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法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

役に立つ裁判例の紹介、法律の本の書評です。弁護士経験32年。第二東京弁護士会所属21770

白鳥事件・伝聞供述にあたるかどうかを定める基準

 

 

爆発物取締罰則違反等被告事件

【事件番号】      最高裁判所第1小法廷判決/昭和35年(あ)第1378号

【判決日付】      昭和38年10月17日

【判示事項】      1、認定した事実と証拠力

             2、伝聞供述にあたるかどうかを定める基準

             3、原供述者が二者択一的である伝聞供述と証拠能力

【判決要旨】      1、証拠によって認定した事実は、他の事実の証拠となり得る。

             2、伝聞供述となるかどうかは、要証事実と当該供述者の知覚との関係により決せられるものと解すべきであって、甲が一定内容の発言をしたこと自体を要証事実とする場合には、その発言を直接知覚した乙の供述は伝聞供述にあたらないが、甲の発言内容に符号する事実を要証事実とする場合には、その発言を直接知覚したのみで、要証事実自体を直接知覚していない乙の供述は伝聞供述にあたる。

             3、刑訴第324条第2項と第321条第1項第3号所定の要件を具備した伝聞供述の原供述者が特定の甲又は乙のいずれであるか不明確であっても、それだけの理由でその伝聞供述が証拠能力を有しないものとはいえない。

【参照条文】      刑事訴訟法317

             刑事訴訟法324-2

             刑事訴訟法320-1

             刑事訴訟法321-1

             刑事訴訟法3号

【掲載誌】        最高裁判所刑事判例集17巻10号1795頁

 

 

刑事訴訟法

第三百十七条 事実の認定は、証拠による。

 

第三百二十条 第三百二十一条乃至第三百二十八条に規定する場合を除いては、公判期日における供述に代えて書面を証拠とし、又は公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とすることはできない。

② 第二百九十一条の二の決定があつた事件の証拠については、前項の規定は、これを適用しない。但し、検察官、被告人又は弁護人が証拠とすることに異議を述べたものについては、この限りでない。

 

第三百二十一条 被告人以外の者が作成した供述書又はその者の供述を録取した書面で供述者の署名若しくは押印のあるものは、次に掲げる場合に限り、これを証拠とすることができる。

一 裁判官の面前(第百五十七条の六第一項及び第二項に規定する方法による場合を含む。)における供述を録取した書面については、その供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明若しくは国外にいるため公判準備若しくは公判期日において供述することができないとき、又は供述者が公判準備若しくは公判期日において前の供述と異なつた供述をしたとき。

二 検察官の面前における供述を録取した書面については、その供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明若しくは国外にいるため公判準備若しくは公判期日において供述することができないとき、又は公判準備若しくは公判期日において前の供述と相反するか若しくは実質的に異なつた供述をしたとき。ただし、公判準備又は公判期日における供述よりも前の供述を信用すべき特別の情況の存するときに限る。

三 前二号に掲げる書面以外の書面については、供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明又は国外にいるため公判準備又は公判期日において供述することができず、かつ、その供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができないものであるとき。ただし、その供述が特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限る。

② 被告人以外の者の公判準備若しくは公判期日における供述を録取した書面又は裁判所若しくは裁判官の検証の結果を記載した書面は、前項の規定にかかわらず、これを証拠とすることができる。

③ 検察官、検察事務官又は司法警察職員の検証の結果を記載した書面は、その供述者が公判期日において証人として尋問を受け、その真正に作成されたものであることを供述したときは、第一項の規定にかかわらず、これを証拠とすることができる。

④ 鑑定の経過及び結果を記載した書面で鑑定人の作成したものについても、前項と同様である。

 

第三百二十四条 被告人以外の者の公判準備又は公判期日における供述で被告人の供述をその内容とするものについては、第三百二十二条の規定を準用する。

② 被告人以外の者の公判準備又は公判期日における供述で被告人以外の者の供述をその内容とするものについては、第三百二十一条第一項第三号の規定を準用する。

 

 

 

 

非上場会社が株主以外の者に発行した新株の発行価額が商法(平成17年改正前)280条ノ2第2項にいう「特ニ有利ナル発行価額」に当たらない場合

 

 

損害賠償請求事件

【事件番号】      最高裁判所第1小法廷判決/平成25年(受)第1080号

【判決日付】      平成27年2月19日

【判示事項】      非上場会社が株主以外の者に発行した新株の発行価額が商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)280条ノ2第2項にいう「特ニ有利ナル発行価額」に当たらない場合

【判決要旨】      非上場会社が株主以外の者に新株を発行するに際し、客観的資料に基づく一応合理的な算定方法によって発行価額が決定されていたといえる場合には、その発行価額は、特別の事情のない限り、商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)280条ノ2第2項にいう「特ニ有利ナル発行価額」に当たらない。

【参照条文】      商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)280の2-2

             会社法199-3

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集69巻1号51頁

 

 

会社法

(募集事項の決定)

第百九十九条 株式会社は、その発行する株式又はその処分する自己株式を引き受ける者の募集をしようとするときは、その都度、募集株式(当該募集に応じてこれらの株式の引受けの申込みをした者に対して割り当てる株式をいう。以下この節において同じ。)について次に掲げる事項を定めなければならない。

一 募集株式の数(種類株式発行会社にあっては、募集株式の種類及び数。以下この節において同じ。)

二 募集株式の払込金額(募集株式一株と引換えに払い込む金銭又は給付する金銭以外の財産の額をいう。以下この節において同じ。)又はその算定方法

三 金銭以外の財産を出資の目的とするときは、その旨並びに当該財産の内容及び価額

四 募集株式と引換えにする金銭の払込み又は前号の財産の給付の期日又はその期間

五 株式を発行するときは、増加する資本金及び資本準備金に関する事項

2 前項各号に掲げる事項(以下この節において「募集事項」という。)の決定は、株主総会の決議によらなければならない。

3 第一項第二号の払込金額が募集株式を引き受ける者に特に有利な金額である場合には、取締役は、前項の株主総会において、当該払込金額でその者の募集をすることを必要とする理由を説明しなければならない。

4 種類株式発行会社において、第一項第一号の募集株式の種類が譲渡制限株式であるときは、当該種類の株式に関する募集事項の決定は、当該種類の株式を引き受ける者の募集について当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議を要しない旨の定款の定めがある場合を除き、当該種類株主総会の決議がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合は、この限りでない。

5 募集事項は、第一項の募集ごとに、均等に定めなければならない。

 

(株主総会の決議)

第三百九条 株主総会の決議は、定款に別段の定めがある場合を除き、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う。

2 前項の規定にかかわらず、次に掲げる株主総会の決議は、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の三分の二(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。この場合においては、当該決議の要件に加えて、一定の数以上の株主の賛成を要する旨その他の要件を定款で定めることを妨げない。

一 第百四十条第二項及び第五項の株主総会

二 第百五十六条第一項の株主総会(第百六十条第一項の特定の株主を定める場合に限る。)

三 第百七十一条第一項及び第百七十五条第一項の株主総会

四 第百八十条第二項の株主総会

五 第百九十九条第二項、第二百条第一項、第二百二条第三項第四号、第二百四条第二項及び第二百五条第二項の株主総会

六 第二百三十八条第二項、第二百三十九条第一項、第二百四十一条第三項第四号、第二百四十三条第二項及び第二百四十四条第三項の株主総会

七 第三百三十九条第一項の株主総会(第三百四十二条第三項から第五項までの規定により選任された取締役(監査等委員である取締役を除く。)を解任する場合又は監査等委員である取締役若しくは監査役を解任する場合に限る。)

八 第四百二十五条第一項の株主総会

九 第四百四十七条第一項の株主総会(次のいずれにも該当する場合を除く。)

イ 定時株主総会において第四百四十七条第一項各号に掲げる事項を定めること。

ロ 第四百四十七条第一項第一号の額がイの定時株主総会の日(第四百三十九条前段に規定する場合にあっては、第四百三十六条第三項の承認があった日)における欠損の額として法務省令で定める方法により算定される額を超えないこと。

十 第四百五十四条第四項の株主総会(配当財産が金銭以外の財産であり、かつ、株主に対して同項第一号に規定する金銭分配請求権を与えないこととする場合に限る。)

十一 第六章から第八章までの規定により株主総会の決議を要する場合における当該株主総会

十二 第五編の規定により株主総会の決議を要する場合における当該株主総会

3 前二項の規定にかかわらず、次に掲げる株主総会(種類株式発行会社の株主総会を除く。)の決議は、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の半数以上(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)であって、当該株主の議決権の三分の二(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。

一 その発行する全部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設ける定款の変更を行う株主総会

二 第七百八十三条第一項の株主総会(合併により消滅する株式会社又は株式交換をする株式会社が公開会社であり、かつ、当該株式会社の株主に対して交付する金銭等の全部又は一部が譲渡制限株式等(同条第三項に規定する譲渡制限株式等をいう。次号において同じ。)である場合における当該株主総会に限る。)

三 第八百四条第一項の株主総会(合併又は株式移転をする株式会社が公開会社であり、かつ、当該株式会社の株主に対して交付する金銭等の全部又は一部が譲渡制限株式等である場合における当該株主総会に限る。)

4 前三項の規定にかかわらず、第百九条第二項の規定による定款の定めについての定款の変更(当該定款の定めを廃止するものを除く。)を行う株主総会の決議は、総株主の半数以上(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)であって、総株主の議決権の四分の三(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。

5 取締役会設置会社においては、株主総会は、第二百九十八条第一項第二号に掲げる事項以外の事項については、決議をすることができない。ただし、第三百十六条第一項若しくは第二項に規定する者の選任又は第三百九十八条第二項の会計監査人の出席を求めることについては、この限りでない。

 

 

日照権事件・隣接居宅の日照・通風を妨害する建物につき不法行為の成立が認められた事例

 

 

              損害賠償事件

【事件番号】      最高裁判所第3小法廷判決/昭和43年(オ)第32号

【判決日付】      昭和47年6月27日

【判示事項】      隣接居宅の日照・通風を妨害する建物につき不法行為の成立が認められた事例

【判決要旨】      居宅の日照、通風は、快適で健康な生活に必要な生活利益であって、法的な保護の対象にならないものではなく、南側隣家の2階増築が、北側居宅の日照、通風を妨げた場合において、右増築が、建築基準法に違反するばかりでなく、東京都知事の工事施行停止命令などを無視して強行されたものであり、他方、被害者においては、住宅地域内にありながら、日照、通風をいちじるしく妨げられ、その受けた損害が、社会生活上一般的に忍容するのを相当とする程度を越えるものであるなど判示の事情があるときは、右2階増築の行為は、社会観念上妥当な権利行使としての範囲を逸脱し、不法行為の責任を生じしめるものと解すべきである。

【参照条文】      民法1

             民法709

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集26巻5号1067頁

 

 

日照権

日照権とは、土地や建物の所有者または居住者が「日当たりによる利益を享受する権利」または「日当たりによる利益の侵害から守られる権利」を指します。

 

実は、日照権は憲法や法律に規定されているわけではありません。しかし、日照の阻害が社会生活を営むうえでお互いに我慢し合う限度(「受忍限度」といいます)を著しく超えている場合には、保護されるべき権利として司法の場で認められることがあります。

過去の判例では、被害の大きさや地域性、建築基準法の日影規制への適合性、被害を回避できる可能性の有無、それまでの交渉経緯などを加味し、総合的に判断されるケースが多いようです。

 

