらうことになります。よく、考えてから言って下さい。嘘をつくと、また、嘘をつかないといけなくなります。疑っているわけではありませんが・・・信用できなくなります。それとも、聞かれては困ることでもあるのですか?そうでなければ、本当のことを話してもらえませんか?調べれば何でもわかりますよ・・・」

「それはそうですが・・・・・」と、徳野は、静かになった。

「で、真奈美さん・・・その前は、どこにいたのですか?」

「友人の家です。マニラ空港の傍の・・・」

「失礼ですが・・・何という名前の友人ですか?」

「・・・私の、親戚です・・・日本から観光旅行に来ています。井上といいます。私の借りているアパートに住んでいます。ホテルよりも、お金がかからないし、前も、何度か来ています。そこに、いました・・・」

「そうですか・・・念のため、アパートの住所を・・・」と、言うと。アパートの住所を言った。

それを、別の刑事がメモしている。そのアパートの住所は、すでに分かっていたのであるが、間違いなく、同じ住所であった。

「協力、感謝します。で、徳野さんは、いつ、日本に帰られますか?」

「明日の予定です・・・」

「協力ありがとう・・・・」

と、大越刑事は、部屋を出た。勿論、その間のやり取りは、録音されている。









今週は、だんなが家にいて静養しているので、普段より大目の食料品が必要になる。

だんなには、栄養をつけてもらわないといけないので精のつくものを買っている。

今日は、だんなの好きなスキヤキにしようと思う。息子も大好物なので一家団欒での食事が楽しみである。

いつものスーパーで買い物をしていると、いつも出会うパン屋の小田さんに会った。

「田口さん、大変だったそうね・・・ご主人・・・」と、聞いてきた「ええ 何とか手術して静養中なのよ」と言うと「あの病気って手遅れなら死ぬらしいのよね、良かったわね」と気遣ってくれた。

皆、私の家のだんなが虫垂炎で入院していたことは知っている。人の噂というものは新幹線よりも早い。

「何とかね、病院に着いた時は、腰が抜けるという感覚になったのよ、生きていて欲しいというよりも、死んだらどうしようということで頭の中はイッパイだった」と言うと「うちもあったのよ、昔、だんなが急性膵炎になってね、救急車を呼んだことがあったの、その時は生きたここちがしなかったのよ」と小田さんは言う。

「膵炎ていうのはとても痛くて立っていられないらしいの、だんながしゃがみこんで唸っているからトイレでもいったらなんて言ってしまったのよ、本当に大笑いよね」と言いながらケラケラ笑っていた。

「そうよね、当人にしか痛みは分からないのよね、いいかげんなものね」と笑い返した。

「そうそう、人はみないいかげんなのよ、私が初めて妊娠して気持が悪くなった時でも、食べすぎだから胃薬でも飲んでろと言われた・・・」と小田さんは昔を懐かしむように話している。

私も、2度目の妊娠の時に、一度出産しているからと注意をしていなかったから、流産した経緯がある。



それで、子供ができない体になったのだ。

あの時、もっと注意していたならと後悔していることと、息子に兄弟がいたならもっと良かったとも思う。

大人のいいかげんさで人生が変わってしまうのだ。

「田口さん、例のいじめのことはどうなったの?・・・」と聞いてきた、小田さんの娘は中学生だから、小学校で起きたことを詳しくは知らないらしい「その後は何もないけれど、色々と対応はしているらしいの」と答えた。

どうやら、小田さんの娘さんの中学校でも問題になっていることがあるらしくて、保護者会も頻繁にあるようだ。

小田さんは、お互い大変だねと言いながらレジに向かった。

地域にとっても大事な問題のひとつであるし、さらに、防犯も大きな問題である。


子供にとって、住みづらくて大変な世の中かもしれない。

全国的に大きな問題になっている。しかし、20年前にも社会問題になったのに、今さら何なのだろう。


全く、解決もしていないし、さらに酷くなっていると思う。

この国は子供の今や将来についてのビジョンがゼロなのではないか?

子供なくして国の繁栄は絶対にありえないとどこかで呼んだ記憶がある。

今の日本という国は、繁栄という言葉を忘れてしまったのであろうか。

今がよければ将来はどうでもいいのかもしれない。

大人による犯罪の多さが子供にも影響しているのは確かだろう。

大人のいいかげんさが子供にも影響しているに違いない。このままの状態でこの国が衰退していったなら・・・・


いずれは、廃国となり、どこかの国の属国となるかもしれない。人口が減っているということは、間違いなく子供が減っているということだ。子供が減った国で繁栄した国など歴史上には存在していないと思う。

スーパーの店内で、こんなことを考えている人は私ぐらいかもしれない・・・

手のカゴの中には、スキヤキの具材が入っているのに、頭の中では国の将来について考えている。

そう思うと何かとてもアンバランスな感じがして可笑しくなってしまった。

私は、結構そういった話は好きである。ただ、周りの知り合いの中ではいない。

いつも頭の中だけで考えているだけである。私のようなものが国の将来について考えても何も変わることはないだろう。しかし、国を変えたいという格好をつけた政治屋よりはましだと思う。

この国で一番いいかげんな人は、国のトップにいるえらい人たちではないか?

権力掌握のためや身の保身のためなら裏で何でもしている人が多すぎる。

ただの主婦だけど、裏も表もない生き方をしている私のほうが十倍も千倍も人としては上だと思う。

そんなことを考えながら買い物していると手のカゴには、スキヤキの具材でイッパイになってしまった。

あわてて、レジに向かって小走りに走った。





しかし、新開刑事は、大越刑事に、徳野茂美が、本名で宿泊しているのかを確認して欲しいと言った。



尾行している刑事から、すぐに連絡が入った。

徳野という女はいない?それにもまして、このホテルに宿泊している日本人は、その、大山かなえ、という女しかいないというのだ。おかしい?徳野は、このホテルに宿泊していると聞いている。昨日は、ホテルのラウンジを出て、僕は、エレベーターで6階で降りて部屋に行ったのだが、徳野の部屋は、3階だということであった。

ラウンジで飲んでいる時に、部屋番号を聞きたいと思ったのだが、何か変に勘違いされても困ると思い、聞き出せなかった。連絡を取り合うとしても、携帯電話があるから何の問題もないと思っていた。

僕は、真奈美が入った部屋は何階なのかと聞いてもらうと、3階だという。間違いない、大山という女と、徳野とは同一人物なのだ・・・

ということは、一体何なのだ?

