園田信のブログ

園田信のブログ

小説家・ヒーリングカウンセラー園田信のオリジナル小説を公開して行きます。また、日常で気になったあらゆるコンテンツへの感想などを書いて行こうと思っています。 


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 「テルヤマさん? 

   実はわたし・・・、あなたのことを以前一度見かけたことがあるの」
 「ええ? 
 ど、どういうこと?」
 「うん、そのう・・・、あれは・・・今年の3月頃のことなんだけどね。
 軽井沢にあるカフェで、神山珈琲館ってお店があるんだけどね、そこでわたし・・・、あなたがそこに居たのを見たのよ」
 「か・・・、軽井沢? 
 軽井沢って。
 ぼくは今年の3月頃、軽井沢なんかには行ってなかったけどなあ」
とテルヤマはそんなわたしの目撃説をあっさりと否定する。
 「本当?」
 「本当も何も。
 いや、ちょっと・・、なんか変ですよ? ワカバヤシさん。
 ちなみにその軽井沢でなんかあったんですか?」
 「えっ?
 い、いえ、それは・・・」
 「他人のそら似ってヤツじゃないかなあ? 
 それともあれ。 ドッペルゲンガー?」
と無邪気に答えるテルヤマを見るにつけ、わたしはさっきまでの自分の直感に自信が持てなくなってくる。

 「それよりワカバヤシさん、今度機会があれば・・・、ぼくのアトリエの方にも是非遊びに来てくださいよ?」
と言ってテルヤマは、いきなり彼の両掌でわたしの(ブレスを着けた)左手を握った。
 「えっ? 
 ええ、も、もちろん、喜んで」
そう答えながらわたしは思っていた・・・、ヒカルさんの失踪の件はしばらくは忘れることにしよう。
 そんなことより、とりあえず今は彼とわたしの恋バナの方が最優先に決まっている。

 そしてそんな(このわたしには正直滅多に訪れることのない)切なくも甘いロマンスの世界にどっぷりと浸ろうとする自分を正当化しようとしていた。

 と、それからすぐにその日のパーティーも無事お開きということになり、わたしは、
 「すぐそこまでテルヤマさん、送ってくるから」
そうルームメイトふたりに言い残し、テルヤマを連れ立ちシェアハウスを後にする。

 リビングを出る際にチラッとリビング中央のソファ席を覗くと、ミユキの腕は既にホンジョウさんの胴回りに絡み付いており、それはその夜の後の展開をより確実なものとしてこのわたしに連想させた。

 そして、わたしとテルヤマはふたりほろ酔い気分でちょっとだけ足をもつれさせながら、電灯の薄ら明かりに照らされるせせらぎの歩道をシモキタ方面へと歩いていた。

 あのミユキみたいにわたしももっと図々しく、自分の気持ちに素直になれればいいのに・・・、なんて横を歩くテルヤマの腕に触れることも出来ない自分を情けなく思いつつ、見上げた夜空は立ち込める雲で覆われ、十三夜の月はその片鱗の光すら見えない始末。
 いや待てよ、時間的に言って空にはもう月がないってことかも? なんて改めて思い返していたその時だった。

 「ワカバヤシさん、もうこの辺で」
 「えっ?」
 「ああ、この先を行ったすぐの所からぼく・・・、タクシーで三茶に出ますんで」
 「ああ、そ、そう」
 「じゃあ」
と言って立ち去ろうとするテルヤマに、
 「ああ、あの・・・、今日はわざわざ・・・、こんな所まで来てくれてありがとう。
 それに、こんな素敵なものまでいただいちゃって」
となんとか引き止めようと彼に声を掛けるわたし。

 「いえ」
 「だってなんか・・・、テルヤマさんってあんまり食べたり、飲んだりもしないんだもん。
 なんかちょっと悪くて」
 「そ、そうでしたか? 自分的にはけっこう食べたような・・・。
 ああ、すごく美味しかったですよ、どの料理もみんな」
 「でも・・・」

 と、いきなりだった。
 テルヤマは風のようなしなやかな仕草でわたしの唇にそっと口づけると、


 「じゃあ、これで」


と言ってわたしにあの天使のような顔で微笑んだ。


 そんな彼の突然の行動にわたしは一瞬動揺しつつも、すぐにその(行動の)裏側にある彼の欲望の欠片にこのわたしも触発され、
 「そんなんじゃ、全然ダメ・・・」
と言って彼の顎をわたしの両手で包みこむと、今度はわたしの方から彼に思い切り激しいディープキスを仕掛ける。

 テルヤマは一瞬のけぞるように怯んだが、すぐに彼の方からも熱い舌をわたしの舌に絡ませてくる。
 それからわたしたちふたりはそれぞれの腕をお互いの背中にきつくからませると、頬に心地よい秋風を感じつつ時間が止まったような抱擁の数秒間に浸る。

 わたしの閉じられた瞳の裏側では、真珠色に輝く十三夜の月光のベールがわたしたちふたりをうっすらと照らしつけるのがわかった。

 するとその直後だった、わたしの下腹あたりに彼の何か固くなったもの? があたってくるのがわかり、その存在にまさに反応するかのようにわたしの中の何かがとろりと蕩けそうになったその瞬間、いきなりテルヤマはわたしから離れると、
 「じゃ、じゃあこの辺で。
 こ、このままだと帰れなくなりそうだ」
と肩で息をするようにそうつぶやいた。
 「えっ? そ、そうなの?」
と言って何かをおねだりする子供のような目つきでわたしは彼を見る。
 「ワカバヤシさん、今日は本当にありがとう。
 そ、それじゃあ近いうちにまた」
そう言って彼はわたしから逃げるようにして立ち去って行った。

 ええ? 嘘? 
 ほ、本当に帰っちゃうの? 

