ルーヴル美術館展  日常を描く-風俗画にみるヨーロッパ絵画の神髄 | れぽれろのブログ

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美術、音楽、本、日常のことなどを思いつくままに・・・。

前回の記事と少し時系列が前後しますが、
7/14の火曜日に京都市美術館に行ってきました。
目的は現在開催されているルーヴル美術館展、
「日常を描く-風俗画にみるヨーロッパ絵画の神髄」と題された展覧会です。
いよいよ暑さも本番という日、大阪よりさらに暑さが厳しい京都盆地へ。
7月の京都といえば祇園祭で混雑する時期。
おまけにルーヴル美術館展ともなれば、祝祭日であればまず入館までに
並ぶ可能性大の混雑展覧会。
平日に鑑賞することのできる幸福を噛みしめながら、京都へ向かいました。

自分は過去に「ルーヴル美術館展」と題された展覧会を三度鑑賞しています。
一度目は2005年、「19世紀フランス絵画 新古典主義からロマン主義へ」と
題された展覧会。
京都市美術館の開催で、ダヴィッドの「マラーの死」やアングルの「トルコ風呂」を
はじめ、とくに新古典主義の展示が充実していた展覧会でした。
二度目は2009年、「美の宮殿の子どもたち」というタイトルで、
国立国際美術館で開催された展覧会。
こちらの方はお子様が登場するというくくりの展示で、
シャルダンの「食前の祈り」をはじめ、ブーシェ、フラゴナール、レノルズなどの
18世紀の作品が印象的でした。
三度目は同じく2009年、京都市美術館にて「17世紀ヨーロッパ絵画」との題で
開催され、フェルメールの「レースを編む女」、ベラスケスの「王女マルガリータ」、
ラ・トゥールの「大工のヨセフ」、
その他レンブラント、ルーベンス、ムリーリョ、
フランス・ハルスなど、
17世紀を代表する方々の素晴らしい展示でした。
今回はまたしても京都市美術館、風俗画を中心とした展示とのことです。

自分は展覧会に行くときは、だいたいタイトルだけを確認して、詳細は調べずに
行くことが多いのですが、今回もルーヴル美術館ということだけで、その他は
よく確認せずに展覧会に行きました。
今回はやけに風俗画が多いなと思いつつ鑑賞していましたが、
鑑賞の途中で目録をよく見ると、サブタイトルが「風俗画」となっています。
そういう構成かと思い、最初から仕切りなおして鑑賞するという、
何やら無駄な動きをしつつ(笑)鑑賞することになりました。
平日ということで人はそんなに多くなく(それでも一般の展示よりはずいぶん
多いのですが)、割とフレキシブルに動きながら鑑賞することができました。

展示は年代順ではなく、カテゴリ別に分かれた展示となっていました。
以下、ほぼ展示順に覚書などをまとめておきます。


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第1章は「労働と日々」ということで、働く人たちの肖像などが並べられています。

マセイスの「両替商とその妻」、マセイスという画家は知りませんでしたが、
この絵は歴史資料集か何かで見た記憶があります。
本のページをめくる妻の目線は夫のお金に注がれているのが印象的。
マリヌス・ファン・レイメルスウァーレの「徴税吏たち」、
これまた知らない画家でしたが、徴税吏の嫌らしい顔(笑)がインパクトありです。
いつの世も徴税は嫌がられるということが分かる作品。
このあたりの16世紀の作家さんは、顔の表情も含め、
細部の描写と情報量が面白いです。
18世紀フランスの画家シャルダンの有名な「買い物帰りの召使い」は
青いドレスが印象的な静謐な作品。
19世紀のドラクロワミレーも展示されていますが、
こちらは農民の描写が中心。
16世紀から19世紀にかけて産業が発展するにつれ、「労働」を描く場合の画家の
関心が、逆に商人から農民にシフトしているように見えるのが面白いです。

スペインの画家ムリーリョは聖母像などが有名ですが、個人的には
今回展示されていた「
物乞いの少年(蚤を取る少年)」の方が好きで、
下層階級の描写から聖性らしき雰囲気が感じられるあたりが良い感じ。
如何にもバロック的な光の描写も素敵です。
フランドルの画家ブリューゲルの「物乞いたち」は肢体不自由なマイノリティを
描写した有名な作品ですが、描かれた狐のしっぽや職業を表す帽子に風刺的な
意味合いがあるらしく、
このあたりはよく知らなかったので、面白く鑑賞しました。


第2章は「日常生活の寓意」とのことで、単なる描写を越えた意味付けが
なされるような作品が並びます。

トランプが登場する作品が多く、占いや手品師など、
何やら胡散臭い人たちの描写が楽しい。
それぞれ風刺的な意味合いがあるようですが、単純に描かれている情報を
目で追うだけでも面白いです。
フェルメールの「天文学者」は今回のメインともいえる作品で、
展示前半のクライマックスです。
青い服と光の描写、そして画面構成が素敵で、
○と□が並ぶ幾何学的な画面がいいですね。
レンブラントの「聖家族」はイエスを描いた宗教画ないしは歴史画となる
ようですが、どちらかといえば17世紀当時の民衆の生活を描いたような
要素が強く、
風俗画としても鑑賞できる作品。
イギリスの風刺画家ウィリアム・ホガースの「放蕩者一代記」の習作も
展示されていました。