2.日照権にかかわる法律は「日影規制」と「斜線制限」

ここでは、日照権にかかわる法律である、建築基準法の「日影規制」と「斜線制限」を解説していきましょう。

 

日影規制

日影規制(建築基準法第56条の2)とは、地方公共団体の条例により「規制対象区域と規制値」等を決定し、敷地境界線から一定の範囲に「一定時間以上の日影を生じさせないようにする」ための規制です。建築物の高さの制限のひとつで、北側(隣地の南側)敷地の日当たりを確保します。

ただし、特定行政庁(建築主事を置く地方公共団体の長)が、土地の状況等により周囲の居住環境を害するおそれがないと認め、建築審査会の同意を得て許可した場合は、この規定を除外することが可能です。

 

斜線制限

斜線制限は建築物の高さ制限のひとつです。建物の高さは道路の境界線等から上方斜めに引いた線の内側に収まらなければならないというものです。また、隣地にマンションなど高層の建物が建築されると、日光が当たりにくい環境になってしまいます。

 

 

なお、斜線制限には、「道路斜線制限」「隣地斜線制限」「北側斜線制限」の3つがあります。

 

 

道路斜線制限

 

道路などにかかる日照・採光・通風等の確保が目的

道路および道路上空の空間を確保するための規制

 

隣地斜線制限

 

隣接する敷地にかかる日照・採光・通風等の確保が目的

高い建物間の空間を確保するための規制

 

北側斜線制限

 

北側敷地にかかる日照・採光・通風等の確保が目的

住宅地における日当たりを確保するための規制

国土交通省「住宅団地の再生に関係する現行制度について」の情報をもとに、筆者作成

 

トラブル判断のキーポイントは「受忍限度」

先述したとおり、日照権は憲法や法律に規定されている権利ではありません。しかし、現実には日照をめぐって近隣トラブルが発生しており、こじれた場合には裁判へと発展するケースも多々あります。このとき、受忍限度が明らかに超えている場合は、最低限の権利を守るために司法の場で認められるケースがあります。

受忍限度の判断基準となる項目には以下のものが挙げられます。(※2)

 

【受忍限度の判断基準】

 

日照阻害の程度

日影による中高層の建築物の高さ制限(日影規制・斜線制限)

用途地域

加害回避の可能性

被害回避の可能性

加害建物の建築をめぐる交渉経過

 

 

民法

(基本原則)

第一条 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。

2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。

3 権利の濫用は、これを許さない。

 

(不法行為による損害賠償)

第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人成富安信の上告理由第一ないし第七について。

 原判決は、上告人がした原判示の二階増築行為が、被上告人の住宅の日照、通風を違法に妨害したとして、不法行為の成立を認め、上告人に対し、これによつて生じた損害の賠償を命じている。

 思うに、居宅の日照、通風は、快適で健康な生活に必要な生活利益であり、それが他人の土地の上方空間を横切つてもたらされるものであつても、法的な保護の対象にならないものではなく、加害者が権利の濫用にわたる行為により日照、通風を妨害したような場合には、被害者のために、不法行為に基づく損害賠償の請求を認めるのが相当である。もとより、所論のように、日照、通風の妨害は、従来与えられていた日光や風を妨害者の土地利用の結果さえぎつたという消極的な性質のものであるから、騒音、煤煙、臭気等の放散、流入による積極的な生活妨害とはその性質を異にするものである。しかし、日照、通風の妨害も、土地の利用権者がその利用地に建物を建築してみずから日照、通風を享受する反面において、従来、隣人が享受していた日照、通風をさえざるものであつて、土地利用権の行使が隣人に生活妨害を与えるという点においては、騒音の放散等と大差がなく、被害者の保護に差異を認める理由はないというべきである。

 本件において、原審は、挙示の証拠により、上告人の家屋の二階増築部分が被上告人居住の家屋および庭への日照をいちじるしくさえぎることになつたこと、その程度は、原判示のように、右家屋の居室内および庭面への日照が、季節により若干の変化はあるが、朝夕の一時期を除いては、おおむね遮断されるに至つたほか、右増築前に比較すると、右家屋への南方からの通風も悪くなつた旨認定したうえ、かようにも日中ほとんど日光が居宅に差さなくなつたことは、被上告人の日常万般に種々影響を及ぼしたであろうことは容易に推認することができると判示している。

 ところで、南側家屋の建築が北側家屋の日照、通風を妨げた場合は、もとより、それだけでただちに不法行為が成立するものではない。しかし、すべて権利の行使は、その態様ないし結果において、社会観念上妥当と認められる範囲内でのみこれをなすことを要するのであつて、権利者の行為が社会的妥当性を欠き、これによつて生じた損害が、社会生活上一般的に被害者において忍容するを相当とする程度を越えたと認められるときは、その権利の行使は、社会観念上妥当な範囲を逸脱したものというべく、いわゆる権利の濫用にわたるものであつて、違法性を帯び「不法行為の責任を生ぜしめるものといわなければならない。

 本件においては、原判決によれば、上告人のした本件二階増築行為は、その判示のように建築基準法に違反したのみならず、上告人は、東京都知事から工事施行停止命令や違反建築物の除却命令が発せられたにもかかわらず、これを無視して建築工事を強行し、その結果、少なくとも上告人の過失により、前述のように被上告人の居宅の日照、通風を妨害するに至つたのであり、一方、被上告人としては、上告人の増築が建築基準法の基準内であるかぎりにおいて、かつ、建築主事の確認手続を経ることにより、通常一定範囲の日照、通風を期待することができ、その範囲の日照、通風が被上告人に保障される結果となるわけであつたにかかわらず、上告人の本件二階増築行為により、住宅地域にありながら、日照、通風を大巾に奪われて不快な生活を余儀なくされ、これを回避するため、ついに他に転居するのやむなきに至つたというのである。したがつて、上告人の本件建築基準法違反がただちに被上告人に対し違法なものとなるといえないが、上告人の前示行為は、社会観念上妥当な権利行使としての範囲を逸脱し、権利の濫用として違法性を帯びるに至つたものと解するのが相当である。かくて、上告人は、不法行為の責任を免れず、被上告人に対し、よつて生じた損害を賠償すべき義務があるものといわなければならない。上告人に右損害賠償の義務を認めた原判決は正当であり、論旨は、採用することができない。

 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

     最高裁判所第三小法廷

 

定款に記載のない財産引受に対する株主総会の承認決議の効力

 

 

              土地建物返還並びに不動産所有権移転登記請求事件

【事件番号】      最高裁判所第1小法廷判決/昭和26年(オ)第510号

【判決日付】      昭和28年12月3日

【判示事項】      定款に記載のない財産引受に対する株主総会の承認決議の効力

             財産引受の無効は譲渡人も主張することができるか

【判決要旨】      定款に記載のない財産引受は、たとい会社成立後株主総会が特別決議をもつてこれを承認しても、有効にはならない。

             財産引受が無効である場合には、会社側だけでなく、譲渡人もその無効を主張することができる。

【参照条文】      商法168-1

             商法246

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集7巻12号1299頁

 

 

会社法

第二十八条 株式会社を設立する場合には、次に掲げる事項は、第二十六条第一項の定款に記載し、又は記録しなければ、その効力を生じない。

一 金銭以外の財産を出資する者の氏名又は名称、当該財産及びその価額並びにその者に対して割り当てる設立時発行株式の数(設立しようとする株式会社が種類株式発行会社である場合にあっては、設立時発行株式の種類及び種類ごとの数。第三十二条第一項第一号において同じ。)

二 株式会社の成立後に譲り受けることを約した財産及びその価額並びにその譲渡人の氏名又は名称

三 株式会社の成立により発起人が受ける報酬その他の特別の利益及びその発起人の氏名又は名称

四 株式会社の負担する設立に関する費用(定款の認証の手数料その他株式会社に損害を与えるおそれがないものとして法務省令で定めるものを除く。)

 

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 商法一六八条一項六号にいわゆる財産引受けは現物出資に関する規定をくぐる手段として利用せられる弊があつたので、これを防ぐため現物出資と同様な厳重な規定を設け、公証人の認証を受けた定款にこれを記載しないと財産引受の効力を有しないものと定められたのである。従つて単に財産引受は会社の保護規定であるから、会社側のみが無効を主張し得るということはできない。この無効の主張は、無効の当然の結果として当該財産引受契約の何れの当事者も主張ができるものであるから、本件訴訟において売主である被上告人のこの主張を容れたことにつき原判決には所論の違法はない。

 右の如く財産引受が定款上無効なる場合と雖も、会社成立後に新に商法二四六条の特別決議の手続をふんで財産取得の契約を有効に結ぶことは可能であるが、原判決はかゝる新たな売買契約の成立を認めていない。単に会社側だけで無効な財産引受契約を承認する特別決議をしても、所論のごとくこれによつて瑕疵が治癒され無効な財産引受契約が有効となるものとは認めることができない。それ故、所論第一点はその理由がない。論旨第二点は、単なる訴訟法違反の主張であつて、「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。

 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致で主文のとおり判決する。

     最高裁判所第一小法廷

 

信楽高原鐵道線・損害賠償請求控訴事件

 

 

損害賠償請求控訴事件、仮執行の原状回復及び損害賠償申立事件、損害賠償請求附帯控訴事件

【事件番号】      大阪高等裁判所判決/平成11年(ネ)第1954号、平成11年(ネ)第1955号、平成13年(ネ)第449号

【判決日付】      平成14年12月26日

【判示事項】      一 単線である信楽高原鐵道線において、信楽高原鐵道(株)所有の列車と、同線に直通乗り入れしていた西日本旅客鉄道(株)所有の列車とが正面衝突する事故が発生し、両列車に乗車していた乗客が死亡した事案において、前記直通乗り入れに関与していた西日本旅客鉄道(株)の従業員は、前記事故発生以前に生じた信楽高原鐵道線の信号機故障の際に施行された代用閉そく方式において信楽高原鐵道(株)の従業員が行っていた同方式の違反行為を現認し、又はこれを知ることができたのであるから、西日本旅客鉄道(株)の前記従業員にはこれを自己が所属する部ないし課の上司に対し報告すべき義務があったにもかかわらず、これを怠った過失があると認定された事例

             二 前記一の事案において、西日本旅客鉄道(株)の直通乗り入れに関与する乗務員に対する教育及び訓練を担当する部署及び安全に関する事項を総括する部署の各責任者並びにこれらの責任者を指導及び監督すべき者には、直通乗り入れに関与する西日本旅客鉄道(株)の従業員が前記一の報告をする体制を確立すべき義務があったにもかかわらず、これらを怠った過失があると認定された事例

             三 西日本旅客鉄道(株)の従業員による前記一又は二の過失がなければ、本件事故は発生しておらず、また、同人らが本件事故の発生を予見することが可能であったので、前記一又は二の過失と本件事故との間には因果関係があると認定された事例

             四 他社線に直通乗り入れをした列車の乗務員が不法行為を行った場合であっても、その不法行為によって損害を被った者に対し、使用者責任を負うとされた事例

【参照条文】      民法709

             民法715

             民法719

【掲載誌】        判例タイムズ1116号93頁

             判例時報1812号3頁

 

 

民法

(不法行為による損害賠償)

第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 

(使用者等の責任)

第七百十五条 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。

3 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

 

(共同不法行為者の責任)

第七百十九条 数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。

2 行為者を教唆した者及び幇ほう助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する。

 

 

 

       主   文

 