 と心の中でそう叫びながらもわたしは、暗がりの中急ぎ足で立ち去る彼の後ろ姿を見送っていた。
 そしてわたしはその時初めて気づくのだった、自分の周りでこれまでずっと響き渡っていただろうせせらぎの音色に。



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 そのブレス、デザインはシンプルだが確かに何か目に見えないパワーがそこに秘められているかのような、何か特殊な微粒子のオーラをまとっている? そんな(期待以上の)魅力的かつ神秘的な代物だった。
 数種の月の模様のようなものがその表面に彫り込まれており、それらの隙間ごとに薄紫色の石が埋め込まれている。 

 「この石はラベンダーアメジストです」
とテルヤマがわたしの耳元で優しくそうささやく。

 「凄い。
 なんか、ずっと見つめていたくなっちゃう。
 ほ、本当にいいんですか? これ、わたしに?」
 「ええ」
 「あの、これ・・・、名前とか? 

 ないんですか?」
と思わずそう尋ねたわたしに、
 「月の祈り・・・」
とテルヤマはそうポツリとつぶやく。

 「月の祈り?」


 「えっ?
 ええ、いや・・・、今ワカバヤシさんにそう訊かれてふと頭に思い浮かんだ言葉なんですけど」
 「うん、でもなんか・・・、確かにそんな感じ」
 「ああ、なんか、気に入ってもらえたみたいで・・・、よかったです」
そう言ってテルヤマはまるでラグジュアリーショップの店員のような繊細な手つきでそのブレスをわたしの左手首に着けてくれた。
 「ありがとう」

 そしてその後、わたしとテルヤマは窓際のカップルスペースのようなテーブル席を陣取ると、そのまま他愛もない冗談などを言い合っては、しばらくの間まったりとそこで語り合っていた。
 それからはもう、はっきり言ってわたしは他のテーブルのことなどどうでもよくなっており、主催者側にいたことすらもほぼ完全に忘れている始末。
 それから小一時間ほどが経っていただろうか? 
 ああ、さすがにちょっとひんしゅくだったかもなぁ? 

 なんてわたしはやっとまわりの閑散とした状況に気づき、そのままリビング中央に目をやる。
 既に客の大半は退散しており、残っているのはトオルとナカバヤシさん以外なんとホンジョウさんとあのミユキだけ? なんてことになっている。
 そしてその夜のミユキのターゲットは、その隣で既に潰れかけているホンジョウさん?
 そんな気配をわたしは素早くもその一瞬の空気で感じ取る。

 「オマエら、わかるか? 

 俺がやっとの思いで告白しようと思っていたヒカルが俺の妹で、おまけにソイツは失踪中で何処にいるのかもわからない。
 それって何? 

 いったいどういうこと!?」
と例の話でホンジョウさんは荒れている模様。
 「しかしまあ、それも本当、凄い話だよね~」
と、どう見てもいつもリアクションがテキトーなナカバヤシさん。
 「ねえ? 
 もうその人のことなんかいい加減忘れたら?」
ってまたミユキ、オマエ。
 テメエはわかり易過ぎだろうが・・・、なんてわたしはまた自分の天敵の姑息な発言に心乱しかけ、思わず顔が歪みそうになるところを、ああ、まずいまずい〜と反省し、テルヤマの方へと視線を戻す・・・と、あれ? 
 と彼もどうやらあちら側の会話に何か興味を示している模様。
 そこでわたしはテルヤマに、
 「あの人ホンジョウさん、ほらフィオレンテで一緒にいた」
と言うとテルヤマも
 「ああ、あの時の」
としっかりそれは憶えている様子。
 「そう、彼の彼女っていうか・・・、まあその手前みたいな感じだったヒカルさんって彼のカウンセラーだったオンナの人がいてね。
 その彼女・・・、実はちょっと前に」
 「えっ?」
と言った時のテルヤマの表情にわたしは何かひっかかるものを感じ・・・、そう言えばあの日軽井沢でこのオトコを見かけたんだっけ・・・、なんていきなりその瞬間そのことを思い出し、
 「テルヤマさん? 
 そのヒカルさんのことなんだけど・・・、まさか知り合いってわけじゃあ?」
と唐突にそう尋ねるわたしに、
 「えっ? 

 ぼ、ぼくが? 
 そ、それは・・・、な、なんでまた?」
と言って彼は微妙にわたしから視線を外しつつそうリアクションする。
 そしてその瞬間、わたしはテルヤマがヒカルさんの失踪にやはりなんらかの形で関係を持っている・・・、そう直感的に確信するのだった。



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 「ああ、トオルくん? 

 この、彼女・・・、なんかちょっと酔っちゃってるみたいで。
 さっき入り口で会ったんだけど」
とテルヤマがトオルに向かって話し掛けている? 
 えっ? 

 う、嘘? と、トオルとテルヤマが? な、なんで知り合い?
 「ああ、すいません、テルヤマさん」
と言うトオルに、
 「じゃあ、彼女・・・、よろしくね」
とトオルに向かってテルヤマはそう告げると、ミユキの腕をゆっくりとほどき、トオルの腕にバトンを手渡すようにミユキの肩を抱きかかえながら移動させ、すぐにわたしの方に向き直すなりの韓流スター顔負けのビューティフルスマイル。
 と、わたしも思わず、ど、どうもみたいな感じの引きつった笑顔で応える。
 「ね、ねえ。

 この人、かっこいい!」
と酔っぱらったミユキがみとれるようにテルヤマを見上げている。
 て、て、テメエは、うせやがれ~! 

 この腐れビッチが~! と心の中で叫びつつ、それはもちろん顔には出さずに、
 「うそ~? なんでテルヤマさん、トオルのこと?」
とわたしは彼に尋ねる。
 「ああ。

 それが、実はぼくら一緒に霊気の勉強をしてまして。
 ってそう、中目黒にある治療院のセガワさんっていう先生のところで」
 「そうそう、テルヤマさんはぼくよりもずっと以前からその先生のところで勉強されてる大先輩なんですよ」
とトオル。
 「いやあ、それでぼくもこの間トオルくんと話してて、ワカバヤシさんが彼のルームメイトだって聞いてびっくりしちゃいまして。
 ねえ、トオルくん?」
 「ええ」
 「な、なんだ、そ、そうだったんだ?」
ってトオルのヤツ、テルヤマが来るのを知ってて今まで黙ってやがって、このヤロウ。

