「『ブラック・スワン』にどう向き合うべきか」についてのパネルディスカッションに参加
昨日は丸の内で「金融危機後、『ブラック・スワン』にどう向き合うべきか」についてのパネルディスカッション。
リスク管理担当者の業界団体と、経済データの予測分析の専門家の団体のメンバー合わせて100人ほどを前に、4人のパネラーの一人として参加。
モデレーターはクレジット系のクウォンツアナリスト。
他のパネリストは、統計数理学の准教授と、「ブラック・スワン」の訳者である望月さん、大手会計事務所のリスク管理専門のパートナー、という重厚な布陣で。
私一人、はっきり言って浮いていました…。
「ブラック・スワン」の中では、「一番知能が高いのが人間、その次が人間の親戚である霊長類、そしてその次が白いシャツにダークスーツを着て、フェラガモのネクタイをしたバンカー」という表現が何度も出てくるので。
濃いグレーにペンシルストライプのスーツと真っ白のシャツに。
押し入れの奥から引っ張り出してきた、サイコロとバカラの札のプリントの入ったフェラガモのネクタイをして。
Empty SuitとLudic Fallacyを絵に描いたような姿で、パネルに参加。
他の皆さんは専門家でいらっしゃる中で。
私が独学かつ付け刃で「なんちゃってアカデミック」な話をしても仕方がないので。
私一人、現場のトレーダーの思考経路はどうなっているのか、ということをトレーダーと極めて密接に働く立場から話す。
というとかっこいいが。
みなさんまじめな話をされている中で、「業界ヨタ話」をしてました。
一つだけ、何を話したかを簡単に書く。頂いたお題は以下の通り。
「Talebは、予測の難しさについて以下のように述べる。
実世界での不確実性は、カジノでのリスクとは全く異なる。
カジノではオッズが既知であるのに対し、実務の世界は事前に確率を知ることが出来ない。
実務を行っている立場として、この問題をどう考えるか」
私のコメントはというと、こんな感じ。
事前に正確な確率を知ることは誰にも出来ず、様々な人が様々な確率を正しいと考え、事前には誰が間違っているとは言えないにもかかわらず。
市場には市場参加者の将来予想のコンセンサスとしての価格、というものが存在する。
私一人が黒い白鳥に備えて市場でオプションを大量に買い込んだとしても。
他の人たちが黒い白鳥を完全に無視して安値でオプションを売りまくるのであれば。
オプションの市場価格は低いままで。
私は超割高にオプションを買いあさって、ひたすら黒い白鳥が来るのを祈っている可哀想な人、ということになる。
勿論ポジションを時価評価すれば大赤字。
本当は私が考えたように「いつか」黒い白鳥がやってきて。
オプションをショートした連中は全員ブローアップする日が「いつか」やってくるはずだが。
「いつか」は誰にも分からない。
普通の金融機関に勤めていると。
黒い白鳥の到来を首を長くして待っているうちに、赤字を垂れ流しているトレーダーであると会社で後ろ指を指され、私は首になってしまうだろう。
私の作った「やられ」ポジションは、私が去った後上司に引き取られ。
そのポジションでやられ続ければ、「へたくそで首になったトレーダーのせい」となって上司は傷つかず。
ある日待ちに待った黒い白鳥がやってきてそのポジションで大儲けすれば、その時は逆にポジションを引き取った上司の手柄に。
なーんてこと、ロスカットさせられるトレーダーの数だけこれまで死ぬほど見てきた。
ところで。
市場の本質はBeauty Contest、ケインズの言う「美人投票」。
私が美人だと思う人に投票するゲームではなく、他の多くの人が美人だと思う人に投票しなければならないゲーム。
私が誰が美人と思うか、というのは問題ではなく、他の多くの人が美人と思うのは誰か、というのを当てるのがポイント。
つまり、自分だけ自分が正しいと思うことをしていても、報われるとは限らない、というのがこの商売の難しいところ。
たとえば。
2006年にバブルは行き過ぎだと考えて、ダウンサイドプロテクションを買ったトレーダーは。
さらなる相場の上昇に押し流されて、大きな損をしたはず。
みんながバブルに乗って、1年で100儲けている中で、自分だけ30しか儲からなければ。
いい給料がもらえないどころか、首になってもおかしくない。
しかし相場が他の人が予期せぬ下落をした局面で。(私にとってはブラック・スワンではない)
他のトレーダーがみんな40の損を出している中で私だけが30の収益を出したとしても。
実はいい給料は貰えない。
(他のトレーダーと私の収益の差が、前者と後者で変わらないことに注意)