1 1審被告の本件控訴を棄却する。

2 1審原告A1及び1審原告A2の附帯控訴に基づき,原判決中同1審原告らに関する部分を,次のとおり変更する。

(1) 1審被告は,1審原告A1及び1審原告A2に対し,それぞれ3491万7993円及びこれに対する平成3年5月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2) 1審原告A1及び1審原告A2のその余の請求をいずれも棄却する。

3 その余の1審原告らの附帯控訴をいずれも棄却する。

4 1審原告A1及び1審原告A2と1審被告との間に生じた訴訟費用は,1,2審を通じて,これを2分し,その1を同1審原告らの負担とし,その余を1審被告の負担とし,控訴費用(1審原告A1及び1審原告A2に関する部分を除く。)は1審被告の負担とし,その余の1審原告らの附帯控訴費用は同1審原告らの負担とする。

5 この判決は,2項の(1)に限り,仮に執行することができる。

 

       事実及び理由

 

第1 申立て

1 平成11年(ネ)第1954号事件

(1) 原判決中,1審被告敗訴部分を取り消す。

(2) 前項の取消部分にかかる1審原告らの請求をいずれも棄却する。

2 平成11年(ネ)第1955号事件

(1) 1審原告らは,1審被告に対し,それぞれ別表1「支払金額一覧表」の「支払金額」欄記載の各金員及びこれに対する平成11年3月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え(仮執行の原状回復の申立て)。

(2) 仮執行宣言

3 平成13年(ネ)第449号事件

(1) 原判決主文二項のうち,1審原告らが1審被告に対しそれぞれ別表2「附帯控訴に基づく請求一覧表」の「請求金額」欄記載の各金員及びこれに対する平成3年5月14日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払いを求める請求を棄却した部分を取り消す。

(2) 1審被告は,1審原告らに対し,それぞれ別表2「附帯控訴に基づく請求一覧表」の「請求金額」欄記載の金員及びこれに対する平成3年5月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(3) (2)につき仮執行宣言

第2 事案の概要等

1 事案の概要

 本件は,1審被告が自己の所有する列車を信楽高原鐵道線に直通乗入運転をしていた際に,同線路上で信楽高原鐵道株式会社(以下,「SKR」という。)が所有及び運転する列車と正面衝突する事故(いわゆる「信楽高原鐵道列車事故」)が発生し,同事故によって両列車に乗車していた乗客が死亡したことから,その相続人である1審原告らが,1審被告に対し,民法709条(予備的に商法261条3項,同法78条2項,民法44条1項),民法715条,旅客運送契約の債務不履行又は安全配慮義務違反に基づき,上記事故によって被った損害の賠償を求めた事案である。

 原審は,1審原告らの民法715条に基づく請求を認め,その請求を一部認容する判決を言い渡した。

 1審被告は,原審の判断を不服として,原判決のうち1審原告の請求を認容した部分を取り消し,同請求を棄却するよう求めて,本件控訴を提起するとともに,1審原告らに対し,原判決の仮執行宣言に基づき支払った金員の返還を求めている。

 他方,1審原告らは,1審原告らの損害を認めなかった原審の判断のうち一部を不服として,原判決の1審原告らの請求を棄却した部分のうち一部を取り消し,同部分の請求を認容するよう求めて,附帯控訴を提起した。

 なお,1審原告らは,本訴において,1審被告とともに,SKRに対しても,民法709条(予備的に商法261条3項,同法78条2項,民法44条1項),民法715条又は旅客運送契約の債務不履行に基づき,損害の賠償を求めたが,原審はその請求を一部認容する判決を言い渡し,同判決は確定している。

 

交通標語チャイルドシート事件

 

 

損害賠償請求控訴事件

【事件番号】      東京高等裁判所判決/平成13年(ネ)第3427号

【判決日付】      平成13年10月30日

【判示事項】      交通標語について複製ないし翻案の主張が認められなかった事例

【参照条文】      著作権法2-1

             著作権法21

             著作権法27

【掲載誌】        判例タイムズ1092号281頁

             判例時報1773号127頁

 

 

事案の概要

1 本件は、交通安全のための交通標語「ボク安心 ママの膝(ひざ)より チャイルドシート」(Xスローガン)を創作したXが、Yらに対し、Yらが、Xの創作に係る交通標語と実質的に同一の交通標語を作成し、交通事故防止キャンペーンのためにテレビ放映された広告においてこれを使用したとして、XがXスローガンについて有する著作権の侵害を理由に、主位的に、損害の賠償を求め、予備的に、不当利得の返還を求めた事案である。

 Yらが広告に使用した交通標語は、「ママの胸より チャイルドシート」(Yスローガン)である。

 本件では、Xは、YスローガンはXスローガンと同一性があると主張し、Yは、交通標語であるXスローガンについては著作物性がないこと、及び、両スローガンには類似性がないことを主張した。

二 本判決は、交通標語の著作物性について、(1)表現一般について、ごく短いものであったり、ありふれた平凡なものであったりして、著作権法上の保護に値する思想ないし感情の創作的表現がみられないものは、そもそも著作物として保護され得ないものであること、(2)交通標語は、交通安全に関する主題(テーマ)を盛り込む必要性があり、かつ、交通標語としての簡明さ、分りやすさも求められることから、これを作成するに当たっては、その長さ及び内容において内在的に大きな制約があること、(3)交通標語は、もともと、なるべく多くの公衆に知られることをその本来の目的として作成されるものであること(Xスローガンは、財団法人全日本交通安全協会による募集に応募した作品であるこを、十分考慮に入れて検討することが必要となるというべきである、としたうえで、交通標語には、著作物性(著作権法による保護に値する創作性)そのものが認められない場合も多く、それが認められる場合にも、その同一性ないし類似性の認められる範囲(著作権法による保護の及ぶ範囲)は、一般に狭いものとならざるを得ず、ときには、いわゆるデッドコピーの類の使用を禁止するだけにとどまることも少なくないものというべきである、と判示した。

 そして、本判決は、Xスローガンの著作物性については、「ボク」、「ママ」及び「チャイルドシート」という三つの語句は、チャイルドシートに関する交通標語において、使用される頻度が極めて高い語句であり、また、「・・・・・・よりチャイルドシートゝとすることは、ごくありふれた手法に属するとして、Xスローガンに著作権法によって保護される創作性が認められるとすれば、それは、「ボク安心」との表現部分と「ママの膝(ひざ)より チャイルドシート」との表現部分とを組み合わせた、全体としてのまとまりをもった5・7・5調の表現のみにおいてであると判断し、Yスローガンは、「ボク安心」に対応する表現はなく、単に「ママの胸より チャイルドシート」との表現があるだけで、全体としてのまとまりをもった5・7・5調の表現がないことから、Xスローガンを複製ないし翻案したものということはできない、と判断した。

 

 

著作権法

(定義)

第二条1項 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

二 著作者 著作物を創作する者をいう。

三 実演 著作物を、演劇的に演じ、舞い、演奏し、歌い、口演し、朗詠し、又はその他の方法により演ずること(これらに類する行為で、著作物を演じないが芸能的な性質を有するものを含む。)をいう。

四 実演家 俳優、舞踊家、演奏家、歌手その他実演を行う者及び実演を指揮し、又は演出する者をいう。

五 レコード 蓄音機用音盤、録音テープその他の物に音を固定したもの(音を専ら影像とともに再生することを目的とするものを除く。)をいう。

六 レコード製作者 レコードに固定されている音を最初に固定した者をいう。

七 商業用レコード 市販の目的をもつて製作されるレコードの複製物をいう。

七の二 公衆送信 公衆によつて直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信(電気通信設備で、その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(その構内が二以上の者の占有に属している場合には、同一の者の占有に属する区域内)にあるものによる送信(プログラムの著作物の送信を除く。)を除く。)を行うことをいう。

八 放送 公衆送信のうち、公衆によつて同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う無線通信の送信をいう。

九 放送事業者 放送を業として行う者をいう。

九の二 有線放送 公衆送信のうち、公衆によつて同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う有線電気通信の送信をいう。

九の三 有線放送事業者 有線放送を業として行う者をいう。

九の四 自動公衆送信 公衆送信のうち、公衆からの求めに応じ自動的に行うもの(放送又は有線放送に該当するものを除く。)をいう。

九の五 送信可能化 次のいずれかに掲げる行為により自動公衆送信し得るようにすることをいう。

イ 公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置(公衆の用に供する電気通信回線に接続することにより、その記録媒体のうち自動公衆送信の用に供する部分(以下この号において「公衆送信用記録媒体」という。)に記録され、又は当該装置に入力される情報を自動公衆送信する機能を有する装置をいう。以下同じ。)の公衆送信用記録媒体に情報を記録し、情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体として加え、若しくは情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に変換し、又は当該自動公衆送信装置に情報を入力すること。

ロ その公衆送信用記録媒体に情報が記録され、又は当該自動公衆送信装置に情報が入力されている自動公衆送信装置について、公衆の用に供されている電気通信回線への接続(配線、自動公衆送信装置の始動、送受信用プログラムの起動その他の一連の行為により行われる場合には、当該一連の行為のうち最後のものをいう。)を行うこと。

九の六 特定入力型自動公衆送信 放送を受信して同時に、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置に情報を入力することにより行う自動公衆送信(当該自動公衆送信のために行う送信可能化を含む。)をいう。

九の七 放送同時配信等 放送番組又は有線放送番組の自動公衆送信(当該自動公衆送信のために行う送信可能化を含む。以下この号において同じ。)のうち、次のイからハまでに掲げる要件を備えるもの(著作権者、出版権者若しくは著作隣接権者(以下「著作権者等」という。)の利益を不当に害するおそれがあるもの又は広く国民が容易に視聴することが困難なものとして文化庁長官が総務大臣と協議して定めるもの及び特定入力型自動公衆送信を除く。)をいう。

イ 放送番組の放送又は有線放送番組の有線放送が行われた日から一週間以内(当該放送番組又は有線放送番組が同一の名称の下に一定の間隔で連続して放送され、又は有線放送されるものであつてその間隔が一週間を超えるものである場合には、一月以内でその間隔に応じて文化庁長官が定める期間内)に行われるもの(当該放送又は有線放送が行われるより前に行われるものを除く。)であること。

ロ 放送番組又は有線放送番組の内容を変更しないで行われるもの(著作権者等から当該自動公衆送信に係る許諾が得られていない部分を表示しないことその他のやむを得ない事情により変更されたものを除く。)であること。

ハ 当該自動公衆送信を受信して行う放送番組又は有線放送番組のデジタル方式の複製を防止し、又は抑止するための措置として文部科学省令で定めるものが講じられているものであること。

九の八 放送同時配信等事業者 人的関係又は資本関係において文化庁長官が定める密接な関係(以下単に「密接な関係」という。)を有する放送事業者又は有線放送事業者から放送番組又は有線放送番組の供給を受けて放送同時配信等を業として行う事業者をいう。

十 映画製作者 映画の著作物の製作に発意と責任を有する者をいう。

十の二 プログラム 電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したものをいう。

十の三 データベース 論文、数値、図形その他の情報の集合物であつて、それらの情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したものをいう。

十一 二次的著作物 著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案することにより創作した著作物をいう。

十二 共同著作物 二人以上の者が共同して創作した著作物であつて、その各人の寄与を分離して個別的に利用することができないものをいう。

十三 録音 音を物に固定し、又はその固定物を増製することをいう。

十四 録画 影像を連続して物に固定し、又はその固定物を増製することをいう。

十五 複製 印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいい、次に掲げるものについては、それぞれ次に掲げる行為を含むものとする。