「雪ちゃん・・・とうとう、徳野が正体を現したようだな・・・雪ちゃん?・・・」と、新開刑事が言った。

「えっ・・・どういうことなんですか?徳野と真奈美は面識があるということですか?一体・・・」僕は、大声を出してしまった。

「いゃ、雪ちゃんには秘密にしておいたことがある。確かに、徳野は御手洗の奥さんに死亡保険金を送金していたのは確かだ。しかし、徳野が送金したことで、徳野の口座が判明した。そちらの口座も調べてみると、フィリピンのミタライ・コーポレーションからの振込みと、フィリピンの、ホウライインクという会社からの入金があった。

徳野の、メインの口座は、事件後に事前に調べておいたから、全ての入出金は確認していて、何も問題はなかった。

が、この口座は俺たちの知らない口座なのだ。つまり、徳野の秘密の銀行口座だと分かった。徳野は、秘密の口座から、御手洗の奥さんの口座に振り込んでしまったのだよ。それで、俺は、ホウライという名前を調べてみた。雪ちゃん・・・ホウライという名前に覚えがあるだろう?」と、新開刑事は、少し笑いながら言った。

「・・・ホウライ・・・もしかして・・・あの井上八千代の、博多の蓬莱商事・・・?」

「あぁ、同じ名前だよ。何かあるとは思わないか?それが分かったから、俺は、雪ちゃんには、はっきりするまでは黙っておこうと思ったんだよ。雪ちゃんは、徳野のことを完全に信用していたからな・・・」

「・・・そうでしたか・・・何かありますね・・・そうでなければ、徳野と真奈美が会うことはないし、真奈美と金田親子・・・ということは、徳野も、金田親子と繋がっている・・・どういうことですか?」

「いや・・・今の時点では、何も分からない。ただ、皆、関係していると思う。そうなると、徳野のことは信用できないということになるな・・・とにかく、この連続事件に関係しているんじゃないか?あまりにも、雪ちゃんが、徳野のことを信用していたから・・・水面下では調べていたんだよ。俺も、まさか、徳野と真奈美が会うとは考えられなかった。これで、役者が全員揃ったと思うがね・・・?」

と、言うことは、昨夜、ホテルのラウンジで、徳野が、僕に話したことは何なのだ?

ボエット・チャンからの情報で、御手洗に借金があって、金田栄一の死後、清算されている。

しかし、徳野は、僕に対して、そんな情報を流しても、何の得にもならないと思う。

だが、そういう情報を流すことで、自分とは何も関係がないということを、見せていたのかもしれない。

僕は「新開さん、僕は、まだまだ甘いですね・・・これから、どういう展開になるかは知りませんが、徳野茂美を完全に信用していました。新開さんの言う通りかもしれません?決して、美人だからということはありません。何故か、疑うという気持ちが弱かったと思います。よく、考えてみると、おかしいところもあったのかもしれません。でも、僕は、気にしなくていいという気持ちだったと思います。それに、僕に、今回の事件のことを依頼してきた当事者でもあるし、まさか、関係しているのなら依頼するとは考えられなかったのです。それにしても・・・甘かったです。さすが、新開さん・・・ベテランは違いますね・・・探偵ごっこをしている僕なんかは・・・」

「いや・・・俺も、浅田の事件のことで、徳野はシロだと思っていたんだ。途中からだよ・・・何か、不自然な動きだと思ったのはな。というのは、尾行していた時に、あまりにも、動きが少ないと思った。少ないというのは、会社の経営者としては、もっと忙しいはずだと思ったんだ。尾行していた刑事からの報告で、一日、どこにも出かけない日が続いていたりした。ということは、どこから収入を得ているかということだ。確かに、フィリピンのミタライ・コーポレーションからの収益金の振込みはある。しかし、俺が予想していた金額よりも、はるかに少ない。今、徳野が住んでいる賃貸マンションの賃料程度なんだよ。どうして、その金額で生活をしているのかが疑問に思ったんだよ。これは、絶対に他からの収益がある。御手洗が生きていたころは、裏で金を貰っていたとしても、今は、御手洗は死んでいない・・・どうして、あんな高級マンションで生活ができるのだろうかと思ったんだ。

これは、絶対に裏の口座があると思った。しかし、どんなに探しても発見できない。そこで、徳野に、保険金のことを聞いてみたんだよ。まさか、裏口座から振り込んでいたとは思わなかったよ。これが、徳野の一番の大きなミスだな。俺たちが、最初は疑っていたが、次第に、疑うことはなくなったと思ったのかもしれない。それで、気を許したのだと思う?さらに、雪ちゃんに、探偵のような依頼をしたことも、こちらの情報を知りたかったのだと思う。まぁ、雪ちゃんは利用されたのかもしれない?」と、しっかりと僕の顔を見て話した。

「そうかもしれません?でも、僕と同じホテルに宿泊するということは、危険ではないですか?警察が動いていることを知っているのですから、そんな危険なことはしないと思いますよ?」と、疑問を問いかけた。

「そこだよ・・・おそらく、多少の危険でも、僕たちの情報を得るには、同じホテルがいいと思うし、事件とは全く関係がないということを言いたかったのかもしれない。それも、大きな賭けだったと思う。しかし、徳野は、気を許していたのだ。まさか、俺たちが、フィリピンでここまで調べているとは思ってなかったのかもしれない。昨夜、雪ちゃんが、徳野に全部話したと言っていたけど、俺は、困ったものだと思っていたんだ・・・本当は・・・」

と、僕を見て、ハハハと笑った。

「いえ・・・全部は話していませんよ・・・確証のある部分だけです・・・真実でない部分を話したら、後で、訂正することが大変だと思ったのです。全部、話さなかったことが、少しは幸いしたのかもしれません

「そういうことだ・・・全部、話していたなら、展開は変わっていたと思うよ。とにかく、これから、どうするかということだよ・・・ここで、見張っていても何の進展もないかもしれないが、徳野と真奈美は、ホテルの部屋にいるのだから、何とかして話を聞くことのほうが先だと思う・・・大越さん・・・何とかならないかな

大越刑事も、悩んでいた。真奈美は、政府の高官との付き合いがあるから、うかつに手は出せない。

10分ほどして、大越刑事が「徳野とかいう女の部屋に行ってみましょう?容疑も嫌疑も何もありませんが・・・?

