しかし、新開刑事は、大越刑事に、徳野茂美が、本名で宿泊しているのかを確認して欲しいと言った。
尾行している刑事から、すぐに連絡が入った。
徳野という女はいない?それにもまして、このホテルに宿泊している日本人は、その、大山かなえ、という女しかいないというのだ。おかしい?徳野は、このホテルに宿泊していると聞いている。昨日は、ホテルのラウンジを出て、僕は、エレベーターで6階で降りて部屋に行ったのだが、徳野の部屋は、3階だということであった。
ラウンジで飲んでいる時に、部屋番号を聞きたいと思ったのだが、何か変に勘違いされても困ると思い、聞き出せなかった。連絡を取り合うとしても、携帯電話があるから何の問題もないと思っていた。
僕は、真奈美が入った部屋は何階なのかと聞いてもらうと、3階だという。間違いない、大山という女と、徳野とは同一人物なのだ・・・
ということは、一体何なのだ?
「雪ちゃん・・・とうとう、徳野が正体を現したようだな・・・雪ちゃん?・・・」と、新開刑事が言った。
「えっ・・・どういうことなんですか?徳野と真奈美は面識があるということですか?一体・・・」僕は、大声を出してしまった。
「いゃ、雪ちゃんには秘密にしておいたことがある。確かに、徳野は御手洗の奥さんに死亡保険金を送金していたのは確かだ。しかし、徳野が送金したことで、徳野の口座が判明した。そちらの口座も調べてみると、フィリピンのミタライ・コーポレーションからの振込みと、フィリピンの、ホウライインクという会社からの入金があった。
徳野の、メインの口座は、事件後に事前に調べておいたから、全ての入出金は確認していて、何も問題はなかった。
が、この口座は俺たちの知らない口座なのだ。つまり、徳野の秘密の銀行口座だと分かった。徳野は、秘密の口座から、御手洗の奥さんの口座に振り込んでしまったのだよ。それで、俺は、ホウライという名前を調べてみた。雪ちゃん・・・ホウライという名前に覚えがあるだろう?」と、新開刑事は、少し笑いながら言った。
「・・・ホウライ・・・もしかして・・・あの井上八千代の、博多の蓬莱商事・・・?」
「あぁ、同じ名前だよ。何かあるとは思わないか?それが分かったから、俺は、雪ちゃんには、はっきりするまでは黙っておこうと思ったんだよ。雪ちゃんは、徳野のことを完全に信用していたからな・・・」
「・・・そうでしたか・・・何かありますね・・・そうでなければ、徳野と真奈美が会うことはないし、真奈美と金田親子・・・ということは、徳野も、金田親子と繋がっている・・・どういうことですか?」
「いや・・・今の時点では、何も分からない。ただ、皆、関係していると思う。そうなると、徳野のことは信用できないということになるな・・・とにかく、この連続事件に関係しているんじゃないか?あまりにも、雪ちゃんが、徳野のことを信用していたから・・・水面下では調べていたんだよ。俺も、まさか、徳野と真奈美が会うとは考えられなかった。これで、役者が全員揃ったと思うがね・・・?」
と、言うことは、昨夜、ホテルのラウンジで、徳野が、僕に話したことは何なのだ?
