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Kierkegaard
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『そして、それから』

ギーコ、ギーコ、いつまでもブランコに揺られても、どうしようもないのである。

マヤは勢いつけて跳んだ、着地して、

ぱちぱちと拍手が聞こえた、マヤが振り向くと一人の青年がいた。

えーと確か先生のゼミの人で、

「こんにちは、マヤちゃん」

「こんにちは里美さん」

「家まで送って行こうか?教授に頼まれた資料をもっていく途中なんだ」

「ありがとう」

里美はマヤと手を繋いで、

「迷子にならないようにね」

「そんな子供に見えます?」

「さっき捨てられた仔犬のような表情をしていた、心配事?」

「何でもないです」

真澄のゼミに在籍している青年の名前は、里美茂という、さわやかで髪はさらさらで、マヤちゃんに気があるのである。若人はこうでなくてはいけない、さわやかな組み合わせである。

二人は何気ない会話をしながら屋敷に着くと、丁度真澄と聖も帰宅したところで、真澄はマヤと里美が仲良く手を繋いでいる姿を目撃してしまった。

「速水教授、水城さん経由で頼まれた資料をお届けに来ました」

「里美くんか、すまない助かった」

「ちゃんとお渡し出来たので、これで失礼します」

「待って里美さん、せっかくいらしたのだから、上がってお茶でもどうぞ」

「それじゃお言葉に甘えて」

「・・・あ、せっかく来たのにな、上がって行きなさい」

日当たりのいい居間で、お茶と雑談を楽しんだ。

マヤと里美の仲良さげな光景を目のあたりにして、内心ブリザードが吹き荒れる真澄であった。

俺は純然に親心でいらいらしているのだ、彼は好青年だし、マヤも好意をもっているなら、とかなんとか表面上は穏やかな微笑を浮かべ談笑しているのだ。

里美はさわやかな笑顔をマヤに向け、帰っていった。

帰る時に何やらマヤの耳元で囁いたのがものすごく気になる真澄くんだった。

「マヤ、ちょっと話があるんだが」

「先生?」

マヤは真っ赤な顔をして振り返った、そして、足がふらついて転びそうになり、真澄が受け止めた。

腕の中にマヤを抱き留めたとき、身を預けられたときに心地よい重さに時の流れを感じた。

この屋敷に連れ帰ったときは、まだちいさな雛鳥のようだったのに、久しぶりにまじかでみたマヤに、驚きを隠せなかった。

いつのまに大人びた表情をするようになったのだろうか、幼げな顔立ちではあるのだが、真澄を見上げる瞳はうるみ、頬は上気し、真澄の体の芯が熱くなる衝動を感じそうになり、ごまかすために頭を撫でた。

「ちびちゃんは、相変わらずドジだな」

「先生、ちびちゃんは卒業してってお願いしたのに」

マヤがぷーと頬をふくらます、可愛い俺の、・・・俺の、何だろう?

真澄は、身の内にうずまいているマヤに対する感情を物理の計算式で解けないものだろうかと悩むのである。

「先生、お話って?」

「朝の事だが、マヤは大学に進学するのが嫌なのか?」

「自分が何になりたいのか、まだ、わからないんです。でも、自活して、先生に早く恩返ししたいんです」

「大学に進学して、考えることもできる。それから、俺たちの援助を負担だと思うな、君は家族だ」

「先生・・・」

「着替えて、夕食にしよう。今晩は俺が腕を振るってやる」

「はい」

とんとんとマヤが階段を駆け上る、マヤは俺の家族だ、何度も自分に言い聞かせる真澄だった。

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