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れぽれろのブログ

美術、音楽、本、日常のことなどを思いつくままに・・・。

2022年も間もなくおしまいです。皆様にとって今年はどんな年だったでしょうか?
今回は当ブログの毎年の恒例行事、今年書いた記事などを振り返りつつ、今年の自分のまとめを残しておきます。


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日本社会にとっては2022年は激動の年であったと言っていいと思います。2年前のコロナショックから社会が立ち直らない中、2月に始まったウクライナ戦争、7月の安倍元首相の銃撃事件、そして物価高騰が今年の3大ニュースでしょうか。
ウクライナ戦争については、まさか21世紀のこの時代にこのような戦争が始まるとは、だれも予想していなかったことだと思います。グローバル化が進行した現代社会においては、国家にとって戦争はリスクでしかなく、大国による2国間の大規模な戦争など起こらない…。このような見方が現代の識者にとって一般的だったと思いますが、事実はさにあらず。おそらくは一部為政者の強い主観によって、このような戦争が開始されたという事実は、たいへんな驚きです。社会は合理性を無視して進むもの、このことを改めて感じさせられました。
7月の安倍元首相の銃撃事件も衝撃度の大きい事件でした。個人的には、奈良県の近鉄西大寺駅前で事件が発生したことに驚いています。歴代の首相や主要政治家の暗殺、暗殺未遂事件は、多くは首都圏で発生しています。まさか現代の近畿圏でこのような政治的な事件が発生するとは、考えてもいなかったことです。
このような流れの中で、11月に社会学者の宮台真司さんが襲撃され、大きな怪我を負ったことも驚きでした。自分は宮台真司さんの長年にわたる読者で、宮台さんが出演されているビデオニュース・ドットコムのインターネット放送もほぼ毎週視聴していましたので、衝撃はひときわ大きかったです。幸い宮台さんの回復は早く、この年末からは早くもインターネット放送にも復帰されており、まずは一安心といったところですが、犯人がまだ捕まってない点がやはり問題。
政治家や言論人への暴力は非常に大きな問題です。暴力によって政治や言論が委縮することはたいへん良くないことです。来年も社会にとっては不安な要素しかありませんが、平穏な一年になることを願わずにはおれません。

そんな中、自分にとってこの1年は変化の年でした。
長年1人暮らしを続けてきていましたが、この10月末に引っ越しし、現在は新居で2人暮らしを始めています。実家を出てから22年間ずっと1人での生活で、1人の生活に慣れ切っていましたが、始めてみると2人の生活にもあっという間に慣れ、今では1人に戻ることが早くも難しくなってきています 笑。
2人になると生活はかなり変わります。1人だと好きなときに好きな食事をし、好きな場所に出かけ、ブログなどの趣味も自分のペースで書き続けることができましたが、2人だと生活の様々な面で、相手とペースに合わせる必要が出てきます。その結果、読書や美術鑑賞や音楽鑑賞などの時間は減り、ブログも定期更新から不定期更新になりました。しかし2人のペースで生活するというのもなかなか楽しく、共同生活というのもかけがえのないものであるということに、40代半ばにして改めて気付かされています。お互いの様々な事情により、共同生活は期間限定になる可能性もありますが、少なくともいましばらくはこの生活を楽しみたいなと思っています。
共同生活にとって意外と重要なのがテレビです。なんとなくぼんやりと部屋でテレビがついている、というのが共同生活では意外と重要。実は過去十数年間ほとんどテレビを見ていなかったのですが、十数年ぶりにテレビを見ると、かなり浦島太郎状態 笑。十数年前に若手だったタレントが大物になっていたり、逆に以前から大物だった人がいまだに大御所としてテレビに出続けていたりと、なかなか面白いものがあります。久しぶりにテレビを見た感想なども、機会があればどこかでまとめてみようかなと思っていたりもします。


戦争について考えたのがこちらの記事です。

・戦争への向き合い方 -生活者の視点から-
https://ameblo.jp/0-leporello/entry-12730201880.html


安倍元首相の銃撃事件を受けて、近鉄西大寺駅周辺の過去の記録をまとめたのがこちら。

・奈良県のお寺 -西大寺と薬師寺-
https://ameblo.jp/0-leporello/entry-12753671269.html



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続いては本のまとめ。
今年は1年間に読んだ本は計42冊と、例年よりやや少なめです。これは引っ越しの前後でほとんど本を読めていなかった時期があることが大きいです。この中から、今年発売の本から5冊、過去の本を3冊、計8冊をベストとしてまとめておきます。

