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法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

役に立つ裁判例の紹介、法律の本の書評です。弁護士経験32年。第二東京弁護士会所属21770

第2章 短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律

 

平成30年改正前の法律の題名は、

短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律

 

パートタイム・有期雇用労働法

パートタイム労働者・有期雇用労働者では同一企業内で、正社員と非正規社員間の基本給や賞与などあらゆる待遇について不合理な待遇差を設けることが禁止されました。

もし裁判となった場合、判断基準となるのが整備された以下の法律になります。

 

均衡待遇規定    不合理な待遇差を禁止しており、「職務内容」「職務内容・配置の変更の範囲」「そのほかの事情」などの違いに応じた範囲内で待遇を決定する必要があります。

均等待遇規定    差別的取り扱いを禁止しており、「職務内容」「職務内容・配置の変更の範囲」が同じ場合待遇について同じ取り扱いをすることが必要となると定められています。

そして均等・均衡待遇規定の解釈の明確化のため、ガイドラインの策定根拠の規定も行われています。

 

雇用形態に関わらない公正な待遇の確保

労働者派遣法の改正、パートタイム・有期雇用労働法(短期時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)の改正などによって、雇用形態に関わらない公正な待遇の確保、が定められました。

 

これは、いわゆる「同一労働・同一賃金」と言われるものです。

正規雇用労働者と非正規雇用労働者(短時間労働者、有期雇用労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指すものとなっています。

 

「同一労働・同一賃金」とは

①正規雇用労働者と、非正規雇用労働者の職務内容、職務内容・配置の変更範囲が同じ場合の差別的取扱いの禁止(パートタイム・有期雇用労働法9条)=均等待遇

②正規雇用労働者と、非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差を禁止

(パートタイム・有期雇用労働法8条など)=均衡待遇

 

均等待遇とは、職務内容、職務内容・配置の変更範囲が同じ場合は、差別的取り扱いは禁止するというものです。

 

均衡待遇とは、職務内容、職務内容・配置の変更範囲が異なる場合でも、不合理な待遇差は禁止するというものです。

 

具体的な改正の内容は、以下のとおりです。

・不合理な待遇差を解消するための規定の整備

・労働者に対する待遇に関する説明義務の強化

・行政による履行確保措置及び裁判外紛争解決手続(行政ADR)の整備

 

第2章 改正の概要

1.       法律の趣旨

新型コロナウイルスの感染拡大を契機に、デジタル化、リモート・非接触など経済活動のあり方が大きく変化。このような変化に対応すべく、

(1)新型コロナウイルスの感染拡大に対応したデジタル化等の手続の整備、(2)デジタル化等の進展に伴う企業行動の変化に対応した

権利保護の見直し、(3)訴訟手続や料金体系の見直し等の知的財産制度の基盤の強化、を柱に特許法等※の改正を行う。 ※特許法(特)、実用新案法(実)、意匠法(意)、商標法(商)、工業所有権に関する手続等の特例に関する法律(工)、特許協力条約に基づく国際出願等に関する法律(国)、弁理士法(弁)