イ 脚本その他これに類する演劇用の著作物 当該著作物の上演、放送又は有線放送を録音し、又は録画すること。

ロ 建築の著作物 建築に関する図面に従つて建築物を完成すること。

十六 上演 演奏(歌唱を含む。以下同じ。)以外の方法により著作物を演ずることをいう。

十七 上映 著作物(公衆送信されるものを除く。)を映写幕その他の物に映写することをいい、これに伴つて映画の著作物において固定されている音を再生することを含むものとする。

十八 口述 朗読その他の方法により著作物を口頭で伝達すること(実演に該当するものを除く。)をいう。

十九 頒布 有償であるか又は無償であるかを問わず、複製物を公衆に譲渡し、又は貸与することをいい、映画の著作物又は映画の著作物において複製されている著作物にあつては、これらの著作物を公衆に提示することを目的として当該映画の著作物の複製物を譲渡し、又は貸与することを含むものとする。

二十 技術的保護手段 電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によつて認識することができない方法(次号及び第二十二号において「電磁的方法」という。)により、第十七条第一項に規定する著作者人格権若しくは著作権、出版権又は第八十九条第一項に規定する実演家人格権若しくは同条第六項に規定する著作隣接権(以下この号、第三十条第一項第二号、第百十三条第七項並びに第百二十条の二第一号及び第四号において「著作権等」という。)を侵害する行為の防止又は抑止(著作権等を侵害する行為の結果に著しい障害を生じさせることによる当該行為の抑止をいう。第三十条第一項第二号において同じ。)をする手段(著作権等を有する者の意思に基づくことなく用いられているものを除く。)であつて、著作物、実演、レコード、放送又は有線放送(以下「著作物等」という。)の利用(著作者又は実演家の同意を得ないで行つたとしたならば著作者人格権又は実演家人格権の侵害となるべき行為を含む。)に際し、これに用いられる機器が特定の反応をする信号を記録媒体に記録し、若しくは送信する方式又は当該機器が特定の変換を必要とするよう著作物、実演、レコード若しくは放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像を変換して記録媒体に記録し、若しくは送信する方式によるものをいう。

二十一 技術的利用制限手段 電磁的方法により、著作物等の視聴(プログラムの著作物にあつては、当該著作物を電子計算機において実行する行為を含む。以下この号及び第百十三条第六項において同じ。)を制限する手段(著作権者等の意思に基づくことなく用いられているものを除く。)であつて、著作物等の視聴に際し、これに用いられる機器が特定の反応をする信号を記録媒体に記録し、若しくは送信する方式又は当該機器が特定の変換を必要とするよう著作物、実演、レコード若しくは放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像を変換して記録媒体に記録し、若しくは送信する方式によるものをいう。

二十二 権利管理情報 第十七条第一項に規定する著作者人格権若しくは著作権、出版権又は第八十九条第一項から第四項までの権利(以下この号において「著作権等」という。)に関する情報であつて、イからハまでのいずれかに該当するもののうち、電磁的方法により著作物、実演、レコード又は放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像とともに記録媒体に記録され、又は送信されるもの(著作物等の利用状況の把握、著作物等の利用の許諾に係る事務処理その他の著作権等の管理(電子計算機によるものに限る。)に用いられていないものを除く。)をいう。

イ 著作物等、著作権等を有する者その他政令で定める事項を特定する情報

ロ 著作物等の利用を許諾する場合の利用方法及び条件に関する情報

ハ 他の情報と照合することによりイ又はロに掲げる事項を特定することができることとなる情報

二十三 著作権等管理事業者 著作権等管理事業法(平成十二年法律第百三十一号)第二条第三項に規定する著作権等管理事業者をいう。

二十四 国内 この法律の施行地をいう。

二十五 国外 この法律の施行地外の地域をいう。

 

(複製権)

第二十一条 著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。

 

 

(翻訳権、翻案権等)

第二十七条 著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。

 

 

 

       主   文

 

 一 本件控訴を棄却する。

 二 当審における新請求を棄却する。

 三 当審における訴訟費用は、控訴人の負担とする。

 

       事実及び理由

 

第一 当事者の求めた裁判

一 控訴人

(1) 原判決を、控訴人に対し連帯して金一〇〇〇万円を支払うよう、被控訴人らに命じなかった限度で、取り消す。

(2) 被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して金一〇〇〇万円を支払え。

(3) 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二 被控訴人ら

 主文と同旨

第二 事案の概要

 本件は、交通安全のための交通標語(スローガン)を創作した控訴人が、被控訴人らに対し、主位的に、被控訴人らが、控訴人の創作に係る交通標語と実質的に同一の交通標語を作成し、交通事故防止キャンペーンのためにテレビ放映された広告においてこれを使用し、控訴人が、これにより損害を被ったとして、控訴人の創作に係る交通標語の著作権の侵害を理由に、損害の賠償を求め、予備的に、当審における新請求として、被控訴人らは上記交通標語の上記使用により控訴人の損失において不当な利益を得たとして、不当利得の返還を求めている事案である。

 当事者の主張は、次のとおり付加するほか、原判決の「事実及び理由」の「第二事案の概要」記載のとおりであるから、これを引用する(以下、当裁判所も、「原告スローガン」及び「被告スローガン」の語を、原判決の用法に従って用いる。)。

一 控訴人の当審における主張の要点

(1) 著作物の複製とは、既存の著作物を有形的に再製することをいい、多少の修正、増減、変更がなされても、当該著作物との間に同一性があるものを作成すれば、その複製に当たる。この観点からすれば、被告スローガンは、原告スローガンと比べた場合、多少の修正ないし変更がなされているとはいえ、これとの間に同一性があると解すべきである。

(2) 被控訴人らは、共同して、被告スローガンを使用して、テレビコマーシャル「母と子」篇(一五秒もの)を制作し、平成一〇年九月一日から同月二一日にかけて民放各局でテレビ放送し、これにより、一○○○万円を下らない利益を得た。

(3) 仮に、本件の損害賠償請求権が、不法行為による損害賠償請求権として、三年の時効により消滅したとしても、被控訴人らは、無断で原告スローガンを利用して、前記のような利益を受け、これにより控訴人に損失を及ぼしているものであるから、上記利益を、不当に利得したものとして、控訴人に返還する義務を負う。控訴人は、被控訴人らに対し、予備的に、上記不当利得一〇〇〇万円の返還を請求する。

二 被控訴人らの当審における反論の要点

(1) 原判決は、原告スローガンに家庭的なほのぼのとした車内情景が描かれていることから、これに著作物性が認められるとした。

 交通標語でも、俳句に準じるような創作的な表現であれば、例外的に著作物性が認められることもあるであろう。しかし、チャイルドシートを題材にした交通標語である原告スローガンは、それが有する実用的目的のゆえに、表現において大幅な制約が内在する条件の下で作成されたものであり、もともと、そこにおいて表出され得る創作性は極めて少なく、したがって、著作物性の肯定されることは例外的にしかあり得ない性質のものである。家庭的なほのぼのとした車内情景が描かれているという程度のことで著作物性を認める、原審の考え方によれば、交通標語についても、原則として著作物性が認められるということになってしまい、不当な結果となることが明らかである。

(2) 交通標語は、公衆に周知徹底させることを意図したものであり、これに著作権を認めることは、公衆の一般的利益を害し、「文化的所産の公正な利用に留意しつつ・・・・・・もって文化の発展に寄与する」との著作権法の目的にも反することになる。

(3) 仮に、原告スローガンに著作物性を認めるとしても、原告スローガンと被告スローガンとの間には、創作性のある部分において共通するところがない。したがって、両スローガンの類似性を否定した原判決の判断は正当である。

第三 当裁判所の判断

 当裁判所も、控訴人の請求には理由がないと判断する。その理由は、次のとおりである。

一 控訴人は、被告スローガンは、原告スローガンと比べた場合、多少の修正ないし変更がなされているとはいえ、原告スローガンとの間に同一性があると解すべきである、と主張する。

 原告スローガンは、「ボク安心 ママの膝(ひざ)より チャイルドシート」という交通標語であり、チャイルドシートの使用を一般に広めようとする趣旨で作成されたものである(〈証拠略〉)。これに対し、被告スローガンは、「ママの胸より チャイルドシート」という交通標語であり、原告スローガンと同趣旨で作成されたものである(《証拠略》)。両スローガンを対比すると、両者は、「ママの・・・・・・よりチャイルドシート」の部分において共通するものの、原告スローガンは、三句構成であるのに、被告スローガンは二句構成である、被告スローガンには、原告スローガン中の「ボク安心」に対応する語句が存在しない、原告スローガンでは「ママの膝(ひざ)より」となっているのに対し、被告スローガンでは「ママの胸より」となっているという各点で相違することが認められる。

 原告スローガンや被告スローガンのような交通標語の著作物性の有無あるいはその同一性ないし類似性の範囲を判断するに当たっては、(1)表現一般について、ごく短いものであったり、ありふれた平凡なものであったりして、著作権法上の保護に値する思想ないし感情の創作的表現がみられないものは、そもそも著作物として保護され得ないものであること、(2)交通標語は、交通安全に関する主題(テーマ)を盛り込む必要性があり、かつ、交通標語としての簡明さ、分りやすさも求められることから、これを作成するに当たっては、その長さ及び内容において内在的に大きな制約があること、(3)交通標語は、もともと、なるべく多くの公衆に知られることをその本来の目的として作成されるものであること(原告スローガンは、財団法人全日本交通安全協会による募集に応募した作品である。)を、十分考慮に入れて検討することが必要となるというべきである。

 そして、このような立場に立った場合には、交通標語には、著作物性(著作権法による保護に値する創作性)そのものが認められない場合も多く、それが認められる場合にも、その同一性ないし類似性の認められる範囲(著作権法による保護の及ぶ範囲)は、一般に狭いものとならざるを得ず、ときには、いわゆるデッドコピーの類の使用を禁止するだけにとどまることも少なくないものというべきである。

 これを本件についてみると、まず、原告は、母親が幼児を膝の上に乗せて抱いたりするよりもチャイルドシートを着用させたがが安全であるという考え方を広めたいとの趣旨から、「ママの膝(ひざ)より チヤイルドシート」との対句的表現を用いたものであり(《証拠略》)、この表現の前に更に、「ボク安心」との表現を配置して、両者を対句的に用いることにより、家庭的なほのほのとした車内の情景を効果的に的確に表現し、これらを全体として五・七・五調で表現している。他方、「チャイルドシート」は、もともと、保護者が車内に同乗する幼児の安全を守るために着用させるものであり、また、幼児を同乗させる車内の光景としては、父親が車を運転し、母親が幼児を保護するのがその典型的なものとして連想されるため、幼児とその母親とチャイルドシートは密接に関連する題材であるということかでき、このことから、「ボク」、「ママ」及び「チャイルドシート」という三つの語句は、チャイルドシートに関する交通標語において、使用される頻度が極めて高い語句であると推認することができる。また、チャイルドシートの使用をめるに当たり、チャイルドシートを使用しない従前の状態との対比を明らかにすることにより、その効果を高めようとして、「・・・・・・よりチャイルドシート」とすることは、ごくありふれた手法に属する。このようにみてくると、原告スローガンに著作権法によって保護される創作性が認められるとすれば、それは、「ボク安心」との表現部分と「ママの膝(ひざ)より チャイルドシート」との表現部分とを組み合わせた、全体としてのまとまりをもった五・七・五調の表現のみにおいてであって、それ以外には認められないというべきである。