「どのような容疑で・・・」と、僕が尋ねると。

「私たちに与えられている範囲で・・・麻薬密売の情報があったということで、部屋に乗り込んでみようと思います。私の責任で・・・」と、気持ちを固めたようだ。

そして、携帯電話で、何やら上司と話している。

「上司は、許可しないといいますが・・・勝手にしたらいい・・・と・・・日本語でいう暗黙の了解でしょうか?まぁ、やってみるしかないです・・・」と、車をホテルへ走らせた。







翌日、日本からの連絡で、結局、徳野のいうとおりに保険金は、支払われていた。これで、徳野に対しての疑いは完全になくなったと思う? 徳野は、今日も、仕事の打ち合わせがあり、近日中に帰国するという。

僕は、これからの展開について、戻り次第、報告すると約束した。

翌日、ベニーノ・真奈美に、不審な動きがあった。

張り付いていた刑事からの連絡である。

普段なら、おかかえの運転手の車で出かけるのだが、今日に限っては、一人で車を運転して出かけたという。

現在のところ、マニラ空港方面へ向かって、スカイウェイ(高速道路)を走っているらしい。

尾行の車は、一台であるから、見失ったなら大変なことである。

マニラ空港を素通りして、さらに、南のほうへ向かっている。ムンテンルパ方面であった。

しばらく走ると、高速を降りて、こじんまりとした3階建てのアパートの前で停まった。

車を駐車場につけ、アパートへ向かった。

尾行の刑事は、入った部屋を確かめるべく、気づかれないように後をつける。

3階の301号室に鍵を開けて入った。ドアをノックすることもなく、自分の鍵で入ったのだ。

一体、ここは何なのだろう、あんなに大金持ちのセカンドハウスとは考えにくい。

大越刑事からの連絡で、僕たちも同行することになった。

着いてみると、真奈美は、あれから一歩も外に出ていないという。出入り口は、表の玄関しかない。

裏は、ベランダになっていて、3階の高さがあるので、裏から出ることはない。ベランダの窓には、しっかりとカーテンがかかっていて外から中の様子を確認することは不可能であった。

2時間が経過したであろうか。真奈美が出てきた。しかし、入った時と、違う動きであった。

入った時には、自分で鍵を開けたのであるが、外に出る時は、鍵を閉めないのだ。

この部屋の中には、誰かがいる? 僕たちは確信した。

真奈美は、車に乗り、近くの食料品店で買い物をしていると、尾行の刑事から連絡が入った。僕たちは、このアパートに張り付いている。ほどなくして、真奈美は、両手いっぱいの食料品をかかえて、アパートの階段を上った。

僕は、鍵をあけるかどうかということを注視していた。しかし、ここでも、荷物を下において、自分で鍵を開ける。

もし、鍵を閉め忘れて出たのなら、鍵を回すということは、逆に鍵を閉めていることになる。

間違いない・・・この部屋には、真奈美以外の誰かがいるのだ。

「大越さん・・・何とかして、部屋の中に入ることはできませんか?絶対に誰かいます?・・・」と、僕は、少しあせって尋ねた。

「私も、それを考えていたのです。おそらく、ドアをノックしても無駄でしょう。今のところは、何の容疑もないのですから、こちらとしても手の出しようがありません。それに、真奈美は、政府の高官とも付き合いがあることが分かっています。もし、何もなかったなら、マニラ署としては、大きな問題になります・・・残念ですが・・・雪田さん・・・」と、大越刑事も無念そうであった。

ここで、真奈美以外の人物が出てくることを待つしかないのか?

金田親子だとしたなら、自分たちに容疑がかかっていることは分かっているはずだ。

異国だとしても、おいそれとは出てくることはないであろう。これだけ用心しているのだ。

外は、夕闇が迫っていた。僕たちは、もどかしい気持ちを抑えることができないまま、見守るしかないのだ。




外は、完全に闇につつまれた。

表通りに車を停めたまま、3階を見ていた。その時である。

ドアが開き、薄暗い通路に人影が見える。真奈美のようであった。しかし、ドアは、開いたままである。



真奈美は、周りを見渡したかと思うと、また、ドアを閉めた。ベランダ側から、見ている刑事から連絡が入り、真奈美がドアを開けた時点で、カーテン越しに部屋の電気が消えたというのだ。



ここまで、徹底的に用心しているのであろうか?



真奈美は、階段を下りて、車に向かった。

車に乗り込むと、マニラ方面に向けて走り出した。

他の刑事がその車を追う。僕たちは、ここでこの部屋を見ていることにした。腹も減ってきたが、ここを離れるわけにはいかない。それから、30分が経過した。

何の動きもない。その時、真奈美の車を尾行していた刑事からの携帯電話が入った。

真奈美は、自宅に戻らずに、あるホテルの駐車場に車を停め、ホテルの一室に入ったというのだ。

そのホテルというのは、僕たちの宿泊している、リンガーホテルであった。

ホテルのフロントに確認すると、日本人の、大山かなえ、という女の部屋だと分かった。



何でも、昨日から、3日の滞在予定だというのだ。



僕は、徳野茂美のことを思いだした。もしかしたら・・・徳野ではないか?

まさか・・・そんなことはないだろう・・・真奈美と徳野に接点があるとは思えない・・・







息子を預かっていた家にお礼の土産を持って行って、息子を引き取って帰った。

今年は12月になって色々なことが起こっている。

今年は、例年になく記憶に残る年になったようである。

その後、だんなも何の問題もないということで退院の運びとなり、7日ばかり家で静養して会社に復帰となった。

その次の週から、例のお寺の住職による命の大切さの説法が学校で始まった。

最初は、低学年からということなので、息子の6年生は来週からになるということだ。

2学期が終わろうとしている週になる。

それはそれとして、自殺未遂をした女の子については、何の情報も入ってこない。

何人かの人に聞いてみたのだが、どうやら登校していないようであった。

ある人に言わせると、3学期からは転校するのではないかとも言っていた。

何やら、自殺未遂があったということは、校内ではタブーということのようだ。

時間が忘れさせてくれるという方向に持っていくのかもしれない。しかし、そういう考えであったなら、何の解決にもならないだろう。いくら、住職の説法があったとしても、学校側が本気で変わっていこうとする気持がないと、また、同じことが起こるかもしれない。今のところは、いじめという現象はないということであるが・・・

久しぶりに、艶子さんが朝にやってきた。

なんだか、懐かしい人のような存在に思えて可笑しくなってしまった。

「だんなが、病気だってな・・・」と聞いてきた「ええ ちょっと・・・」と答えると「だんなは厄年なんだろ?」といきなり言う。

忘れていた。だんなは後厄なのだ。前厄も厄も厄払いはしていない。だから、虫垂炎にでもなったのであろうか。

艶子さんに言われて、はっと気付いた。

「だんなの年は色々なことが起こるから気をつけてな・・・」と注意をしてくれた。艶子さんからの注意というものは初めてかもしれない。何だか優しい人なのか何なのか本当に分からない人だ。

「虫垂炎でした、来週からは会社に行く予定です」と答えると「そうか、よかったな、週末から前の家の解体が始まるらしい、少しは寂しいと思うが、息子が戻ってきたほうが何倍も嬉しいな」と言う。その時の顔は母親の顔になっていた。

「そうですか、取り壊して3軒の家が建つようですね」と聞くと「ああ そうらしい、関係ないけどな」と言っていつものように勝手口を閉めて帰っていった。

息子の昇さんが戻ってきたからの艶子さんの顔色はいいように見える。息子の存在は大きいのだろうか?

