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法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

役に立つ裁判例の紹介、法律の本の書評です。弁護士経験32年。第二東京弁護士会所属21770

事業者が消費税等の確定申告において課税期間中に行った課税仕入れに係る消費税額の全額を当該課税期間の課税標準額に対する消費税額から控除したことにつき国税通則法(平成28年改正前)65条4項にいう「正当な理由」があると認めることはできないとされた事例

 

 

消費税更正処分等取消請求事件

【事件番号】      最高裁判所第1小法廷判決/令和3年(行ヒ)第260号

【判決日付】      令和5年3月6日

【判示事項】      事業者が消費税等の確定申告において課税期間中に行った課税仕入れに係る消費税額の全額を当該課税期間の課税標準額に対する消費税額から控除したことにつき国税通則法(平成28年法律第15号による改正前のもの)65条4項にいう「正当な理由」があると認めることはできないとされた事例

【掲載誌】        LLI/DB 判例秘書登載

 

 

国税通則法

(過少申告加算税)

第六十五条 期限内申告書(還付請求申告書を含む。第三項において同じ。)が提出された場合(期限後申告書が提出された場合において、次条第一項ただし書又は第七項の規定の適用があるときを含む。)において、修正申告書の提出又は更正があつたときは、当該納税者に対し、その修正申告又は更正に基づき第三十五条第二項(期限後申告等による納付)の規定により納付すべき税額に百分の十の割合(修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないときは、百分の五の割合)を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する。

2 前項の規定に該当する場合(第五項の規定の適用がある場合を除く。)において、前項に規定する納付すべき税額(同項の修正申告又は更正前に当該修正申告又は更正に係る国税について修正申告書の提出又は更正があつたときは、その国税に係る累積増差税額を加算した金額)がその国税に係る期限内申告税額に相当する金額と五十万円とのいずれか多い金額を超えるときは、同項の過少申告加算税の額は、同項の規定にかかわらず、同項の規定により計算した金額に、その超える部分に相当する税額(同項に規定する納付すべき税額が当該超える部分に相当する税額に満たないときは、当該納付すべき税額)に百分の五の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする。

3 前項において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

一 累積増差税額 第一項の修正申告又は更正前にされたその国税についての修正申告書の提出又は更正に基づき第三十五条第二項の規定により納付すべき税額の合計額(当該国税について、当該納付すべき税額を減少させる更正又は更正に係る不服申立て若しくは訴えについての決定、裁決若しくは判決による原処分の異動があつたときはこれらにより減少した部分の税額に相当する金額を控除した金額とし、次項の規定の適用があつたときは同項の規定により控除すべきであつた金額を控除した金額とする。)

二 期限内申告税額 期限内申告書(次条第一項ただし書又は第七項の規定の適用がある場合には、期限後申告書を含む。次項第二号において同じ。)の提出に基づき第三十五条第一項又は第二項の規定により納付すべき税額(これらの申告書に係る国税について、次に掲げる金額があるときは当該金額を加算した金額とし、所得税、法人税、地方法人税、相続税又は消費税に係るこれらの申告書に記載された還付金の額に相当する税額があるときは当該税額を控除した金額とする。)

イ 所得税法第九十五条(外国税額控除)若しくは第百六十五条の六(非居住者に係る外国税額の控除)の規定による控除をされるべき金額、第一項の修正申告若しくは更正に係る同法第百二十条第一項第四号(確定所得申告)(同法第百六十六条(申告、納付及び還付)において準用する場合を含む。)に規定する源泉徴収税額に相当する金額、同法第百二十条第二項(同法第百六十六条において準用する場合を含む。)に規定する予納税額又は災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律(昭和二十二年法律第百七十五号)第二条(所得税の軽減又は免除)の規定により軽減若しくは免除を受けた所得税の額

ロ 法人税法第二条第三十八号(定義)に規定する中間納付額、同法第六十八条(所得税額の控除)(同法第百四十四条(外国法人に係る所得税額の控除)において準用する場合を含む。)、第六十九条(外国税額の控除)若しくは第百四十四条の二(外国法人に係る外国税額の控除)の規定による控除をされるべき金額又は同法第九十条(退職年金等積立金に係る中間申告による納付)(同法第百四十五条の五(申告及び納付)において準用する場合を含む。)の規定により納付すべき法人税の額(その額につき修正申告書の提出又は更正があつた場合には、その申告又は更正後の法人税の額)

ハ 地方法人税法第二条第十八号(定義)に規定する中間納付額、同法第十二条(外国税額の控除)の規定による控除をされるべき金額又は同法第二十条第二項(中間申告による納付)の規定により納付すべき地方法人税の額(その額につき修正申告書の提出又は更正があつた場合には、その申告又は更正後の地方法人税の額)

ニ 相続税法第二十条の二(在外財産に対する相続税額の控除)、第二十一条の八(在外財産に対する贈与税額の控除)、第二十一条の十五第三項及び第二十一条の十六第四項(相続時精算課税に係る相続税額)の規定による控除をされるべき金額

ホ 消費税法第二条第一項第二十号(定義)に規定する中間納付額

4 次の各号に掲げる場合には、第一項又は第二項に規定する納付すべき税額から当該各号に定める税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除して、これらの項の規定を適用する。

一 第一項又は第二項に規定する納付すべき税額の計算の基礎となつた事実のうちにその修正申告又は更正前の税額(還付金の額に相当する税額を含む。)の計算の基礎とされていなかつたことについて正当な理由があると認められるものがある場合 その正当な理由があると認められる事実に基づく税額

二 第一項の修正申告又は更正前に当該修正申告又は更正に係る国税について期限内申告書の提出により納付すべき税額を減少させる更正その他これに類するものとして政令で定める更正(更正の請求に基づく更正を除く。)があつた場合 当該期限内申告書に係る税額(還付金の額に相当する税額を含む。)に達するまでの税額

5 第一項の規定は、修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合において、その申告に係る国税についての調査に係る第七十四条の九第一項第四号及び第五号(納税義務者に対する調査の事前通知等)に掲げる事項その他政令で定める事項の通知(次条第六項において「調査通知」という。)がある前に行われたものであるときは、適用しない。

 

 

 

       主   文

 原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
 前項の部分につき被上告人の控訴を棄却する。
 控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。

