フェルメール展 | れぽれろのブログ

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2/23の土曜日、大阪市立美術館に行ってきました。
目的はフェルメール展です。
2000年の大阪市立美術館でのフェルメール展の開催以降、数年に一度のペースで定期的に日本にやってくる人気画家フェルメール、近畿圏では京都か神戸で開催されることが多い(とくに近年は京都市美術館が多い)ですが、今回は久方ぶりの大阪での開催です。
自分もなんだかんだ言ってフェルメールはやってくるたびに鑑賞しており、過去8つの展覧会で計11作品を鑑賞しています。
今回のフェルメール展では、なんと6作品が大阪にやってくるというびっくり企画。
うち3作品は自分は過去に鑑賞したことがありますが、残り3作品は初めての鑑賞、さらにそのうちの1枚は日本初公開なのだとか。

この展覧会は5月まで開催されていますが、会期が後になるにつれて混雑するのがいつものパターン。
混雑を避けるために、今回も会期早めに鑑賞することにしました。
今回の展覧会では、事前にチケット代をネットで支払い、スマホに表示されるQRコードで入場できるシステムが準備されているとのことで、自分も利用してみました。
これならチケット売り場の行列に並ぶこともなく、早めに入場できるかも、と思いましたが、この日は入口はまだまだ全然混雑しておらず、チケット売り場にも人の列はできていませんでした。
QRコードで楽々と入場できるのはなかなか便利。
会場の中はやはりそれなりに人がいましたが、大混雑というほどではなく、過去にあったような「立ち止まって鑑賞していると怒られる」ということもありませんでした。
それでも有名絵画になるとその前には人だかりができて見づらいですが、京都市美術館に比べて比較的動線がスムーズになるような工夫がされているのか、人が団子になりにくく、ゆったりと鑑賞することができました。(来月以降、観客が増えてくると、そうもいかなくなるのかも。)

今回の展示においても過去と同様に、フェルメールと合わせて17世紀オランダ・フランドル系の多くの画家たちの作品もやってきます。
17世紀オランダ絵画の特徴は分かりやすさ、見て分かる絵画であるということ。
それ以前の絵画は主として王様や貴族の部屋に飾られるもので、神話画や宗教画のような意味的なもの、素養がないと分からない作品が中心。
しかし、17世紀の近代世界システムの覇権国である商業国オランダにおいては、絵画を買い求めるのは商人たち、貴族の共通認識や素養がなくとも、見てそのまま楽しめる絵画であるが故に、現在においても分かりやすく人気が高い。
この流れは19世紀フランスの写実主義や印象派に受け継がれ、絵画が作家の内面の表出へと切り替わる19世紀後半までこの傾向は続きます。
ルネサンス以降、また一歩絵画史が塗り替わるのが17世紀オランダと言っても良いかもしれません。


今回の展示は6つのブースに分かれており、最初の5つはそれぞれ、肖像画、神話・宗教画、風景画、静物画、風俗画とテーマごとに分かれており、最後の6つめの展示場にフェルメールの6作品がどかんと展示されているという構成でした。

まず最初は肖像画。
ヤン・デ・ブライの「ハールレム聖ルカ組合の理事たち」の群像表現が見どころですが、これは肖像画というよりも風俗画に近いかも。
個人的に好きな画家フランス・ハルスの「ルカス・デ・クレルクの肖像」と「フェインチェ・ファン・ステーンキステの肖像」も素敵な肖像で、大胆な筆致が特徴的なハルスにしては丁寧な描き方ですが、細部を観察すると筆致にハルスらしさが見て取れます。

2つめのブースは神話画と宗教画。
17世紀オランダ系の画家は神話画を描いても風俗画っぽくなるのが面白いです。
パウルス・モレールセの「ヴィーナスと鳩」もあんまり女神さまには見えず、ただの胸をはだけたお姉さんに見えます。
美術界の2大首切りテーマ(と自分が勝手に呼んでいる)であるユディト&フォロフェルネス、サロメ&ヨハネの両作品が並んでいましたが(ヤン・デ・ブライユディトとホロフェルネス」、レンブラント工房「洗礼者ヨハネの斬首」)、眠りこけるホロフェルネスの生活臭さや、ヨハネの首を持つヘロデ王もその辺にいるおっちゃんみたいで、何やら緊張感がない感じ、これがまたオランダ系絵画の面白いところです。

続いては風景画。
どの作品も素敵ですが、個人的な見どころは教会の内部を描いた幾何学的な構造の作品、ピーテル・サーンレダムの「アルクマールの聖ラウレンス教会」「ユトレヒトの聖母教会の最西端」です。
遠近法を利用した幾何学的な建築物の捉えたかは抽象的な雰囲気も漂います。

