政府は老朽化したマンションの建て替えを促すため、区分所有法など関連法制を見直す。専有面積などに比例する「議決権」の5分の4以上の同意を必要とする決議条件を3分の2程度に減らし、建て替えをしやすくすることが柱。
共用部分の改修も4分の3以上の同意から2分の1超にする方向。都心などで増える中古マンションの安全性を高めるための投資を後押しする狙い。2013年の通常国会に法案を提出する方針だ。
国土交通省は近く関連省庁との調整に着手。4月をメドに有識者も参加する検討会議を開き、議論を始める。12年中に詳細を詰め、マンションの建て替えを規定する「区分所有法」や「マンション建て替え円滑化法」など関連法の改正案か、特別立法案を13年の通常国会に提出する考えだ。
現行の区分所有法では原則として、マンションの建て替えには所有者の5分の4以上の同意に加え、所有者が所有面積に応じて持つ議決権の5分の4以上の同意が必要としている。
1983年の法改正時は老朽化したマンションが少なく、住民の財産権を保護することに重点が置かれていた。今回は老朽化の進行を踏まえ、所有者、議決権の合意条件を引き下げる。
さらに、もともとあった土地に建物を建て替えることになっている規定も見直す。国交省は違う土地に建てることも可能とし、完成までの間、旧住宅に居住することも認める考え。同じ土地に建て替える場合も、工事の間、住民に公営住宅の空室を低料金で提供することを検討する。
建物の外観を変更するような大がかりな改修についても、所有者および議決権の4分の3以上の合意が必要としている条件を過半数に引き下げる方向だ。
マンションは国内に約11万件(約570万戸)ある。耐震強度が低かったりコンクリートにひびが入り安全性が危ぶまれる物件も約3万件ある。だが、建て替え済みや建て替えが決まっているのは約180件にすぎない。
現行では、反対する一部の住民が「今の家に住み続けたい」「資金は出せない」などと主張。建て替える場合でも、高額な補償を求めるケースもあり、老朽化しているにもかかわらず、建て替えや改修の決議ができづらい状況が続いている。
例えば東京都渋谷区のマンション(162戸)では、専有面積が大きく、大きな議決権を持つ住民が反対していることから、建て替えができないでいるという。
内需が低迷するなか、政府は住宅関連投資を押し上げるためにも、建て替えルールを見直す必要があるとみている。
▼区分所有法 マンションなど建物の所有権について定めた法律。建物を適切に管理・維持するため、1962年に作られた。区分所有権は建物の構造上、区分できる箇所があり、それぞれが住居や店舗などに使用できる所有権のこと。法律は区分所有権の決め方や建物の共有部分の管理ルールなどを定義している。
1983年の法改正で、マンションの建て替え決議の条件が「5分の4以上の賛成」と定められた。だが、5分の4の賛成を取り付けるのは容易ではなく、住民の間で建て替えを巡るトラブルが増えている。今後は老朽化した建物が一段と増えることから、建て替え規制の緩和が大きな課題となっている。