これに対し、被告スローガンにおいては、「ボク安心」に対応する表現はなく、単に「ママの胸より チャイルドシート」との表現があるだけである。そうすると、原告スローガンに創作性が認められるとしても、それは、前記のとおり、その全体としてのまとまりをもった五・七・五調の表現のみにあることからすれば、被告スローガンを原告スローガンの創作性の範囲内のものとすることはできないという以外にない。

二 上述したところによれば、被告スローガンを、原告スローガンを複製ないし翻案したものということはできず、控訴人の著作権侵害に基づく損害賠償の請求も、不当利得返還の請求も、いずれも理由がないことは、その余の点について判断するまでもなく、明らかである。

三 以上のとおりであるから、控訴人の本訴請求中当審において追加した新請求を除く部分を棄却した原判決は相当であり、上記新請求も棄却を免れない。そこで、本件控訴及び上記新請求のいずれも棄却することとして、当審における訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条一項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山下和明 裁判官 設樂隆一 阿部正幸)

 

 

 

OST事件・誇大広告が欺罔にあたるとして原判決を破棄した事例

 

 

              詐欺被告事件

【事件番号】      大阪高等裁判所判決/昭和37年(う)第1503号

【判決日付】      昭和42年6月29日

【判示事項】      誇大広告が欺罔にあたるとして原判決を破棄した事例

【参照条文】      刑法246-1

【掲載誌】        判例タイムズ215号198頁

 

 

刑法

(詐欺)

第二百四十六条 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。

2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

 

 

       判 決 理 由

 

 以上の事実関係から被告人佐野棟に欺罔行為および詐欺の犯意があったかどうかにつき検討する。

 まず、本件訴因における欺罔行為は、被告人佐野棟において、OSTが

(一)不健全な操業を継続している事実を秘匿し

(二)一流会社または有利事業に投資し利益をあげ

(三)その利益をもつて高率の利率の利息を配当する最も安全確実な投資機関であり

(四)期限には確実に元利金を返済する旨虚偽誇大な事実を中向け、一般投資者をしてその旨誤信させたというにある。

 OSTが一般大衆から投資借入金を募集するにあたり宣伝文書または口頭勧誘により右(二)(三)(四)の趣旨のごとき事項を中向け、その反面(一)の事実を秘匿したことは前段認定の事実から容易に看取しえられるのである。そこで右各項と欺罔行為との関係につき順次考察する。

(一)不健全な操業を継続している事実を秘匿したこと。

 その具体的要素を検察官は冒頭陳述において「(イ)資本金が見せ金である。(ロ)卓越した投資技術者など一人もいなかつた。(ハ)OSTの経営方針自体被告人佐野棟の独善的な計画にもとずくものである。(ニ)顧問として有名人を担ぎ出しているが、これらの人は会社の内容実態を把握していず単に顧問として名を列ねただけである。(ホ)当初の被告人佐野棟の方針が実行できず会社は赤字ばかりで投資した子会社は何一つ利潤をあげえなかつた。(ヘ)投資者への利子の支払は投資金から次々に支払つて自転車操業であつた。(ト)従つて堅実な利殖機関としての実態はなんら実現していなかつた。」との諸点をあげた。そして原判決は、これらの事実につきすべて法律上の告知義務はないから右事実を秘匿したことは欺罔行為にならないというのである。なるほどたとえ真実であつても自己に不利な事実をあえて公表する法律上の義務のないことはもちろんである。この意味において告知義務なしとした原判決は当裁判所も首肯できる。しかし単に事実を黙秘したというに止まらずさらに積極的に正反対の事実を吹聴しそのため人をして真実と異る表象をえしめて錯誤に陥らしめたときは、告知義務がないからというだけで欺罔行為の有無を判断することはできないのである。それ故特に右(ホ)(ヘ)(ト)の事実については次項において併わせて考察することとする。

(二) 一流会社または有利事業に投資し利益をあげ

(三)その利益をもつて高率の利息を配当する最も安全確実な投資機関であると宣伝すること。

 OSTの投資借入金の募集にあたり、OSTの事業およびその子会社が何一つ利潤をあげず、投資者への利子の支払は投資金から次々に支払う自転車操業であり、堅実な利殖機関としての実態はなかつた事実について黙秘したばかりでなく、さらに積極的に、OSTは一流会社または有利事業に投資し利益をあげ、その利益をもつて高率配当をする安全確実な投資機関である旨宣伝したことおよびこれらの宣伝が右黙秘した事実すなわち真実と相違していることは明白である。しかるに原判決はこれらは「些か誇大であることはいうまでもないけれども虚偽と断ずるはもとより刑法上欺罔行為というべき程の誇大広告であるかどうかは疑問と考える」というのである。誇大とはある事実の存在を前提とし、これを粉飾誇張しまたは針小棒大に吹聴することをいうのであるとすれば、なるほどボロ会社の存在に対し一流会社、欠損事業の存在に対し有利事業、たこ配当に対して利潤よりの配当ということは、たしかに「誇大」ではあつても事実の存在するという点においては虚偽ではないかもしれない。しかし白を黒と称し小を大というのは、価値判断に関するものとしても、具体的に事実を挙示してこれを主張し人をしてその判断を誤らしめるときは、漫然として捕捉することのできない誇大広告の類と異り、なお虚偽というに足り、刑法上の欺罔手段となりうるものと解すべきである。もつとも原判決はOSTが「利益を計上しうる可能性が全くないといいきれない」とし、「証券の売買については・・・・・・全部が赤字であつたわけではなく幾分かは利益を得ていたけれども結局通算すると赤字であつた・・・・・・不動産事業については・・・・・・売却処分・・・・・・価格はおおむね取得価格より低かつたため結果において損失を来している、しかし右の処分価格が適正価格であるという証明はなされていないから・・・・・・当時損失であるとも利益であつたともにわかに決め難い。更にまたOSTが傘下会社として買収した会社・・・・・・についても、それが経営上の利益を得ていなかつたことは明らかであるが、しからば評価益を計上できないか、あるいは清算して残余財産の分配を得られないかという静的財産状態については適確に把握しうる証拠が全くない」というのである。OSTの証券および不動産の売買その他の事業において、ある時点における取引に限り利益をあげたこともあるのはさきに摘示したとおりであるが、これによつて配当金を賄うにはあまりにも僅少な額である。そして証券部長の渡辺三郎によると証券取引は全体として一、一九〇万円の赤字であつたと供述し(同人の検察官に対する昭和三一年二月二八日供述調書)、また被告人佐野棟によると不動産売買では現実には二二、九〇〇、五七四円の損失を蒙つていると供述し(同被告人の司法警察員に対する昭和三〇年八月一八日付供述調書)ているのである。殊に不動産投資においてさきに摘示したことから明らかなように、その大部分は営業所用または社宅用等に買入れたものであつて、転売して利潤をうる目的のものは二、三にすぎなかつたことからみても、原判決のいう「買叩」が行なわれたとしても不思議ではない。要するに買入価格よりも処分価格の方で低ければそれが「適正価格であるという証明」がなされると否とにかかわらず損失をうけたことには変りはないのである。さらに傘下会社の評価益の計上あるいは清算上の残余財産の分配のごときが適確に把握せられないとしてもこれらが営業上の利益でないことは確かであろう。されば原判決も「現実の利益から配当する趣旨の宣伝は明らかに虚偽といわざるをえない」としているのであつて、右(二)(三)の宣伝が虚偽であることはもはや多言を要しないところである。

(四)期限には確実に元利金を返済すると宣伝したこと。

 この点につき原判決は「期限には確実に元利金が支払われていたことも少くとも昭和二八年一〇月頃までは事実である」から、「その元利金の出所が現象的には投資金のたらいまわしであつたとしても何ら虚偽でもなくまた誇大な宣伝でもなかつたわけである」とし、「『期限には』という表現は将来の事実に関するものであるから、一つの方針ないしは意図を示すものであつて厳密には現在の事実と比較することは困難である」というのである。元利金を支払うと「宣伝」し、元利金が現実に「支払われた」ときは「元利金を支払う」ことになんらの虚偽がないことは原判決のいうとおりであるが、本件起訴にかかわる昭和二八年八月一日以降(もつとも起訴状添付の別表第一中には同日以前の事実が一件含まれているが、これは起訴状公訴事実欄本文に犯罪日時を昭和二八年八月一日頃より昭和二九年二月一三日頃まで記載してあるのと対照すると誤つて挿入されたものとも思えるが、これについては後に判断する)の投資借入金については利息の支払はさておき元金の支払が完全になされていないことは証拠上明白であるからこの部分に関する限り右宣伝は虚偽であるといえる。しかしそれが欺罔行為となるかどうかは被告人佐野棟において本件投資借入金受入の際期限には必ず支払をするという意思があつたかどうかが問題なのであり、この点は改めて犯意の項において論及することになろう。

 さて、右宣伝が虚偽であるとして、一般投資者はこれにより錯誤に陥つたであろうか。これについて原判決はつぎのように説明する。「OSTに対する投資をなすに至つた事情は各人各様であるけれども、その共通した点は利率が著しく高いという点にひかれて投資をしたということであり、中にはとても長続きはしまいが三カ月位は持つだろうからその間に利息を稼ごうと考えた投資者も相当数ある模様である。これによつてみれば、利益の帰するところ損失も又帰するとの一般観念から、投資者が無縁でなかつたことを示している。もとより企業あるいは事業の内容は容易にその実態を補足し難いことであり、今日、とりわけ本件OSTの発足した当時の社会経済事情をふりかえつてみれば、企業あるいは事業の運命を予想することの著しく困難な状況にあったことが知られるが、それにしても月五分ないし四分というのは当時の類似事業に比しても相当高率であり、銀行予金はもとより一般の株式配当に比すれば著しく高いのであつて年約五割から六割の利廻りの裏には相当な危険がひそむことをそのこと自体から読みとることができたわけである。それ故OSTの宣伝広告の対象となつた一般投資者としても当然そのことは考え得た筈である。」。これによると一般投資者は宣伝にまどわされたことはない、錯誤はなかつたというのである。しかし「高率配当」と「安全確実」とはOSTの謳い文句であつた。なるほど中には「三ケ月位は持つだろうからその間に利息を稼ごうと考えた投資者」もあつたことは証拠上否定できないから、高率配当の裏には「相当な危険がひそむことを読みとることができた」としても、利息を稼ぐために元本丸損を覚悟した投資者は見当らないのである。要するに一般投資者としてはOSTの前記の宣伝により「高率配当」にひかれたことはもちろんであるが、元本の「安全確実」を信じたが故に応募したものというべきであるから、被告人佐野棟において当時元本の支払が「安全確実」でないと考えていたら、一般投資者としてはそこに錯誤があつたといえるのである。もつとも「騙されたとは思わない」という人物もいるが(原審証人栗坂吉春の証言)その証言を吟味すると結局OSTは事業に失敗し、投資金の解約が増えたから倒産したのであり、さもなければ、成功したであろうというのであつて、もし被告人佐野棟に支払の意思がなかつたとしたらその点についてはやはり錯誤に陥つていたとみられるのである。

