シプリアン・カツァリス (貝塚コスモスシアター) | れぽれろのブログ

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2月24日の日曜日、大好きなピアニスト、シプリアン・カツァリスを演奏を鑑賞しに、貝塚市のコスモスシアターに行ってきました。
自分はカツァリスの演奏は過去11回鑑賞しており、今回で12回目の鑑賞となります。
今回も非常に楽しい演奏会でしたので、覚書・感想などを残しておきます。

今回のカツァの来日はなぜか演奏会場が近畿圏に集中しており、宝塚、高槻、貝塚の3拠点で演奏会が開催されました。
貝塚コスモスシアターは自分が4年前まで住んでいたところから電車で10分もかからないという近さ。その割に訪れるのは今回が初めてです。
なんで4年前にここに来てくれへんかったんや、などと思いつつコスモスシアターのチケットを買いましたが、よく調べると、今住んでいるところからは宝塚も高槻も貝塚も移動時間はほとんど変わらないようです。
割と音の良かった宝塚のベガホールにすればよかったかな、とも思いましたが、コスモスシアターもとくに違和感はなく、楽しく鑑賞できました。
会場は1200人ほど入る大ホールでしたが、お客さんは前半分しか埋まっていません。これなら中ホールでよいのでは、とも思いましたが、大ホールの方が音が良いのかも。人数が少ない会場でゆったりと鑑賞することができました。


今回は全編フランス音楽特集。
前半は小品全15曲を連続して聴かせるという形式、後半は楽しいピアノ・トランスクリプションのプログラムになっていました。

前半の小品15曲の選曲は、以下の通り。

・フォルクレ クラヴサン組曲第4番より ラ・マレッラ
・フォルクレ クラヴサン組曲第4番より ラ・クレモン
・リュリ 「町人貴族」より トルコの儀式のための行進曲
・リュリ 「町人貴族」より パヴァーヌ
・ラヴェル 亡き王女のためのパヴァーヌ
・フォーレ パヴァーヌ
・フォーレ 「ペレアスとメリザンド」より シシリエンヌ
・プーランク フランス組曲より 第6番 シシリエンヌ
・ボニ 言葉のない恋歌
・フォーレ 月の光(ボニ編曲)
・ドビュッシー ベルガマスク組曲より 月の光
・ドビュッシー ピアノのために 第1番 プレリュード
・ドビュッシー 「聖セバスチャンの殉教」より ユリの庭
・ドビュッシー アラベスク1番
・ドビュッシー レントより遅く

3年前の「親和力」( → こちら )の選曲に近く、行進曲、パヴァーヌ、シシリエンヌ、月光といったテーマがつながる曲順になっていました。
約1時間かけてこの15曲をぶっ通しで弾くという、カツァのプログラムでよくあるパターンを今回も踏襲。
登場後挨拶もそこそこにいきなり弾き始めるのもいつものパターン。
バロックからスタートし、フォルクレとリュリの行進曲は左手が大暴れする楽しい音楽。パヴァーヌ3連続はラヴェルの有名な「亡き王女のためのパヴァーヌ」が素敵で、この曲の後に大きめの拍手が起こりますが、曲の連続性を重視することもあってか、カツァはいつもの通り、ごめんなさいのポーズで拍手を遮ります。
そのあとフォーレのパヴァーヌになりますが、連続して聴くとラヴェルとフォーレはかなり曲が似ていることが分かります。
続いてはシシリエンヌのターン、有名なペレメリのシシリエンヌのピアノ編曲版、これがかなり素敵で、カツァは繰り返しでかなり表現を変えています。
メラニー・ボニつながりでシシリエンヌから月光へ、ドビュッシーの最初の音を聴いた瞬間の感激、何やこの綺麗な音は・・・。
ベルガマスクの「月の光」は有名なので頻繁に耳にする曲ですが、この日のカツァは何とも柔らかい表現で、素晴らしい音色でした。
残りは連続ドビュッシー、プレリュードはテンション高めで演奏、有名なアラベスク1番をキラキラと演奏し、あまり遅くないレントで〆。

