2021.8 NO.156 ルー VS ルール
新型コロナ禍での東京五輪の開催が秒読み段階となった折、西村宮内庁長官から「五輪開催がコロナ感染拡大につながらないか、天皇陛下が懸念していると拝察している」との発言があった。天皇の政治的発言と受け取られかねないと懸念したが、案の定海外からそんな指摘を受けた。
象徴天皇が政治的発言をすると問題になる(それだけでなく政治利用する者が現れ、問題をより深刻化させる)ことを未然に防ぐことは、天皇陛下に使える宮内庁長官の大きな役目の一つであろう。それなのに宮内庁長官自身が天皇、ひいては天皇制を揺さぶる発言をするとは。
五輪開催の是非は別にして、忠諫かなわず天皇陛下が直接ご発言なされてしまったのならともかく、加藤官房長官が宮内庁長官個人の意見として収めようとしたのは、至極当然である。
28頁に亘る「小室文書」を評価したかのような発言も勘案すれば、警察官僚の元トップともあろう者が皇室と国民を引き離すかのような言動をとることに、違和感を禁じ得ない。
そんな中、女子ゴルフの東京五輪出場者が決定した。日本からは畑岡奈紗選手と稲見萌寧選手が金メダルを狙う。とくに全米女子オープンで惜しくもプレーオフで敗れた畑岡選手にはここにきて復調気配であり、舞台の霞ヶ関カンツリー倶楽部は相性がよいとのことなので、大いに期待される。
二重国籍を持つ笹生優花選手は全米女子オープンを勝つ前確実に五輪に出場できるフィリピン国籍を選択していた(五輪後日本国籍を選択するらしい)。
2021全米女子オープン(以下「全米女子」)を史上最年少(19歳351日)で優勝し、晴れて米ツアーメンバーとなった笹生選手は、優勝直後の記者からの問いに対して「私は自分のことしか考えない選手になりたくない」と発言した。考え方はしっかり。佇まいはまるで女剣士。メディア等に囃し立てられても煽られても、自身を見失うことがないように思える。「藍ちゃんに憧れて」ゴルフを始めた笹生選手が日本を代表する女子プロ宮里藍さんの後を継いでくれることだろう。
笹生選手は元々米ツアー志望で前回のQシリーズ(最終予選会)が不合格となったので日本でプレーしただけ。子供の頃から米ツアーで通用できるよう下半身を強化してきた。
最難関メジャーを制したからよく見えて当たり前なのだが、飛距離と高弾道、深いラフからでもグリーンに乗せられるパワーと技術、アプローチでの引き出しの多さ、絶妙なバンカーショット&パット。メンタルのタフさ、語学堪能も含め米ツアーに必要なものをすべて19歳の若さで備えているように思える。
笹生選手にあるものが渋野日向子選手には少ないように見える。メジャー・2019全英女子オープン(以下「全英女子」)に勝ったが、コースが、メジャーの中では6,585ydと比較的長くなく、しかも風が強く吹くリンクスコースでなく日本のコースに似ていた(今の飛距離、ボールの高さでは長い米本土メジャーの優勝はイメージしづらい。渋野選手が次にメジャーに優勝するとすれば、コースが6,523ydの仏でのメジャー・エビアン選手権ではないか。パワーヒッターではないチョン・インジ選手やキム・ヒョージュ選手等が制している。メジャー昇格前宮里藍さんも優勝している)。
さらに、下りなのに優勝パットを強く打つ、怖いもの知らず。それで全英女子を優勝できたと言える(凱旋帰国後の2019NEC軽井沢72ゴルフトーナメントでは、最終日の最終ホールで、同じような優勝を決める下りのパットで強く打ち、返しのパットもはずし、プレーオフにも残れなかった)。
渋野選手には、ビギナーズ・ラックだったと客観的に自分を見つめる謙虚さが必要ではないか。いや、ゴルフの怖さ、奥深さを知った今渋野選手本人も既に自覚しているのではないか。笹生選手の全米女子優勝で踏ん切りがついたのでは。聞く耳を持つようになる、そう思いたい。