今年発売の本のベスト5冊は以下です。

・菊地暁「民俗学入門」(岩波新書)
・成田龍一「歴史像を伝える」(岩波新書)
・中島隆博「中国哲学史」(中公新書)
・賀茂道子「GHQは日本人の戦争観を変えたか」(光文社新書)
・笹山敬輔「ドリフターズとその時代」(文春新書)


民俗学入門」は、現代社会をこのように叙述する方法があったのかと、目からウロコの本。一般に民俗学は前近代の習俗や文化を考察する学問と思われがちですが、その手法で現代社会を考察しているのが本書です。本書を読むと、例えば女性の下着や皿洗いのバイトなども、近現代を考察する格好の材料になることが分かります。経済学・社会学・歴史学のようなよくある手法以外で現代を考察する手法が個人的には新鮮でした。著者は近畿圏の大学の先生ですので、近畿圏の事例が多くあげられているのも自分としては面白かったです。
歴史像を伝える」は、過剰に実証研究的ではなく、かといって主観の強い物語的でもないような歴史の叙述と実践について考える本。方法論の後に続く近代の具体的な例示が面白く、新聞、雑誌、文学、映画などの歴史資料から得られる歴史像の叙述と考察が、近代史好きにとっては面白いです。部分的には小津安二郎論や村上春樹論としても読める本。
中国哲学史」はこの分野に馴染みの薄い人(自分もそう)にとってはややとっつきにくい本で、とくに後半は難解に思いましたが、儒学をベースとした中国哲学全般を、古代から近代まで俯瞰する本として有益。とくに仏教やキリスト教などの他地域からの影響により、中国哲学が変遷してきたというあたりがポイント。とりわけ仏教の影響により儒学が形而上学化したという指摘が重要で、よって朱子学や陽明学に至る以前の非形而上学的な古代の儒学こそ、現代にとって大切なのではないかと本書を読んで感じます。
GHQは日本人の戦争観を変えたか」は占領期の歴史を扱った本で、近年語られがちなGHQ陰謀論を批判することが主たる目的の一冊ですが、本書の良さそれをだけに非ず。戦後の歴史観は日本人自身が作り上げてきたという事実の指摘、プロパガンダ性と普遍性の両方を含むGHQ施策の両義性についての指摘は重要。戦争を「仕方がなかった」で済ませないために、考えを深める一助にもなる一冊です。
ドリフターズとその時代」は、有名なテレビお笑いタレント、ドリフターズの歴史をまとめた本で、戦後昭和・平成の文化史としても読める一冊。この手のお笑い芸人本は、その芸人の独創性や個性ばかりが強調されがちですが、著者は演劇の専門家であり、ドリフのコントを大衆舞台芸術としてとらえ、戦後の演劇史・音楽史の中に位置付けようと試みている点がポイント。いかりや長介や志村けんらメンバーの群像劇としても読め、ドリフや志村けんについての記憶のある世代ならきっと面白く読める本です。


過去に出版された古典の中から選んだ3冊が以下です。

・岡義武「転換期の大正」(岩波文庫) ※単行本出版は1969年
・網野善彦「蒙古襲来」(小学館文庫) ※単行本出版は1974年
・末木文美士「日本仏教史」(新潮文庫) ※単行本出版は1992年

転換期の大正」は、奇しくも今年の国葬儀の際に、追悼文の中に登場したことで話題になった岡義武氏の著作。国葬の少し前に読みました。本書は大正時代を扱った通史で、専門的な歴史本ということになりますが、人物中心の叙述なので比較的読みやすく、前半の主人公が大隈重信、後半の主人公が原敬、全体を通してのその裏に山県有朋がいる、というストーリーで読むこともできます。一般に大正デモクラシーなどと言われ、昭和初期の「憲政の常道」たる政党内閣時代を準備したのが大正期などと言われますが、実は大正期の大隈・原らのデモクラシーに対する失敗こそが、昭和の政党内閣の挫折を準備したのだというのが本書の見立てです。脚注がかなり充実しているのも、近代史好きにとっては面白ポイント。
網野善彦さんの本は自分は過去に比較的多く読んでいるのですが、「蒙古襲来」は読んでいなかった本です。本書は鎌倉時代後期の通史、北条時頼の時代から元寇と得宗専制政治を経て後醍醐天皇の討幕までを扱う本ですが、元寇の前後で日本社会の在り様が大きく変わったというのが網野史学ならではのポイント。我々が考えがちな農村中心の日本社会というイメージが元寇以降から徐々に定着したという指摘に加え、個人的には京都の政治史(持明院統と大覚寺統の時代)に多くの分量を割かれている点も面白かったです。この時代の天皇もなかなか個性的な人が多く、亀山天皇や花園天皇など印象的。
今年は仏教の本を何冊か読んだ年、その中では末木文美士さんの「日本仏教史」が一番面白かったです。仏教は古代の中央集権体制の確立期に政治的・学問的に輸入され、中世に至る流れの中で日本独自の発展を遂げたという点がポイント。日本の仏教理解は概ね世俗的(非超越的)であり、平安時代に登場した本覚思想(世俗のすべてが悟りであり仏である)が重要で、有名な鎌倉仏教もこの本覚思想の発展もしくはカウンターと考えると捉えやすい。近世以降の檀家制度や葬式仏教も、単に本質的ではないと否定するのではなく、日本の仏教の大切な側面であると考え直すための視座を与えてくれる本でもあります。


