そのブレス、デザインはシンプルだが確かに何か目に見えないパワーがそこに秘められているかのような、何か特殊な微粒子のオーラをまとっている? そんな(期待以上の)魅力的かつ神秘的な代物だった。
数種の月の模様のようなものがその表面に彫り込まれており、それらの隙間ごとに薄紫色の石が埋め込まれている。
「この石はラベンダーアメジストです」
とテルヤマがわたしの耳元で優しくそうささやく。
「凄い。
なんか、ずっと見つめていたくなっちゃう。
ほ、本当にいいんですか? これ、わたしに?」
「ええ」
「あの、これ・・・、名前とか?
ないんですか?」
と思わずそう尋ねたわたしに、
「月の祈り・・・」
とテルヤマはそうポツリとつぶやく。
「月の祈り?」
「えっ?
ええ、いや・・・、今ワカバヤシさんにそう訊かれてふと頭に思い浮かんだ言葉なんですけど」
「うん、でもなんか・・・、確かにそんな感じ」
「ああ、なんか、気に入ってもらえたみたいで・・・、よかったです」
そう言ってテルヤマはまるでラグジュアリーショップの店員のような繊細な手つきでそのブレスをわたしの左手首に着けてくれた。
「ありがとう」
そしてその後、わたしとテルヤマは窓際のカップルスペースのようなテーブル席を陣取ると、そのまま他愛もない冗談などを言い合っては、しばらくの間まったりとそこで語り合っていた。
それからはもう、はっきり言ってわたしは他のテーブルのことなどどうでもよくなっており、主催者側にいたことすらもほぼ完全に忘れている始末。
それから小一時間ほどが経っていただろうか?
ああ、さすがにちょっとひんしゅくだったかもなぁ?
なんてわたしはやっとまわりの閑散とした状況に気づき、そのままリビング中央に目をやる。
既に客の大半は退散しており、残っているのはトオルとナカバヤシさん以外なんとホンジョウさんとあのミユキだけ? なんてことになっている。
そしてその夜のミユキのターゲットは、その隣で既に潰れかけているホンジョウさん?
そんな気配をわたしは素早くもその一瞬の空気で感じ取る。
「オマエら、わかるか?
俺がやっとの思いで告白しようと思っていたヒカルが俺の妹で、おまけにソイツは失踪中で何処にいるのかもわからない。
それって何?
いったいどういうこと!?」
と例の話でホンジョウさんは荒れている模様。
「しかしまあ、それも本当、凄い話だよね~」
と、どう見てもいつもリアクションがテキトーなナカバヤシさん。
「ねえ?
もうその人のことなんかいい加減忘れたら?」
ってまたミユキ、オマエ。
テメエはわかり易過ぎだろうが・・・、なんてわたしはまた自分の天敵の姑息な発言に心乱しかけ、思わず顔が歪みそうになるところを、ああ、まずいまずい〜と反省し、テルヤマの方へと視線を戻す・・・と、あれ?
と彼もどうやらあちら側の会話に何か興味を示している模様。
そこでわたしはテルヤマに、
「あの人ホンジョウさん、ほらフィオレンテで一緒にいた」
と言うとテルヤマも
「ああ、あの時の」
としっかりそれは憶えている様子。
「そう、彼の彼女っていうか・・・、まあその手前みたいな感じだったヒカルさんって彼のカウンセラーだったオンナの人がいてね。
その彼女・・・、実はちょっと前に」
「えっ?」
と言った時のテルヤマの表情にわたしは何かひっかかるものを感じ・・・、そう言えばあの日軽井沢でこのオトコを見かけたんだっけ・・・、なんていきなりその瞬間そのことを思い出し、
「テルヤマさん?
そのヒカルさんのことなんだけど・・・、まさか知り合いってわけじゃあ?」
と唐突にそう尋ねるわたしに、
「えっ?
ぼ、ぼくが?
そ、それは・・・、な、なんでまた?」
と言って彼は微妙にわたしから視線を外しつつそうリアクションする。
そしてその瞬間、わたしはテルヤマがヒカルさんの失踪にやはりなんらかの形で関係を持っている・・・、そう直感的に確信するのだった。
是非とも続けてプチッっと!! よろしくお願い申し上げます!
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