証券会社の社会福祉法人に対する為替リンク債(期限前償還条項付き)の販売において、同法人の理事会で購入の承認決議を経ていないことについて証券会社の確認方法に過失があったとして、同法人の証券会社に対する購入代金の不当利得返還請求が一部認容された事例
東京高判平成28年8月31日 金融・商事判例1502号16頁 判例時報2315号23頁 金融法務事情2051号62頁
不当利得返還請求控訴事件
【判示事項】 証券会社の社会福祉法人に対する為替リンク債(期限前償還条項付き)の販売において、同法人の理事会で購入の承認決議を経ていないことについて証券会社の確認方法に過失があったとして、同法人の証券会社に対する購入代金の不当利得返還請求が一部認容された事例
【判決要旨】 社会福祉法人の財務担当理事が、定款上必要な理事会の決議を経ることなく締結した総額11億円の仕組債の購入に係る契約につき、相手方たる金融機関において、一定の事務処理権限を有する上記理事に上記契約を締結する権限があったと信じたことは相応の理由があったというべきであるが、上記商品の価額に照らし、上記理事が有する事務処理権限によって上記契約を締結することができるとは到底考えられず、理事会の承認について客観的資料が存在しないなど判示の事実関係の下においては、金融機関においても、そうした事実を知りまたは知り得べきであったから、上記契約について、民法110条の規定を類推適用して、社会福祉法人に効果が帰属するとはいえない。
【参照条文】 民法93 、110、703、704
社会福祉法38
一般社団法人及び一般財団法人に関する法律77(一般社団法人の代表)
民法
(心裡り留保)
第九十三条 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。
2 前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
(権限外の行為の表見代理)
第百十条 前条第一項本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。
(不当利得の返還義務)
第七百三条 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
(悪意の受益者の返還義務等)
第七百四条 悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。
社会福祉法
(社会福祉法人と評議員等との関係)
第三十八条 社会福祉法人と評議員、役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う。
一般社団法人及び一般財団法人に関する法律
(一般社団法人の代表)
第七十七条 理事は、一般社団法人を代表する。ただし、他に代表理事その他一般社団法人を代表する者を定めた場合は、この限りでない。
2 前項本文の理事が二人以上ある場合には、理事は、各自、一般社団法人を代表する。
3 一般社団法人(理事会設置一般社団法人を除く。)は、定款、定款の定めに基づく理事の互選又は社員総会の決議によって、理事の中から代表理事を定めることができる。
4 代表理事は、一般社団法人の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。
5 前項の権限に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。
1 事案の概要
(1) 事案の概略
本件は、控訴人(原告。社会福祉法人)が、控訴人の理事または会長であった者が被控訴人(被告。証券会社)の販売する金融商品(仕組債)を控訴人のために購入した3件の取引は、いずれも控訴人の理事会決議を経ることなく行われたなどと主張して、被控訴人に対し、不当利得返還請求権(民法704条)に基づき、被控訴人に交付した代金合計11億円および利息の支払いを求める事案である。