いつも思うのだが、何を言いに来たのであろうか。ただ、話したいだけなのか、本当に意味不明な人である。

艶子さんが長年住んできた家もなくなってしまう、なのに艶子さんは何とも思わないのであろうか。決して、良い思いではなかったのかもしれない。家がなくなるということは目に見える歴史も終わってしまうということだ。

世の中には日々壊れていく家と新しく建てられていく家とが混在している。

壊れていく家は歴史が終わり、新しい家は、これから歴史を作っていく。その家の中に人がいて人もまた歴史を作っていく。人の歴史とは家があって初めて作られるものであろう。

そういう意味においては、家という存在は大きなもののように感じる。

さらに、家というものは、住む人の性格までも左右しているのかもしれない。

その家というものが影も形もなくなっていくのだ。

艶子さんにとっても大きな意味があるとは思うのだが、表面上は坦々としているだけなのかもしれない。

ちょっと気になったので、自転車で艶子さんの前の家に寄ってみた。

玄関前には立ち入り禁止という小さな看板が掲示されていた。

解体となると1日で終わるのか、2日はかかるのか、素人の私にとっては全く不案内な分野である。

そこで、ふと気付いたことがある。

確か、アスベストが含まれているということで価格が安くなったということだ。

アスベストの除去も必要なのだから、少し時間はかかるかもしれないと思い、そのまま、スーパーに向かった。

そのアスベストのことで町中が大変なことになることには時間はかからなかった。







頭の中はぐらぐらである。オーバーかも知れないが、多少期待していただけに落胆も大きい。
他の仲間も同じような顔をしている。


ただ、彼と彼の両親と子供たちは美味しそうに肉だんごだけを食べている。


鍋の中から肉だんごがなくなって野菜を奥さんが入れ始めた。

出汁のないお湯だけの鍋の中に野菜を入れても美味しいわけがないのである。

私がおかしいのだろうか。いや、そんなことはない。私のほうが常識なのだと言い聞かせてしまった。

そこで少しだけ勇気を出して「すいません。何かソースがあれば有り難いのですが」と奥さんに話したのです。

そうすると子供が「鍋にソースは変だよ」と不思議そうに聞いてくるのです。確かに変ではあるが、醤油だけよりはましだと思ったのです。肉だんごにソースをかけたかっただけなのである。


彼も両親も奥さんも同じように不思議な顔をしている。


「ソースがお好きなら持ってきますが美味しくないと思いますよ・・・」と奥さんは命令口調です。

「はい・・・醤油で結構です・・・」と、心にもない言葉になってしまったのでした。


それから薄まった醤油で野菜を食べて、相変わらずカビ臭いご飯を食べて、何とか終わったのですが、このカビ臭いご飯というのは炊いて長い間ジャーに入れておくとそのような味がするものです。

多分、大量に米を炊いてジャーに入れているのだと思いました。



結局、夜も最悪の結果になってしましました。他の3人も同じ気持ちのようです。
所変われば品変わるということの典型です。しかし、変わりすぎだ・・・


静岡に来たのだからうなぎの一つも食べられるかと思っていたのですが・・・


それから更なる不幸が私たちを待っていたのです。


夜の9時になっていました。お腹は空くし何も食べるものはないし地獄のようです。
子供たちが風呂に入ったようです。明日は幼稚園や学校があるので先に入れたようです「子供が上がったら風呂にどうぞ・・・」という奥さんの声。

彼の両親は、自分たちの部屋に戻っています。昔の仲間5人でやっと懐かしい話ができたのですが何故か楽しくないのです。昔の仲間なのによそよそしい雰囲気です。

食べ物の恨みというのでしょうか。それがあるからこそ何ともいえないぎこちなさなのです。

彼はいたって嬉しそうに話していますが、私たち4人はただ何か食べたいだけなのである。


私たちの部屋はお客様の部屋という感じです。仏壇がありその仏壇の上に亡くなった曽祖父や曾祖母の白黒の写真が飾ってあります。家は新築なのですが仏壇のある部屋は昔ながらの部屋です。
何か・・・他人の遺影がある部屋は・・・いやです・・・


10畳くらいはあるでしょうか。どうやらそこに4人が寝ることになりそうです。

今は、その部屋にいて荷物の整理をしています。4人で小声の会話になっています。

何とかならないのかとか早く出たいということとか色々な気持ちが交差して落ち込んでしまっています。

子供が風呂から上がったということで友人の一人が先に入ることになり風呂場に行きました。
彼は、奥さんと子供の面倒を見ているようです。


子供が寝付くまでの間は一緒に添い寝するのがこの家のしきたりのようです。

5分も時間が経っていないと思います。友人が風呂場から帰ってきました。

「早いね?」と私が聞くと「行ったらわかるよ、少しは片付けておいた・・・」というのです。
とても嫌な予感。次は私が入ることになりました。

風呂場につくとさすがに新しい家で脱衣所もピカピカです。大きな洗面台と大きな鏡が素晴らしい。

風呂に入るドアを開けて「うそ 何だこれ?」2畳くらいの広さでしょうか。その中には子供のオモチャがまるでオモチャ屋さんのようにあるのです。さっき入った友人が片付けたという意味が理解できたのです。

多分、彼が入った時は風呂場の中全部にオモチャが散乱していたのだと思います。

散乱していなくてもこれだけの量のオモチャなのですからきっと凄かったと思います。

こんなオモチャの量は見たことはありません。それも風呂場の中です。

どこに石鹸やシャンプーがあるのかと探しまくりましたが無いのです。

一旦、ドアを開けて外に出て洗面台の上にある石鹸を見つけたので勝手に使わしてもらいました。


風呂場の中に戻って湯船の蓋を開けると、また驚きです。


何と・・・湯船の中は・・・全て・・・おもちゃで埋まっていたのです。

洗い場も・・・おもちゃ・・・湯船の中も・・・おもちゃ・・・

私は、カラスの行水で、さっさと風呂を出ました。

最悪の一日が終わろうとしている。

終わろうとしていると・・・思いたい・・・


風呂を出て、客の部屋に戻ると・・・皆が、何か騒がしい・・・?



何だ・・・?