       理   由

 上告代理人武笠圭志ほかの上告受理申立て理由について
 1 本件は、不動産の買取再販売等を行う株式会社である被上告人が、平成25年1月1日から同年12月31日まで、同26年1月1日から同年12月31日まで及び同27年1月1日から同年12月31日までの各課税期間(以下「本件各課税期間」という。)において、転売目的で、全部又は一部が住宅として賃貸されている建物の購入(以下「本件各課税仕入れ」という。)をし、これに係る消費税額の全額を当該課税期間の課税標準額に対する消費税額から控除して消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の確定申告(以下「本件各申告」という。)をするなどしたところ、日本橋税務署長から、その全額を控除することはできないとして更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)を受けるなどしたことから、上告人を相手に、本件各更正処分のうち申告額を超える部分及び本件各賦課決定処分の取消し等を求める事案である。
 2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
 (1) 消費税法(平成26年3月31日以前に行った課税仕入れについては同24年法律第68号2条による改正前のもの、同26年4月1日から同27年9月30日までに行った課税仕入れについては同年法律第9号による改正前のもの、同年10月1日以降にした課税仕入れについては同24年法律第68号3条による改正前のもの。以下同じ。)30条1項1号は、事業者が国内において行う課税仕入れについては、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額を控除する旨を規定する。同条2項1号は、当該課税期間における課税売上高が5億円を超える場合又は当該課税期間における課税売上割合が100分の95に満たない場合において、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れにつき、課税資産の譲渡等にのみ要するもの(以下「課税対応課税仕入れ」という。)、課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等(以下「その他の資産の譲渡等」という。)にのみ要するもの(以下「非課税対応課税仕入れ」という。)及び課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの(以下「共通対応課税仕入れ」という。)の区分(以下「用途区分」という。)が明らかにされているときは、控除する課税仕入れに係る消費税額(以下「控除対象仕入税額」という。)は、同条1項の規定にかかわらず、課税対応課税仕入れに係る消費税額に、共通対応課税仕入れに係る消費税額に課税売上割合を乗じて計算した金額を加算する方法(以下「個別対応方式」という。)により計算した金額とする旨を規定する。
 (2) 被上告人は、本件各課税期間において、事業として、転売目的で、全部又は一部が住宅として賃貸されている建物合計344物件(以下「本件各建物」という。)を購入した(本件各課税仕入れ)。
 被上告人は、本件各課税期間の消費税等について、個別対応方式により、本件各課税仕入れが課税対応課税仕入れに区分されることを前提に、本件各課税仕入れに係る消費税額の全額を控除対象仕入税額として本件各申告をした。これに対し、日本橋税務署長は、平成29年7月31日付けで、本件各課税仕入れは、課税資産の譲渡等である建物の転売のみならず、その他の資産の譲渡等である住宅の貸付けにも要するものであるから、共通対応課税仕入れに区分されるべきであり、控除対象仕入税額は、上記消費税額の全額ではなく、これに課税売上割合を乗じて計算した金額となるなどとして、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分をした。
 (3) 平成元年に作成された税務当局の部内資料等には、課税対応課税仕入れとは「直接、間接を問わず、また、実際に使用する時期の前後を問わず、その対価の額が最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等である」との記載や、土地の賃貸収入がある場合でも分譲用のマンションの建設計画に基づいて土地の所有権を取得していることが明らかであるときは取得の際に支払った仲介手数料は課税対応課税仕入れに該当する旨の記載があり、同年に発行された税務当局関係者が編者である公刊物等には、販売の目的で取得した土地の造成費は一時的に自社の資材置場として使用しているとしても非課税対応課税仕入れになる旨の記載がある。また、税務当局は、平成7年頃、関係機関からの照会に対し、仮に一時的に賃貸用に供されるとしても、継続して棚卸資産として処理し、将来的には全て分譲することとしている住宅の購入については、課税対応課税仕入れに該当するものとして取り扱って差し支えない旨の回答をし、同9年頃、関係機関からの照会に対し、賃借人が居住している状態でマンションを購入した場合でも、転売目的で購入したことが明らかであれば、課税対応課税仕入れに該当する旨の回答をした。
 他方、平成17年以降、税務当局の職員が執筆した公刊物等において、事業者の最終的な目的は中古マンションの転売であっても、転売までの間に非課税売上げである家賃が発生する場合には、中古マンションの購入は共通対応課税仕入れに該当する旨の見解が示され、また、本件各申告当時に公表されていた複数の国税不服審判所の裁決例及び下級審の裁判例において、本件各課税仕入れと同様の建物の取得の用途区分につき、上記と同様の見解に基づく税務当局側の主張が採用されていた。
 3 原審は、上記事実関係等の下において、本件各建物は転売まで住宅として賃貸されることが見込まれていたから、本件各課税仕入れは、個別対応方式による用途区分において共通対応課税仕入れに区分されるべきであり、本件各更正処分は適法であるなどとした上で、要旨次のとおり判断し、本件各賦課決定処分は違法であるとして、その取消請求を認容した。
 税務当局は、平成元年当時、主たる目的又は最終的な使用目的を考慮して用途区分を判定していたとも理解され得るところ、同9年頃、本件各課税仕入れと同様の課税仕入れを転売目的に着目して課税対応課税仕入れに区分したことがあり、その後、同17年頃までに上記の見解を変更したことがうかがわれるから、従来の見解を変更したことを納税者に周知するなど、これが定着するよう必要な措置を講ずるのが相当であったのに、そのような措置を講じているとは認められない。このような税務当局の対応や、これを根拠とする紛争が継続している事情の下では、本件各申告において、被上告人が、転売を目的とする本件各課税仕入れを課税対応課税仕入れに区分した上で控除対象仕入税額の計算をしたことには、国税通則法(平成28年法律第15号による改正前のもの。以下同じ。)65条4項にいう「正当な理由」がある。
 4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 (1) 国税通則法65条4項にいう「正当な理由があると認められる」場合とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、当初から適法に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに過少申告による納税義務違反の発生を防止して適正な申告納税の実現を図るという過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である(最高裁平成17年(行ヒ)第9号同18年4月20日第一小法廷判決・民集60巻4号1611頁参照)。
 (2) 前記事実関係等によれば、税務当局は、遅くとも平成17年以降、本件各課税仕入れと同様の課税仕入れを、当該建物が住宅として賃貸されること(その他の資産の譲渡等に対応すること)に着目して共通対応課税仕入れに区分すべきであるとの見解を採っており、そのことは、本件各申告当時、税務当局の職員が執筆した公刊物や、公表されている国税不服審判所の裁決例及び下級審の裁判例を通じて、一般の納税者も知り得たものということができる。他方、それ以前に税務当局が作成した部内資料や税務当局関係者が編者である公刊物及び平成7年頃の関係機関からの照会に対する回答には、事業者の目的に着目して用途区分を判定していたとも理解され得る記載等があるものの、これらは、本件各課税仕入れと同様の課税仕入れに直接言及するものでなく、その趣旨や前提となる事実関係が明らかでないなど、必ずしも上記見解と矛盾するものとはいえない。また、税務当局は、平成9年頃、関係機関からの照会に対し、本件各課税仕入れと同様の課税仕入れを課税対応課税仕入れに区分すべき旨の回答をしているが、このことから、直ちに、税務当局が一般的に当該課税仕入れを事業者の目的に着目して課税対応課税仕入れに区分する取扱いをしていたものということはできないし、上記回答が公表されるなどしたとの事情もうかがわれない。
 そうすると、平成17年以降、税務当局が、本件各課税仕入れと同様の課税仕入れを当該建物が住宅として賃貸されることに着目して共通対応課税仕入れに区分する取扱いを周知するなどの積極的な措置を講じていないとしても、事業者としては、上記取扱いがされる可能性を認識してしかるべきであったということができる。
 そして、上記取扱いは消費税法30条2項1号の文理等に照らして自然であるといえ、本件各申告当時、本件各課税仕入れと同様の課税仕入れを事業者の目的に着目して課税対応課税仕入れに区分すべきものとした裁判例等があったともうかがわれないこと等をも考慮すれば、被上告人が本件各申告において本件各課税仕入れを課税対応課税仕入れに区分して控除対象仕入税額の計算をしたことにつき、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になるということはできない。
 (3) 

以上によれば、本件各申告において、被上告人が本件各課税仕入れに係る消費税額の全額を当該課税期間の課税標準額に対する消費税額から控除したことにつき、国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があると認めることはできない。


 5 以上と異なる原審の前記判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして、以上に説示したところによれば、本件各賦課決定処分の取消請求は理由がなく、これを棄却した第1審判決は正当であるから、同部分につき被上告人の控訴を棄却すべきである。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 

骨髄移植推進財団事件・内部通報

 

 

              地位確認等請求事件

【事件番号】      東京地方裁判所判決/平成19年(ワ)第12413号

【判決日付】      平成21年6月12日

【判示事項】      財団法人の総務部長が,常務理事兼事務局長のパワハラ・セクハラ的言動を告発する報告書を理事長に提出したこと及び同報告書の内容を漏洩したことを理由とする懲戒解雇が無効とされた事例

【参照条文】      労働基準法(平19法128号改正前)18の2

【掲載誌】        判例タイムズ1319号94頁

             判例時報2066号135頁

             労働判例991号64頁

             労働経済判例速報2046号3頁

 

 

労働契約法

(解雇)

第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

 

 

平成十六年法律第百二十二号

公益通報者保護法

第二章 公益通報をしたことを理由とする公益通報者の解雇の無効及び不利益な取扱いの禁止等

(解雇の無効)

第三条 労働者である公益通報者が次の各号に掲げる場合においてそれぞれ当該各号に定める公益通報をしたことを理由として前条第一項第一号に定める事業者(当該労働者を自ら使用するものに限る。第九条において同じ。)が行った解雇は、無効とする。

一 通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する場合 当該役務提供先等に対する公益通報

二 通報対象事実が生じ、若しくはまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合又は通報対象事実が生じ、若しくはまさに生じようとしていると思料し、かつ、次に掲げる事項を記載した書面(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録を含む。次号ホにおいて同じ。)を提出する場合 当該通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関等に対する公益通報

イ 公益通報者の氏名又は名称及び住所又は居所

ロ 当該通報対象事実の内容

ハ 当該通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する理由

ニ 当該通報対象事実について法令に基づく措置その他適当な措置がとられるべきと思料する理由

三 通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり、かつ、次のいずれかに該当する場合 その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者に対する公益通報