高額宝くじを当てた人が却って人生が狂うことがあるように、渋野選手が全英女子を初挑戦で勝った(宝くじと違いラッキーだけではなく実力も必要ではあるが)ことが、良かったかどうか。
15歳で日本ツアーを最年少優勝したことにより、身の丈を超えた目標を設定し?タイガー・ウッズ選手を目指したのか空回りした石川遼選手の二の舞にならないか。石川選手とバラエティ番組で談笑しているだけなのか、指導を受けているのか、分からないが、“遼化”の道を辿るのを心配するファンは少なくない。
渋野選手の影に隠れて、オフに地道に黙々と練習し、小祝さくら選手、稲見萌寧選手等若手選手が日本女子プロ賞金ランキングのトップ層を形成する。メジャー勝利がなければ渋野選手がその上に鎮座していたのかもしれない。
渋野選手は、メジャーを勝つ1年前は2度目の挑戦でプロテストに合格したばかり。メジャー優勝後日本が好き、準備もまだと米ツアーへの権利も放棄した。東京五輪も出場したいと言っていたハズだ。にもかかわらず、メディアに煽られ、畑岡奈紗選手が優勝した2019日本女子オープンに出場した親日ユ・ソヨン選手には「米ツアーにいつ来るの?」と声をかけられ、台湾での米ツアートーナメントで親日台湾人に熱烈歓迎を受けると、半年も経たないうちに、「米ツアーに行きたい」との報道が流れ始めた。そして、「東京五輪よりも米ツアー」と公言するようになり、ディフェンディングチャンピオンとして出場すべき今年の公式戦「ワールドレディスチャンピオンシップサロンパスカップ」を欠場し、メジャーでもないタイでの米ツアーに参戦した。
その折、渋野選手に100万円の罰金を課したことにファンは「時代錯誤」とか協会を批判した。罰と聞くとマイナスイメージを持つが、OB2打罰のルールは、そのままプレーすると何打たたくか分からなくなるのを防ぐ救済措置でもあるのだ。同じように、日本女子ツアーは米女子ツアーの二軍ツアーではなく、また、大会スポンサーの手前、協会から「そんなに米ツアーが良いなら、日本ツアーを退会してから、行け!」と死刑宣告を言い渡されてもおかしくないところをスポンサー収入も得ている渋野選手にとって痛くも痒くもない程度の罰金で済ませてもらっている。温情措置なのだ。大会スポンサーがあってこそ毎年ツアー開催の維持ができ、優勝者は高額な賞金が貰える。日本ツアーのプロとしての渋野選手の大会スポンサーに対する感謝の念は如何に。
同じく、(森元首相の女性蔑視発言の折一国の元首相に対して「無知」とツイートしたとき勇み足をしないか不安を覚えた) テニスの大坂なおみ選手の、思いのほか他の選手の賛同が得られず、後出しの鬱告白で後味の悪い矛の収め方となった全仏オープンテニスにおける記者会見拒否問題も、莫大なスポンサー収入を得て、それは4大大会の優勝があればこそというプロの本質を見失っている面もあるのでは(セレブの仲間入りを果たしても差別問題の先頭に立つ彼女を讃美してきた私としては手のひらを返し過ぎか)。
さらに、渋野選手は、スイングの改造に対して、レジェンドの、樋口久子さん、岡本綾子さんが、メジャーチャンピオンに遠慮しながら疑問を呈しているのを知りながら「誰が何と言おうと関係ない」と発言したとの報道がなされる。全米女子の前でも「みんな解説したがりだな、他人のことをねえ」とNumber Webに載る(こんな発言をやめさせる者は周りにいないのか)。