 裏で笑ってやがったな。
 このわたしがテルヤマに夢中になってるのを知ってて・・・。
 と、このポーカーフェイスのスピメンヤロウに一瞬ちょっとムカついたのだが、わたしは敢えてそんな心境もいっさいおくびには出さずに、
 「テルヤマさん? 
 じゃあほら、こっち、こっち〜」
と言いつつ、テルヤマの腕にしぶとく絡み付いていたミユキの腕を思い切り引きはがし、
 「はい、ミユキちゃんはちょっとあっちに行っててねえ~」
と口許だけの笑顔でそのビッチを睨みつける。
 「ええ? 
 こ、この人、マキお姉さまの彼氏なんですかあ? 
 あれえ? 
 あの、でもハマグチさ・・・」
とミユキが言いかけたところを、
 「オマエはちょっとこっち来て少し座ってろ!」
とギリギリのところでなんとかトオルのヤツがその窮地を救ってくれ、っていうかまあ、さすがのトオルでもそのぐらいのこのわたしに対する気遣いは出来ていたようで。
 って言うか、どうでもいいけど本当にとんでもねえオンナだよなあ? このミユキってヤツは。
 この後に及んでのそのボケた態度は正直、わたしに対する全面的な宣戦布告と言っても過言ではない。
 いやはや、マジで天敵だわ、このビッチ。

 危うくコイツにまたしてもこのテルヤマを? なんてわたしの悪夢を一瞬にして吹き飛ばすかのように、
 「ああ、マキさん。

 これ、この間話してた」
と言ってテルヤマがいきなりわたしに例の手作りブレスレットを手渡そうと差し出す。
 「えっ? 
 あ、ああ・・・、こ、これが? 
 う、嘘? 

 す、素敵!」
と思わず気分は地獄から天国へと一気に昇天! 
 なんていい気なわたしです。



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 10月20日の十三夜の夜、その日は朝から曇り空のぐずついた天気で、正直ちょっと月見にはむずかしい雲行きの様に思えた。
 その日までの数日間ずっとその準備に張り切っていたナカバヤシさんは、洋酒とワインのボトルをしこたま買い込み、それらはキッチン前のカウンターにいかにもそれっぽく、BAR風の体裁? なんて感じで並べられている。
 初日の今日、とりあえず付け焼き刃でビールは缶で対応するとのことで、まあ、ゆくゆくはサーバーも取り付け、生ビールぐらいは出せるようにするとのこと。
  そして本日のフードメニューといたしましては、こちらはトオルの提案により、残っても溜め置きが出来るというメインのスープカレー、サイドメニューとしては数種の野菜料理で、 大根とベジミートの煮付け、茄子と蓮根の炒め物、水菜のじゃこサラダ・・・、なんて言う日頃よりおなじみの定番品目を数点ほど用意することにした。
 それにしても、ここのシェアハウスの男子ふたり(ひとりはオヤジだが)は、料理の手際の方も相当にいけてるというか、その味付けのセンスもかなりのもの。 
 まあ、これじゃあ確かに、結婚したいなどという実感もなかなか湧いてこない? なんてことなんだろう。

 「おう、順調そうだねえ?」
と言ってさっそく現れたのは、もうほぼこの企画の一味同然とも言えるホンジョウさん。
 「おお、オマエもちょっと手伝えよ」
と彼の同僚のナカバヤシさん。
 「ええ? 
 俺って今日、客じゃないの? 
 まあ、ただで飲ましてくれるって言うんなら手伝うけど?」
 「えっ?
 ああ、じゃあいいや。
 どうぞお座りになって。
 ほら、ちょっと注文を訊いてやって?」
とナカバヤシさんがわたしに振ってくる。
 「だって。
 じゃあ、は~い、とりあえずビールでしょうか? 
 本日のメインはスープカレーになっておりま~す」
とおどけて見せるわたしに、
 「オマエさあ・・・、なんか楽しそうだなあ? 
 ここんところ」
と意味ありげな目付きでホンジョウさんはわたしを見つめ、それに一瞬動揺を隠せないわたし。
 「べ、別に」
 「あれ?
 もしかしてこの間の?」
 「いいでしょ、その話は。
 あっ、でも、あの人・・・、実は今日、ここに来るんだ」
 「ええ? 嘘? 
 ま、マジで?
 ってオマエもはええよなあ、そっちの方のアクションは」
 「へへえ、それがなんか・・・、逆にくどかれちゃったみたいで。
 いひひひ」
と、どうも気づけば自分、おっさんみたいに頭を掻くようなリアクションをしている。

 「あれえ、なんかオマエら楽しそうだけど・・・、なんかいいことでもあった?」
と無理矢理話に割り込もうとするナカバヤシさん。
 「どうやらマキさんの新しい恋バナみたいですよ」
なんてトオルのヤツ、澄まし顔でちゃっかりと盗み聴きしている。
 「嘘? 
 そ、そうなの? 
 ここんとこまたオマエ・・・、あのハマグチと復活でもしたんだとばかり思ってたんだけど?」
とナカバヤシさん。
 「ああ、そうそう、その件でね、ちょっと今日はアイツ呼んでないから、そのことはとりあえず内密にお願いしますね。
 それがまあなんと言いましょうかか・・・、その、へへへ、大事なカレが来るもんで」
と言うわたしは柄にもなくコイツらの前でデレデレな感じだ。
 「そうなんだ?」
と例によってどうでもいいと言った風のナカバヤシさん。
 「ああ、でもそう言やあ、今日ミユキも来るみたいなんですけど・・・、マキさん、もう、じゃ、じゃあ、き、気にしないですよねえ?」
と言ったトオルに、
 「ええ? 
 う、嘘でしょう!? 
 そ、それってちょっと、アンタ、おかしいんじゃないの? 
 なんでまたあのオンナなんて呼んでんのよ?」
と急に顔色を変えるわたしに、
 「いやでも、ま、まだ友だちですし。
 あの、ま、まずかったですか?」
とトオルはわたしのリアクションが予想外だったのか? 急に動揺した表情になる。
 「あ〜、もう、いいけど。
 よくわかんないわ、アンタら若者の心境ってのが。
 このアラフォーのわたしにはさ」
とまあ、こっちは今日テルヤマが来るもんだから、ミユキのことはもうどうでもいいのだが・・・、これでわたしがハマグチなんぞを呼んでいた日には、どうするつもりだったんだ? このトオルのヤツ。 
 あのミユキのことだ、またどんな手でハマグチに再アプローチを掛けるかわかったもんじゃない・・・って自分、やっぱまだハマグチへの未練もあるってこと? 
 いやいや、そんなことよりもわたしが気に食わないのは、あんなことをしでかしておきながら今日も平気な顔でやって来るあのミユキの心境のことだ。 
 そもそもあのオンナ、わたしがハマグチとつき合ってたのを知っておきながら、トオルに振られたのをいいことに、その流れでハマグチを誘惑し? それでまたすぐ彼と終わったからって何食わぬ顔でわたしの前に顔を出す? なんてのはいったいどういった神経なんだろう?
 はっきり言って理解不能というか、そもそもこのわたしってやっぱそういったとんでもないオンナを呼び寄せてしまうオーラみたいなものを発してる? ってこと? なんて今度はそう謙虚に反省してみたりなんかするわたし。

