法律大好きのブログ(弁護士村田英幸) -108ページ目

法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

役に立つ裁判例の紹介、法律の本の書評です。弁護士経験32年。第二東京弁護士会所属21770

刑訴220条1項2号の捜索差押として適法と認められた事例……被疑者の不在中になされた捜索差押

 

 

麻薬取締法違反被告事件

【事件番号】      最高裁判所大法廷判決/昭和31年(あ)第2863号

【判決日付】      昭和36年6月7日

【判示事項】      (1)刑訴220条1項2号の捜索差押として適法と認められた事例……被疑者の不在中になされた捜索差押

             (2)捜索差押手続の違法と証拠の証拠能力……被告人が証拠とすることに同意した場合は如何

【参照条文】      憲法35

             刑事訴訟法220-1

             刑事訴訟法220-2

【掲載誌】        最高裁判所刑事判例集15巻6号915頁

 

 

憲法

第三十五条 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。

② 捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。

 

 

刑事訴訟法

第二百二十条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、第百九十九条の規定により被疑者を逮捕する場合又は現行犯人を逮捕する場合において必要があるときは、左の処分をすることができる。第二百十条の規定により被疑者を逮捕する場合において必要があるときも、同様である。

一 人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内に入り被疑者の捜索をすること。

二 逮捕の現場で差押、捜索又は検証をすること。

② 前項後段の場合において逮捕状が得られなかつたときは、差押物は、直ちにこれを還付しなければならない。第百二十三条第三項の規定は、この場合についてこれを準用する。

③ 第一項の処分をするには、令状は、これを必要としない。

④ 第一項第二号及び前項の規定は、検察事務官又は司法警察職員が勾引状又は勾留状を執行する場合にこれを準用する。被疑者に対して発せられた勾引状又は勾留状を執行する場合には、第一項第一号の規定をも準用する。

 

 

 

       主   文

 

 原判決を破棄する。

 本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

 

       理   由

 

 大阪高等検察庁検事長代理次席検事米田之雄の上告趣意について。

 所論は判例違反をいうが、引用の最高裁判所第三小法廷の判例は、押収物の証拠能力に関するものであつて、本件に適切でなく、また、原判決は、引用の東京高等裁判所の判例と相反する判断を示していないこと原判示自体に徴し明らかであるから、所論は原判示にそわない主張であり、いずれも上告適法の理由に当らない。

 職権により調査するに、憲法三五条は、同三三条の場合には令状によることなくして搜索、押収をすることができるものとしているところ、いわゆる緊急逮捕を認めた刑訴二一〇条の規定が右憲法三三条の趣旨に反しないことは、当裁判所の判例(昭和二六年(あ)第三九五三号、同三〇年一二月一四日大法廷判決、刑集九巻一三号二七六〇頁)とするところである。同三五条が右の如く搜索、押収につき令状主義の例外を認めているのは、この場合には、令状によることなくその逮捕に関連して必要な捜索、押収等の強制処分を行なうことを認めても、人権の保障上格別の弊害もなく、且つ、搜査上の便益にも適なうことが考慮されたによるものと解されるのであつて、刑訴二二〇条が被疑者を緊急逮捕する場合において必要があるときは、逮捕の現場で捜索、差押等をすることができるものとし、且つ、これらの処分をするには令状を必要としない旨を規定するのは、緊急逮捕の場合について憲法三五条の趣旨を具体的に明確化したものに外ならない。

 もつとも、右刑訴の規定について解明を要するのは、「逮捕する場合において」と「逮捕の現場で」の意義であるが、前者は、単なる時点よりも幅のある逮捕する際をいうのであり、後者は、場所的同一性を意味するにとどまるものと解するを相当とし、なお、前者の場合は、逮捕との時間的接着を必要とするけれども、逮捕着手時の前後関係は、これを問わないものと解すべきであつて、このことは、同条一項一号の規定の趣旨からも窺うことができるのである。従つて、例えば、緊急逮捕のため被疑者方に赴いたところ、被疑者がたまたま他出不在であつても、帰宅次第緊急逮捕する態勢の下に捜索、差押がなされ、且つ、これと時間的に接着して逮捕がなされる限り、その捜索、差押は、なお、緊急逮捕する場合その現場でなされたとするのを妨げるものではない。

 そして緊急逮捕の現場での捜索、差押は、当該逮捕の原由たる被疑事実に関する証拠物件を収集保全するためになされ、且つ、その目的の範囲内と認められるものである以上、同条一項後段のいわゆる「被疑者を逮捕する場合において必要があるとき」の要件に適合するものと解すべきである。

 ところで、本件搜索、差押の経緯に徴すると、麻薬取締官等四名は、昭和三〇年一〇月一一日午後八時三〇分頃路上において職務質問により麻薬を所持していたAを現行犯として逮捕し、同人を連行の上麻薬の入手先である被疑者B宅に同人を緊急逮捕すべく午後九時三〇分頃赴いたところ、同人が他出中であつたが、帰宅次第逮捕する態勢にあつた麻薬取締官等は、同人宅の捜索を開始し、第一審判決の判示第一の(一)の麻薬の包紙に関係ある雑誌及び同(二)の麻薬を押収し、搜索の殆んど終る頃同人が帰つて来たので、午後九時五〇分頃同人を適式に緊急逮捕すると共に、直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をとり、逮捕状が発せられていることが明らかである。

 してみると、本件は緊急逮捕の場合であり、また、捜索、差押は、緊急逮捕に先行したとはいえ、時間的にはこれに接着し、場所的にも逮捕の現場と同一であるから、逮捕する際に逮捕の現場でなされたものというに妨げなく、右麻薬の捜索、差押は、緊急逮捕する場合の必要の限度内のものと認められるのであるから、右いずれの点からみても、違憲違法とする理由はないものといわなければならない。

 しかるに、原判決は、刑訴二二〇条一項後段の規定によつて行なう捜索、差押は、緊急逮捕に着手した後に開始することを要し、緊急逮捕に着手しないで捜索、差押を先に行なうことは許されないとすると共に、緊急逮捕の現場でする捜索、差押であつても、その対象となるべき証拠物件の範囲は、その逮捕の基礎である被疑事実に関するものに限られるべきものであつて、他の犯罪に関するものにまで及ばないとし、第一審判決の判示第一の(二)の麻薬は、麻薬取締官等が被疑者Bを緊急逮捕すべく同人宅に赴いたところ、たまたま同人の不在のためその緊急逮捕に着手しないうちに同人宅の搜索を開始して差押えたものであり、その捜索、差押が殆んど終る頃になつて帰宅した同人を逮捕したことが明らかであるから、かかる捜索、差押は違法といわなければならず、且つ、右被疑者につきその被疑事実とは別の麻薬所持なる余罪の証拠保全のためになされたものと解するのほかなき本件の捜索、差押は、この点においても違法たるを免かれないところであつて、要するに、本件捜索差押は、同条一項後段の規定に適合せず、且つ、令状によらない違法の搜索、差押であるから、憲法三五条に違反するものといわなければならず、かかる違法の手続によつて押収された右麻薬及びその搜索差押調書等は、証拠としてこれを利用することは禁止されるものと解すべきものとする。しかし、右は、憲法及び刑訴法の解釈を誤つた違法があるものというべく、その違法は、判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は破棄を免れない。

 のみならず、第一審判決の判示第一の(二)の事実(昭和三〇年一〇月一一日被告人宅における麻薬の所持)に関する被告人の自白の補強証拠に供した麻薬取締官作成の昭和三〇年一〇月一一日付捜索差押調書及び右麻薬を鑑定した厚生技官C作成の昭和三〇年一〇月一七日付鑑定書は、第一審第一回公判廷において、いずれも被告人及び弁護人がこれを証拠とすることに同意し、異議なく適法な証拠調を経たものであることは、右公判調書の記載によつて明らかであるから、右各書面は、搜索、差押手続の違法であつたかどうかにかかわらず証拠能力を有するものであつて、この点から見ても、これを証拠に採用した第一審判決には、何ら違法を認めることができない。されば原判決は、この点においても違法であつて、破棄を免れない。

 よつて、刑訴四一〇条本文、四〇五条一号、四一一条一号により原判決を破棄し、同四一三条本文により、本件を大阪高等裁判所に差し戻すべきものとし、主文のとおり判決する。

 この判決は、裁判官入江俊郎、同池田克、同垂水克己の補足意見、裁判官横田喜三郎、同藤田八郎、同奧野健一の意見及び裁判官小谷勝重、同河村大助の少数意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。

 裁判官池田克の補足意見は次のとおりである。

 緊急逮捕を認めた刑訴二一〇条の規定の憲法適否の問題は、本件の争点をなすものではない。しかし、多数意見の引用する当裁判所の判例は、右刑訴法の規定をもつて憲法三三条の趣旨に反しないとしているにとどまり、何故に然るかの理由については、何等判示するところがない。すなわち、この際、その理由づけをしておくことは、決して徒爾ではないと考える。その要領は、次のとおりである。

 憲法三三条は、逮捕には現行犯の場合を除いては、すべて権限を有する司法官憲が発し、且つ、理由となつている犯罪を明示する令状によらなければならない旨を規定する。このように令状主義を採るのは、もとより憲法の基調とする人権保障の趣旨によるのであり、被疑者を逮捕するには、その逮捕が正当であるかどうかを裁判官の判断にかからしめ、裁判官において理由があると認めて発した令状を要することとしたものに外ならない。

