2020.12 NO.143  いばら VS  いばら
  かつて茨城県人と一緒に仕事をしたことがある。仮にA君としておこう。A君は偉そぶるところもなく性格もおだやか。関東人が嫌う、私のような(東京在住の)関西人が他人をいじって笑いをとるようなこともせず、自虐ネタで周りの人を和ませる。私も好ましく思っていた。その彼が一つだけキィーッと感情的になるので驚いた。私がいばらぎと言うと「茨城は、いばらき、で、いばらぎ、でない!」と怒ったように言う。
  大阪府にある茨木市も「いばらき」であるが、神戸っ子の私も、地元の大阪府民も「いばらぎ」と発音していた。関西人は損でもしない限りそんなことに拘らない。固有名詞でないなら発音し易いように変えるのは洋の東西を問わずいくらでもある。天童よしみさんの『珍島物語』の歌詞にある「カムサハムニダ」も韓国人は「カムサミダ」と発音する。欧米人もI miss you.をアイミッシューと発音する。
 A君だけの拘りかと思っていたが、そうでもなそうだ。グラビアアイドル、タレントで「いばらき大使」を任ずる磯山さやかさんもTV番組で「いばらぎじゃない。いばらきぃー!」と叫んでいた。白ポチャで私好み。体型からして穏やかな性格と見ていたので、少し驚いた。こうなると、個人の性癖ではなく県民性の問題。興味が湧いてきた。

 故祖父江孝男の『県民性の人間学』(ちくま文庫、以下「同書」)によれば、茨城には県民性を表す「3ぽい」があるという。「怒りっぽい」「飽きっぽい」「忘れっぽい」なのだが、それとは別に水戸の「3ぽい」もあるという。「理屈っぽい」「骨っぽい」「怒りっぽい」であるが、一つにまとめれば「激情性」となるのか。これが明治維新で政界をリードするハズなのにそうならなかったことに関係しているか。今では都道府県別魅力度ランキング(以下「魅力度ランキング」)で最下位を争う北関東の団子3兄弟の群馬、栃木に、「世界遺産がない」「国宝が少ない」(他藩に先駆けて反射炉建設の為貴金属を集めたことも影響)「新幹線が通っていない」(駅はないが古河をかすめて通っていると反論する人もいる)に加えて「総理大臣を輩出してない」とディスられる。
  烈公と呼ばれた名君徳川斉昭を初め尊王攘夷に繋がる水戸学の理論的支柱会沢正志斎、藤田東湖ら有能な家臣により水戸藩が幕末の政治思想を先導し吉田松陰、西郷隆盛に大きな影響を与えた。しかるに、大事(欧米列強の圧力に直面した国の危機)の前の小事(小藩の内紛)。斉昭の藩政改革を支持した尊王攘夷派(天狗党)とそれに反対する保守派(特に諸生党)との対立が激化し内乱につぐ内乱で有能であった藩士3,500人が800人までに減少した。
 本来明治維新をリードするハズたったのに、大幅な出遅れ。政府のポストは薩長等に押さえられ、水戸藩士の出る幕はなかった。それで「巡査」になった人が多かったという。
 こうした史実を踏まえれば、県の読み方という小さな事に拘って感情的になってはならないと思うハズなのだが。そう見えないのは私には不思議に思える。

 県名の読み方にそれだけ拘り郷土愛があるのなら、なぜ魅力度ランキングに7年連続最下位に甘んじていることに憤慨しないのか。それも関西人の私にはよう分かりまへん。
  あまり茨城県民は気にしている様子もない。気にしていれば前知事に6期24年も知事にさせることはないか。マスコミの方が、心配しているというか面白がってよく取り上げ、茨城県を喧伝していた(その効果もあったのか本年度は42位に浮上。栃木県が最下位となった。U字工事の2人を初め栃木県民はまさかあの茨城に負けてビリとはとさぞかし悔しがっていることだろう)。
 関東圏を徳川の幕藩体制に擬えると、皇居(前江戸城)のある東京都は「親藩」、神奈川、埼玉、千葉は「譜代」、北関東の群馬、栃木、茨城は「外様」というところか。
 東京都の2015年の昼夜間人口比率(2018年版人口統計)は117.8%でタントツ。逆に譜代の埼玉は88.9%と昼間会社や大学に県外に出る人が多く最低。東京の一番のベットタウン(千葉は89.7%、神奈川は91.2%)か。“だ埼玉”は今は昔。関東住みたい街ランキング2019で大宮4位、浦和8位。千葉は災害対応の問題も出てもう埼玉のライバルと言えないか。 
 北関東3県は群馬99.8%、栃木99.0%、茨城97.5%。ほとんど県外に出ないが、茨城は大仏のある牛久だと特別快速なら52分で東京駅に着く。通勤可能で少し比率は高い。
 東京に住む我々にとって北関東は外様の形容が合うように交流するには遠い。逆に旅行となれば近すぎて、泊りがけで東北地方に行こうとする。一昨年ねぶたを見に夫婦で青森に(その足で函館にも)行ったが、今夏は秋田の竿灯まつりを予定した。仕事で1、2度行っただけなので、どれだけ美人が多いのか街を探索したかったが、祭り中止で断念した。
  一方、茨城は大きな夏祭りもない。加えて、仙台、三河と並んで“日本三大不美人”とありがたくない勲章を貰っている。他県を後回しにしてでも先に訪れたいとは思わない。
  茨城県民自身も、昔のフェイクニュースだと分かっているのに「400年前関ヶ原の戦いで西側につき、水戸から秋田に転封された。その際、藩主佐竹義宣が水戸の美人を全員秋田に連れて行った」と流説を口にする。秋田出身の藤あや子さん、佐々木希さんと茨城出身の愛嬌のある人気芸人、渡辺直美さん、森三中の黒沢かずこさんとを思い浮かべて、「なるほど!」と納得してはいけない。茨城にも、羽田美智子さん、城之内早苗さんとか正統派美人はいる。
  日本海側の雪国女性は肌がきめ細やかで、雪のように白い。「色白は七難隠す」ということだ(秋田美人はロシア人の血がというのは俗説らしい)。

