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Kierkegaard

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『君がみる夢』

家族・・・、わたしの家族は、事故で失ってしまった・・・

お父さん、お母さんは、空の上で見守っている・・・

先生と聖さんは、私にとって、・・・何?

マヤは、着替えて窓から、暮れる空を見る。

両親をいっぺんに失った夏、あの瞬間から私は空っぽだった。

夏の嵐の晩、雷が怖かった、事故の瞬間がよぎってパニック状態になった私を優しく抱きしめあやしてくれた先生。

暖かい大きい胸は、母や父と同じで違うぬくもりだった気がする。

ゆるゆると夏を過ごして、空っぽの自分が少しずつ何かで埋まっていった、それは、二人の優しいぬくもりだった。

いつからだろう、先生のことを想うと胸が痛むようになったのは、最近胸の痛みはひどくなる。

さっき家族って言われて、ズキンとした、やっぱり家を出よう、このままだと、どんどんひどくなるから。

真澄が腕を振るった夕食が終わり、聖が淹れた珈琲で静かで暖かな時間が流れる。

真澄やマヤの変化を見逃さないのは聖くんである、茶器を片付けながら彼はため息をつくのだった。

「真澄さま、自覚なさって、とっとと告白しないと馬の骨に攫われますよ」

真澄は書斎で学会発表のためのレジュメの推敲をしていたが、小一時間後、こめかみを二本の指でもみほぐしながら椅子から立ち上がると窓から中天にある月を眺める。

「家族・・・マヤは大切な家族で、血は繋がらなくても一生見守ると誓った」

「大人になって、恋をして、君は幸せな花嫁になる・・・」

真澄はふと花嫁姿のマヤを想像して、隣にいる男が自分だったらと思ってしまった。

大切に育ててきた、傷つかないように、見守ってきた、他の男に奪われるという事実に怒りが込み上げて・・・

「これが父親の心境か・・」

ふーとため息をつくのだった、11歳も、いや正確には12歳で一回りも違うのだ、これは、恋じゃない。

日々はたんたんとすぎていく、漣のような変化は、やがてうねりになるのだ。

そんなある日、マヤを訪ねて里美が家にやって来た。

「里美さんいらっしゃい、先生に御用?中に入って待っていてください」

「待ってマヤちゃん、今日は、教授じゃなくて、君をデートに誘いに来たんだ」

「え、私をで、デートに」

「うん、この間約束したろ、今日は天気もいいし、電車ですこしくらい遠出なら大丈夫でしょ」

「里美さん、ありがとう、中に入って待ってて、すぐに支度してきます」

マヤは、里美を家の中に招き入れ、お茶を出して居間で待っていてもらった。

マヤは身支度を整え、書斎をノックして中に入り、真澄に出かけることを伝えようとしたのだ。

「先生、今日は里美さんと出かけてきます。夕方までには、戻りますから」

「里美くんがきてるのか、って、出かけるって・・・」

「里美さんにデートに誘われたんです。彼はとても優しい人だし、先生?」

「い、いや、楽しんできなさい、でも、夕食までには戻っておいで」

「はい、先生行ってきます」

マヤがパタンと書斎のドアを閉めて、パタパタと歩く音が遠くなる。

真澄は言いようのないショックを受けていた。

真澄も彼が好青年なのは知っている、水城にもさりげなくリサーチさせた。

さっきは取り繕ったが、内心怒りが渦巻いていた、ち、父親としては、俺に挨拶もなしかと怒ればよかったのだろうかと、変なところで思考がうずまくのであった。

「マヤ・・・俺は・・・」

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