「ええ、なんかそうしたいって、ぼくが勝手にそう思ったもので」
「ええ、嘘?
ど、どうしよう・・・、でもそれじゃあ、なんか悪いって言うか。
で、でも。
あっ?
ああ、そ、そうだ。
テルヤマさんって今月20日の十三夜の夜って空いてませんか?」
「20日? ですか?
ええと・・・、ええ、多分。
水曜日ですよね?」
「ええ、確か」
「・・・」
「ああ、あの、実はその日わたしの住んでるシェアハウスのリビングで、今度オープンするバーのオープニングパーティーがあるんで、よかったらいらっしゃれないかあと思って。
あっ、ああ、なんか家をね、不定期のバーにしようなんてルームメイトと盛り上がっちゃって。
ああ、も、もちろんそこでの会費は全部わたし持ちで!」
「へえ、ホームバーですか?
なんか楽しそうですね?
多分空いてると思うんで・・・、じゃあ、喜んでお伺いいたします」
「ぜ、是非」
といきなりの急展開にわたしはもうどう対応していいのやら、地に足がついていない感じで。
と言うか、以前よりジャニオタのアラフォー女子たちとはちょっと距離を置いていたわたしだったが、今はその心境が痛いほどわかる? って言うか”年下のイケメン”などと言う領域についにこのわたしも踏み込んだってこと?
う〜ん、でもそ、それにしてもちょっと・・・、これはかなりマジっぽいかもなあ。
なんてなんとか冷静に自己分析出来る状況にまでは回復している模様。
それからテルヤマは何かの用事があるとかで
「ちょっと今、急いでまして」
なんてわたしの前から
「じゃあ」
とすぐに姿を消してしまったのだが、わたしは彼が去った後もしばらくそこで口を空いたまま何も考えられずただボーッとパソコンの前に座っていた。
例によってここに来てから小説の方はほんの数行も進んでいない。
これ、こ、恋ってヤツだよね・・・、間違いなく。
なんてわたしはその日理由もなくついニヤニヤしている自分に気づき、何度も挙動不審者のようにキョロキョロとまわりを見渡す羽目となる。
シェアハウスのリビングでもナカバヤシさんに、
「オマエ、今日なんか変だぞ?」
といきなり指摘され、焦って我に帰ったりもしていた。
その日のテルヤマとの予想外の急接近に、いずれにせよなんらかの形で自分からアプローチしようとは思っていたわたしとしても、まさかいきなり彼の方から手作りのプレゼントをもらい受ける展開になるとは夢にも思っておらず・・・。
って、やっぱ神様って本当にいるんだよなあ。
なんてわたしはそもそも当初予定していた「ヒカルさん探し」などと言う彼へのアプローチの目的は、その時点でほぼ完全に忘れかけていた。
そしてその日の夕方だった・・・、そんな有頂天に舞い上がっていたわたし宛にホンジョウさんがいきなり電話をかけて来るなり、
「マキ?
俺、もう最悪だよ。
オマエの情報・・・、どうもガセだったみたいだ」
なんて地の底から響くようなダークサイドなトーンの口調でそう言った。
「ええ?
いったいなんのこと?」
と言ったわたしにホンジョウさんは、自分の母に会って聴いたというヒカルさんと彼との関係にまつわる家庭内の怨恨話を一方的にマシンガンのようにしゃべり続けると、もう完全に救いようがない・・・、なんて余韻をその場に残したまま一方的に電話を切った。
その意外とも言える内容にはもちろんこのわたしも一瞬驚きを隠せなかったわけなのだが、正直わたしはその時点でテルヤマとの恋バナ展開で頭がいっぱいになっており、そんなホンジョウさんのマイナスの波動はなんの影響力もなく、いとも簡単にわたしの目の前を素通りした。
そりゃあもちろん突っ込んであげられなかったことは申し訳なかった、なんて後からはちょっと思ったものの、はっきり言ってわたしは、その時点における最高なハッピー気分を(どうでもいい?)他人事で邪魔されたくはなかった。
ああもう、どうしよう!?
なんかもう、小説なんかどうでもよくなって来た~。
いぇ~い、ざまあみろ~、ハマグチのヤツ!
オマエなんかもうどうでもええわい!
ってどうしちゃったの、わたし? と頭では思いつつ、口からは鼻歌が漏れ、足元はスキップするダンサーのように軽い。
その夜わたしはひとり松田聖子の「青いサンゴ礁」の「わた~し~のこ~いは~」を口ずさみながら上機嫌で顔を洗い歯を磨くと、興奮冷めやらぬ火照り切った満面の笑顔で眠りの床に付いた。
するとアッと言う間に(極楽気分の中)睡魔に襲われ、口惜しくもそんな極上の時間は一瞬にして記憶の彼方へと消えて去って行くのだった。
是非とも続けてプチッっと!! よろしくお願い申し上げます!
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