4つめのテーマである静物画は作品3点のみ。
ウサギや鳥の死体を描くヤン・ウェーニクスの「野ウサギと狩りの獲物」がみどころで、関心を持って鑑賞している人も多かったです。

次のテーマ、風俗画が個人的には一番面白く、本展の一番の見どころだと思います。
ユディト・レイステルの「陽気な酒飲み」は、フランス・ハルス風の陽気な人物の肖像画で、楽し気な雰囲気が伝わっています。
風刺画家ヤン・ステーンの作品も楽しげで、キャプションでは道徳的教訓が重視されているような解説になっていますが、「家族の情景」「楽しい里帰り」の楽しげに振舞う人たちを見ると、むしろ享楽的な在り様の楽しさの方が印象的で、ほんまに教訓目的なのかと思ってしまいます(笑)。
個人的お気に入りは、ピーテル・デ・ホーホの「人の居る裏庭」、デ・ホーホは建築物と人物の配置と構図を重視するあまり、人物に違和感がある作品もありますが、本作はそうでもなく、構図と細部の描き込みの面白さもさることながら、カラフルな色彩と人物表現の点でも心地よく、過去に鑑賞したデ・ホーホ作品の中でもお気に入り度は高いです。
このテーマのベスト作品は、レンブラント工房出身のヘラルト・ダウが描く「本を読む老女」でしょうか。
光の表現、明暗の付け方などはレンブラント譲りで、皺を含む顔の表情・服飾・本の描き込み、そして静謐な雰囲気が良い、素敵な作品になっていました。


さて、最後の展示場はヨハネス・フェルメール6点です。
3つの展示部屋を大々的に使って、ゆったりと6作品を展示していました。
初期の宗教画である「マルタとマリアの家のキリスト」も良いですが、それ以降の5作品がとくに素敵です。
日本初公開である「取り持ち女」、戯れる男女の赤と黄色の服のカラーリングにまず目が行きますが、テーブルかけと陶磁器の描き込み、そしてグラスの光沢と照明光の反射の表現に注目。

フェルメール作品は、全体の構図、色彩、細部の細かい表現、光の表現、これらすべてが見どころであり、本作もこの楽しさが存分に味わえます。
他の4作品はやや小ぶりなもの、4作とも素晴らしいですが、1点選ぶなら「手紙を書く婦人と召使い」をあげたいと思います。
窓とテーブルクロスの描き込みと部屋全体の構図、女性の服飾と帽子の細部の描き方、そしてその女性に当たる光の表現、いずれも素敵で見ていて飽きません。
この「手紙を書く婦人と召使い」と「手紙を書く女」「恋文」は自分は過去に鑑賞したことがあります。
リュートを調弦する女」は初めての鑑賞、色彩感はやや暗めで落ち着いた感じの作品で、雰囲気は「手紙を書く女」に近い感じです。(黄色い服の雰囲気も似ている感じ。)


ということで、楽しく鑑賞しました。
フェルメール&オランダ系絵画の展示は、行くたびにあれこれと発見があります。
今回もかなり気合の入った展覧会だと思いますので、近畿圏の美術ファンの方は、会期末になって混み合う前に、早めに鑑賞することをお薦めしたいです。



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以下は個人的な覚書。
過去に鑑賞したフェルメール作品のまとめです。

2004年 「画家のアトリエ
 栄光のオランダ・フランドル絵画展 (神戸市立博物館) 

2005年 「窓辺で手紙を読む女
 ドレスデン国立美術館展 (兵庫県立美術館)
 
2005年 「恋文
 アムステルダム国立美術館展 (兵庫県立美術館) 

2009年 「レースを編む女
 ルーヴル美術館展 (京都市美術館) 

2011年 「手紙を読む青衣の女」「手紙を書く女」「手紙を書く婦人と召使い
 フェルメールからのラブレター展 (京都市美術館)
 
2012年 「青いターバンの少女」「ディアナとニンフたち
 マウリッツハイス美術館展 (神戸市立博物館) 

2015年 「天文学者
 ルーヴル美術館展 日常を描く (京都市美術館) 

2016年 「水差しを持つ女
 フェルメールとレンブラント 世界劇場の女性 (京都市美術館)

 

フェルメールの現存作品は35点ほど。(疑問作もあり。)

このうち14点を鑑賞したことになります。

残りの作品のうち、とくにフェルメールの珍しい風景画である「デルフト眺望」をぜひ観賞したいですね。