モノマネゲームの集合的無知という悲劇
誰にでもピッタリと合う香水は無いそうです。
一人ひとり体温も違えば体臭も違う、それによって香り方が変わります。
あの人が使っている香水が素敵だから自分も真似する。
『でも何か違うような気がする?』
それは錯覚ではなく事実なのです。
同じ香水を使っているのは事実だとしても、結果は違ってしまうのです。
これは木になっているキウイフルーツです。
これをもいで食べても美味しくありません。
樹上では完熟しないのがキウイフルーツだからです。
見た目だけでは分かりません。
ビッグモーターの異常としか考えられないニュースを次々に聴いて、 『あの組織では、どうしてこんな馬鹿げたことをしているのか』 というお話ですが。
仕事柄たくさんの企業を見てくると、ことの大小や良し悪しはあれど、どのような企業にも一つや二つ変わった習慣のようなものがあります。
自社の常識、他社の非常識、など普通だということです。
そこには、集団的無知、または多元的無知と呼ばれている心理現象があります。
事例として有名なのが、童話『裸の王様』です。
自分は王様の服が見えていないにもかかわらず、皆んなは見えているのだと思い込み、王様は裸だと言い出せない、というお話です。
集団内の多くの人が間違ったことを思い込んでいる状態を『集合的無知』と呼んでいます。
この『集合的無知(多元的無知)』は、米国の社会心理学者F.H. オルポート氏によって提唱されました。
自分はある規範を受け入れていないが、他のメンバーのほとんどはその規範を受け入れている、 と思い込んでいる状態のことです。
道を歩いていると、人が倒れています。
しかし誰も声をかけていないので、酔っぱらいなんだと、勝手に解釈してしまう。
その裏には、面倒ごとには関わりたくない、という心理があるのかもしれません。
この心理は、誰にでもあるものです。
それゆえに、誰でもが成功できない理由にもなっています。
他人と違うことをする抵抗感の強さは、日本人らしいといえます。
同調圧力という言葉のパワーは、社会現象にとどまらず、チームワークや組織にまで、その影響 を与えます。
『違うことをして失敗したらどうする?』
この敗者のメンタリティーが、他と違うことに対する抵抗感を作っているのです。
お役人気質として有名になった名台詞が、 『前例はあるのか?』です。
前例があれば失敗してもその責任は大きくないが、新しいチャレンジで失敗すればその責任は重くなる、という理屈です。
衰退して行った企業面談で、この名台詞を嫌というほど聞きました。
過去のやり方の延長線上に現状があるのに、新しい取り組みを恐れ、過去に成功したやり方を求めるのです。
これは会社の平均年齢が高く、過去に成功という名声を得たことがある場合に、起こり安いようです。
集団的無知は、 『なんか変だ』 そう感じてはいても『他人は納得しているのだろう』という思い込みが先行し、言葉にして確認するという行動を止めてしまいます。
また、他人が納得しているのに、自分が変だと言ってしまえば、わだかまりを生んでしまうかもしれないし、自分が責められてしまうかもしれない。
そう考えると、さらに行動化はできなくなります。 そこで、空気を読んで、ここは波風を立てないことを選択するのがベストだと判断するのです。
これはハイコンテクスト社会とも表現され、言葉を介したコミュニケーションではなく、文脈からメッセージを読み取るという日本文化です。
そのような集団力学が作用するため、斬新なアイディアが生まれにくい風土となります。
少子高齢化により、市場全体が縮小している状況にありながら、同じ価値を各企業が提供してしまえば、淘汰の波が大きくなるのは必然です。
にもかかわらず、同質化による縮小を選択している理由は、失敗したくないからです。
モノマネは、学習の基本かもしれません。
しかしそれは、『在り方』を真似るのであって、『やり方』を真似るわけではないのです。
見た目だけを真似れば、偽物になるのは当たり前だといえます。
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