 と、気づけばリビングの時計はすでに8時を回っていた。

  なんだかんだでその日のパーティーの客入りはそこそこ? ってまあ、せいぜい10数名いるかいないか? 
 それも大半がナカバヤシさんとホンジョウさんの代理店仲間 (中にはわたしの知っている人も数人いた)なんて感じで、後はトオルが最近バイトしてるって言ってた霊気治療院関係のスピ系お姉さま?(おばさま?)連中でほぼ全員といったところ。
 そして正直それら2グループはその毛色が完全にちがうらしく、どうやら一緒にに溶け込んで話そう、なんて気配は全くなし。
 それにしてもトオルのヤツ・・・、あれでちょっと霊気なんて胡散臭いものに詳しくなったもんだから 流行のスピメンにでもなったつもりか? 
 さっきからずっとお姉さま(おばさま)方に囲まれ楽しげに、そこそこまんざらでもないご様子。
 あれで意外と最近は年上狙いだったりして? 
 なんてどうでもいいことを考えていたその瞬間だった、いきなりリビングの扉が開き、その中の連中の視線を一点に集めるようにして登場した一組の美男美女カップル? と思いきや。 

 って、はあ? あ・・・、ああ? 

 な、なんで? 
 なんでまたテルヤマとみ、み、み、ミユキが一緒に登場なの!?
 う、嘘でしょ? 
 み、ミユキのヤツ、こ、こ、こ、こともあろうにテルヤマの腕に彼女の両腕をしっかり絡めてるときた。
 あ、あああ、悪夢がまたあああ・・・、と顔面が蒼白になるわたしであった。



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 「ええ、なんかそうしたいって、ぼくが勝手にそう思ったもので」
 「ええ、嘘? 

 ど、どうしよう・・・、でもそれじゃあ、なんか悪いって言うか。
 で、でも。
 あっ? 
 ああ、そ、そうだ。
 テルヤマさんって今月20日の十三夜の夜って空いてませんか?」
 「20日? ですか? 
 ええと・・・、ええ、多分。
 水曜日ですよね?」
 「ええ、確か」
 「・・・」


 「ああ、あの、実はその日わたしの住んでるシェアハウスのリビングで、今度オープンするバーのオープニングパーティーがあるんで、よかったらいらっしゃれないかあと思って。
 あっ、ああ、なんか家をね、不定期のバーにしようなんてルームメイトと盛り上がっちゃって。
 ああ、も、もちろんそこでの会費は全部わたし持ちで!」
 「へえ、ホームバーですか? 
 なんか楽しそうですね? 
 多分空いてると思うんで・・・、じゃあ、喜んでお伺いいたします」
 「ぜ、是非」
といきなりの急展開にわたしはもうどう対応していいのやら、地に足がついていない感じで。
 と言うか、以前よりジャニオタのアラフォー女子たちとはちょっと距離を置いていたわたしだったが、今はその心境が痛いほどわかる? って言うか”年下のイケメン”などと言う領域についにこのわたしも踏み込んだってこと?
 う〜ん、でもそ、それにしてもちょっと・・・、これはかなりマジっぽいかもなあ。
 なんてなんとか冷静に自己分析出来る状況にまでは回復している模様。
 それからテルヤマは何かの用事があるとかで

 「ちょっと今、急いでまして」

なんてわたしの前から

 「じゃあ」

とすぐに姿を消してしまったのだが、わたしは彼が去った後もしばらくそこで口を空いたまま何も考えられずただボーッとパソコンの前に座っていた。
 例によってここに来てから小説の方はほんの数行も進んでいない。

 これ、こ、恋ってヤツだよね・・・、間違いなく。
 
 なんてわたしはその日理由もなくついニヤニヤしている自分に気づき、何度も挙動不審者のようにキョロキョロとまわりを見渡す羽目となる。
 シェアハウスのリビングでもナカバヤシさんに、
 「オマエ、今日なんか変だぞ?」
といきなり指摘され、焦って我に帰ったりもしていた。
 その日のテルヤマとの予想外の急接近に、いずれにせよなんらかの形で自分からアプローチしようとは思っていたわたしとしても、まさかいきなり彼の方から手作りのプレゼントをもらい受ける展開になるとは夢にも思っておらず・・・。
 って、やっぱ神様って本当にいるんだよなあ。

 なんてわたしはそもそも当初予定していた「ヒカルさん探し」などと言う彼へのアプローチの目的は、その時点でほぼ完全に忘れかけていた。

 そしてその日の夕方だった・・・、そんな有頂天に舞い上がっていたわたし宛にホンジョウさんがいきなり電話をかけて来るなり、
 「マキ? 
 俺、もう最悪だよ。
 オマエの情報・・・、どうもガセだったみたいだ」
なんて地の底から響くようなダークサイドなトーンの口調でそう言った。
 「ええ? 
 いったいなんのこと?」
と言ったわたしにホンジョウさんは、自分の母に会って聴いたというヒカルさんと彼との関係にまつわる家庭内の怨恨話を一方的にマシンガンのようにしゃべり続けると、もう完全に救いようがない・・・、なんて余韻をその場に残したまま一方的に電話を切った。
 その意外とも言える内容にはもちろんこのわたしも一瞬驚きを隠せなかったわけなのだが、正直わたしはその時点でテルヤマとの恋バナ展開で頭がいっぱいになっており、そんなホンジョウさんのマイナスの波動はなんの影響力もなく、いとも簡単にわたしの目の前を素通りした。
 そりゃあもちろん突っ込んであげられなかったことは申し訳なかった、なんて後からはちょっと思ったものの、はっきり言ってわたしは、その時点における最高なハッピー気分を(どうでもいい?)他人事で邪魔されたくはなかった。

 ああもう、どうしよう!? 