ベア相場の中で会社が儲かっているケースというのは極めてまれで。
給料の原資があまりないので、相対的に難しいリスクテイクをして儲けたからといって。
そのトレーダーに特別多くの給料が払われることは、通常あまりない。
ブル相場の中であまり頭を使わず、他の人が取っているポジションに考えなしにのっかるポジションを作って儲けた方が。
会社全体が儲かっていることが多いので給料の原資が沢山あって。
頭使わないトレーダーに対してもトレーダーには高い給料が払われるケースが多い。
余談だが。(すべてが余談みたいなもんですが)
クレジット系のトレーダーと、金利系のトレーダーと、どっちが割がいいかというと。
クレジットがいいときは、株式部も投資銀行部も儲かっている場合が多いので、会社全体が絶好調。
しかし金利系が儲かっているときは、通常景気が悪くて他の部門は儲かっていないことが多い。
したがって、クレジット系のトレーダーの方が金利系のトレーダーよりも構造的に「儲かるときはめちゃくちゃ儲かる」可能性が高い。
これは(クレジット)バブルが行き過ぎる理由の一つかも知れない。
本題に戻ると。
そんな構造的な期待リターンの歪み、あるいは非対称があるので。
マーケットの流れに棹さすよりも。
あまり頭を使わずに、単にマーケットに乗っかって、あるいは現在の市場価格を追認する方がトレーダーとしてリスクリターンがいい部分がある。
(ここでトレーダーを「金融機関の経営者」と読み替えても意味が通じることに注意)
したがってトレーダーは、ほっておくと「確率は事前に与えられるものではない」ということを(あえて)忘れて。
「確率は市場価格から常に逆算できる」と考えてしまう傾向があるかも知れない。
またモデルを作るに当たっても。
「事前に確率は分からない」という考えに基づくのではなく。
トレーダーの要求に基づいてとりあえず「市場価格に対してキャリブレートする」モデルを作ってしまい。
常に市場の価格を追認する行動を取ってしまう部分があるかも知れない。
こういった意味で。
市場の本質が美人投票である、ということと。
事前には確率は分からない、ということは、極めて相容れない概念で。
その矛盾こそが、黒い白鳥のジェネレーターなのではないかと思われる。
ね、偉そうな事を言ってるように聞こえるかもしれないけどただのヨタ話だったでしょ?
(Special thanks to my friend Trader A)
リスク管理担当者の業界団体と、経済データの予測分析の専門家の団体のメンバー合わせて100人ほどを前に、4人のパネラーの一人として参加。
モデレーターはクレジット系のクウォンツアナリスト。
他のパネリストは、統計数理学の准教授と、「ブラック・スワン」の訳者である望月さん、大手会計事務所のリスク管理専門のパートナー、という重厚な布陣で。
私一人、はっきり言って浮いていました…。
「ブラック・スワン」の中では、「一番知能が高いのが人間、その次が人間の親戚である霊長類、そしてその次が白いシャツにダークスーツを着て、フェラガモのネクタイをしたバンカー」という表現が何度も出てくるので。
濃いグレーにペンシルストライプのスーツと真っ白のシャツに。
押し入れの奥から引っ張り出してきた、サイコロとバカラの札のプリントの入ったフェラガモのネクタイをして。
Empty SuitとLudic Fallacyを絵に描いたような姿で、パネルに参加。
他の皆さんは専門家でいらっしゃる中で。
私が独学かつ付け刃で「なんちゃってアカデミック」な話をしても仕方がないので。
私一人、現場のトレーダーの思考経路はどうなっているのか、ということをトレーダーと極めて密接に働く立場から話す。
というとかっこいいが。
みなさんまじめな話をされている中で、「業界ヨタ話」をしてました。
一つだけ、何を話したかを簡単に書く。頂いたお題は以下の通り。
「Talebは、予測の難しさについて以下のように述べる。
実世界での不確実性は、カジノでのリスクとは全く異なる。
カジノではオッズが既知であるのに対し、実務の世界は事前に確率を知ることが出来ない。
実務を行っている立場として、この問題をどう考えるか」
私のコメントはというと、こんな感じ。
事前に正確な確率を知ることは誰にも出来ず、様々な人が様々な確率を正しいと考え、事前には誰が間違っているとは言えないにもかかわらず。
市場には市場参加者の将来予想のコンセンサスとしての価格、というものが存在する。
私一人が黒い白鳥に備えて市場でオプションを大量に買い込んだとしても。
他の人たちが黒い白鳥を完全に無視して安値でオプションを売りまくるのであれば。