 しからば被告人佐野棟に詐欺の犯意があつたか。もしありとすればそれはOST創設の当初からかあるいは事後の段階からか。検察官は、同被告人としては投資借入金が少くとも一億円に達するまでは事業開始の意思なく、現実にも昭和二八年五月まではなんらの事業を行なわず、もつぱら自転車操業を続ける意思であり、かかる経営形態にあつては新規投資が常に大巾に増加して行かない限り元利金の支払が不可能となることは計数上明瞭であり、しかもこれが常に大巾に増加して行くとは限らないことも常識に属するところであるから、約定通り確実に兀利金を支払う意思がなかつたのにかかわらず、自ら立案作成した「営業御案内」なる虚偽の宣伝文書を配布し、これによつて一般投資者を誤信させて投資金を受入れようとしたのであるから、同被告人にはOST創設当初から詐欺の犯意あることはもちろん、同被告人がOSTに復帰した昭和二八年八月一日頃からは経営状態の悪化が極めて顕著となり投資者との約定を履行しえなくなることは十分予見しえた筈であるのに、なおも従前の宣伝方法を踏襲している以上、錯誤を利用して投資金を獲得しようとする意思が一層明瞭となつたと主張し、原判決は、本件宣伝広告は昭和二八年五月末頃までは虚偽であつたが、その後は誇大ではあるが刑法上欺同行為というべき誇大広告であったかどうか疑問である。宣伝広告の中核的位置を占めている「営業御案内」は当初同被告人によつて起案作成されたものであるが、それが如何なる認識、意図のもとに出たものであるかを知るよすががない。つまリ「営業御案内」の記載が現実問題と対比すれば真実に反しているという認識はあつたというべきであろうが、さらにすすんでかかる真実に反する広告をし、不特定多数の対象を錯誤に陥らしめて、その錯誤を利用することによつて資金を投資金名下に集めようとの意図があつたか否かとなると疑問であり、右広告は方針ないしは企画を宣伝したものであるとの同被告人の弁解を斥ける証拠はないとして、同被告人の当初よりの犯意を否定し、さらに同被告人OST復帰後においては、OSTの事業の活溌化は広告が常にその背後にある事実関係との関連において問題とされざるをえないこととの関係上、少くとも当初の虚偽性を失ない誇大性に変質したものというべく、してみれば同被告人において単なる誇大広告ではなく、欺罔行為となるべき誇大広告であることを認識しつつあえてあるいはそのような広告による錯誤を利用する意図のもとに広告を続けていたか否かが明らかにされなければならないが、その後の「営業御案内」の内容には利率の改訂のほか、OSTは保全経済会のごとき匿名組合と異なる株式会社で安全確実であるとの宣伝が加わつただけで、新規投資なるものを具体的に欺罔手段をほどこすことによつて得ようとの認識が果して存したかどうかは疑問なきをえず、被告人佐野棟の認識の中にはそれ程確固とした犯意のごときものはなかつたとして、同被告人復帰後の段階における犯意も否定するのである。

 案ずるに、被告人佐野棟にOST創立の当初から投資借入金騙取の意思があつたことは必ずしも確認し難いところであるが、それは別として、本件起訴は昭和二八年八月一日以後すなわち同被告人がOSTに復帰した以後における投資借入金に関するものであるから、当裁判所としては同被告人の当時における意思を究明すれば足るものと考える。

 昭和二八年八月一日当時OSTにおいては、投資借入金の累計が四四九、三六二、〇二五円に達しなお急増しつつあつたこと、しかしOSTの直営事業および傘下会社の事業は少しも業績をあげず、同年七月末における純損金は九三、三三六、〇一三円繰越欠損金は二六、二四一、五二六円に止り、投資借入金の元利金の支払も後の投資借入金のたらい廻しによつていたものであり、その総額も一二三、八四六、四九三円に達していたこと、同被告人はこれらの事実を知りながら従前の宣伝方法である[営業御案内」等の配布および従業員の口頭説明等によりOSTは有利な事業に投資し高率配当しても安全確実な利殖機関である旨勧誘し、一般投資者は「高率配当」と「安全確実」にひかれて投資金の応募をしたものであることはさきに認定したとおりである。「高率配当」ということがいかに魅力的であつたかは他の金融機関から預金を引出してOSTに預け替をした投資者が多数あつたことからも容易に推測できるのであり、原判決も投資者の共通した点は利率が著しく高いという点にひかれたことであると認定している。しかるにもし同被告人において原判決認定のごとく「逐次利下げをする考」であつたり、「利率を徐々に引下げる」意思であつて、しかもこれを一方的になす意思であるならば(事実同被告人は昭和二九年一月からは月一分に利下げすることを一方的に断行しているし、また同被告人は当審公判廷において利率引下の方針は自分だけの考でありこれを他に洩らしたことはなかつたと供述している)まさに羊頭狗肉の欺罔行為ありとなすに足る。原判決は「利率引下げについては、その旨が『営業御案内』にも記載されていないようであり」というが、既契約のものに関しては証拠上かかる形跡はない。さらに「安全確実」とはOSTの基礎、経営の点はともあれ、究極するところは一般投資者にとって期限に元本が確実にすなわち額面を割らずに返済されることを意味するのである。昭和二八年八月一日以後OSTにおいて受入れた投資借入金にして本件起訴にかかるものの元本がいずも期限に返済されていないことは明白である。しからば当時OSTに復帰した被告人佐野棟において期限に元本を返済する意思があったかどうか。これが本件詐欺罪の成否において中核をなす問題点である。

 この点に関し、検察官の所論は、「当時OSTの事業内容は頗る悪化しており、自転車稼業であるからには新規投資が絶えず増加することを要するが、しかしこれが無限に増加することはありえないから、元利金の支払が不可能になることは時間の問題であり、計数上当然の帰結である。同被告人は当然これを予見したものといわざるをえない」というのであり、これに対する原判決の説示は「OSTは結果的には成立たなかつたが、同被告人のこれに対する企画構想が理論上も実際上も成立ちえないものであるとの立証はなされていない。自転車操業であることはなんら犯意を決定づけるものではなく、同被告人において新規投資が大巾に増加してゆくとの見込みを持つていなかつたと断定するに足る証拠なく、むしろOST発足当時は事業として成立ちうる考であつたと認められるが、OST復帰後においても投資借入金は急増しつつあり、自転車操業を継続する間に事業を活溌に進めて行くとともに利率を徐々に引下げてゆけばその企画構想は実現したかもしれない。現に同被告人は、事業に対する組織を拡大し、傘下会社を整理し、相当多額の不動産を次ぎ次ぎと買取し、傘下会社を買収し、そのうちのあるものに対しては投下資本に対する月五分の利息を要求し、或は保全旋風前においても利率の引下を断行している。傘下会社は赤字ではあつたが劣悪会社であるとは即断しえないから、投資先が赤字会社というだけでは同被告人に支払不能の予見があるとはいえない。また保全旋風以後における投資借入金については、OSTが元利金の支払停止はともかく支払不能となることを予期しながらさらに投資金の受入を続けたとの点について積極的認定ができないから、この面からも同被告人に詐欺の犯意があつたものとはいえず、元金の支払停止をしている昭和二九年二月中頃以後の投資については同被告人の統制が及んでいたかどうか疑問である。」というにつきる。

 OSTが投資借入金を受入れたその月からは毎月四分ないし五分の利息を配当し、三カ月ないし一年後からは元本の返済をしなければならぬ約定でありこれを実行する以上、事業利益が出ない限り、これらはすべて後の投資借入金により賄わなければならぬことになる。そしてかかる短期、高利の資金運用においては配当金、返済金は日を追つて飛躍的に増加し、新規投資は絶えずこれを上迴つて募集せられなければ、自転車に例えられる操業は遂に顛倒崩壊することになるのであつて、この理は計数上明らかともいえるであろう。被告人佐野棟のOST復帰当時の経理状態は前記認定のとおりであり、すでに巨額の欠損を生じていた。しかし当時なお投資借入金は急増しつつあつたのであるから原判決のいうとおり「自転車操業を継続する間に事業を活溌に進めて行くとともに利率を徐々に引下げてゆけば」自転車はやがて坂途を下り新規投資金の流入が頭打ちとつても事業を成功に導くことができたかもしれない。しかし「利率を引下げる」ことは高率配当の魅力を減殺して投資借入金の増大を妨げることになるであろうし、既契約分につき一方的にこれを断行することは欺罔行為でさえある。また「事業を活溌に進めて行く」目途が当時の同被告人にあつたであろうか。西沢源一郎経営時代に投資した傘下会社である大阪相互金融株式会社、大阪相互不動産株式会社、大日本興発株式会社は実質的な仕事は何もしておらず、大阪興産株式会社は四〇○万円程の赤字を出していたのである。

 されば同被告人も「これは厖大な経費を使つてただ金を集めるだけで収益は何もあげず、集めた金を皆で食いつぶしているというような状態であつた訳です。私はこのような状態を見てこんな調子では会社は早晩行き詰るのではないかと心配すると同時に兎に角一日も早く収益をあげる事業をやらなければならないと思いました。そして又そのような事業をやるためには益々新規な投資借入金を集めなければならんとも考えました。ここで新規な金子を集めるのをやめれば会社は行き詰るほかないからです。」と述べ(同被告人の検察官に対する昭和三一年三月五日付供述調書)、収益事業に著手しても新規借入金の増加がなければ行き詰ることを予想しているのである。しかも同被告人の著手した収益事業なるものは悉く失敗に帰し、その発想は不首尾に終つた。そしてこれもまた同被告人の予想外の出来事でなかつたことはつぎの供述からも明白である。「事業をする私としては将来経済事情の変化で今まで集つていた借入金が何時集らなくなるかも知れない事も考慮の中に入れておかねばならない事もよく承知していました。それでこうすれば確実に間違いなく儲けるという訳のものではなく、大衆の金を借りて一つの思わくをやる訳ですから私の思うとおりにならず最悪の場合には投資者の人達に迷惑をかけるようになるかも知れない事も考えられない訳ではありませんでした」(同供述調書)。

 しかも真実同被告人が収益事業に執心し、事業の活撥化を志したかどうかは極めて疑わしい。同被告人が投資しまたは買収した傘下会社は実質的にはなんらの仕事をしなかつたかあるいはは負債を背負つた会社であって、これらを堅実に育成または再建強化し、その営利性を高めようとした気迫は同被告人には少しもみられないのである。OSTの宣伝において重点の一つになつている不動産投資においても、その総額は六九、〇六五、八七四円(敷金を除く)であつて、これを投資借入金総額に比すると七パーセント程度に該当し、そのうち転売を目的とした投資はわずか三件で合計八、八四一、八四〇円にすぎず、その大部分は営業所用のものであつたことからみると、不動産事業というには恥しい程度のものであつて、これを原判決がいうように不動産投資にも相当な力を注いでいた」とはとうてい考えられないのである。証券投資にしてもようやく昭和二八年一〇月(事実上は九月からとも思われる)から開始されたが、その取引には宣伝にあるような卓越した手腕はみられず、結局は一、一九〇万円余の欠損であったことはさきに述べたとおりである。また傘下のある会社に対しては投資額の月五分の利息の回収を試みたとするも、投資借入金に対する利息と対比すると利益をえようとする意図はおろか始めから経費損を覚悟していたとも思えるのである。もつとも同被告人はこれについては当該傘下会社の製品を販売して利益をあげる予定であつたというが(同被告人の検察官に対する昭和三一年三月六日付供述調書)、これにはなおその会社に運転資金として五、○○○万円を融資し原料の仕入を一、二割安くすればという条件がついているのであり、この条件が充たされたという証拠はない。なお原判決は傘下投資先が劣悪会社であるという証拠はないから赤字会社に投資しただけでは「支払停止はともかく支払不能」を予言したことにならないというが、営利を目的とする会社が利益も一度も計上せず赤字続きの経営であればこれを劣悪会社と呼ぶにふさわしいものと考えるが、もちろん投資先が赤字会社または劣悪会社であるとの一事をもつて「支払不能」の予見の証拠となすは至難であろうが(この種の詐欺においては「支払不能」のみならず「支払停止」または支払拒絶の予見があつても犯意ありとなすに足ると解すべきである。)、同被告人は傘下会社への投資に当つては「忽ちに収益を期待できるような性質のものではなかつた」(同被告人の検察官に対する昭和三一年三月五日付供述調書)、或は「株の利益配当とか収益事業等は当分望めないと思つた」「何しろ借金が多いので株を持ってもその利益配当を受けるというようなことは当分望めないと思つた」(同昭和三一年三月六日付供述調書)ということになれば、かかる会社に投資したことは、短期資金の運用を余儀なくされている投資借入金の返済につき「支払拒絶」(支払不能、支払停止を含む)の予見を認める間接証拠とはなりうるのである。殊にいわゆる保全旋風以後においては投資借入金の流入は激減し収益事業の目算はなかつたのであるから、投資借入金の受入を続行すれば期限にこれを返済できない状態になることは容易に予見しえた筈である。もつとも同被告人において募集打切を指令した昭和二九年一月過ぎの投資借入金については、一般投資者においてOSTの従来の宣伝にもとずき期限には返済をうけられるものと誤信して営業所に持参したものであるとしても、これについては同被告人に騙取の意思がなかつたとみるのが相当であろう。