布団・・・布団が・・・2人分しかない・・・それも・・・小さい・・・異常に・・・



何でも、客用の布団がないので、子供用の布団で寝て欲しいということでした。


子供・・・違う・・・赤ちゃん並み・・・だ。


敷布団は、無理だ・・・あまりにも小さい・・・


掛け布団は・・・1人なら・・・何とかなる・・・それも・・・2枚掛けて・・・



私は思った・・・本当は・・・招かれざる客なのではないかと?・・・


私は、一睡もできないまま、朝になるのを待っていたのでした。



朝食ですか?・・・予想通り・・・同じでした・・・



帰りの新幹線の中の、駅弁が・・・・こんなにも美味しいとは・・・



あなたにも、こんな経験は・・・ありませんか?


箸休 終わり







「お前の友達は食が細い人たちだな?・・・」と言うのです。

「いや、みんな遠慮しているだけだから大丈夫だよ。夜になったら慣れて食べると思うよ」頭は真っ白です。
4人で目を見合わせてしまいました。夜 夜 もここで食べるのか・・・


確かに日帰りではなくて一泊の予定で来ているから、それはいいのだけど夜もこの家で食べるのか。


一応、静岡駅前のホテルはみんなで相談して2部屋予約してあるから問題はないのだが、ここで食べるのは絶対に嫌なのである。今となってはホテルを予約しておいたことに感謝している自分がいた。

何とか理由をつけてこの家から出れば後は天国である。普通の居酒屋が最高の場所に見えてきた。

そんなことを考えていると彼がビールを注ぎながら「夜はどうするの、ホテル予約してあると聞いたけど?」
なにやら雲行きが怪しくなり始めました。

「お金もかかるからうちに泊まればいいんだよ、お前も親父もそう思うだろ?」と、ママの顔色を伺っています。

「そうしてもらいなさい、ホテルに泊まったってまともな料理なんかないから」と余計な口を出してくる親父である。さっきまで黙って食べていてさっさと部屋に戻ってくれていたなら何にも問題はないのである。

親父の一言でこの場の空気が一変したことの責任をとってもらいたいと思ったのである。

「ママもいいだろ?・・・」と、またまた余計なお世話。


その料理の下手なママも大きく頷いてしまったのであった。

そこからは推測の域を出ないのである。ホテルのキャンセルをしてしまったのである。当日のキャンセルなのでキャンセル料金が発生したのだが、そんなことは一向にかまわないという雰囲気。

確かに、ホテルに泊まると金がかかるのは当たり前だが、今日はいくら出しても泊まりたい。


時間は流れていき、夕方の5時になっていた。近くを散歩してくるということにして4人で何とか外出したのである。その時の仲間との会話を簡単に記述するとこうなるのである。

親戚の家で不幸があったから至急戻らないといけないとか、体調が悪いから今日は帰らせてもらうとか、色々とみんなで話したのだが良い結論はでない。出るわけがないのである。

4人の家全員に不幸があることなど不自然であるし、全員が体調をくずすとなると絶対にありえない。

それもそうだが、こんなに料理の下手な奥さんに会ったことがない、全部は書いていないので一部の料理を書き出してみたいと思う。


味のしないから揚げ、塩辛い煮物、具のない味噌汁、かび臭いご飯、がちがちの湯で卵、千切りとはいえない大きさのキャベツ、子供だけのアジフライ、10人いるのに3人前程度の寿司、と思い出したくもありません。
ほとんど食べていないので腹はすきっぱなしです。


みんなで何か買って食べようということになった時です。私たちのいる公園に彼がやってきて

「彼が、おーい、近くの店でも行かないか?」とやってきました。やっとゆっくりできると心躍ったのです。

しかし、彼の後ろには二人の子供の顔。どうやら、夕食の準備をしている間に子供を連れていって欲しいとママが言ったようなのです。

彼が店と言っていたのでてっきり飲食店だろうと思ってしまったのですが、ただのケームセンターだったのです。また、地獄に落ちてしまいました。みんなの顔が完全に曇っています。

それから徒歩数分のところにあるゲームセンターに行ったのです。ゲームなんかはどうでもいいのです。
そして、子供と一緒にプリクラを撮ったりしてしまいました。


自分が情けないやら、誰か早く何とかしろよという気持ちなのですが誰も何も言えません。

今いるのは、なんといっても友人の家なのです。そして彼の家族なのです。


朝、彼の家へ向かうタクシーの中でのわくわくした気持ちが何か遠い世界のように感じてなりません。

今は、子供たちの後ろを歩きながら途方に暮れている惨めな自分がいるだけです。

頭の中は、どんな料理が出るのだろうかとか食べられるのだろうかとか、また、あの狭いテーブルに10人が座るのだろうかとか?・・・悶々として歩いた数分間でした。仲間も諦め顔になっています。


彼の家が見えてきました。世の中には帰宅恐怖症という病気があるそうだが今はそんな気分である。


はっきりと彼に言ったほうがいいのではないか、もし、友情にひびが入っても仕方のないことではないか。
段々、究極の選択をしている自分がいました。


たかが、食事なのです。たかが、友人の家なのです。全ては、たかが・・・と思いたいのです。


しかし、今までの人生経験の中でこんなにひどいことはなかったのも事実でした。

私の家では、友人が来たならできるだけ外食します。上げ膳据え膳として女房に迷惑をかけたくないのと、家庭の中では友人が来たなら話しづらいこともあるでしょう。そういう意味においても外食するのです。

勿論、昔を懐かしむためにも同じ部屋で寝ます。話し足りないことが布団に入ると何故か話しやすくなるのはよくある修学旅行と同じなのです。

そうこうしているうちにとうとう彼の家の玄関前に着いてしまいました。
奥のほうから何やら良い?匂いがしてきます。


さっきは、これに騙されたと思ったのですが、もう一度信用してみてもいいかと思ったのも事実です。

よく考えると友人の家に来て信用するもしないもないのですが、この家だけはそういう気持ちになっていたのです。


「ただいま・・・」と子供たちの大きな声。奥からは奥さんのおかえりという声。

靴を脱いで奥のリビングキッチンに行くと、彼の両親はテーブルについていました。


やはり、また一緒なんだ・・・


子供たちは手を洗ってうがいをして着席しました。このあたりはしっかりと教育できていることのようです。私の子供にも見習わせたいと感心しました。

テーブルの上には何も料理はありません。これから何が出てくるのか興味津々というよりも何が食べられるのかという期待願望があったのは間違いありません。他の3人も同じ気持ちだったと思います。
軽く彼の両親に会釈して昼と同じ椅子に座りました。


キッチンから奥さんの声「パパ 運んで・・・」と何やら料理を運ぶ手伝いをしてくれとの様子です。
彼はやおら立ち上がりキッチンへ行きました。

そして、両手で大きな土鍋を持ってきたのです。どうやら何かの鍋のようです。蓋があるので中はわかりませんが鍋物の匂いがしているのは確かです。ちょっと冗談じみていますが闇鍋という感覚になってしまい苦笑した自分がいたのです。


