日本の地名の中には、歴史を物語っているものが数多くあり、前回の記事では「地名から歴史を読む方法(武光誠著)」から、地名の由来について紹介しました。今回の記事は、その続編です。
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地名には境界を表すものも多くあります。縄文時代や弥生時代では、自分達が属している集落から出ることは危険だったため、集落の境界を強く意識していたようです。
台地にある集落では台地から下りていく坂が境界とされることもあり、そのため「坂」がつく地名は村境だったところが多くあるようです。坂田は村境に作られた田、坂野は村境の野に基づく地名だと考えられています。境や酒井も境界を表す地名です。大阪府の堺市も、村境にあったことに基づいています。
その他には、辻、三国、両国なども境界を表す地名です。相撲の国技館がある東京の両国は、武蔵と下総の国境だったことからくる地名です。新潟県の三国峠は、越後、信濃、上野の三国の境界に由来した地名です。
大和朝廷が地方支配の拠点としていた国府に由来した地名も全国各地にあります。そのまま国府という地名が残っていますし、府中、甲府、駿府など「府」が含まれる地名もそうです。
10世紀頃に発達した荘園制にちなんだ地名も数多くあります。当時の荘園は、領主との支配関係によって「荘」「庄」「保(ほ)」「杣(そま)」「牧(まき)」「御厨(みくりや)」などの区分がありました。これらの字を含む地名は、荘園があったことに由来しています。
・本荘、新荘
・本庄、新庄、上庄、庄野
・本保、新保、上保、保内、保田
・杣田、杣川
・牧田、牧野、上牧
・厨川、厨本
荘園があった時代には、荘園領主に納める租税に関することが地名になったものもあります。租税の一部や全部が免除された地区では「免」を付けた地名が付けられ、免田(めんでん)、免内(めんうち)、新免(しんめん)、後免(ごめん)などがあります。
租税の種類は複数あって、米を納める年貢、布や海産物などの特産物を納める公事(くじ)、労役を行う夫役(ぶやく)がありました。これらのうち一つだけの租税だけで済むことは一色と呼ばれていました。一色であった所は一色、一式、一職などの地名が付けられました。
また、国司の特別のはからいで租税を免除されることを別符と言っていました。温泉地で有名な大分県別府市は、「別符」が「別府」に転じた地名です。
武家屋敷があったことにちなむ地名もあります。「館」や「屋敷」を含む地名は、武家屋敷にちなんだ地名です。例として、大館、中館、花屋敷、梅屋敷などがあります。
11世紀後半から16世紀後半の中世では、街道沿いの領地を持つ領主が関銭を徴収するために関所が置かれていました。この関所にちなんだ地名は全国各地にあります。
岐阜県の関ヶ原は、古代東山道の関所であった不破関(ふわのせき)にちなんだと言われています。不破関は、東海道の鈴鹿関、北陸道の愛発関(あらちのせき)とともに三関(さんげん)の一つでした。
関というの地名は海沿いにもあります。大分県の佐賀関(さがのせき)町は、豊予海峡を通る船を監視する所でした。山口県下関市は瀬戸内海航路上の有力な港で、下関の他に上関(かみのせき)と中関(なかのせき)という地名があります。
岩手県一関市は、治水のための堰(いぜき)からきている地名であって、関所があったから付けられた訳ではないようです。
寺社にまつわる地名も全国にあります。「宮」「社」がつく地名は各地にありますが、神社があった辺りを重んじたことに由来します。「稲荷」「八幡」「天神」「天満」を含む地名も、神社に関わる地名です。また、神領とされた土地には「宮田」という地名がつけられ、神田や神戸などのように「神」がつく地名も神領を表しています。
寺院にちなんだ地名も多くあり、寺前、寺井、寺内、寺尾など「寺」の付く地名が全国にあります。寺院が全国に広まったのは神社に比べて年代が新しいため、神社にまつわる地名に比べると寺院にまつわる地名はかなり少ないようです。
江戸時代に主要街道沿いに発達した宿場町にちなむ地名も多くあります。宿場町があったところには「宿」のつく地名が残っています。
宿場の中心地だったところは本宿、宿場が発展して新しく開けたところは加宿(かじゅく)という地名になりました。宿場町の中で江戸に近い所を上宿、江戸から遠い所を下宿、中ほどの所を中宿と呼ばれました。また、宿場の近くの谷は宿谷(しゅくだに)、宿場の近くの川原は宿川原となった地名もあります。
東京の新宿は、江戸時代に甲州街道の新しい置かれた宿場であったことから、新しい宿場ということで新宿という地名になりました。
北海道の地名には、アイヌ語の地名に適当な字を当てたものが多くあります。アイヌ語では「別」や「内」というのは川を表しており、これらの字がついた地名が以下のように数多くあります。
・登別、紋別、芦別
・稚内、岩内、歌志内
札幌の地名は、市内を流れている豊平川からきているようです。”乾いた大きな川”をアイヌ語では「サツ・ポロ・ベツ」と表すのですが、その中の”ベツ”が落ちて「サツ・ポロ」となり、それに札幌という字が当てられました。
また、北海道には本州・四国・九州などの地名が付いている所が多くあります。アイヌ語の地名のない所では、北海道以外から来た開拓者にちなんだ地名が付けられたからです。
伊達市は亘理藩が開拓した町で、亘理領主の伊達家が開いたことに由来して地名が付けられました。他にも、北広島、東山梨、岐阜橋、大阪橋、福井谷、岩手、栃木、茨城、長野、石川、三重、岡山、香川、鳥取、熊本などのように他の県名にちなむ地名が多くあります。
これ以外にも団体の指導者名を付けた「○○開拓」「○○農場」という地名や、山形団体などの地名も残っています。
地名には日本の歴史が大きく関わっているということが分かると思います。皆さんは、自分が住んでいる所の地名の由来を知っていますか?
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