大阪中之島美術館 開館記念 超コレクション展 99のものがたり | れぽれろのブログ

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2月11日の金曜日、このたび開館した大阪中之島美術館に行ってきました。
開館記念の展覧会「超コレクション展 99のものがたり」を鑑賞してきましたので、覚書と感想、その他個人的な思い出なども含めて書き残しておきたいと思います。


自分は大阪府出身・在住です。美術館に積極的に出かけるようになった今から約20年前当時、大阪府内のそれなりの大きな規模の美術館といえば、大阪市立美術館、国立国際美術館、サントリーミュージアムの3つでした。
天王寺にある大阪市立美術館は戦前からの長い歴史のある公立の美術館で、多くの日本美術や中国美術を所蔵している美術館。国立国際美術館は主に戦後の現代美術を蒐集・展示する国立美術館で、元々は70年代に大阪府の美術館として計画されましたが、諸般の事情により国立の美術館として吹田の万博跡地で開館し、その後ゼロ年代に中之島に移設されたという経緯のある美術館。サントリーミュージアムはかつて南港にあった私設の美術館で、ポスターや版画作品を多数所有していた美術館でした。

これに加えて大阪市立近代美術館ができる!、という話は80年代から存在していました。大阪市はとくに80年代以降に多数の近代美術を蒐集していたようで、自分が積極的に美術展に行き始めたゼロ年代当時は、心斎橋の旧出光美術館があった場所にて「大阪市立近代美術館(仮称)心斎橋準備室」という名で蒐集した作品を展示しており、自分もここに何度も通って鑑賞してました。
新しい美術館はいつできるのかなと思ってゼロ年代を過ごしていましたが、10年代になると経済環境の変化や大阪の府政・市政の変化に伴い、新美術館どころか心斎橋準備室は閉館、サントリーミュージアムも閉館、大阪市立美術館もみるみる企画がショボくなり、ほとんど特別展を開催しなくなりました。ただ1つ国立国際美術館だけは様々な素晴らしい企画展を開催していましたが、一般に大阪は美術館的には冬の10年代であったと言ってよいのではないかと思います。
一時は大阪市立美術館の閉館の噂さえもありましたが、結果的に大阪市立美術館は現在の建物(戦前からの貴重な建築物)を維持したまま存続、加えて大阪市立近代美術館を新たに中之島に建設するという話が出たときはうれしく思ったものでした。それでも本当にできるのかどうか半信半疑でしたが、長く待った結果ついに本年、大阪中之島美術館として、中之島の国立国際美術館のすぐ横にて開館することになりました。


美術館の外観。

黒い巨大な立方体です。シンプルなデザインであまり凝った感じはありません。
この写真は南側(国際美術館側)から撮影しましたので、これは実は建物の裏側だったのかもしれません。地下鉄肥後橋駅側から歩くとこのような形で美術館が見えてきます。


今回の「超コレクション展 99のものがたり」にはかなり多くの作品(300点以上?)が展示されており、しかもこれはコレクションの一部、あらためて大阪市の蒐集してきた作品の多さに驚きました。こんなに集めていたとは…。閉館したサントリーミュージアムの所蔵品も引き取ったようで、コレクションの数はかなり膨大になってるようです。
心斎橋準備室の時代に何度も鑑賞したお馴染みの作品、サントリーミュージアムで鑑賞した作品から、よく知らなかった作品まで、楽しく鑑賞することができました。会場にはたくさんの人が訪れており、館内はそれなりに混雑していました。いつ行っても誰もいなかった(笑)心斎橋準備室時代から考えると、ものすごい盛況ぶりで驚きます。


展示は大きく3つのパートに分かれており、4階が第1パート、5階が第2パートと第3パートという構成になっていました。

第1パートはコレクションの基礎となった寄贈作品と、大阪にゆかりのある作家の作品の展示が中心でした。まずは戦間期にフランスの都市風景描いた有名な佐伯祐三の作品がずらりと並び、続いて様々な洋画や日本画が並んでいました。
洋画は戦間期のエコール・ド・パリその周辺の作家たちの作品が貴重で、ローランサンキスリングパスキンヴラマンクドランなどが並んでいます。パスキンの「サロメ」は古典的な題材を作家の主観が強く出た形で再解釈した面白い作品で、ベージュを中心としたパスキンらしい淡い色彩が魅力。ヴラマンクの「雪の村」は昔から好きな作品で、強烈な筆致からある種の禍々しさをも感じる作品です。日本の洋画家では小出楢重の「裸女の3」、小磯良平の「コスチューム」あたりが個人的な好みです。個人的にとくにお馴染みの作品たち。
日本画では橋本関雪霜猿」、上村松園汐くみ」、土田麦僊伊豆之海」などの巨匠の作品が良いですが、島成園の「祭りのよそおい」も面白く、3人の立派な衣装の女の子と、それに気後れする地味な衣装の子との対比が愛らしい。島成園などゼロ年代当時は見向きもしなかった作家ですが、年を重ねるとこのような絵に癒されます 笑。

大阪の日本画作品として面白いのが池田遙邨の「雪の大阪」です。戦前昭和(1928年)の雪の風景を描いた作品で、難波橋(現在の京阪・地下鉄北浜駅の北にある橋)の上からの東向きの風景が描かれており、中之島バラ園がある場所は戦前から公園であり、バラ園の間に架かる橋も戦前からあったことが分かります。遠くには大阪城址(当時天守閣はまだなし)が見えています。右手に見えるのは大林組のビルでしょうか? 当時の風景と今の風景を重ねて鑑賞するのも面白いです。
その他、古い作品では白隠仙厓の作品も展示されていました。近世の作品も所蔵していたことにびっくり。とくに白隠の「大黒天鼠師槌子図」はお坊さんの長い頭部と擬人化されたネズミたちの様子がユーモラスで楽しい1枚でした。