何が入っているのだろうか何を食べられるのだろうか?と・・・


それから彼は大きな皿を持ってきました。その皿の上には野菜が沢山乗っています。肉はなさそうです。
ということは肉は鍋の中に入っているというか。野菜といっても白菜、人参、えのきだけですが。

今まで、これだけ他人の家で出される料理に興味を持ったことはなかったと記憶しています。

それだけ昼の料理がとんでもないことだったのです。

しばらくすると鍋の下に置いてある簡易ガスコンロに火がつけられました。
いよいよ食事の開始となる気配です。

まだ鍋の蓋はとられません。心の中では何が入っているのかということで頭の中がいっぱいになっています。

他の3人も無言です。目で何が入っているの?と、合図したのですが、誰も不安そうな顔をしています。

彼の両親は昼間と同じで無言です。夫婦なのだから少しくらいは会話があってもいいと思いますが無言です。

子供たちはテレビでアニメを見ています。すると奥さんがキッチンから出てきました。手にはお椀を持っています。鍋を食べる時のお椀のようです。


さて、いよいよのようです、椅子に座ってから30分が経過していました。


奥さんが鍋の蓋を取りました、ご開帳というべきでしょうか何か怖いもの見たさで心踊りました。


私は目がテン・・・になりました。鍋の中にあったのは肉ではなくて肉だんご10個です。


それも一口では食べられない3倍はあったでしょうか、まぎれもなく肉だんごです。


鍋の中は全て肉だんごで底は見えません。しかし、ほっとしたのも一理あるのです。

一般的な鍋なのだと安心したのです。ただ、大きさが異常に大きい以外は・・・


・・・で、ふと思ったのですが野菜を入れるスペースがないのです。

野菜は肉だんごを取った後に入れるしかないのです。つまり、オンリー肉だんご鍋と言っても過言ではありません。

やおら、彼が冷蔵庫より缶ビールを持ってきて私たちに注いでくれました。

ただ、昼間と同じでテーブルの上に置くことはできませんから床に置くしかありません。

灰皿も、前と同じで床の上・・・

まず、奥さんが子供たちに肉だんごを取ってお椀に入れました。その上から何やら醤油のようなものを注いでいます。「ぽん酢かな、何かの出汁かな?」とよく見ていると普通の醤油ではありませんか。そして鍋の汁をすくって上から入れました。そうか、出汁は鍋の中のスープなんだと勝手に理解したのです。


私たちは5人の再会と彼の家の新築祝いと彼の両親の結婚記念日という3つのお祝いで乾杯したのです。

早速、鍋の肉だんごを取りました。お椀に入れて子供がやっていたように醤油と鍋の汁をすくったのです。

湯気がたって美味しそうです。肉の匂いがしてきます。
いただきますと大きな声で食べました。


「うっ 醤油の味しかしない・・・」肉の味は多少はしているのだが醤油だけの味しかしない、肉のだし汁は・・・

どこにいったんだ? 醤油の味が肉だんごの入っている鍋の汁で薄まっているだけなのである。


ということは、肉汁はないということなのか。鍋の中の汁だけをすくって飲んでみたら、ほとんどお湯なのである。





つづく・・・箸休3へ・・・






■ 言える勇気があれば・・・



こんな経験はありませんか。あったなら言いたいことばかり。

登場人物は全て仮名です。




①友人の家でのこと



ここは東京駅の東海道新幹線ホームである。
日曜日の朝なので平日よりは混雑していないので多少は楽である。
東京駅より静岡駅まで08:06発のひかり403号で行くのである。

友人のお招きで彼の自宅へ向かうのである。彼とは大学時代の仲間であり今は静岡で小さな金型工場の跡継ぎとして父親を手伝っているのである。かれこれ5年は会っていないと思う。


今回は、大学の仲間と会うということで関東と関西の中間として静岡になったのである。

他に3人が来る予定なのでとても楽しみにしています。他の仲間とも数年来会っていないのでどんなに老けたかも見たいものである。かくいう私も頭に白いものがかなり増えてきた。

他の3人は大阪と長野と富山である。

静岡までは東京から新幹線で1時間程で到着しますから、そんなに遠いということはありません。

彼は今年の春に自宅を建てたということもあり、その新築のお祝いも兼ねているのです。

どのような家なのかも楽しみの一つです。奥さんとは彼の結婚式で一度会っていますね。
二人いる子供は幼稚園と小学生になっているはずです。

10時に彼の家に集まろうということなので時間的にはゆっくりとミニ旅行を楽しむことができます。

外の景色は静岡県に入っています。右側の席なので富士山が春の朝陽に輝いて見えています。
久しぶりの富士山は何か神々しいくらいの貫禄を持っています。

車内アナウンスによると10分で静岡駅に到着となります。ほんの1時間のミニ旅行なのであるが何故か子供の時のように気が高ぶっている自分がいることに気づきました。車内は大半が行楽の客のようでほとんど満席になっています。一時間くらいなのでタバコは我慢していますが、近々、新幹線は全車両禁煙となるそうで長距離の場合は喫煙者としては辛いものがあります。これも時代の流れとして諦めるしかないでしょう。


久しぶりの静岡の地です。ここは海も山も近いので行楽にはもってこいの地の利です。


駅からタクシーに乗って運転手にメモした住所を見せました。近くですよと運転手。どうやら15分くらいのところらしい。大きな道を右手に曲がってしばらく走ると新築の家が立ち並ぶニュータウンとでもいうのでしょうか、真新しい家々が立ち並んでいます。東京ではこれくらいの敷地になると高額な買い物になるのでしょうが、土地柄から東京よりは安いのかなと思いながタクシーを降りました。ここからは携帯電話によって案内してもらわないと分かりません。同じような家が立ち並んでいるのです。敷地の広さとしなら100坪はあるでしょうか。全ての家の庭はゆったりとしています。東京の私の家のうさぎ小屋と比べたら比較にならないほど広いのです。携帯で案内されながら2分程度歩くと大きな駐車場の上に屋根のある和風の家が見えてきました。


ここが彼の家のようです。表札に家族全員の名前が記されています。どうやら、彼の両親と同居しているようでした。ベルを鳴らすまもなく彼が表に出てきました。懐かしい顔です。

少し太ったでしょうか、それに首回りが太くなっています。腹も以前に増して出てきたようにも感じます。
簡単な挨拶をして私は家に入りました。

すでに、2人の友人は着いていました。みんな懐かしい顔です。それぞれ人生の色が出ている顔になっています。ほどなく、もう一人の友人も到着しました。これで全員が揃ったのです。