イ 前二号に定める公益通報をすれば解雇その他不利益な取扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由がある場合

ロ 第一号に定める公益通報をすれば当該通報対象事実に係る証拠が隠滅され、偽造され、又は変造されるおそれがあると信ずるに足りる相当の理由がある場合

ハ 第一号に定める公益通報をすれば、役務提供先が、当該公益通報者について知り得た事項を、当該公益通報者を特定させるものであることを知りながら、正当な理由がなくて漏らすと信ずるに足りる相当の理由がある場合

ニ 役務提供先から前二号に定める公益通報をしないことを正当な理由がなくて要求された場合

ホ 書面により第一号に定める公益通報をした日から二十日を経過しても、当該通報対象事実について、当該役務提供先等から調査を行う旨の通知がない場合又は当該役務提供先等が正当な理由がなくて調査を行わない場合

ヘ 個人の生命若しくは身体に対する危害又は個人(事業を行う場合におけるものを除く。以下このヘにおいて同じ。)の財産に対する損害(回復することができない損害又は著しく多数の個人における多額の損害であって、通報対象事実を直接の原因とするものに限る。第六条第二号ロ及び第三号ロにおいて同じ。)が発生し、又は発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合

 

 

価格相当の商品の提供と詐欺罪の成立

 

 

詐欺被告事件

【事件番号】      最高裁判所第2小法廷決定/昭和34年(あ)第1156号

【判決日付】      昭和34年9月28日

【判示事項】      価格相当の商品の提供と詐欺罪の成立

【判決要旨】      真実を告知するときは相手方が金員を交付しないような場合において、商品の効能などにつき真実に反する誇大な事実を告知してその旨相手方を誤信させ、金員の交付を受けた場合は、たとえ価格相当の商品を提供したとしても、詐欺罪が成立する。

【参照条文】      刑法246

【掲載誌】        最高裁判所刑事判例集13巻11号2993頁

 

 

刑法

(詐欺)

第二百四十六条 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。

2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

 

 

ビジネス法務2023年7月号【特集2】スタートアップ法務の作法

 

定価:1,800円(税込)

中央経済社

発行日:2023/05/19

 

 

【特集2】

スタートアップ法務の作法

 スタートアップ企業では,限られたリソースで,幅広い法務課題に対しスピーディーに対応する必要があります。そのためには,特に重要な法務課題に集中して取り組まなければなりません。そこで,本特集では,スタートアップ企業にとって重要と思われる法務課題をピックアップして,米国シリコンバレーVCの法務部への出向経験のある弁護士やスタートアップ企業の顧問を務める弁護士が,それぞれのポイントを解説します。

 これらのポイントは,法務担当者がごく少人数しかいない上場企業・外資系企業の子会社や中小企業にとっても有用といえます。

 

【特別企画】

有事に備える!経済制裁条項の書き方と留意点

 

【新連載】

アメリカ民事訴訟実務の基礎と留意点

 

【創刊25周年記念特別座談会】

変化の時代の企業法務

――総括とグランドデザイン【上】

久保利英明/野村修也/芦原一郎

 

 

コメント

大変有益な記事でした。

なお、巻頭のリーガル・ヘッドラインも、有益です。

 

ビジネス法務2023年7月号【特集1】企業法務に関わる「民法」重要論点ベスト30

 

定価:1,800円(税込)

中央経済社

発行日:2023/05/19

 

 

【特集1】

企業法務に関わる

「民法」重要論点ベスト30

 私法の基本法である民法は,企業法務においても極めて重要な法律であり,その運用にあたっては,民法の各条文のほか重要な論点をあらかじめ把握しておくことが有益です。

 本特集は,弁護士法人梅ヶ枝中央法律事務所の弁護士が実務上重要と考える民法上の論点を30に絞り, 令和2年改正後の実務にも触れながら,Q&A形式による論点整理を試みるものです。

 4月から新入法務部員として奮闘されている方には「はじめの一歩」として,すでに実務で活躍されている方には「総復習」として,本特集をご活用いただけますと幸いです。

 

 

コメント

判例を引用している論文は、出典と根拠がわかり、良い論文です。

 

 

金銭債権担保のため不動産について代物弁済予約又は売買予約等の形式をとる契約が締結され所有権移転請求権保全等の仮登記がされた場合における右契約の性質及び内容

 

 

              所有権移転登記抹消登記手続等請求事件

【事件番号】      最高裁判所大法廷判決/昭和46年(オ)第503号

【判決日付】      昭和49年10月23日

【判示事項】      一、金銭債権担保のため不動産について代物弁済予約又は売買予約等の形式をとる契約が締結され所有権移転請求権保全等の仮登記がされた場合における右契約の性質及び内容

             ニ、いわゆる仮登記担保権者が清算義務を負う相手方

             三、いわゆる仮登記担保権と競売手続との関係

             四、いわゆる仮登記担保権の目的不動産に対し競売手続が開始されている場合における仮登記担保権者の仮登記の本登記手続又はその承諾請求の許否

【判決要旨】      一、債権者が、金銭債権の満足を確保するために、債権者との間にその所有の不動産につき、代物弁済の予約、停止条件付代物弁済契約又は売買予約により、債務の不履行があったときは債権者において右不動産の所有権を取得して自己の債権の満足をはかることができる旨を約し、かつ、停止条件付所有権移転又は所有権移転請求権保全の仮登記をしたときは、その権利(いわゆる仮登記担保権)の内容は、当事者が別段の意思を表示し、かつ、それが諸般の事情に照らして合理的と認められる特別の場合を除いては、債務者に履行遅滞があった場合に権利者が予約完結の意思を表示し、又は停止条件が成就したときは、権利者において目的不動産を処分する権能を取得し、これに基づいて、当該不動産を適正に評価された価額で確定的に自己の所有に帰せしめること又は相当の価格で第三者に売却等をすることによって、これを換価処分し、その評価額又は売却代金等から自己の債権の弁済を得ることにあり、右評価額又は売却代金等の額が権利者の債権額を超えるときは、権利者は右超過額を精算金として債務者に交付すべきものであると解するのが相当である。

             ニ、いわゆる仮登記担保権者が目的不動産の換価金につき清算義務を負うのは、債務者又は仮登記後に目的不動産の所有権を取得してその登記を経由した第三者に対してのみであって、仮登記後に目的不動産を差し押さえた債権者、これにつき抵当権の設定を受けた第三者等に対しては、仮登記担保権者は、直接の清算義務を負わない。

             三、いわゆる仮登記担保権者は、民訴法648条4号又は競売法27条4項4号に基づき、当該権利が仮登記担保権であること及び被担保権とその金額を明らかにして競売裁判所に届け出る方法により、目的不動産の競売手続に参加して配当を受けることができる。

             四、いわゆる仮登記担保権者がその権利の実行として訴訟により仮登記の本登記手続又はその承諾を請求する前に既に第三者の申立により目的不動産につき競売手続が開始されている場合には、右の請求は許されない。

【参照条文】      民法369

             民法482

             民法556

             不動産登記法

             不動産登記法7-2

             不動産登記法105

             不動産登記法146

             民事訴訟法648

             競売法27

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集28巻7号1473頁

 

 

民法

(抵当権の内容)

第三百六十九条 抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。

2 地上権及び永小作権も、抵当権の目的とすることができる。この場合においては、この章の規定を準用する。

 

(代物弁済)

第四百八十二条 弁済をすることができる者(以下「弁済者」という。)が、債権者との間で、債務者の負担した給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約をした場合において、その弁済者が当該他の給付をしたときは、その給付は、弁済と同一の効力を有する。

 

(売買の一方の予約)

第五百五十六条 売買の一方の予約は、相手方が売買を完結する意思を表示した時から、売買の効力を生ずる。

2 前項の意思表示について期間を定めなかったときは、予約者は、相手方に対し、相当の期間を定めて、その期間内に売買を完結するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、相手方がその期間内に確答をしないときは、売買の一方の予約は、その効力を失う。

 

 

不動産登記法

(仮登記)

第百五条 仮登記は、次に掲げる場合にすることができる。

一 第三条各号に掲げる権利について保存等があった場合において、当該保存等に係る登記の申請をするために登記所に対し提供しなければならない情報であって、第二十五条第九号の申請情報と併せて提供しなければならないものとされているもののうち法務省令で定めるものを提供することができないとき。