2.法律の概要

(1)新型コロナウイルスの感染拡大に対応したデジタル化等の手続の整備

① 審判口頭審理のオンライン化【特・実・意・商】

・ 特許の無効審判等は、従来、審判廷に出頭して対面で口頭審理。これを、審判長の判断でウェブ会議システムでも可能とする。

・ 特許料等の支払方法について、口座振込等による予納(印紙予納の廃止)や、窓口でのクレジットカード支払等を可能とする。

② 印紙予納の廃止・料金支払方法の拡充【工】

・ 手続期間の徒過により特許権等が消滅した場合に、権利を回復できる要件を緩和する。

③ 意匠・商標国際出願手続のデジタル化【意・商】

・ 意匠・商標の国際出願の登録査定の通知等について、(感染症拡大時に停止のおそれのある)郵送に代えて、国際機関を経由した電子送付を可能とするなど、手続を簡素化。

④ 災害等の理由による手続期間徒過後の割増料金免除【特・実・意・商】

・ 感染症拡大や災害等の理由によって特許料の納付期間を徒過した場合に、相応の期間内において割増料金の納付を免除。

(2)デジタル化等の進展に伴う企業行動の変化に対応した権利保護の見直し

① 海外からの模倣品流入への規制強化【意・商】

・ 増大する個人使用目的の模倣品輸入に対応し、海外事業者が模倣品を郵送等により国内に持ち込む行為を商標権等の侵害として位置付ける。

新たに商標権・意匠権侵害と位置づけようとする行為 現行法上、商標権・意匠権侵害となる行為

② 訂正審判等における通常実施権者の承諾要件見直し【特・実・意】

・ デジタル技術の進展等に伴う特許権のライセンス態様の複雑化に対応し、特許権の訂正等における通常実施権者(ライセンスを受けた者)の承諾を不要化。

意見

③特許権等が手続期間の徒過により消滅した場合に、権利を回復できる要件を緩和する。【特・実・意・商】

(3)知的財産制度の基盤強化

① 特許権侵害訴訟における第三者意見募集制度の導入【特・実・弁】

・ 複雑化した特許権侵害訴訟において、裁判所が広く第三者から意見を募集できる制度を導入。

・ 社会的影響の大きい事件において、裁判所が幅広い意見を踏まえて判断できるよう当事者の証拠収集を補完。

・ 弁理士が「第三者意見募集制度」における相談に応じることを可能とする。

② 特許料等の料金体系見直し【特・実・意・商・国】

・審査負担増大や手続のデジタル化に対応し収支バランスの確保を図るべく、特許料等の料金体系を見直す。【特・実・意・商・国】

③ 弁理士制度の見直し【弁】

・特許権侵害訴訟において、裁判所が広く第三者から意見を募集できる制度を導入し、弁理士が当該制度における相談に応じることを可能とする。【特・実・弁】

・弁理士制度に関して、農林水産関連の知的財産権(植物の新品種・地理的表示)に関する相談等の業務について、弁理士を名乗って行うことができる業務として追加するとともに、法人名称の変更や一人法人制度の導入といった措置を講ずる。【弁】

・ 法人名称の変更

(「弁理士法人」への変更)

・ 一人法人制度の導入

 

第1章 働き方改革関連法

働き方改革関連法、正式名称「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」または働き方改革一括法は、以下の8本の労働法の改正を行うための法律の通称である。

労働基準法

労働安全衛生法

労働時間等の設定の改善に関する特別措置法

じん肺法

雇用対策法

労働契約法

短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律

労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律

2018年(平成30年)4月6日に第196回国会に提出され、6月29日成立しました。同年7月6日公布、翌2019年(平成31年)4月1日順次施行。

 

1 西宮市営住宅条例(平成9年西宮市条例第44号)46条1項柱書き及び同項6号の規定のうち,入居者が暴力団員であることが判明した場合に市営住宅の明渡しを請求することができる旨を定める部分と憲法14条1項

2 西宮市営住宅条例(平成9年西宮市条例第44号)46条1項柱書き及び同項6号の規定のうち,入居者が暴力団員であることが判明した場合に市営住宅の明渡しを請求することができる旨を定める部分と憲法22条1項

 

最高裁判所第2小法廷判決/平成25年(オ)第1655号

平成27年3月27日

建物明渡等請求事件

【判示事項】    1 西宮市営住宅条例(平成9年西宮市条例第44号)46条1項柱書き及び同項6号の規定のうち,入居者が暴力団員であることが判明した場合に市営住宅の明渡しを請求することができる旨を定める部分と憲法14条1項

2 西宮市営住宅条例(平成9年西宮市条例第44号)46条1項柱書き及び同項6号の規定のうち,入居者が暴力団員であることが判明した場合に市営住宅の明渡しを請求することができる旨を定める部分と憲法22条1項

【判決要旨】    1 西宮市営住宅条例(平成9年西宮市条例第44号)46条1項柱書き及び同項6号の規定のうち,入居者が暴力団員であることが判明した場合に市営住宅の明渡しを請求することができる旨を定める部分は,憲法14条1項に違反しない。

2 西宮市営住宅条例(平成9年西宮市条例第44号)46条1項柱書き及び同項6号の規定のうち,入居者が暴力団員であることが判明した場合に市営住宅の明渡しを請求することができる旨を定める部分は,憲法22条1項に違反しない。

