旧・日常&読んだ本log

流れ去る記憶を食い止める。

2005年3月10日~2008年3月23日まで。

以降の更新は、http://tsuna11.blog70.fc2.com/で。


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下道 基行
戦争のかたち
リトルモア

わたしたちの国、日本はかつて戦争をした。実際に地上戦が行われたのは、沖縄だけであったけれど、地上戦を意識した軍部は、海岸線にトーチカを、地上には砲台を作った。戦後60年が過ぎてなお、これらの「戦争のかたち」はひっそりと遺されているのだという。

この本は、1978年生まれの著者が、これら、戦争の遺構を記録したもの。宅配ピザを配る道すがら、偶然「戦争のかたち」に出会った著者は、その重み、奇妙な美しさに惹かれ、アルバイトをしながら、三ヶ月に一度のペースで全国の撮影旅行を重ねたのだという。

撮影された写真は、日本全国様々な箇所(東北のみ抜けているように見えるのは、まだ足を伸ばせていないせいなのか?)及び、韓国済州島にまで及ぶ。
自分の身近な場所にも、「戦争のかたち」が残っているのかもしれない。

戦争の遺構は禍々しいだけでも、記念として残されているものだけでもない。例えば、神奈川県逗子市では、高角砲台から猿山へ、皇居内の小さな公園では、同じく高角砲台からベンチへと変貌を遂げている。その他、砲台は花壇になったり、大阪ではなんと高射砲台から住宅へと姿を変えている(これに関しては、「高射砲台跡に住む」とのインタビューつき)。飛行機を隠す目的で作られた、「掩体壕」もその形は明らかに異質ながら、長い年月をかけ、その場の風景に妙に馴染んでいるように見える・・・。

基本的にこの「記録」は、風景を撮っているのだけれど、「トーチカをつくった人たち」、前述の「高射砲台跡に住む」などのインタビューも載せられている。「トーチカをつくった人たち」では、著者は北海道へと飛ぶ。自分の祖父にさえ切り出したことのない、「戦争の話題」にひるみつつも、著者はこれまでの風景写真における、「想像力の旅」ではない、生の声を聞く。

帯の「行って、見て、さわれる戦争」の通り、戦争の「かたち」を知る事が出来る本。「防空壕を埋めた後」なんて話は聞いた事があったけれど、こんなにも普通の顔をして、「戦争のかたち」が現代に残っていることに驚いた。


トーチカ
:主に海岸線につくられた。上陸してくる敵を中から機関銃などで狙撃するための防御施設。

砲台
:敵艦、敵機から重要都市・施設を防衛するために設置された大砲やその周辺施設。現在では砲座のみが残る。
(本書3ページより引用)

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米原 万里
真夜中の太陽  
中央公論新社
(画像は、中公文庫)

「真夜中の太陽」とは一体何ぞや?

これは、暗闇が怖くて夜になるのが嫌だった、四歳の頃の米原さんに、お父さまがしてくれた話に由来する。この辺は土地柄が日本とは違うのだなぁ、と思うのだけれど、「隣の広大なお屋敷の奥からお化けや妖怪たちの鋭い目が怪しく光り、自分をつけ狙っているような気がしてならなかった」そう。

もとは、お父さまが寝る前にしてくれたおとぎ話。欲の皮の突っ張った馬鹿な男が、畑の収穫を上げるために、太陽を沈ませまいとして悪戦苦闘する。米原さんも目的は異なるけれど、おとぎ話の男と同じように、太陽に沈んで欲しくないと思っていたわけで、「太陽が沈む」ということに興味を持つ。子供を寝かしつけるためのおとぎ話だったはずが、いつしか地動説を理解させるための説明へ・・・。

その瞬間から、わたしの心の中に、地球の裏側で、ご機嫌な顔をして大地を照らす太陽のイメージが生まれた。真夜中の暗闇の中でお化けや妖怪たちに襲われそうになるとき、地球の裏側の太陽を思い浮かべると、彼らは退散してくれるようになった。
お化けや妖怪を信じなくなった今も、真夜中の太陽のイメージはわたしを励まし続けてくれている。目前の状況に悲観的になり、絶望的になったときに、地球の裏側を照らす太陽が、そのうち必ずこちら側を照らしてくれると思えば、気が楽になるし、その太陽の高みから自分と自分を取り巻く事態を見つめると、大方の物事はとるに足りないことになる。もちろん、その逆に、情け容赦ない太陽の光は、至近距離では、とるに足らないことが、実は人類全体にとって致命的プロセスなのだとあぶり出してくれることもある。