 しかし、搜査上被疑者逮捕の如き強制処分が認められるのは、それによつて被疑者を保全するためであり、そのためには現行犯でなくても、被疑者の保全を必要とする緊急の場合のあること、そしてそのような合理的事由を存する場合で裁判官の逮捕状を求めることができないときは、捜査機関をしてその理由を告げて被疑者を逮捕することを得しめても、直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をなさしめて逮捕状が発せられないときは直ちに釈放すべきものとする限り、人権保障上格別の弊害もなかるべきこと等を考え併せると、憲法三三条の令状主義は、現行犯の場合を除いては、必ずあらかじめ裁判官の令状を得なければ絶対に逮捕し得ないことを規定したものとみるべきではなく、逮捕には、必ず裁判官の令状の裏づけを必要とすることを規定した趣旨と解するのが相当である。

 ところで、いわゆる緊急逮捕を規定した刑訴二一〇条は、捜査機関は、犯罪が死刑又は無期若しくは長期三年以上の自由刑に当り、且つ、その罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合で、急速を要し裁判官の逮捕状を求めることができないときは、その理由を告げて被疑者を逮捕することができるものとし、この場合には、直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならず、若し逮捕状が発せられないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならないと規定する。同条は、右のように厳格な条件の下においてのみ被疑者の逮捕(身体の自由を拘束して特定の場所に引致すること)を許容したものであり、且つ引致後直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をとらせることとしているのであるから、この規定により逮捕状が発せられたときは、憲法三三条のいわゆる令状の裏づけがあるものというべきであり、これを同条の令状主義の例外とみるべきではない。

 すなわち、刑訴二一〇条の緊急逮捕は、令状主義の要請する人権保障と被疑者逮捕の合理的必要性との調整を、引致後直ちに逮捕状を求める手続をなさしめ逮捕状が発せられないときは、直ちに釈放すべきものとする点に求めたものというべきであつて、なお、令状による逮捕として憲法三三条の容認するところと解される。従つて、また、同三五条にいわゆる「第三三条の場合」には、緊急逮捕の場合を含むものと解すべきであることを附言する。

 裁判官入江俊郎の補足意見は次のとおりである。

 多数意見の引用する当裁判所の判例と憲法三三条との関係についてのわたくしの見解は、前記池田裁判官の補足意見と同様である。よつて、同裁判官の右補足意見を全部援用して、わたくしの補足意見とする。

 裁判官垂水克己の補足意見は次のとおりである。

一 刑訴二一〇条により、司法警察職員らが一定の重い罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないときに、その理由を告げて被疑者に対して行う逮捕は、逮捕後直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をし、よつて逮捕状が発せられた場合には(逮捕状には刑訴二〇〇条により被疑者の氏名、住居、罪名および被疑事実の要旨が記載される)、なお、憲法三三条にいう「権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつている犯罪を明示する令状による」逮捕といつてよいと思う。けだし緊急逮捕は直後に公正な裁判官の令状を受ける予定の下に行われ裁判官も遅滞なくこの逮捕を正当として許可する令状を発付したものであるかぎり、これを「逮捕令状に依拠する」逮捕といえるだろうから。されば、緊急逮捕の規定は令状主義の例外というよりは変則的令状主義といつてもよかろう。多数意見引用の大法廷判決は右の趣旨を示したものと解される。若し逮捕令状を受けうべきことを信じて緊急逮捕(条件附令状逮捕)を行つたが逮捕状を得られなかつた場合には、右の逮捕は爾後緊急逮捕とはならず、被疑者は直ちに釈放されなければならない。(尤も、それはすぐ様不法逮捕となる訳のものでもない。)

 憲法三五条項はいう「何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、搜索及び押収を受けることのない権利は、三三条の場合を除いては……場所、……物を明示する令状がなければ、侵されない。」と。「三三条の場合」とは何か。私見によれば、三三条は「(a)令状によつてのみ逮捕できる(逮捕の場合の原則)。(b)現行犯にかぎり令状なしに逮捕できる(同例外)。」という、人身逮捕の許されるただ二つの場合を示したのである。だから憲法三五条一項の意味は「何人も……侵入、搜索及び押収を受けることのない権利は三三条の場合(すなわち(a)令状による逮捕の場合と(b)現行犯逮捕の場合。)を除いては……場所、……物を明示する令状がなければならない。」ということである。

 現行犯の意味はすでに今世紀の初めには世界の多くの立法において大体決定していた、すなわち、大体刑訴二一二条所定の現行犯、準現行犯を含むもの、またはこれに類似するものを指すものとされていた、と思われるので、憲法三三条にいう現行犯もかようなものを指すと解される。

 現行犯、準現行犯を逮捕するためなら憲法上全然令状を要しないのであるから、刑訴二一〇条緊急逮捕の規定は非現行犯(数月・数年前に犯されたような犯罪を含む)に関するものであることは疑う余地がない。

二 緊急逮捕も事後令状に依拠する逮捕だとはいつても、犯罪の嫌疑も逮捕の必要も現行犯の場合の如くしかく何人にも明らかな場合の逮捕とはいえない。この場合に被疑者の逮捕(事後の逮捕状の発付によつて始めて正当となる)に附随して刑訴二二〇条により、搜査官憲が必要と認めて特別の令状なしに行う第三者の住居、建造物内への立ち入りや被疑者の捜索あるいは逮捕現場での第三者所有、占有物の差押、搜索または検証は(殊に第三者のものに対する場合には)、憲法三五条によつても許されると解されるとはいえ、個人のプライヴアシイを尊重する憲法の精神に即した公正にして節度あるものでなければならない。また、裁判官が逮捕後令状を発付すべきか否かを決するに当つても逮捕あるいは証拠物の押収という既成事実に囚われることなく、事前に相当の嫌疑(徴憑)や逮捕の必要性があつてこれら強制処分が行われてよいものであつたか否かを厳正に検討しなければならない、と私は考える。

 刑訴二二〇条一項一号は、緊急逮捕または現行犯逮捕をする場合において必要があるときは人の住居又は人の看守する建造物内に立ち入り被疑者の搜索をすることができる旨規定するが、これは身柄逮捕の目的のためにのみ許されるものと考える。例えば、逮捕しようとした途端被疑者が隣家に逃げ込んだような場合改めて家宅捜索令状を得なくても逮捕権者は逮捕のためその第三者の住居を搜索できるという趣旨であつて、これは条理上当然許されてよいことである。同項二号は、同様に、逮捕の現場で差押、捜索又は検証をすることをも許す。ここに「逮捕する場合」および「逮捕の現場」というのは、多数意見のいう如く、時間的にも場所的にも幾らか幅の広い観念であろうが、しかし、「逮捕する場合」とか「逮捕の現場」という観念は、現実に逮捕の着手行為(逮捕のための被疑者への接近)若しくは少くとも逮捕のための被疑者の身柄搜索行為がなければ客観的なものとして考えられないのではないか。また逮捕の目的から被疑者の身柄の所在を捜索したところ、そこで彼の犯罪の証拠と思われる賍物等を発見したという如き場合、これらを特別の令状なしに差押え、検証する如きも条理上附随的に許されてよいことであろう。けれども多数意見の判示するように本件の如く搜査官憲が内心緊急逮捕の目的をもつて被疑者の家に行き単に緊急逮捕の態勢を整えただけで行なつた家宅捜索は「逮捕の場合に、逮捕の現場で」行つたものといえるだろうか。捜査官憲が被疑者逮捕の意思をもつて捕縄を何時でも用いうべきような状態を整えただけで誰の住居にでも立入り、検証、捜索、押収することができるとなつては大変である。

 なお、緊急逮捕の場合その現場で行う捜索、差押、検証は当該逮捕の原由たる被疑事実に関する証拠と認められるものについてのみなすべきであつて、余罪の証拠についてこれをすべきでない。しかし、逮捕原由たる被疑事実(例えば麻薬譲渡)に関する証拠が偶々同時に余罪(例えば麻薬密輸入罪)の証拠でもあるからといつてこれを押収できない訳はない。

三 違法な手段方法によつて入手された証拠を裁判所は被告人の犯罪事実認定の資料に供することができるか。私は重大顕著に違法な手段によつて入手された証拠を一資料としてなされた有罪判決は条理上破棄されなければならないと解するのを相当と考える。しかし、そうでない軽い違法手段によつて入手した証拠を罪証に供した判決は破棄されるべきかぎりでない。判示の押収物は被疑者の身柄捜索に着手前に、すなわち、私見によれば違法に捜索、押収された物ではあるが、これについては直後に裁判官の逮捕令状を得ている以上(この令状は予め得た逮捕令状に比すれば右物件の捜索押収を正当とする上において一層有力なものといえよう)証拠能力はあるといえる。なお、証拠能力のない証拠物件、家宅捜索調書等であつても、被告人が自己の利益にこれを援用しようとした場合、その他これを証拠とすることに同意した場合には証拠能力を持つに至ると考えてよい。

 裁判官横田喜三郎の意見は次のとおりである。

 私は判決の主文に賛成するけれども、その理由に反対であつて、つぎのように意見を述べる。

 一、令状によらない捜索差押について

 1、憲法は、第三三条で、現行犯の場合を除いて、逮捕の令状によらなければ、何人も逮捕されないことを規定し、第三五条で、逮捕状による逮捕と現行犯による逮捕との場合を除いて、搜索押収の令状がなければ、何人も住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けないことを規定している。