オプションの市場価格は低いままで。
私は超割高にオプションを買いあさって、ひたすら黒い白鳥が来るのを祈っている可哀想な人、ということになる。
勿論ポジションを時価評価すれば大赤字。
本当は私が考えたように「いつか」黒い白鳥がやってきて。
オプションをショートした連中は全員ブローアップする日が「いつか」やってくるはずだが。
「いつか」は誰にも分からない。
普通の金融機関に勤めていると。
黒い白鳥の到来を首を長くして待っているうちに、赤字を垂れ流しているトレーダーであると会社で後ろ指を指され、私は首になってしまうだろう。
私の作った「やられ」ポジションは、私が去った後上司に引き取られ。
そのポジションでやられ続ければ、「へたくそで首になったトレーダーのせい」となって上司は傷つかず。
ある日待ちに待った黒い白鳥がやってきてそのポジションで大儲けすれば、その時は逆にポジションを引き取った上司の手柄に。
なーんてこと、ロスカットさせられるトレーダーの数だけこれまで死ぬほど見てきた。
ところで。
市場の本質はBeauty Contest、ケインズの言う「美人投票」。
私が美人だと思う人に投票するゲームではなく、他の多くの人が美人だと思う人に投票しなければならないゲーム。
私が誰が美人と思うか、というのは問題ではなく、他の多くの人が美人と思うのは誰か、というのを当てるのがポイント。
つまり、自分だけ自分が正しいと思うことをしていても、報われるとは限らない、というのがこの商売の難しいところ。
たとえば。
2006年にバブルは行き過ぎだと考えて、ダウンサイドプロテクションを買ったトレーダーは。
さらなる相場の上昇に押し流されて、大きな損をしたはず。
みんながバブルに乗って、1年で100儲けている中で、自分だけ30しか儲からなければ。
いい給料がもらえないどころか、首になってもおかしくない。
しかし相場が他の人が予期せぬ下落をした局面で。(私にとってはブラック・スワンではない)
他のトレーダーがみんな40の損を出している中で私だけが30の収益を出したとしても。
実はいい給料は貰えない。
(他のトレーダーと私の収益の差が、前者と後者で変わらないことに注意)
ベア相場の中で会社が儲かっているケースというのは極めてまれで。
給料の原資があまりないので、相対的に難しいリスクテイクをして儲けたからといって。
そのトレーダーに特別多くの給料が払われることは、通常あまりない。
ブル相場の中であまり頭を使わず、他の人が取っているポジションに考えなしにのっかるポジションを作って儲けた方が。
会社全体が儲かっていることが多いので給料の原資が沢山あって。
頭使わないトレーダーに対してもトレーダーには高い給料が払われるケースが多い。
余談だが。(すべてが余談みたいなもんですが)
クレジット系のトレーダーと、金利系のトレーダーと、どっちが割がいいかというと。
クレジットがいいときは、株式部も投資銀行部も儲かっている場合が多いので、会社全体が絶好調。
しかし金利系が儲かっているときは、通常景気が悪くて他の部門は儲かっていないことが多い。
したがって、クレジット系のトレーダーの方が金利系のトレーダーよりも構造的に「儲かるときはめちゃくちゃ儲かる」可能性が高い。
これは(クレジット)バブルが行き過ぎる理由の一つかも知れない。
本題に戻ると。
そんな構造的な期待リターンの歪み、あるいは非対称があるので。
マーケットの流れに棹さすよりも。
あまり頭を使わずに、単にマーケットに乗っかって、あるいは現在の市場価格を追認する方がトレーダーとしてリスクリターンがいい部分がある。
(ここでトレーダーを「金融機関の経営者」と読み替えても意味が通じることに注意)
したがってトレーダーは、ほっておくと「確率は事前に与えられるものではない」ということを(あえて)忘れて。
「確率は市場価格から常に逆算できる」と考えてしまう傾向があるかも知れない。
またモデルを作るに当たっても。
「事前に確率は分からない」という考えに基づくのではなく。
トレーダーの要求に基づいてとりあえず「市場価格に対してキャリブレートする」モデルを作ってしまい。
常に市場の価格を追認する行動を取ってしまう部分があるかも知れない。
こういった意味で。
市場の本質が美人投票である、ということと。
事前には確率は分からない、ということは、極めて相容れない概念で。
その矛盾こそが、黒い白鳥のジェネレーターなのではないかと思われる。
ね、偉そうな事を言ってるように聞こえるかもしれないけどただのヨタ話だったでしょ?
(Special thanks to my friend Trader A)