 なんかもう、小説なんかどうでもよくなって来た~。
 いぇ~い、ざまあみろ~、ハマグチのヤツ! 
 オマエなんかもうどうでもええわい!
 ってどうしちゃったの、わたし? と頭では思いつつ、口からは鼻歌が漏れ、足元はスキップするダンサーのように軽い。
 その夜わたしはひとり松田聖子の「青いサンゴ礁」の「わた~し~のこ~いは~」を口ずさみながら上機嫌で顔を洗い歯を磨くと、興奮冷めやらぬ火照り切った満面の笑顔で眠りの床に付いた。
 するとアッと言う間に(極楽気分の中)睡魔に襲われ、口惜しくもそんな極上の時間は一瞬にして記憶の彼方へと消えて去って行くのだった。



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 わたしはその日、中目黒にあるベジタリアンカフェ、アラスカにいた。
 ここはわたしが、確か今年の春頃からだったろうか? 特にお気に入りのようで毎週のように通っている。
 中でもランチメニューの玄米プレートにハマって以来、ここに来る時は決まってそれを注文する。
 ベジミート、自家製がんもどきに野菜コロッケなどのメインメニューに玄米ライス、サラダ、小鉢の煮物が付いて1,050円。
 ああそれにお吸い物とドリンクも。
 ちなみに注文するドリンクもいつも一緒のアイスルイボスティーで、これがまた病みつきの美味しさ。
  ここに来て最初の頃は、ヘルシーだけどちょっとこの味、薄くて物足りないかも? なんて思っていたのだが、肉やジャンクを止めて以来そんな薄味が自分にとってちょうどいい頃合いの美味しさに変わり、なんかもう舌で味わうっていのではなく、そのヘルシーな全体の感覚を身体で実感するというか。
 食生活の変化によって自分の味覚そのものなんてものが、本当に変わるもんだなあ・・・、なんて心から思う今日この頃であった。
 店の内装も廃材の木目をベースとした北欧風のキッチンスタイルで、これがまたわたしにはまさにツボ。 
 そしてそこの店員は、みんな20代ぐらいのルーズカジュアルな女子たちで、それがまたいかにもの草食系森ガールな雰囲気で、そのたたずまいだけでも十分このわたしを相当に癒してくれるわけです。


 今日はそのすぐ近くのコナミスポーツでのヨガ帰り。

 ナカバヤシさんとの割り勘で買ったパナソニックの電動チャリでここまで通っているわけなのだが、ちなみにそのチャリ、コナミと同じビルのドンキホーテ本店で売っていたのをナカバヤシさんとふたり以前たまたま通りがけに見つけ、「みんなの買い物用にいいね」なんてふたり同意しつつも、なんとその場でいきなりナカバヤシさんが、「シェアハウス用ならば、割り勘でなら買ってもいいかも?」なんて言い出し、わたしもそれにすぐに便乗し、「それ、乗った!」なん てノリでその場で衝動買いしたものだった。
 そしてそまあ、これもわたしの想定通りというか、どうせナカバヤシさんは日中仕事で外なわけだし、ほとんどわたしの独占状態? 

 なんて思っていたらまさにその通りとなり、実際のところこのチャリ、わたししか乗ってないんじゃないか? なんて、まあそんなことはどうでもいいのだが・・・、とりあえず今日もわたしは、このカフェでMacBookを前に終わらない小説を書き続けている。
 そして例によって今日も全くページが進んでいない。

  あ~あ、あのフィオレンテでの一件については、まだ手がかりも何もつかめていないので話の展開には使えないし・・・、なんてアイスルイボスティーのスト ローを前歯でかじるようにして残りの液体をズルズルッと音を立て吸い切り、あっ、ちょっとレディーとしたことがはしたなかったかしら? なんて下を向き、まわりの気配に意識をめぐらせたその瞬間だった、
 「あの? ワカバヤシさん? 
 でしたっけ?」
とパソコン越しにいきなり誰かに声を掛けられ、
 「えっ?」
と言って顔を上げたわたしは思わず硬直した。
 「ああ、あの・・・、この間お会いした」

 「あっ!


 え、ええ、て、テルヤマさん・・・、でしたっけ?」
と、なんとまたも偶然に彼に会うなんてのは何? 
 こ、これってもしかして運命のなんちゃら? ってこと?
 「ああ、ど、どうも。
 前の道をたまたま通りかかったら、あの、ワカバヤシさんがいるのが見えたもので。
 すいません、お邪魔じゃなかったですか?」
 「い、いえ。

 と、とんでもない。
 あ、ああ、あの・・・、お座りになります?」
と言っている自分の声がかなりうわずってるのがわかる。
 「いや。

 それが、あの、実はこれからちょっと行く所がありまして」
 「そ、そうなんですか」
 「そうだあの・・・、じ、実はそう、あの日あなたにお会いしてからなんですが、急にインスピレーションみたいなものがいきなり湧いてきちゃったっていうか・・・、それがもう、なんかいきなりだったんですけど、そのインスピレーションをもとにっていうか・・・、そのイメージをベースにシンプルなブレスレットを作っってみたんですよ。
 ああ、す、すいません。

 なんか勝手なことして」

 「ええ!? 


 嘘!? 

 す、凄い・・・、っていうか、そ、それ、わたし、か、買います! 
 そ、それって、お、おいくらなんですか? 