 正当な理由と手続によらなければ、何人も逮捕されず、搜索押収を受けないことは、重要な基本的人権であつて、憲法が原則としてかならず令状によることを要するとし、たんに現行犯の場合にかぎつて例外的に令状を必要としないことにしたのは、この基本的人権を保障するためにほかならない。しかも、旧憲法の時代に、右の基本的人権が十分に保陣されなかつたことにかんがみて、新憲法はとくに詳細な規定を設け、これを強く保障することにした。それだけに、その規定は、厳格に解釈適用しなくてはならない。

 2、憲法の規定の線に沿つて、刑事訴訟法は、第二一八条で、差押や捜索は、裁判官の発する令状によつて行なうことを規定し、第二二〇条で、逮捕状による逮捕、現行犯による逮捕及び急速を要する逮捕の場合には、令状を必要としないで、差押や捜索を行なうことができるとしている。いいかえれば、右の場合を除いて、差押や搜索は、かならず裁判官の発する令状によらなければならない。

 この差押や搜索について、刑事訴訟法第二二〇条一項は、「被疑者を逮捕する場合において」、「逮捕の現場で差押、捜索又は検証をすること」ができるとしている。「被疑者を逮捕する場合において」といい、「逮捕の現場で」というのは、被疑者が現場にいて、逮捕と同時に捜索や差押を行なうか、すくなくとも逮捕の直前または直後に捜索や差押を行なうことを意味する。被疑者が不在であつて、逮捕ができない場合は、「被疑者を逮捕する場合」とはいえず、まして「逮捕の現場」とはいえない。そのような場合には、第二一八条にしたがつて、裁判官の令状を求め、それによつて捜索や差押を行なうべきで、令状なくしてこれらのことを行なうことはできない。

 3、本件の捜索と差押を見るに、麻薬取締官は、被疑者を緊急逮捕する目的で、午後九時三〇分頃に、被疑者の宅に着いた。被疑者は不在であつたが、ただちに捜索を開始し、麻薬を発見して、これを押収した。そこへ、被疑者が帰つてきたので、これを緊急逮捕した。それは午後九時五〇分頃であつた。そのさいに、麻薬取締官は、逮捕の令状も、捜索と差押の令状ももつていなかつた。そうしてみると、麻薬取締官は、被疑者を逮捕する場合とか、逮捕の現場とかいえないのに、捜索と差押の令状をもたないで、これらのことを行なつたものである。したがつて、それは刑事訴訟法第二二〇条に違反し、さらに根本的には、憲法第三五条に違反する。

 これに対して、多数意見では、被疑者が午後九時五〇分頃に帰宅し、これを逮捕したから、捜索差押と逮捕は、同じ場所で行なわれ、時間的にも接着しているから、被疑者を逮捕する場合に逮捕の現場で捜索差押を行なつたものであり、憲法と刑事訴訟法に違反しないとする。しかし、捜索と差押は、被疑者が不在であつて、その行き先きも帰宅の時間もわからないときに開始され、実行され、完了されたのであつて、被疑者を逮捕する場合に行なつたものとはいえない。被疑者が間もなく帰宅し、これを逮捕したことは、予期しない偶然の事実にすぎない。もし被疑者の帰宅がおくれるか、帰宅しなかつたならば、時間的と場所的の接着がなく、捜索差押を弁護することは、まつたく不可能であつたろう。同じ捜索差押の行為でありながら、被疑者が間もなく帰宅したという偶然の事実が起これば、適法なものになり、そうした事実が起こらなければ、違法なものになるというのは、あきらかに不合理である。ある捜索差押の行為が適法であるかいなかは、その行為そのものによつて判断すべきで、その後に起こつた偶然の事実によつて左右されるべきではない。

 4、これによつて見れば、本件の搜索差押は、刑事訴訟法第二二〇条に違反し、さらに根本的には、憲法第三五条に違反するといわなければならない。正当な理由と手続によらなければ、何人も逮捕されず、捜索差押も受けないことは、重要な基本的人権であつて、新憲法が強く保障することに照らして見れば、本件のような搜索差押は、適法なものと認めることができない。

 二、違法な捜索差押手続によつて収集された証拠について

 1、証拠物の証拠能力は、本来ならば、証拠物そのもの自体によつて判断すべきで、その物を収集した手続が適法であるか違法であるかによつて判断すべきではない。収集の手続が違法であれば、その違法については、違法な手続をとつた者を処分し、それによつて違法な手続の起こるのを防止するのが合理的である。証拠物そのものについては、それ自体として証拠能力をもつならば、それを認めるのが当然であつて、それを収集した手続のいかんによつて、証拠能力を動かすべきではない。昭和二四年一二月一三日の最高裁判所第三小法廷判決も、「押収物は、押収手続が違法であつても、物それ自体の性質、形状に変異を来すはずがないから、その形状等に関する証拠たる価値に変りはない」としている。

 2、もつとも、違法な収集の手続が重大な弊害をもたらすもので、とくにそれを防止するために厳重な規定が設けられた場合は、おのずから別である。違法な手続によつて、重要な権利が侵害され、重大な弊害が生じるような場合には、これをいつそう強力に防止するために、とくに厳重な規定を設けられることがある。このような場合には、違法な手続によつて収集された証拠物の証拠能力を否定することもありうる。

 憲法第三五条と、その趣旨に沿つて定められた刑事訴訟法第二二〇条とは、まさに、この趣旨の規定であると解される。憲法第三五条は、国民の住居、書類及び所持品の安全を保障し、逮捕状による逮捕と現行犯による逮捕との場合を除いて、正当な令状がなければ、侵入、搜索及び押収を受けないことを定めている。これは国民の重要な基本的人権であるばかりでなく、旧憲法の時代の経験にかんがみて、新憲法はとくに強く保障することにした。そうしてみれば、これを侵害するような違法な手続によつて、証拠物が収集された場合は、たんに違法な手続をとつた者を処分するだけでなく、収集された証拠物の証拠能力を否定することが必要であり、実際においてそれが憲法の規定の趣旨であると解される。この規定の線に沿つて定められた刑事訴訟法第二二〇条についても、同じである。

 3、他方で、しかし、権利または法律上の保障は、別段の規定がないかぎり、それを享有する者が放棄することができる。刑事手続における被告人の権利を保障した憲法の諸規定を見るに、第三八条は、強制、拷問または脅迫による自白と、不当に長い抑留または拘禁の後の自白とについて、これを証拠とすることを禁止している。このような自白については、被告人は憲法上の保障を放棄することができないわけで、かりに被告人がそれを証拠とすることに同意したとしても、裁判所は証拠とすることができない。これに反して、憲法第三五条は、その規定に違反して捜索押収した物について、証拠とすることを禁止していない。そのことは、この規定に基く保障については、被告人が放棄することができることを意味するといわなければならない。

 実質的に見ても、これは十分に理由のあることである。社会の秩序を維持するために、不法な行為をした者を罰することは、法の使命であつて、真実に不法な行為をした者は、これを罰することを法は要求する。これについて重要なことは、真実に不法な行為をしたかどうかを発見することである。この発見に役立つものは、本来証拠とすべきものであり、それによつてはじめて、真実が発見され、真実に不法な行為をした者が罰せられ、引いては社会の秩序が維持される。それにもかかわらず、違法な手続によつて収集された証拠について、証拠能力を否定することがあるのは、違法な手続による被告人の不利益と苦痛に対して特別な考慮を払うためである。それだけに、被告人がみずから証拠とすることに同意したならば、それをさまたげる理由はない。

 本件の場合について見るに、問題の麻薬は、物それ自体の性質、形状に変異を来たすものでなく、それ自体として証拠能力をもつものであり、それに関する搜索差押調書と鑑定書も、他の訴訟法上の要件をみたすかぎり、証拠とすることができる。第一審において、被告人もその弁護人も、これらの書類を証拠とすることに同意し、その同意の下に公判廷で適法な証拠調が行なわれた。この証拠調に対して、被告人側は、どのような異議も申し立てていない。このことは、被告人側で憲法第三五条の保障を放棄したことを意味すると解しなければならない。すでに第一審で憲法の保障を放棄した以上は、上訴審になつてその保障を主張し、右の書類の証拠能力を争うことは、もう許されないところである。

 これによつて見れば、結局において、本件の上告は理由のあるもので、原判決は破棄されなければならない。

 裁判官藤田八郎、同奥野健一の意見は次のとおりである。

 刑訴二一〇条の規定により被疑者を緊急逮捕する場合において必要があるとき逮捕の現場で令状によらないで捜索押収をすることができるという刑訴二二〇条の規定は、憲法の保障する令状主義の例外をなすものであるから、かかる例外規定は憲法の精神に副うよう厳格に解釈されなければならない。そして刑訴二二〇条一項後段の「被疑者を逮捕する場合において」といい、同項二号の「逮捕の現場で」というのは時期的には逮捕と同時又は直前、直後を意味し、少くとも被疑者が現場に存することを必要とし、若し被疑者が不在であるとか既に逃亡して現場にいないような場合にはその適用がないものと解さなければならない。然るに、原判決の認定した事実によれば本件捜索差押は、被疑者たる被告人の住居において同人不在のため緊急逮捕に着手しないで、これに先立ち捜索を開始し、本件押収物件を押収し、その後捜索を続行中被告人が帰宅したため緊急逮捕したというのである。すなわち被疑者不在のまま、その行先も不明であり、かつ何時帰宅するかも判らないのにかかわらずその間捜索差押したものであつて前記二二〇条に適合せず、令状によらない捜索差押であるから憲法三五条に違反するものといわざるを得ない。なお本件搜索押収が被告人不在中その長女(当時一七才)のDが麻薬取締官が家の中を見てもよいかと尋ねたに対し「どうぞ見て頂戴」と答えたからといつて、いわゆる承諾搜索であると解することのできないことは原判示のとおりである。