まだ人生経験の少ない20代そこそこのいわゆる“ひょっこ”と言えども、プロテニスプレーヤ―もプロゴルファーも個人事業主だから、チームもスポンサーも女王様扱いなのか。所属ジムの会長、トレーナー(実父)がいるプロボクシングの井上尚弥選手は日本が世界に誇るチャンピオンとしての発言を心得ている。単に本人が賢いだけではなかろう(ベーブ・ルースの再来と囃されるMLB・エンゼルスの大谷翔平選手も、驕らず、謙虚そのもの)。
渋野選手が、日本の代表、特別な存在という自覚がなく、「重荷」を背負わず、自由に生きる。それは本人の勝手。だが、それなら私も特別視しない。
これまで4度本ブログで渋野選手のことに触れてきた(2019年12月臨時号NO.125「ひさこVSひなこ」、2020年8月号NO.136「ナナコVSヒナコ」では好意的に、2021年1月号NO.144「かんさいべんVSかんさいけん」、2021年3月臨時号NO.149「さそうVSなそう」ではやや否定的に)。
日本の代表、日本女子ツアーの宝だと思えばこそ、私は、応援もするし、心配もした。親戚の爺ちゃんでもないので、言動の変化が見られないならもう本ブログで取り上げないと思っていた。しかし、笹生選手のメジャー制覇で事態は変わった。思うに任せないやるせなさから片意地を張っていた?渋野選手も変わるだろう。元の皆から愛される選手に戻るのでは。
米女子ツアーは、多くのメジャーチャンピオンを擁する韓国勢の天下だったが、メジャー2勝・元世界ランク1位のアリヤ・ジュタヌガーン選手、メジャーの2021ANAインスピレーション(6,763yd)を制したパティ・タバタナキット選手、アマ時代笹生選手に勝るとも劣らない実績をもつ18歳のアッタヤ・ティティクル選手(渋野選手が出場した地元タイでの米ツアートーナメントで最終番に逆転負けし米ツアーメンバー入りを逃す)等パワーヒッターのタイ勢が台頭してきた。本家の米国勢では先週のメジャー・全米女子プロに優勝し世界ランク1位となったネリ―・コルダ選手と姉のジェシカ選手、レキシ―・トンプソン選手等長身の飛ばし屋がいる。笹生選手もいるとなると、米男子ツアー同様パワーヒッターでないと太刀打ちできない時代に米女子ツアーも突入していくのでは。
黄金世代、プラチナ世代等とマスコミに持ち上げられる若手の中には、笹生選手や畑岡選手を見て私も米ツアーと言う女子プロが増えてこようが、勉強すれば皆東大に入れるわけでないように、皆が笹生選手や畑岡選手になれる訳でもない。
日本ツアーで1勝あげたら、すぐに米ツアーに挑戦し、また直ぐに戻ってきた河本結選手に対しては、日本の代表と思っていなかったし、ファンでもなかったので、わざわざ名を挙げてコメントすることはしなかった。ただ、私も転職の時そうだったが、「強い憧れ」が不安や難点を隠してしまうということを改めて感じた。
日本の若手女子プロは、(新型コロナ禍が収まれば)大いにメジャーに挑戦すればよい。が、米ツアーへの転戦は慎重さがあってよい。米ツアーに挑戦した先輩女子プロ達にもっと敬意を払い参考にしてはと思う。日本で活躍していたこの先輩達が下記の通りなぜ米ツアーでは勝てなかったのか。先輩たちと自身との彼我の差は如何にと見つめてもらいたい。
上田桃子選手は2005年にプロテスト合格。2007年5勝あげ、史上最年少賞金女王となる。日米共同開催ミズノクラッシックでの優勝で米ツアーの権利を取得。翌年米ツアーを主戦場とするが、もう一度日本での開催ミズノクラッシックに優勝するだけで、米ツアー(単独開催)での優勝はない。有村智恵選手も、2012年までに国内女子ツアーで通算13勝をマーク。同年米国ツアーの予選会を突破し、翌2013年から本格参戦するもメジャーはおろか1度も優勝できなかった。2016年米ツアーを撤退している。