 いや、そのブレスレット?」
と驚喜しつつそうリアクションするわたしに、
 「いや、それは売り物って言うよりも、出来ればこのぼくに・・・、あなた宛にプレゼントさせてくれませんか?
 なんか自分、勝手に作っちゃったもんですから、あなたの許可もなしに。
 あの、いや、もし・・・、よかったらでいいんですが?」
 「えっ? 
 こ、このわ、わたしに? 
 ほ、本当に?」



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 「ごめんね・・・、今まで話さなくて。
 なんかもうタイミングを逃しちゃったっていうか、もうこのまま話す必要もないんじゃないか? なんて勝手に思っちゃってたもんだから」
 「あ。

 そ、そうなんだ。
 で、ヒカルさんって・・・、それってやっぱお母さんがあの・・・、俺が中学の時に出てった、あの時に産んだ子供ってこと?」
 「・・・。
 うん。
 そうね。
 あの頃はあたしもどうかしててねぇ、まあ当時はアンタのお父さんにもね」
 「お、お父さんって?」
 「うん・・・。

 お父さんにも当時、あたし以外に他にオンナの人がいてね」
 「ええ? 
 そ、そうだったの?」
と自分の父親の浮気話までもがいきなりの初耳で・・・、と、さらにその動揺を加速させるホンジョウ。
 「うん。
 お父さんもね・・・、そのオンナの人との間に子供が出来ちゃって。
 ああ、それはあたしが出て行く前の話なんだけど」
 「はあ?」
 い、いや、ちょ、ちょっと、それって・・・。
 いきなり追加でもうひとり弟か妹がいるってこと?
 
 って、ど、どうなってるんだこの家庭は?

 「そう、オンナの子で名前は・・・、何だっけ? 
 ちょっと今は思い出せないんだけど、そう、すごく優秀な子でなんでも東大卒業したって聞いたよ」
 「いや、東大はいいんだけどさあ。
 そ、それで・・・、それでその仕返しに、お、お母さんもってこと?」
 「ああ。

 まあ父さんは真面目な人だったから、多分魔が差したのね。
 そのオンナの人ってのは父さんが昔つき合ってた彼女だったらしくて、官僚かなんかの・・・、また真面目で優秀な人と結婚したらしくて。
 でもどうも子供には恵まれなかったみたいでね。
 それからどうも、なんのはずみだったかその後にお父さんとの間で、たった1度だけ過ちがあったらしくて。
 それでまたいきなりその娘が出来ちゃったみたいなんだけど。
 まあ、彼女にしてみればどうしてもその娘を産みたかったんだろうね。

 そう父さんに言ってたらしくって。
 それからそのまま向こうの旦那さんはそれを知らないままにその娘を育てたって。
 お父さんがわざわざそうあたしに謝ってきて。
 それをまた、そんなことお父さんもあたしに言わなきゃそれで済んだものを。
 あたしもその時は凄いショックで。
 いきなりそんなこと聞かされて、なんか気が動転しちゃってたのね。
 それからすぐ、あたしもいきなり家を出ちゃったのよ」

 「そ・・・、そうだったんだ?」


 「そう、その時たまたま友だちの紹介で知り合ったジンナイさんっていう人と、あたしもなんか・・・、ちょっとそうなっちゃったっていうか。
 それも本当、気の迷いだったんだけどね」
 「な、なっちゃったって? 

 ま、またそんな。
 それでヒカルが・・・、ってこと?」
 「うん。
 でも、そのジンナイってオトコにはちゃんと当時奥さんがいてね。
 それで彼女にたまたま子供がいなくって。
 だからその奥さんって人が、わたしの妊娠を知ると、わたしに対して怒るっていうよりも・・・、なんかどうしてもその子供のヒカルがほしいって、ヒカルを渡せば許してくれるっていきなりそんなこと言い出して。
 それであたしも、もう混乱してしまって。
 その時はもう、そうするしかなかったっていうか。
 それにもう、その頃にはあたしもそのジンナイってオトコへの気持ちもさめていたのもあって、またアンタとお父さんのところに戻りたいって・・・、ちょうどそんなことを思ってたところだったんで。
 ああ、それにまたそのジンナイってオトコのオンナ癖が悪くってね。
 あたし以外にも何人も愛人がいたみたいで・・・、まああの人は羽振りがよかったから。
 会社をいくつも持ってたみたいだったから、当時」
 「そ、それで?
 それからお母さん、俺たちのところに・・・、帰って来たってこと?」
 「うん。
 お父さんも自分のことがあったから何も言えなかったみたいで、すぐにあたしのことを喜んで迎え入れてくれたっていうか」
とまあ、随分と自分の知らない親の世代で激しくも乱れた恋愛事情が展開していたものだ。

 などとホンジョウはその時点ですでにある意味ショックを通り越し自分の両親に対し半分尊敬にも似た感情を抱いている自分に驚いていた。
 もうすぐ80歳にもなろうとしている自分の両親がまさかのダブル不倫の末、お互いがはらみはらませ、なんて事実には正直、比較的そちら方面では乱れがちの業界周辺においてさえなかなか聞いたことないし・・・、って言うかまさに事実は小説よりも奇なりってことか?

 それからホンジョウは、とりあえずヒカルさんの失踪については敢えて母ユキエに話すのは止めておくことにした。
 あの時の彼女の態度からして、その事実に関する情報を彼女がまだ何も知らないだろうというのは安易に推察出来たし、そのことを今彼女に知らせることでこれ以上彼女に余計な心配はさせたくない、それがその時のホンジョウの本音だった。
 ホンジョウとその母ユキエは、その後またどうでもいい親戚や知人の話題などでなんとなく場を繋ぎ、それから実家に立ち寄ることもなくその店で母と別れ、そのまま真っ直ぐに自宅への徒についたのだった。
 ただその後ホンジョウに精神的な深い打撃が襲って来たのは、何故かそれから数日後のしばらくの時間差があってのことだった。



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 それから数日後のある日のことだった。
 ホンジョウナオキは、JRさいたま新都心駅近くのロイヤルホストにいた。
 この近くには彼の両親が住む実家のマンションがあり、その日ホンジョウはこのロイヤルホストにて母ユキエと待ち合わせていた。

