音楽事務所と実演家との間で締結された専属的マネージメント契約における、契約終了後の競業避止義務を規定する条項が、職業選択の自由ないし営業の自由を制約するもので公序良俗に反して無効であると判断された事例
損害賠償請求控訴事件
【事件番号】 知的財産高等裁判所判決/令和4年(ネ)第10059号
【判決日付】 令和4年12月26日
【判示事項】 1 音楽事務所と実演家との間で締結された専属的マネージメント契約における、契約終了後の競業避止義務を規定する条項が、職業選択の自由ないし営業の自由を制約するもので公序良俗に反して無効であると判断された事例
2 バンドグループの各構成員が、グループ名に係るパブリシティ権及び実演家人格権(氏名表示権)を有すると認められた事例
【参照条文】 民法90
民法709
民法710
憲法22-1
著作権法90の2
【掲載誌】 LLI/DB 判例秘書登載
【評釈論文】 知財ぷりずむ246号61頁
民法
(公序良俗)
第九十条 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
(財産以外の損害の賠償)
第七百十条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
憲法
第二十二条 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
② 何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。
著作権法
(氏名表示権)
第九十条の二 実演家は、その実演の公衆への提供又は提示に際し、その氏名若しくはその芸名その他氏名に代えて用いられるものを実演家名として表示し、又は実演家名を表示しないこととする権利を有する。
2 実演を利用する者は、その実演家の別段の意思表示がない限り、その実演につき既に実演家が表示しているところに従つて実演家名を表示することができる。
3 実演家名の表示は、実演の利用の目的及び態様に照らし実演家がその実演の実演家であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるとき又は公正な慣行に反しないと認められるときは、省略することができる。
4 第一項の規定は、次の各号のいずれかに該当するときは、適用しない。
一 行政機関情報公開法、独立行政法人等情報公開法又は情報公開条例の規定により行政機関の長、独立行政法人等又は地方公共団体の機関若しくは地方独立行政法人が実演を公衆に提供し、又は提示する場合において、当該実演につき既にその実演家が表示しているところに従つて実演家名を表示するとき。
二 行政機関情報公開法第六条第二項の規定、独立行政法人等情報公開法第六条第二項の規定又は情報公開条例の規定で行政機関情報公開法第六条第二項の規定に相当するものにより行政機関の長、独立行政法人等又は地方公共団体の機関若しくは地方独立行政法人が実演を公衆に提供し、又は提示する場合において、当該実演の実演家名の表示を省略することとなるとき。
三 公文書管理法第十六条第一項の規定又は公文書管理条例の規定(同項の規定に相当する規定に限る。)により国立公文書館等の長又は地方公文書館等の長が実演を公衆に提供し、又は提示する場合において、当該実演につき既にその実演家が表示しているところに従つて実演家名を表示するとき。
主 文
1 一審原告らの控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
2 一審被告らは、一審原告X1に対し、連帯して99万円及びこれに対する一審被告会社は令和2年1月17日から、一審被告Yは同月23日から支払済みまで各年5分の割合による金員を支払え。
3 一審被告らは、一審原告X2に対し、連帯して99万円及びこれに対する一審被告会社は令和2年1月17日から、一審被告Yは同月23日から支払済みまで各年5分の割合による金員を支払え。
4 一審被告らは、一審原告X3に対し、連帯して99万円及びこれに対する一審被告会社は令和2年1月17日から、一審被告Yは同月23日から支払済みまで各年5分の割合による金員を支払え。
5 一審被告らは、一審原告X4に対し、連帯して99万円及びこれに対する一審被告会社は令和2年1月17日から、一審被告Yは同月23日から支払済みまで各年5分の割合による金員を支払え。
6 一審被告らの本件控訴をいずれも棄却する。
7 訴訟費用は、1、2審を通じ、一審被告らの負担とする。
事実及び理由
用語の略称及び略称の意味は、本判決で付するもののほかは、原判決に従う。原判決中の「別紙」を「原判決別紙」と読み替える。
第1 控訴の趣旨
1 一審原告らの控訴の趣旨
主文第1項ないし第5項、第7項同旨
2 一審被告らの控訴の趣旨
(1) 原判決中一審被告ら敗訴部分を取り消す。
(2) 前項の取消しに係る部分につき、一審原告らの請求をいずれも棄却する。
(3) 訴訟費用は、1、2審を通じ、一審原告らの負担とする。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
本件は、一審被告会社との間で専属的マネージメント契約を締結し、「A」との名称(本件グループ名)でバンド活動に従事していた一審原告らが、同契約終了後、本件グループ名を用いてバンド活動を継続しようとしたところ、一審被告会社又は一審被告Yが、同バンドは同契約によって契約終了後6か月間、一審被告会社の承諾なしに実演を目的とする契約を締結することが禁止されており、一審被告会社は承諾をしていない、本件グループ名に係る商標権は一審被告会社に帰属しており一審原告らが本件グループ名を使用することを許諾していないなどと記載された文書又は電子メールを関係者らに送付又は送信したこと(本件各通知)等が、一審原告らの営業権、パブリシティ権、営業の自由、名誉権、実演家人格権(氏名表示権)を侵害する不法行為に当たるとして、一審原告らが、一審被告Yに対して民法709条に基づき、一審被告会社に対して民法709条又は会社法350条に基づき、連帯して、各一審原告につき損害賠償金99万円及びこれに対する不法行為の日の後の日である一審被告らに対する各訴状送達の日の翌日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
原判決は、本件通知1~4における一審被告会社が商標権を取得しているかのような記載及び一審被告会社が本件グループ名について利用の許諾をできる地位にあるかのような記載はいずれも虚偽であり、一審被告Yの強い意向により一審被告会社が上記各通知を送付したことにより、一審被告らが一審原告らの営業権を侵害したとして、一審原告らが一審被告らに対してそれぞれ損害額20万円及び弁護士費用2万円の合計22万円及びこれに対する遅延損害金の連帯支払を求める限度で一審原告らの請求を認容し、その余の請求をいずれも棄却した。
これに対し、一審原告ら及び一審被告らの双方が、敗訴部分につき不服であるとして、それぞれ控訴した。