 次にかかる違憲の手続によつて捜索押収された物件、その搜索差押調書等を断罪の証拠とすることが許されるかについて検討するに、たとえ捜索押収の手続が違憲違法であつても押収物件自体の性質、形状に変異を来す筈がないから証拠たる価値に変りはないとの判例(昭和二四年一二月一三日最高裁判所第三小法廷判決)もあるが、われわれはこれに賛同し難い。けだし、捜索押収は犯罪の証憑の収集のため行われるものであつて、憲法三五条はこれに対する国民の住居、書類及び所持品についての安全を保障したものである。従つて同条に違反して収集された物件が、たとえその手続が違憲であつてもなお犯罪認定の証拠とすることが許されるものとすれば右憲法の保障は空文に帰するからである。捜査機関に対するその違反の制裁が他にあるからといつて、かかる違憲な手続によつて収集された物件に証拠能力を与える根拠とはなり得ない。

 違憲違法な手続によつて収集された物件が証拠として利用することが許されない以上、当該搜索押収の手続を証する書類である搜索差押調書及びその押収物件に関する鑑定書もまた証拠として利用することは許されないものと解さなければならない。

 しかし、憲法上刑事手続における被告人の権利を保障する諸規定のうち、例えば憲法三八条の強制、拷問、脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白を証拠とすることを禁止する規定の如きは、たとえ被告人がこれを証拠とすることに同意したとしても証拠能力を生ずるものではないと解すべきものであるが、憲法三五条の保障の如きは被告人において必ずしもこれを放棄することを許さないものと解すべき根拠はなく、同条に違反して押収された本件押収物件及びこれに関する書類についてこれを証拠とすることに被告人が同意し、捜索差押手続について何ら異議の申立をしない本件のような場合においてはその証拠能力を否定すべき限りではない。本件においては第一審において被告人側は本件搜索差押調書及び鑑定書を証拠とすることに同意し、その証拠調に対し何ら異議を申し立てていないことは本件記録によつて明らかであるから、上訴審において捜索差押手続の違憲違法を主張して本件捜索差押調書及び鑑定書の証拠能力を争うことは許されないものというべきである。

 然らば結局本件上告は理由があり、原判決は破棄を免れない。

 裁判官小谷勝重、同河村大助の少数意見は次のとおりである。

 一、憲法三五条は、同三三条の場合を除いては、捜索及び押収は司法官憲の発する令状によることを必要とし、司法的抑制によつて住居及び財産の安全を保障している。そして刑訴二二〇条一項後段は右令状主義の例外の場合として被疑者を緊急逮捕する場合において必要があるときは、逮捕の現場で令状によらない捜索、差押をすることができる旨定めているのであるが、かかる例外規定は捜索差押が人権侵害の危険を伴うことに鑑み極めて厳格に解釈されなければならないことはいうまでもないところであつて、右刑訴二二〇条一項後段の「被疑者を逮捕する場合」及び同項二号の「逮捕の現場」というのは、逮捕行為を行う際を意味し逮捕行為の前後はこれを問わないが、逮捕行為との時間的場所的接着を必要とし、かつ被疑者が逮捕の現場に現在することを必要とするものと解すべきである。然るに原審の認定した事実によれば、本件の搜索差押は、被疑者Bの住居において、本人の不在中、すなわち、被疑者の緊急逮捕に着手する前に、その行先も帰宅時刻も判明しないままに開始、実行、完了され、その後に帰宅した同人を緊急逮捕したというのであるから、その搜索差押は同条一項後段の要件を具えない違法な手続により行われたものであつて、憲法三五条に違反する処分というべきである。なお本件捜索差押調書中には「任意に捜索した処」との記載があつて、上告趣意中にも、それがDの「どうぞ見て頂戴」との言葉により承諾捜索を意味する旨の主張があるが、この点は原判決が適法な承諾搜索と解することは到底できないと判示したのが正当であると考える。けだし父母共に不在中一七才の少女が、家庭の秘密、住居及び財産の安全を侵すような異常な事態に当面して、その捜索を承諾するが如き権限は通常これを有しないものと見るを至当とするからである。

 二、従つて、本件麻薬の捜索差押は憲法の保障する令状主義に違反し、被告人の住居及び財産の安全を侵害する重大な瑕疵を包蔵するものであるから、かかる違法な手続につき作成された捜索差押調書の証拠能力はこれを否定すべきである。また右の如く違法な手続によつて押収された本件麻薬も本来証拠とすることのできないものであるから、これを鑑定した本件鑑定書もまたその証拠能力を否定せざるを得ない。けだし、法は公正な手続に基いて実体的真実の追求を許しているものであつて、人権の保障は、まさに公正な手続の核心をなすものだからである。この意味において「押収物は押収手続が違法であつても物自体の性質、形状に変異を来す筈がないから、その形状等に関する証拠たる価値に変りはない」として、押収手続に違法ある場合の押収物件の証拠能力を肯定した昭和二四年一二月一三日第三小法廷判決はその瑕疵の軽重を問わない趣旨であるならば、それには到底賛同することができない。

 三、以上の如く本件搜索差押調書及び鑑定書は、ともにその証拠能力を否定すべきであり、従つて又かかる証拠については証拠調の請求を許さないものと解すべきである。然るに本件第一審において被告人側は、本件捜索差押調書及び鑑定書を証拠とすることに同意し、その証拠調に関し何等の異議を申し立てていないから、かかる訴訟経過の下においては、上訴審において捜索差押手続の違憲無効を主張して本件搜索差押調書等の証拠能力を争うを得ないとのつがある。しかし検察官又は被告人が証拠とすることに同意した書面又は供述につき証拠能力が認められるのは、刑訴三二六条の場合に限られるのであつて、同条は当事者の同意があれば敢えて伝聞証拠禁止の原則を固執する必要なく証拠能力を認めて差支えないとの趣旨に出でた規定であり、しかも当事者の同意があつた場合においても、その書面が作成され、または供述のされたときの情況を考慮し相当と認めるときに限り、証拠とすることができるものとされているのである。従つて、同条を汎く伝聞以外の理由により証拠能力を欠く証拠全般に及ぼし得ざることは明らかであつて、特に本件搜索差押調書等の如く憲法三五条に違反する捜索押収及びこれにより収集された押収物に関し作成された証拠書類については、たとえ被告人側の同意があつたとしても、これを証拠とすることは許されないものと解すべきである。また本件のような違法な証拠の証拠能力を否定することは、国家権力の公正な発動を担保するためにも重要な意味をもつものであつて、憲法に違反する証拠収取の弊害を防止することも考慮するの要あることは勿論である。されば後日被告人側の証拠とすることの同意により本件のような重大な瑕疵がいやされるものとするが如き見解には到底賛同することができない。

 以上の理由により原判決の判断は結局正当に帰し、本件上告は棄却すべきものと思料する。

 検察官 村上朝一、同柴田孔三公判出席

  昭和三六年六月七日

     最高裁判所大法廷

Xの開発・製造したゲーム機を順次XからY,YからAに販売する旨の契約が締結に至らなかった場合においてYがXに対して契約準備段階における信義則上の注意義務違反を理由とする損害賠償責任を負うとされた事例

 

 

損害賠償請求事件

【事件番号】      最高裁判所第3小法廷判決/平成17年(受)第869号

【判決日付】      平成19年2月27日

【判示事項】      Xの開発,製造したゲーム機を順次XからY,YからAに販売する旨の契約が締結に至らなかった場合においてYがXに対して契約準備段階における信義則上の注意義務違反を理由とする損害賠償責任を負うとされた事例

【判決要旨】       ⅩがAの意向を受けて開発,製造したゲーム機を順次ⅩからY,YからAに継続的に販売する旨の契約が,締結の直前にAが突然ゲーム機の改良要求をしたことによって締結に至らなかった場合において,Yが,開発等の続行に難色を示すⅩに対し,Aから具体的な発注を受けていないにもかかわらず,ゲーム機200台を発注する旨を口頭で約したり,具体的な発注内容を記載した発注書及び条件提示書を交付するなどし,ゲーム機の売買契約が確実に締結されるとの過大な期待を抱かせてゲーム機の開発,製造に至らせたなど判示の事情の下では,Yは,Ⅹに対する契約準備段階における信義則上の注意義務に違反したものとして,これによりⅩに生じた損害を賠償する責任を負う。

【参照条文】      民法1-2

             民法415

             民法709

【掲載誌】        最高裁判所裁判集民事223号343頁

 

 

 契約締結上の過失とは、契約締結の段階またはその準備段階における契約締結を目指す一方当事者の過失のことで、契約内容に関する重要な事項について調査・告知しなかったり、相手方の合理的期待を裏切るような行為をすることにより、契約締結後、あるいは契約不成立により不測の損害を被った相手方を救済するための法理論をいいます。

 

 

民法

(基本原則)

第一条 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。

2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。

3 権利の濫用は、これを許さない。

 

(債務不履行による損害賠償)

第四百十五条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

2 前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。

一 債務の履行が不能であるとき。

二 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。

三 債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。

 

 

(不法原因給付)

第七百八条 不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。

 

第5章 一定の事件における被疑者取調べの録音録画の法制化

改正法により,刑事訴訟法第301条の2として,

 

