高速・高頻度売買が市場に与える影響 | 株えもんのブログ

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株式投資や経済の話です

 日本の株式市場で取引シェアを拡大する超高速取引。これまで存在しなかった異形の売買手法は、相場に大きな影響を与え始めている。




株価変動は緩やかに



 東京証券取引所の斉藤惇社長は、超高速取引の普及による相場への影響をこう分析する。


 東証は20101月に高速の株取引システム「アローヘッド」を稼働させた。稼働前の1年間に、日経平均株価が前日比で3%超変動した日は計23日。それが稼働後の1年間はわずか6日と大幅に減少した。



 グラフ①は、東証がアローヘッド導入前後の株式相場全体のボラティリティー(株価変動率)を調べたものだ。

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 東日本大震災直後を除けば、ボラティリティーは落ち着いた動きを示すようになっている。時期による経済・金融環境の違いから単純比較は難しいが、超高速取引の普及とともに相場が穏やかになり、急騰や急落が起こりにくくなったのは間違いなさそうだ。




 「1日の注文件数が100万件を超す業者もいる」(大手証券幹部)。こんな超高速取引の特性が、相場のボラティリティー低下を引き起こしている。


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 その仕組みをイメージ化したのがグラフ②だ。超高速取引は極めて高い頻度で小口の売買を繰り返し、細かな収益を積み重ねていく。つまり、株価がはんのわずかでも上がれば売り注文が、逆にほんのわずかでも下がれば買い注文が、超高速で入ることになる。




このため従来の株価波動は、押しつぶされるような形で小さくなり、相場のボラティリティーが低下する。



 もっとも、どんな銘柄でも超高速取引の対象になるわけではなさそう。早稲田大学の宇野淳教授は「流動性の高い銘柄に絞って売買している」と指摘する。


アローヘッド導入前後の市場データを分析すると、時価総額が大きく、流動性も高い銘柄はど取引が高頻度化

する傾向が強いことがわかった。


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 それを示したのがグラフ③。大型株(東証1部の時価総額上位100位までの銘柄群)の約定件数は、アローヘッド導入後に5割ほど増加。中型株(同101500位)の約定件数もやや増えたが、小型株(同5011000位)と超小型株(同1001位以下)は約定件数にほとんど変化がない。


一般に時価総額が大きい銘柄は多くの投資家が運用資産に組み入れるため、活発に売買され、流動性が高まりやすい。




 先進の超高速取引は売買頻度のあまりの高さゆえに、流動性の高い銘柄しか手がけられないという弱点が浮かび上がる。ボラティリティーの低下といった特有の影響も、大型株のみにはぼ限定されていると見ていいだろう。




プログラムにバグがあればスパイクがおきる




 クレディ・スイス証券のディレクター、マイケル・モレマンズ氏が言う「スパイク」は、英語で鋭くとがった形状を意味し、株価がごく短い間に急変動することを指す。

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 626日午前10時過ぎ。バンダイナムコホールディングス株が突如、急上昇を始めた。101639秒のわずか1秒の間に、少なくとも41回もの取引が成立。


1049円だった株価はその間に1108円まで一気に駆け上がった。「誤発注か」。市場関係者が固唾をのむなか、15秒後の101654秒まで高頻度売買は続き、同55秒にはぴたりとやんだ。



 真相はやぶのなかだ。しかし超高速取引が何らかの形で引き起こしたものだと考える市場関係者は多い。




 スパイクは超高速取引を手がけるファンドが、新しいコンピュータープログラムを試している際などに発生しやすいとされる。


ただ最近は、プログラムが洗練され、証券会社も不自然な注文を遮断する体制を整えてきているようで、アローヘッドの稼働直後よりスパイクは減ったとの指摘もある。




イナゴの大群



 ある国内証券ディーラーはこう例える。これには2つの含意がある。同じ方向に一斉に飛ぶ、あるいば急に群がり急に消えていくということだ。



 超高速取引は基本的に、市場に流動性をもたらす。昨年3月の東日本大震災直後も「超高速取引業者は注文を出し続け、実需の投資家が持ち高を解消するのを助けた」(モルガン・スタンレーMUFG証券の斎藤隆幸エグゼクティブディレクター)。東証1部の売買高が過去最高の58億株弱を記録したのは昨年315日のことだ。




 ただ何かの拍子で注文が売り、買いどちらかに偏るのではとの不安が市場には残る。記憶にあるのは2010年の米国株の急落劇「フラッシュ・クラッシュ」。


きっかけとなった株価指数先物への巨額の売り注文に、超高速取引業者はまず買い向かった。買い持ち高は一瞬のうちに膨らみ、プログラムで事前に決められた許容量を突破。


これを受けて売りに転じる合図が発動された。似た動きが一斉に起こり、市場は売り一色になった。




 さらに超高速取引のプログラムには、市場で想定外のショックが起きると売買を停止する機能がある。もしそれが発動されたら市場の流動性をかえって枯渇させてしまうおそれがある。



 日本市場では数百単位の超高速取引プログラムがせめぎ合っているとされるが、相互にどんな影響を与え合っているのかも、まだわかっていない。