本書は、二十世紀末から二十一世紀初頭にかけて、いくつかのメディアに連載された文章を纏めたもの。いずれも、今現在の日本と世界の状況を、米原さんの目で見て、解釈したもの。

「真夜中の太陽」のエピソードを知ってからは、少々怖い事、嫌な事があっても、ご機嫌な太陽を背に、楽天的に物事に立ち向かう少女の像が、米原さんの後ろに見えて、何だか微笑ましくもあった。

ちなみに、「いくつかのメディア」とは、「婦人公論」、「ミセス」、「熊本日日新聞」、「公研」のこと。「婦人公論」、「ミセス」などは読んだ事がないのだけれど、そうか、こういった文章も載っているのか、と興味を覚えた。米原さんを選ぶとは、センスいいね、と・・・(米原さんの著作を二冊しか読んでないくせに、生意気ですが)。

非常に残念な事ですが、米原万里さんは25日午後1時12分、死去されたそうです。まだ56歳の若さでありました。ご冥福をお祈りいたします。「
オリガ・モリソヴナの反語法 」のような、骨太の物語をもっともっと紡いで欲しかった、と思います・・・。

 検索で見つけた、北海道新聞の訃報に
リンク

*臙脂色の文字の部分は引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。
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北森 鴻
桜宵

東急田園都市線三軒茶屋の駅から商店街を抜け、いくつかの路地の闇を踏みしめたところにぽってりと等身大の白い提灯が浮かぶ。それが、この《香菜里家(かなりや)》の目印である。決して立地条件がよいわけでもないのに、客足が途切れないのは、ここをさながら隠れ家のように愛してやまない人々が数多くいるためだ。

この本は、このビアバー香菜里屋を舞台にした短編集。

目次
十五周年
桜宵
犬のお告げ
旅人の真実
約束

「旅人の真実」、「犬のお告げ」を除けば、殺人事件だって出てこないし、所謂、昨今流行の日常の謎的ミステリー。常連客がふと漏らす不思議、謎を、その時店にいた、他の客がやいのやいの言い、店主・工藤がそこに一筋の道をきっちり付ける(約束」のみ、舞台は香菜里屋ではない)。

店主の工藤は安楽椅子探偵でもあり、食事を供し、一歩引いた態度である所からいうと、アシモフ「黒後家蜘蛛の会」の給仕ヘンリーを思わせる。

「少し変わった物を作ってみたのですが、という言葉と共に出される、彼の創作料理も魅力的。

広がる北森ワールドとしては、「たまに来る民族学の先生」というのは、蓮丈那智 のことであろうし、その縁で冬狐堂 とも繋がっているはず。

読んでいて気になったのは、工藤とはまた異なる個性のバーマン、香月の池尻大橋近くにあるという、茶室をイメージして造られたというお店。これもまた、どこかの作品で出てきたりしているのかなー。色々と繋がっている北森ワールド。油断がなりませぬ。

北森作品は新しい物の見方や、物凄く新鮮な文体を見せてくれるわけではないのだけれど、質の高い粒の揃ったものを出してくれる、安心感のようなものがある。
これだけ読んでると、頭が偏るようにも思うけど、気楽に読むのに私には適している感じ。

この本も、いくら控えめにしているとはいえ、ビアバーの主人がなぜ謎に首を突っ込む!、とか、常連が色々口を突っ込んでくるお店は嫌よ、などないでもないけど、そこの所はお約束で目を瞑って、作中で工藤に料理を勧められるように、黙って北森さんの紡ぐ物語を味わった。

 ← こちらは文庫

*臙脂色の文字の部分は本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。
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もういい加減、おさまったかなーと思って、コメント拒否を解除してみたのですが、いやー、ぼかすか投入されてました。

解除は時期尚早でありましたよ・・・。これの対策ってまだなんでしたっけ?

困ったもんでありますなー。


◆コメント停止中記事◆
 「博士の愛した数式」
 「グノーシスの薔薇」
 「ナルニア国の住人たち」
 漢字バトン!