 さらに、詐欺罪といえども財産領得罪であるから不法領得の意思を要すべきはもちろんであるが、原判決は「被告人佐野棟がOSTを利用して自己資産の増加をはかつたとか、その私生活において乱脈があつたとか酒食遊興に寧日なかつたというような私利を得ようとした形跡は認め難いから、同被告人に不法領得の意思が存するか否かももとより疑問といわなければならない」というのである。しかし私利私慾に走らなければ不法領得の意思がないとするのは俗論としてはとも角、法律論として不適当であることはここに指摘するまでもないことである。

 これを要するに、OSTの運用資金は返済期限をそれぞれ三カ月、六カ月、一年とする短期借入金であつてその上月四分ないし五分という高利であるから、その廻転、運用はよほど迅速巧妙でなければ、すなわち「卓越した投資技術」を駆使しなければ負債は忽ちにして雪だるま式に累み、企業は破局を迎えることになる。OSTは昭和二七年一一月に創立されたが、昭和二八年五月までは借入金を募集するだけでも何も事業を開始しなかつた。同被告人は借入金が一億円に達するまでは事業に著手する考はなかつたというが、昭和二八年三月には投資借入金の総計はすでに一億円を超え、同年四月には一億六、〇〇〇万円に達していたのである。原判決のいうとおり同被告人は「資金集めの快調さに酔つていたかに見える」のである。そして同被告人がOST復帰後においても、西沢源一郎経営時代に投資した諸会社はなんら業績に寄与せず、同被告人の投資した会社も始めから収益を意図しなかつたかまたは負債を背負つた会社で短期に利潤をあげうる望みはなかつたのである。不動産事業も事業といえるほどの投資をしていなかつたし、証券取引も利食いの常道に反し買値より安い価格で売却した場合が多いことからみると資金繰りのため換金処分ともみられなくはないのであつて、堅実な事業家の姿勢は少しもみられないのである。原判決は「結果論よりすれば、OSTは結局成立たなかつたということになろうが、同じく結果論よりすれば、その後不動産の地価は著しく、騰貴し、株式価格も相当の値上りを示し、更に大正造船株式会社の如きは破産の域に達しつつ数千万円で買受けるものがあらわれていた」というのであるが、結果論からすれば不動産、証券、大正造船株式会社のごときはすでに人手に渡つているのであるが、かりにこれらを持続すれば中には今日十数倍に価格が暴騰したものもあるに違いない。しかし問題は短期資金の運用にあるのであつて、投資物件を長期にわたつて温存しその値上りを待つという悠長緩漫な施策ではとうていOSTの事業としては成立つものでない。

 以上の観点からすると被告人佐野棟はOST復帰後、0STは欠損続きで早急に収益を確保する事業の目算がなかつたので、約定の期限に確実に投資借入金を返済する見込がないことを認識しながら、前記のとおり高率配当と安全確実とを宣伝して元本の期限返済を確約し、よつて昭和二八年八月一日以降の一般投資者をしてOSTは真実有利事業に投資して利益をあげて高率配当をし、期限には必ず元本の返済がうけられるものと誤信させ、または従前の同様の宣伝勧誘等により同じく誤信した一般投資者が提供したものであることを知りながら、投資借入金名下に金員または証券をOSTの営業所等の従業員に交付させ、または提供された金品の受領を容認したものということができるのである。しかし被告人佐野棟に対する本件詐欺の公訴事実中、別紙「無罪表」に記載してある昭和二九年一月以後の訴因についてはさきに認定したとおり同被告人にはこれらにつき犯意なきものと認められ、また右表のうち昭和二八年七月一三日(起訴番号二七〇三)の訴因については同被告人がOSTに復帰前のことであるから同被告人がこれに関与したと認めることが困難であり、その他同表に記載する訴因はいずれも金品の交付また欺罔の点につき証拠不十分と認められるのである。従つてこの部分に対する原判決の無罪の判断は正当であつてなんら事実の誤認はないが、他は詐欺罪の成立を認める証拠があるにかかわらず原判決がこれらにつき無罪の言渡をしたのは証拠の価値判断を誤つて事実を誤認したことに帰し、判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、右部分に限り原判決は破棄を免れない。論旨は右の限度において理由がある。

外務省電信文案事件・国家公務員法109条12号、100条1項にいう秘密の意義とその判定


国家公務員法違反被告事件
【事件番号】    最高裁判所第1小法廷決定/昭和51年(あ)第1581号
【判決日付】    昭和53年5月31日
【判示事項】    1、国家公務員法109条12号、100条1項にいう秘密の意義とその判定
          2、外交交渉の概要が記載された電信文案が国家公務員法109条12号、100条1項にいう秘密にあたるとされた事例
          3、いわゆる違法秘密にあたらないとされた事例
          4、国家公務員法111条にいう同法109条12号、100条1項所定の行為の「そそのかし」の意義
          5、国家公務員法111条、109条12項、100条1項の「そそのかし」罪の構成要件にあたるとされた事例
          6、報道機関による公務員を対象とした秘密の取材と正当業務行為
          7、正当な取材活動の範囲を逸脱しているとされた事例
【判決要旨】    1、国家公務員法109条12号、100条1項にいう秘密とは、非公知の事実であって、実質的にもそれを秘密として保護するに値するものをいい、その判定は、司法判断に服する。
          2、昭和46年5月28日に愛知外務大臣とマイヤー駐日米国大使との間でなされた、いわゆる沖縄返還協定に関する会談の概要が記載された本件1034号電信文案は、国家公務員法109条12号100条1項にいう秘密にあたる。
          3、本件対米請求権問題の財源についてのいわゆる密約は、政府がこれによって憲法秩序に牴触するとまでいえるような行動をしたものではなく、違法秘密ではない。
          4、国家公務員法111条にいう同法109条12号、100条1項所定の行為の「そそのかし」とは、右109条12号、100条1項所定の秘密漏示行為を実行させる目的をもって、公務員に対し、その行為を実行する決意を新たに生じさせるに足りる慫慂行為をすることを意味する。
          5、外務省担当記者であった被告人が、外務審議官に配付又は回付される文書の授受及び保管の職務を担当していた女性外務事務官に対し、「取材に困っている助けると思って安川審議官のところに来る書類を見せてくれ。君や外務省には絶対迷惑をかけない。特に沖縄関係の秘密文書を頼む。」という趣旨の依頼をし、さらに、別の機会に、同女に対し「5月28日愛知外務大臣とマイヤー大使とが請求権問題で会議するので、その関係書類を持ち出してもらいたい。」旨申し向けた行為は、国家公務員法111条、109条12号、100条1項の「そそのかし」罪の構成要件にあたる。
          6、報道機関が公務員に大使秘密を漏示するように、そそのかしたからといって、直ちに当該行為の違法性が推定されるものではなく、それが真に報道の目的から出たものであり、その手段方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会観念上是認されるものである限りは、実質的に違法性を欠き正当な業務行為である。
          7、当初から秘密文書を入手するための手段として利用する意図で女性の公務員と肉体関係を持ち、同女が右関係のため被告人の依頼を拒み難い心理状態に陥ったことに乗じて秘密文書を持ち出させたなど取材対象者の人格を著しく蹂躙した本件取材行為(判文参照)は、正当な取材活動の範囲を逸脱するものである。
【参照条文】    国家公務員法100-1
          国家公務員法109
          国家公務員法111
          裁判所法3-1
          憲法73
          刑法35
【掲載誌】     最高裁判所刑事判例集32巻3号457頁



 事案の概要
 被告人西山は、毎日新聞社東京本社編集局政治部に勤務し、昭和46年2月から昭和47年2月までの間外務省担当記者であった者であり、蓮見は、外務事務官として外務省外務審議官室に勤務し、外務審議官安川壮に配付又は回付される文書の授受及び保管の職務を担当し、右文書の内容を了知しうる立場にあった者であるが、昭和46年5月18日従前それほど親交のあったわけでない蓮見と一夕酒食を共にしたうえ肉体関係を結んだ被告人西山は、肉体関係ができたので頼めば役所の書類を見せてもらえるのではないかと考え、同月22日「ホテル山王」に誘って肉体関係をもった直後、「取材に困っている、助けると思って安川審議官のところに来る書類を見せてくれ。
君や外務省には絶対に迷惑をかけない。
特に沖繩関係の秘密文書を頼む。」という趣旨の依頼をして懇願し、一応同女の受諾を得たうえ、さらに、同月26日ころ、秋元政策研究所事務所において、同女に対し「5月28日愛知外務大臣とマイヤー大使とが請求権問題で会談するので、その関係書類を持ち出してもらいたい。」旨申し向け、本件第1034号電信文案のコピーを受け取った。


 

住宅火災保険の目的建物の譲渡につき保険者に対する通知義務を怠ったときには保険金の支払が免責される旨の普通保険約款の解釈

 

 

              火災保険金支払請求事件

【事件番号】      最高裁判所第3小法廷判決/昭和63年(オ)第1735号

【判決日付】      平成5年3月30日

【判示事項】      住宅火災保険の目的建物の譲渡につき保険者に対する通知義務を怠ったときには保険金の支払が免責される旨の普通保険約款の解釈

【判決要旨】      保険契約者又は被保険者が住宅火災保険の目的である建物の譲渡につき保険者に対する通知義務を怠ったときには保険金の支払が免責される旨の普通保険約款の条項は、保険契約者又は被保険者が保険者に対して譲渡後遅滞なく右通知義務を履行することを怠っている間に保険事故が発生した場合に保険者が免責されることを定めているものと解すべきである。

【参照条文】      民法91

             商法650

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集47巻4号3384頁

 

 

事案の概要

 本判決は、住宅火災保険契約締結後に保険契約者兼被保険者が保険の目的建物を譲渡したところ、その2日後に右建物が火災で焼失した場合に、保険者は、「保険契約者又は被保険者が保険の目的である建物の譲渡につき保険者に対する通知義務を怠ったときには保険金の支払が免責される」旨の普通保険約款8条2項の定めによって免責されるか否かが問題になったものである(本件約款8条全文は、本判決の第1の1の4を参照されたい。)。 事案は、次のとおりである。

Aは、本件建物の所有者であった(Aは、本件建物に譲波担保権を設定していたが、これは実行されていなかった。)が、昭和54年11月12日、Yとの間で、本件建物につき、保険金3500万円・保険期間同日から昭和55年11月12日までの住宅火災保険契約を締結し、約定保険料を支払った。

