翌朝は、まず、井上八千代の取調べから始まった。
日本人ということで、取調べには、新開刑事が担当した。僕も、同席させてもらうことになった。
「何度も聞きますが・・・純一郎さんは、あなたの息子さんに間違いないですか?」と、新開刑事が聞いた。
「はい・・・間違いありません。確かに、私と、和義くんは、不法入国ですが、殺人とは関係はありません。早く、弁護士を呼んで下さい。昨夜、刑事さんにお願いしていたのですが、何も聞いてはくれません。人権侵害も甚だしいと思います。日本大使館にも連絡させて下さい。新開さんも、同じ日本人ではないですか?」
と、八千代は、かなり荒い声で話した。
「井上さん・・・よく、考えてみて下さいよ・・・不法入国という罪は大きいものです。それは、フィリピンも同じです。あなたの言うことが理解できないわけではないが、ここは、フィリピンです。日本ではないのですよ。そんなことより、何故、不法入国しないといけなかったのですか?正規のルートでは駄目なのですか?井上さん・・・それと、私がいなかったなら、あなたたちは、完全に犯罪者としてフィリピンの法律で裁かれると思う。そんな、単純な問題ではないのです・・・いいですか・・・あなたの立場は・・・」と、一喝した。
「・・・すいません・・・」と、急に静かになった。
「では、本題に戻ります。何故、不法入国したのですか?」
「それは・・・警察に追われていると感じたからです。ですから、国外に出ようと・・・」
「何で追われていると思ったのか?殺人の容疑か・・・それしかないと思うが・・・全て白状してもらう」
「・・・不法輸入の件だと思いました。私の会社は、表向きは、輸入雑貨ですが、裏では・・・日本国内に持ち込みができない複数の医療品を仕入れていました。厚生労働省で認可されていないものです。それが発覚したと思ったのです。全て、中国の闇のルートからのものです。それで、これで終わりだと思い、フィリピンに逃げたのです。和義くんは、私のパートナーでしたから、一緒に逃げたのです・・・それだけのことです・・・」
「それはいいが・・・で、徳野茂美とは、何で知り合ったのか?茂美は、殺された御手洗の愛人だと知っていたのだろう。最初に会った時には、知らないといっていたが、何故なんだ。まず、そこからだ・・・」
「茂美さんとは、同業者ということで知り合いました。数年前になると思います。でも、茂美さんは関係ありません。茂美さんの息子の和義くんが貿易に興味を持っているというので、私の会社を手伝ってもらうことになったのです。最初は、違法なことはしていませんでしたが、成り行きで・・・違法な品に手を染めたのです。すべては、私が悪いのです・・・和義くんは、被害者ですから・・・勘弁してあげてください・・・」
「それは別の話だ。徳野茂美との関係は分かったが・・・何故、御手洗との関係を隠していた。隠さないといけない何かがあるのだろう?言い訳は聞かない・・・証拠はあるんだよ・・・闇ルートは確かにあったと思うが、今回の事件は、そんなことではない。茂美とあなたの関係について、はっきりと答えてほしい。20年以上前からの付き合いではなかったのか?」と、鋭い目つきで、八千代を睨みつけた。八千代は、観念したようである。
新開刑事の、追及はかなり激しい。
「分かりました・・・もう、隠しても仕方ないですね・・・全て、調査されているのでしょう?」
「そうだ・・・あんたからの話が聞きたいのだ。こっちは、何でも分かっている・・・今頃、徳野和義も取調べを受けているから、あんたが隠しても何にもならない。隠していると偽証罪になる。さらに、罪を重くしても仕方ないだろう・・・」と、新開刑事は、無茶苦茶なことを言った。しかし、実際は、外堀しか埋まっていない。
「はい・・・私が、御手洗を殺すように指示しました。主人が死んだのは、20年前になります。最初は、事故だと思っていました。が、中国の闇ルートと付き合いができてから、中国人の候という男と知り合いました。私は、新しい主人と結婚していたので、名前が井上になっていたのが幸いでした。その候という男は、過去に、金田という人を殺す場面を見たと、酒の席で話したのです。私は、最初、耳を疑いました。それから、少しずつ、その当時のことを聞き出したのです。候は、酒が入っていたせいか何でも話してくれました。お互い、闇のビジネスの仲間ですから、他言することはないと思っていたと思います。候が言うには、主人の栄一を殺す主犯は、御手洗晋であり、浅田も倉重も同意したということです・・・」
「御手洗が直接殺したということだな?・・・」
「いえ・・・違います・・・実行したのは、海野という男だと言っていました。候は、その海野が、主人を崖から落すところを見たのです。海野が実行したのです・・・そういうことだと聞きました・・・」
数日前に、殺された海野幸秀のことに、間違いはないと思った。
この男が、栄一を崖から突き落としたのだ。
それを、候は見ていたということだったのだろうか?
確かに、御手洗から別荘を譲りうけていたし、おそらく、その時に、別荘にでも栄一を呼んで、皆で、酒でも呑んでいたのかもしれない。
候は、御手洗が、栄一を殺すことは知らなかったと思う・・・
「八千代さん・・・しかし、御手洗は、何故、栄一さんを殺したのだ? 保険金か?・・・」
「・・・いえ・・・違います・・・御手洗も主人も、香港ルートの闇の取引をしていました。主人は、その闇取引を早く止めたいと思っていたのです。しかし、御手洗たちは、それを許してはくれません。主人は、日々、悩んでいたと思います。闇の取引をしなくても、普通の生活には何の不自由もなかったのですが、御手洗は、欲深い男です。それと、浅田や倉重、海野も同じように欲が深いのです。主人は、一人だけ仲間はずれになっていたと思います。それで、会社を辞めようと思ったのですが、御手洗は決して許してはくれませんでした。御手洗は、そんな主人を疎ましく思っていたと思います。もしかしたら?・・・警察へ話すのではないかとも思っていたようです。それで、殺してしまおうということに・・・なっのだと思います・・・」
「分かったが・・・その話は誰から聞いたのか?」新開刑事は聞いた。
「それは・・・それは・・・茂美さんです。徳野茂美さんです・・・」と、か細い声であった。
「何?何で、徳野茂美が、そんなことを知っていたんだ・・・茂美は・・・一体・・・?」
「・・・はい・・・その当時、主人、栄一の愛人でした。それで・・・」
何ということだ。徳野茂美は、殺害された金田栄一の愛人だったのだ。
■勝汰章の著作刊行本
「笑顔になるための246のことば」
悲しみを乗り越える時に・・・
http://7andy.yahoo.co.jp/books/detail?accd=31865654
■勝汰章のHP http://katsuta.yu-yake.com/