過去の記事にも書きましたが、自分が考えるカツァリスというピアニストの重要な特徴は、「超絶技巧」「抒情性」「編曲」「発掘」の4点。
今回も超有名曲に挟まれる形で、マニアックな(?)曲が「発掘」されています。
カツァのセリフ、「19世紀に書かれた作品のうち、我々はたった2%ほどしか演奏していない。あまり知られていないレパートリーほど素晴らしい。」 今回もこのコメントの通りの姿勢がみられるプログラム。
しかし、今回自分は少し音にこだわって聴いてみたところ、暗譜で演奏する曲とスコアを見て弾く曲で、明らかに音が違います。
亡き王女のためのパヴァーヌ、ペレメリのシシリエンヌ、ベルガマスクの月の光、アラベスク1番など、暗譜の曲は明らかに音が綺麗、弾きなれているということか、お馴染みのレパートリーなので音色の探求が完成してるいうことか、スコアを見ると音色のコントロールが散漫になるのか、あるいは鑑賞する側も知っている曲なので音色の違いを把握しやすいのか・・・。
そしてカツァのドビュッシーはかなり良いです。
リスト弾き・ショパン弾きのイメージが強いカツァですが、年を経て音がさらに柔らかくなった今のカツァにはドビュッシーがぴったりなのかもしれません。
あと、スコアを見る曲は眼鏡をかけ、暗譜の曲は眼鏡を外す、これが何度も繰り返され、何とも慌ただしい(笑)。
譜めくりの際に紙がクシャクシャになったり譜面を落としそうになるトラブルも過去にはありましたが、今回は落ち着いて譜めくりされていました(笑)。


後半は上にあげたカツァの重要な特徴である「編曲」がメインテーマ。

・ビセー エクスターズ
・ビゼー 歌劇「カルメン」より (ビゼー&カツァリス編曲)
・サン=サーンス 動物の謝肉祭 (ルシアン・ガルバン編曲)

ビゼーのエクスターズをさらりと弾いた後、カルメンの編曲もの、これがめちゃくちゃ楽しかった!オペラの主要な部分が抜粋され、20分程度の即興演奏風の組曲に仕上がっていました。
序曲は意外と大人しめかな、と思いきや、1幕への導入の低音部分は装飾過多で楽しい。
エスカミーリョのテーマも冒頭のオケ部分と歌唱部分のメロディを音色を変えながら繰り返し、悠々と闘牛士の歌へ、ハバネラもかなり装飾が多く、えらい音足してるなという感じ。
穏やかな3幕への間奏曲を経てアラゴネーズでまたテンションが上がり、急に1幕へスイングバック、児童合唱の衛兵交代シーンに戻り、高音部をキラキラと鳴らしながらおしまい。

何ぞこの編曲は 笑。

最後はネタ曲(?)である「動物の謝肉祭」、ネタを消化しながらサクサクと進みます。
「水族館」の部分など、左手と右手で全然違う音色を出しています。右手のキラキラ加減がすごい、どうやったらこんな音が出せるのか。
「白鳥」は心地よく歌い、終曲をかっこよく〆て、おしまい。
後半はとくにオペラ・トランスクリプションがかなり楽しかったので、他のオペラ作品の演奏もまた聴いてみたいですね。


アンコール。
カツァはスマホ片手に登場し、「皆さんご存知のミシェル・ルグランが亡くなったため、追悼の即興演奏を行う」旨の説明を日本語でコメント、スマホの翻訳機能を使って読み上げていたのかな。
「皆さんご存知の」と言ってたように聴こえましたが、自分はミシェル・ルグランは全然知りません・・・。
この日はないと思っていた即興演奏を聴けたのは嬉しかったですが、使用されている曲は全然わかりませんでした。
(「皆さんご存知の」って、クラシックファンはあまり知らないのではないでしょうか・・・。)

アンコール2曲目はなぜかフランスから離れ、バッハのピアノ協奏曲5番の2楽章をしっとりと演奏、これも良かったです。
この曲は久しぶりに聴きました。
カツァの昔のテルデック時代のCDで聴いた曲なので、懐かしい感じがします。
さらりと弾いておしまい。カツァのバッハもええな・・・。


ということで、楽しい演奏会でした。
美音あり、発見あり、即興あり、トランスクリプションあり、今回も「カツァリスとは、19世紀的なヴィルトゥオーソの正統な伝承者である」(過去にも書いた自分の定義)の通りの音楽を堪能。
スコアをしっかり踏まえてがちっと仕上げる20世紀的な演奏もいいですが、カツァの自由な演奏はまた格別の味わいがあります。
また何度も聴きに行きたいピアニスト、「編曲もの」+「弾きなれた曲を美しく」のような組み合わせを、今後も期待したいです。

そして、いつまでもお元気でいてほしいですね。