【参照条文】    西宮市営住宅条例(平9西宮市条例44号)46-1

          暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律

          憲法14-1

          憲法22-1

【掲載誌】     最高裁判所民事判例集69巻2号419頁

 

憲法

第十四条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

② 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。

③ 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。

 

第二十二条 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

② 何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。

 

暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律

(定義)

第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

一 暴力的不法行為等 別表に掲げる罪のうち国家公安委員会規則で定めるものに当たる違法な行為をいう。

二 暴力団 その団体の構成員(その団体の構成団体の構成員を含む。)が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれがある団体をいう。

三 指定暴力団 次条の規定により指定された暴力団をいう。

四 指定暴力団連合 第四条の規定により指定された暴力団をいう。

五 指定暴力団等 指定暴力団又は指定暴力団連合をいう。

六 暴力団員 暴力団の構成員をいう。

七 暴力的要求行為 第九条の規定に違反する行為をいう。

八 準暴力的要求行為 一の指定暴力団等の暴力団員以外の者が当該指定暴力団等又はその第九条に規定する系列上位指定暴力団等の威力を示して同条各号に掲げる行為をすることをいう。

 

覚せい剤取締法にいう「覚せい剤の製造」に含まれるべき場合

 

最高裁判所第1小法廷判決/昭和30年(あ)第2166号

昭和30年12月1日

覚せい剤取締法違反

【判示事項】    覚せい剤取締法にいう「覚せい剤の製造」に含まれるべき場合。

【判決要旨】    覚せい剤取締法にいわゆる覚せい剤の製造のうちには、化学的変化を伴わないで調合又は混合してこれを製剤する場合も含む。

【参照条文】    覚せい剤取締法15

          覚せい剤取締法41-1

【掲載誌】     最高裁判所裁判集刑事111号47頁

 

覚せい剤取締法

(製造の禁止及び制限)

第十五条 覚醒剤製造業者がその業務の目的のために製造する場合及び覚醒剤研究者が厚生労働大臣の許可を受けて研究のために製造する場合のほかは、何人も、覚醒剤を製造してはならない。

2 覚醒剤研究者は、前項の規定により覚醒剤の製造の許可を受けようとするときは、厚生労働省令の定めるところにより、その研究所の所在地の都道府県知事を経て厚生労働大臣に申請書を出さなければならない。

3 厚生労働大臣は、毎年一月から三月まで、四月から六月まで、七月から九月まで及び十月から十二月までの期間ごとに、各覚醒剤製造業者の製造数量を定めることができる。

4 覚醒剤製造業者は、前項の規定により厚生労働大臣が定めた数量を超えて、覚醒剤を製造してはならない。

 

(刑罰)

第四十一条 覚醒剤を、みだりに、本邦若しくは外国に輸入し、本邦若しくは外国から輸出し、又は製造した者(第四十一条の五第一項第二号に該当する者を除く。)は、一年以上の有期懲役に処する。

2 営利の目的で前項の罪を犯した者は、無期若しくは三年以上の懲役に処し、又は情状により無期若しくは三年以上の懲役及び一千万円以下の罰金に処する。

3 前二項の未遂罪は、罰する。

 

第1章 はじめに

令和3年3月2日に閣議決定された、「特許法等の一部を改正する法律案」は令和3年5月14日に可決・成立し、5月21日に法律第42号として公布されております。

特許法等の一部を改正する法律(令和3年5月21日法律第42号)

 

運送業を営む控訴人が、トラック乗務員の派遣先に対する過年度分の外注費を損金額に算入した確定申告及び消費税額につき、税務署長が更正処分をしたことを違法として処分の取消しを求めたところ、これを棄却した原審を不服として控訴した事案

 

 

              法人税更正処分等取消請求控訴事件

【事件番号】      東京高等裁判所判決/平成27年(行コ)第344号

【判決日付】      平成28年3月23日

【判示事項】      運送業を営む控訴人が、トラック乗務員の派遣先に対する過年度分の外注費を損金額に算入した確定申告及び消費税額につき、税務署長が更正処分をしたことを違法として処分の取消しを求めたところ、これを棄却した原審を不服として控訴した事案。