そしてこのカテゴリの中では、やはりグルーズの「割れた水瓶」を
忘れるわけにはいきません。
歴史関係の書籍などで好んで取り上げられる絵で(少なくとも自分は複数の本で
見たことがあります)、可愛らしい女の子が立っている肖像画ですがよく見ると
服装が乱れており、
手に持つ水瓶が割れているという、
要するに「悪さをした女の子」を風刺した絵画なのですが、
それにしては女の子が美人すぎる気もし、何やら風刺画なのか閨房画なのか、
どっちが本来の目的なのか分からなくなってくると感じられる、面白い作品です。
これが歴史書によく登場するのは、やはり美人だからなのかな(笑)。
この絵にはライオンの像が描かれており、今回現物を目にして
気付いたのですが、このライオンは人間のような顔をしています。
少なくともこの耳はネコ科のものではなく人間の耳です。
このあたりにも何やら寓意的な意味があるのかもしれません。


第3章は「雅なる情景」、風俗画といえばこれ、
やはり男女の恋愛遊戯が描かれた作品が必須ですね(笑)。

レイステルの「陽気な集い」は知らない画家の作品でしたが、
男女が全く美化されずに描かれているのが印象的、それでいて仲良さそうな
二人がいい雰囲気です。
そして17世紀フランドルの風俗画といえばこの二人、
ヤン・ステーンとピーテル・デ・ホーホの作品が並びます。
ヤン・ステーンの「不埒な集い」は、生き生きとした人物の動きと表情感から、
不埒感が漂ってきます。
一方、デ・ホーホの「酒を飲む女」の方は、風俗画なのですが画家の関心は
何やら画面の方にあるように見え、扉の向こうにまた扉がありその奥に箪笥が
あるという、縦長長方形の入れ子構造のような奥行や、窓や絵画や机や椅子が
形作る四角形のリズムなど、
面白い印象を与える作品です。

18世紀のヴァトーの「二人の従姉妹」も画面が面白く、右側に人物が集中し
左側には誰もいないという、何やら19世紀のドガのような構図の作品。
風景画で有名なイギリスの画家ゲインズバラの「庭園での会話」、
この人の描く人物はなんとなく顔面が妙に強調されているようにもみえ、
(作品によっては顔出しパネルのように見える 笑)
今回展示の作品も人物の顔が印象的に感じました。


第4章は「日常生活の中における自然」ということで、風景画が登場します。

カラッチルーベンス、初期コローと、様々な年代の作品が並べられて
いますが、最も面白い作品は、やはりフラゴナールの「
(「ぬかるみにはまった荷車」とも言われる)です。
荷車と人間と動物が描かれた作品なのですが、
これがものすごくた大胆な筆致で描かれているのが面白い。
画面の上半分は空と雲が占め、下部には荷車を中心に
人間や羊や牛などが描かれています。
細部はものすごく曖昧模糊とした筆致で、
物凄い早描きなのではと思われる筆遣い。
この筆致が心地よく、モコモコした羊や馬車の布の表現など、
絵画の物質性が楽しいです。
そして、それでいてそれぞれの対象物がそのものにちゃんと見えるというのが
良いですね。
フラゴナールは閨房画などが有名ですが、ときどき19世紀後半を
先取りしたような肖像画や風景画なども描いており、この「嵐」も見ようによっては
表現主義絵画にもみえるような作品で、面白いです。


第5章は「室内の女性」。

今回の目玉の1つである(と思われる)ティツィアーノの「鏡の前の女」は、
後半のクライマックス。
そんな中、個人的にはコローの2作品「身づくろいをする若い娘
コローのアトリエ」が印象的。
コローはとくに後期の風景画が素晴らしい作家さんですが、
人物画もまた味があって良いですね。

18世紀フランス、ロココ期の画家ブーシェの「オダリスク」も展示されており、
桃のようなお尻を丸出しにした女の子が描かれた作品。
フラゴナールの師匠であるブーシェの明るい閨房画作品も個人的に好きです。
ブーシェはこの「オダリスク」と似たような構図でベッドに寝転んだ女の子の
お尻を描いた作品をこの他にも製作しており、ロココ期の閨房画は他にも
「桃のようなお尻」を強調した作品が多いようにも思います。
18世紀の作曲家モーツァルトを描いた映画「アマデウス」で、
モーツァルトの妻コンスタンツェが「メロンのような乳房」を晒すシーンについて
最近別の方の記事にコメントする機会があったのですが、
18世紀の史実的には、男性の関心は実は、桃>メロン、なのではないかと、
余計なことを考えながら鑑賞したりしました。


と、どうでもいいことを考えつつ(笑)、最後は第6章「アトリエの芸術家」です。

アトリエを描いた作品が並びますが、やはりこの中で有名かつ印象的なのが
シャルダンの「猿の画家」です。
猿が衣服を着て絵を描いている、おそらくは風刺的な意味合いがあるのだと
思いますが、シャルダンが猿や小道具を描くと、何やら静謐な風俗画に
見えてくるというのが面白いです。
シャルダンはいいですね。


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ということで、楽しく鑑賞することができました。

過去の京都市美術館のルーヴル展のように「あの超有名大作が並ぶ」という
雰囲気の展示ではありませんが、かなり広範な時代・種類の風俗画が
数多く展示されており、
個人的には過去のルーヴル展の中でも
最も楽しめた展示でした。
会期末になるにつれ混雑すると思いますが、
ご興味のある方にはぜひお勧めしたい展覧会です。


さて、この日の京都市美術館では「マグリット展」も合わせて開催されてました。
何というボリュームのある二本立て・・・!
この「マグリット展」も合わせて鑑賞してきましたので、
次回はこの感想などをまとめようと思います。