(解除するのを忘れそうなので、自分のための覚書)
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別役 実
鳥づくし―真説・動物学大系 続  
「鳥は鳥であるか」
の章から始まる本書は、「鳥とは一体何であるか?」、それを我々は実は全く知らないのだ、という前提から始まる。そして、我々がこれまで鳥だと思っていたものが、実は鳥ではないかもしれない、そんな目を持つ事から、「新しい鳥学」が始まるのだと、一席ぶつ。

何といおうが、鳥が鳥であることは自明のことであり、ここから少々荒唐無稽な本書は色々な方向へと広がっていく。

こういった本は、洒落に寄るか、馬鹿馬鹿しい方に寄るか、難しい所であると思うけど、残念ながら本書は大分馬鹿馬鹿しい方に寄ってしまっている。そんなわけで、所々は、「そんなわけないじゃん!」とイラっと来る事も。
でも、章のタイトルや扉絵はなかなか好みであったのだ。

幾つかの章について少し。

◆「威風ドードー」◆
ドードー鳥は、周知の通り、人為的に短期間で絶滅させられた鳥として有名である。ドードーはどうして、飛んで逃げる翼もなく、武器として使うことも出来ぬ嘴を持ち、逃げ足も遅く、木に登る事も出来ずに、「生きてゆくことが出来る」と考えたのであろうか。
ドードーは「文明」に対して、全く無用心に進化してしまった種である。
ドードーはなぜこのような特殊な進化を遂げたのか?

◆「唄を忘れたかなりや」◆
小さく儚いかなりや。
「唄を忘れたかなりやは、うしろの山に棄てましょか」の詩や、炭鉱で有毒ガスの探知機とされる事に代表される、我々のかなりやに対する思いとはいかに?
かなりやには、人間本来が持つ、残酷で野蛮な本性を呼び覚ます力がある。

◆「バード・ウォッチングの正しいはじめ方」◆
バード・ウォッチャーとは、ただ漫然と鳥を見る人を指すのではない。

タイトルに「続」とあるように、これの前に更に本があるようなのだけれど、それを読むかどうかは微妙な感じ。また、図書館で見かけたら、借りてもいいかな位。
でも、ちょっと表紙が綺麗でしょ? (よーく見ると、かなり不思議なんだけど)
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タニス リー, Tanith Lee, 木村 由利子, 佐田 千織
ゴルゴン―幻獣夜話

表紙の美しさに惹かれて、古本屋にて購入♪

私のタニス・リーのイメージは、幻想的で美しくエロティックというもの。
幻獣夜話」という副題があるように、きっとまたそういう作風なのかなぁ、と思っていたら、意外にもちょっとコミカルな現代ミステリ調のものもあり、切なく美しいお話あり、と色々な作風を楽しめてしまった。

目次
ゴルゴン
アンナ・メディア
にゃ~お
狩猟、あるいは死―ユニコーン
マグリットの秘密諜報員
猿のよろめき
シリアムニス
海豹
ナゴじるし
ドラコ、ドラコ
白の王妃


◆「ゴルゴン」◆
小説を書くために、ダフォー島に渡ってきた「私」は、沖近くに浮かぶ小島に興味を持つ。「地元向けに口から出まかせを並べ、地元向けにとびきりの愛想笑いを浮かべ、そして地元向けに、さらにとびきりの価格を払えば、それと引き替えに、欲しいものは何でも手に入るはず」のこの島で、なぜか島の人々は小島に渡る事を拒否するのだった。
「私」が小島で出会ったのは、ヨーロッパ風の二階建ての建物に住み、仮面を被った奇妙な女。島の人間が忌んだのは、ゴルゴンの顔を持つこの女。ゴルゴンは伝説の通り、本当に人を石に変えるのか?

◆アンナ・メディア◆
両親も手を焼く、恐るべき子供達の元にやって来たのは、家庭教師アンナ・メディア。彼女は苦もなく、子供達を手懐けるが、屋敷には不気味な黒魔術の影が・・・。

◆にゃ~お◆
現代ミステリというか、ホラー調? アシモフ編のアンソロジーなんかに、入ってそう(「犬はミステリ」はあるのに、そういえば、猫のはないのかしらん)。
スティルの恋人・キャシーは、両親の遺した屋敷にひっそりと住まう、若い女の子。問題はそこが猫屋敷の呈をなし始めていたこと。スティルはキャシーを屋敷から引き剥がそうと試みるのだが・・・。