二 第三条各号に掲げる権利の設定、移転、変更又は消滅に関して請求権(始期付き又は停止条件付きのものその他将来確定することが見込まれるものを含む。)を保全しようとするとき。

(仮登記に基づく本登記の順位)

第百六条 仮登記に基づいて本登記(仮登記がされた後、これと同一の不動産についてされる同一の権利についての権利に関する登記であって、当該不動産に係る登記記録に当該仮登記に基づく登記であることが記録されているものをいう。以下同じ。)をした場合は、当該本登記の順位は、当該仮登記の順位による。

 

(仮登記に基づく本登記)

第百九条 所有権に関する仮登記に基づく本登記は、登記上の利害関係を有する第三者(本登記につき利害関係を有する抵当証券の所持人又は裏書人を含む。以下この条において同じ。)がある場合には、当該第三者の承諾があるときに限り、申請することができる。

2 登記官は、前項の規定による申請に基づいて登記をするときは、職権で、同項の第三者の権利に関する登記を抹消しなければならない。

 

 

民事執行法

(配当要求)

第五十一条 第二十五条の規定により強制執行を実施することができる債務名義の正本(以下「執行力のある債務名義の正本」という。)を有する債権者、強制競売の開始決定に係る差押えの登記後に登記された仮差押債権者及び第百八十一条第一項各号に掲げる文書により一般の先取特権を有することを証明した債権者は、配当要求をすることができる。

2 配当要求を却下する裁判に対しては、執行抗告をすることができる。

 

(配当等を受けるべき債権者の範囲)

第八十七条 売却代金の配当等を受けるべき債権者は、次に掲げる者とする。

一 差押債権者(配当要求の終期までに強制競売又は一般の先取特権の実行としての競売の申立てをした差押債権者に限る。)

二 配当要求の終期までに配当要求をした債権者

三 差押え(最初の強制競売の開始決定に係る差押えをいう。次号において同じ。)の登記前に登記された仮差押えの債権者

四 差押えの登記前に登記(民事保全法第五十三条第二項に規定する仮処分による仮登記を含む。)がされた先取特権(第一号又は第二号に掲げる債権者が有する一般の先取特権を除く。)、質権又は抵当権で売却により消滅するものを有する債権者(その抵当権に係る抵当証券の所持人を含む。)

2 前項第四号に掲げる債権者の権利が仮差押えの登記後に登記されたものである場合には、その債権者は、仮差押債権者が本案の訴訟において敗訴し、又は仮差押えがその効力を失つたときに限り、配当等を受けることができる。

3 差押えに係る強制競売の手続が停止され、第四十七条第六項の規定による手続を続行する旨の裁判がある場合において、執行を停止された差押債権者がその停止に係る訴訟等において敗訴したときは、差押えの登記後続行の裁判に係る差押えの登記前に登記された第一項第四号に規定する権利を有する債権者は、配当等を受けることができる。

 

 

自動車の所有者が脅迫されて当該自動車を他人に引き渡したためにこれを利用し得ないという損害を被ったことが,愛知県県税条例(昭和25年愛知県条例第24号)72条所定の自動車税の減免要件である「天災その他特別の事情」による被害に当たるとはいえないとされた事例

 

 

自動車税減免申請却下処分取消等請求事件

【事件番号】      最高裁判所第3小法廷判決/平成21年(行ヒ)第52号

【判決日付】      平成22年7月6日

【判示事項】      自動車の所有者が脅迫されて当該自動車を他人に引き渡したためにこれを利用し得ないという損害を被ったことが,愛知県県税条例(昭和25年愛知県条例第24号)72条所定の自動車税の減免要件である「天災その他特別の事情」による被害に当たるとはいえないとされた事例

【判決要旨】      自動車の所有者が脅迫されて当該自動車を他人に引き渡したためにこれを利用し得ないという損害を被ったことは,当該所有者が,脅迫された結果であるとはいえ,当該他人に対し当該自動車を貸与することを承諾していたという事実関係の下においては,損害の回復のためにできる限りの方策を講じたものの不奏功に終わったという事情があったとしても,愛知県県税条例(昭和25年愛知県条例第24号)72条所定の自動車税の減免要件である「天災その他特別の事情」による被害に当たるとはいえない。

【参照条文】      地方税法15-1

             地方税法162

             愛知県県税条例(昭25愛知県条例24号)72

【掲載誌】        最高裁判所裁判集民事234号181頁

             裁判所時報1511号232頁

             判例タイムズ1331号68頁

             判例時報2091号44頁

 

 

地方税法

(徴収猶予の要件等)

第十五条 地方団体の長は、次の各号のいずれかに該当する事実がある場合において、その該当する事実に基づき、納税者又は特別徴収義務者が当該地方団体に係る地方団体の徴収金を一時に納付し、又は納入することができないと認められるときは、その納付し、又は納入することができないと認められる金額を限度として、その者の申請に基づき、一年以内の期間を限り、その徴収を猶予することができる。

一 納税者又は特別徴収義務者がその財産につき、震災、風水害、火災その他の災害を受け、又は盗難にかかつたとき。

二 納税者若しくは特別徴収義務者又はこれらの者と生計を一にする親族が病気にかかり、又は負傷したとき。

三 納税者又は特別徴収義務者がその事業を廃止し、又は休止したとき。

四 納税者又は特別徴収義務者がその事業につき著しい損失を受けたとき。

五 前各号のいずれかに該当する事実に類する事実があつたとき。

2 地方団体の長は、納税者又は特別徴収義務者につき、当該地方団体に係る地方団体の徴収金の法定納期限(随時に課する地方税については、その地方税を課することができることとなつた日)から一年を経過した日以後にその納付し、又は納入すべき額が確定した場合において、その納付し、又は納入すべき当該地方団体の徴収金を一時に納付し、又は納入することができない理由があると認められるときは、その納付し、又は納入することができないと認められる金額を限度として、当該地方団体の徴収金の納期限内にされたその者の申請に基づき、その納期限から一年以内の期間を限り、その徴収を猶予することができる。

3 地方団体の長は、前二項の規定による徴収の猶予(以下この章において「徴収の猶予」という。)をする場合には、当該徴収の猶予に係る地方団体の徴収金の納付又は納入について、当該地方団体の条例で定めるところにより、当該徴収の猶予をする金額を当該徴収の猶予をする期間内において、当該徴収の猶予を受ける者の財産の状況その他の事情からみて合理的かつ妥当なものに分割して納付し、又は納入させることができる。

4 地方団体の長は、徴収の猶予をした場合において、当該徴収の猶予をした期間内に当該徴収の猶予をした金額を納付し、又は納入することができないやむを得ない理由があると認めるときは、当該徴収の猶予を受けた者の申請に基づき、その期間を延長することができる。ただし、その期間は、既にその者につき徴収の猶予をした期間と合わせて二年を超えることができない。

5 地方団体の長は、前項の規定による徴収の猶予をした期間の延長(以下この章において「徴収の猶予期間の延長」という。)をする場合には、当該徴収の猶予期間の延長に係る地方団体の徴収金の納付又は納入について、当該地方団体の条例で定めるところにより、当該徴収の猶予をする金額を当該徴収の猶予期間の延長をする期間内において、当該徴収の猶予期間の延長を受ける者の財産の状況その他の事情からみて合理的かつ妥当なものに分割して納付し、又は納入させることができる。

 

根抵当権者に相当の対価を支払い根抵当権を放棄させた行為と詐欺罪の成立

 

 

詐欺被告事件

【事件番号】      最高裁判所第3小法廷決定/平成13年(あ)第1839号

【判決日付】      平成16年7月7日

【判示事項】      根抵当権者に相当の対価を支払い根抵当権を放棄させた行為と詐欺罪の成立

【判決要旨】      根抵当権放棄の対価として支払われた金員が根抵当権者において相当と認めた金額であっても,根抵当権者が,当該金員支払は根抵当権設定者が根抵当権の目的である不動産を第三者に正規に売却することに伴うものと誤信しなければ,根抵当権の放棄に応ずることはなかったにもかかわらず,根抵当権設定者が,真実は自己の支配する会社への売却であることなどを秘し,根抵当権者を欺いて前記のように誤信させ,根抵当権を放棄させてその抹消登記を了した場合には,刑法246条2項の詐欺罪が成立する。

【参照条文】      刑法246-2

【掲載誌】        最高裁判所刑事判例集58巻5号309頁

 

 

刑法

(詐欺)

第二百四十六条 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。

2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

 

 