控訴審は、前期損益修正の処理を後の事業年度で計上することを認めると、費用や損失を複の事業年度において計上できることになり、公平な所得計算を行うべき法上の要請に反するとし、また、修正申告や更正の制度により、過去の事業年度に遡って修正することが予定されているから、過年度の計上漏れを修正する前期損益修正を公正処理基準に該当すると認めることはできないと原判決を訂正の上、請求棄却の原判決は相当として控訴を棄却した事例

【掲載誌】        LLI/DB 判例秘書登載

 

ビジネス法務2024年8月号【特集1】法務実務が「動いた」判例

 

中央経済社

定価(紙 版):1,800円(税込)

発行日:2024/06/21

 

【特集1】

法務実務が「動いた」判例

 

日々,全世界の裁判所で数多くの判例が生まれています。それらのすべてを追いかけることは時間もかかり,難しいことと思われる一方,国内外で実務上「これだけは見逃せない」ものもいくつも出されています。

そこで,今月号では,百戦錬磨の執筆陣が「実務に大きな影響を及ぼし,また,今日にも影響を及ぼし続けている判例」,または,「将来において大きな影響を及ぼしうる判例」を選りすぐりました。あらためて,判例が実務に及ぼす影響について再確認してみましょう。

 

(執筆者)

三笘 裕/松本真輔/菊地 伸/太子堂厚子/早川 学/髙山崇彦/島田邦雄/井村 旭/若林弘樹/菊地 諒/中島 茂/結城大輔/武井一浩

 

コメント

ほかの判例との関連付けが意識されている。

 

医科大学の主任教授の講師に対する研究の価値及び教育活動を一切否定するような発言,大学からの退職を迫られているように受け取られる発言,討論会から排除する発言は,指導としての適切さを欠き,違法であるとして,主任教授の不法行為責任が認められた事例

 

東京地方裁判所判決平成19年5月30日

損害賠償請求事件

医科大学教授(損害賠償)事件

【判示事項】 医科大学の主任教授の講師に対する研究の価値及び教育活動を一切否定するような発言,大学からの退職を迫られているように受け取られる発言,討論会から排除する発言は,指導としての適切さを欠き,違法であるとして,主任教授の不法行為責任が認められた事例

【参照条文】 民法709

【掲載誌】  判例タイムズ1268号247頁

 

道法

(不法行為による損害賠償)

第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

(財産以外の損害の賠償)

第七百十条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。

 

       主   文

 1 被告は,原告に対し,5万5000円及びこれに対する平成15年6月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

  2 原告のその余の請求を棄却する。

1 Xは,平成15年当時,Z医科大学の講師であり,解剖学教室に所属していたが,同年5月22日の月例教室会議において,主任教授であるYから,Xの研究の価値及び教育活動を一切否定するような発言をされ,また,同年6月19日の教室会議において,Xを討論会から排除する旨の発言をされた。

  そこで,Xは,Yの上記発言等は,Xに対する「指導」に名を借りた悪質なアカデミック・ハラスメント行為であって不法行為を構成するとし,これによりXは,重大な精神的苦痛を被ったと主張し,Yに対して,慰謝料500万円と弁護士費用50万円の賠償を求めた。

  これに対し,Yは,Xに対する言動は,解剖学教室の主任教授であるYが,10年余りも形態学的研究を怠ってきたXに対し,同教室の教員として当然行うべき職務である形態学に関する実験及び研究を行うよう直接注意,指導したものであって,主任教授の職務命令として社会的相当性を有する行為であり,何ら違法性を有するものではない,などと主張した。

  2 本判決は,大学の主任教授の講師に対する指導であっても,指導される側の人格権を不当に侵害してはならず,その指導が社会通念上の相当性を逸脱した場合には違法となり,不法行為を構成するとした上,Yは,Xに対し,Xの研究の価値及び教育活動を一切否定する発言をしたほか,大学からの退職を迫られるように受け取られる発言をし,また,月例教室会議に代わる討論会からXを排除する旨の発言をしたのであるから,主任教授の指導としての適切さを欠き,Xの人格権を侵害しているとして,Yの不法行為責任を肯認した。