丁度、奥さんは買い物に子供を連れて行っているということで不在でした。

私たちは久しぶりの懐かしい会話で楽しいひとときだったのです。


お昼前に奥さんが買い物から帰られました。両手にはスーパーの買い物袋をいっぱい持っています。
子供も大きな袋を持っています。何やら私たちに料理を作ってくれるのだと直感しました。これはどこでもよくある光景なので、その時は何とも思っていなかったのです。ほどなくして彼の両親も戻ってこられました。
朝の散歩ということで近くの公園まで散歩していたようです。

簡単な挨拶とともに、奥さんが台所に立たれました。昼の料理を作るようです。確かに、おなかが空いてくる時間になっています。


私たちは奥さんの出したビールとチーズを食べていました。チーズと言っても市販の普通のものである。
しばらくすると、何やら良い匂いが漂ってきました。私は、もうすぐ昼の料理だと待ちかねていたのです。
他の3人も小声で腹がへったと話しています。

別に、彼の家で食べなくてもいいと思っていたのですが、彼がどうしても食べていってくれというものですから承諾したのです。普通は、奥さんに気をつかうので外で何か食べたほうが気が楽になるのですが。
後から思うと外食が一番だったのです。


2時間が経過したでしょうか。内心、遅いなと思いましたが何か色々と作っているので遅いのだと勝手に思っていました。他の3人も後で聞いたらかなり遅いなと思っていたようです。

チーズはなくなっていたので、ビールのおつまみは煎餅になっていました。

やがて、お待たせしましたと奥さんが大きな皿を持ってリビングにやってきました。


次から次に大きな皿を運んできます。どうみても私たちだけならあまりにも多すぎるという量です。
これは、家族と私たちとで一緒に食べるのだと思いました。何やら嫌な予感がしています。

彼の家族は6人、こちらは4人の10人がリビングのテーブルを囲むことになったのでした。

どうみても6人が限度のテーブルですが、大きさの違う椅子を持ってきて何とか全員が座ったのです。
仮に食べようとしたら隣の人の腕に完全に当たってしまいますし、飲み物も置くスペースさえないのです。
仕方がないのでビールグラスは床に置くことしかできません。


タバコは吸ってはいけないのかと思い、ずっと我慢していたのですが、彼が吸い始めたので遠慮なく吸おうとしたら灰皿がないのです。この家でタバコを吸うのは彼だけのようで灰皿が一つしかないのです。
私たちの仲間のうちの私を入れた2人はタバコを吸いますから大変なのです。

灰皿が一つしかないので席を移動しました。つまり、3人がタバコを吸うのです。その3人は同じ並びに座らないと灰皿も使えないのですから。結局、空き缶の蓋を缶きりで取って、それを灰皿にして床に置くしかないのです。ビールグラスと灰皿は床に置いての食事となったのです。

面白いことに、彼の家族は食事するときに水等を一切飲まないということにも気づきました。

テーブルの上には大きな皿や取り皿が溢れんばかりです。

箸を置こうにも置く場所がないのです。箸は常時取り皿の上ということになったのです。


そして、とりあえず二度目の乾杯です。私たちの再会という意味もあったのですが、彼の両親の結婚記念日というおまけまでついています。何が何だか分からない再会となってしまいました。


乾杯の後に、彼の子供と彼ら夫婦からの両親へのプレゼント品まであるのです。

この時点でかなり閉口していたのですが、さらに、子供から祖父母への結婚記念日のお手紙を読むという、一つのイベントがあったのです。お腹はグーグー鳴っています。

そして、やっと料理に箸をつけることができたのですが、ここからが地獄の始まりでした。


大阪から来た友人が箸をつけようとしたら、彼の子供がすかさず「このおじさん。箸の持ち方が違っているよ」と彼の奥さんに言ったのです。

普通なら無視しておけばいいことなのですが「そうね。真子ちゃんのほうがえらいね」と子供を誉めているのです。大阪の彼は、あわてながら箸を持ち替えました。

そして照れ隠しなのか「真子ちゃんのほうが大人だね。おじさんは子供だよね」と思ってもいないのにそのような言葉で対応したのです。はっきりと彼の顔が引きつっているのが見てとれました。

普通なら笑いがあってもいいと思うのですが、誰も笑わないほど真子ちゃんの指摘がすさまじかったのです。
場は一瞬にして凍りついた感がありました。


私は普通に箸を持てるので問題はないと思いましたので、まず、から揚げから箸をつけました。

ちょっと硬いかなとは思ったのですが、一つ口に放り込みました。嫌な舌触りもあったのですが、味がまったくしないのです。普通は多少味がついているのですが、全く味もしないし鶏肉のパサパサ感しかないのです。
とりあえず、しっかりと噛んでみたのですが何度噛んでも味がほとんどない。


あわてて、床に置いてあるビールを一気に飲み干しました。


と、隣の友人も同じ感覚だったらしくてから揚げを一気に飲み込んだ様子がわかりました。

よく見ると彼の家族も食べているのですが、美味しい美味しいと奥さんに言っているのです。

彼も子供に、ママの料理は美味しいよね。しっかり噛んで食べなさいと教育じみたことを言っています。

彼の両親は、年のせいかもしれませんが、煮物を食べています。煮物といっても普通にある里芋やレンコン、茄子、鶏肉が入った普通の料理に見えました。

今度は、私も煮物に箸をつけてみたのです。不安はありましたがお腹が空いているのでそんなことは気にしていられないのです。

里芋を口に運んでみました。えっ、味が濃いのです。それも塩辛いのです。なんだこの味は、から揚げの反対なのである。それも醤油の濃さではなくて塩のしょっぱさなのである。

あわててビールを飲もうとしたがさっき飲み干していたのでグラスは空。

グラスを床から取らないといけないので不自然な体位となってしまいます、その体制のままビール缶を探しました。さっき飲んでいたビール缶の中に残っていたはずです。頭をテーブルの下に向けたまま探しても見つからないのです。口の中はしょっぱいし「ビールありませんか?」と彼に問うと「冷蔵庫にあるから持ってきて」と言うのです。一応、新築祝い金とお土産も持参した客なのですが。

立って冷蔵庫に行こうとしたら、彼の子供が長野から来た友人に「おじさん、どうしてパパみたいに頭に髪の毛がないの」子供は無邪気ですが・・・

「・・・」彼は答えになりません。笑っているだけです。「人に聞かれたらちゃんと答えないといけないってママが言っていたよね」とママのほうを見て怪訝そうです。「大人になったら色々とあるんだよ」と私が冷蔵庫からビールを取り出しながら答えると「色々って何?」と質問ではなくて詰問です。