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 

       理   由

 

 弁護人黒田修一、同長添節の上告趣意は、単なる法令違反、事実誤認の主張であって、刑訴法405条の上告理由に当たらない。

 所論にかんがみ、本件詐欺罪の成否について職権で判断する。

1 原判決及びその是認する第1審判決の認定並びに記録によれば、本件の事実関係は次のとおりである。

(1)被告人が代表者として支配、経営するA社(以下「A社」という。)は、住宅金融専門会社であるB社(以下「B社」という。)に対する債務を担保するため、本件各不動産に第1順位の根抵当権又は抵当権(以下「本件各根抵当権等」という。)を設定した。

(2)株式会社住宅金融債権管理機構(以下「住管機構」という。)は、B社から、本件各根抵当権等を被担保債権と共に譲り受け、被告人に対し、本件各不動産を売却してその代金をA社の債務の返済に充てることを督促していた。住管機構は、担保不動産の売却による一部弁済を受けて担保権を放棄する際には、代金額が適正であることを厳格に審査し、かつ、必要な経費を除く代金全額を返済に充てさせるものとし、担保不動産に関する利益を債務者に残さない方針を採っていた。

(3)他方、被告人の経営する別の会社(以下「別会社」という。)の取引銀行(以下「取引銀行」という。)は、被告人に対し、被告人が実質的に支配する会社(以下「ダミー会社」という。)が適当な不動産を取得してその上に取引銀行のため第1順位の根抵当権を設定することを条件として、ダミー会社に融資を行い、その融資金の中から別会社に対する貸付債権につき返済を受けるという取引を申し出た。その取引は、取引銀行の別会社に対する回収の困難な多額の不良貸付債権を表面上消滅させ、実質はこれをダミー会社に付け替えることに主眼があったが、被告人にもこれに応じる利益のある内容であって、担保に供する不動産の価値をあえて過大に評価してダミー会社が多額の融資を受け、その中から、当該不動産の購入代金相当額を支払い、かつ、別会社の取引銀行に対する債務を返済しても、なお多額の資金が被告人の手元に残るものであった。

(4)被告人は、取引銀行との間で、本件各不動産を担保に供して上記取引を実行することを合意し、住管機構から本件各根抵当権等の放棄を得て本件各不動産をダミー会社に売却することを企てた。しかし、住管機構のA社に対する債権額は本件各不動産の価格を大幅に上回るものであった上、被告人は、住管機構の前記(2)の方針を承知していたので、真実を告げた場合には住管機構が本件各根抵当権等の放棄に応ずるはずはないと考え、住管機構の担当者に対し、真実はダミー会社に売却をして本件各不動産を被告人において実質的に保有しつつ取引銀行から多額の融資を受ける目的であるのに、これらの事情を秘し、真実の買主ではなく名目上の買主となるにすぎない者と共謀の上、本件各不動産をその者に売却するという虚偽の事実を申し向け、上記担当者を欺いてその旨誤信させ、住管機構をして、時価評価などに基づき住管機構の是認した代金額から仲介手数料等を差し引いた金員をA社から受け取るのと引換えに、本件各根抵当権等を放棄させ、その抹消登記を了した。

2 以上の事実関係の下では、本件各根抵当権等を放棄する対価としてA社から住管機構に支払われた金員が本件各不動産の時価評価などに基づき住管機構において相当と認めた金額であり、かつ、これで債務の一部弁済を受けて本件各根抵当権等を放棄すること自体については住管機構に錯誤がなかったとしても、被告人に欺かれて本件各不動産が第三者に正規に売却されるものと誤信しなければ、住管機構が本件各根抵当権等の放棄に応ずることはなかったというべきである。被告人は、以上を認識した上で、真実は自己が実質的に支配するダミー会社への売却であることなどを秘し、住管機構の担当者を欺いて本件各不動産を第三者に売却するものと誤信させ、住管機構をして本件各根抵当権等を放棄させてその抹消登記を了したものであるから、刑法246条2項の詐欺罪が成立するというべきである。

 したがって、本件詐欺罪の成立を認めた原判決の結論は正当である。

 よって、刑訴法414条、386条1項3号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

    最高裁判所第三小法廷

健康保険組合が被保険者に対して行うその親族等が被扶養者に該当しない旨の通知は、健康保険法(平成26年改正前)189条1項所定の被保険者の資格に関する処分に該当する

 

 

              処分取消等請求事件

【事件番号】      最高裁判所第3小法廷判決/令和3年(行ヒ)第120号

【判決日付】      令和4年12月13日

【判示事項】      健康保険組合が被保険者に対して行うその親族等が被扶養者に該当しない旨の通知は、健康保険法(平成26年法律第69号による改正前のもの)189条1項所定の被保険者の資格に関する処分に該当する

【掲載誌】        LLI/DB 判例秘書登載

 

 

健康保険法

(審査請求及び再審査請求)

第百八十九条 被保険者の資格、標準報酬又は保険給付に関する処分に不服がある者は、社会保険審査官に対して審査請求をし、その決定に不服がある者は、社会保険審査会に対して再審査請求をすることができる。

2 審査請求をした日から二月以内に決定がないときは、審査請求人は、社会保険審査官が審査請求を棄却したものとみなすことができる。

3 第一項の審査請求及び再審査請求は、時効の完成猶予及び更新に関しては、裁判上の請求とみなす。

4 被保険者の資格又は標準報酬に関する処分が確定したときは、その処分についての不服を当該処分に基づく保険給付に関する処分についての不服の理由とすることができない。

 

 

行政事件訴訟法

(抗告訴訟)

第三条 この法律において「抗告訴訟」とは、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟をいう。

2 この法律において「処分の取消しの訴え」とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(次項に規定する裁決、決定その他の行為を除く。以下単に「処分」という。)の取消しを求める訴訟をいう。

3 この法律において「裁決の取消しの訴え」とは、審査請求その他の不服申立て(以下単に「審査請求」という。)に対する行政庁の裁決、決定その他の行為(以下単に「裁決」という。)の取消しを求める訴訟をいう。

4 この法律において「無効等確認の訴え」とは、処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無の確認を求める訴訟をいう。

5 この法律において「不作為の違法確認の訴え」とは、行政庁が法令に基づく申請に対し、相当の期間内に何らかの処分又は裁決をすべきであるにかかわらず、これをしないことについての違法の確認を求める訴訟をいう。

6 この法律において「義務付けの訴え」とは、次に掲げる場合において、行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟をいう。

一 行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわらずこれがされないとき(次号に掲げる場合を除く。)。

二 行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がされた場合において、当該行政庁がその処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれがされないとき。

7 この法律において「差止めの訴え」とは、行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟をいう。

 

(処分の取消しの訴えと審査請求との関係)

第八条 処分の取消しの訴えは、当該処分につき法令の規定により審査請求をすることができる場合においても、直ちに提起することを妨げない。ただし、法律に当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができない旨の定めがあるときは、この限りでない。

2 前項ただし書の場合においても、次の各号の一に該当するときは、裁決を経ないで、処分の取消しの訴えを提起することができる。

一 審査請求があつた日から三箇月を経過しても裁決がないとき。

二 処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき。

三 その他裁決を経ないことにつき正当な理由があるとき。

3 第一項本文の場合において、当該処分につき審査請求がされているときは、裁判所は、その審査請求に対する裁決があるまで(審査請求があつた日から三箇月を経過しても裁決がないときは、その期間を経過するまで)、訴訟手続を中止することができる。

(原告適格)

第九条 処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。

2 裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たつては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。

 

 

 

       主   文

 

 1 原判決中、被上告人組合に対する請求に関する部分を破棄し、同部分につき第1審判決を取り消し、同請求に係る訴えを却下する。

 2 上告人の被上告人国に対する上告を棄却する。

 3 第1項に関する訴訟の総費用及び前項に関する上告費用は上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 第1 事案の概要

 1 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。

 (1) 日本輸送機健康保険組合(以下「本件組合」という。)は、その組合員である上告人の健康保険を管掌していたところ、従前、上告人の妻を、健康保険法(平成26年法律第69号による改正前のもの。以下「法」という。)3条7項1号所定の被扶養者(以下、同項各号所定の被扶養者を併せて単に「被扶養者」という。)に該当するものとしていた。

 本件組合は、上告人の妻の収入が本件組合の定める基準を満たさなくなったことを理由として、平成27年9月10日付けで、上告人に対し、上告人の妻は同26年1月1日時点で被扶養者に該当しない旨の通知(以下「本件通知」という。)をした。