韓国でレジェンド朴セリ元選手に次いで尊敬されている朴仁妃選手(米ツアー20勝、メジャー7勝。リオ五輪の金メダリスト)ですら、2008年に史上最年少で全米女子を制しているのに、石の上にも3年ではないが、2010年~2012年日本ツアーでプレーした後米ツアーに本格参戦している。
17歳の梶谷翼アマも2021オーガスタ女子アマチュアに優勝したが、日本ツアーの11月予定のプロテストを受けるという。冷静な判断だと思う。
日本女子ゴルフ協会のスタンスも少し理解に苦しむ。協会自ら米ツアーの二軍ツアーと認めているのかと思ってしまう。2019年、同年以降の複数年シード獲得者について、シード開始年度を権利獲得の翌年から10年のうちで、任意で選択できるよう規則を改めた(改定前は獲得翌年から発効)。
今回の改正は、米ツアー挑戦に対する不安を和らげ、公式戦優勝者(3年シード)等に対して米ツアーへの早期転戦を後押しするだけではないか。
賞金シードとダブるなら、翌々年から特典シードを付与すればよい。さらに公式戦の優勝の価値を高めるには、賞金の増額が望まれる。が、それが今のご時世容易ではないにしても、今年だけで5勝の稲見選手が目指しているという永久シードの条件を現行30勝を30ポイントに変更し、公式戦優勝ポイントは倍の2点とするのはどうか。公式戦5勝、その他20勝で、あるいは、公式戦10勝、その他10勝で、30ポイントに到達。公式戦優勝へのモチベーションがさらに高まるのではないか。
協会はメジャーへの挑戦は支持している。アジアの有望選手が日本ツアーに来てくれるよう日本ツアーの代表として日本ツアーのレベルの高さを世界に示してほしいと積極的に送り出せばよい。女子プロ自身も、自らの位置、足りないものは何かを知ればよい。
それなら、年間ポイントレース「メルセデスランキング」と同じようにメジャーの賞金も国内獲得賞金に合算すべき(そうなら、今季賞金女王を狙うと公言した小祝選手も積極的にメジャーに挑戦するのかもしれない)。男子ツアーと違い日本公式戦とメジャーとの賞金差は4千百万円前後(最高峰の全米女子は別格で優勝賞金は1億1千万円と破格だが)。日本男子ツアーのように、松山英樹選手のごとくマスターズを優勝(優勝賞金は約2億3千万円)すれば、それだけで日本の賞金王が決まってしまうこともないだろう。
さらに、ゴルフファンが「時代錯誤」と声を上げるべきなのは、海外の一流選手を締め出す制度変更。韓国の一流選手にもプロテストを受け合格しないとQT受けさせないとする。実質韓国の一流選手を締め出す「令和の尊王攘夷」と言うべき悪法と言っても過言ではないだろう。
2016年度の国内賞金ランキング・ベスト10(敬称略)では、1位イボミ、2位申ジエ、4位キムハヌル、6位テレサ・ルー(台湾)、7位全美貞、8位李知姫、9位アンソンジュ。上位10名中、7名が外国選手で、その内6名が韓国の選手。
5年後の現在(2020年~2021年6月末)の同ベスト10になると、外国選手は先々週優勝しベスト10入りした申ジエ選手(7位)のみ。新型コロナ禍の一時的な影響に過ぎないのか。他の韓国人選手や台湾のルー選手は、一時的に不調なだけか、それとも峠を迎えているのだろうか。
この状況を、日本選手が強くなったと手放しで喜んでよいのか。若手選手は、楽に賞金女王や公式戦勝利を得、3年シードの保険証書を手に米ツアーに転戦していける。成功すればそのまま米ツアーでプレーし、失敗すれば数年後戻ってくるが、渡米前の実力がもう発揮できない。発揮するのに時間がかかる。それでは、いつまで経っても、日本ツアーがレベルアップしないのではないか。
ゴルフファンに韓国人選手をヘイトする者がどれぐらいいるのか。それも一因で韓国の一流選手を締め出すのではあるまいな。
日本女子プロゴルフ界の“尊王(攘夷)”とは、誰を指すのか。小林浩美会長のことになるのか。