ということで、8冊の記念写真。



その他読書関連としては、今年は社会学者の見田宗介さんが亡くなられた年でもありました。
見田宗介さんの振り返り記事がこちら。

・追悼 見田宗介(真木悠介) -とくに印象深い3冊の覚書など-
https://ameblo.jp/0-leporello/entry-12742699887.html


年末には歴史家の渡辺京二さんの訃報が報道されました。自分は「逝きし世の面影」「北一輝」「なぜ今人類史か」の3冊を読みましたが、とくに「逝きし世の面影」は近代社会/前近代社会の差異を考える上で重要な本で、個人的に人生のベストに選んだこともある本でした。
合わせてご冥福をお祈りいたします。



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その他の趣味関係のまとめ。

美術鑑賞では、今年は何といっても大阪中之島美術館の開館が一番のビッグニュースでした。開館記念の「超コレクション展 99のものがたり」、2回にわたる「みんなのまち 大阪の肖像」の展示は、近代の美術史のみならず、大阪の都市の近代史を考える展示としても面白いものでした。

・大阪中之島美術館 開館記念 超コレクション展 99のものがたり
https://ameblo.jp/0-leporello/entry-12727684269.html

・みんなのまち 大阪の肖像(2) (大阪中之島美術館)
https://ameblo.jp/0-leporello/entry-12765941941.html


あとは自分の出身地である大阪府河内長野市の特集展示が、京都国立博物館で開催されたのが印象的です。観心寺と金剛寺という2つの真言宗のお寺の所蔵品、多数の仏像や絵画などの展示を興味深く鑑賞できました。

・河内長野の霊地 観心寺と金剛寺-真言密教と南朝の遺産 (京都国立博物館)
https://ameblo.jp/0-leporello/entry-12762251318.html


社寺観光では、今年は岡山県の吉備津神社を訪れることができたのが良かったです。とくに室町時代再建の拝殿の様子が面白く、内部の広い空間が独特で荘厳な雰囲気でした。長く続く回廊も印象的。

・岡山市 吉備津神社
https://ameblo.jp/0-leporello/entry-12758548086.html


ゲンロン・シラス関係では、上記の「中国哲学史」の出版を受けての中島隆博さんと東浩紀さんの対談。及び、「国威発揚ウォッチ」番組内での、仏教学者である亀山隆彦さんと辻田真佐憲さんによる、仏教史を2回に分けて俯瞰する対談が、たいへん良かったように思います。
ベストをもう1つあげるなら、意外と良かったのが11月に放送された経済学者の成田悠輔さんと東浩紀さんの対談。AIなどの工学的イノベーションにより社会の多くの問題が解決可能ではないか主張する成田悠輔さんに対し、人間は複雑なので社会問題はそう簡単には解決しないというのが東浩紀さんの立場。
現在30代の成田悠輔さんを見ていると、個人的には90年代の宮台真司さん(当時30代)を思い出します。90年代当時の女子高生らの様子を取材した宮台真司さんは、システムとネットワークがあれば多くの人は物語などなくても生きていけるという主張を展開し、当時の年長者(西部邁氏など)などから反発を受けていました。しかし宮台真司さんがゼロ年代以降、社会問題はそう簡単にシステム的に解決しないという方向に主張を転換したのは有名な話。40代の自分としては、成田悠輔さんもゆくゆくは主張を転換されるのでは?などと予測しています。



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ということで、今年ももう少しでおしまいです。
当ブログは不定期更新になりましたが、また折を見てあれこれ書くかもしれません。アクセスして頂いている皆様におかれては、その際は引き続きよろしくお願い致します。

さようなら、2022年。
すべての皆様に感謝。
幸せを明日に…。
良いお年をお迎えください。