 (2)ア 法189条1項は、被保険者の資格、標準報酬又は保険給付に関する処分に不服がある者は社会保険審査官に対して審査請求をし、その決定に不服がある者は社会保険審査会に対して再審査請求をすることができる旨規定する。

 イ 上告人は、平成28年7月28日付けで、法189条1項に基づくものとして、本件通知についての審査請求(以下「本件審査請求」という。)をしたが、近畿厚生局社会保険審査官は、本件通知は処分に該当しないことを理由に、同年8月5日付けで、本件審査請求を却下する決定(以下「本件決定」という。)をした。

 上告人は、同年10月5日付けで、同項に基づくものとして、本件決定についての再審査請求(以下「本件再審査請求」という。)をしたが、社会保険審査会は、同29年3月31日付けで、本件決定と同様の理由により、本件再審査請求を却下する裁決(以下「本件裁決」という。)をした。

 2 本件は、上告人が、本件組合の権利義務を承継した被上告人組合を相手に、上告人の妻は被扶養者に該当すると主張して、本件通知の取消しを求めるとともに、被上告人国を相手に、本件決定及び本件裁決は違法であるなどと主張して、本件裁決の取消し及び国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求める事案である。

 第2 上告代理人胡田敢、同島田和俊の上告受理申立て理由第3について

 1 原審は、要旨次のとおり判断し、本件再審査請求を却下した本件裁決は適法であるなどとして、本件裁決の取消請求及び損害賠償請求をいずれも棄却すべきものとした。

 法189条1項所定の被保険者の資格に関する処分は、被保険者の資格の得喪の確認について規定した法39条1項に対応するものであるところ、同項所定の確認の対象ではない被扶養者の認定は、上記被保険者の資格に関する処分に当たらない。したがって、本件通知については法189条1項に基づく不服申立てをすることができない。

 2 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

 (1)ア 法において、被扶養者とは、被保険者と一定の親族等の関係がある者であって、主としてその被保険者により生計を維持するなどの要件を満たすものをいう(3条7項)。そして、被扶養者が保険医療機関等から療養を受けたときなどには、被保険者に対し、家族療養費の支給その他の保険給付(法52条6~8号。以下、同各号所定の保険給付を「被扶養者に係る保険給付」という。)が行われる(法第4章第4節)。

 これに対し、被保険者の親族等であっても被扶養者に該当しないものについては、原則として、国民健康保険の被保険者に該当し(平成27年法律第31号による改正前の国民健康保険法5条、6条5号)、その資格の取得につき届出を要することとなる(同法9条1項)。そして、当該親族等については、国民健康保険の保険料等が徴収される(同法76条1項)とともに、同法第4章の規定に基づく保険給付が行われることとなる。

 イ 健康保険組合が管掌する健康保険について、健康保険法施行規則(平成27年厚生労働省令第150号による改正前のもの。以下「規則」という。)は、被保険者が被扶養者を有するとき、又は被扶養者を有するに至ったときは、健康保険組合に被扶養者届が提出されるべき旨を定めた(24条2項、38条1項)上で、法39条1項の規定により被保険者の資格の取得の確認が行われた場合には被保険者に様式第9号による被保険者証が交付されるべき旨規定する(47条2項)ところ、様式第9号(2)は、被扶養者に係る被保険者証の様式を定めている。また、規則50条1項は、健康保険組合は定期的に被扶養者に係る確認をすることができる旨を規定している。

 そして、被扶養者が保険医療機関等からいわゆる保険診療(家族療養費の支給を受けるべき療養)を受けようとする場合には、被保険者が保険医療機関等から保険診療(療養の給付)を受けようとする場合と同様に、やむを得ない理由がない限り、被保険者証を当該保険医療機関等に提出しなければならないとされている(法63条3項、110条7項、規則53条、90条)。いわゆる国民皆保険制度が採用されている我が国においては、健康保険等を利用しないで医療機関を受診する者はほとんどないため、健康保険組合から、被保険者の親族等が被扶養者には該当しないと判断され、被扶養者に係る被保険者証が交付されない場合には、当該親族等については、国民健康保険の被保険者の資格の取得につき届出をしない限り、適時に適切な診療を受けられないおそれがあることとなる。

 ウ 被扶養者に係る保険給付に関する法律関係は、事柄の性質上、多数の者について生じ得るところ、上記のとおり、健康保険制度を含む医療保険制度全体の仕組みの下においては、被保険者の親族等が被扶養者に該当することは被扶養者に係る保険給付が行われるための資格としての性質を有し、その該当性の有無によって当該親族等に適用される医療保険の種類が決せられるものということができる。また、被扶養者に係る被保険者証が交付されない場合には、被保険者の親族等に生活上の相当の不利益が生ずることとなる。こうした点に照らすと、上記該当性についての健康保険組合の判断は、被保険者及びその判断の対象となった親族等の法律上の地位を規律するものであり、被保険者の資格の得喪について健康保険組合による確認という処分をもって早期に確定させるものとされている(法39条1項)のと同様に、上記判断を早期に確定させ、適正公平な保険給付の実現や実効的な権利救済等を図る必要性が高いものということができる。法は、以上のような点に鑑み、健康保険組合が管掌する健康保険の被保険者が被扶養者を有するかどうかについては、健康保険組合においてその認定判断をし、その結果を被保険者に通知することを当然に予定しているものと解される。規則が、被扶養者届や被扶養者に係る被保険者証の交付のほか、被扶養者に係る定期的な確認について規定しているのも、法の上記の趣旨を受けたものということができる。そうすると、上記の通知は処分に該当すると解するのが相当である。

 (2) 法189条1項が被保険者の資格等に関する処分について、社会保険審査官に対する審査請求及び社会保険審査会に対する再審査請求という特別の不服申立ての制度を設けた趣旨は、これらの処分が多数の被保険者等の生活に影響するところが大きいこと等に鑑み、専門の不服審査機関による簡易迅速な手続によって被保険者等の権利利益の救済を図ることにあるものと解される。そして、上記(1)に説示したところによれば、その趣旨は、上記の健康保険組合による被扶養者に係る認定判断の結果の通知にも妥当するというべきである。

 (3) したがって、健康保険組合が被保険者に対して行うその親族等が被扶養者に該当しない旨の通知は、法189条1項所定の被保険者の資格に関する処分に該当すると解するのが相当である。

 3 以上によれば、本件通知について法189条1項に基づく不服申立てをすることができないとした原審の前記判断には、同項の解釈適用を誤った違法がある。

 しかしながら、前記事実関係等によれば、本件審査請求は、社会保険審査官及び社会保険審査会法(平成26年法律第69号による改正前のもの)4条1項所定の審査請求期間を徒過してされた不適法なものといわざるを得ないから、本件再審査請求を却下した本件裁決の取消請求を棄却すべきものとした原審の判断は、結論において是認することができる。

 そして、以上に説示したところによれば、本件決定及び本件裁決の違法を理由とする損害賠償請求は理由がない。

 論旨は、結局、採用することができない。

 第3 職権による検討

 原審は、前記事実関係等の下において、本件通知の取消請求を棄却すべきものとした。しかしながら、前記第2のとおり、本件審査請求が不適法である以上、上記取消請求に係る訴えは、不服申立ての前置を規定する法192条の要件を満たさない不適法な訴えであることが明らかであり、これを却下すべきである。

 第4 結論

 以上のとおり、被上告人組合に対する本件通知の取消請求に係る訴えは不適法であり、同請求につき本案の判断をした原判決は失当であるから、原判決中同請求に関する部分を破棄し、同部分につき第1審判決を取り消し、上記訴えを却下すべきである。また、上告人の被上告人国に対する上告は棄却すべきである。

 よって、裁判官宇賀克也の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

 裁判官宇賀克也の反対意見は、次のとおりである。

 私は被扶養者非該当通知が健康保険法(平成26年法律第69号による改正前のもの。以下同じ。)189条1項の被保険者の資格に関する処分に該当するという多数意見に賛成するものであるが、審査請求期間の徒過等の点について、意見を異にするので、これらの点について意見を述べておきたい。