Xは、昭和55年4月10日、Aから本件建物を買い受け、翌日その旨の所有権移転登記もされたが、本件建物は、翌々日類焼した。

 XがYに対し、本件保険契約に基づき、保険金の支払を求める訴えを提起したところ、Yは、本件免責約款に基づき、「AもXもYに対し、本件火災前に本件建物の譲渡につき通知をしなかったから、Yは本件火災によってXが被った損害をてん補する責任を負わない。」と主張する。

 

 

民法

(任意規定と異なる意思表示)

第九十一条 法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは、その意思に従う。

 

 

保険法

平成二十年法律第五十六号

(損害発生の通知)

第十四条 保険契約者又は被保険者は、保険事故による損害が生じたことを知ったときは、遅滞なく、保険者に対し、その旨の通知を発しなければならない。

 

 

       主   文

 

 原判決中、被上告人興亜火災海上保険株式会社に関する部分を破棄し、右部分につき本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

 上告人の被上告人日動火災海上保険株式会社に対する上告を棄却する。

 前項に関する上告費用は上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人池上徹の上告理由について

 第一 被上告人興亜火災海上保険株式会社(以下「被上告人興亜火災」という。)関係

 一 原審が確定した事実関係の概要は、次のとおりである。

  1 訴外Aは、建築中の本件建物を所有していたところ、昭和五四年一一月一二日、被上告人興亜火災との間で、本件建物につき、保険金を三五〇〇万円とし、保険期間を同日から昭和五五年一一月一二日までとする住宅火災保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結し、約定保険料二万八〇〇〇円を支払った。なお、Aは、本件保険契約の締結に先立って、昭和五四年八月三一日、訴外Bから二〇〇〇万円を借り入れ、この債務を担保するため本件建物及びその敷地に譲渡担保権を設定していたが、本件保険契約締結当時、右譲渡担保権は実行されていなかった。

  2 上告人は、昭和五五年四月一〇日、Aから本件建物及びその敷地を買い受け、翌一一日、本件建物及びその敷地につき、上告人を所有者とする所有権移転登記がされた。

  3 本件建物は、昭和五五年四月一二日に類焼被災した(以下この事故を「本件火災」という。)。

  4 本件保険契約においては、被上告人興亜火災作成の普通保険約款(以下「本件約款」という。)によるべきこととされているところ、本件約款八条は、一項において、「保険契約締結後、次の事実が発生した場合には、保険契約者または被保険者は、事実の発生がその責めに帰すべき事由によるときはあらかじめ、責めに帰すことのできない事由によるときはその発生を知った後、遅滞なく、その旨を当会社に申し出て、保険証券に承認の裏書を請求しなければなりません。ただし、その事実がやんだ後は、この限りでありません。(1) 保険の目的を譲渡すること。(2) 保険の目的である建物または保険の目的を収容する建物の構造または用途を変更すること。(3) 保険の目的を他の場所に移転すること。ただし、第一条第一項の事故を避けるために、他に搬出した場合の五日間については、この限りでありません。」と定めている。そして、同条二項は「前項の手続を怠った場合において、その事実が発生した時または保険契約者もしくは被保険者がその発生を知った時から当会社が承認裏書請求書を受領するまでの間に損害が生じたときは、当会社は、保険金を支払いません。」と、同条三項は「第一項の事実がある場合には、当会社は、その事実について承認裏書請求書を受領したと否とを問わず、保険契約を解除することができます。」と定めている。

  5 Aも上告人も、被上告人興亜火災に対し、本件火災前に、本件建物の譲渡につき、本件約款八条一項に基づく承認裏書請求をしなかった。

 二 原審は、右事実関係の下において、次のとおり判断した。

  1 Aは、本件保険契約締結時において、Bに対して本件建物につき譲渡担保権を設定していたが、譲渡担保の実行手続の完結前であり、本件建物につき所有者としての被保険利益を有していたから、本件保険契約は有効に成立した。

  2 上告人は、Aから本件建物を買い受けたが、被保険者が保険の目的を譲渡したときは同時に保険契約によって生じた権利を譲渡したものと推定する旨を規定する商法六五〇条一項により、上告人は、Aから、本件保険契約上の権利をも譲り受けたものとみるべきである。なお、同条二項は、保険の目的の譲渡が著しく危険を変更又は増加したときは保険契約はその効力を失う旨を規定するところ、Aから上告人に対する本件建物の譲渡が著しく危険を変更又は増加したとの主張立証はない。また、上告人が、被上告人興亜火災に対し、本件保険契約上の権利の譲受を主張するためには、民法四六七条に規定する対抗要件を具備することが必要である。

  3 本件約款八条は、三つの限定列挙された事実について保険契約者又は被保険者に通知義務を課し(一項)、これを怠った者に対しては保険者を免責するという効果を定め(二項)、通知の受領後における保険者の契約解除の自由を留保することを定める(三項)ものであるところ、保険の目的が譲渡された場合に危険の著しい変更又は増加があるときは契約が当然に失効する旨の商法六五〇条二頃の規定の適用を排除するとともに、危険の著しい変更又は増加がないときを含めて、保険契約上の権利移転の対抗要件に関する民法四六七条の規定を包摂・代替しようとするものでもあるが、合理的なものであり、有効である。

  4 Aの上告人に対する本件建物の譲渡は、本件約款八条一項の「その責めに帰すべき事由によるとき」に当たるから、A又は上告人は、同項により、あらかじめ本件建物譲渡の事実を被上告人興亜火災に通知して本件保険証券への承認裏書請求の手続を採るべきであった。それにもかかわらず、Aも上告人も、右手続を怠ったから、被上告人興亜火災は、上告人に対し、本件火災によって上告人が被つた損害をてん補する責任を負わない。

 三 原審の判断のうち、二の1及び2は、いずれも正当というべきであるが、本件約款八条二項による被上告人興亜火災の免責を肯定した原審の判断は、是認することができない。その理由は、次のとおりである。

  1 火災保険は、保険事故発生の危険率に従って保険料が定められ、運営される制度であるところ、保険の目的の譲渡は、火災の危険を変更又は増加する可能性を有する事実であるから、保険者には、保険の目的が譲渡された場合に、譲渡が危険を変更又は増加したか否か、変更又は増加したときはその程度を調査の上、当該保険契約につき、従前の内容で継続することとするか、追加保険料を請求して継続することとするか、保険料のうち残存期間相当部分を返還して解除することとするか、の検討の機会を留保する正当な利益があるものというべきである。したがって、保険の目的が譲渡された場合に、保険契約者又は被保険者にその事実の通知義務を課した本件約款八条一項及び保険者による契約解除権の留保を定める同条三項の各条項は、有効なものというべきである。

  2 そして、右のように、保険契約者又は被保険者に保険の目的譲渡の事実の通知義務を課した主要な目的が、保険者において契約解除の機会を留保することにあることからすれば、右通知義務が履行されないうちに保険事故が発生した場合には保険者は損害てん補の責めを免れるという効果を伴って初めてその目的を達することができるものというべく、右通知義務の不履行に対して保険者を免責するという効果を定める本件約款八条二項が不合理なもので効力を有しないものということはできない。これは、保険の目的の譲渡によって危険の著しい変更又は増加がある場合であるか否かとかかわりがない。また、同条一項によって保険契約者又は被保険者に課される書面による承認裏書請求という手続が、不当に煩わしく過大なものということもできない。

  3 しかし、保険の目的である建物が譲渡された場合において、本件約款八条一項は、保険契約者又は被保険者に対して譲渡後遅滞なく右譲渡の事実を通知すべき義務を課したものと解するのが相当であり、したがって、同条二項は、保険契約者又は被保険者が保険者に対して譲渡後遅滞なく右通知義務を履行しないでいる間に保険事故が発生した場合に保険者が免責されることを定めているものと解するのが相当である。けだし、保険の目的の譲渡とは保険の目的である建物の所有権の移転をいうものと解すべきところ、一般に、売買等の契約によって建物の所有権が移転する場合においては、所有権の移転が売買代金の完済や所有権移転登記手続の完了等の時点まで留保される結果、代金の完済等がされないため約定の期日に所有権移転の効果が発生しないこともまれではなく、所有権の移転につきあらかじめ通知することを要求するのは保険契約者又は被保険者に対して困難を強いる結果となるので、本件約款八条一項が、保険の目的の譲渡として、建物所有権の移転の効果が発生する前にあらかじめ通知することを要求するものと解するのは相当でないからである。

 これを本件についてみるのに、本件火災が発生したのは、Aから上告人に対する本件建物譲渡の二日後のことであり、本件建物の所有権が移転した後であるとしても、A又は上告人が被上告人興亜火災に対して遅滞なく右通知義務を履行しなかったということはできないことが明らかであり、本件約款八条二項を適用する場合ではないものというべきである。

  4 そうすると、更に進んで、上告人において本件保険契約上の権利の譲受について民法四六七条に規定する対抗要件を具備しているか否か、上告人が本件火災によって被った損害の額などについて審理すべきものであり、本件約款八条二項を適用して被上告人興亜火災の免責を肯定した原審の判断には、同項の解釈を誤った違法があり、この違法が判決に影響することは明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。

 第二 被上告人日動火災海上保険株式会社(以下「被上告人日動火災」という。)関係

 訴外Cが被上告人日動火災との間で本件建物につき締結した保険契約は、本件建物の所有者でない者が締結した住宅火災保険契約であるから、右契約が建設工事保険契約であることを前提とする上告人の被上告人日動火災に対する請求は理由がない旨の原審の認定判断は、正当として是認することができる。論旨は、原判決の結論に影響を及ぼさない部分についてその違法をいうに帰し、採用することはできない。

 第三 結論

 以上の次第で、原判決中、被上告人興亜火災に関する部分は、破棄し、第一の三の4記載の諸点を審理させるために右部分につき本件を原審に差し戻すこととし、被上告人日動火災に対する上告は棄却することとする。

 よって、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

    最高裁判所第三小法廷

被告人両名(実母及び養父)が,3歳児の子に,暴行を加えて傷害を負わせ死亡させたという各傷害,傷害致死,暴行の事案

 

 

              各傷害,傷害致死,暴行被告事件

【事件番号】      福岡地方裁判所小倉支部判決/令和2年(わ)第542号、令和2年(わ)第592号、令和2年(わ)第644号

【判決日付】      令和3年11月5日

【判示事項】      被告人両名(実母及び養父)が,3歳児の子に,暴行を加えて傷害を負わせ死亡させたという各傷害,傷害致死,暴行の事案。

裁判所は,両名のメッセージのやり取りから,両名はさしたる抵抗感もなく子の意に沿わない言動をきっかけとして同人に暴力を振るうようになっていたものと推認でき,やり取りを介して実母が養父による暴力の反復,増長に与えた影響は大きく,養父の暴力は実母の意向を反映したものとなっていたとし,傷害致死事件における原因暴行は,いずれも包括的共謀に基づき行われたものと認め,各犯行は,両名の言動が相互に影響し合い,子に対する暴力の抵抗感を失わせていく過程で起こるべくして起こったものとみられるから,両名の犯情の重さに大差はないとし,それぞれ懲役12年に処した事例

【掲載誌】        LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】      法学教室500号106頁

 

 

刑法

(傷害)

第二百四条 人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

 

(傷害致死)

第二百五条 身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、三年以上の有期懲役に処する。

 

(暴行)

第二百八条 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。