◆狩猟、あるいは死―ユニコーン◆
これは、全くタニス・リーらしい作品のように思う。
両性具有、生まれ変わり変質していくものたち・・・。

◆マグリットの秘密諜報員◆
これも途中までは、現代ミステリ風の味付けに感じた。
下着売り場で働く「わたし」はある日、車椅子に乗せられた非常に美しい青年と出会う。青年は非常に美しいけれど、その瞳には何もうつしておらず、彼を介助するのは、彼と似ても似付かぬでっぷりとした黄色い女、ミセス・ベスマス。
ミセス・ベスマスは、かの美しき青年、ダニエルを正当に扱っていないと感じた「わたし」は、義憤若しくは恋情に駆られ、二人の住まいに押しかけるのであるが・・・。

◆猿のよろめき◆
少々、変わった冒険譚?何というか、冒険好き、若しくは植民地趣味の英国人を皮肉ったような物語。ええ、主人公も「栄国人」のエドモンドだしね。
青く艶のある肌、燃え立つ琥珀色の髪、おまけにサファイアの瞳を持つ、尋常ではない美しき魔物から、エドモンドは逃れる事が出来るのか?

◆シリアムニス◆
アポロのような麗しい若様が買った、美しい奴隷娘・シリアムニスの正体とは。
これ、ちょっと気持ち悪かったよ。

◆海豹◆
殺伐とした無口な男、ハス・ハラスが、本土の女との約束のために、狩った見事な海豹の毛皮は一体誰のものだったか。
荒涼とした島、デューラの風景、<海の民>シールスの哀しみが印象深い。

◆ナゴじるし◆
彼の美しいペット達。それは、地球の言語であらわすならば、「猫」に相当するものたち。しかし、彼らはとんだ無法者だった!

◆ドラコ、ドラコ◆
<ドラゴン殺し>のお話。

ビス・テリビリス(二倍怖いのは)―
ビス・アペラレ(二度呼ぶこと)
ドラコ!ドラコ!(竜よ!竜よ!)

語り手の「わし」の背景が気になる。英雄、騎士に対する、少々皮肉な見方が面白かった。あと、引用したこのヘンな呪文のような言葉が妙に気に入った。ドラコ!ドラコ♪、と意味なく呼ばわりたくなった。

◆白の王妃◆
美しく、切ない物語。年老いた王の元に嫁いだ、若く美しいブランシュ。ところが、新婚初夜に老王は身罷ってしまい、寡婦となった彼女は、無人の塔で一人死ぬまで暮らすことになった。そこに現れたのは、真夜中よりも黒いカラス。白と黒の対比、若さと老いの対比の残酷さが美しい。
童話の趣きもあり、アーサー クィラ・クーチ編、カイ ニールセン画「十二人の踊る姫君 」 のような構成の本にしたら、さぞ美しかろう、と思った。

☆関連過去記事☆
幻獣の書-パラディスの秘録 」/醜き獣
(同じくパラディスシリーズである、「堕ちたる者の書」は挫折しましたが、こちらはうっとり読みました・・・)

*臙脂色の文字の部分は本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。
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このたび、目出度く映画化もされる、「嫌われ松子の一生」。
新聞広告で知ったのだけど、なんと続編が出るんだそうな。

山田 宗樹
ゴールデンタイム―嫌われ松子の一生 続

愛だけを求め続けた「嫌われ松子」の惨殺死から4年。甥の笙、そして笙の元恋人・明日香は、それぞれの人生を歩んでいた。懸命に「輝ける時」を求めて…。2006年5月に映画版が公開される「嫌われ松子の一生」の続編。
                             (amazonより引用)

以前、「嫌われ松子の一生」 を読んで、「笙と彼女、松子と男達を対比させることで、これから如何様にも生きることが出来る、笙の可能性を残しているのではないか」などと思ったのですが、まさに「その後」の笙と明日香が描かれるわけですね。

しかし、図書館中心読書をしているワタクシ。
うーむ、これを読むことが出来るのは、いつの日のことだろうか。汗
とりあえず、読まれた方の書評を楽しみにしていよっと・・・。
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舞城 王太郎
九十九十九
講談社ノベルス


これはねえ、読み通すのにすっごい努力が必要でした・・・。読み終わった後も、感想も上手く言えないし、面白かったかどうかというのも微妙。
なんせ「努力」が必要になった物語ですからね・・・。