何と答えればいいのか躊躇しているとこの家の彼が「真子ちゃん。このおじさんは頭が暑いから涼しくするために髪の毛を切っているだけだよ」と答えにならない答えです。「そうなんだ」と真子ちゃんは美味しくもないから揚げをパクパク食べています。祖父母は黙って煮物と刺身を食べています。さきほども書いたように水ものは一切口にしません。喉につまらないのかと思いましたが、所詮他人です。


仮に、外に食べにいったなら昔の仲間として楽しい会話で盛り上がっていたに違いないのです。


しかし、現実はまずい料理と口の煩い子供と無言で食べる祖父母に囲まれているのです。

ほとんど、昔の話はできません。何のために来たのだという思いが頭の中を巡っています。

ビールを一口飲んで、次は何を食べたらいいのかと思案していると奥さんが「遠慮しないで下さい。まだ奥に沢山料理がありますから」と食べなさいという目つきで私を見るのです。

「はい、遠慮なくいただきます」と言うと彼が「お前が取ってあげなさい」と余計なお世話です。

「自分で取りますから気をつかわないで下さい」と間髪を入れずに答えたのでした。

取ってもらってまた全く味のないから揚げや塩辛い煮物なら地獄です。

私は、すかさずこれは大丈夫だろうと思った刺身を取ろうとしたら、前の子供が全部持っていってしまいました。これで刺身は全部なくなったのです。なくなったというよりも最初から刺身だけは3人分くらいしかなかったのです。次は何にしようかと思案しながら皿を見ていると、発見しました。うん、これならいける。
と、魚のフライです。どうみてもアジフライのような形をしています。これは多分惣菜として買ってきたと思いましてので箸を差し出したのです。

「すいません。これ子供の好物なので置いておいてくれませんか・・・」とママの横槍言葉。

確かに、2枚しかありませんでした。友人連中の箸も全くといっていいほど進んでいません。

会話も途切れ途切れの状態です。ここからが大きな問題なのです。



やおら、祖父が口を開きました。






その夜、僕たちの宿泊しているホテルのラウンジで、徳野茂美と会った。いつもと同じように美しい人だ。

徳野茂美と、同じホテルに宿泊しているという気持ちが・・・そして、異国という開放感が、僕を何故か、センチメンタルにしていた。徳野と、一緒に異国で酒を飲むということは、知らない土地にいて最高の時間だと思っていたのだ。

新開刑事も同席した。

「徳野さん、金田栄一は、殺されたのかもしれません?確証はありませんが・・・確証のない推測を話すには、まだ、早いと思います。もう少しして、お話したいと思います。残念ですが・・・今は、この程度です」と、言うと。

「あぁ、そうだな。推測の域だ。何の確証もないから、徳野さんが聞いても何もならないと・・・」

と、新開刑事が、僕の言葉をさえぎるように横から口を出した。

「そうですか?私のほうも、ボエット・チャンからの情報があります。御手洗は、フィリピンにいた当時、かなり資金繰りに困っていたらしいのです。外見は、派手に見えたかもしれませんが、内情は火の車であったということです。丁度、日本に帰る、1年ぐらい前のことだそうです。ボエットが、昔の仲間から聞いたというのです。ボエットは、御手洗が、日本に帰った後、再び、フィリピンで会社を作った時に入社したので、詳しいことは知りませんでしたが、昔の仲間は、よく覚えていたということです。それと、金田栄一さんが亡くなってから、借金は全て返済していたというのです。何でも、保険金がおりたとか・・・」と、言う。

徳野茂美は、僕たちの知らない情報をもたらしてくれた。

「それは初耳です。明日、マニラ署の刑事に調べてもらいましょう。それが、本当だとしたなら、保険金詐欺の線もあるということですね?もし、その線なら、御手洗が金田を殺して保険金を摂取したということになります。御手洗の動機なのかもしれません。そして、その保険金を、倉重と浅田とで分けたということになるかもしれません。そして、日本に帰った・・・」と、言うと。

「うん・・・よくある話しだな・・・で、徳野さん・・・御手洗の奥さんとの話はどうなっていますか?」と、新開刑事が、突然尋ねた。

「えっ・・・奥様・・・はぁ・・・青森のですか?」

「いやね・・・保険金という言葉を聞いて、思い出したんですよ・・・」

「御手洗の・・・生命保険金ですね・・・それは、とっくに、終わっています。奥様に電話して、奥様の口座に振り込んでいますが・・・それが・・・何か?」

「それならいいんですが・・・どうなったのかと思いましてね・・・それならいいです・・・で、奥様の携帯を教えてもらえませなんかな?ちょっと、聞きたいことが・・・」新開刑事は、何を聞きたいのであろうか?

その件は、全て終わっているはずだ。

「新開さん・・・何かあるのですか?御手洗の奥さんは関係ないと思いますが・・・まだ、何か?」

と、僕は、不思議そうに尋ねた。

「いや、・・・徳野さんには、失礼だが、一応確認しておこうと思ってな・・・一応だよ・・・徳野さんに何があるということではないよ。確認ということだよ・・・」と、言った。



徳野は、自分の携帯電話を見て、番号をメモして新開刑事に手渡した。何があるのであろうか?



御手洗の奥さんにも、何かの嫌疑があるのであろうか?

そのことは、後で、新開刑事に聞くことにして、久しぶりにホテルの最上階のラウンジで、美味しいカクテルを飲んだ。相変わらず、マニラ湾は美しい。それにもまして、徳野茂美は美しい。異国で、こんな美人と酒が飲めるとは思ってもいなかった。新開刑事は、先に寝るということで、部屋に戻った。

二人は、事件のことは忘れて、楽しい会話を堪能していた。

部屋に戻って、新開刑事に、御手洗の奥さんの携帯電話番号のことを尋ねた。

「単純なことだよ。本当に奥さんに保険金を送金していたのかということを確認したかっただけだ。徳野という女は、何故か信用できない。雪ちゃんは、完全に信用しているようだが、俺は・・・な・・・明日、多摩西部署に連絡して確認してもらう。それで、何も問題がなければ、徳野を信用してもいい・・・まぁ、刑事の性というものだ。

一応、調べておかないとな・・・美しいものには、毒がある・・・過去にも色々と経験したからな・・とりあえず・・・」

「まぁ・・・新開さんの好きにしたらいいですよ。何もないと思いますよ・・・確かに、徳野には前科があるし、一見すると怪しい女だとは思いますが、それもこれも過去のことではないですか?本当に・・・」

と、僕は、シャワー室に入った。体中の汗を洗い流すと、ホテルの窓辺で外の景色を見た。



新開刑事は、いびきをかいて熟睡している。



しかし、何故?徳野茂美の話にこだわっているのであろうか?

僕は、茂美は完全にシロだと思っていた。