続いては写真作品のパート、版画作品のパート、戦前から戦後にかけての前衛絵画のパートと展示が続きます。
写真や版画はなかなか面白い作品が多く、見ていて飽きませんが、とくに充実しているのが前田藤四郎の版画シリーズです。シュルレアリスム風の作品が多いですが、戦前から戦後にかけて様々に変化し、作風の幅は広いです。「屋上運動」の人物のポージングは少し新古典時代のピカソの作品などを思わせますが、描き方はこの作家ならではのもの、「ラグビー」は視点をゆがめたキュビスム風(?)のコラージュ、かと思うと「カストリ横丁」のような飲み屋街と人物のシルエットを組み合わせたややシンプルな作品もあったりで、様々な作品を楽しく鑑賞しました。
前衛作家ではとりわけ吉原次良の作品が貴重です。一般には戦後の具体美術協会時代の「○」を描いた作品が有名かもしれませんが、個人的には戦前から敗戦直後の作品の方が好みです。最初期の「海の女神」や「縄をまとう男」は魚や潜水用具などを描いた具象画ですが、どことなくデペイズマン的な雰囲気が不穏で面白い。「夜・卵・雨」は具象物を抽象画風に構成し直した楽しい作品。戦後の「子供たち」もおそらく珍しい作品で、戦後のある種の不穏さが感じられる作品は色彩含めて好みです。シュルレアリスム・表現主義・具象・抽象の境目を揺れ動くような作品たちは鑑賞するのが楽しいです。

第2パートは近現代の海外の巨匠が並んで展示されているパートで、個人的には心斎橋準備室時代から何度も鑑賞したお馴染みの作品たちです。モディリアーニを筆頭に様々な作家が並んでいます。
シュルレアリスム系ではダリエルンストデ・キリコ、などお馴染みの作家たちが並びますが、個人的にはマグリットの「レディメイドの花束」への思い入れが強いです。マグリットお馴染みの山高帽の男性の背後に、ボッティチェリの「春」の女神を重ねるというデペイズマン作品で、マグリットやシュルレアリスム関連の展示で様々な美術館に何度も貸し出され、繰り返し鑑賞してきた作品で思い出深いです。
現代も存命の巨匠ゲルハルト・リヒターの「ドゥインガーの肖像」も貴重で、写真ベースの人物画にノイジーな線を挿入する作風は、ブラウン管の映像風にも見え抽象的にも見えるという視覚的に楽しい作品。スーパーリアリズムの作家チャック・クロースの「ジョー」は人物を超リアルに描いた巨大な肖像画で、観客の「写真やろ」「いや描いとるでこれ」「ほんまに?」というやり取りも聞こえてきて楽しい。抽象表現主義の作家モーリス・ルイスの「オミクロン」はかつてはさほど注目度も高くなく、単なるギリシャ文字タイトルのナンバリング作品でしたが、作品は作家の意図を越えて受容されるもの、現代においては意義深いタイトルの作品になりました。(年末にオミクロン株のニュースが出たとき、本館の展示関係者は心中「来たっ!」と叫んだのではと推測します 笑。)
日本の作家では杉本博司の映画館シリーズ、やなぎみわのエレベーターガールシリーズ、マネの「フォリー・ベルジェールのバー」を下敷きにした森村泰昌のセルフポートレート作品「美術史の娘」がとくにお気に入りです。

第3パートは旧サントリーミュージアムの所蔵品を中心に、ポスター、版画、室内家具などが並んでいました。このパートだけで1つの展覧会として十分成立可能な規模のすごい展示ですが、第1パートと第2パートで既にお疲れ気味のため、少し駆け足で鑑賞しました。
西洋絵画史的にはやはりロートレックのポスター作品が目を引きます。「ムーラン・ルージュのラ・グーリュ」などは美術全集でもお馴染みの作品。
このパートでとりわけ面白いのは旧ソ連の作品です。ロシア構成主義時代のロトチェンコの写真やリシツキーの版画などはなかなか貴重で面白い。とくにシュプレマティスムの作家マレーヴィチの影響下にあるリシツキーは、一見すると抽象的ですが、よく見ると造形が意味的な人物画にも見えてくる楽しい作品になっており、たいへん楽しいです(ソ連時代なので赤色を使う意味なども深読みしてしまう)。かと思うと、1920年代後半からのソ連は急にスターリニズム一色になり、一転して社会主義リアリズムがっつりのプロパガンダポスターに変遷する様子もまた楽しい。第3パートの中でソ連のコーナーは極めて政治的で、美術と政治を考える上でも興味深い展示になっています。
その他、イタリア未来派の作家ボッチョーニの「街路の力」は第2パートにありそうな作品ですが、なぜかこのパートに展示されていました。こちらも貴重な作品で、第3パートのポスター作品に埋もれて見逃さないように注意したい作品です。


ということで、ボリュームたっぷりのコレクション展でした。
中之島美術館は会場も広いので、企画展の誘致にも十分に対応できそうです。かつてはサントリーミュージアムも担っていた企画展誘致の機能もこの美術館が代替可能で、しかも南港に比べると便利な場所にありますので、今後の企画展含め、ウォッチしていきたい美術館ですね。