以下、カバー扉からの引き写し。

「苦しさを感じるなら、僕なんて愛さなくていいんだ」
聖書/『創世記(ジェネシス)』/『ヨハネの黙示録(アポカリプス)』の見立て連続殺人を主旋律に、神/「清涼院流水」の喇叭が吹き荒れる舞台(ダンスフロア)で踊りつづける超絶のメタ探偵・九十九十九の魂の旅が圧倒的文圧で語られる。
”世紀の傑作”はついに王太郎の手によって書かれてしまった!
「ハァレルゥヤ!」

目次
第一話
第二話
第三話
第五話
第四話
第七話
第六話

目次の順番、これ、私の写し間違いではないのです。1→2→3ときたら、当然次は4でしょう、と思うのに、5と4は入れ替わり、更に6と7も入れ替わっている。この御蔭で、途中から、「オリジナルの僕」に「二人目の僕」や、「別の僕」なんかが出てきちゃって、まー、読むのに苦労するんです。

さて、第一話から第七話までの主人公は全て、「九十九十九」というこの一風変わった名前の青年。一話一話はそれぞれ完結したストーリーであり、「同工異曲」とでもいうのかなぁ、それぞれの「話」における九十九の体験が語られる。例えば、二話においては、「一話における、これこれは実は本当に起こった事ではない」が、「これこれは実際に起こった事である」というように、一部は重なり、一部は嘘であるとされながら、全体としての話は進行していく。

さて、全体を通して設定が同じなのは、主人公、九十九に関すること。

 ・「九十九十九」というのは美しすぎる人間に付けられる名前で、ここに出てくる九十九も、サングラスを掛けていないと、彼を見た人が笑みを浮かべて失神する程に美しい人間である。
(このせいで、九十九は自ら、顔の肉を削ぎ落としたりもする。後で、縫い付けてたけど)
 ・九十九は過去、両目をくり貫かれ、鼻を削がれ、耳を削がれた事がある
(この設定のせいで、九十九の目玉は良く取り出される)
 ・九十九には「寛大・誠実・正直」という名の三つ子がいる
 ・全ての回で名前は異なるけれど、愛する女性がいる(三つ子の母親)
 ・ツトムという名の弟がいる

綺麗は汚い、汚いは綺麗。「見た人が失神するほど美しい」なんてことは、本来はありえない筈。それは一体どういうことなのか。全ては脳の見せるまやかしなのか。

ラストの第六話まで読めば、一応全ては繋がるんだけど、読後感は「分かったー!」というよりも、どっちかというと呆然。や、「努力」を強いるものとはいえ、このストーリーでここまで作り込む能力は流石、と思うけど、一番最初にこの作品を読んでいたら、舞城作品、読むのを諦めていたなぁ、と思う。ボリュームといい、話のクドさといい、エグさといい、結構苦痛でした。マゾ的読書だったかも?

ああ、そうそう、あと、「講談社ノベルス」がバリバリ出てくるんですが、私は京極氏くらいしか読んだ事がなく、その辺のネタはあまりよく分かりませんでした。ま、大勢に影響はないと思うんだけど。

舞城氏が純文学に分類されるのは(えーと、されてますよね?)、「自意識」を良く扱うからなのでしょうか。「自意識」って結構グロテスクなもんだから、真っ当に取り組むと、こんな恐ろしいものになってしまうのかなぁ。「自意識」ってモンスターだ。
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最近、四季がはっきりしないなぁ、なんて思うんですが、花はどんどん変わっているのですよね。ツツジはほとんどお終い。当地では、アヤメやシランの季節っぽいです。ハナショウブにはもう少し。

こちらは、まだまだこれからの蓮。
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波津 彬子
唐人屋敷
朝日ソノラマ

目次
唐人屋敷Ⅰ
唐人屋敷Ⅱ
唐人屋敷Ⅲ
唐人屋敷Ⅳ
唐人屋敷Ⅴ
NEKOMATA・PAPA
東方からの客人
日々平安

「唐人屋敷」は全身黒ずくめ、かつ少々人が悪い「渋~いお祓い師(帯より)」、ローレンスと、もののけに好かれる特異体質を持つ、元不動産屋にしてローレンスの助手を務めるアーネストの二人+もののけのみなさんが繰り広げるお話。