1 次に掲げる事件については、検察官は、第322条第1項の規定により証拠とすることができる書面であって、当該事件についての第198条第1項の規定による取調べ(逮捕または勾留されている被疑者の取調べに限る。第3項において同じ。)または第203条第1項、第204条第1項若しくは第205条第1項(第211条及び第216条においてこれらの規定を準用する場合を含む。第3項において同じ。)の弁解の機会に際して作成され、かつ、被告人に不利益な事実の承認を内容とするものの取調べを請求した場合において、被告人または弁護人が、その取調べの請求に関し、その承認が任意にされたものでない疑いがあることを理由として異議を述べたときは、その承認が任意にされたものであることを証明するため、当該書面が作成された取調べまたは弁解の機会の開始から終了に至るまでの間における被告人の供述及びその状況を第4項の規定により記録した記録媒体の取調べを請求しなければならない。ただし、同項各号のいずれかに該当することにより同項の規定による記録が行われなかつたことその他やむを得ない事情によって当該記録媒体が存在しないときは、この限りでない。

➀ 死刑または無期の懲役若しくは禁錮に当たる罪に係る事件

② 短期一年以上の有期の懲役または禁錮に当たる罪であって故意の犯罪行為により被害者を死亡させたものに係る事件

③ 司法警察員が送致しまたは送付した事件以外の事件(前二号に掲げるものを除く。)

2 検察官が前項の規定に違反して同項に規定する記録媒体の取調べを請求しないときは、裁判所は、決定で、同項に規定する書面の取調べの請求を却下しなければならない。

3 前二項の規定は、第1項各号に掲げる事件について、第324条第1項において準用する第322条第1項の規定により証拠とすることができる被告人以外の者の供述であって、当該事件についての第198条第1項の規定による取調べまたは第203条第1項、第204条第1項若しくは第205条第1項の弁解の機会に際してされた被告人の供述(被告人に不利益な事実の承認を内容とするものに限る。)をその内容とするものを証拠とすることに関し、被告人または弁護人が、その承認が任意にされたものでない疑いがあることを理由として異議を述べた場合にこれを準用する。

4 検察官または検察事務官は、第1項各号に掲げる事件(同項第三号に掲げる事件のうち、関連する事件が送致されまたは送付されているものであって、司法警察員が現に捜査していることその他の事情に照らして司法警察員が送致しまたは送付することが見込まれるものを除く。)について、逮捕若しくは勾留されている被疑者を第198条第1項の規定により取り調べるときまたは被疑者に対し第204条第1項若しくは第205条第1項(第211条及び第216条においてこれらの規定を準用する場合を含む。)の規定により弁解の機会を与えるときは、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、被疑者の供述及びその状況を録音及び録画を同時に行う方法により記録媒体に記録しておかなければならない。司法警察職員が、第1項第1号または第2号に掲げる事件について、逮捕若しくは勾留されている被疑者を第198条第1項の規定により取り調べるときまたは被疑者に対し第203条第1項(第211条及び第216条において準用する場合を含む。)の規定により弁解の機会を与えるときも、同様とする。

➀ 記録に必要な機器の故障その他のやむを得ない事情により、記録をすることができないとき。

② 被疑者が記録を拒んだことその他の被疑者の言動により、記録をしたならば被疑者が十分な供述をすることができないと認めるとき。

③ 当該事件が暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成3年法律第77号)第3条の規定により都道府県公安委員会の指定を受けた暴力団の構成員による犯罪に係るものであると認めるとき。

④ 前二号に掲げるもののほか、犯罪の性質、関係者の言動、被疑者がその構成員である団体の性格その他の事情に照らし、被疑者の供述及びその状況が明らかにされた場合には被疑者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加えまたはこれらの者を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれがあることにより、記録をしたならば被疑者が十分な供述をすることができないと認めるとき。

 

との規定が新設されました。

 

 これは,裁判員裁判対象事件及び検察独自捜査事件を対象として,被疑者取調べの録音録画を法制化すること(同条第4項)と併せ,検察官が被告人の不利益供述が記載されている書面等の任意性立証に当たり録音録画の記録媒体を証拠調べ請求しなければならないこと(同条第1項),かかる証拠調べ請求がなされない場合には裁判所が当該書面の証拠調べ請求を却下しなければならないこと(同条第2項)等を内容とする規定です。

 

有毒性物質である硼砂を混入して製造したアラレ菓子の販売契約が民法九〇条により無効とされた事例

 

 

為替手形金請求事件

【事件番号】      最高裁判所第1小法廷判決/昭和36年(オ)第30号

【判決日付】      昭和39年1月23日

【判示事項】      有毒性物質である硼砂を混入して製造したアラレ菓子の販売契約が民法九〇条により無効とされた事例

【判決要旨】      アラレ菓子の製造販売業者が硼砂の有毒性物質であることを知り、これを混入して製造したアラレ菓子の販売を食品衛生法が禁止していることを知りながら、あえてこれを製造のうえ、その販売業者に継続的に売り渡す契約は、民法九〇条により無効である。

【参照条文】      民法90

             食品衛生法

             食品衛生法30

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集18巻1号37頁

 

 

民法

(公序良俗)

第九十条 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

 

 

食品衛生法

第四条 この法律で食品とは、全ての飲食物をいう。ただし、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号)に規定する医薬品、医薬部外品及び再生医療等製品は、これを含まない。

② この法律で添加物とは、食品の製造の過程において又は食品の加工若しくは保存の目的で、食品に添加、混和、浸潤その他の方法によつて使用する物をいう。

③ この法律で天然香料とは、動植物から得られた物又はその混合物で、食品の着香の目的で使用される添加物をいう。

④ この法律で器具とは、飲食器、割ぽう具その他食品又は添加物の採取、製造、加工、調理、貯蔵、運搬、陳列、授受又は摂取の用に供され、かつ、食品又は添加物に直接接触する機械、器具その他の物をいう。ただし、農業及び水産業における食品の採取の用に供される機械、器具その他の物は、これを含まない。

⑤ この法律で容器包装とは、食品又は添加物を入れ、又は包んでいる物で、食品又は添加物を授受する場合そのままで引き渡すものをいう。

⑥ この法律で食品衛生とは、食品、添加物、器具及び容器包装を対象とする飲食に関する衛生をいう。

⑦ この法律で営業とは、業として、食品若しくは添加物を採取し、製造し、輸入し、加工し、調理し、貯蔵し、運搬し、若しくは販売すること又は器具若しくは容器包装を製造し、輸入し、若しくは販売することをいう。ただし、農業及び水産業における食品の採取業は、これを含まない。

⑧ この法律で営業者とは、営業を営む人又は法人をいう。

⑨ この法律で登録検査機関とは、第三十三条第一項の規定により厚生労働大臣の登録を受けた法人をいう。

 

第九条 厚生労働大臣は、特定の国若しくは地域において採取され、製造され、加工され、調理され、若しくは貯蔵され、又は特定の者により採取され、製造され、加工され、調理され、若しくは貯蔵される特定の食品又は添加物について、第二十六条第一項から第三項まで又は第二十八条第一項の規定による検査の結果次に掲げる食品又は添加物に該当するものが相当数発見されたこと、生産地における食品衛生上の管理の状況その他の厚生労働省令で定める事由からみて次に掲げる食品又は添加物に該当するものが相当程度含まれるおそれがあると認められる場合において、人の健康を損なうおそれの程度その他の厚生労働省令で定める事項を勘案して、当該特定の食品又は添加物に起因する食品衛生上の危害の発生を防止するため特に必要があると認めるときは、薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて、当該特定の食品又は添加物を販売し、又は販売の用に供するために、採取し、製造し、輸入し、加工し、使用し、若しくは調理することを禁止することができる。

一 第六条各号に掲げる食品又は添加物

二 第十二条に規定する食品

三 第十三条第一項の規定により定められた規格に合わない食品又は添加物

四 第十三条第一項の規定により定められた基準に合わない方法により添加物を使用した食品

五 第十三条第三項に規定する食品

② 厚生労働大臣は、前項の規定による禁止をしようとするときは、あらかじめ、関係行政機関の長に協議しなければならない。

③ 厚生労働大臣は、第一項の規定による禁止をした場合において、当該禁止に関し利害関係を有する者の申請に基づき、又は必要に応じ、厚生労働省令で定めるところにより、当該禁止に係る特定の食品又は添加物に起因する食品衛生上の危害が発生するおそれがないと認めるときは、薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて、当該禁止の全部又は一部を解除するものとする。

④ 厚生労働大臣は、第一項の規定による禁止をしたとき、又は前項の規定による禁止の全部若しくは一部の解除をしたときは、官報で告示するものとする。

 

第八十三条 次の各号のいずれかに該当する者は、これを一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

一 第十条第二項、第十一条、第十八条第二項(第六十八条第一項及び第三項において準用する場合を含む。)若しくは第三項、第二十五条第一項(第六十八条第一項及び第三項において準用する場合を含む。)、第二十六条第四項(第六十八条第一項において準用する場合を含む。)又は第六十三条第一項(第六十八条第一項において準用する場合を含む。)の規定に違反した者

二 第九条第一項(第六十八条第一項において準用する場合を含む。)又は第十七条第一項(第六十八条第一項及び第三項において準用する場合を含む。)の規定による禁止に違反した者

三 第四十条第一項の規定に違反して、その職務に関して知り得た秘密を漏らした者

四 第五十四条(第六十八条第一項及び第三項において準用する場合を含む。)の規定による基準又は第五十五条第三項(第六十八条第一項において準用する場合を含む。)の規定による条件に違反した者

五 第六十一条(第六十八条第一項及び第三項において準用する場合を含む。)の規定による都道府県知事(第七十六条の規定により読み替えられる場合は、市長又は区長)の命令に従わない営業者(同項に規定する食品を供与する者を含む。)又は第六十一条(第六十八条第一項及び第三項において準用する場合を含む。)の規定による処分に違反して営業を行つた者

