その夜、僕たちの宿泊しているホテルのラウンジで、徳野茂美と会った。いつもと同じように美しい人だ。
徳野茂美と、同じホテルに宿泊しているという気持ちが・・・そして、異国という開放感が、僕を何故か、センチメンタルにしていた。徳野と、一緒に異国で酒を飲むということは、知らない土地にいて最高の時間だと思っていたのだ。
新開刑事も同席した。
「徳野さん、金田栄一は、殺されたのかもしれません?確証はありませんが・・・確証のない推測を話すには、まだ、早いと思います。もう少しして、お話したいと思います。残念ですが・・・今は、この程度です」と、言うと。
「あぁ、そうだな。推測の域だ。何の確証もないから、徳野さんが聞いても何もならないと・・・」
と、新開刑事が、僕の言葉をさえぎるように横から口を出した。
「そうですか?私のほうも、ボエット・チャンからの情報があります。御手洗は、フィリピンにいた当時、かなり資金繰りに困っていたらしいのです。外見は、派手に見えたかもしれませんが、内情は火の車であったということです。丁度、日本に帰る、1年ぐらい前のことだそうです。ボエットが、昔の仲間から聞いたというのです。ボエットは、御手洗が、日本に帰った後、再び、フィリピンで会社を作った時に入社したので、詳しいことは知りませんでしたが、昔の仲間は、よく覚えていたということです。それと、金田栄一さんが亡くなってから、借金は全て返済していたというのです。何でも、保険金がおりたとか・・・」と、言う。
徳野茂美は、僕たちの知らない情報をもたらしてくれた。
「それは初耳です。明日、マニラ署の刑事に調べてもらいましょう。それが、本当だとしたなら、保険金詐欺の線もあるということですね?もし、その線なら、御手洗が金田を殺して保険金を摂取したということになります。御手洗の動機なのかもしれません。そして、その保険金を、倉重と浅田とで分けたということになるかもしれません。そして、日本に帰った・・・」と、言うと。
「うん・・・よくある話しだな・・・で、徳野さん・・・御手洗の奥さんとの話はどうなっていますか?」と、新開刑事が、突然尋ねた。
「えっ・・・奥様・・・はぁ・・・青森のですか?」
「いやね・・・保険金という言葉を聞いて、思い出したんですよ・・・」
「御手洗の・・・生命保険金ですね・・・それは、とっくに、終わっています。奥様に電話して、奥様の口座に振り込んでいますが・・・それが・・・何か?」
「それならいいんですが・・・どうなったのかと思いましてね・・・それならいいです・・・で、奥様の携帯を教えてもらえませなんかな?ちょっと、聞きたいことが・・・」新開刑事は、何を聞きたいのであろうか?
その件は、全て終わっているはずだ。
「新開さん・・・何かあるのですか?御手洗の奥さんは関係ないと思いますが・・・まだ、何か?」
と、僕は、不思議そうに尋ねた。
「いや、・・・徳野さんには、失礼だが、一応確認しておこうと思ってな・・・一応だよ・・・徳野さんに何があるということではないよ。確認ということだよ・・・」と、言った。
徳野は、自分の携帯電話を見て、番号をメモして新開刑事に手渡した。何があるのであろうか?
御手洗の奥さんにも、何かの嫌疑があるのであろうか?
そのことは、後で、新開刑事に聞くことにして、久しぶりにホテルの最上階のラウンジで、美味しいカクテルを飲んだ。相変わらず、マニラ湾は美しい。それにもまして、徳野茂美は美しい。異国で、こんな美人と酒が飲めるとは思ってもいなかった。新開刑事は、先に寝るということで、部屋に戻った。
二人は、事件のことは忘れて、楽しい会話を堪能していた。
部屋に戻って、新開刑事に、御手洗の奥さんの携帯電話番号のことを尋ねた。
「単純なことだよ。本当に奥さんに保険金を送金していたのかということを確認したかっただけだ。徳野という女は、何故か信用できない。雪ちゃんは、完全に信用しているようだが、俺は・・・な・・・明日、多摩西部署に連絡して確認してもらう。それで、何も問題がなければ、徳野を信用してもいい・・・まぁ、刑事の性というものだ。
一応、調べておかないとな・・・美しいものには、毒がある・・・過去にも色々と経験したからな・・とりあえず・・・」
「まぁ・・・新開さんの好きにしたらいいですよ。何もないと思いますよ・・・確かに、徳野には前科があるし、一見すると怪しい女だとは思いますが、それもこれも過去のことではないですか?本当に・・・」
と、僕は、シャワー室に入った。体中の汗を洗い流すと、ホテルの窓辺で外の景色を見た。
新開刑事は、いびきをかいて熟睡している。
しかし、何故?徳野茂美の話にこだわっているのであろうか?
僕は、茂美は完全にシロだと思っていた。