 1 本件裁決の取消請求について

 社会保険審査官及び社会保険審査会法(平成26年法律第69号による改正前のもの。以下同じ。)4条1項本文は、処分があったことを知った日の翌日から起算して60日以内に審査請求をしなければならないと定めており、同項ただし書は、「正当な事由によりこの期間内に審査請求をすることができなかったことを疎明したときは、この限りでない」と規定している。本件審査請求は、同項本文が定める主観的審査請求期間を経過してからなされているので、同項ただし書の「正当な事由」の有無が問題になる。

 この点について、行政不服審査法(平成26年法律第68号による全部改正前のもの。以下「旧行政不服審査法」という。)14条1項本文は、主観的審査請求期間を原則として、処分があったことを知った日の翌日から起算して60日以内としており、同項ただし書は、天災その他審査請求をしなかったことについて「やむをえない理由」があるときは、この限りでないとしていた。そして、同条2項は、同条1項ただし書の場合における審査請求は、その理由がやんだ日の翌日から起算して1週間以内にしなければならないと定め、同条1項本文の期間を不変期間として位置付けていた。他方、同条3項本文は、客観的審査請求期間を処分があった日の翌日から起算して1年間として、同項ただし書で、「正当な理由」があるときは、この限りでないとしていた。このように、旧行政不服審査法14条は、「やむをえない理由」と「正当な理由」を明確に区別していたが、これは、前者を後者よりも厳格に制限する趣旨であった。そのため、旧行政不服審査法57条1項が定める教示の懈怠は、「やむをえない理由」に当たらないとするのが裁判例の大勢であった(もっとも、大阪地裁昭和45年(行ウ)第23号同49年7月30日判決・行政事件裁判例集25巻7号1023頁のように、税務署係官の教示が適切を欠いていた等の理由から、国税通則法(昭和45年法律第8号による改正前のもの)76条3項にいう「やむを得ない理由」ないしこれに準ずる理由があると判示したものもあった。また、最高裁昭和46年(行ツ)第86号同48年6月21日第一小法廷判決・裁判集民事109号403頁は、傍論においてであるが、本件異議決定書に審査請求期間についての教示がなされていなかったことから、本件裁定書に教示されていた異議申立期間が審査請求期間にも妥当するものと誤信したために、法定の期間内に審査請求をしなかったことが、旧行政不服審査法14条1項ただし書所定の「やむをえない理由」に該当する余地があるとも述べており、同項ただし書所定の「やむをえない理由」に教示の懈怠は含まれないという判例法が確立していたとはいえない。)。

 社会保険審査官及び社会保険審査会法4条1項ただし書の「正当な事由」については、実務上、天災事変や交通通信機関の途絶など請求人においてはどうすることもできない客観的な事情による場合、あるいは請求人が審査請求のためにできる限り合目的な努力を払ったにもかかわらず審査請求の意思を権限ある機関に表明できなかった等期間の経過の責を請求人に帰すべきでないと判断される場合をいうと解されてきたようである。多数意見は、このような解釈等を参考にして、同項ただし書の「正当な事由」は、旧行政不服審査法14条1項ただし書の「やむをえない理由」と同義と解し、かつ、「やむをえない理由」には、教示の懈怠は含まれないという解釈を前提としているものと思われる。そこで、以下、この点について検討を行うこととする。

 社会保険審査官及び社会保険審査会法が制定された昭和28年には、なお訴願法(明治23年法律第105号)が行政上の不服申立ての一般法であり、同法8条3項は、訴願期間経過後においても、行政庁において「宥恕スヘキ事由」があると認めたときには、なお訴願を受理することができる旨を定めており、「宥恕スヘキ事由」があるか否かは行政庁の裁量に委ねられていると解されていたところ(最高裁昭和27年(オ)第144号同29年8月20日第二小法廷判決・民集8巻8号1524頁参照)、不服申立前置主義の下で、行政庁の裁量で訴願の可否を決することは、国民の裁判を受ける権利を侵害することになり得るので、裁量であることを否定する趣旨で、社会保険審査官及び社会保険審査会法4条1項ただし書で「正当な事由」という文言が用いられた。したがって、同法制定時には、「正当な事由」の有無が行政庁の裁量に委ねられたものでないことは明確にされたものの、いかなる場合に「正当な事由」が認められるかについては、詳細な検討はなされず、判例学説の展開に委ねられたものと思われる。

 その後、昭和37年法律第160号として、訴願法に代わり、旧行政不服審査法が行政上の不服申立ての一般法となった際、行政不服審査法の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律(昭和37年法律第161号)により、社会保険審査官及び社会保険審査会法4条も改正された。行政上の不服申立ての一般法となった旧行政不服審査法14条1項の特別法として位置付けられる社会保険審査官及び社会保険審査会法4条1項が、主観的審査請求期間を一般法と同じくしつつ、あえてただし書で、「やむをえない理由」とは異なり、旧行政不服審査法14条3項ただし書の「正当な理由」という文言に近い「正当な事由」という文言を使用していること、社会保険審査官及び社会保険審査会法4条には、主観的審査請求期間の例外を限定する旧行政不服審査法14条2項の「前項ただし書の場合における審査請求は、その理由がやんだ日の翌日から起算して1週間以内にしなければならない。」という規定が設けられていないことに照らすと、旧行政不服審査法制定時において、社会保険審査官及び社会保険審査会法4条1項ただし書の期間は不変期間としては位置付けられなかったと考えられる。したがって、旧行政不服審査法14条1項ただし書の「やむをえない理由」と社会保険審査官及び社会保険審査会法4条1項ただし書の「正当な事由」を同義と解することには疑問がある。同条が、旧行政不服審査法14条の特例を定めようとするものであることは、客観的審査請求期間についての規定からもうかがえる。すなわち、旧行政不服審査法14条3項の客観的審査請求期間が1年であるのに対して、社会保険審査官及び社会保険審査会法4条2項の客観的審査請求期間は2年であり、他方において、旧行政不服審査法14条3項ただし書の「正当な理由」による例外は、社会保険審査官及び社会保険審査会法4条2項には設けられていない。

 以上のように、旧行政不服審査法14条1項ただし書の「やむをえない理由」と社会保険審査官及び社会保険審査会法4条1項ただし書の「正当な事由」は異なる意味であるという前提に立つ場合、それでは、同項ただし書の「正当な事由」の意味が何かが問題になる。

 この点については、平成26年法律第68号による全部改正後の行政不服審査法(以下「新行政不服審査法」という。)18条1項ただし書が、旧行政不服審査法14条1項ただし書の「やむをえない理由」に代えて、「正当な理由」としたことが注目される。この改正は、平成16年法律第84号による行政事件訴訟法の改正と平仄を合わせたものである。すなわち、同改正前の行政事件訴訟法14条1項は主観的出訴期間の例外を定めず、同条2項で主観的出訴期間は不変期間とするとされていた。しかし、出訴期間の制約が厳格すぎるという批判を受けて、主観的出訴期間を延長し、かつ、主観的出訴期間の例外を「正当な理由」がある場合に認めることとされたのである。新行政不服審査法18条1項ただし書は、この改正を踏まえて行われたものである。そして、主観的審査請求期間の例外については、「正当な理由」がある場合には審査請求を認めることとすべきという統一的方針の下に、旧行政不服審査法の全部改正に伴い、行政不服審査法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律(平成26年法律第69号)により、他の法律における主観的審査請求期間の例外についても、「正当な理由」に改正されている(例えば、同改正前の国税通則法77条3項の「やむを得ない理由」が同改正後の同条1項ただし書・2項ただし書の「正当な理由」に改正され、鉱業等に係る土地利用の調整手続等に関する法律25条1項ただし書の「やむを得ない理由」が「正当な理由」に改正されている。)。したがって、もし、社会保険審査官及び社会保険審査会法4条1項ただし書の「正当な事由」が「やむをえない理由」と同義であったのであれば、主観的審査請求期間の例外を拡大し、新行政不服審査法18条1項ただし書と平仄を合わせるために、「正当な事由」を「正当な理由」に改正して、その趣旨を明確にしたと思われる。しかし、行政不服審査法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律は、社会保険審査官及び社会保険審査会法4条1項本文の主観的審査請求期間を新行政不服審査法18条1項本文と平仄を合わせて延長しながら、社会保険審査官及び社会保険審査会法4条1項ただし書は改正していない。このことは、同項ただし書の「正当な事由」は、新行政不服審査法18条1項ただし書の「正当な理由」と同義であるので、改正する必要がないと整理されたと理解するのが素直な解釈と思われる。