半分東洋の血が入ったローレンスは、悪魔祓いたちが祓えないものたちを、得意とするのだという。「お祓い」と聞いた時に感じる、おどろおどろしさはここにはなく、大抵の場合、祓う側であるローレンスと祓われる側であるもののけたちは対等。ま、助手のアーネストはたいていの場合、もののけたちに遊ばれてるけどね。

唐人屋敷Ⅰ「The Chinese house in NY」
・・・ある中国人の元・お屋敷から、連れて帰ってきた酒の精の話。
 ローレンスのもとには、文化の違いで、「福の神」であるところが、「もののけ」になってしまったものたちがたくさんいるのだという。

唐人屋敷Ⅱ「東の国の公主」
・・・もののけに好かれるアーネスト登場! アーネストは竜王の末娘・翠玉(といっても、まあ、「もののけ」に分類されちゃうんだな、多分)と恋に落ち、借金のカタにローレンスのもとで、彼の助手として働く事になる。
 「もののけ」が全く見えない体質だったのに、見えるようになっちゃったのは、アーネストにとって、良かったのか悪かったのか・・・。見えなきゃ、翠玉と恋をすることも出来なかったわけだけど。

唐人屋敷Ⅲ「胡氏一族の帰郷」
・・・助手・アーネストが向った屋敷は、出迎えた人間からして、既に妖怪のようなじい様。もののけたちも、珍しくおどろおどろしく、酒の精も攫われてしまう! さあ、どうなる?
 もののけたちに、からかわれまくったアーネストはご機嫌斜め。とはいえ、アーネストはすっぱり忘れているようにも見えるけれど、彼が愛する翠玉もまた、「もののけ」なわけで、彼は「ムジュンをかかえた男」なんである。

唐人屋敷Ⅳ「皇子の眠り」
・・・時代は遡る。ローレンスとアーネストの大学時代のお話。「東洋と西洋の美意識の違いと融合」なる講義をもつ、ヤマモト教授のもとで、資料整理のバイトをすることになった、ローレンスとアーネスト。ヤマモト教授の真の目的とは?
 これ、コマイヌが可愛くって!ばうばっばっ♪

唐人屋敷Ⅴ「楊家の遺産相続人」
・・・楊家には守護の精である、「虎妖」がいる。迷信であると、「虎妖」の相続を拒否するミス・ジョディ・楊の元に、無事「虎妖」を届ける事が出来るのか?
 ミス・ジョディ・楊は美しいものしか受け付けない!最初の「虎妖」の姿も立派なんだけどなぁ。ぬふぬふの虎は、彼女の美意識ではNGなのかしらん。

ここからは、「唐人屋敷」とは別シリーズ。「NEKOMATA・PAPA」。そう、これはタイトル通り、パパは猫又なんである。笑 パパは猫又なんだけど、お話としては普通の学園恋物語。これも、なかなかいい味で好き。 「東方からの客人」は、遠い国から英国へとやって来た客人のお話。 「日々平安」は波頭涛子センセイなる、漫画家先生の日常のお話。波津さんは、あー、やっぱり猫好きでいらっしゃるのかしら。
以下、オマケというか、ほぼ私信です。唐人屋敷のⅤで、「虎」が出てきて、それはとら さんに似てるかどうか、という話があったんですが、どうだろうなー、この「虎」はアーネストにめろめろで、ばふばふのしかかってるからなぁ。笑
どっちかっていうと、とらさんのイメージは「かいこみ」だし・・・(お腹の下で温めてくれるとかね。笑)。
そんなわけで、どちらかというと、NEKOMATA・PAPA」の猫又なパパの方が、べろっと顔舐めるところとか、ご近所の奥さまにもてるところとか、少年の同級生にも「あいかわらず かっこいいよなあ あの毛並み しっぽの別れ方」なーんて言われちゃうところとか、イメージでしたわ。・・・同じネコ科ってことで(いや、猫又だけど)、どすか、とらさん?笑

少々意地が悪い切れ者と、にぶちんだけど、純粋でいい人のコンビは、ちょっと夢枕「陰陽師」シリーズも思い出す。 これ、もっと読みたいよなー。雨柳堂」シリーズもいいけど、こちらはまたユーモラスで面白かったよ。

*臙脂色の文字の部分は引用を行っております。
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