 おいしい物があるとそれだけでその地へ旅行に行きたくなる。天然フグを食べに博多、下関に行った。カニや魚介を食べに北海道へ夫婦で度々出かける。「茨城は、納豆と干し芋がある」てか。リッチ感もないし好きでもない。なにより、納豆はどこにでもある。名産と言っても、全国納豆鑑評会で農水大臣賞(最優秀)が出来た第4回以降今年で第25回になるが、茨城県の納豆メーカーの商品が農水大臣賞を受賞したのは第13回(平成19年)のみ。ところが、高級果物メロンの出荷高日本一は、静岡(6位)かと思っていたが、実は茨城。
  同書によれば、北関東は敬語が最も発達していない関東無敬語地帯と呼ばれる。口ベタでもあり宣伝下手でもある。それも県別魅力度ランキングで最下位を争う要因になるのか。
  茨城は、メロン以外にもレンコン、ピーマン、クリ、白菜、レタス等産出高、出荷高で日本一が多い。平成29年度の農業産出高ランキングでは、茨城は4,967億円で北海道(12,762億円)、鹿児島(5,000億円)で次いで第3位であるが、1k㎡あたりの産出高は茨城は8,250万円で北海道、鹿児島を圧倒している。茨城は農業県と言えるが、県外に出る人も少ない。茨城国際空港は新型コロナがなくとも中国人や親日台湾人しかインバウンドしないなら江戸時代の長崎の出島と変らないか。茨城は鎖国をしている農業国と言えば言い過ぎか。
 フランスはEU最大の農業国。なのに首都パリは国際芸術都市。県都水戸も国際芸術都市を目指してはどうか。まず食文化から茨城産の食材を使いフレンチの東のメッカになっては。既に水戸フレンチの店があるが、仏で初めての三ッ星日本人シェフ小林圭氏やドラマでキムタク扮する尾花シェフのような気鋭のシェフを水戸へ誘致しては。「水戸フレンチコンテスト」の開催はどうか。実りのない空港愛称変更の対応より、ベトナム、タイ等の親日国の観光客も増え路線拡大も期待できるのではないか。
 神楽坂は坂、石畳等街並みがパリに似ていると在日仏人が多く集まる。水戸もそうなれば滝川クリステルさんや沢尻エリカさんのような日仏ハーフ美人が多く誕生するかも。400年後には「秋田美人も見上げる水戸美人」との呼び声が聞こえるんちゃうん。知らんけど。
 思い出したくもない解任「いばらき大使」を思い起こし、「おめぇぶくらすぞ。おひゃらかしてんでね!」と茨城県民にいい加減怒られそうなので、これぐらいで手仕舞いにする。
  最後にお笑いのはなわさんにお願いがある。ぜひ、面白い県宣伝ソング『茨城県』を作ってもらいたい。「き、き、き、き、いばらきぃー!」と。話題を呼んだ映画『飛べ埼玉』の主題歌として映画のラストに『埼玉県のうた』が流れていた。初めの『佐賀県』は45万枚のヒット。ディスられたのに佐賀県民の購入は全国で2位だったとか。
  だが、本号をアップする前によくよく調べ直したら、はなわさんは既に歌っていたのだ。「ラッキー ラッキー ラッキー イバラッキー」と。不人気で知られていない。いやはや収まりのよい結びの文に困ってしまった。“茨の城国”と言えば、シャレにならないか。