  しかし,本判決は,Yの上記発言等はXに対する指導の趣旨であったこと,XはYの発言に対し適宜反論していたこと,XがYに対して反抗的な態度をとったため,Yの発言が過激化したこと,XとYとの間にはこれまでトラブルといえるようなものはなかったこと等を総合考慮すると慰謝料の額は5万円,弁護士費用は5000円とするのが相当であるとし,Yに対して5万5000円の支払を求める限度で,Xの本訴請求を認容した。

  3 近時,大学等においては,アカデミック・ハラスメント,すなわち,教授等の権威的または優越的地位にある者が,その優位な立場や権限を利用し,または逸脱して,その指導等を受ける者の研究意欲及び研究環境を阻害する結果となる,教育上不適切な言動,指導または待遇が重大な教育問題となっているところ,大学や研究機関では,アカデミック・ハラスメントを防止するための様々な対策が講じられているが,いまなお大学や研究機関という閉鎖的空間を隠れ蓑として陰湿なアカデミック・ハラスメントが行われているといわれており,本件もその1事例である。

 

証券会社の社会福祉法人に対する為替リンク債(期限前償還条項付き)の販売において、同法人の理事会で購入の承認決議を経ていないことについて証券会社の確認方法に過失があったとして、同法人の証券会社に対する購入代金の不当利得返還請求が一部認容された事例

 

東京高判平成28年8月31日 金融・商事判例1502号16頁 判例時報2315号23頁 金融法務事情2051号62頁

不当利得返還請求控訴事件

【判示事項】 証券会社の社会福祉法人に対する為替リンク債(期限前償還条項付き)の販売において、同法人の理事会で購入の承認決議を経ていないことについて証券会社の確認方法に過失があったとして、同法人の証券会社に対する購入代金の不当利得返還請求が一部認容された事例

【判決要旨】 社会福祉法人の財務担当理事が、定款上必要な理事会の決議を経ることなく締結した総額11億円の仕組債の購入に係る契約につき、相手方たる金融機関において、一定の事務処理権限を有する上記理事に上記契約を締結する権限があったと信じたことは相応の理由があったというべきであるが、上記商品の価額に照らし、上記理事が有する事務処理権限によって上記契約を締結することができるとは到底考えられず、理事会の承認について客観的資料が存在しないなど判示の事実関係の下においては、金融機関においても、そうした事実を知りまたは知り得べきであったから、上記契約について、民法110条の規定を類推適用して、社会福祉法人に効果が帰属するとはいえない。

【参照条文】 民法93 、110、703、704

       社会福祉法38

       一般社団法人及び一般財団法人に関する法律77(一般社団法人の代表)

 

民法

(心裡り留保)

第九十三条 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。

2 前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。

 

(権限外の行為の表見代理)

第百十条 前条第一項本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。

 

(不当利得の返還義務)

第七百三条 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。

(悪意の受益者の返還義務等)

第七百四条 悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。

 

社会福祉法

(社会福祉法人と評議員等との関係)

第三十八条 社会福祉法人と評議員、役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う。

 

一般社団法人及び一般財団法人に関する法律

(一般社団法人の代表)

第七十七条 理事は、一般社団法人を代表する。ただし、他に代表理事その他一般社団法人を代表する者を定めた場合は、この限りでない。

2 前項本文の理事が二人以上ある場合には、理事は、各自、一般社団法人を代表する。

3 一般社団法人(理事会設置一般社団法人を除く。)は、定款、定款の定めに基づく理事の互選又は社員総会の決議によって、理事の中から代表理事を定めることができる。

4 代表理事は、一般社団法人の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。

5 前項の権限に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。

 

1 事案の概要

  (1) 事案の概略

  本件は、控訴人(原告。社会福祉法人)が、控訴人の理事または会長であった者が被控訴人(被告。証券会社)の販売する金融商品(仕組債)を控訴人のために購入した3件の取引は、いずれも控訴人の理事会決議を経ることなく行われたなどと主張して、被控訴人に対し、不当利得返還請求権(民法704条)に基づき、被控訴人に交付した代金合計11億円および利息の支払いを求める事案である。