 このエリアの街並みは、官庁等が入っている新都心のビル群が建設されて以来、それ以前とは全くちがう景観の大都市に生まれ変わってしまい、ホンジョウが幼い頃に慣れ親しんで育った、いわゆる田園風の郊外の面影なんてものはもうほとんど残されていなかった。
 そしてこの新都心の街並みは、まるで彼が子供の頃にテレビで観たウルトラセブンに登場する未来都市のようだよなぁ・・・、そう毎回ここに帰る度に思う。
 それにしても自分が現在住んでいる都内の中心とも言える世田谷エリアの方が、はるかにこのエリアよりも緑や自然の景観が多いってのも、なんかちょっと自分としては不思議? って言うか、どうも腑に落ちない気分だった。
 
 ちなみにホンジョウが今日こんなところで、つまり直接実家のマンションに帰らずにわざわざ母をこんなファミレスに呼び出したのには他でもない・・・、例のヒカルと(自分の)母との関係についてをはっきりと彼女の口から聞き出そう、そんな目論見があってここへ来たからであった。
 とは言えまあ、その真相については既にマキから聞いていたこともあり、今日の一件はいわゆる敢えての確認と言う意味で、それほどプレッシャーを感じるほどのことではない、彼はそう自分に言い聞かせていた。
 平日ということもあってか、駅前だというのにこの店にいる客の数はほんの数組。
 彼がふとガラス越しに外の景色に目をやると、コートの襟を立てた母ユキエが足早にこちらに向かって歩いて来るのが見えた。
 そしてその時点で彼は、既に3杯目のホットコーヒーのおかわりを注文したところだった。

 「あら、早かったのねえ?」
と言って母ユキエは約束の時間より30分ほど遅れてホンジョウの前に現れた。
 「いや、さっき来たとこだから」
 「そう」
 「・・・」
と、久しぶりに外で会う自分の母を見てホンジョウは、それにしてもやはりめっきり老けたよなあ。
 昔は子供だった自分から見ても、随分とキレイな人だったのに・・・、と改めて思う。
 実家で同居してた頃などは、親の顔なんてものは風景のようにろくに見てもいなかったってことを実感する。
 いやでも、そりゃあ母だってもうすぐ80歳越える歳なわけだし・・・、まあ、それにしては若く見える方か? 
 と、彼にとっての面影の母というと、彼女がまだ20代の頃だったのだろうか? 公園のベンチに座るセピア色の写真・・・、何故かそこから永遠に時間が止まったままだった。
 (この写真はもちろん彼女がヒカルと写っていたものよりもずいぶんと前のものであったはずだ)

 「それで?」
 「えっ?」

 「それで今日はどうしたの? 
 家に来ないであたしに直接電話してくるなんて」
 「ああ、うん・・・、お父さんは?」
 「今日はなんか、同窓会とか言って朝から出かけたよ」
 「そう」
 「出不精になってるからたまにはいいんじゃない」
 「そうだね」
 それからホンジョウは、しばらく自分の近況報告などについて軽く話した後もなんとなくぐだぐだとどうでもいい話題で繋いでいたのだったが、なんとかやっと気を取り直し、例のあの一件について母に訊いてみることにするのだった。

 「お母さんさあ?」
 「ん?」
 「あのさあ・・・。
 ちょっと唐突なんだけど・・・、お母さんって・・・、ジンナイヒカルってオンナの人のこととか・・・、聞いたことあるかなあ?」
 「ジンナイ・・・?

 ヒカル?」
と訊き返すユキエの顔がやや曇ったような表情になったのをホンジョウは見逃さなかった。
 「そう、実は・・・、実はね、そのヒカルさんって人の家に行った時になんだけど、なんか、そこにお母さんの写真がたまたま置いてあったって言うか・・・。
 なんか俺、いきなりでびっくりしちゃってさあ。

 全然関係ないって思ってた人の家にお母さんの写真なんかがあったもんだからね。
 それでその写真のお母さん・・・、生まれたばかりのそのヒカルさんのことを両手でだっこしてて。
 それがちょっと、なんかなんかまるで・・・」

 「そう。

 アンタ、ヒカルのこと知ってたのね・・・」
 「えっ? 
 し、知ってたって?
 まあ、それもまあ、たまたま偶然だったんだけど。
 って、ヒカルって?」
 「そう。
 まあ、なんか、今更だから・・・、なんて思っててね」
 「今更って?
 な、何が?」


 「アンタの妹のこと」

 「妹?
 って、えっ?

 う、嘘? 
 そ、そうなの?」
と言う、いきなりの母の告白に・・・、しかもマキからの情報を180度覆すこの展開に対し、ホンジョウは動揺を隠せずにいた。



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 「いやあ、それってなんか・・・、いきなりですけど面白そうですね。
 ぼくは全然暇なんで手伝いますよ、ナカバヤシさん」
とトオルはそう平然と言ってのけた。
 「ええ? 
 ちょ、ちょっと待ってよ。
 い、いきなりどうしたんですか?」
と訳もわからず戸惑うわたし。
 「ああ。

 まあ、いきなりで悪かったなあマキ。
 でもこれは俺、けっこう前から考えててさあ。
 ホンジョウにも以前ちょっと相談したこともあったんだけど、アイツ何も言ってなかったか?」
 「全然」
 「そうか。
 いや、ほらどうせ週末飲むんだったらさあ? 外で飲んで金使うよりもさあ、家をバーにしちゃった方が手っ取り早いんじゃないかって・・・、まあ、単純にそう思っただけなんだけどね」
とナカバヤシさんの言ってることは確かに言えるかも? とすぐにわたしも納得しそうになる。
 「それでほら、正直俺らの会社、はっきり言って儲かってないわけよ。
 それにオマエらだって見たところ割と暇そうじゃん?」
 「ええ?