 

 

 

       主   文

 

 原判決を破棄し、第一審判決を取消す。

 被上告人の請求を棄却する。

 訴訟の総費用は被上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人弁護士川本作一の上告理由について、

 当事者間に争がない事実及び証拠によつて認定できる事実として、原判決の引用する第一審判決の確定した事実は次のとおりである。すなわち、被上告人は判示(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の各為替手形各一通額面金額計四三万五五二一円を振出し、上告人は右各手形につき引受をなしたものであるが、右各手形は被上告人から上告人に対し昭和三二年一〇月頃から同三三年二月までの間に売渡したアラレ菓子の右同額の代金の支払のため上告人において引受けたものであること、そして右アラレ菓子には食品衛生法に禁止されている硼砂が混入していたこと、元来被上告人は昭和三一年四月頃から澱粉アラレの製造販売を営み、同三二年一月頃から上告人との間に取引を開始したものであるところ、これに硼砂を使用することの有害なることを当初は知らなかつたが、同年一〇月末頃新聞紙上で硼砂を使用したアラレの製造が食品衛生法により禁止されていることを知りこれを使用しないでアラレを製造する方法の研究を始めるとともに、上告人に対し当分アラレの売却を中止したい旨連絡したところ、上告人は「今はアラレの売れる時期だからどんどん送つて貰いたい、自分も保健所に出入りしているが、こちらの保健所ではそんなことは何も云つておらぬ、君には迷惑をかけぬからどんどん送つてほしい」旨申向け送品の継続を強く要請し、その結果本件の取引が行われたというのである。

 思うに、有毒性物質である硼砂の混入したアラレを販売すれば、食品衛生法四条二号に抵触し、処罰を免れないことは多弁を要しないところであるが、その理由だけで、右アラレの販売は民法九〇条に反し無効のものとなるものではない。しかしながら、前示のように、アラレの製造販売を業とする者が硼砂の有毒性物質であり、これを混入したアラレを販売することが食品衛生法の禁止しているものであることを知りながら、敢えてこれを製造の上、同じ販売業者である者の要請に応じて売り渡し、その取引を継続したという場合には、一般大衆の購買のルートに乗せたものと認められ、その結果公衆衛生を害するに至るであろうことはみやすき道理であるから、そのような取引は民法九〇条に抵触し無効のものと解するを相当とする。然らば、すなわち、上告人は前示アラレの売買取引に基づく代金支払の義務なき筋合なれば、その代金支払の為めに引受けた前示各為替手形金もこれを支払うの要なく、従つて、これが支払を命じた第一審判決及びこれを是認した原判決は失当と云わざるを得ず、論旨は理由あるに帰する。

 よつて、民訴四〇八条一号、三九六条、三八六条、九六条、八九条に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。

    最高裁判所第一小法廷

第三者の一審における訴訟行為につき二審で追認があったものとされた事例

 

 

              所有権移転登記手続等請求事件

【事件番号】      最高裁判所第3小法廷判決/平成2年(オ)第851号

【判決日付】      平成2年12月4日

【判示事項】      第三者の一審における訴訟行為につき二審で追認があったものとされた事例

【判決要旨】      一審で第三者が被告の氏名を冒用して訴訟行為をした場合でも、被告本人が自ら控訴を申し立て、その選任した訴訟代理人が異議をとどめずに本案について弁論をし、判決を受けたときは、一審での第三者の訴訟行為は追認されたものと解すべきである。

【参照条文】      民事訴訟法54

【掲載誌】        最高裁判所裁判集民事161号279頁

 

 

氏名冒用訴訟

 いわゆる「氏名冒用訴訟」は、これを冒用者が自ら訴訟行為をしている直接行為型の場合と冒用者が選任した訴訟代理人が訴訟行為をしている代理行為型の場合とに分類することが可能である。

 

 

 

民事訴訟法

(原則)

第二十八条 当事者能力、訴訟能力及び訴訟無能力者の法定代理は、この法律に特別の定めがある場合を除き、民法(明治二十九年法律第八十九号)その他の法令に従う。訴訟行為をするのに必要な授権についても、同様とする。

 

市町村営土地改良事業の施行の認可と取消訴訟の対象

 

 

土地改良事業施行認可申請の適否決定処分の異議申立棄却処分の取消請求事件

【事件番号】      最高裁判所第1小法廷判決/昭和59年(行ツ)第318号

【判決日付】      昭和61年2月13日

【判示事項】      市町村営土地改良事業の施行の認可と取消訴訟の対象

【判決要旨】      市町村営土地改良事業の施行の認可は、取消訴訟の対象となる行政処分に当たる。

【参照条文】      行政事件訴訟法3-2

             土地改良法96の2-1

             土地改良法96-5

             土地改良法10-1

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集40巻1号1頁

 

 

事案の概要

 一、八鹿町は、土地改良法(以下「法」という)96条の2第1項に基づき、被上告人兵庫県知事に対し、同町内の一部の地域を施行地域とする同町営土地改良事業の施行の認可を申請した。

被上告人は、法96条の2第5項ならびに8条1項および6項に基づき、昭和57年7月5日付で右申請を適当とする決定をし、同月20日その旨を公告するとともに、土地改良事業計画書の写を縦覧に供した。

上告人は、右施行地域内に土地を所有する者であるが、法96条の2第5項および9条に基づき、同年8月10日被上告人に対し、右決定に対する異議の申出をした。

被上告人は、同年9月25日付けで右異議の申出を棄却する旨の決定をした。

被上告人は、法96条の2第5項および7項ならびに10条に基づき、同月30日付けで右事業の施行の認可をし、同年10月12日これを公告した。

上告人は、右認可を取り消すとの裁判を求めて、本訴を提起した。

1・2審判決は、右認可は取消訴訟の対象となる行政処分に当たらないから、本訴は不適法として却下すべきであるとした。

これに対し、本判決は、右認可が行政処分に当たることを認めた。

 

 

行政事件訴訟法

(抗告訴訟)

第三条 この法律において「抗告訴訟」とは、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟をいう。

2 この法律において「処分の取消しの訴え」とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(次項に規定する裁決、決定その他の行為を除く。以下単に「処分」という。)の取消しを求める訴訟をいう。

3 この法律において「裁決の取消しの訴え」とは、審査請求その他の不服申立て(以下単に「審査請求」という。)に対する行政庁の裁決、決定その他の行為(以下単に「裁決」という。)の取消しを求める訴訟をいう。

4 この法律において「無効等確認の訴え」とは、処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無の確認を求める訴訟をいう。

5 この法律において「不作為の違法確認の訴え」とは、行政庁が法令に基づく申請に対し、相当の期間内に何らかの処分又は裁決をすべきであるにかかわらず、これをしないことについての違法の確認を求める訴訟をいう。

6 この法律において「義務付けの訴え」とは、次に掲げる場合において、行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟をいう。

一 行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわらずこれがされないとき(次号に掲げる場合を除く。)。

二 行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がされた場合において、当該行政庁がその処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれがされないとき。

7 この法律において「差止めの訴え」とは、行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟をいう。

 

 

土地改良法

(異議の申出)

第九条 当該土地改良事業に関係のある土地又はその土地に定着する物件の所有者、当該土地改良事業に関係のある水面につき漁業権又は入漁権を有する者その他これらの土地、物件又は権利に関し権利を有する者(以下「利害関係人」という。)は、前条第六項の規定による公告に係る決定に対して異議があるときは、同項に規定する縦覧期間満了の日の翌日から起算して十五日以内に都道府県知事にこれを申し出ることができる。

2 都道府県知事は、前項の規定による異議の申出を受けたときは、前条第二項に掲げる技術者の意見をきいて、同条第六項に規定する縦覧期間満了後六十日以内にこれを決定しなければならない。

3 第一項の異議の申出には、行政不服審査法(平成二十六年法律第六十八号)中審査請求に関する規定(同法第十八条第一項及び第二項並びに第四十三条を除く。)を準用する。

4 都道府県知事は、第二項の規定による決定が第七条第一項の規定による申請に係る土地改良事業計画又は定款に矛盾するものであるときは、同項の規定による申請を却下しなければならない。

5 第二項の規定による決定及び前項の規定による却下又はこれらの不作為については、審査請求をすることができない。

(国営土地改良事業計画及び都道府県営土地改良事業計画)

第八十七条 前条第一項の規定により申請に係る土地改良事業につき適当とする旨の決定をしたときは、農林水産大臣又は都道府県知事は(その決定に係る都道府県営土地改良事業の地域が二以上の都府県の区域にわたる場合にあつては、当該関係都府県の知事がその協議により)、それぞれ、その決定に係る国営土地改良事業又は都道府県営土地改良事業を行うため、土地改良事業計画を定めなければならない。

2 前項の場合には、第七条第三項及び第四項並びに第八条第二項及び第三項の規定を準用する。

3 第一項の土地改良事業計画は、これに基づいて施行される土地改良事業が第八条第四項第一号の政令で定める基本的な要件に適合するものとなるように定めなければならない。

4 第一項の土地改良事業計画において非農用地区域を定める場合には、その非農用地区域は第八条第五項各号に掲げる要件に適合することとなるように定めなければならない。

5 農林水産大臣又は都道府県知事は、第一項の規定により土地改良事業計画を定めたときは、その旨を公告し、二十日以上の相当の期間を定めて当該土地改良事業計画書の写を縦覧に供しなければならない。

