りんくのページ へ ◆もくじ1へ (ガラパロ他) 
もくじ2へ(スキビ1)もくじ3へ(スキビ2)
もくじ4へ(いろいろ)

ご訪問ありがとうございます。

Kierkegaard
(おじさんくさくなった、ああ、老け顔だからいいや)
その前の話 その1 その2 その3 その4 その5

『もうひとつの嵐』

真澄は、里美とマヤが出かけたあと、家に持ち帰った資料に集中しようとしたが、気になって仕方がないのだ。

「マヤも17歳だ、ボーイフレンドの一人や二人、俺も学生時代は、女友達は多かった・・・」

余計哀しくなった、珈琲でも淹れて気分転換しようと、階下の食堂へ行くと電話がなった、聖は丁度外出していて真澄が受話器をとると

「真澄お坊ちゃまですか?」

「じいか、何だ本家でなにかあったのか?」

「御前が、どうしても真澄さまに大事なお話があると」

「俺は家を出た身だ、戻らないよ」

「真澄さま、この朝倉のじいが頼んでもですか」

「わ、わかった、行けばいいんだろう」

真澄は、お年を召した方に弱いのである。

真澄は義理の父が住まう屋敷に到着し、居間で話を聞くことにした。

「久しぶりだな、マヤは元気にしているか」

「お父さん、マヤを学校の帰りに誘ったりしないで下さい」

「儂の趣味じゃ、本来なら儂が養女にした方が良かったと思うんだが、いまでも遅くないぞ」

「それはダメです、俺があの子の両親に守ると誓ったんだから、それに最初猛反対したのは誰ですか」

「ふん、まあ、それはゆるゆるとだ、今日、お前に話があるといったのは、お前、今度の日曜に見合いしろ」

「はあ、俺はこの家を出た身です、見合いなんてお断りです」

「儂も嫌だったんだが、どうしてもと頼まれてな、そこに写真と釣り書きがある、一応目を通せ」

「見合いはしません、そんなくだらないことで呼び出したんですか」

「儂の頼みが聞けないのか」

「はい、俺は研究に没頭したいんです、学者にそういう女性は不要です」

「頑固だな」

「そこだけは、血のつながりはなくても似ました」

「そうか、この見合いの話は、俺がやんわり断っておこう」

「お願いします」

「真澄、みんなでこの屋敷に戻ってこないか?」

「どうしたんですか、急に?」

「いや、なに、何となくな」

真澄は剛腕と言われた義父の髪が白く、そして背中が少しだけ寂しそうな様にずきりとした。

「・・・考えてみます」

「そうか」

真澄と義父は、しばらく談笑して、それから真澄は屋敷を後にした。

「朝倉、泣き落としは成功したようだな」

「そのようですな、御前、マヤさまのお部屋の準備はすっかり整っております」

「そうか、そうか」

英介さんは、マヤちゃんが好きなのだ(変な意味はない、孫のような親愛の情である)

英介は見合いを断ったはずだ、古式ゆかしい言葉で

「お宅のお嬢様は、わしの愚息にまことに不釣り合いでうんたらかんたら」

某紫織お嬢様は、あきらめない。

騒動は忘れた頃にやってくる。

***

マヤちゃんと里美は、電車に乗って初春の鎌倉へ出かけた。

マヤが事故に遭い、車に乗れないことを知っての里美の気遣いだ、二人はのんびりてくてく初春の鎌倉を楽しんだ。

マヤは里美を聖と一緒で優しいお兄さんだと思っている、デートと言って誘われたが、妹のようなものだと思っている。

だから帰り際の告白に戸惑いを隠せなかった。

「里美さん、ごめんなさい、私は、好きってわからない」

「こうやって一緒に出掛けたり、話したりするのは嫌?」

「嫌じゃない」

「じゃあ、このままゆっくり付き合おう。それとも好きな人がいるの?」

「え、・・・いないけど」

「いるんだね、それは誰?」

「ご、ごめんなさい言えない・・・」

「マヤちゃん」

潤んだ瞳、上気した頬、可愛らしい少女を前に、里美は抱き寄せ、気持ちを伝える。

「わ、わたし・・・」

真澄は、書斎の窓からその二人の姿を茫然と見つめていた。

つづく その7