 まあ、それはまあ、暇そうって言われれば」
と言いかけ、確かに毎日書き上がるあてのない小説を書く以外これといってやってることといったら最近通い始めたジムでのヨガぐらいか? 
 ってまあ正直、いい加減何かバイトでもしないとなあ? なんて思ってたところでもあったわけで。
 「ねえ? 
 じゃあさあ、そのバー、手伝ったらちゃんとバイト代とかもくれるってこと?」
と切り返しの早いわたし。
 「当たり前だろ。
 でもまあ、そんなに儲かるとも思えないけどな。
 こんなところで、いきなり始めるわけだからさあ」
 「でもそれは・・・、やってみないとわからないんじゃないですか?」
とやけに前向きなトオル。
 「いや、俺的には本当に単純に週末の飲み代浮かせついでに人脈なんかも広げられればいい、なんて思ってるだけでね。
 ああ、それでいちおうコンセプトとしては・・・、オーガニックなベジタリアンバーってのにしようと思ってるんだよね。
 そう、だからイメージからしても、ガンガン飲ませて馬鹿騒ぎってのじゃなくて、いわゆるアットホームなラウンジ風っていうかさあ」
 「ふ~ん。

 なるほどね・・・。
 なんかちょっと、コンセプトはいいかも?」
と早くもその気なってるわたし。
 「だろ? 
 利益の方も単純に3等分でいいからね」
 「じゃあ、ぼくは、大学時代の友人なんかにも声かけて、お客集めますね」
 「ああ。

 ちょうど3人微妙に年代もちがうからね。

 それぞれが自分らの人脈を別々にあたればけっこう集客なんかもできるんじゃないか? なんてね」
とナカバヤシ隊長はすでにひとりでいろいろとシュミレーションしていた模様。
 「うん、なんかちょっと、面白そうな気がしてきた!」
とすでにわたしのやる気はうなぎ上り。
 「そう、それでまあ早速って言うか、とりあえずそのオープニングの企画をね、このシェアハウスの1周年も兼ねてやってみようかと・・・、来月のほら、去年と同じ十三夜の夜にでも」
 「なるほど~」
とわたしとトオル。
 そうそう、去年のちょうど今頃の・・・、確かに10月の十三夜の夜だった。
 わたしたちがこのシェアハウスの入居を記念し、そのお披露目パーティーなんぞを開いたのは。



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 その日、わたしはホンジョウさんに、
 「ハマグチのことはまあ、そんな感じなんで・・・、今回のテルヤマの件はとりあえず内密によろしく」
と一応は釘を刺すと、そのままその溝の口でのミーティングはなんとなくお開きということとなった。
 オトナなホンジョウさんは快くわたしの申し入れを聞いてくれたみたいで、
 「まあ、がんばって。
 何かわかったら、俺にすぐ連絡するように」
と言って帰って行った。
 そんな感じで、なんかちょっと・・・、久しぶりに面白いことが起こりそうなワクワク気分でわたしも帰路に着く。

 そしてその夜、わたしがシェアハウスに帰宅すると、平日にしてはめずらしくナカバヤシさんとトオルが早い時間から揃って家にいたようで、ふたり仲良く夕飯の支度をしている様子。
 このパターンはもしかして? ゴチにあずかれるかも?! と期待しつつ、
 「ただいま~! 
 今日はふたり揃ってめずらしいね~?」
と言いながら玄関を上がるわたしに、
 「おお、マキか? 
 ご飯まだだったら一緒に食うか? 

 オマエの分もあるぞ」
とのナカバヤシさんの声が、キッチンの方から聞こえてくる。
 わたしは玄関から即効でキッチンに繋がるリビングへと向かい、その扉を開けるなり、
 「フーッ」
と深いため息をつきながら、倒れこむようにしてソファに座った。
 「マキさん、今日はトマトとエリンギの炊き込みご飯に、茄子蓮根炒めと冷や奴です」
とトオルがそれらをリビングのテーブルに並べながら、まさに絶妙なタイミングじゃないですか! とでも言いたげにそう言った。
 「凄~い! 

 完璧!!」
と感動するわたし。
 「しかしまあ、本当にいいタイミングで帰って来るよなあ、オマエも」
 「嬉し~! 
 じゃあビールでも開けるね」
と言ってわたしは、冷蔵庫より買い溜めしてあったラガーの500ml缶を取り出すと、そのプルトップの蓋をプシュと開け、素早い動作でグラス3個をテーブルに用意しそれらにビールを注ぐ込む。
 「は~い。

 じゃあ、かんぱ~い!」
と言ってナカバヤシさんとトオルも一時支度の準備から手を休め、同時に乾杯のグラスを持ち上げる。


 「ねえ、ナカバヤシさん? 
 今日ホンジョウさんに会ったんだけどさあ」
 「へえ。

 それで? アイツとなんか用でもあったのか?」
 「えっ? 
 いやまあ、ほら・・・、例のヒカルさんのことでさあ、あの人、なんか知ってるかと思ってね。
 でもまあ結局、これといって特になんにもわかんなかったんだけどね」
 「ふ~ん。
 って、でもアイツ、今年になってヒカルちゃんのこと、何か言ってたかなあ?
 彼女のカウンセリングの方にも、多分行ってなかったんじゃないか?」
 「うん。

 ああ、でも今年になって確か1回だけ行ったって・・・、言ってた。
 って言うかナカバヤシさん、毎日ホンジョウさんと会ってるんでしょ? 

 仕事で」
 「ええ? 
 ああ、仕事ではね。
 でも確か俺にはアイツ、今年になってからはヒカルちゃんの話なんて1度もしてなかったような」
 「そうなんだ」

 すると今度はナカバヤシさんがいきなり、
 「ところで今日はちょうど3人揃ったんで大事な発表をします」
とかしこまったような口調でそんなことを言い出す。
 「な、なんですか? 
 そんなまた唐突に」
と、どうやらトオルも意表を突かれたようなリアクションだ。
 「ああ。

 それがその・・・、実はな、このシェアハウスに住んでもうすぐ1年」
 「何? 
 ま、まさか解散? 

 なんて言わないよね?」
と一瞬ビビってそう訊き返すわたしに、
 「なんで解散なんだよ?」
と眉をしかめるナカバヤシさん。
 「そうですよ。
 いきなりそれはないですよねえ? ナカバヤシさん?」
とトオル。
 「ああ。

 まあそうじゃなくてだなあ」
と言ってナカバヤシさんが言い出したのはなんと、今後週末の何日か? 定かではないのだが、なんでもこのシェアハウスのリビングを一般に解放し、それでここをバーとして営業を始める、そしてその運営にあたっては、わたしとトオルにも是非手伝ってほしい、以上・・・、なんて唐突もいいところの内容だった。



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