12、3才の児童と同様の精神能力しかない者(成年者)のなした控訴及び控訴取下の効力 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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12、3才の児童と同様の精神能力しかない者(成年者)のなした控訴及び控訴取下の効力

 

 

              動産及び不動産引渡等請求事件

【事件番号】      最高裁判所第2小法廷判決/昭和27年(オ)第9号

【判決日付】      昭和29年6月11日

【判示事項】      12、3才の児童と同様の精神能力しかない者(成年者)のなした控訴及び控訴取下の効力

【判決要旨】      成年者であつても12、3才の児童と同様の精神能力しかなく、控訴の取下により、第1審の敗訴判決が執行され、そのため自己の生活の根拠が脅かされる結果を生じることを理解できない者のなした控訴の取下は無効であるが、控訴の提起は有効と解して妨げない。

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集8巻6号1055頁

 

 

行為能力とは、契約などの法律行為を単独で確定的に有効に行うことができる能力。

 

行為能力を制限された者のことを「制限行為能力者」という。具体的には、未成年者・成年被後見人・被保佐人・民法第17条第1項の審判(同意権付与の審判)を受けた被補助人を指す(民法20条第1項参照)。

 

 

 

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人らの負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人田中徳一の上告理由は別紙上告理由書記載のとおりである。

 第一点、第二点、第三点について。

 記録によれば、被上告人は、相手方Aの訴求した、家屋の所有権移転登記とその引渡、電話加入名義の変更申請手続、動産の引渡等をなすべき旨の第一審判決を受け、右判決に対し控訴したものであつて、右控訴を取下げれば前記敗訴判決が確定し、その執行を受ける関係にあつたことが明らかである。そして、この事実と甲第二号証(戸籍謄本)、原審が中間判決において引用した証拠等によれば、もし右判決が執行せられるときは、被上告人が姉B夫婦によつて経営していた豊田屋旅館の経営に支障を来し、被上告人の生活の根拠が脅かされる結果となることは明らかであるに拘らず、被上告人は本件控訴取下の当時、すでに成年を過ぎ、且未だ準禁治産宣告を受けてもいなかつたけれども、生来、医学上いわゆる精神薄弱者に属する軽症痴愚者であつて、その家政、資産の内容を知らず、治産に関する社会的知識を欠き、思慮分別判断の能力が不良で、その精神能力は十二、三才の児童に比せられる程度にすぎず、しかも、その控訴取下は姉B夫婦や訴訟代理人に相談せずなされたこと、そのため被上告人は、控訴取下によつて前記の如き重大な訴訟上並に事実上の結果を招来する事実を十分理解することができず、控訴取下の書面を以て、漠然相手方に対する紛争の詑状の程度に考え、本件控訴取下をなしたものであること、以上の如き事実が認められるから、被上告人のなした本件控訴取下は、ひつきよう意思無能力者のなした訴訟行為にあたり、その効力を生じないものと解すべきである。これに反して、控訴の提起自体は、単に一審判決に対する不服の申立たるに過ぎず、かつ敗訴判決による不利益を除去するための、自己に利益な行為である関係上、被上告人においても、その趣旨を容易に理解し得たものと認められるから、本件控訴の提起はこれを有効な行為と解するを妨げないのであり、従つて原審が、被上告人の控訴取下を無効と判断するとともに、被上告人の控訴に基き、本案の審理判決をしたのは正当であつて、論旨は理由がない。

 同第六点、第七点について。

 原判決は本件物件の譲渡は単純な売買によるものでなく、債権担保のためにする信託的な譲渡であるから、被上告人の債務不履行を理由に担保権実行のため係争物件の引渡を求めるのなら格別、被担保債権の履行を求めこともなく、いきなり単純売買を主張して係争物件の引渡を求めるがごときは、判示信託契約の趣旨にも反するものであつて、信義にもとるところであると判断したものであつて、右原審の判断は正当である。論旨は、原審の認定しない事実に基き、もしくは原判示に副わない事実によつて、原審の判断を非難するもので採るに足らない。

 その余の論旨は最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律にいう「法令の解釈に関する重要な主張」を含むものとは認められない。

 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

     最高裁判所第二小法廷