「煙か土か食い物」/それもまた家族の形
テーマ:講談社
講談社ノベルス
本の裏から長々と引いてしまいますが、この本の内容はこう。
アメリカ/サンディエゴ/俺の働くERに凶報が届く。
連続主婦殴打生き埋め事件。被害者は俺のおふくろ。
ヘイヘイヘイ、復讐は俺に任せろマザファッカー!
腕利きの救命外科医・奈津川四郎が故郷福井の地に降り立った瞬間、血と暴力の神話が渦巻く凄絶な血族物語(ファミリー・サーガ)が幕を開ける。
前人未到のミステリーノワールを圧倒的文圧で描ききった新世紀初のメフィスト賞/第19回受賞作。
「密室?暗号?名探偵?くだらん、くたばれ!」
謎の連続主婦殴打生き埋め事件は起こるわ、その地点をプロットしていくと、「ベリートゥルーリーエレガント」な図形は現れるわ、さらにさらにその図形のゼロ地点には空の棺桶が埋まっているわ、まぁ、ミステリーといえばミステリーではあるんだ、名探偵だって出てくるしね(最後、死んじゃうけどさ・・・)。でも、そう、これは裏にもある通り、「密室?暗号?名探偵?くだらん、くたばれ!」な物語なんである。
それでは一体何の物語なのかというと、これはきっと「凄絶な血族物語(ファミリー・サーガ)」である家族の物語。
主人公の名「四郎」があらわす通り、四郎は奈津川家の四兄弟の末っ子である。政治家である父、丸雄は奈津川家に君臨する暴君であり、四兄弟はみな彼の暴力に晒され、今回の殴打事件の被害者である母陽子は、類まれな美しい女性ではあるものの、夫の暴力を止める事も出来ない無力な存在であった。
さて、地元の名家である奈津川家には、四郎の曽祖父にあたるドイツ人、奈津川ハンスが残した風変わりな三角形の蔵があった。その蔵は、かつて祖父大丸が自殺した呪われた場所であり、四郎たち兄弟が罰として閉じ込められる場所でもあった。四兄弟の中でも、一番の問題児であった二郎は、頻繁にこの呪われた蔵の中に閉じ込められ、この蔵を「俺の別荘」と嘯いていた。そして、二郎が十七歳のとき、彼はいつものように閉じ込められていたこの密室の闇の蔵から、忽然と姿を消したのだ。
四兄弟、一番の問題児の次男、繰り返される父からの暴力、父や母の歴史までもが詳しく語られる様、呪われたオカルトチックな場所が現れる所には、こちらは救いようのないノンフィクションではあるけれど、マイケル・ギルモアの「心臓を貫かれて 」を思い出した。「心臓を貫かれて」は悲劇的な結果に終わるけれど(というか、これはそもそも悲劇があって、書かれた本だからな)、こちら、「煙か土か食い物」はそうではない。最後はちょっとじーんとする。
子供を愛さない親はいない。でも不幸は起こる。この世のどこかに必ず不幸は起こっている。大丸と丸雄の間や丸雄と二郎の間で起こった暴力的諍いがそうだった。成長過程で受けた暴力の傷が基盤になってそこにいろんな意味でのすれ違いが重なりすぎたんだろう。悲しむべき出来事だ。でもそれは俺や一郎や三郎や、その他の人間にも責任があるんだ。俺たちはそれを背負ってなんとかやっていかなくてはならない。一日一日を生き延びなくてはならない。もちろん罪は罪だが罪というものは許されなくてはいけないし罰なら誰にとっても十分に当たっているといえるんじゃないのか?孤独と苦痛と不信と無感覚。
暴力の連鎖、怨嗟の連鎖はどこかで誰かが止めなければならない。圧倒的な暴力になど晒された事のない自分ではあり、またこの作品は思いっきりフィクションではあるけれど、どこかで起こっているであろう不幸な連鎖が止まる事を願う。
俺達は今日と明日と明後日とその後を生きていかなくてはならないのだ。昨日とか一昨日とかその前じゃなくて。
舞城作品って、フリルがごちゃごちゃ付いてるけど、言ってる事は実はとってもシンプルなんだね。でも、この装飾過剰ぶりも私は嫌いではない。今回のはもうちょっと句読点を打って欲しかったけど。笑
*臙脂色の文字の部分は本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。
← 文庫もあるみたい。これが噂のMaijoだ、ですよ。 ☆その後に読んだ、続編の「暗闇の中で子供」の感想はこちら
→ 「暗闇の中で子供」/物語はなぜ存在するのか、そしてどこからやって来るのか
「煙か土か食い物」とはまた違うリズムで語られるんだけど、こちらもまた面白かったです。











1 ■なるほど
sacrificesは、「食い物」となるんですね。なんだか、日本語の題名のほうが、オドロオドロしい感じがします。英文の題名はサバイバルものというイメージがします。