6 第一項の土地改良事業計画についての審査請求に関する行政不服審査法第十八条第一項本文の期間は、前項に規定する縦覧期間満了の日の翌日から起算して十五日とする。

7 前項の審査請求については、行政不服審査法第四十三条の規定は、適用しない。

8 第六項の審査請求がされたときは、農林水産大臣又は都道府県知事は(その審査請求に係る都道府県営土地改良事業の地域が二以上の都府県の区域にわたる場合にあつては、当該関係都府県知事がその協議により)、第八条第二項に掲げる技術者の意見を聴いて、第五項に規定する縦覧期間満了後六十日以内にこれを裁決しなければならない。

9 国又は都道府県は、第六項の審査請求がないとき、又は審査請求があつた場合においてその全てについて前項の規定による裁決があつたときでなければ、当該土地改良事業計画による工事に着手してはならない。

10 第一項の土地改良事業計画による事業の施行については、審査請求をすることができない。

 

(土地改良区に関する規定の準用)

第九十六条 第九十五条第一項の規定により行う土地改良事業には、第四十七条、第五十条、第五十二条第一項から第五項まで、第八項及び第九項、第五十二条の二から第五十五条まで、第五十六条第二項、第五十七条から第五十七条の三まで並びに第六十三条の規定を準用する。この場合において、第五十二条第五項中「第五条第七項に掲げる権利を有する全ての者で組織する会議の議決を経なければ」とあるのは「第五条第七項に掲げる権利を有する全ての者の同意を得なければ」と、第五十三条の四第二項中「第五十二条第四項から第九項まで及び」とあるのは「第五十二条第四項、第五項、第八項及び第九項並びに」と、第六十三条第三項ただし書中「第六十条の規定による請求に基く地役権の対価の減額があつた場合には」とあるのは「その土地改良事業の工事の完了につき第百十三条の三第二項の規定による公告があつた日(換地処分に係る場合にあつては、第五十四条第四項の規定による公告があつた日)から起算して一年を経過した場合は」と読み替えるものとする。

 

(土地改良事業の開始)

第九十六条の二 市町村は、土地改良事業計画を定めて土地改良事業を行うことができる。

2 前項の規定により土地改良事業計画を定めるには、市町村は、あらかじめ、当該市町村の議会の議決を経て、土地改良事業の計画の概要(二以上の土地改良事業を併せて施行する場合には、その各土地改良事業に係る計画の概要及び農林水産省令で定めるときにあつては全体構成)を定め、その計画の概要(全体構成を定める場合にあつては、その全体構成を含む。)その他必要な事項を公告して、その事業の施行に係る地域内にある土地につき第三条に規定する資格を有する者の三分の二(二以上の土地改良事業を併せて施行する場合には、その各土地改良事業につき、その施行に係る地域内にある土地につき同条に規定する資格を有する者の三分の二)以上の同意を得、かつ、当該土地改良事業の施行に係る地域の全部又は一部をその地区の全部又は一部とする土地改良区があるときは、その土地改良区の同意をも得なければならない。

3 農用地造成事業等の施行を内容とし、又は内容の一部に含む第一項の土地改良事業計画を定めるには、市町村は、前項の規定による同意のほか、その農用地造成事業等に係る農用地造成地域内にある土地についての農用地外資格者についてその全員の同意を得なければならない。

4 第一項の場合において、その土地改良事業計画が農用地造成事業等の施行を内容とし、又は内容の一部に含むものであるときは、その農用地造成事業等については、第五条第五項及び第六条の規定を準用する。

5 市町村は、第一項の規定により土地改良事業計画を定める場合において、当該土地改良事業の施行に係る地域の全部又は一部をその地区の全部又は一部とする農業協同組合であつて土地改良事業をその事業とするものがあるときは、あらかじめ、その意見を聴かなければならない。

6 市町村は、第一項の規定により土地改良事業計画を定めたときは、遅滞なく、これを都道府県知事に報告しなければならない。

7 第一項の場合には、第五条第六項及び第七項、第七条第三項から第六項まで、第八条第二項及び第三項並びに第八十七条第三項から第十項までの規定を準用する。この場合において、第五条第六項及び第七項中「含めて第一項の一定の地域を定めるには」とあるのは「当該土地改良事業の施行に係る地域に含めるには」と、第七条第五項中「第一項の規定により申請をする者」とあるのは「市町村」と読み替えるものとする。

 

 

 

       主   文

 

 被上告人が昭和五七年九月三〇日付けでした八鹿町営土地改良事業の事業施行認可処分の取消請求に関する部分につき、原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。

 右部分につき本件を神戸地方裁判所に差し戻す。

 上告人のその余の上告を棄却する。

 前項に関する上告費用は上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人大塚明、同神田靖司の上告理由一ないし三について

 土地改良法は、八七条六項及び七項において、国営又は都道府県営の土地改良事業につき農林水産大臣又は都道府県知事が決定した事業計画についての異議申立てに関する行政不服審査法四五条の期間は当該事業計画書の縦覧期間満了の日の翌日から起算して一五日以内とすること、及び右異議申立てについては右縦覧期間満了後六〇日以内に決定しなければならないことを規定した上、八七条一〇項において、右事業計画に不服がある者は右異議申立てについての決定に対してのみ取消しの訴えを提起することができることを規定している。農林水産大臣又は都道府県知事の行う右事業計画の決定は、当該事業施行地域内の土地につき土地改良事業を施行することを決定するもので、公告すべきものとされていること(土地改良法八七条五項)、右公告があつた後において土地の形質を変更し、工作物の新築、改築若しくは修繕をし、又は物件を附加増置した場合には、これについての損失は、原則として補償しなくてもよいものとされていること(同法一二二条二項)、また、右事業計画が異議申立手続を経て確定したときは、これに基づき工事が着手される運びとなること(同法八七条八項)に照らせば、右事業計画の決定は、行政処分としての性格を有するものということができる。前記の土地改良法八七条六項及び七項は、右事業計画の決定が行政処分として行政不服審査法による異議申立ての対象となるものであることを当然の前提として、異議申立期間等の特則を定めるものであり、同条一〇項も、右事業計画の決定が本来行政処分として取消訴訟の対象となり得るものであることを当然の前提とした上、行政事件訴訟法一〇条二項所定のいわゆる原処分主義の例外として裁決主義を採用する立場から、右事業計画に不服がある者は右異議申立てについての決定に対してのみ取消しの訴えを提起することができるとしたものである。

 そして、土地改良事業は、国営又は都道府県営であるか市町村営であるかによつて特別その性格を異にするものではないところ、市町村営の土地改良事業において、右に述べた国営又は都道府県営の土地改良事業における事業計画の決定に対応するものは、当該市町村の申請に基づき都道府県知事が行う事業施行の認可である。右事業施行の認可も、当該事業施行地域内の土地につき土地改良事業を施行することを認可するもので、公告すべきものとされ(土地改良法九六条の二第七項)、右公告があつた後における土地の形質の変更等についての損失は原則として補償しなくてもよいものとされており(同法一二二条二項)、右事業施行の認可があつたときは工事が着手される運びとなるのであつて、右の事業計画の決定と事業施行の認可とは、土地改良事業の一連の手続の中で占める位置・役割を同じくするのである。そうすると、右事業施行の認可も、行政処分としての性格を有し、取消訴訟の対象となるものといわざるを得ず、前記のように、国営又は都道府県営の土地改良事業における事業計画の決定が本来取消訴訟の対象となり得るものであることを当然の前提とした規定を置く土地改良法は、市町村営の土地改良事業における事業施行の認可についても、それが取消訴訟の対象となることを認めているものと解せざるを得ない。

 もつとも、土地改良法は、右事業施行の認可について、前記の八七条六項、七項及び一〇項に相当するような規定は設けていない。しかし、これは、土地改良法が、立法政策上、右事業施行の認可の先行手続として行われる認可申請を適当とする旨の都道府県知事の決定につき、利害関係人の異議の申出を認め(九六条の二第五項及び九条一項)、右事業施行の認可については重ねて行政不服審査法による不服申立てをすることができないこととした(九六条の二第五項及び一〇条五項)ため、右事業施行の認可に関する取消訴訟については裁決主義を採用する余地がなくなつたことによるにすぎないのであつて、右事業施行の認可が取消訴訟の対象となることを否定するものではないと解すべきである。

 以上のように、市町村営の土地改良事業に関し都道府県知事が行う事業施行の認可は、取消訴訟の対象となるものというべきであるから、八鹿町営土地改良事業に関し被上告人が行つた本件事業施行認可処分が取消訴訟の対象とならないとしてその取消しを求める訴えを却下した第一審判決及びこれを支持した原判決は、いずれも法律の解釈を誤つたものといわざるを得ず、右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。第一審判決の引用する当裁判所昭和三七年(オ)第一二二号同四一年二月二三日大法廷判決(民集二〇巻二号二七一頁)は、土地区画整理法に基づく土地区画整理事業計画の決定に関するものであるから、事案を異にし、本件に適切でない。論旨は、右の違法を指摘する点において理由があり、その余の点について判断するまでもなく、原判決及び第一審判決は、本件事業施行認可処分の取消請求に関する部分につき、破棄又は取消しを免れず、右部分につき本件を神戸地方裁判所へ差し戻すべきである。