 そうすると、次に問題になるのは、新行政不服審査法18条1項ただし書の「正当な理由」に、教示の懈怠が含まれるかであるが、これについては、平成16年法律第84号により改正された行政事件訴訟法14条1項ただし書の「正当な理由」と平仄を合わせた解釈が必要になると考えられるところ、いずれについても、教示の懈怠があった場合、正しい審査請求期間又は出訴期間を具体的に知り得る特別の事情があった場合を除き、「正当な理由」に当たると解すべきと思われる。したがって、教示の懈怠があったと思われる本件においても、社会保険審査官及び社会保険審査会法4条1項ただし書の「正当な事由」があるので、審査請求期間を徒過した不適法な審査請求とはいえないと考えられる。したがって、本件再審査請求を却下した本件裁決は違法であり、これを取り消すべきである。

 2 本件通知の取消請求について

 以上のとおり、本件審査請求が適法であるとすれば、健康保険法192条が定める不服申立前置の要件を満たしていないともいえないので、本件通知の取消訴訟をその観点から不適法とすることもできない(最高裁昭和34年(オ)第973号同36年7月21日第二小法廷判決・民集15巻7号1966頁参照)。そして、上告人は、本件却下裁決があったことを知った日から6か月以内に本件訴訟を提起しているので、出訴期間を遵守しており、不適法な訴訟とはいえず、原審が本件通知の取消請求について本案判断をしたことは相当である。

 本案判断について、原判決は、健康保険法は、被扶養者に該当するか否かの判断における年間収入の算定方法については、各保険者の合理的な裁量判断に委ねたものと解さざるを得ないとし、自営業者の年間収入について、売上原価を差し引く前の売上高により算定することが、健康保険組合に与えられた裁量を逸脱し、違法であるとは直ちにいえないと判示している。しかしながら、各保険者に、被扶養者に該当するか否かについての要件裁量が認められているとは解されないことからすると、原審の上記判断は是認できない。

 3 結論

 よって、原判決を破棄し、第1審判決中、本件裁決の取消請求に関する部分を取り消して本件裁決を取り消し、その余の部分につき本件を原審に差し戻すべきである。

 

 

 

音楽事務所と実演家との間で締結された専属的マネージメント契約における、契約終了後の競業避止義務を規定する条項が、職業選択の自由ないし営業の自由を制約するもので公序良俗に反して無効であると判断された事例

 

 

              損害賠償請求控訴事件

【事件番号】      知的財産高等裁判所判決/令和4年(ネ)第10059号

【判決日付】      令和4年12月26日

【判示事項】      1 音楽事務所と実演家との間で締結された専属的マネージメント契約における、契約終了後の競業避止義務を規定する条項が、職業選択の自由ないし営業の自由を制約するもので公序良俗に反して無効であると判断された事例

             2 バンドグループの各構成員が、グループ名に係るパブリシティ権及び実演家人格権(氏名表示権)を有すると認められた事例

【参照条文】      民法90

             民法709

             民法710

             憲法22-1

             著作権法90の2

【掲載誌】        LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】      知財ぷりずむ246号61頁

 

 

民法

(公序良俗)

第九十条 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

 

(不法行為による損害賠償)

第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

(財産以外の損害の賠償)

第七百十条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。

 

 

憲法

第二十二条 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

② 何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。

 

 

著作権法

(氏名表示権)

第九十条の二 実演家は、その実演の公衆への提供又は提示に際し、その氏名若しくはその芸名その他氏名に代えて用いられるものを実演家名として表示し、又は実演家名を表示しないこととする権利を有する。

2 実演を利用する者は、その実演家の別段の意思表示がない限り、その実演につき既に実演家が表示しているところに従つて実演家名を表示することができる。

3 実演家名の表示は、実演の利用の目的及び態様に照らし実演家がその実演の実演家であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるとき又は公正な慣行に反しないと認められるときは、省略することができる。

4 第一項の規定は、次の各号のいずれかに該当するときは、適用しない。

一 行政機関情報公開法、独立行政法人等情報公開法又は情報公開条例の規定により行政機関の長、独立行政法人等又は地方公共団体の機関若しくは地方独立行政法人が実演を公衆に提供し、又は提示する場合において、当該実演につき既にその実演家が表示しているところに従つて実演家名を表示するとき。

二 行政機関情報公開法第六条第二項の規定、独立行政法人等情報公開法第六条第二項の規定又は情報公開条例の規定で行政機関情報公開法第六条第二項の規定に相当するものにより行政機関の長、独立行政法人等又は地方公共団体の機関若しくは地方独立行政法人が実演を公衆に提供し、又は提示する場合において、当該実演の実演家名の表示を省略することとなるとき。

三 公文書管理法第十六条第一項の規定又は公文書管理条例の規定(同項の規定に相当する規定に限る。)により国立公文書館等の長又は地方公文書館等の長が実演を公衆に提供し、又は提示する場合において、当該実演につき既にその実演家が表示しているところに従つて実演家名を表示するとき。

 

 

 

       主   文

 

 1 一審原告らの控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。

 2 一審被告らは、一審原告X1に対し、連帯して99万円及びこれに対する一審被告会社は令和2年1月17日から、一審被告Yは同月23日から支払済みまで各年5分の割合による金員を支払え。

 3 一審被告らは、一審原告X2に対し、連帯して99万円及びこれに対する一審被告会社は令和2年1月17日から、一審被告Yは同月23日から支払済みまで各年5分の割合による金員を支払え。

 4 一審被告らは、一審原告X3に対し、連帯して99万円及びこれに対する一審被告会社は令和2年1月17日から、一審被告Yは同月23日から支払済みまで各年5分の割合による金員を支払え。

 5 一審被告らは、一審原告X4に対し、連帯して99万円及びこれに対する一審被告会社は令和2年1月17日から、一審被告Yは同月23日から支払済みまで各年5分の割合による金員を支払え。

 6 一審被告らの本件控訴をいずれも棄却する。

 7 訴訟費用は、1、2審を通じ、一審被告らの負担とする。

 

       事実及び理由

 

 用語の略称及び略称の意味は、本判決で付するもののほかは、原判決に従う。原判決中の「別紙」を「原判決別紙」と読み替える。

第1 控訴の趣旨

 1 一審原告らの控訴の趣旨

  主文第1項ないし第5項、第7項同旨

 2 一審被告らの控訴の趣旨

 (1) 原判決中一審被告ら敗訴部分を取り消す。

 (2) 前項の取消しに係る部分につき、一審原告らの請求をいずれも棄却する。

 (3) 訴訟費用は、1、2審を通じ、一審原告らの負担とする。

第2 事案の概要

 1 事案の要旨

 本件は、一審被告会社との間で専属的マネージメント契約を締結し、「A」との名称(本件グループ名)でバンド活動に従事していた一審原告らが、同契約終了後、本件グループ名を用いてバンド活動を継続しようとしたところ、一審被告会社又は一審被告Yが、同バンドは同契約によって契約終了後6か月間、一審被告会社の承諾なしに実演を目的とする契約を締結することが禁止されており、一審被告会社は承諾をしていない、本件グループ名に係る商標権は一審被告会社に帰属しており一審原告らが本件グループ名を使用することを許諾していないなどと記載された文書又は電子メールを関係者らに送付又は送信したこと(本件各通知)等が、一審原告らの営業権、パブリシティ権、営業の自由、名誉権、実演家人格権(氏名表示権)を侵害する不法行為に当たるとして、一審原告らが、一審被告Yに対して民法709条に基づき、一審被告会社に対して民法709条又は会社法350条に基づき、連帯して、各一審原告につき損害賠償金99万円及びこれに対する不法行為の日の後の日である一審被告らに対する各訴状送達の日の翌日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

 原判決は、本件通知1~4における一審被告会社が商標権を取得しているかのような記載及び一審被告会社が本件グループ名について利用の許諾をできる地位にあるかのような記載はいずれも虚偽であり、一審被告Yの強い意向により一審被告会社が上記各通知を送付したことにより、一審被告らが一審原告らの営業権を侵害したとして、一審原告らが一審被告らに対してそれぞれ損害額20万円及び弁護士費用2万円の合計22万円及びこれに対する遅延損害金の連帯支払を求める限度で一審原告らの請求を認容し、その余の請求をいずれも棄却した。

 これに対し、一審原告ら及び一審被告らの双方が、敗訴部分につき不服であるとして、それぞれ控訴した。