社会主義と資本主義が争っていた冷戦時代、社会主義の雄ソビエト連邦の国内はどんな社会だったのか、その様子が熊日に載ってました。
社会主義社会では、住居、教育、医療全てが無料で、失業者はゼロ、ホームレスも存在しない、というより存在する自由がない。すべてを国が管理し、計画経済で、例えば小麦をどの地域でどれぐらい生産するかは、クレムリンで決定され各地に通達される。
国民は国家の決めたノルマを遂行する。資本家はいないので個人商店は存在しない。残業は無し、男女平等賃金、夏には1カ月の長期休暇が付与された。
社会主義社会で最も重要な価値は「平等」だった。職業によって2、3倍の差はあるが、国民全体が同じような収入でほぼ格差のない社会だった。もちろん高級官僚たちはその範疇になかったが、彼らは超マイノリティーだった。
モスクワ大学であっても教授も清掃員も給料はほとんど変わらない。肉体労働の方が大変で価値があるということで、幾分高く給料が設定されていることもあった。
最も低賃金だったのが教師や医師である。大学の中でも一番威張っていたのはお掃除のおばちゃん。教授や学生たちに向かって、そこは今拭いたばかりだから歩いちゃダメといつも怒鳴っていた。
私企業が存在しないので、新製品の開発競争も、CMもない。そもそもビジネスという単語も存在しない。個人が物を売り買いし利益を出すことは犯罪とされていた。
一方で一生懸命働いても働かなくても同じ給料という平等は、労働意欲を奪う。国営小売店でも店員は客が来ると仕事が増えるので不機嫌になる。恒常的な物不足で常に長い行列ができるが、全く急ぐ様子は無く終わるのを客が辛抱強く待つこともあった。
言われたことだけをやる不自由な気楽さと、自分で取捨選択して責任を持つ人生、後者を選ぶ人が大半だと思っていたが、それは間違っているかもしれない。個人の自立や自由を求める人は多くはなく、生まれてから死ぬまで人生のレールがきっちり敷かれ、迷う必要のない人生を好む人も結構いるのだろう。
そんな社会が崩壊し、未知の資本主義が導入された。人々は突然の自由と自己責任に戸惑った。国営企業は民営化され、目先が利く官僚などが安く手に入れ、瞬く間に巨大な財閥が登場した。急速に格差が広がり、今まで存在しなかった失業者が街にあふれた。
崩壊後1カ月のサハリン、今まで全国統一価格だった商品が価格自由化により10~20倍に跳ね上がっていた。
この急な市場経済の導入は、「これが民主主義だ」とのスローガンの下に進められた。それは社会の大混乱を引き起こし、「暗黒の10年」と呼ばれた。ロシアでは「民主主義」という言葉は、その混乱の時代を思い出させた。
2000年に大統領に就任したプーチンは、この混乱を収めるため財閥を追放し、エネルギーなど基幹産業を再国営化、その強権で社会に安定を取り戻した。現状に不満を感じ将来に希望が見えない時、人は力強いリーダーを求める。
今回の戦争についても、その政策に不満でも、今、国の指導者が代わり再び混乱が起こることを人々は恐れている。「暗黒の10年」はトラウマなのだ。
人々にとって何よりも大切なのは安定。それが希望のある安定ではなく、仕方のない安定であったとしても。
この記事を読んでプーチン大統領の支持率が下がらない理由が少し分かったような気がしました!