 同四について

 土地改良法九六条の二第五項及び九条一項に規定する異議の申出は、市町村営の土地改良事業に関し都道府県知事が事業施行の認可を行う前の段階において、利害関係人に異議を申し出る機会を与え、都道府県知事の監督権の発動を促す途を開いたものであつて、行政事件訴訟法三条三項にいう「審査請求、異議申立てその他の不服申立て」に当たらないから、都道府県知事が土地改良法九六条の二第五項及び九条二項の規定に基づき行う右異議の申出を棄却する旨の決定は、行政事件訴訟法三条三項にいう「裁決」に当たらないことが明らかである。また、右異議申出棄却決定は、利害関係者の法的地位に何ら影響を及ぼすものではないから、行政事件訴訟法三条二項にいう「処分」にも当たらないものというべきである(最高裁昭和五二年(行ツ)第七一号同年一二月二三日第二小法廷判決・裁判集民事一二二号七七九頁参照)。したがつて、右異議申出棄却決定は取消訴訟の対象となり得ないものというべきであり、本件異議申出棄却決定の取消請求に関する部分につき本件訴えを不適法とした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、三八八条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

    最高裁判所第一小法廷

大韓民国政府の支配する地に本籍地を有する朝鮮国籍の夫婦が協議離婚届をした結果、自動的に父が親権者として扱われることとなつたため、現に子を監護養育している母が親権者変更の申立てをした事案において、朝鮮民主主義人民共和国法を適用し右申立てを認容した事例

 

 

親権者変更申立事件

【事件番号】      仙台家庭裁判所審判/昭和56年(家)第537号、昭和56年(家)第538号

【判決日付】      昭和57年3月16日

【判示事項】      大韓民国政府の支配する地に本籍地を有する朝鮮国籍の夫婦が協議離婚届をした結果、自動的に父が親権者として扱われることとなつたため、現に子を監護養育している母が親権者変更の申立てをした事案において、朝鮮民主主義人民共和国法を適用し右申立てを認容した事例

【参照条文】      法例20

             法例27

【掲載誌】        家庭裁判月報35巻8号149頁

 

 

法の適用に関する通則法

(親子間の法律関係)

第三十二条 親子間の法律関係は、子の本国法が父又は母の本国法(父母の一方が死亡し、又は知れない場合にあっては、他の一方の本国法)と同一である場合には子の本国法により、その他の場合には子の常居所地法による。

12、3才の児童と同様の精神能力しかない者(成年者)のなした控訴及び控訴取下の効力

 

 

              動産及び不動産引渡等請求事件

【事件番号】      最高裁判所第2小法廷判決/昭和27年(オ)第9号

【判決日付】      昭和29年6月11日

【判示事項】      12、3才の児童と同様の精神能力しかない者(成年者)のなした控訴及び控訴取下の効力

【判決要旨】      成年者であつても12、3才の児童と同様の精神能力しかなく、控訴の取下により、第1審の敗訴判決が執行され、そのため自己の生活の根拠が脅かされる結果を生じることを理解できない者のなした控訴の取下は無効であるが、控訴の提起は有効と解して妨げない。

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集8巻6号1055頁

 

 

行為能力とは、契約などの法律行為を単独で確定的に有効に行うことができる能力。

 

行為能力を制限された者のことを「制限行為能力者」という。具体的には、未成年者・成年被後見人・被保佐人・民法第17条第1項の審判(同意権付与の審判)を受けた被補助人を指す(民法20条第1項参照)。

 

 

 

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人らの負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人田中徳一の上告理由は別紙上告理由書記載のとおりである。

 第一点、第二点、第三点について。

 記録によれば、被上告人は、相手方Aの訴求した、家屋の所有権移転登記とその引渡、電話加入名義の変更申請手続、動産の引渡等をなすべき旨の第一審判決を受け、右判決に対し控訴したものであつて、右控訴を取下げれば前記敗訴判決が確定し、その執行を受ける関係にあつたことが明らかである。そして、この事実と甲第二号証(戸籍謄本)、原審が中間判決において引用した証拠等によれば、もし右判決が執行せられるときは、被上告人が姉B夫婦によつて経営していた豊田屋旅館の経営に支障を来し、被上告人の生活の根拠が脅かされる結果となることは明らかであるに拘らず、被上告人は本件控訴取下の当時、すでに成年を過ぎ、且未だ準禁治産宣告を受けてもいなかつたけれども、生来、医学上いわゆる精神薄弱者に属する軽症痴愚者であつて、その家政、資産の内容を知らず、治産に関する社会的知識を欠き、思慮分別判断の能力が不良で、その精神能力は十二、三才の児童に比せられる程度にすぎず、しかも、その控訴取下は姉B夫婦や訴訟代理人に相談せずなされたこと、そのため被上告人は、控訴取下によつて前記の如き重大な訴訟上並に事実上の結果を招来する事実を十分理解することができず、控訴取下の書面を以て、漠然相手方に対する紛争の詑状の程度に考え、本件控訴取下をなしたものであること、以上の如き事実が認められるから、被上告人のなした本件控訴取下は、ひつきよう意思無能力者のなした訴訟行為にあたり、その効力を生じないものと解すべきである。これに反して、控訴の提起自体は、単に一審判決に対する不服の申立たるに過ぎず、かつ敗訴判決による不利益を除去するための、自己に利益な行為である関係上、被上告人においても、その趣旨を容易に理解し得たものと認められるから、本件控訴の提起はこれを有効な行為と解するを妨げないのであり、従つて原審が、被上告人の控訴取下を無効と判断するとともに、被上告人の控訴に基き、本案の審理判決をしたのは正当であつて、論旨は理由がない。

 同第六点、第七点について。

 原判決は本件物件の譲渡は単純な売買によるものでなく、債権担保のためにする信託的な譲渡であるから、被上告人の債務不履行を理由に担保権実行のため係争物件の引渡を求めるのなら格別、被担保債権の履行を求めこともなく、いきなり単純売買を主張して係争物件の引渡を求めるがごときは、判示信託契約の趣旨にも反するものであつて、信義にもとるところであると判断したものであつて、右原審の判断は正当である。論旨は、原審の認定しない事実に基き、もしくは原判示に副わない事実によつて、原審の判断を非難するもので採るに足らない。

 その余の論旨は最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律にいう「法令の解釈に関する重要な主張」を含むものとは認められない。

 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

     最高裁判所第二小法廷

第4章 刑事免責制度の新設
改正法により,刑事訴訟法第157条の2として,

1 検察官は、証人が刑事訴追を受け、または有罪判決を受けるおそれのある事項についての尋問を予定している場合であって、当該事項についての証言の重要性、関係する犯罪の軽重及び情状その他の事情を考慮し、必要と認めるときは、あらかじめ、裁判所に対し、当該証人尋問を次に掲げる条件により行うことを請求することができる。
➀ 尋問に応じてした供述及びこれに基づいて得られた証拠は、証人が当該証人尋問においてした行為が第161条または刑法第169条の罪に当たる場合に当該行為に係るこれらの罪に係る事件において用いるときを除き、証人の刑事事件において、これらを証人に不利益な証拠とすることができないこと。
② 第146条の規定にかかわらず、自己が刑事訴追を受け、または有罪判決を受けるおそれのある証言を拒むことができないこと。
2 裁判所は、前項の請求を受けたときは、その証人に尋問すべき事項に証人が刑事訴追を受け、または有罪判決を受けるおそれのある事項が含まれないと明らかに認められる場合を除き、当該証人尋問を同項各号に掲げる条件により行う旨の決定をするものとする。

との規定が新設され,

同第157条の3として,

1 検察官は、証人が刑事訴追を受け、または有罪判決を受けるおそれのある事項について証言を拒んだと認める場合であって、当該事項についての証言の重要性、関係する犯罪の軽重及び情状その他の事情を考慮し、必要と認めるときは、裁判所に対し、それ以後の当該証人尋問を前条第1項各号に掲げる条件により行うことを請求することができる。
2 裁判所は、前項の請求を受けたときは、その証人が証言を拒んでいないと認められる場合またはその証人に尋問すべき事項に証人が刑事訴追を受け、若しくは有罪判決を受けるおそれのある事項が含まれないと明らかに認められる場合を除き、それ以後の当該証人尋問を前条第1項各号に掲げる条件により行う旨の決定をするものとする。
との規定が新設されました。
 これらは,証人が有している自己負罪拒否特権(刑事訴訟法第146条)を失わせて証言を強制すること,そして,(当該証人尋問における行為が同第161条のいわゆる宣誓証言拒否罪または刑法第169条の偽証罪に当たる場合に当該行為・当該罪に係る事件において用いるときを除き)それによって得られた証言や証言によって得られた派生的証拠を当該証人自身の刑事事件において証拠とすることができないことを旨とする,いわゆる刑事免責制度です。
 この刑事免責制度は,供述証拠を得る手段であるという点では前記⑵の協議・合意制度と共通している一方,適用対象について罪名による限定が存在しない点,合意によることを前提としていない点では同制度と異なっています。

 

卵管結紮による避妊手術につき、医師に術後妊娠の可能性があることを説明しなかった義務違反があるとして、賠償責任を肯定した事例

 

 

損害賠償請求控訴事件

【事件番号】      大阪高等裁判所判決/昭和59年(ネ)第1178号

【判決日付】      昭和61年7月16日

【判示事項】      卵管結紮による避妊手術につき、医師に術後妊娠の可能性があることを説明しなかった義務違反があるとして、賠償責任を肯定した事例

【参照条文】      民法415

【掲載誌】        判例タイムズ624号202頁

【評釈論文】      判例タイムズ643号118頁

             別冊ジュリスト102号206頁

 

 

民法

(債務不履行による損害賠償)

第四百十五条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

2 前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。

一 債務の履行が不能であるとき。

二 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。

三 債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。