ボエット・チャンからの情報で、御手洗に借金があって、金田栄一の死後、清算されている。
しかし、徳野は、僕に対して、そんな情報を流しても、何の得にもならないと思う。
だが、そういう情報を流すことで、自分とは何も関係がないということを、見せていたのかもしれない。
僕は「新開さん、僕は、まだまだ甘いですね・・・これから、どういう展開になるかは知りませんが、徳野茂美を完全に信用していました。新開さんの言う通りかもしれません?決して、美人だからということはありません。何故か、疑うという気持ちが弱かったと思います。よく、考えてみると、おかしいところもあったのかもしれません。でも、僕は、気にしなくていいという気持ちだったと思います。それに、僕に、今回の事件のことを依頼してきた当事者でもあるし、まさか、関係しているのなら依頼するとは考えられなかったのです。それにしても・・・甘かったです。さすが、新開さん・・・ベテランは違いますね・・・探偵ごっこをしている僕なんかは・・・」
「いや・・・俺も、浅田の事件のことで、徳野はシロだと思っていたんだ。途中からだよ・・・何か、不自然な動きだと思ったのはな。というのは、尾行していた時に、あまりにも、動きが少ないと思った。少ないというのは、会社の経営者としては、もっと忙しいはずだと思ったんだ。尾行していた刑事からの報告で、一日、どこにも出かけない日が続いていたりした。ということは、どこから収入を得ているかということだ。確かに、フィリピンのミタライ・コーポレーションからの収益金の振込みはある。しかし、俺が予想していた金額よりも、はるかに少ない。今、徳野が住んでいる賃貸マンションの賃料程度なんだよ。どうして、その金額で生活をしているのかが疑問に思ったんだよ。これは、絶対に他からの収益がある。御手洗が生きていたころは、裏で金を貰っていたとしても、今は、御手洗は死んでいない・・・どうして、あんな高級マンションで生活ができるのだろうかと思ったんだ。
これは、絶対に裏の口座があると思った。しかし、どんなに探しても発見できない。そこで、徳野に、保険金のことを聞いてみたんだよ。まさか、裏口座から振り込んでいたとは思わなかったよ。これが、徳野の一番の大きなミスだな。俺たちが、最初は疑っていたが、次第に、疑うことはなくなったと思ったのかもしれない。それで、気を許したのだと思う?さらに、雪ちゃんに、探偵のような依頼をしたことも、こちらの情報を知りたかったのだと思う。まぁ、雪ちゃんは利用されたのかもしれない?」と、しっかりと僕の顔を見て話した。
「そうかもしれません?でも、僕と同じホテルに宿泊するということは、危険ではないですか?警察が動いていることを知っているのですから、そんな危険なことはしないと思いますよ?」と、疑問を問いかけた。
「そこだよ・・・おそらく、多少の危険でも、僕たちの情報を得るには、同じホテルがいいと思うし、事件とは全く関係がないということを言いたかったのかもしれない。それも、大きな賭けだったと思う。しかし、徳野は、気を許していたのだ。まさか、俺たちが、フィリピンでここまで調べているとは思ってなかったのかもしれない。昨夜、雪ちゃんが、徳野に全部話したと言っていたけど、俺は、困ったものだと思っていたんだ・・・本当は・・・」
と、僕を見て、ハハハと笑った。
「いえ・・・全部は話していませんよ・・・確証のある部分だけです・・・真実でない部分を話したら、後で、訂正することが大変だと思ったのです。全部、話さなかったことが、少しは幸いしたのかもしれません?」
「そういうことだ・・・全部、話していたなら、展開は変わっていたと思うよ。とにかく、これから、どうするかということだよ・・・ここで、見張っていても何の進展もないかもしれないが、徳野と真奈美は、ホテルの部屋にいるのだから、何とかして話を聞くことのほうが先だと思う・・・大越さん・・・何とかならないかな?」
大越刑事も、悩んでいた。真奈美は、政府の高官との付き合いがあるから、うかつに手は出せない。
10分ほどして、大越刑事が「徳野とかいう女の部屋に行ってみましょう?容疑も嫌疑も何もありませんが・・・?」
「どのような容疑で・・・?」と、僕が尋ねると。
「私たちに与えられている範囲で・・・麻薬密売の情報があったということで、部屋に乗り込んでみようと思います。私の責任で・・・」と、気持ちを固めたようだ。
そして、携帯電話で、何やら上司と話している。
「上司は、許可しないといいますが・・・勝手にしたらいい・・・と・・・日本語でいう暗黙の了解でしょうか?まぁ、やってみるしかないです・・・」と、車をホテルへ走らせた。